"選抜射手"と呼ばれた男の日常

6:00。
それは訓練開始の時刻。
生き残る教訓を練る、そのような時間であると誰かに聞いた。
人間兵器と言われているらしいメールは精神を鋼鉄にする必要がある。
恐怖など感じていたら使い物にはならない。
もしそのような存在であるならばそもそも必要はない。
少なくとも兵士達からすればメールとは模範になるべき存在らしい。

「今のスコアは98.6。立射にしては良いスコアとは言えないな。」

野外射撃場のライフルレンジで俺、マークスマンは訓練を行っていた。
さっきのような余計な事を考えながら射撃しているのか、聊か外してしまったようだ。
無論、百点満点であるから射撃をする人間としては…と言うことではあるが。
スコープの無い銃とは言え百発百中である必要は有った。
人体を一撃で破壊する術を得る為でもあるし、いかに対Gバトルライフルといえども精密射撃は必要すぎるぐらいだったからだ。
コアアシストによる”反則”もあるのだから、ただのライフルを使用している時ぐらいは世界記録を狙えるぐらいのスコアでなければならない。
例えそれが射撃服と呼ばれる麻製の服なしでもだ。
そう考え込んでいる間に既に時刻は10:00を回っていた。
風向きを確認しつつ円形の的を的確に狙う。
次のスコア集計まで一発。距離は50m、風向きは2m。
呼吸を鎮め、的を淡々と狙う。

機関部から小さな爆発音が響き、22口径ライフル弾は一直線に目標へと向かった。
こちらの目から見れば中心に命中。
ちょうど10点エリアな事を考えれば、例えて数百メートル先の敵兵の頭を刈り取った、そのようなものだろう。
と、撃ち終えた後、親しみのある顔と足音を感じた。
おそらくウィラード大尉だろう。

「さて、精が出るな。マーク。」
「お早うございます大尉。本日は休暇ではなかったのでしょうか。」

そう、記憶が正しければ大尉は休暇で訓練場には来ないはずだったのだが………。
それを察したのは大尉は一枚の書類を取り出した。

「いつもの仕事だ、貧乏くじだが大佐に呼ばれてるんだしな、行くぞ。」

軽く敬礼を以って返事とし、俺は大佐の執務室へ向かった。


23:08。
昼間呼び出されたように、俺は仕事を始めていた。
Gとの戦闘で朽ち果てた古の城砦の近くの林に俺を含む歩兵3分隊とエンジンを切った軽砲甲冑1個小隊が身を隠していた。
軍諜報部の話によると、最近この要塞を不法占領した武装組織が居るらしい。いや、見る限り存在する。
その存在が公に出る前に尖兵として名高いマグナス大佐の部隊、つまりは俺が存在する部隊が仕留めるように選ばれたようだ。

双眼鏡を見る限り、サーチライトを灯し、最新鋭のM3半自動小銃を装備している所を見ると相手はよい装備に恵まれているらしい。
これはきな臭い事になってきたと言う事だな。
作戦会議ではクターを召集するかどうか協議されたそうだが、しない方で良かったようだ。
とひとしきり敵状を察した所でサージ軍曹にクロスボウを渡された。
今回の任務はひとまず隠密行動が必要だからだ。

「距離50。マークスマン、やれるか?」
「了解した。」

先ずは城壁で巡回している兵を始末する事にしたようだ。
クロスボウを構え、獲物が立ち止まるのを待つ。
静寂の中で鼓動する心臓、されどその手はまったくのブレを許さない。

「永遠を生きろ。」

引き金は引かれた。
距離50、風向き5mを難なくクロスボウで射抜く。
それは朝の射撃訓練と同じ要領で的確に行われる。
いつもの仕事の開幕にはふさわしく、見張りの頭にボルトを突き立てた。
崩れ落ちる体、されどまだ"誰にも"気づかれてはいない。

「城壁に取り付け!」

クロスボウを返し、鉄板で出来た盾と軽機関銃を持って移動を始める。
見取り図によれば城壁のある地点を破壊すれば容易に侵攻できるらしい。
エンジンが起動した砲甲冑部隊が後に続く。
たった歩兵も3分隊とは言え精鋭達である。
廃墟に近い城壁を制圧するのには十分すぎる戦力だった。

もう、この内部の武装組織の命運はもう既に決定した。
一人を残さず、明日の夜明けにはもう屍を晒していることだろう。


06:00。
それは訓練開始の時刻。
生き残る教訓を練る、そのような時間であると誰かに聞いた。

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最終更新:2009年12月31日 01:03
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