moment ◆2kaleidoSM


「ねえ、アイリ。良ければ聞かせてくれないかな?その君のお友達のこと」

アベルはふとそんなことを聞いた。
友達を探すと言った手前、彼らがどんな存在なのかということについても聞いておきたいと思ったのだ。

「うん、いいよ。智花ちゃんと真帆ちゃん、ひなたちゃん。
 みんなバスケのチームの、大事な友達なの。今言った三人と、名簿には載ってなかったけど紗季ちゃんって子も一緒にやってたんだ」
「バスケ…って?」
「あ、そっか。アベルくんは小さいから、バスケって言っても分からないか…。
 えっと、こう、体育館くらいの広さのコートでやる球技なんだけどね――――」

と、愛莉は思い出話のように、友達とのことを色々と話していた。
バスケ部を作ることになったきっかけ。
そこで色々とこなしてきた練習。
長谷川昴というコーチとの出会い。
練習の中で消えていった、この体へのコンプレックス。

思い返せば、本当に色んなことがあったのだなと、愛莉はそう思った。

「智花ちゃんはバスケがすっごく上手だし、真帆ちゃんや紗季ちゃんは運動神経いいし、ひなたちゃんは体小さいし。
 私なんて、体大きいばっかりで何にもできないって、ずっと気にしてたんだ。
 だけど、練習していくうちに色んなことできるようになってね。私一人じゃ、ここまで変わったりはできなかったなぁ」
「楽しかったんだね」
「うん。アベルくんのお話も、聞かせてもらっていいかな?」
「えっ…」

何気ない愛莉の言葉、しかし一瞬アベルの言葉が詰まった。

「………」
「どうしたの…?あっ、もしかして聞かないほうがよかった…?」
「ううん、大丈夫。僕の話だっけ。どこから話そうか…」

そうだ、何も辛いことを話す必要なんてない。楽しい思い出だって、沢山あるのだ。
ビアンカと共にレヌール城に住み着いた魔物を追い払ったり。
妖精の村でベラという妖精と共にフルートを取り返すために冒険をしたり。
ヘンリーに家来にさせられて何度も宝箱を取りに行かされたり。


父と一緒に、母を探して色んなところを旅する日々もまた、アベルにとっては楽しいものだった。

「アベルくん?!」
「え、あれ…」

と、父の思い出をしたときだった。
自分でも全く意識していなくて、愛莉の呼びかけでようやく気付いた。
己の目から、涙がこぼれていることに。

「ごめん、何でもないんだ、何でも…」

そう、楽しかった。
だが、それももう戻らない。
あのゲマによって、父パパスは殺されたのだから。

もう二度と、彼と旅をすることもないのだからと。
心のどこかでそんな当たり前の事実を意識してしまった。
それは6歳の少年にはまだ重すぎるものだった。

「アベルくん…」

その様子に何かを察した愛莉は、優しくアベルの体を抱きしめた。
さっきアベルが愛莉に対してそうしたように。

「愛莉…?」
「私にはよく分からないけど、泣きたいときは、泣いていいんだよ。
 アベルくんはまだ小さいんだから」
「………。
 ごめん、少しだけ、こうさせて…」

ほんの数分くらいだろうか。
そうやっていた時間は。

愛莉の服を僅かながらに濡らし、起き上がったアベルは涙を拭き取った。

「ありがとう、もう大丈夫だから」
「別に大丈夫だよ。
 それで、アベルくんにはビアンカちゃんやベラちゃん、ヘンリーくんってお友達がいたんだね」
「うん。ヘンリーはここに来る直前まで一緒にいたから、心配で…」

不安そうな表情をするアベル。
やはり友達のことが心配なのだろう。

(…あれ?そういえば…)

そう思い返しているとふと、愛莉は気になることがあった。

(そういえば、ビアンカって名前…)

さっき名簿で見かけた名前のような…。
スマートフォンを取り出してその事実について確かめようとしたその時。

「アイリ、誰か来る」
「え…」
「僕が先に行くから、アイリは後ろから来て」

アベルの言葉で、結局愛莉は確認をし損ねてしまった。


永沢君男、剛田武という二人の少年、そしてその二人から少し遅れて美遊・エーデルフェルトという少女。

総勢5人の少年少女が、東都スタジアムへと集まっていた。
永沢と剛田――ジャイアンは出会い頭に友好的な挨拶をし、美遊は名前以外は何も言わなかったという感じであったが。

