林の中の広場になっている場所が、おいかけっこの終点になった。
ユリ「あ!あったあった!王様の服、ゲットだぜ―――!!」
ユリは泥だらけで落ちていたスクナの服を拾い上げる。
服ばかり見ていたユリは気づかなかったが、そばにいたミルクはユリたちに気づいた。
ロウ「おや、先客がいらっしゃったようですな」
ミル「ユリ?なんであんたがこんな所にいるのよ?
それにそれ、王様の服って…」
ユリ「おーミルクだ!女子寮前にいたんじゃなかったの?
私は上にいる王様に服を渡してくるから、ちょっと待っててねー!」
ユリはミルクとロウ達にそう言ってから、デッキブラシに飛び乗って砂塵の上のスクナの所に向かった。
ユリが連れてきた2人の来賓は、ばっちり置き去りにされた。
ミル(王様の服がつり上げられて、ユリがそれを追いかけてきて、王様は空の上?
どんな事情でそうなったんだよ一体… )
ユリ「うおーっ!すごい!本当に黄金の戦車が動いてるーっ!!
ねえねえ王様!触って良い!?触って良い!?」
べたべた戦車に触って満足したユリは、ようやく服のことを思い出す。
ユリ「そうだ、王様の服を見つけてきたよ!はいこれ!
下でマリオさんも戦車を見たがってるから、一緒に下に降りよう!」
スク「おお、でかした!
ん?戦車に?良かろう、好きなだけ触るが良い。しかし隣は妃の指定席だから乗ってはいかんぞ?」
上空を行くスクナはユリが服を持ってきたことと、戦車に眼を輝かせていることに気をよくして触る許可を与える。
そしてユリの提案に従い、ゆっくりと林の中へ降りていった。
来賓の内、片方の人は朝会った紳士風の人だった。
もう一人は変わった服に泥まみれのゴーグル姿、名前は…マリオ・マリオ?
服だけじゃなくて名前も変わってるなおい。
…そういえば、ユリの奴リチャードさんを助けるとか言って飛び出したんだっけ。
てことは、この紳士風の人がリチャードさん?
ミル「えーと、はじめましてというかなんというか…
あたしはユリのルームメイトのミルクっていいます。よろしくお願いします」
ロウ「おお!これはこれはあなたがミルクさんですか。お噂はかねがね。
初めまして、リチャード・ロウと申します。お噂はかねがね・・・・・・む?」
リチャードはミルクの手を両手で握り、ぶんぶんと振り回した。
その視線がふと背後にある穴が開いたダンボールへと移動する。
ミルクはぺこりと頭を下げた所で、ダンボールの穴からツァンヨンが見えてることに気づいた。
やっば、見えてる見えてる!
ミル「えーっと、リチャードさんとマリオさんですよね?
ユリが何かご迷惑をおかけしませんでしたか?
それと、事情がよくわからないので、どうしてスクナの服が飛んできたのか教えてもらえませんか?」
さりげなーく立ち位置を変えてダンボールの穴を隠しながら、あたしはリチャードさんに聞いてみた。
ロウ「いやいや、迷惑どころかずっとお世話になりっぱなしですとも。のう、マリオ殿?」
「はい。そう、お世話になりマーシた」
ロウとマリオは、今まで自分達が見聞きしたことを手短に話した。
ロウ「というわけで、なぜスクナ殿の服が勝手にここへ移動したのかはわしらにもよく分からんのです。
そう言えば見えない力と引き合った時、スクナ殿は彼の蚕が死んだとか何とか仰っていましたなあ。
もしかしたらスクナ殿は何かお心当たりがあるのかも――――おや、どうかなさいましたかな?」
ロウはミルクの表情を覗き込んだ。
ミル「あ!いや!全然何にもないですはい!」
ミル(危ない危ない、表情に出てたか。なんとかしてツァンヨンの事は秘密にしないと。 )
砂塵と共に林に下りると目に付いたのはリチャード、マリオ、そしてミルクの姿。
スク「おお!ミルクではないか!
もしや糸を引っ張っていたのはそちか?
