(投稿者:レナス)
遥か眼下に広がる圧倒的な光景。大地に蔓延るありとあらゆる「G」の軍勢が視界一杯に広がっている。
それらに着弾し、破砕する「G」の群れ。散逸的ではあるがこの様子ならば何処に着弾し様が食い放題だ。
それでも決して食い来る事が叶わぬ程に膨大な数の「G」が、中空に待機する彼女の下を通り過ぎて行く。
『こちらクリープ。何かしらの変化があったのか?』
手に持つ小さな人形より聞こえる声。
パトリシアの様に一方的な通信ではなく、相互が密に連絡を取り合う者に配布された者である。
エターナルコアのエネルギーを少しこの人形に注げばクリープ本人繋がる仕組みとなり、逆もまた人形を通して語る事で力の消耗を限りなく少なくしたのだ。
「
センチピードが現れました。それもほぼ同時刻に三体。私が受け持つ戦域に一体、此処より南西の戦域に集中して二体です」
自身が掘り進めた穴より出ようと、仲間であるはずの「G」達を薙ぎ払う動きでもがいているセンチピードを眼下に見据えて冷静に報告する。
地上では三体も同時に地下を強引に掘り進めた影響で大規模な地震が発生したが、空に待機していたセレナは影響を受けずに混乱をせずに済んだ。
『・・・・規模はどれ程だ』
「此方のセンチピードは30m程顔を出して尚も出現中。向こうの戦域のセンチピードは双方共におよそ40m強、既に侵攻を開始しております」
現在確認されている「G」の中でも最大の敵の出現。それも複数体ともなればメードであろうとも苦戦は必至だ。
『―――――そちらにはメード部隊で対応させる』
しばしの沈黙の末に紡がれた言葉。流石のクリープも奴を野放しには出来ないと判断を下す。
「宜しいのですか? それでは維持していた戦線を下げる結果となりますが・・・」
『問題無い。支援砲撃を絶え間なく行っていた車両の砲身がそろそろ限界間近だったからな、丁度良い頃合いだ。
セレナ、君の所にもメードを数人送る。君はセンチピードを押さえてくれ』
「私の力では足止めが精一杯です。それでも構いませんか?」
『ああ、それで良い。尤も、奴を足止めするだけでもメードの中でそうそう出来るものではないがな』
人形越しの、呆れ混じりの声にセレネはくすりと笑う。
手に携えている対戦車ライフルの改良型のコックを引き、弾丸を装填。
「お誉めに与り光栄ですわ。それではこれよりセンチピードの対応に向かいます」
『少なからず航空支援をそちらに向かわせた。付け焼刃だろうが、メードが到着するまで他の「G」の相手をさせる』
轟音を奏でてセレネの横を通過する戦闘機の部隊。
次々と横切って行き、一瞬の交差の際に見えた敬礼をするパイロット達に向けて微笑んで手を振った。
ちなみにこの時、パイロット達の間でセレネが誰に微笑んで手を振ったかの激論が繰り広げられているのは全くの余談である。
『下げた戦線を再構築し次第、直ぐに増援を向かわせる。それまでの間だけ宜しく頼む』
「私は接近戦が専門なのですが、この場合は致し方ありませんわね」
『済まない。君以外に奴の接待を任せられるメードは限られているのでな』
「そう仰らないで下さい。私もお役に立てるのですから嬉しい限りですよ?」
『ふっ。そう言って貰えると助かる。では、な』
「はい、吉報をお待ちしております」
途切れる会話。そして見据える先に漸く全長を露にするセンチピードの姿が。
およそ80mに及ぶ過去に確認された中でも大型のセンチピードであった。
「これは少々、骨が折れますね・・・」
それだけを愚痴り、蒼い髪をなびかせてセンチピードへと迫った。
セレナの背中に生じている翼は儚く、退化した鳥の羽根の如く小さなものであった。
基より彼女の能力を応用して飛んでいるので、飛べるだけでも御の字だ。
戦闘機よりも遅くとも、地上を走行するあらゆる車より速く移動出来るのだからそれで十分なのである。
地上を這うセンチピードは百足そのもの。その余りにも巨大で、長い身体を支える無数の足が規則的に動いて移動していた。
他の「G」をその足で潰すのもの気にせず、ただただ人類を食らい尽くそうと前に進み続けている。