「僕たちはこの状況からどうやって抜け出すのか、それを探してるんだ。なぁ剛田君?」
「あ、ああ。そうだ」
「生憎僕には自分の身を守ることもできなくてさ。最初に出会った剛田君に、こうして守ってもらってたんだ」
「そうなんだ…。ミユさんは?」
「…………」

自己紹介している間も、美遊は口を開こうとはしなかった。
最初からずっとこんな調子だったため、一同も何となくそれが普通なのだと受け入れていたが。

「…そういえばアベル君、忘れてたけど、さっき私と会った時に言ってたよね?
 奴隷として連れてこられた…って。あれってどういう意味だったの?」
「あ、そうだった。皆に言っておかなくちゃ。
 この殺し合い、もしかしたらみんな奴隷として連れてこられたのかもしれないんだ」
「奴隷…?」

ふと、美遊がそれまでずっと閉じていた口を開いた。

「うん。僕はここに来る前、ゲマっていう魔術師と戦っていたんだ。
 だけど、僕とヘンリーとブックルで戦ってたんだけど、全然歯が立たなくて…。
 それで僕とヘンリーを奴隷として連れていったんだ」
「え、あの…、アベル君?」
「魔術師って、何だそれ…。漫画じゃあるまいしそんなものいるわけないだろ」

愛莉と永沢はそのアベルの、一見突拍子もない話に混乱する。

「なるほど、じゃああのポーキー・ミンチってやつもそのゲマって魔術師の仲間かもしれねえってことなんだな」
「うん、もしかしたらあいつらの遊びで、こんなことをさせられてるのかもしれない」
「何だよそれ…。ふっざけんな!!」

一方、ジャイアンは怒りを露にして、そのアベルの言葉を受け入れていた。
ジャイアン自身、これまで色んな異世界や時間を越えた場所を冒険していたこともあり、宇宙人や地底人、それに魔法使いといった存在に対する認識はあった。
だからこそ、アベルの話も可能性の一つとして受け入れることができたのだ。

「でも大丈夫だ、俺の友達にこういう事態に強いやつがいるんだ。
 そいつなら、もしかしたら今の俺たちの状態に気付いてタイムパトロール……えっと、こういう事態に対応できる警察、に助けを求めてくれるかもしれねえ」
「本当…?!」
「ああ、絶対来てくれるさ。だから皆、気をしっかり持とうぜ!」

ジャイアンは立ち上がって、拳を握り締めてそう強く言った。
アベルは、そんなジャイアンに頼もしさを感じ。
愛莉は若干ついていけずに困惑し。
永沢は無表情に、だがよく見れば若干の嘲笑しているかのような目を向け。

「もし、その助けが来なかったら」

美遊はふと、そうジャイアンに問いかけていた。
それまで会話に混じることもほとんどなかったはずの少女は、冷たくそう口を開いた。

「もし、誰の助けも期待できないような、そんな状況になっていることが分かったとしたら。
 あなた達はどうするの?」
「え、それは。当然、戦うぞ!
 絶対あいつのところに行って、あのポーキー・ミンチって奴をギッタンギッタンにしてやる!」
「アテはあるの?首輪だってつけられてるのに」
「ここにはドラえもんの道具だってあるんだ。もしかしたら、何か手がかりになるものがあるかもしれねえ」
「そう」

そう言って、他の皆に美遊は視線を向ける。

「あなたは?」
「僕かい?生憎僕はごらんの通り腕っ節も自信がなくてね。精々剛田君に守ってもらうくらいしかできそうになくてね」
「そう」
「わ…私は…」

と、愛莉は口篭っていた。
いきなりの問いかけで、まだどうすればいいのかも定まっていないのだろう。
おそらくは次に美遊の視線が向くであろうそれに、どう答えるべきかとあたふたしていた彼女をフォローしたのはアベルだった。