全く、逢引し愛のであればもう少しやりようがあろうに。
しかしそんなそなたの強引さもまた良きかな良きかな。」
ミル「誰がいつどこで強引に迫りましたか。
それと、迷惑だからはやく砂嵐を引っ込めてください」
いつ呼び出したのか、黄金の戦車に乗ったスクナがユリと一緒に空から降りてきた。
それも迷惑なことに砂塵も引き連れてだ。
ツァンヨンが渡してくれたハンカチが大活躍ですよ本当。
林に下りたばかりでまだ服を着ないまま、ミルクを見つけて喜ぶスクナ。
褌一丁で抱きかかろうと飛び上がる。
だが、服から伸びた糸がミルクの背後へと伸びているのに気付き、抱きつくのを思いとどまった。
スク「むむむ・・・!む~~~?見難いわ!下がれ!」
ミルクの足元をじっと凝視していたが、いかんせん林を覆う砂塵のせいで見難い事この上ない。
自分でやっておいてキレていてはいう事もなしだが、一喝の元砂塵はスクナの腰の瓶へと戻る。
ユリ「お待たせー!これが王様が動かせた、
博物館秘蔵の戦車だよ!」
「オウ、ゴージャス!ファンタスティーック!!」
空から砂塵とともに降りてきた戦車を、マリオは驚いてみている。
博物館に入れなかったので見れなかった伝承の品が、実際に動いているのを見たのだから仕方がない。
ミルクとスクナが恋人同士と結論付けたロウは、邪魔にならないようマリオと共に黄金の戦車を眺めていた。
ロウ「マリオ殿は、黄金の戦車とムウ大陸との関係について何かご存知ですかな?」
「一説によると、ムウ大陸の王が移動するときは必ずこの戦車が使われていたようデース。
玉座と同じように、王の権力の象徴だった可能性がありマース」
ロウの質問に答える間も、マリオの視線は黄金の戦車に釘付けだった。
マリオと話をしていたロウだったが、そうしているうちに突如砂塵が全てかき消えた。
ロウ「おや、スクナ殿が元に戻したようですなあ」
呑気に話すロウとは違い、マリオは夢遊病患者のようにふらふらと戦車に近づいた。
「さ、触ってもいいデースか!?」
ユリ「どうぞどうぞ!」
自分の物でもないのにOKを出すユリの許しを得て、マリオは黄金の戦車をあちこち調べ始める。
「オーウ!実に見事な細工デース!」
ユリ「ほんとだ!この羽の生えた亀なんか生きてるみたいだよ!」
「それはムウ大陸の王家の紋章デース!
やはりこの戦車は伝承の王家の戦車に違いありまセーン!」
ユリ「そーなのかー!」
黄金戦車に大興奮の2人は、後ろのダンボール箱とメイファの釣り出しにまるで気づいていないようだ。
視界が晴れた後、ジーと糸の先を凝視するスクナ。
その先にはところどころ齧られて穴の開いた段ボール箱。
褌一丁で段ボール箱の周囲をうろうろする姿はかなりシュールであるといわねばならない。
ミル「あの~、王様…このダンボールなんですが……」
ダンボールを二周ほどしたとき、スクナは足を止め、自信満々に段ボール箱をビシッと指さした。
スク「ふはははは!巧みなる隠行のつもりであろうが、王たる余の眼は誤魔化せんぞ!
お前はこの中にいる!
しかも言い当ててみせよう!
真っ白な肌に赤い服を着たお前の事ぢゃ!
このくらいグルッとまるっとスリットお見通しだあ!!」
穴が開いている為、眼を凝らせば普通に判るような事だが、名推理が如く叫ぶと、ぐいっと糸を引っ張る!
