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レベッカの部屋



その頃のリリアーナは、ある扉の前に立っていた。
彼女は何度か逡巡した後、意を決したようにやっとドアをノックする。
リリ「レベッカさん?私よ、リリアーナ。さっきは無神経な事を言ってごめんなさい」
リリ「あの・・・ピンクのリボン持ってきたの。あなたにお返ししたいから・・・ここ、開けてくれないかな?」
レヘ「レベッカはいねーぞ。」
と、レベッカの声が中から返ってきた。
レヘ「………しゃーねえな。あがれよ。」
レベッカが中からドアを開けて現れ、リリアーナを部屋に招き入れた。
リリ「えと・・・・・・お邪魔します・・・・・・」
レベッカの部屋は、段ボール箱で溢れかえっていた。
レヘ「まだ部屋の片付けがすんでねーんだよ。」
どうやらダンボール箱の中には、レベッカが中つ国から持ってきた日用品が入っているらしく、
その中をごそごそと探し始めた。
レヘ「茶はだせねえが、香ぐらいはたいてやる。座んな。」
リリ「お構いなく。ごめんね、押しかけちゃって」

レベッカは香炉を取り出し、それに火をつけた。
リリ「えっと・・・・・・さっきは本当にごめんなさい。
 私、メイリンさんにも、普通に学園祭を楽しもうとしている妖怪さんにもとても失礼なことを言ったわ。 
 でも信じて、別にメイリンさんを犬扱いするとか、探偵ごっこがしたかったわけじゃないの。
 私はただ・・・・・・」
レヘ「別に俺はキレてねーよ。俺をキレさせたらたいしたもんだよ。」
リリ「・・・・・・そうなの?」
レヘ「けどよ、あー言わねえと皆自分の持ち場にもどらねーだろ。
 おめーもよ。もうそろそろケモノ喫茶店が修復し終わったんじゃねーか?
 だったら、早くもどるがいーや。」
リリ「あ・・・・・・うん」
リリアーナは曖昧に頷いた。確かにそろそろ喫茶店は修理が終わる頃だ。
だが彼女は猫耳メイド喫茶に参加しているが、学園に不慣れな客人や留学生を案内するエスコート役でもあるのだ。
一緒に行かないかと誘ってもいいものかどうか考えていると、レベッカがさらに続けた。
レヘ「いや、ちょっと待て。最近新しい“おもちゃ”を買ったんだ。ちょっと遊んでいけよ。」
リリ「おもちゃ?」
リリアーナは不思議そうに首を傾げた。中つ国のゲームの類だろうか?
リリ「うん、じゃあちょっとだけ」
レベッカはまたぞろダンボール箱を漁り始めた。

レヘ「うーん、あんまり良いのが見つかんねーなぁ」
リリ「お香を焚いてくれただけで十分よ。どうかそんなに気を使わないで」
レヘ「ん?あれ?」
レベッカは一際大きいダンボール箱に目をつけた。
おかしいな、こんな荷物あったっけ?とレベッカは思った。
レベッカはその大きなダンボールの蓋を開けて中を見てみた。
リリアーナ側からは、ダンボールの中身は死角であるが、ダンボールを覗き込むレベッカの顔だけはしっかり見える。
リリ「そうだ、遅くなったけどこのリボンお返ししておきますね。
 あんな騒ぎの後なんだし、トラブル防止のためにも忘れずにつけて ―――― どうしたの?」
レベッカは無表情のままダンボールの蓋をしめた。そして、リリアーナの顔を見た。
レベッカは再びダンボールの蓋を開けて中身を確認した。そして、今度こそ目を見開いてびっくりした顔をした。
レヘ「ウェイシェンマ(なんでだよ)!?」
リリアーナは立ち上がり、自分も箱の中身を確認した。そして、レベッカと同じくらいびっくりした。
リリ「こ、これがおもちゃ・・・・・なわけ無いよね?」
ダンボール箱の中には、7歳くらいの女の子が入っていた。
女の子は眠っているように、目を閉じて身動きをしない。
もちろん、これだけでもリリアーナからすれば十分驚くべき材料となるだろう。
しかし、レベッカにとってはそれだけではなかった。レベッカはその幼女の正体を知っている。
彼女こそが“妹様”なのだ。

