(投稿者:フェイ)
BGM:EXERCIZE(機動戦士ガンダムOO O.S.T1より)
――華人開発計画記録 11/13 第一世代型機動実験 記入者:
倉羽桐姫
タイプライターを叩く手を止め立ち上がると、桐姫はガラス越しに真下の開発室で眠る二つの影を見つめる。
ベッドの上に横たわるのは14,5歳と思われる二人の少女。
その身体には計測用ケーブルがまかれ、その繋がる計器には、正式起動前ゆえの安定した線が表示されている。
「楼蘭開発型華人、飛酉……」
一人は、自らも開発に携わった
楼蘭皇国の技術を組み込まれたメード、飛酉。
先に完成されていながらも、もう一人の目覚めに合わせて今日まで起動を延ばされてきた娘だ。
そして、そのもう一人。
「第一世代型華人、小燕。
大華京国初の自国開発完成型メード、か…」
隣の飛酉よりも僅かに小さい体躯。
その身体には飛酉に比べて大量のケーブルが繋がれ、安全を確保するためか手や足はベッドへと拘束されている。
「ふ……まるで、茨に囲まれる眠り姫だな」
「永花…」
振り向いた先にたたずむのは、桐姫と共に華国にわたったメード―――倉羽 永花。
顔立ちは眼から頬にかけて流れる傷はともかくとしても整っているが、服装は華国メード指定のチャイナ服に、下は楼蘭皇国軍服のズボン、そして何故か陣羽織。
奇妙な格好のまま近づいてくる永花に、桐姫は慣れた様子で開発室の見える位置を譲る。
「万全を期すか…華国はメード開発に遅れをとっている。今回ばかりはというのもわかるが…どうみる、あの娘は?」
「どうもこうも…飛酉の予想戦闘力を大幅に下回るわ。かろうじて、人間のエリートよりは強い、といったところがせいぜいよ」
机の上にある資料の紙束を手に取り永花に差し出す。
『小燕/飛酉 第一世代型華人予想戦力比較書類総括』と書かれた表紙を捲り、そこに書かれた数値に眼を通していく。
「青高湖近辺遺跡より発掘された永核を使用…暴走を抑えるが故、永核制御に抑制装置を設定。以後出力を五割二分三厘へ抑えることとする…ははは、酷いものだ。何の為のメードか!」
「仕方のない事よ。――性能戦力云々以前に、まず自国でメードを開発した、という事実が欲しいの」
「理解はする。だが、彼女達の教育担当は私だ」
「…と、いうと?」
「彼らの期待を裏切るようで悪いが……例えどのような性能であろうとも、確実な戦力として鍛え上げさせてもらうとしよう」
「……天邪鬼ね。楼蘭の旗兵隊にいた頃みたいにはいかないわ。大変よ?」
「言われずとも」
髪束を元の机に戻すと、改めて下で眠る飛酉と小燕を眺める。
その眼に宿るのは、教官としての厳しい瞳と共に、二人を見守る優しい瞳。
二つの感情が入り混じりながらも、熱く二人を見つめる永花に、桐姫はため息を一つ。
「既に第二世代型華人の予定も組まれてるわ。あまり、この娘達だけに構う時間はない事を忘れないで」
「…わかっているさ。その娘も、合わせて面倒を見れば良い…やってみせるさ」
「それは無茶よ…全く」
呆れたように呟くと、自分の髪の毛をくるくると指で回す桐姫。
途端、ぴくりと動きをとめたかと思うと、一本の髪を目の前にもって行き――再びため息。
<第一世代型華人、小燕、飛酉の正式起動を行います。特別主任倉羽桐姫様、及び教育担当官永花は第一開発室までお越しください、繰り返します―――>
「いよいよか…! 胸が躍る」
「そうね、いきましょう」
開発室へ向かうため、二人は部屋を出る。
「ところで永花」
「なんだ桐姫」
「小燕と飛酉の肢体をじっと見つめるのやめてくれない……怖いから。本当に」
「永核起動確認! 永核出力伝達を確認、異常ありません。繰り返します、起動確認!」
「第一世代型華人、飛酉。意識覚醒させます!」
「続いて小燕、起動確認。出力伝達と同時に抑制装置稼動! 出力…八割四分……七割七分……五割四分……五割三分、安定しました!」
「第一世代型華人、小燕、起動確認、意識覚醒します!!」
歓声が響く中、小燕はケーブルと拘束が外れたことでようやく自由になった身を起こす。
何を騒いでるのかワカラナイが、周囲の大人たちが喜んでるような雰囲気は伝わってきた。
とりあえず状況を確認しないことにはどうにもならないと思い、ゆっくりと眼を開く。
「目覚めたか。第一世代型華人!」
突如目の前からかけられた声に、慌てて意識が現実に叩き込まれた。
慌てて眼を開くと、目の前に立つのは一人の女性。
自信と誇りを感じさせるような笑みを浮かべ、左眼から頬にかけて一文字の傷がはいって…いるのは、まぁ良いとして。
―――チャイナ服に楼蘭皇国軍服のズボンに陣羽織?
「え、あ、あの……」
「君が小燕。第一世代型華人、初の大華京国製メードだ」
「は、はぁ………」
第一印象としては、なんなんだろうこの人、といったところであろうその呆けた顔を見て、女性は一つ頷く。
そういえばと思い出し、隣で寝ていたもう一人の子へと眼を向ける。
そこには、もう一人の女性(こちらは少し優しそうで、他の人たちと似た普通の格好だ)に声をかけられている様子が見えた。
「飛酉…楼蘭皇国の技術を組み込んだ第一世代型華人。隣の小燕とは同期ということになるから…仲良くすること。いいわね?」
「は、はい……」
飛酉と呼ばれた少女も、なにがなんだかといった顔で女性を見る。
途端、小燕の前にいた女性が大きく打ち鳴らすように手を打った。
驚いた二人の視線が自らに集まった事を確認すると、満足そうに頷き言葉をつむぐ。
「私は倉羽永花!」
優しく撫でるように二人の頭にそれぞれの手を置いて、笑みを見せた永花は誇らしげに宣言した。
「君達の存在を心から歓迎する!」
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最終更新:2008年10月23日 02:26