それと共にメイファは魚釣りが要領で引き出され、ダンボール箱がはじけ飛ぶ事になる。
ミル「あぁ――――っ!?い、いきなり何するんですか王様!」
ロウ「スクナ殿、もう少しお手柔らかに。箱入り娘さんが驚いておられますぞ。
御嬢さん、大丈夫でしたかな?」
ロウはのんびりとメイファに話し掛けた。
ロウ「こちらの御仁は服を着ておられませんが、決して変態ではありませんぞ」
ミル「ごめんね、ツァンヨン。王様が乱暴なことしちゃって…」
そうだ、もう隠しても仕方がないし、ツァンヨンの事をみんなに教えてあげた方がいいよな。
ミル「えっと、この子の名前はツァンヨンちゃん。
森でかくれんぼしてた所で知り合ったんだけど、多分王様の蚕はツァンヨンが食べちゃった芋虫だと思う。
子供のした事だし、もちろん王者の余裕で笑って許せますよね、王様?」
スク「な、なんと!?蚕を食ったというのか!?煮ても焼いても食えたものではないアレを???」
ミル「まあそうなんですが…なんで不味いって知ってるんですか。
もしかして王様もあの蚕を食べたことあるんじゃ…」
そう、蚕は不味いのだ。
ファ『このやろう!何すんだよ!』
ダンボールから釣りだされたメイファは、怒ってスクナの向う脛を蹴った。
ミル「あ…」
スク「~~~~~!!!」
声にならない叫びを上げて跳ね回るが、ミルクの手前怒るに怒れない。
ファ『えっ!?なになに!?なんでこんなに人が増えてるの!?』
ロウとミルクはメイファを落ち着けたかったのだろうが、
当のメイファは四面楚歌な今の状態にたじろいでいる。
ミル「あー、大丈夫だよツァンヨン。
王様も見た目はあれだけど、別に悪い人じゃ……ツァンヨン?」
メイファは校舎の屋上から立ち昇るピンク色の煙を見て、さらに心が潰れそうになった。
メイファは、そのピンク色の煙が何を意味するのかを知っていたからだ。
メイファはその煙がレベッカによるものだと思った。メイファは困惑し、そして怒りに体を震わせた。
ファ『お姉ちゃん…どうして?………そうか…そういうことなのね。私を、裏切ったのね!』
メイファのお尻から、6本の長い尻尾が生えた。それが何を意味しているか、ミルクには良くわかるはずだ。
信じがたいかもしれないが、この少女こそ妖怪犬ことファン・メイファなのである。
ロウ「ふむ・・・これはもしかして言葉が通じない・・・・・のですかなあ?」
ファ『黄美天!あなたがあくまで妖怪の血を裏切るなら、私は私の使命を、私の意志で果たすわ!』
メイファのお尻から、さらに6本の尻尾が新しく生えた。メイファの気によって空気がわなわなと震える…
それがどういう事なのか、言葉は通じなくとも十分に察する事はできた。
そして現れた12本の尻尾は、あの妖怪犬の、封じられ、また出てきたと聞いたメイファと同じ尻尾で。
ミル「そんな…もしかして、ツァンヨンはメイファなの!?」
ロウ「おや、お知り合いですかな?よく分かりませんが、なにやら怒っていらっしゃるようですなあ」
ロウ「・・・・・・・・・・」
ロウは深く帽子を被りなおした。懐に手を差し入れているが、その表情は見えない。
スク「ミルクよ、見た目通りの生き物ではなさそうじゃな。下がっておれ。
王に対する数々の無礼、しっかり成敗してくれるわ!
余と戦いたくば九本になってからにすればよかったと後悔させてくれる!!」
東方ではあやかしの尻尾は多いほど力が増すというのが定説なのだ。
転化したばかりの猫が二本の尻尾を持つ猫又であり、最上級の九本の尻尾を持つ狐まで。
ちなみに蛇は尻尾でなく首が増えたりする。
薀蓄はこのくらいにして、スクナは空気を震わすメイファに全く引く気はなさそうだ。
ぐっと構えて、動けば直ぐにカウンターを叩き込むつもりなのだが・・・
テンションの上がったスクナは気付いていない。
自分の術は布や糸という媒体が無いと全くの無力であるという事。
そしていま、蚕は小さくまだ糸を吐けず、ふんどし一丁の丸腰というか丸裸状態だという事を。
スク「うぢゃらうぢゃらやらとイソギンチャクか!
余に害を成すというのであればその尻尾引きちぎってすっきりせてちゃる!」
ガー!と威嚇しながら両手を広げ片足を上げる鶴のポーズを取っていると、ミルクが間に割り込んでくる。
ミル「王様!そのままそのまま!」
うっかりスクナが戦いを始めないよう注意してから、あたしはメイファに叫んだ。
ミル「ツァンヨン!それとも本当はメイファなの!?
私たちは、今あなたと戦うつもりなんかこれっぽっちもないわよ!
ほら!その証拠にスクナなんか裸よ裸!
危ない物なんか何にも持ってないんだから!!」
ロウ「あー、これこれスクナ殿。その格好で凄むのはどうかと思うのだが。
今日は、場所によっては魔法障壁に不具合が発生するトラブルが起こっているようですぞ」
ミルクの意図を悟ったロウは、さりげなくスクナに忠告をした。
ミル「それが…場所によってじゃなくて妖怪、特にメイファの攻撃に魔法防御が効かないみたいなんです。
メイファは知り合いの知り合いなんで、あたしも詳しくは知らないんですが…
リチャードさんは中つ国語が話せますか?」
ロウ「・・・・・・・ふむ、中つ国の言葉はよく知らんのだがのう。に、にいはお?」
そう言ってロウは、懐から飴の袋を取り出した。
一つは自分の口に、そしてもうひとつはメイファへと差し出してみる。
言葉の壁は厚い。
はっきり言って、メイファはスクナやミルクが何を言っているのかわからない。
しかしそれでも、スクナにやる気があり、ミルクがなだめようとしているくらいは察した。
ファ『何を言っているの?私を買収するつもり?まさに十字官の策略ね!』
ミル「ちょ、ちょっと待ってメイファ!
