(投稿者:天竜)
エントリヒ帝国首都ニーベルンゲの片隅には、ひっそりと、そして、明らかに異質な存在感を放つ町工場が存在する…。
その名は、
白竜工業。
かつて楼蘭に居を置いていた、気難しい職人達の溜まり場…。
これは、GとM.A.I.D.の壮絶な戦いの裏で暗躍する、彼ら、職人達の物語である…。
こちら白竜工業対G兵装開発特務課!!
工場の中では絶えず演歌がかかっており、
そこかしこで筋肉質のいわゆるマッチョメンと呼ばれるような男たちが、それぞれ思い思いに腕を振るっている。
華など、あったものではない。
今ここにあるのは、男の血と汗と涙だけだ。
全ては、自らの腕を存分に振るい、いつか現れるであろう、
己が作る武器の主となるに相応しき者の為に、最高のものを作るために…。
その更に奥、黒板と円形の机が存在する部屋に、一人の青年が座っていた…。
青年は、夥しい設計図に眼を通し、それを選別する作業をしていた。
そう、彼こそ、この白竜工業の若き社長、白竜獅遠である。
「ほう…これは良いパイルバンカーだな…正式採用承認、と」
獅遠は、その設計図の中から一つの設計図を選び出し、承認の印を押す。
「…設計は土岐か」
獅遠は、横にある伝声管に向かう。
「土岐、お前のパイルバンカーを『彼女』の武装に採用する。
取り敢えず、社長室兼会議室に来てくれ」
「…了解。今行きます」
獅遠より若干年上と思しき男の、若干やる気の無い声が返ってくる。
「…さて、鎧は…と」
設計図のデザインに眼を通す。
「…はぁ…派手すぎる気はするが、まぁこれで良いか…竜式の意匠を使うのは、俺も異論は無いからな…。」
獅遠は、再び伝声管に向かう。
「真田、採用だ」
「おおっ…とうとうこの装備をディナが…よしっ!」
獅遠より若干年上、しかも妙に野太い声が返ってくる。
「…さて、機動戦闘用に、これ以上装備する必要はないだろうな…」
獅遠が、設計図を横に置き、席を立つ。
そして、横にあったストーブの上に乗っている男爵芋を皿の上に乗せて持ってくる。
「うん、丁度良い焼け具合だ」
基本的に、白竜工業は働きたい時は全力で働く、休憩も各自自由に、が基本だ。
サボるような軟弱な奴は、こんな無茶な会社には来ない。
いるのは全て、作りたいから作っているような職人たちだけなのだから…。
「はてさて…と」
机の引き出しの中から醤油とバターを取り出し、男爵芋の上に乗せる。
「じゃがバター、完・成!!」
そして、獅遠は何故か謎のポーズをとる。
社員が社員なら、社長も社長である。
そして、それを食べていると、扉が凄まじい音を立てて開く。
「おお、来たか…って、平賀、お前か!!」
獅遠が驚く。
入ってきた上半身裸の筋肉質な男は、職人達の中でも特に腕が良い、そして偏屈な三人の内の一人、平賀武士だった。
「おい!俺の刀だけ採用しないたァ…どういうつもりだ…!?」
平賀は獅遠に食って掛かったが、獅遠は気圧されずに、じゃがバターを食べながら冷静に答える。
「お前の作ったインフェルノライトニングブレードは、全ての武装の核になっているだろう。
それに、刀剣系の武器は一本で十分だ。特に、インフェルノライトニングブレードのような大型武装はな」
歳は相手が上でありながら、その口調はまるで弟を諭す兄のようだった。
「だがよォ…」
「心配するな。お前にも出番はある」
獅遠が不適に笑う。
「?」
「採用されたパイルバンカーの射突部分の製作は土岐だ。
が、直接敵に叩きつける刃の部分は、土岐の専門ではない。
お前の専門だ…だろう?」
獅遠が、そう言って親指を立てる。
「…!」
「頼めるな?
