西部戦線異状無し。 第四幕

(投稿者:レナス)


「――覇っ!」

「イッチョ上ガリッ!」

お互いの掛け声と共にセレナパトリシアは「G」を仕留める。
一方は盛大に吹き飛び、一方は斬り伏された。どの様な末路にしろ、彼女達の周囲には最早敵対する存在は皆無となった。
散逸して転がる「G」の死骸の群れ。人類が大地を取り戻す際にはこれらの処分に骨を折るのは言うまでもない。

『――ご苦労だった、我々の出番はこれで終了とする。残党の処理は他に任せて帰還してくれ』

「エー? ミーはマダマダ元気ナノデスヨー」

パトリシアの抗議の声に、帰還を促した当人であるクリープの人形は溜め息を吐く。

『君は自分でも分かっているだろう? 幾らメードの身体とは言え、それ以上の酷使は今後の戦いに差し障りかねん。
既に敵の戦力は彼らだけで十分対抗出来る程に縮小している。我々の役目は当に達成しているのだ』

「ウー・・・」

『・・・やれやれ。これは命令だ。さっさと戻って来い、元気娘』

「――ハーイ、了解ネー」

唸るパトリシアを上官命令で納得させ、傍らで成長していたセレナは小さく苦笑。
その様子に目敏く気が付いたパトリシアは彼女に矛先を向ける。

「セレナ、酷イネ。ミーより上手に戦エル癖に態ト負ケタヨ!」

「その様な事はありませんよ。私はあれで精一杯でした」

「ソンナ事は無イネ! セレネが本気を出セバ、ミーよりモ凄いチカラ出セルネ」

セレナはパトリシアの傍らで戦うに当たり、主に迎撃にのみ徹していた。
況してやコア・エネルギーの使用を最小限にし、肉弾戦でのみ「G」を相手にしていたのだ。
接近戦を主とするパトリシアがその様を見て気が付かない筈もなく、力の消耗を極限にまで抑えた戦い方に不満を抱く。

彼女にとってセレナはジークフリートの様に名声におけるライバルではなく、戦友としてのライバルとして認識している。
同じ戦場を共にし、時には今回の如く肩を同じくして並べて共闘する事も少なくは無かった。
そんな彼女が戦場において常に手加減をしているともなれば、愚痴の一つは言いたくもなる。

「セレナはドーシテイツモ、力を小出シにシテイルノデスカー?」

彼女は空戦メードほどではないにしろ空を飛べ、そして障壁やパトリシアの様にエナジーソードすら展開出来る。
単なる能力特化のメードにしては万能であり、そして身体能力も高いという全体的に高いポテンシャルを有していた。
頭の回転も良く、力を抑えた状態でも単独で戦線を維持できる戦略を生み出しているともなれば気にならない訳がない。

「・・・そうですね。確かに私の力を他の方々と比較するのであれば特殊に部類される事でしょう。
ですがその代償は高く付きますので、上手く使い分けるのがコツと言えますね」

少々思案の後にセレナを紡ぐ。パトリシアとしては少し誤魔化された感が否めない為に少し渋い顔。

「パトリシアさんはいつも全力で上手に戦っていますから、私はそのフォローで十二分に事が済みます。
それに自由に扱えるエネルギーはその反面、過度な消耗を引き起こしますので使用の際には配分が大切ですよ?」

「ミーはコノ剣でオーケーネ!」

「はい。パトリシアさんの場合は安定したエネルギー配分と経験から上手に運用していますので然して問題はありません。
今回の戦いでも、一時間以上も戦闘を継続していたにも関わらずにパトリシアさんにはまだ戦う余力が残っておりますのもその証明です。

流石はエース、という事です」

「イヤー、エースとシテ当然デース!」

セレナに褒められ、その上『エース』と言われれば喜ばないパトリシアではない。
その二人の様子を人形越しに眺めていたクリープはやれやれと溜め息。
溜め息を吐く毎に老けこんでいく錯覚に陥るそれ自体も錯覚だと言い聞かせる。

『――そろそろ帰還してくれないか? 私は直ぐに残存戦力の掃討作戦に参加するのでこの通信もそう長くはしていられない』

司令部の戦場は直接戦う事がない分、前線で戦う者達の命運を別つ指示を出す責任を負っている。
例え掃討が可能な敵戦力であれ、死者を極限にまで減らすか否かの頭の巡りが重要である。

「了解です。セレナ及びパトリシアの両名はこれより帰還致します」

「シマスノデース!」

クリープのそうした思いを秘めた言葉に、二人は素直に答えた。

『良し。ではこれにて通信を終わる。ご苦労だった』

「クリープさんも余り無茶を為さらないで下さいね。
余りにも今回の作戦に力を入れ過ぎて自前の服の洗濯を怠っていたんですから」

今回の大規模な反攻作戦が決定してからクリープは一度も洗濯をしていなかった。
寝る。食う以外の時間の全ての時間を作戦を練るのに費やした結果、作戦開始の前日に全ての服を洗濯に出す羽目となった。
お陰で現在のクリープの服は全て借り物。小柄な少女の体系ではやはり大きさに無理があり、その違和感に苛まれているのは秘密である。

『ふっ、肝に免じておく。それでは通信を終了する』

セレナの肩よりずり落ちる人形。それを落ちない様に手に取って支える。
完全にクリープの制御下から離れ、徒の人形と化したそれを抱いてパトリシアと共に帰途に着く。

「今回もタイヘン疲レマシター。早ク帰ッてオ風呂に入リタイデース」

「そうですね。私も服を早く洗わなくては駄目にしてしまいます」

「G」との戦闘の後は大抵服が破れるか汚れている。
二人には目立った外傷はないものの、飛び散る体液でべとべとに汚れていた。

「セレナは帰ッタラ、アネモネとオ風呂デスカ?」

「いえ。今回の作戦で怪我をした方々も多い様ですし、しばらく残って治療のお手伝いを致します。
場合によっては今日中には帰れないかもしれませんので、アネモネの世話をお願いできますか?」

「オッケーネ! 久シブリにアノ子と二人でオ風呂に入ルノヨ」

「余り無茶をしないで下さいね。あの子はまだ幼いのですから」

苦笑。過去の出来事を思い返してパトリシアの有り余る行動力にあの子もタジタジなのである。
決して嫌っている訳ではないが、やはり少し戸惑って慣れていないだけなのだ。

「モーマンタイネ。今夜が楽シミにナッテキタネー!」

その今にも突撃しそうな彼女の様子からして注意が無意味である事は明白。
今夜の出来事が目に浮かぶので、セレナは苦笑いをするしかなかった。




今回の作戦により、アルトメリア領西部戦線は大幅にその戦線を上げる事となった。
しかし「G」に占領された大地は広大であり、そのほんの一部にしか過ぎない領土でさえ何時また奪われてしまう危険性が高い。

人類の優勢とされている昨今であれ、「G」の脅威は未だ強大なのである。




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最終更新:2008年09月30日 11:25
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