飴を出したのは子供扱いしたとかそんなのじゃなくてね!」
ロウ「あー、やっぱり?ですなあ」
言葉は通じないが、怒らせてしまったらしい。
だがロウは大して気にした風でもなく、がりがりと口の中の飴を噛み砕いた。
ファ『まあ、いいわ。どうせ死人は喋らない。
今こうして私に攻撃のチャンスを許しているあなた達は、既に死んでいるのも同じよ!』
メイファは片手を空に向けた。例えば、ピザ職人は同じような格好でピザ生地を伸ばす。
ピザ職人とメイファの違いは、メイファが伸ばすのが光の円盤であるという点だ。
ファ『魔法使いは皆死すべし!!』
メイファは大きな光の円盤を投げつけた。見た感じからして、当たれば体を切断されそうだ。
スク「イカン!ミルクしゃがめ!」
リチャードへの警告がなかったのはやはり愛の有無の差であろう。
スクナの警告にとっさにしゃがみ込むミルクの頭上ギリギリを、円盤は通過した。
そして投げつけられる円盤を前にスクナは大きく跳躍する。
スク「うははは!このような使い古された攻撃が効くかああ!!絞め殺してくれるわ!」
ジャンプ一発、スクナは光の円盤の上に着地したのだ。
足の裏に魔力を集中させる事により、円盤に乗ったその足元には火花が散っている。
そしてメイファを布で包み圧殺すべく大きく手を振り下ろすのだが・・・残念、布も糸もありませんでした。
ミル「王様!リチャードさん!無事ですか!?」
スク「しまったああ!!!ぬおおおおパノラマアアアァ!!」
ここに至り漸く媒体が全くない丸裸状態であることを自覚するスクナは円盤と共にくるくると回転していた。
円盤の上に着地したからには、足場たる円盤の回転運動に身を任せるしかない。
かっこよく円盤の上に静止などはスクナにはできない芸当だった。
ドップラー効果を聞かせた叫びを残し、スクナは円盤と共に飛んでいった。
そして円盤は、ユリとマリオさんに直撃コースだ!
ミル「ユリーッ!後ろ後ろーっ!!」
ユリ「え?おおっ!空飛ぶピザだ!」
「オーウ、上に人が乗っていマース!ザツギダン素晴らしい!」
ミルクの警告に振り向いたユリとマリオの感想は、実に緊張感に欠けた物だった。
もちろん、そのまま当たれば体が真っ二つになる程度の威力が、円盤にあることはすぐ分かったが。
円盤はロウが作り出した魔法障壁を切り裂き、ユリとマリオに迫る!
ユリ「むっ!これはピンチ!?」
ここでスクナの蘇る
リリアーナの言葉。
そう、昼時に中庭で生徒を盾にしたときに言われた言葉がスクナの脳裏に蘇る。
スク「ぬうう!我が民草に手出しはさせんわ!噴!!」
片足に力を込め、思いっきり踏みつける。
その衝撃で輝円斬は傾き、コースを僅かに変えるが、それでもユリの胴体を真っ二つにするか袈裟懸けに切り裂くかの違いでしかない。
が・・・輝円斬はユリの身体に触れる事無くスクナを載せて飛び去っていく。
急激にカーブしたわけではなく、輝円斬の直径が縮んでいたのだ。
輝円斬は大きく弧を描き、元の場所に戻ってくる頃にはスクナの片足を乗せるだけの大きさまで縮まっていた。
そしてついには完全に消えうせ、スクナはスピンしながら着地した。
片足をドリルのようにめり込ませながら着地したスクナは、いつの間にか着衣を済ませていた。
そして肩に乗るのは丸々と太った蚕。
そう、スクナは蚕に輝円斬を食わせていたのだ。
ロウ「おお、なんと素晴らしい機転ではありませぬか!スクナ殿!」
ユリ「スゴー!」
「グレート!」
スク「ふははは!馳走になったのおおぉうげええええええ・・・・」
かっこよく決めたつもりだが、台詞も終わらぬうちに両膝を突き激しく嘔吐するスクナ。
アレだけ高速回転をしたので目が回るのも無理がない。
ユリ「すごくなーい」
「締めまで決めて欲しかったデース」
ロウ「・・・・・・・・・・・」
なんとも複雑そうな顔になったロウだったが、とりあえず突っ込みはせずにユリとマリオの方へと走った。
ロウ「お怪我はありませんかな、お二人とも。
それとユリ殿、早く来賓のマリオ殿を早く安全な場所へお連れした方が良ろしいのでは」
「私は、危険な所は慣れているので大丈夫デース」
ユリ「そうはいかないよ!
