一人で人は吹き飛ばない

(投稿者:エルス)





――――世界は回って二日後―――――

まだまだ長い入院生活で暇を思いっきり満喫しているジャックは物凄く不満だった。
まぁ元々勤務態度が悪いこいつが不満言うんだから航空機用爆弾で吹き飛ばしても良いのだが、生憎ここにはそこまでやってくれる善良な人はいないようだ。
言うなれば外科医さん。こいつの股に生えてる(省略されました)を良く切れるノコギリでぶった切ってついでに今までジャックに口説かれちゃった女性を
全員集めて包丁でザックザックやって貰えたら前線で戦ってる兵士達に申し訳が立つと思うんだよ。それと全国の一般人の方々に。
だってこのバカ。今、なんでこんなとこでジッとしてなきゃならないんだ、とか考えて欲求不満なのだ。ああ、ここMkⅡ手榴弾投げるとこね。投げて良いよ。むしろ是非。
そしてギリ、とジャックが歯を食い縛るとまたノックも無しにドアが開いた。

「いやっほ~~ジャック♪生きてる~?」

両手を振って五月蝿く登場したのがクラウ・マッキンリーで、その隣でフルボディアーマーを着たジョン・マクラウドが突っ立っていた。
出来れば完全武装してサブマシンガンのフルオート射撃の後バズーカで跡形も無くこの変態を吹き飛ばしてくれたら良かったのに、
この二人はいたって常識的で平和的で特殊部隊的なので、そんな目立って野蛮な事はしないのだ。
そういう訳で秘密裏にこのバカを抹殺してくれることを皆で期待しよう。

「生きてるよ……んで、何か用か?」
「いやあー欲求不満になってるであろうジャックとニャンニャンしようかと思ってー」
「おお、そいつはありがたい!……とか言うと思ったか、また枯れるまで搾り取られるのがオチだ」
「あ、バレたか。ニハハハハ」
「んで、本当の用は?」
「昨日、我々アルファフォースの駐屯地が襲撃を受けた」

ジョンが抑揚の無い、くぐもった声を出す。堅物を絵に描いたようなその声はこの場で唯一まともな存在であり、まさに砂漠のオアシスのような存在。
場の空気をまともに戻してくれる、唯一の存在なのだ。といっても、比率は二対一なので常時まともになる訳でもない。

「襲撃犯はV4師団。相当錬度の高い部隊らしく、作戦も抜かりないものだった」
「つまりは私達が襲われちゃったから、アンタラも気をつけてねって事。あ、損害は大した事無いから。パーシーのポルノ雑誌半分が消滅したこと以外ね」

へぇ、と心中パーシーにご愁傷様ですと言いつつ、ジャックは言う。

「ああ、何だ、パーシーのポルノ物が消失したってことは、俺の預けてた『驚愕!(大幅に省略されました)』も無くなっちまったのか?」
「あ、それは腹に巻きつけてた中にあったから無事だって」
「腹にエロ本巻きつけて刺されても痛くありませんってか!?……まぁ、良いや。無事ならあのどでかいパイオツも何度も見れるしな」
「それは私に対する挑発?それとも自殺願望をやっと持ってくれたのかな?ねぇ、ジャック?」

ギロリ、と二日前に経験した死線がジャックを再び睨む。
胸が無いクラウを目の前にして、さっきの言葉はNGだ。
断崖絶壁、平原などなど、他にもNGな言葉は色々あるが。

「い、いやぁ……んな訳ないだろが。誰がお前に挑発なんかするかよ。HAHAHA……」
「そう?ならいいんだけどさあ」

はぁ、と胸を撫で下ろすジャック。いい加減口の利き方というものを学ばないと何時か死ぬなこいつは。
そして、面倒臭そうに、しかも無礼にこう言った。

「んで、用はそんなんだけか?」
「そらきた、いきなり口が悪くなる戦法」
「戦法でもなんでもねぇよ、無いならさっさと帰れ。俺は寝る」
「あっ、そう。そんじゃ帰る。だからお前は糞たれて死ね!もしくは腹上死!」
「あーあーきこえなーいーなー」

無言で去るジョンは良かったが、クラウはジャックにあかんべぇしてドアを思い切り閉めた。
バキリと変な音がしたかと思い、ドアに目をやればそこにドアは無くなっていて、代わりにドアと同じような色合いの木屑が山になっていた。
相変わらずクラウ・マッキンリーと言う人間は人間であるのに人間離れした怪力を持ってるらしい。
溜息しか出ないと、ジャックは思った。
だが、取り合えずやる事があった。

「お~い、看護婦。ゴリラ並みの怪力女がドアぶっ壊して逃げやがったぞ」
「はいは~い」

これでまた暇な入院生活に戻れると考えたジャックが、次に見たものは何か。
まぁ、妙にデカイ揺れとともにやって来た看護婦なんだ。
その看護婦が問題だった。問題有りすぎて、問題しかなかった。
どのくらいの問題が有りすぎたのかというと、パンジャドラムを実戦で使おうとするくらいの問題だ。
知ってる人なら理解できると天の人は期待している。

「あぁ、こりゃドアが壊れたじゃなくて、粉砕してるねぇ」

そう言語を発したのは、看護婦……なのかもしれないマウンテンゴリラだった。
マウンテンゴリラだ。ゴリラ。ウホウホ言って胸をドカドカ叩いてる、ドラミングをする大型の猿。殴られると痛いじゃすまないなぁって見ただけで分かるアレ。
それが地面に手を付けて歩くナックルウォーキングではなく、人間のような普通の歩き方をして、人間のような普通の言葉を発していた。
軽く二メートルは超えてるでかいマウンテンゴリラは、床に散らばる元ドアの欠片をそのでかい手で回収する。
よくそんな器用な真似がゴリラに出来たのかと、ジャックは一瞬そう考えたが、直ぐに目を見開き、声を大にして言った。
正確に言うと『言ってしまった』のだが。

「臭そうなゴリラが何で――――ごふつぅ!?」

その瞬間、ジャックはそのマウンテンゴリラそのものの看護婦の右ストレートを喰らい、窓を突き破って二十メートル程飛んだ。
ダメージは深刻だったが、朦朧とする意識の中で脱走するには良い時期だなと考えたジャックは少し歩いて倒れた。
どうやら入院期間がまた延びそうな予感がしたが、奇跡的に二十メートル飛んでもどこの骨も折れてなかったらしい。
もっとも、マウンテンゴリラが看護婦してるほうが奇跡的だと思うんだ。世間一般的に。



それと気分的に。
最終更新:2010年05月23日 01:24
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