リリ「この子一体どうしたの?もしかしてレベッカさんの妹さんか何か?」
レヘ「…ああ?」

ああ、そうか。と、レベッカは思いなおした。そもそも、
メイファの人間形態の姿をリリアーナが知っている筈がなかったのだ。
さて、どうしようかとレベッカは考えた。レベッカはためしに、
これがメイファだと正直に話した場合を脳内でシミュレーションしてみた。
①李「ええっ!?この子があのファン・メイファ!?」
②華『う~ん、うるさいなぁ…あ!魔法使いだ!』
③李「学園の平和を守る女!リー・リアーナッ!!」
④華『いたい!いたい!よくもやったなー!!』
⑤テーレッテー♪
レヘ(駄目だ…どう考えてもBADENDしか思いつかねぇ…)
リリ「えーと・・・・・・その・・・・・・と、とりあえずベッドに寝かせてあげた方が良くない・・・かなっ?」
レヘ「あーよ。」
レベッカは、妹様を起こさないように細心の注意を払いながらベッドに寝かせた。
リリ(な・・・・・何かこの子妙に大人っぽくない?)
レヘ「こいつは俺の愛人だ。」
レベッカは息を吐くように嘘を吐いた。
リリ「!! 愛じ・・・・・?!」
リリアーナは素っ頓狂な声をあげかけ、慌てて口を塞いだ。
リリ(愛人って何?こんな小さな子が・・・・・・レベッカさんの?ええ――――!!)
レヘ「荷物に紛れて連れてきちまったんだ。だから皆には内緒にしといてくれねーか?
 一晩楽しんだら、ちゃんと帰ってもらうからよ?おお、リボンを持ってきてくれたんだよな。ありがとよ。」
レベッカはリボンを受け取った後、リリアーナに早く帰ってほしいような素振りを見せた。
レヘ「…まあ、あれだ。悟れ。」
レヘ(さーて、リーが帰ったらどうすっかなこの妹様。俺じゃ妹様を倒せないから、やっぱりメイリンに頼むしかないのか…
 ていうか、なんで妹様がここにいるんだよ?メイリンがさっき捕まえたはずだろうに。)

リリ「・・・・・・なあんだ、冗談なのね」
びっくりしたわとリリアーナは一人文句を言いながら、ホッと安堵の息をついた。
レヘ「んだと?」
リリ「だって本当にこの子が愛人なら、もっとこう・・・好き好きオーラ?みたいなのが出るはずでしょ?
 レベッカさんを見てると、この女の子に対してそういうのが全然感じられないのよねー」
レヘ「(しまったなぁ、さすがの俺も妹様には発情できねぇからなぁ…)」
リリ「それにね、考えても見てよ。
 明日この子を帰すまでに、もし私以外の誰かにばれちゃったらなんて言い訳するの?
 それ以前に、どうやって帰すつもりなの?まさか箱に詰めて送り返すなんて言わないでよね」
レヘ「(デスヨネー)」
リリ「・・・・・・今日メイファさんの事件があったばかりなのよ?あなたにもこの子にもあらぬ疑いが掛けられてしまうわ。
 それよりは今のうちに正直に申し出て、事情を説明した後この子を来客扱いにしてもらうべきよ。
 そもそも、荷物に子供が紛れてたと察知出来なかった学園側にも落ち度はあるんだから」
レヘ「(いや、お前の目の前にずばり本人がいるよ。)」
リリ「それとも、正直に申し出る事が出来ないだけの理由でもあるの?
 学園に荷物を運び込まれる時、この子が発見されなかった理由に心当たりでもあるとか?」
レヘ「(うわー、すげー心当たりあるよ。)」
リリ「改めて、この子が一体誰なのか紹介してくれるわよね?
 ――― 大丈夫よ、私、この子が妖怪だとしてもいきなり喧嘩売ったりなんかしないから」
レヘ「……マジでか?」
レベッカはやっと口を開いた。
レヘ「おめーがそこまで言うなら教えてやる。このベッドに寝ている幼女、
 何を隠そうこいつこそ、千年に一度現れるスーパー妖魔人ことファン・メイファだ。」
レベッカは自分で言ってみて、こっちの方こそ冗談みたいだと思った。
リリ「こんな時に止してよ。私、すごく真面目に話してるのに」
リリ「・・・・・・本当なのね?本当に、この子がメイファなのね?」
リリ「信じられない・・・・・・どうしてメイファがこんな場所で寝てるの?」