リチャードさんの言うとおり、学園祭で来賓にケガさせたら魔法学園の恥!
すぐに安全な場所に離れよう!」
ユリとしてもミルクの言動が気にはなったが、マリオを危険に晒し続けるわけにも行かない。
来賓といえば注意したロウも来賓なのだが、ユリの頭はそんな事は疑問に思わなかった。
一方、ミルクはメイファの方に向き直る。
逃げたって、メイファが追いかけてきたら逃げ切れるわけがない。
メギドで攻撃しても、かわされたら次の反撃でおしまいだ。
なら、ここは説得を続けるしかない。
さっき見せてた笑顔からして、メイファは根っからの殺人鬼じゃないはず!
言葉が通じなくても、思いを伝えるしかないでしょ!
林の中のメイファは、再び片手を上げて光の円盤をつくっていた。
めんどくさいので、以下この光の円盤は輝円斬という名前にする。
ミル「メイファーッ!あたしは攻撃したりしないって言ってるでしょ!
スカーフェイスさんも、メイファが誰かを傷つける事なんてきっと望んでないよ!
魔法使いはメイファや妖怪たちの敵じゃない!
だから、メイファもそんな事しないで!」
だがやはりメイファには言葉が通じない。
ファ『あら?命乞いをしているの?かわいいわねぇ♪』
と、ミルクの様子をそんな風にとった。
ミル(こりゃダメだ、反応からして全然通じてないっぽい…
うう、やっぱり説得なんて無理なのか… )
ファ『わかったわ。あなたはおもしろいから、一番最後に食べてあげる(愛好)』
メイファはそう言いながらミルクに向かって輝円斬を放った。
ユリ「ア―――ッッ!!」
ミルクにマトモな防御手段が無いのを知っているユリは、思わず叫んだ。
しかし、メイファは嘘をついたわけではなかった。輝円斬はミルクに当たる寸前に二つに別れ、
ミルクの左右をかすめるようにして飛んでいった。
二つの輝円斬は、ミルク以外の魔法使いを殺すために飛んでいく。
スク「ふふふ、幻術まで使うとは中々どうして・・・!
しかぁし!この程度で余がどうにかなると思うなよ!」
勿論スクナは目が回っていると言うようなまっとうな結論には辿り着かない。
幻術をかけられたことに脳内変換して、ビシッと指差すがその指先はゆらゆら動いてメイファとは全く見当違いの方向を指していた。
今ここで止まっていられるのは地面に埋まった片足のお陰、それだけなのだ。
そしてスクナはぐにゃぐにゃと回る視界の反対回転をし始めた。
そんなスクナを余所に、二つの輝円斬は飛んでゆく。
スク「ふん、使い古された芸を性懲りもなく!!」
逆回転を終えたスクナは両手を広げ、呪布術を展開させる。
途端に地を這い伸びた包帯は螺旋運動をはじめ棒と化して下から輝円斬を捉えた。
そう、まさに皿回しの状態で。
スク「ぬははは!余にさかろうても無駄だとわかったであろう。さあ、ひれ伏せ、そして畏れ敬うが良い!」
輝円斬を封じ、高笑いのスクナであった。
ロウ「おお!あれは極東の地に伝わるという奥義、サラマ・ワーシ!ではないか!
ただのバカ殿かと思っていたが、なかなかどうして・・・」
「東洋の神秘を見れるとは素晴らしいデース!」
ユリ「うおーっ!やっぱり王様スゴー!!」
自身皿回しはできるユリだが、飛んできた敵の攻撃を受け止めて回すのは不可能だ。
スクナに拍手してまた評価を変えるユリだが、すぐにマリオを保護する途中だったのを思い出す。
ユリ「それじゃあ私は来賓保護の任務に向かいます!
