FRONT of MAID  supplementary biography 04

(投稿者:クラリス・アクナ)

第4話 「あかん、ここでめげたら、みんなに恨まれる・・・」


ドレスさん!」

デウスはすかさずジャンプしてヴァンシから飛び降りた。
すでに地表近くまで高度を落としているドレスに追いつくため、フェルムリーフの出力を上げる。
残量はもう無かったが、手段を選べるような状況ではない。

(速度は95ノットほど、墜落まで30秒あるかないか・・・ッ)

上昇気流の影響か、自由落下の平均速度である100ノットを下回るスピードで地面へと向かっている。
本人に全く意識が無いためか姿勢が安定せずに風の影響をかなり受けて流されており、予想される落下コースとはずれていた。

(山には堕ちない・・・だけど・・・)

あたりはこの近辺では珍しい平原が広がっている。しかし、これ以上風で流されれば山岳地帯の一部に激突する。
メードとて即死する高さと速度だ。

『デウス、どこだ!? デウス!!』

無線からララスンの声が聞こえるが、無視する。
ヴァンシに帰還できる瘴気量があるかも分からない現状で、少しでも集中力を欠くとこの救出は失敗する。

「間に合・・・う!」

距離が縮まるにつれてドレスの状態が鮮明に見えてくる。
背中に背負っていた通信機が跡形も無く破壊され、唯一残っている部品からは機械油に電気がショートし、そこから発火して黒煙を噴出している。
背中も負傷しているらしいが、煙でよく見えなかった。
衣服の一部も破られたようになっており、フリルが沢山あったエプロンがどこかへいったのか失われている。
顔も見えた。目立った外傷は無かった。しかし、大きく開かれた目に生気は無い。
嫌な予感しかよぎらなかった。

「ッ・・・今、助けます!」

それでも諦めない。
せめて地面と激突することだけでも阻止しなければ、私の居場所は本当になくなる。
負傷した背中を抱えないように、後頭部と尻に腕を、顔を胸に当てて保護する。
高高度から落下していたためか、体温が感じられないほど冷たくなっていた。

(私が人の英知で生み出されたものなら)

抱きかかえたまま姿勢を直立にする。
スカートが大胆に暴れるが構わずに、すぐさま脚部のリーフを最大出力にして急制動をかけた。

「この子を救って見せなさい!」

残り一秒、高度にしてほんの数メートル。
コンデンサ残量2%の奇跡を、デウスは体現して見せた。

「飛べ」

地面に向けて瘴気の炎がぶつけられる。
直立のままスライド移動するような格好で、力任せに空へ戻っていく。

(いけた!)

コンデンサが残り1%となり、ヴァンシへ戻れるかどうか不安であった。
場合によっては、瘴炉に直接圧縮されているものも使わなければならないだろう。ただ、これはデウスが戦闘時に手足が動かせなくなったりしないために用意された、いわば緊急用コンデンサだ。
容量も必要最低限しかなく、これまで消費することは、デウスの墜落も意味する。

(13000フィートが、遠い・・・)

ヴァンシが待機しているであろう高度まで上昇していくが、リーフの吹き上がりが明らかに悪くなっている。
速度とパワーが無くなって来ていた。

(もう少しなのに・・・?)

6000フィートに達したとき、ドレスのお尻を支えていた左腕に違和感を感じた。
ヒリヒリとした痛みが広がっていき、ついには激痛に変わっていく。

「ぐぅ!? な、なに?」

それは熱湯を厚みのある紙コップに入れて直接手で持ち続けると熱が痛みになるような感じだった。
焼けるような痛みになった左腕を、ドレスの背中越しに見つめると、違和感の原因は直ぐに分かった。

「酸!?」

どろどろに熔け、一面皮膚が爛れていたドレスの背中がそこにあった。
かなり粘着質なのか、まるでシャーベットのようになっており、その爛れた液体がデウスの左腕に付着してしまっている。
しかも、普通の酸ではない。
出力が弱いとはいえ、デウスにもエターナルコアがある。このコアから発生するエネルギーには一種のバリア作用があり、メードの身体的頑強さを実現している。
これをものともせずに、痛みで痙攣している左腕を侵食しているのだ。