レヘ「別にかくまってたわけじゃねーよ。そもそも、メイリンが捕まえたはずだろ?
 何でこんなところにいるのか俺にもさっぱりわからねーよ。」
リリ「レベッカさんがかくまってないとしたら、これって一体どういうことなの?
 スカーフェイスさんにもメイリンさんにも、学園長にも見分けがつかない偽メイファが現れたって事?」
リリ「・・・・・・思ってたよりずっと幼いのね」

レベッカは、ここでチン♪と良い案を思いついた。
レヘ「でも、いるもんはしゃーねえ。首を取ろうぜ。」
リリ「はあっ?!首を取るって・・・・・・?!」
レベッカは、ダンボールの中から中華包丁を取り出した。
リリ「ちょっと、何考えてるのよ!!」
レヘ「お前は今この状況がどれだけ危険かわかってんのか?
 妹様と密室で戦闘になったら二人とも即死するぞ。
 だいたい首だけになっても妹様は死なねーし、危険である事には変わりねえ。」
ベッドで寝ていたメイファがもぞもぞと体を動かした。もしかしたらもうすぐ目覚めるのかもしれない。
レベッカは中華包丁をリリアーナに手渡した。
レヘ「今からメイリンを探しに行っても間にあわねえ。生き残りたいなら妹様の首を斬れ。」
レベッカ本人は大きな金槌を手にした。
レヘ「早くやれよ。さっきみたいな事は二度とごめんなんだろ?妹様の首を狩り取ったら、
 お前は一目散に逃げろ。後は俺がなんとかする。」
レベッカは自分で言ってみて、なんだか自分の死亡フラグみたいだと思った。

リリ「・・・・・・・・だめよ。やっぱりだめ」
リリアーナはそう呟くと、中華包丁を手近なダンボールに投げ込んだ。
リリ「レベッカさんはメイファ達とは赤の他人ってわけじゃないんでしょう?
 だったらこんな馬鹿なこと考えちゃダメ!二度と中つ国に帰れなくなっちゃう!
 それに・・・・・・それに寝込みを襲ってこの子の首をはねたら、一時的に学園の危機だけは救えるかもしれない。
 でも、その後は?この子にとっての『魔法使い』は、本当の意味で『敵』になってしまうわ。
 卑怯な手を使って妹が傷つけられたと知ったら、メイリンさんだって私達を絶対許さない」
リリアーナはレベッカに詰め寄ると、彼女が手にした金槌も取り上げようとする。
リリ「私達が即死するのは、この子と戦闘になったらの話でしょう?だったら戦わなければいいのよ!
 いい?ここは私が何とかするから、レベッカさんは出来るだけ早くメイリンさんを探してきて!」
お前馬鹿なのか?という顔をしたレベッカに、リリアーナは畳み掛けるように言った。
リリ「とにかく私は、穏便にことが運ぶよう彼女を説得してみる。・・・・・・あれ?」
リリアーナは、ここに至ってようやく作戦の「穴」に気づいたようだ。
リリ「メイファって西方の言葉わかったっけ?テレパシーでも通じるかな?」
偽者メイファには意思疎通が出来たか今ひとつはっきりしなかったが、本物相手ではどうだろうか?

レヘ「西方の言葉は通じねーし、テレパシーは精神をかきみだすだけだ。
 まったく、肝心なところが抜けてんなーお前は。」
レベッカは笑った。
レヘ「しかし、おめーの志だけは本物みてーだ。試すような真似をして悪かった。
 もしもお前が妹様の首を本当にはねようとしたら、この金槌はお前の頭に落ちてたとこだぜ。」
レベッカもまた、手近なダンボールに金槌を入れた。
レヘ「だが志だけ立派でも智恵がまわらなきゃ糞の役にもたたねえ。
 メイファとのコミュニケーションは俺に任せろ。お前は部屋を出て拡声器を探せ」
リリ「わ、わかった!」
レヘ「メイリンはお前も知っている通り素直だ。拡声器で助けを求めればすぐに来る。
 俺はこの学園の拡声器がどこにあるか知らねーから、お前に頼むしかない。
 もしも判断に迷う事があれば、俺がこれから言う言葉を思い出せ。
 妖怪が恐れるものはただ一つ。それは、千斤を持ち上げる力でもなければ、
 万書に値する知識でも、森羅万象を動かす魔法でもない。
 妖怪が唯一恐れるものは“命につく名前”だ。」
リリ「わ、わかった!」
リリアーナはよく分からないながらも、反射的に頷きレベッカの言葉を肝に銘じた
リリ「中つ国の言葉でもメイファは『メイファ』って発音するの?」
リリアーナは思わずそう質問し、馬鹿なことを聞いたと思った。
レベッカは、“さあ、行け!”とリリアーナに促した。
リリ「危なくなったらすぐに逃げてね!約束よ!」
リリアーナは今度こそ部屋を飛び出していった。