ロウさん!王様!ミルクの事よろしく!」
スク「応!妃を守るのは当然ぢゃ!」
ロウ「了解ですぞ。ではマリオ殿、また落ち着いたら、ムウ大陸の話をお聞かせくだされ」
ロウとスクナにそう言って、ユリはマリオをデッキブラシに乗せて飛び去った。
メイファは高笑いをするスクナに光の矢を放った。
それを見てもスクナは全く動じないどころか、大きく手を広げてみせる。
スク「ふん、王威に触れ格の違いをするが・・・あぶっ!!!」
王威などと言っているが、早い話魔法障壁を厚くして防ぎ、圧倒しようと言うだけだった。
しかし相手の攻撃は魔法障壁を貫通する!
そのことを今になって身をもって知るスクナ。
どんだけ人の話を聞いていないんだよ!と突っ込むところだが、今はそれどころではない。
易々と障壁を突き破り迫る光の矢をギリギリのところで躱すが、あまりにもギリギリすぎて頬がジリリと焼ける。
何とか躱せたのは、メイファの攻撃が牽制であったからと言っても過言ではない。
その驚きに大げさに体勢を崩したところに更なる追撃がスクナを襲う!
ファ『馬鹿にしやがって~!』
メイファは地面にバンと両手をぶつけた。すると、林の中のいたるところから光の壁が現れる。
光の矢を避けるのに大きく体勢を崩したスクナの脇腹に光の壁がめり込んだ。
スク「う・・・・ぐうううう・・・・!」
本日何度目かの宙を舞い、地面に落ちるが、脇腹にめり込んだ為に息ができず声も少なに蹲るのみ。
最初こそ輝いていた光の壁は、少し時間がたつと鏡に変化した。
そう、メイファは林の中にたくさんの鏡を乱立させたのだ。
これはメイファが、かつて中つ国南島部でブルースという名前の魔法使いと戦った時に使った戦術だ。
この戦術は3つの点でメイファに有利だった。
なにしろ鏡のせいでミルクやスクナ達から、メイファは“見えていてもどこに立っているのかを認識しにくくなる”。
逆にメイファからすると、ミルクやスクナ達は“見えていて、しかもどこに立っているのかを認識できる”のだ。
鏡を出現させたのがメイファ本人なのだから、当然と言えば当然とも言える。
また、鏡が乱立したせいでどこにいても姿が見えるような感じがするが、
鏡の反射によって生まれる死角がわずかに存在する。
もちろんミルクやスクナ達もいずれはその存在に気づくだろうが、
それを最初から知っているメイファはその分有利だった。
いざとなれば、その死角に身を隠せるからである。
さらに、メイファの攻撃の性質上、さらに有利な点があった。
メイファからは、3つの鏡から3人のロウが見えていた。
鏡にうつる3人のロウは、これまた鏡にうつる3人のミルクに話しかけている。
ユリとマリオを見送ったロウは、ミルクに近づきこう言った。
ロウ「・・・・・・残念ながらメイファ殿は本気で我々を殺す気のようですなぁ。
ミルク殿、口で言っても判らぬ悪ガキを止めるには何をどうするのが一番とお考えですかな?
お尻ペンペンですよ、ペンペン。ほっほっほっほ。」
ミル「…まあ、身に覚えもありますから、それは分かりますが」
ロウはそう言った後、ふっと困ったような笑みを口元に浮かべた。
ロウ「ミルク殿はとてもお優しい。だが、平和主義も程ほどにしないと身の破滅ですぞ。
そろそろお覚悟を決めてはいかがか?」
ロウはそう言いながらも、まだメイファに反撃をしていない。一応ミルクの意志を尊重するつもりのようだ。
ミル「……すみません……」
ロウは無言で首を横に振った。
ミル「リチャードさん、来賓の方をこんな事に巻き込んでしまって、すみません。
でも、もしよかったら、メイファの目を覚まさせる力を貸してください!
