大きな背中  ◆HoYWWMFJdI


渾身の力を込めたてつのつえの一撃をいなされ、
とっておきの真空呪文・バギマも弾き返され。

『ヘンリー!!プックル!!』

友も傷つき倒れ。

――――――勝てない。

目の前の魔術師には何を持ってしても勝てないのだ、と
心が黒く塗り潰されていく…………絶望。

ぼくが薄れゆく意識の中で聞いた、父の声。

再び目を開いた時に見た、父の大きな背中。

……お父さんは、ぼくが人質に取られたせいで、何もできなかった。

巨大な剣で腕を斬り落とされても
巨大な蹄で腹を蹴り飛ばされても
魔術師の放つ炎で焼かれても

ぼくのために、お父さんは、ずっと耐えていた。

あかいいろ。

お父さんは、血で真っ赤に染まりながら、言ったんだ。

『お前の母さんは、まだ生きているはず……
 わしに代わって、母さんを』

お父さん、お父さん、お父さん、お父さん………


■■■


「泣いてる……」

大きなサッカー場の観客席で。
長身の少女―――香椎愛莉が、紫色のターバンと紫色の旅装束を着た、
横になって眠っている少年をおっかなびっくり見ている。

見た感じ小学1,2年生くらいだろうか。
(こんな小さい子まで……)
そして、連鎖的に先程の光景が思い出される。

無造作に死んでいく人達。
殺し合えという言葉。

身長が170cmはある早熟な子と言っても、
愛莉は少女らしい、ただの小学六年生……子供なのだ。

「パパ……ママ……長谷川さん……
 怖いよ……帰りたいよ……えっぐ」

ぽろぽろと涙を流す。

普段なら感情を露わにしてわんわんと泣く愛莉だが、
大きな声を上げると誰か怖い人に見つかるかもしれないと、
声を殺すように我慢して泣いている。

「ん……」

少年は身じろぎすると、目をこすりこすりして目覚める。


■■■

目が覚め、声の方を見ると、大きな背中を震わせて、女の子が泣いている。

「えっと……大丈夫……?」
アベルは立ち上がると、大きな少女に問いかける。

「ひゃ、ひゃいっ!」
突然呼びかけられ、少女は吃驚しながら返事を返す。

「えっと、ここは……」
混濁する記憶をアベルは呼び起こす。

(お父さん―――パパスを殺した魔術師・ゲマによって、
 確か、ヘンリー王子とぼくを奴隷として使うって話を聞いて……
 その後気がついたら、あのポーキーという人の部屋に居たんだ……)

これは、奴隷の子供達を使って殺し合わせる、
金持ちの遊戯だったりするんだろうか、とアベルは考える。

(ヘンリーもここに放り込まれたんだろうか。
 プックルは無事逃げられただろうか。
 サンチョは心配して……そりゃ、心配してるよね……)

「えっと……君も、奴隷として連れて来られたの?」
「えっ、えっ……?ど、奴隷……?」
みるみる少女の瞳に涙が溜まっていく。

「あっ、ごめんなさい。そうだね、怖いよね」
プックルがしょぼくれた時にするみたいに、よしよししてあげる。
「あっ……」
怖がっていた少女がだんだん落ち着いていく。


■■■

「落ちついた?」
「う…うん……ありがとう」
「よかった」

にこりと笑う少年。
さっき寝ている時は涙を見せていたのに、そんなそぶりは見せない。
驚くほど、澄んだ瞳。

「そうだ。自己紹介しなくっちゃ、サンチョに怒られちゃう。
 ぼくはアベル。冒険者の、息子……だよ」
「あっ。ええと……香椎……愛莉、です」
「カシイ・アイリだね。よろしくアイリ」
「うん、こちらこそアベルくん」
ぺこりとお辞儀する。

「で、アイリ。その手に持ってるものは何?」
「え?これ?スマホだけど……。
 そっか、アベルくんはまだ使い方がわからないか。
 そのランドセル……バッグから、これと同じものを出してみて」

―――スマホの地図の見方や時計の見方などを教えていくアイリ。

「すごいや。これも魔法のアイテムか何かなのかな?」
「ふふ、魔法?……うん、そうだね」
子供には魔法に見えるのかなと、少しだけ笑顔を取り戻す。

「そうだ、アベルくん……君の知り合いは、いるのかな?」

自分は【湊智花】【三沢真帆】【袴田ひなた】が友達として名簿に載っていると伝え、
名簿をアベルに見せる。

「え、えっと、その……まだ、文字読めなくて……」

恥ずかしそうに言うアベル。
(こんなことなら、サンチョのお勉強、ちゃんとやっておくんだった……)