現在、レベッカはリリアーナを部屋から追い出し、メイファと二人っきりである。
リリアーナの質問には答えなかった。
明らかに、レベッカの言葉の意味を取り違えているようだったからである。
レベッカは、ポケットから一枚カードを取り出した。
レヘ「スペルカード発動!シュイラオ・ヨウシー!」
いちいち大声で宣言しなければいけないのかどうかはともかく、
レベッカは呪符・水牢遊戯を発動し、その声でメイファは目を覚ましてしまった。
ファ『う~ん、うるさいなぁ…あ!お姉ちゃん!?』※メイファのセリフは全て中つ国の言葉である。
レベッカは手に持った呪符を天井に飛ばし、貼り付けた。
水牢遊戯の効果は、対象を水で覆う事である。よって、レベッカの部屋の内側全体が、
深さ1尺程の水で覆われることになる。メイファは、水に覆われたせいで、
もうそこで寝られないベッドの上から降り、ピチャピチャと足音を立てながらレベッカに近づいた。
ファ『お姉ちゃんは…やっぱり魔法使いの味方なの?』
レベッカはメイファの頭を撫でた。
レヘ『そんなわけねーだろ。メイファ、俺はいつだってお前ら…妖怪の味方だ。』
レベッカもまた、中つ国の言葉でメイファに話しかけることにした。
レヘ『さっきは悪かったな。俺が怪しまれないためには、
 どうしてもお前と敵対しているフリをしなければならなかったんだ。』
ファ『ううん、大丈夫。私、ちゃんとわかってたもん。でも、大丈夫なの?
  私とこんな話をしても…魔法使いに聞かれて無い?』
メイファは窓のカーテンがちゃんと閉まっている事を確認した。
レヘ『安心しろ。この部屋は見てのとーり水で覆われてるから、俺たちの話し声が外に漏れたりしねえ。
 何か小さいネズミが隠れていたとしても、すぐに窒息するだろう。
 それに、今は俺の部屋に誰も入れねーよ。ドアに水圧がかかっているからな。』
ファ『そう、それなら安心ね(愛好)』
レヘ『だが油断は禁物だ。』
レベッカは声をひそめ、メイファに顔を近づけた。
メイファはちょっと顔を赤くすると、レベッカと同じように声をひそめて話すことにした。
ファ『それで、お姉ちゃんは一体どんな極秘任務にあたっているの?』
レヘ『…あー、それはだな……うん、いいだろう。教えてやんよ。
 この学園にはな…ある兵器が極秘に開発されているんだよ…うん。』
ファ『妖怪にとって危ない兵器?』
レヘ『…あー、うん。まーな。』
ファ『お姉ちゃんはそれを破壊するために、あえて魔法使いに変装して潜入したのね!どんな兵器なの?』
レヘ『…あー…今わかっているのは、Xタル・ギアって名前だけなんだが…』
ファ『私も手伝うわ。』
レヘ『そうか。それは助かるぞメイファ。お前を今から特殊工作員黄河二号に任命する。』
メイファは、嬉しいやら恥ずかしいやらで、顔を赤くしながらレベッカに敬礼した。
レヘ『では、さっそく黄河二号、貴君の使命は?』
ファ『新兵器Xタル・ギアを破壊し、魔法使いの陰謀を挫くことであるます、サー!』
メイファはノリノリである。
レヘ『よろしい!では早速黄河二号に指令である。先程の林の中にて待機し、黄河一号の到着を待つべし!』
ファ『イェス、サー!』
メイファは右手の人差し指と中指を額につけて精神を集中した。
レヘ『…何やってんだ、お前?』
ファ『瞬間移動。この前“コ族”に教えてもらったの。』
次の瞬間、文字通りメイファは瞬間移動して消えてしまった。レベッカはなるほどと思った。
レヘ『そうか、あの術で親父から逃げたんだな。』

(136で〆)

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最終更新:2009年01月25日 18:40
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