GUIGNOL

(投稿者:エルス)





A.D.1944年6月16日 アルトメリア西部戦線 後方補給基地近辺 ウォッチポイント

 パーシー・ブラッドリーが結構立派な自作"たこつぼ"から何の変哲も無い(あえて何か言うなら適当に作った事が見え見えな)補給基地を監視して、今日で10日目になる。
 縦横どちらも広めに作った"たこつぼ"には必要最低限の弾薬と、タンク五個分の水と一週間分の携帯食料、隠し持ってきたポルノ雑誌などが監視の邪魔にならないような所に置かれていた。
 愛銃のM1903A4を"たこつぼ"の壁に立て掛け、パーシーは双眼鏡を覗きながら干し肉を噛んだ。
 何故彼が味方の基地を監視しているのか。
 それには理由がある。
 ここの補給基地司令ジョン・スミス大尉(最初はありきたりな名前だと笑った)が、人種差別主義者らしく今回の試作重戦車(通称E-トランクだとか)実地試験の障害になる可能性があるから・・・・・・らしい。
 実際、操縦手のアレックス一等兵は黒人で、ジェイムズ上等兵は黄色人だ。
 そこで、11日前に命令されたのが、パーシー・ブラッドリーだ。
 一日で準備と移動を済ませ、翌日から監視し続けて、昨日やっと事態が急変した所である。
 スミス大尉とその取巻きがE-トランク試験中の第一機甲師団第五旅団特別大隊F分遣隊のメンツを拘束し、スミス大尉がブルーノー少尉に発砲したのだ。
 寝る間も惜しんで監視し続けた結果、F分遣隊は使用されていない旧兵舎に監禁されており、メードは現兵舎にいるようだ。
 状況的に見て、メードの方は取巻きの性欲処理にでも使われていると言ったところか。
 と、今更になって出てきた欠伸を噛み殺しつつ、パーシーは干し肉を飲み込み、温水になった水を少し飲んだ。

「ま、それも今日の夜で終わりだろうがな」

 パーシーがボツリと呟く。
 そう、今日の夜23:00時に陸軍中将マックス・ロジャーズが勝手に(これは本当に文字通り)設立した(色々と問題になったらしいが)「対人攻撃部隊」が(これも軍部が仮で付けた名称)この基地を襲撃するのだ。
 しかも、初期メンバーの第一期生(パーシーも第一期生である)ではなく、より突破能力と制圧力に優れた第二期生が襲撃するらしいから、見物であると、パーシーは考えている。
 それまで、パーシーは物凄く暇なのだ。
 ポーカーをやる相手も無し、ポルノ雑誌を開いても既に見飽きた女の裸体が映ってるだけで、何にもやる気が出ない。
 そこで硬貨の出番だ。
 表が出れば監視続行。
 裏が出れば休息睡眠。
 ヒョイと硬貨を投げ、出た目を確認すると、パーシーは呟いた。

「畜生・・・何で普通にやっとこうなっかなぁ」

 出た目は表だった。
 が、パーシーは寝ようと思った。
 どうせ襲撃は夜らしいし、狙撃の必要性も無い。
 そしてパーシーは寝始めた。

「できれば美人とベットの上でよろしくやってる夢を見てぇなぁ・・・」

 と、戯言を呟きながら。


―――後方基地


 私、ジョン・スミスは兵舎に居た。
 目の前には、異臭を放っている液体に塗れ、裸体を晒し、痙攣しているエイミーが床に倒れている。
 自分自身、この少女を「怪物」と言ったが、今見るとただの少女にしか見えない。
 ただ、罪悪感は湧いてこなかった。
 何もかも、感情というものが全て消え去ったかのように。

「・・・・・・無様だな、戦場では人間とは思えん戦果を挙げるというのに」
「――――――」

 エイミーは何も答えない。ただ散発的に繰り返される荒い呼吸が、部屋に響いていた。
 私が傍までよっても、目は虚空を見つめたまま動かない。
 いや、動く事ができないのか、もしくは動く気が無いのか。

「・・・生きているか」
「――――――」

 動かない。
 私は腰のホルスターから、コルトンM1911A1を取り、スライドを引き、銃口をエイミーの頭にポイントした。
 何と言うことは無い。

「死にたいか?」
「―――ぁ」

 コクリ、と壊れた人形のようなエイミーが頷いた。
 いや、頷いたのかもしれない。それ位小さな変化だった。
 ここでトリガーを引いても良い。
 私はそれでも良かったが、それでは面白くない。

「殺しはしないさ、君は宛がわれた役回りを演じてくれればいい」
「ぇ」
「たったそれだけでいい、人形劇に私が出る必要は無いのだからな」
「―――」

 私は部屋から出る。看守代わりの男が鍵を掛け、欠伸をした。
 そいつの軍服をチラと見る。やはり乱れている。



 私はこいつも嫌いだ。
最終更新:2009年03月25日 00:20
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