「ああ、そっか……じゃあ、名前を言ってくれれば探すけど」
「ありがとう、アイリ。えっと、ヘンリーって言う名前は載ってる?あと、プックルって名前も」
「んー……」
指差し確認で探していく愛莉。

「……うん。どっちもいないみたいだよ」
「そっか、良かった……」

(それでもヘンリーは別のところに連れて行かれているのかもしれないけれど……
 とりあえず、プックルはちゃんと逃げられたみたいだ。)
ホッと胸を撫で下ろす。

「それと、他にもひとりずつ違ったものが配られるみたい。」

アベルが寝ている間に読んでおいたルールブックを愛莉はもう一度確認する。

「あたしのは、こんなのだったけど・・・」

と「AtOkara」と表紙に書かれたアルバムと、一緒についていたメモ帳とボールペンを見せる。
「それは?」
「えっと、過去の時刻と人の名前を書くと、その時の写真が出てくるんだって……」
「シャシン?」
「ああうん、写真って言うのはね。う、うーん……
 その時の人の状況の絵が描かれるようなもの……かな?」
「へー、すごいな。それも魔法のアイテムなんだね」

愛莉はアベルに頷きつつ、未だ半信半疑である。
詳細が書かれたメモには2時間以上前でなければ使えないとあり、まだ使えないみたい。
2時間経ったら一応使ってみようと考えてみる。

「アベルくんも、探してみたら?」
「うん!」


ごそごそとランドセルをアベルが漁ると、一本の剣を取りだす。

「ひっ……!」
『殺し合いの道具』が出てきたことで、愛莉はまた怯える。

「剣……だね」

明らかに大人が使うような剣を持ちあげるアベル。


―――青と白とで輝く、真っ直ぐな剣。
どうのつるぎや、てつのつえを振ってきたぼくにとっても、重く感じるものだけれど……
父パパスが愛剣に込めていたような、強い意志の力を剣から感じる。
この剣を使っていた人の、真っ直ぐな心が背筋を伸ばさせる。
お父さんなら……


剣を持ち想いを馳せるアベルを見て、
明らかに幼児の『それ』とは違う、気迫と覚悟が伝わってくる。

「アベルくん……」


(ビアンカと一緒に冒険した証、ゴールドオーブも、あのバッグにはなかった。
 ……当然だ。あれはゲマに寄って粉砕されてしまったのだから。
 父も、友も、思い出の宝物も。
 全部アイツに消されてしまったんだ。

 ―――今はまだ、勝てない。
 たくさん経験を積んで、強くならないといけない。

 あの父のように。
 誇り高く……)


重い剣を片手で掲げて、父に誓う。
スタジアムのライトに照らされて、剣が応えるかのように光り輝く。

「行こうか、アイリ。
 ……この島を抜け出る方法を、調べないと」
「う、うん」

―――あの大きな背中に追いつくため。その一歩を踏み出し始める。

【C-2 東都スタジアム/深夜】

【アベル(主人公・幼年時代)@ドラゴンクエストⅤ 天空の花嫁】
[状態]:健康
[装備]:転輪する勝利の剣(エクスカリバー・ガラティーン)@Fate/EXTRA CCC
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0~2
[思考・行動]
基本方針:この島から抜け出して母を探す。どんな状況でも父の誇りを汚したりしない。
1:この島の脱出方法の調査。
2:アイリを守り、アイリの友達を見つける。
※パパス死亡後、ゲマによる教団の奴隷化直後からの参戦です。
※参加者は皆奴隷として連れてこられたのだと思っています。
※ビアンカについて既に知己ですが、参加自体をまだ把握していません。


【香椎愛莉@ロウきゅーぶ!】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0~2
     あとからアルバム@ドラえもん@10回、メモ帳、ボールペン
[思考・行動]
基本方針:帰りたい。みんなに会いたい。
1:アベルについていく。
2:智花ちゃん達に会いたい。
3:アルバムってちゃんと使えるのかな?


【転輪する勝利の剣(エクスカリバー・ガラティーン)@Fate/EXTRA CCC】
アベルに支給。
忠義の騎士、太陽の騎士として名高い英霊ガウェイン卿の持つ太陽の聖剣。
柄に擬似太陽が納められた日輪の剣であり、神造兵装の一振り。
エクスカリバーの姉妹剣であるとされており、かつ負債を回収するものでもある。

【あとからアルバム@ドラえもん】
香椎愛莉に支給。
「AtOkara」と表紙に書かれたアルバム状の道具。
名前と時間を書いた紙をアルバムに挟み、3分待ってアルバムを開けば、そのときの出来事が写真となって出てくる。
制限により、舞台の島のみの行動に限定される。
また、2時間以上前の指定でなければ発動しない。10回で機能停止となる。
【1日目:01:00:香椎愛莉】 という風に書く。メモ帳とボールペン付き。


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最終更新:2014年03月12日 08:41