未知の世界へ踏み出そう ◆2kaleidoSM


ふたば幼稚園。
埼玉にある、何の変哲もないごくごく普通の幼稚園。
普段であれば誰もいないだろう、深夜の時間帯の静まった建物。

その中の一つに、小さなあかりが灯った。


「不思議なランタンね。火もないのに明かりがつくなんて」

闇の中、明かりに照らされた顔は金髪のおさげの、まだ幼さの残る少女。
まるで旅人のように、緑色の大きなマントを羽織った女の子。名をビアンカと言った。

自分は確か、別に普段通りに過ごし、何事もなく一日を終え、そして床について。
眠ったと思ったらこんなところに連れてこられていたのだ。
実際、時計を見ても真夜中であることが分かった。

「殺しあえ、って…夢とかじゃ、ないのよね?」

やはりそう疑ってしまうのも無理からぬことではある。
しかしあの時にいた多くの人の喧騒、そして首が飛んだ人たちから漂った血のにおい。
それは間違いなく現実だった。

「そういえば、ここに来てる人の名簿があるって言ってたわね。
 えーっと…、このよく分からない、四角い板かしら…?」

ランドセルからスマートフォンを取り出すビアンカ。
しかしそれは彼女の生きていた世界に存在しなかった精密機器。

そうパパッと彼女に扱えるはずもなく。


「うわ、光った!?」
「えーと、ここを押すのかしら?」
「あ、あれ?出てる文字がさっきのに戻っちゃった…」



操作のコツ、動かし方、機能についての把握をするのに数十分。

それだけの時間をかけ、ようやく名簿らしいページを開くことに成功した。


ポーキー・ミンチという男はここではお父さんやお母さんに連絡を取ることはできない、と言っていた。
だから、当然のように父や母の名前はそこにはなかった。

ただ、知っていた名前が一つ。

「アベルが…ここに…?」

自分より2つ年下の幼馴染。
数日前に虐められていたネコを助けるために、レヌール城のお化け討伐をして。
その助けたネコを連れて、彼の父・パパスと共に村を去っていった男の子。

自分が一人きりでなくてよかったという思いと、あの彼がこんなところに連れてこられているという不安感が同時にビアンカの心を満たす。

あの魔物が住み着いて幽霊城と呼ばれることになったレヌール城。
あそこでその魔物たちにいいように扱われ、その魔物を自分達が追い払うと安心したように消えていった幽霊達。
彼らのことを思い出すと、殺し合いをするなどという気にはなれなかった。

「とにかく、アベルを探して帰る方法を探しましょう」

ちょっとした魔法くらいなら使えるし、身を守るくらいはできるだろう。
あの魔物だって追い払ったのだ。今度だってあのポーキーとかいう人を懲らしめて帰ろう。アベルと一緒に。

「じゃあまず、この袋の中を調べないとね」

と、横に立てかけたランドセルにランタンの明かりを寄せる。
スマートフォンを出したとき、他にも色んなものが入っていた気がする。

と、出した中に入っていたのは水や食料、そして数冊の本に1本の剣、そして指輪だった。

「剣…は持っていったほうがいいか。指輪は、あ、これ説明書かしら。
 クラールヴィント……、ふむふむ、よく分からないけど、つけておいたほうがよさそうね」

剣と指輪、クラールヴィントを装備し。
そして残った本に気を向ける。



「それで、これは……絵本かしら?随分と薄い気がするけど。
 どんなことが書いてあるのかしら?」

ちょっとした期待に高ぶらせながら、ランタンを本に近寄せて、ページを開いた――――――




『俺のモノになれよ、ミミ』
『クロ?!僕というものがありながら、君は…!』
『イリヤス…、この想いが届けらねぬとも…、私はあなたのそばに―――』


『エミヤ、俺の気持ちを受け取ってくれ』
『イッセイ?!ダメだ…、俺たちは男同士だろ…!そんなこと…』
『それでも、俺の想いは止められないんだ…!』


『EK、貴様と私、一体何が違うというのだ…!』
『分かるはずもないKK。お前は自分に欠けている穴を埋めるために僕を追ったに過ぎないんだ』
『だろうな。だが、お前がいれば、その穴を埋めることも不可能ではないかもしれん。
 では私の穴を埋めるために、互いに矛を交えようではないか。貴様もそれが望みなのだろう?』
『望むところだ…』






パタン

「…????」

本を閉じるビアンカ。
その頭にはくるくると疑問符が回っていた。

数冊の本はページ数自体はそう多くはなかったため、読むのにもそう時間はかからなかった。
普段だったら読めなかった文字も、妙にすらすらと読めた気がする。

分からなかったのは、その本の内容のほとんどが男同士がくっついたりするようなものだったこと。

「………?何だったのかしら…?」

自分が知らない未知の世界を見たような感覚。
これは、一体何なのだろうか。


考えても仕方ない、これはとりあえずもし他の人に会うことがあったら聞いてみればいいだろう。
そう割り切ってランドセルに仕舞い、ふたば幼稚園の入り口を出発した。

その中でふと。

(アベルも、いつかああいうことするようになるのかな…?)

そんな疑問がほんの一瞬、心をよぎったような気がした。


【E-3/ふたば幼稚園/深夜】

【ビアンカ@ドラゴンクエストⅤ 天空の花嫁】
[状態]:健康
[装備]:さやかの剣@魔法少女まどか☆マギカシリーズ、クラールヴィント@魔法少女リリカルなのはシリーズ
[道具]:基本支給品一式、桂美々著の同人誌セット@Fate/kaleid liner PRISMA ILLYA プリズマ☆イリヤ
[思考・行動]
基本方針:アベルと一緒に家に帰る。殺し合いには乗らない
1:アベルを探す
2:他の人に会ったら、この本の意味を聞いてみたい




【クラールヴィント@魔法少女リリカルなのはシリーズ】
騎士の指輪の形を持つデバイス。
攻撃力がほとんど無い代わりに、強力なサポート能力を持つ。

【さやかの剣@魔法少女まどか☆マギカシリーズ】
美樹さやかが魔法で作り出した西洋剣。
刀身に射出機能がついている以外は特に何の変哲もない剣。

【桂美々著の同人誌セット@Fate/kaleid liner PRISMA ILLYA プリズマ☆イリヤ】
イリヤの同級生、桂美々が己の妄想を綴ったBL同人誌。
イリヤ、美遊、クロの性転換モノ、士郎×一成モノなど様々なジャンルを扱っている。
なお表現は一般向けのソフトなものしか入っていない。


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最終更新:2014年03月29日 10:21