あたしの魔法は威力が制御しにくいので、手加減とかできないんです!」
ロウ「ほっほっほ、承知しましたぞ。
だがまずは、他の来賓の方々にご迷惑がかからないようにせねばのう」
ファ『ごちゃごちゃ相談してるんじゃないわよ!』
メイファは、3つの鏡にうつる3人のロウ全員に向かって光の矢を放った。
ロウ「どこを狙って――――こ、これは?!」
光の矢は鏡に当たって次々に反射して行き、
3つの異なる角度から、3つの異なる時間でロウに襲い掛かる。
ロウからは、3つの鏡にうつったメイファが、自分に向かって光の矢を放った様子が見えるだろう。
メイファが放った光の矢は、鏡に反射しながらロウを狙う。
ロウ「これはまた・・・・・・」
何とか一本目の光の矢は回避できたが、二本目は挨拶代わりにロウの帽子に穴をあけた。
しかも三本目がロウに迫っている時、避けた筈の一本目が背後から戻ってきてしまう。
光る矢は鏡に反射するため、兆弾のような動きをしたのだろう。
タイミングは最悪だ。とても避けきれそうにない。
だが射殺されたとばかり思われていたロウは、倒れなかった
ロウに刺さる筈の光の矢は突然軌道を変え、天高く飛んでいったからだ。
ロウ「いやはや。備えあれば憂いなしじゃのう」
そう呟いたロウの手には、古びた鏡がしっかりと握られていた。
光の壁にぶつかったスクナが起き上がれるまでには周囲に壁が乱立し、すべからく鏡となっていた。
スク「おのれ、怪しげな術を・・・!」
キョロキョロと見回すがそこら中にメイファがいてどれがどれだか。
更にはミルクもリチャードも同じようにそこら中にいるので、誰がどこにいるかさっぱりわからなくなってしまっていた。
考える事が苦手なスクナ。
だんだん訳がわからなくなってきたところに、救いの声が。
ミル「王様!無礼なメイファに一発ガツンとお仕置きしてやりましょう!
でもうっかり大怪我とかさせちゃダメですよ!」
スク「おお!流石は我が妃!頼もしい事よ!ならば良かろう、東方の流儀にてやってやるわ!」
スクナは元々後半部分は右から左に流れていったが、
メキドを見た後では大怪我させてはいけないと言う言葉など跡形もない。
むしろしっかり大怪我させろとインプットされた。
ミル「怪物みたいに他人を攻撃する奴は、怪物みたいな扱いを受けるわよメイファ!メギド!」
威力を下げるためにメイファの周りを広めに攻撃し、ミルクは鏡の後ろに身を隠す。
光の攻撃が鏡に反射するなら、鏡の後ろは比較的安全なはず。
ファ「アイヤー!?」
メイファはメギドによってダメージを受けた。しかし、致命傷ではなかったようだ。
全体的に焦げたメイファは、火がついたスカートの裾を慌てて手ではたいて消火した。
スク「妖しげな術を使おうとも無駄ぢゃ!おのれの技で朽ちるが良いわ!」
手近に見えたメイファ(鏡)を指差しながら、皿回し状態にしていた輝円斬を飛ばす。
直後、別方向に見えるメイファ(鏡)を指差し更に叫ぶ。
スク「引っかかったと見せかけておいてしっかり気付いておるわ!」
もう一枚の輝円斬を飛ばすが、どちらも鏡に映ったメイファだと全く気付いていないのは秘密だ!
ファ『⑧め!』
メイファは鏡越しにうつるスクナにまたしても光の矢を放った。
スク「ぬうう!そっちかああ!」
飛来する光の矢を大げさに飛びのいて躱すスクナ。
流石に障壁が効かない事は学習したようだ。
しかし自信満々に放った攻撃が両方ともはずれだった事により、どのメイファを攻撃すればいいかさっぱりわからなくなってしまった。
ロウはメイファの攻撃を凌いだ後、3体のメイファに向けて古びた鏡を向けた。
ロウ「今度はこちらの番ですな。スクナ殿とミルク殿、目を瞑るのじゃ!」
スク「なんぢゃと!?」
警告されたのに反射的にリチャードを見てしまうスクナ。 勿論直後の閃光もまともに見てしまう。
スク「だーーー!目がああ~~~!」
ファ『目が~!?目が~!?』
メイファも目がくらんでしまった。もちろん、このままではまずい。
メイファは感覚を駆使して、乱立した鏡の世界に存在する“死角”へと飛び込んだ。
ロウやスクナからは、メイファが突然消えてしまったように見えるだろう。
鏡の後ろに隠れていたミルク、その太もものあたりに、
ドンと何かがぶつかってきた事に彼女はすぐにきづくだろう。
ミル「げえっ!メイファ!?」
どういう運命のイタズラか、飛び込んできたのは探しに行こうとしたメイファ本人だった。
そう、メイファが飛び込んできたのだ。ミルクは気づかなかったかもしれないが、
ミルクの隠れた鏡の後ろこそ、この鏡の世界に存在する“死角”だったのだ。
そのため、メイファが見えないのと同じように、ミルクの姿は見えなくなる。
もっとも、同じ魔法使いなら魔力でミルクを探し出すことができるはずだ。
ファ『ちくしょう~あいつら、姑息な手を使いやがって~(怒)』
メイファはミルクのすぐ側でくしゅくしゅと両手で目を擦った。
まだ近くにいるミルクを見ることができないようだが、少しすれば視力は回復するだろう。
ミルクは思った。今捕まえないと、また逃げられて他の魔法使いを攻撃するに違いない。
幸いメイファはまだ目がちゃんと見えないみたいだし、天は我に味方せり!