「大丈夫だよ、アイリ。君は僕が守るから」
「でも、それじゃアベル君は…」
「君だけじゃない、君の友達も、皆の友達も、誰も死なせない。皆でここから帰るんだ」
「それが、あなたの選択?」
「うん。だからミユ、君も―――」

と、一通りの返答を聞き終え、アベルが美遊に協力をお願いしようとした、その時だった。

「サファイア」

そう呟いた美遊の体が光に包まれた。

薄明かりが点いていたとはいえ、相手の顔が認識できるほどの明るさしかなかったスタジアム。
そんな空間に視界がようやく慣れてきたというところでの、その明かりに一同は思わず目を閉じた。


「うわっ!?」

混乱する皆の声の中、永沢の声が響き。

ようやく光が収まり、目を開けたアベルの視界に入ってきたのは。

上半身に大きな切り傷を作って倒れた永沢。
うつ伏せに倒れてピクリとも動かないジャイアン。

そして―――

「アイ…、リ…?」

美遊と、その目と鼻の先という距離に立っている愛莉。
その胸からは、少しずつ血が滴り落ちていた。



どうしてこうなったんだろう、と。
愛莉は開いた瞳孔を照らす光を気にも留めず、目を見開いてそんなことを思っていた。

体が大きいばかりで、アベル君に支えてもらってばっかりだったから罰が当たったのかな。
もう少し強かったなら、こんなことにならなくて済んだのかな。


智花ちゃん、真帆ちゃん、ひなたちゃん、紗希ちゃん、昴さん。
みんな、ごめんなさい。もう、一緒にバスケすること、できなくなっちゃった。

胸を貫かれた愛莉がその脳の機能を停止させるまでのほんの僅かな瞬間。
ここに呼ばれた三人と、呼ばれていないだろう二人への謝罪をし。

最後に視界に入ったのは、無表情にその刃を自身に突き立てている少女。
そして、その背後でその光景を驚愕の表情で見つめている少年。

何となくだが、少女の瞳は悲しみを湛えているかのように揺れ動いているようにも見え。
少年もまた驚愕の中に大きな悲しみを感じさせるかのような表情をしていて。

「…そんな顔しちゃ……ダメだよ……」

最後に愛莉が口にしたのは、そんな言葉。
それがアベルと美遊、どちらに向けられたものだったのかは、愛莉にも分からなかった。



「アイリィィィィ!!!!」

倒れる愛莉を前に、アベルが絶叫して美遊へとガラティーンを振りかざす。
その声を聞き届けると同時に振り返った美遊は、愛莉を貫いていた白銀の剣を引き抜きアベルのそれを受け止めた。

こちらへと振り向いた美遊の体を包んだ衣装は、いつの間にか姿を変えている。

「ミユ…!どうして、こんな…!?」
「………」

アベルを見据える美遊は沈黙を保ったまま何も言わない。
ただ静かに、その白銀の剣、『燦然と輝く王剣(クラレント)』を向けた。

そのまま口を開くことなく、こちらへとそれを打ち付ける美遊。
受け止めるアベルだが、その一撃はそこまで強力な一撃ではなかった。
手加減されているのか、あるいは剣自体の心得が浅いが故の太刀筋か。