「・・・この距離だと私の腕では無理ですね」
900m程離れた上空より銃を構えて狙うが、狙撃は専門ではないので無駄弾となってしまう可能性の方が高い。
時折ウォーリアや
マンティスが跳んでセレナに迫るが、それらの相手をする事なく躱して行く。
「無駄弾は極力避けないといけませんし――」
センチピードは
ワモンの出来損ないの集合体とされている。つまりアレは単一の存在ではなく、複合生命体。
頭とされる先端や胴体を分断しても死ぬ事は無い。残された部分が再生したり、二分された部分の各々が更なる個体として動き出す。
再生不能になるまで破壊するか、焼き殺す事でしかセンチピードは滅する事は出来ない。インファイターであるセレナにはその類の力は無いのだ。
「この距離でしたら――!」
一気に速度を落として対空、そして翼の力を狙撃の為に空間に自身を縫い付ける。
相対距離200m。例え狙撃を苦手とする者でもこの距離であれば既に単なる射撃でしかない。
であれば決して外す事は無く、センチピードの頭を十二分に狙える。
弾丸の発射と共にライフルが跳ね上がる。メードの付加能力で強化された弾速に流石のセレナも息を詰まらせた。
即座にボルトアクション式である銃のコックを引いて再装填。着弾を見ずとも次弾の装填を忘れてはいけない。
ライフルが跳ね上がった影響か、ど真ん中を狙ったセンチピードの頭は右半分が抉れただけであった。
それでも足を止めるには充分の効果が得られ、悲鳴を上げて悶え苦しんでいる。
滞空しているセレネをここぞとばかりに狙って跳ぶ「G」が複数体。
彼女の居る80m程の空を狙ったそれらをセレナは静かに見据え、眼前に迫ったそれらを――、
「――お休みなさい」
一刀の元に斬り捨てた。くるりと舞うかの如く踊り回って加えた手刀、その手の先より生じた光の刃がウォーリアの身体を断ち切った。
空での舞により全ての「G」を墜としたセレナは再び視線を目標に向ける。
センチピードの頭の形は既に修復されており、激痛を与えた存在を認知して何一つ躊躇する様子を見せずに襲って来た。
再度発砲。今度は顔を抉れてもそのまま空に留まっているセレネを肉薄する。
数回の射撃を終えて全弾を受け止めて尚も迫り、顎を開いて喰らいに掛かるセンチピード。
「――ハッ!」
だが易々と食われるでもなく、顎に手を添えて流れに逆らわずして懐に潜り込んで回避。
次いでとばかりにセレネが居た空間を通過するセンチピードの最も柔らかい箇所である曝されている腹部に連続で弾丸を叩き込む。
一点掃射ではなく、体の全体を万遍無く傷を付ける形で間隔を空けて撃ち込んだ。
再び悲鳴を上げるセンチピード。一点掃射で分断してもセンチピードが二体になるだけで死にはしない。
他の「G」の様に頭を粉砕すれば終わるタイプではあれば図体のデカイ「G」なのだが、そうではないのが卑しい所である。
巨大な体がうねり、巨体の割には素早い旋回でセレネを完全に敵と見做してか完全にその足を止めた。
「本日のお相手を仕りますメードのセレネで御座います。一身上の都合により、少々お時間を取らせて頂きます」
センチピードの背に乗り、恭しく「G」に向けて頭を下げる。
だがそれは、動かない生き物は「G」にとって格好の獲物以外にはあり得ない。
センチピードは元より周囲に群がる「G」もセレネを食すべく飛び掛かる。
絶対的に回避不能な数の群れが一斉に、セレネへと殺到した。
互いに互いを押し潰しながらも、セレネに食らい付いた「G」達。
だがその顎らが何一つ細胞を食らう事はなく、虚空に生じている卵子の膜に群がる精子の如く無様な姿を晒していた。
圧倒的な巨体を誇るセンチピードすらも、その膜を破れずに、口をもごもごさせるに留まった。
「――私は逃げも隠れも致しません。そう焦らずとも、微力ながら皆様のお相手をさせて頂きます」
膜に包まれたまま、セレナは自身へと向けられた無数の顎に向かって再び頭を垂れるのであった。
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最終更新:2008年09月26日 10:22