ヒルデガルドの手記 > 6

(投稿者:店長)


ディートリヒはすごく大きくてむさ苦しいです。
おっといけない、毒がでてしまいました。反省。 
彼も前回のブリュンヒルデ様との訓練で何かを得たのか、以前以上にスコアを伸ばしています。
正直私のすることはドロテーアといっしょにフォローに回ることぐらいです。
彼は背中の守りが薄いので、誰かが彼の背中をまもってあげないといけないから。……無茶ばっかりするのだから。
けれど今日は悲しい日です。ブリュンヒルデ様がお亡くなりになったそうです。
皇帝陛下自らブリュンヒルデ様を埋葬して差し上げたそうです。
何処まで本当か分かりませんが、軍部では彼女の死に痙攣を起こしているかのように衝撃を受けています。
このままではいけないのはわかっているのですが、私はどうしたらいいのでしょうか? 
そう考えていると、今度ジークフリートが守護女神という二つ名と共にブリュンヒルデ様の後継となることが発表されました。
なんでもブリュンヒルデ様との最期の御前試合で勝利したのだとか。
名実共にエントリヒの最高位となった彼女の心境はどうなんでしょうか。
彼女の本音はどのようなものかは私には分からない。
けれど私は彼女を支えたいと思う。ブリュンヒルデ様も、きっとそのことを臨んでいるだろうから』

今日の日付の後に続いたこの文章を書き終えたこの時、既に舞台の裏では崩壊への足音が聞こえてきていたのかもしれない。
その夜から……歪んだ何かが始まったのだから。

『最初の通達が来ました。なんでも戦果を並列化する云々についてです。
難しいことは分かりませんが、メードの戦果を部隊単位でカウントするとのことです。
つまり私がワモン級を10匹しとめ、私の所属する他の人……つまり極普通の一般兵の方が全員で10匹の合計20匹を討伐したとします。
その場合、部隊で20匹という結果になるということです。
その案にディートリヒは不満げでしたが、私は特に何も文句はありません。
それよりも、部隊の皆が全員無事に帰ってこれるほうが重要ですから』

『最近様子がおかしいと思い始めています。
前線で戦闘行動の従事している私にとって、あの……アストリットの死に方が不自然に思えてならないのです。
ベルンさんもその後を追うように郊外の山脈にて……やはり不自然な死に方をしているように思えてなりません。
アストリットさんの死体の破損状況は、
どう見ても……発破、ないしは爆発物によって吹き飛んだ死体のように、硝煙の匂いをさせるような焦げがあったからです。
勿論、直に見たわけではなく、興味本位でスコープを銃から外して整備中に覗いた先に遺体が合っただけなのですが
……それにワモンをはじめとするGは下半身だけ食べるというようなことはしません。
大抵は四肢ないし頭部から中央に向けて食べるほうが彼らにとって”食べやすい”から。
……ヴュスタスさんに至っては不自然の塊でそもそも……いえ、とてもいえません。
そしてもっと驚愕したのはその情報を載せた新聞の写真を見た時です……その焦げの後が消されてたのです。
素人な私にも、このことは何を示しているのか分かります。
……事実を隠蔽できるということです。
しかしこれを言ってしまっていいのだろうか躊躇します。
ダリウス大隊の皆は優しいから、私の発言で皆を窮地に追いやりそうなことはできないのです……カイル君、私はどうしたらいいのでしょうか』

『──ドロテーアが死んだ』
その日記の後は何度も消したり、液体によって染みがいくつも出来てしまって台無しになってしまった。

『先日余りにも悲しすぎる出来事がありました。
ドロテーアが死んでしまったのです。
そう……そして私は見てしまったのです。彼女の死体を、顔の表面に書かれた……呪いの言葉をです。
”従え! さもなくば消えよ!”
この言葉は決してGには出来ないことです。其の時私は恐怖しました。そして同じぐらいに困惑しました。
何故、ドロテーアは殺されなければならなかったのだろう。
思い当たることは、彼女が上官……教育担当官ではなく、別の部署の方だったと思います……に何かを訴えてたことです。
後で彼女に聞いたところ、やはりヴュスタスの死に方に対して直訴したとのことです。其の時彼女は彼から告げられたそうです。
”反抗の意志があるそうだな?”
その数日後に、彼女は惨たらしい……酷すぎる死体になっていました。
……最近、私の周囲に視線を感じることが多いです。湿っぽい殺意の篭った視線です。
おそらく、次は私の番になるのだろうと思うと、私は枕に染みを作ってしまいます。
死ぬことは別に厭わない。けれど……カイル君に、私の気持を伝えたいのです
そう、手遅れになる前に……』

そう、ヒルデガルドは硬い決心を決めた。
明日は戦場に向かう。ドロテーアのように私を殺すとしたら、そこが一番手っ取り早いだろう。
おそらく、告げることのできる最後のチャンスだと思う。
ヒルダはいつも以上に丁寧に、胸に秘めていた熱い思いを刻み込む。

──本当は、私自身の口で告げたかったのだけれどね……。

記し終えた彼女の手記はいつも通り鍵をかけて封印し……大隊の長であるダリウスのいる部屋に向かったのだ。
ヒルダの最後の言葉を、確実に残せるように。
手元に残った手記の鍵を握り締め、ヒルダは次にカイルのいる部屋にその歩みを進ませる。


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最終更新:2009年03月17日 00:42
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