転輪する勝利の剣(エクスカリバー・ガラティーン)と燦然と輝く王剣(クラレント)。
二つの円卓の騎士の剣がぶつかり合い、金属音を奏でる。

「…っ、バギ!」

とっさにアベルは真空を生み出す呪文を唱える。
皮膚を切り裂く風の気配を感じた美遊は、咄嗟に地を蹴り背後へと飛びずさる。

「はぁ…はぁ…、止めて!こんなことをしても、あいつらを喜ばせるだけだよ!」
「それでも、戦わなければいけない理由がある」

と、美遊はクラレントを持った手とは反対の手に星と羽のついたステッキを構える。
それをこちらへ向けると同時、大量の光の弾がアベルへと降り注ぐ。

「スカラ!」

己に守備力増加の呪文をかけ、光の弾をガラティーンで弾き返す。
しかし2発、受け止めきることができずに体を掠めた。

「ぐ…」

痛みに顔を歪め、思わず跪くアベル。

「私は、大切なもののために戦わないといけない。
 あなたには、他人の命を奪ってでも守りたいと思うもの、あるの?」

ただ淡々と、美遊はそうアベルに問いかける。
右手にクラレントを、左手にステッキ――マジカルステッキサファイアを構えて。
ゆっくりとこちらに歩きながら。

「僕は…」
「あなたは大切なものを守りながら、あのポーキー・ミンチと戦えるというの?」

愛莉の血が未だ乾いていない白銀の剣をこちらに突きつけて、美遊は問いかける。

「僕が守りたいものは…」

焼けるように熱い傷の痛みを堪え、アベルは立ち上がって美遊の剣を弾く。

「僕が守りたいものは…、誰よりも強く優しかった、父さんの誇りだ!」

力強く、優しく。
誇り高かった父の大きな背中

さらわれたヘンリーを助けるために迷わず誘拐者を追跡し。
戦えるだけの力を持っていても、人質に取られた自分の命を救うために命を落とした、たった一人の家族。

彼のように力強く優しい戦士になるために。

「僕は…、父さんの誇りを守ってみせる…。弱い者を助けられる、優しい戦士に…!」
「そう…」

ほんの一瞬。
静かに呟く美遊の表情に揺らめきのようなものを見た気がした。
しかしアベルにはそれが何なのか、確かめる暇はなかった。

距離をとった美遊が、宙を蹴るように空へと飛び上がったのだから。
逃走か、とアベルは思ったが美遊はある程度宙に滞空した後、こちらへ向けて杖の先端を向けた。
その先に集まった光がこちらへと狙いを定めているのは明らかだ。


ここであれを回避した場合、未だ生死が分からないジャイアンや永沢が巻き込まれる。

受け止めるしかない。


「砲射(シュート)!!」

アベルは真っ直ぐ、その光る魔力砲を目をそらさず見据え。
ガラティーンを振りかざして唱えた。

自分の取っておきの呪文。
かつてはゲマに通じなかった、しかし己の使える最大の力を。

「――――バギマ!!」

砲撃が数メートル先まで迫ったというところで、巨大な真空の刃が竜巻となって発生する。
それは、美遊の魔力砲を切り裂き押し返して前進。

「…!」

そして完全に砲撃を消し飛ばした竜巻は、魔力砲を射出したばかりで硬直状態にあった美遊の体を吹き飛ばした。

「はぁ…はぁ…」

竜巻が消滅すると同時、辺りを見渡す。
美遊の姿はもう視界にはない。あの一撃で吹き飛ばされたと考えるのが妥当だろう。

「…!――アイリ!」

彼女の撤退を確認したアベルは、地に倒れ伏した愛莉に駆け寄る。
が、しかし。

名を呼ぼうと、体を揺すろうと、その体が動くことはなく。
その心臓の鼓動は、完全に止まっていた。

「アイ、リ……」

まだ出会って数時間ほどの付き合いだった。
それでも、彼女は心優しい女の子だということはアベルにも分かった。

決して、こんなところで死んでいいような子では、なかった。

「う、うぁぁああああああああああああ!!!」

強い無力感が心を支配する。
地面を殴りながらアベルはただただ絶叫した。

「う…、いてて。一体何が…、お、おい!?」

そんな声に刺激されてか、アベルの背後でジャイアンが頭を押さえて起き上がった。
が、倒れた愛莉と永沢、そして絶叫しているアベルの姿を見て顔色を変える。

「何があったんだ!おい!しっかりしろ!」




本来ならば合流するつもりはなかった。
当初は遠くからどの参加者が有用であるか、危険であるかというところを見極めるつもりだった。

だが、さすがに四人という人数は多く感じた。
一人二人であれば、判断もついただろうが四人となれば遠くからの攻撃では限度がある。
むしろ、接触することで何かしらの情報も入手できるかもしれない。

そう考え、美遊はこのチームと接触を図ったのだ。

得られた情報としては未確定ながらも一考の余地があるものも多かった。
人々を奴隷として拉致するというゲマなる魔術師の存在。
不可思議な現象に対応できるという警察のような組織。
首輪解除の可能性があるという道具。