「うっ・・・、ララスンさん・・・どこに・・・」

皮膚を焼いている状態なため、まだ筋肉組織までは到達していない。
それよりも、未だ背中を熔かしているドレスの身である。

「ララスンさん・・・ドレスさんを助けました・・・。どこに居ますか・・・」

コンデンサ残量が0%を指した。高度も8011フィートと全く昇れていない。
せっかく激突から守ったのに、今度は自分が堕ちるのかと、思ったとき。

『こっちだデウス! こっちだ!』

耳に響く女性の声。
ひどく懐かしい感じがした、ララスンの声だ。

「ララスン・・・さん」
『ここに飛び込め! このネットだ!』

いつの間にか、目の前にヴァンシが着けられていた。
大きく開いた第2ハッチの奥には、ララスン本人と、白いネットのようなものが張られている。
失速ギリギリまで速度を落としてデウスを待っていたのだろう。高度も維持できないほどにギリギリの速度だ。
デウスのコンデンサは底をつき、瘴炉に残っている最後の力を使っていた。
迷うことは無い。

「うおぉぉぉ!!!」

残る瘴気をすべてリーフの出力にまわして、一気に加速する。
ヴァンシの後方気流をものともせずに、デウスは2番ハッチの奥に突入した。

ドスッ! 体当たりのようにネットに突っ込むとヴァンシが揺れた。

「ハッチ緊急閉鎖! 安全確保!」

受け止めたネットが反動でデウスを弾くと、そのままごろごろ床を転がり始めた。
機体が失速しまいと、機首をやや上に向けているせいで滑り落ちていく。

「落下防止ネット上げ!」

ヴァンシのデッキクルーの一人が床から積載物落下を防ぐネットを引き上げ、寸でのところでデウスとドレスを受け止めた。
やや遅れてハッチが完全に閉じる。

「デウス! ドレス!・・・!?」

床でぐったりとする二人の下へ駆け寄るララスンは、この時初めて事態を整理できた。

「中和剤だ、中和剤をありったけ持って来い。あと、基地のミテアに医療援護申請だ。はやくしろ・・・」
「了解!」

すぐさま中和剤を持ってきたクルーの手から受け取りつつ、ドレスとデウスを診る。
寝転がったまま動かない二人だが、デウスは息が荒いものの意識はしっかりしていた。
ドレスはデウスの腕の中でピクリとも動かない。

「デウス、何があった。どうしてこうなったか分かるか?」
「・・・原因不明」
「待ってろ、今中和してやる。・・・ッ、肉が落ちてる・・・」

泥状に熔けた肉が床にボトボト落ちていく。
デウスは爛れているだけだったが、ドレスの背中はもはや見るに耐えなかった。
酸の強烈な化学反応と、焼けた臭いが混ざった、異臭がデッキを満たしていく。

「申し訳ありません。私が居ながら、気づいたときには・・・」
「もう良い、しゃべるな。瘴気の量も少ないのだろ? 今はそのままドレスを支えていてくれ」
「やはり、分かりましたか・・・」
「下手な芝居をするより、君は正直な人だということだ」
「どういうことですか・・・?」
「信頼に足りるということだよ。・・・よし、かけるぞ。痛むだろうが耐えるんだ」
「・・・・・」

中和剤をドレスの背中とデウスの左腕にかけていく。
しかし

「なんだこの酸は・・・。中和剤がまるで効いてない?」
「かなりの濃度です。コアエネルギーの障壁が役に立たない・・・」
「何・・・?」

酸は本来、アルカリ性の物質と混ぜ合わせると中和の速度や化学反応が違うだけで、基本的に人間でも中和作業は可能である。
濃度にもよるが、Gが放出する酸はどれも一応の中和は可能なため、戦場では良く見かける医療品の一つだ。
だが、中和剤が悪いのか、酸の濃度が高すぎるのか一向に薄くなる気配が無い。しかも、障壁すら意味を成さないほど濃い。ララスンが触ると一瞬で指が消えるだろう。
中和が進まない中、デウスの腕とドレスの背中を焼いていく。

「クソッ、これではドレスの脊髄まで行ってしまう・・・。早く止まれ、止まるんだ!」
「ララスンさん、私の腕は構いません。ドレスさんに分けてください」
「自己犠牲のつもりか? 私はそんな愚かな事はルフトバッフェでやらせたことは無い。最大限の効果と力を持ち、すべてを守り通して生きて帰る。設立以来、皆で守ってきた意志だ。君の腕も中和する」
「ララスンさん・・・」
「う、もう無いのか!? ミテアはまだ来ないのか!」