ミル「飛んで火にいる夏の虫!メイファ捕まえたーっ!」
そう叫んで、あたしはガバッとメイファに抱きついた。
メイファはあっけなくミルクに捕まってしまった。
ファ『離せバカ~!』
とメイファは暴れた。
ミル「王様ーっ!リチャードさんっ!メイファ捕まえました!
何か良い取り押さえ方知りませんか!?
例えば能力封印の計とか術とか魔法とか!!」
ロウはミルクに返答せず、無言のままミルクの元へと走った。
だが鏡が迷路のように視界を遮っているため、なかなか思うように進めない。
ロウ「ええい面倒な!」
ロウはそう呟くと、ジャンプして鏡の上部へと飛び上がった。
そして立ち並ぶ鏡の上を次々渡り、ミルクのほうへと急ぐ。
格好の的だったかもしれないが、ロウは現在メイファの目が見えないことを知っていた。
だがあと少しというところで、スクナの心眼が発動した。
ロウ「ちっ、仕方あるまい」
あたり一面を砂塵が舞い始めたため、ロウは「ショートカット」を中断した。
だがミルクの場所までは後僅かだ。
ミルクがメイファを捕まえたと言うが、スクナは目を眩んでいるので彼女がどこにいるか判らない。
しかしここでスクナの脳ミソが火花を散らすほど回転する。
そう、どうせ目が見えていても、鏡のせいで判らないのだ。
だったら見えなくても関係ない。
いやむしろ惑わされる目ならば見えないほうがいいじゃない!と。
スク「心眼よ開け!」
カッコいいこと言うが、勿論スクナには心眼などない。
しかし種も仕掛けもある【心眼】を開眼する事はできるのだ。
ミル「ちょ!心眼!?何するのか知らないけど、大丈夫なんでしょうね!?」
スクナの声とともに辺り一帯に砂が舞い上がる。
瓶詰め砂漠の砂はただの砂ではなく、珪素系生物であり、一種の召喚生物。
砂の感覚と自分の感覚をリンクさせる事により、視覚ではなく触覚として周囲を捉えるのだ。
砂が舞っているところは空間。
砂が弾かれるところは何かがある、という事で。
つまり、手探りのように辺り一帯を形として認識。
スク「そこかああ!本来ならば圧殺の刑じゃがミルクのリクエストに応えてこれぢゃ!
ロイヤルスイート!王の抱擁!」
メイファの位置を捉えたスクナは一気に糸を紡ぎ術を展開する。
形成されたふわふわの高級布団がごとき布に包まれた者は、あまりにも心地よく闘争心や使命感などを忘れてしまう一種の結界布。
本来の名前は【忘却結界布団】だが、王の技としては相応しくない名前なので勝手に別の技名を叫ぶのは余談である。
しかし視覚として捉えていないので、抱きついている状態のミルクとメイファの区別がつかない。
このままだとメイファとミルクの周囲にふわふわの布が形成され二人に覆いかぶさり首だけ出して巻きつくだろう。
そして極上の安らぎを与えるであろう。
ロウ「ミルク殿ご無事ですかな!メイファは・・・・・・・こ、これは!」
メイファとミルクの周囲にふわふわの布が形成され始めた。
ロウはミルク達が隠れていた鏡の裏側を見るなり絶句した。
ロウ「スクナ殿!これではメイファだけを封印できないではないか!」
ミル「そうですよ!ほんとに心眼で見えてるんですか王様!?
まさか、あたしごとメイファを封印してやろう、とか考えてないでしょうね!?」
二人が口々に叫ぶ頃、既にメイファの視力は回復していた。
メイファはミルクの脇腹を肘で小突くと、 右手の人差し指と中指を額につけた。
その途端、ミルクは自分が掴んでいたものを失った事に気づくだろう。
そして…
最終更新:2009年02月09日 23:04