あとは、彼らのうち誰が危険、あるいは弱者であるかということだった。
少なくとも剛田武という男の子は不思議な道具の知識を持っており、なおかつ殺し合いに抗うという意志を持っていた。
この時点で彼を殺す必要はないと判断。

しかし永沢君男という少年は、美遊の判断基準としてはかなり悪い部類に入った。
己が無力であることを自覚しており、なおかつそれを盾に強者に守護してもらおうという考え。
弱者としては合理的であるが、それは彼を守護する者を殺しかねない危険なもの。
美遊にとっては排除の優先対象となった。

あとは愛莉とアベル。

アベルはまだ子供ながらもある程度の力を備えていた。
問題は、彼にこの殺し合いに反し、イリヤの力となるほどの素質があるかどうかというところでもあったが。
だが当初の予定から外れてしまったことで逆にアベルの強い意志、そして今は小さいながらもいずれは大きくなる可能性を秘めた素質を測ることができた。

香椎愛莉。彼女が一般人であることを測るのはそう時間はかからなかった。
おそらくはこれまで、魔法少女となる以前のイリヤのように、普通に生きてきた少女。
強い意志も持っていない、だがおそらくは善良だったのだろう一般人。



美遊はあの時転身、目くらましと同時に、まず最初に永沢へと魔力弾を放った。
当初の予定は永沢と愛莉の二人を殺害した後、迅速に撤退するつもりだった。

が、しかしそれが彼の纏っていたローブにより威力を軽減されてしまったことで計算が狂ってしまった。
だから美遊は魔力弾を咄嗟に薄く鋭い刃状の攻撃に変更した。
魔力を大幅に失ったイリヤが自身のセンスで編み出したもののように。
刃と化した魔力はローブを切り裂き永沢の体をも切り裂くことに成功。

しかしタイムラグが生まれたせいか、視界を奪われたジャイアンがふらつきながらも、狙いの定まらぬままに殴りかかってきたのだ。
それを美遊は回避、そのまま抵抗を続けられても厄介と考えて頭部に軽く、しかし意識は失わせるほどの衝撃を与えて気絶させ。
そしてすかさず、クラレントで愛莉の心臓を一突きにした。

咎める思いもあった。強い罪悪感もあった。
だが、迷うわけにはいかなかった。

美遊の手の中には、まだ剣でその命を終わらせたという感触が残っていた。
剣を伝わってきた最後の心臓の鼓動の動き、そして肉を、骨を絶つ感触。
魔力砲での攻撃では決して味わうことのない、とても生々しいあの手ごたえ。


『…美遊様…、顔色が…』
「大丈夫…、まだ、私は戦える……、うっ…」

心配するように声をかけるサファイア。
しかし美遊は口元を押さえて蹲った。
強い不快感を、口から吐き出すことに耐えるかのように。



『………美遊様、しばらくお休みください。これ以上続けられては、美遊様が壊れてしまいます』
「………」

数えれば最初の砲撃で撃ち抜いた少年、そして永沢君男、香椎愛莉。
美遊が手を下した数は占めて三人。

多いとはいえないが、それでもこの数時間の間に殺した人数として数えたなら少ないとは決していえない。

サファイアの言うとおり、しばらく体と心を落ち着かせよう。

自分は、今はまだ死ぬわけにはいかないのだから。
いつか打ち倒されるべき存在となることがあろうとも。
今は、まだ。


「…すまねえ、俺の責任だ…」
「ううん、タケシは悪くないよ。僕に、アイリを守る力がなかったから…」

目の前に静かに横たわった愛莉の骸。
そのまま放置しておきたくはなかったアベルが、ジャイアンに手伝ってもらい静かに安置できる場所へと運び込んだのだ。

そして今ジャイアンの背にあるのは目を醒ましていない永沢。
幸運なことに、体を大きく斬られた彼にはまだ息があった。
だからアベルは、咄嗟にベホイミをかけることでどうにか命の危機は越えさせることができた。