空になった中和剤を投げ捨てて新しいものを2つ同時に開ける。
両手に持ちながら、いささか乱暴にかけて行く。

「やはりだめか。中和速度が遅すぎる・・・。ミテアはいつだ!」
「ただいま連絡が来ました。あと1時間で合流です!」
「40分で来いと言え! あと、こちらのエンジンも全開で回せ! 多少焼けても良い!」
「りょ、了解!」

(起き上がれるのかしら・・・)

瘴気の残量が完全になくなり、瘴炉が停止したデウスは体の自由が利かなくなっていた。
しかし、不思議とドレスを支えている腕にはまだ力が残っている。
体勢を崩さぬよう、残った力で必死に支えた。




死ぬな。生きて帰れ。以上。

「・・・・・」

太陽が赤みを帯びてきたこの時間。
紫色になりつつある空に一つ、光が煌いていた。
大きな翼を持つ鳥のようだったが、黄色い光を放って大きく羽ばたくソレは鳥と違った。
普段の力より限界近い速度で目的の場所へ飛翔する女性。ミテアだ。

<死ぬな。生きて帰れ。以上>

「・・・・・」

空気の壁が顔を叩くのも構わず、頭の中で繰り返しカラヤの言葉が再生されている。
特に意味はないはずなのだが、繰り返し、また繰り返し響いてくる。

(ドレス、一体何があったんや・・・。後ろから撃たれるなんて、らしくあらへんよ)

同僚の撃墜。
しかも、まだ入隊してまもない小さい少女の、無言の帰還。
ミテアにとっては、ナーベルに次ぐ二人目の報告。

「待っとき、絶対助けたる。絶対や」

息切れする寸前までいっている翼の疲労が悔しく思えた。
チューリップシーア達のように、速く移動するための翼を彼女は持っていなかった。
どちらかといえば、重量のあるものを安定して運ぶような、いわばトルクの強いものだ。
スピードを得るには放出力が足りないのである。

「40分で行くって・・・ゆうたけたど・・・、やっぱきついわ・・・」

追い風を利用して速度を稼いだが、やはり40分の壁は辛かった。
すでに5分オーバーである。

「あかん、ここでめげたら、みんなに恨まれる・・・」

<死ぬな。生きて帰れ。以上>

この言葉が重く圧し掛かっている気がした。
ルフトバッフェが独立軍として機能して以来、一人の脱落者を出していないこの強さが、自分の到着が遅れることで失われるのだけは避けなければならない。
なによりも、そうならないためのミテアという存在なのだ。

「もっと・・・速く・・・? 見えた!」

キラキラと太陽の反射を受けて光る飛行物体がミテアの瞳に映る。
ヴァンシだ。

「こちら青の部隊のミテア。ヴァンシ、聞こえるか! ウチやで!」

まだ希望はあるはずだ。
同乗しているララスンが適切な処置を施していれば、後は間に合わせられると。

『来てくれました、ミテアさんです! ・・・1番デッキを開放します。そこから入ってください、かなり危険な状態です』
「了解や! で、様態はどうなん?」
『出力停止状態、まだ心肺は機能していますが、非常に弱く、ショック状態のため依然意識なし』
「出力停止!? 酸による背中の化学熱傷でそれはまずいな・・・。中和はどや?」
『・・・効果なしです』
「なんやて!? なんでや、濃すぎるんか!?」
『デウス様の報告では、コアエネルギーの障壁すら役に立たないと・・・』
「やばいな、ほんまに・・・」

デウスという名前に聞き覚えがなかったが、そこに突っ込む暇は無い。
突っ込む場所は1番デッキだ。

「今から入場する。ハンドルはいらんからドアあけて待っとき!」

すでに目と鼻の先にまで迫ったヴァンシと相対速度を合わせるべく、減速姿勢に入った。





今回のすぺしゃるさんくす



話の折り合い的に今回は短め。決して更新日内に済ませるために短くしたわけじゃないんだからね!(しね

さてさて、今回初登場となるミテアさん。
個人的には酒が飲めるようになったはやてちゃんのようなイメージを持ってるので、もうなんかエセ関西弁っぽい口調になってます。
この小説構想時はミテアさんの能力に補正が入ってなかったので、ナイチンゲールの一人を空輸する内容でした。
ちなみに、クラリス版では空輸もこなせるスーパーレディです。
ガーター良いね。うん。










最終更新:2009年04月12日 23:42
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