それだけに、愛莉の時に間に合わなかった自分をアベルは責め続けていた。

せめて、彼女の友達に会ったら、彼女を守れなかったことを謝りたいと、そう思った。

「おい、待てよ!」

そして一人で行こうとしたアベルを、ジャイアンは呼び止めた。

「アベル、お前一人で行くつもりかよ!?」
「でも、僕一人なら…、もう守れないなんてことも―――」
「お前みたいな小さなガキ一人放っておけるわけねえだろ!
 俺だって自分の身くらい守れるさ。一緒に行くぞ」
「いいの…?」
「だからいいって言ってるだろ」

若干もたつくアベルの手を握って、ジャイアンは半ば強引にとでもいう形でアベルへの同行を決めた。



アベルには一つだけ気になっていたことがあった。
美遊がいたはずの場所、バギマで吹き飛ぶ直前にいたであろう場所の地面に落ちていた道具。

それは魔法の聖水、使用することで魔力を回復することができる水だった。

おそらく美遊が落としていったのだろうと推測はできた。
だが、何故これを落としていったのか、それがアベルには分からなかった。
バギマを食らったとはいえ、それを入れていたであろう袋はそう簡単に物を落とすような構造にはなっていない。
もし、これを彼女がわざと落としていったとするにも、理由が分からなかった。

それに、バギマで受け止めたあの砲撃も、永沢の受けているダメージと比較したとき、妙に威力が落ちていたかのような気もする。

(美遊…、君は一体…)

きっとまた会うことがあれば、彼女とは戦わなければならないだろう。
ただ、彼女の行動の真意。本当に彼女は大切なもののために殺し合いにのった、それだけなのか。
アベルにはほんの少しだけ、それが引っ掛かった。

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アベルを連れているジャイアンには大きな懸念があった。
今背負った少年、永沢君男。

彼は、アベルにとってはいい存在には決してならないだろうということはジャイアン自身はっきり分かっていた。
もしここで最善の判断をするなら、彼の傷は放置していく、あるいは良くても傷だけ直して放置するという選択が良かったのだろう。

だが、たとえ相手が危険人物で自分を貶めた存在であっても、人を見捨てるという選択はジャイアンに取ることはできなかった。
ならばあるいは、だ。彼の狙い、これまでに自分にした行いをアベルに話した上で彼自身に判断を仰ぐ、あるいは永沢の持っているラッキーストライフを奪っておくという選択もあった。
しかし、今アベルにそれを言うには彼自身の心が弱っているのではないか、と。それが一つ。
そして、それを言うことは、自分がこの永沢君男にいいようにあしらわれたのだということにも他ならない。
よく考えればそれが馬鹿げた、小さな見得であることは分かるだろう。
だが、ガキ大将という立場で過ごしていた彼には、そんな小さな見得でも捨てることができるほど、彼は大人ではなかった。



ずるい、と薄れる意識の中で永沢は思った。
選ばれた人間だ、などと言われても、さっきの少女、美遊のように変な力を持った相手に、一般人である僕が適うはずもない。
正直、光の刃がローブを切り裂いてきたときは本当にもう死んだと思ったし、実際あの傷でもう少しの時間でも放置されたら死んでいただろう。

だけど、今僕は生きている。
そればかりか、僕の狙いを剛田君はアベルに告げることなく隠しているようだ。
これが幸運の効果なのか、それとも神様が僕にここで死ぬ運命ではないとでも言っているのかどうかは分からない。

しかしせっかくだ。この状況、最大限に利用させてもらおう。
アベルは利用価値がある。剛田君は少なくとも僕が目を覚ますまでは何かをするというつもりはないらしい。
傷は痛むが幸いにして今の僕は怪我人。守られて然るべき存在なのだ。
多くの人間にはそう警戒されることもないだろう。
だからせめて、この幸運が目を覚ますまでは続きますように、と。

永沢はそう願いつつ、静かに意識を闇に沈めていった。


【香椎愛莉@ロウきゅーぶ!  死亡】


【C-2 東都スタジアム/黎明】

【アベル(主人公・幼年時代)@ドラゴンクエストⅤ 天空の花嫁】
[状態]:健康、MP消費(中)、愛莉の死に対する悲しみ
[装備]:転輪する勝利の剣(エクスカリバー・ガラティーン)@Fate/EXTRA CCC
[道具]:基本支給品一式、魔法の聖水@ドラゴンクエストⅤ 天空の花嫁、ランダム支給品0~2
[思考・行動]
基本方針:この島から抜け出して母を探す。どんな状況でも父の誇りを汚したりしない。
1:この島の脱出方法の調査。
2:アイリの友達を見つけたら、アイリのことを謝りたい。
3:美遊、君は…
※パパス死亡後、ゲマによる教団の奴隷化直後からの参戦です。
※参加者は皆奴隷として連れてこられたのだと思っています。
※ビアンカについて既に知己ですが、参加自体をまだ把握していません。

【永沢君男@ちびまる子ちゃん】
[状態]:上半身に大きな切り傷、意識無し、偽ナンバーズの影響下(強運)
[装備]:熱線銃、No.7 ラッキーストライプ(偽)、賢者のローブ(ボロボロ)
[道具]:基本支給品、パネル地図、ランダム支給品×1
[思考・行動]
基本方針:殺しに乗りつつ生き残る
0:気絶中
1:他のマーダーと手を組むか、対主催に紛れ込んでキルスコアを狙う
2:ジャイアンを利用してから不要になったら処分する
※偽ナンバーズの影響を受け、少し大胆になっています。
※ジャイアンからのドラえもんや秘密道具に関する情報を得ました
※時代的に漫画ドラえもんは存在しますが、メタ知識は制限されています

【剛田武@ドラえもん】
[状態]:健康、疲労(中)、頭部に軽い打撲
[装備]:風の子バンド
[道具]:基本支給品
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを阻止して、ポーキーをぶん殴る
1:アベルに同行する。もう誰も死なせたくない。
2:永沢をぎゃふんと言わせ、ナンバーズを奪い取る。が、それは永沢が目を覚ますまで待つ。
3:知り合いと合流する


【B-3 /黎明】

【美遊・エーデルフェルト@Fate/kaleid liner PRISMA ILLYA プリズマ☆イリヤ】
[状態]:疲労(小)、全身に軽い切り傷(回復中)、精神的疲労(大)
[装備]:マジカルサファイア@Fate/kaleid liner PRISMA ILLYA プリズマ☆イリヤ、燦然と輝く王剣(クラレント)@Fate/Apocrypha
[道具]:基本支給品一式
[思考・行動]
基本方針:イリヤを生きて帰す。
1:首輪の解除が終わるまで、ポーキーが殺し合いの中断(首輪の爆破)をしないよう殺し合いを進め上手く立ち回る。
2:イリヤに害を為す危険人物や弱者の排除。有用な参加者は殺さずポーキーに気付かれぬよう補助。
3:今は休息を取り心を落ち着かせる
※参戦時期は少なくともイリヤ、クロエの和解以降。
※アベル、愛莉、ジャイアン、永沢達からの情報を得ました




【燦然と輝く王剣(クラレント)@Fate/Apocrypha】
モードレッドがウォリングフォードの武器庫から奪い取った儀礼用の剣であり、彼自身の宝具である白銀の聖剣。
モードレッドの執念と父殺しという由来によって属性を変質させている。
解放する真名は『我が麗しき父への叛逆(クラレントブラッドアーサー)』であり、解放の際にはこの剣は禍々しい邪剣へと姿を変える。


【魔法の聖水@ドラゴンクエストⅤ 天空の花嫁】
使うとMPを回復することができる聖水。


≪033:カードとカード 時系列順に読む 034:暴走! チャージマン研!
≪033:カードとカード 投下順に読む 034:暴走! チャージマン研!
≪012:きらめく涙は星に 美遊・エーデルフェルトの登場SSを読む xxx:[[]]≫
≪027:セカンドジョーカー 永沢君男の登場SSを読む xxx:[[]]≫
剛田武の登場SSを読む xxx:[[]]≫
≪025:大きな背中 アベルの登場SSを読む xxx:[[]]≫
香椎愛莉の登場SSを読む ざんねん!わたしのぼうけんはここでおわってしまった!

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最終更新:2014年03月13日 19:10