ヨロイモグラ級の甲殻をも撃ち貫く会心の品を…!」
「……」
平賀が、黙る。
そして、ニヤリと笑って答えた。
「おう!任せとけ!!」
「その意気だ…腹減ってないか?これを持っていけ」
獅遠が、ストーブの上から男爵芋を皿に載せ、醤油とバターを乗せて、平賀に渡す。
「おおっ、じゃがバターかよ!ありがたく頂くぜ!」
平賀が出て行き、再び社長室に静寂が戻る。
「さて…」
獅遠が、扉の外を睨む。
「そこにいるのは分かっているぞ…時雨」
「ほォ…流石にお見通しでしたか…流石は我らが社長だ」
左手に生物工学の本を持ったインテリっぽい男が入ってくる。
新兵器の開発を担当する、本業物理学者の時雨雄規だ。
「お世辞を言っても、『アレ』は許さんぞ」
獅遠が、苦笑しながら言う。
「これは手厳しい…今回は『アレ』の件ではありませんよ。
私のほうからも、武器の設計図を提供したいと思いましてね」
時雨がニヤリと笑う。
「ほう」
「…これです」
時雨が、ファイルを獅遠に渡す。
「まぁ、彼女とは相性はよろしくない気がしますので、
別なMAID用に作るのが良いかもしれませんがね…フフ。
しかし、社長は何故『アレ』を止めるのです?成功すればMAIDを超える戦力に…」
時雨が笑いながら尋ねる。
「失敗すればGを超える敵になるだろうが」
獅遠がその言葉を遮り、満面の笑みで答える。
「…今度、また修正版の『アレ』の設計図を持ってきます」
「だから、Gを元にした生物兵器なんて、
造ったらお約束として暴走し、人類はまた新たな脅威にさらされるだろうが」
そう、先程から『アレ』といっていたのは、Gを元に作った生物兵器の事である。
もちろん、技術力から考えてもありえないものなのだが、時雨は、その頭脳で理論を完成させつつあったのだ。
恐らく、彼こそこの白竜工業で最も危険な人材だろう。
「失敗なんて…絶対にさせません…いつか、必ず…!」
「お前の夢は勝手だが、せめてGとの戦いが終わってからにしろ。
…これ以上事をややこしくしてどうする」
「まぁ、今日は引き下がりますよ…では」
時雨が部屋を出て行こうとする。
「おい、待て」
獅遠が、また男爵芋を持ち出し、じゃがバターにして時雨に渡す。
「これ、持ってけ」
「…これは、どうも」
時雨が、それを受け取って出て行く。
その直後、また扉が開く。
「土岐、じゃがバター貰いに参上しましたー」
そう言って、テンガロンハットを被ったガンマン風の男が入ってきた。
銃火器担当、土岐直賭である。先程採用されたパイルバンカーの設計者だ。
「社長、どうしたんスか?」
獅遠は、ずっこけていた。
「…第一声が『じゃがバター貰いに参上しましたー』では、ずっこけても致し方ないだろうが…」
獅遠が、思いっきり打った腰をさする。
「そりゃごもっとも」
土岐がそう答える。
「…本題に入るぞ。ディナ用のパイルバンカーの射突部分のパーツをお前に任せる。
ブレード部分は平賀が造る。お前もそれを考えていたのだろう…マッチングできるな?」
「ええ、もちろん」
土岐が自信満々に頷く。
「…いくら刀剣馬鹿とはいえ、仮にも奴も職人だ、俺だって、それくらいの敬意は持ってますから」
「だぁぁぁぁぁれが刀剣馬鹿だぁぁぁぁぁぁぁ!!だぁぁぁぁぁれが仮にもだぁぁぁぁぁぁぁ!!」
叫び声と、不穏な足音が遠くから聞こえてくる…相当怒っている。
「…おい、これをやるからさっさと帰れ…ここでドンパチを始められても困る」
そう言って、土岐にじゃがバターを渡す。
「あいよ…って事で、パイルバンカーの採用、ありがとうございました!」
軽く一礼し、土岐は走って出て行った。
その直後、少し離れた廊下で激突音が響いた。
「お前の事だよ時代錯誤野郎ッ!!」
銃声。
「んだとこらァ!!」
金属がぶつかる音。
「「今日こそ蹴りィつけてやる!!」」
爆発音が、遠くへ離れていった。
あの戦いがこの社長室で展開されていたかもしれないと思うと、獅遠は背筋が凍った。
「…あーあ」
獅遠が苦笑する。
彼らは、何時もこうなのだ。
しかし、何故か死傷者が出たことは無い。
彼らも、色々と考えて戦っているのかもしれないのだ…知れないのだが…。
「失礼しまーす」
控えめに扉が開き、必要以上にごつい鎧を着込んだ男が入ってくる。
「やっと来たか…真田」
鎧、装甲板担当の、真田剛至である。
最高の腕を持つ三人の職人達の、唯一の良心だった…。
「ええと…少し向こうで戦争になってますが?」
「ああ…放っておけ…で、鎧の話なのだが…はぁ…」
獅遠がため息をつく。
「…どうしました?社長」
「いや、ようやくまともに人語で話が出来るのが、嬉しくてな」
獅遠が笑う。
「…分かりますよ」
獅遠も真田も、二人のストッパーに回ることが多いので、お互いの苦労はよく分かるのだ。
「ありがとう…さて、本題に戻ろうか。
鎧の設計自体はあれで良いのだが、問題は重量だ。
…あの全身鎧では機動戦闘に対応しきれない。」
「しかし、ダメージを最小限に抑えるには、あれくらいしないと」
「お前、回避するのとフルボッコを耐えるのと、どちらが損害とダメージが少ないと思う?
もしも、装甲に自己修復機能とかがあったりしたら話は別だが…それでは時雨の思想だろ」
獅遠が苦笑する。
「ええ、たしかに…」
真田が苦笑に苦笑で返す。
「…では、どうするので?」
「装備する装甲版を要所に限定する。首元、肩、腰、脚部に各々機動性を損なわないレベルでの装甲を装備。
MAIDの物質強化能力でそれでも十分な防御力を発揮できるはずだ」
「了解しました。何、俺に任せてください!」
真田がガッツポーズをする。
「…頼んだぞ、お前だけが頼りだ」
そう言って、じゃがバターを真田に渡す。
「これを食って元気をつけ、頑張ってくれ!」
「了解です!全ては、我らが戦乙女 ―ヴァルキュリア―
ディナギアのために!!」
真田が、獅遠に敬礼して部屋を出る。
「よし…後はディナが帰ってくるのを待つだけだな」
獅遠が、静かに呟いた。
しかし、現実は、そう甘くなかったのである…。
「社長!大変です!」
鎧を着けているとは思えない凄いスピードで、真田が戻ってきた…。
そして、それから数時間後…
メイド服を着た黒髪の少女が、白竜工業の戸を開けた。
「ディナギア、ただいま帰還しまし…!?」
ディナギア…白竜工業が擁する切り札にして、同会社が有する最強のMAID。
しかし、彼女は今目の前で展開する光景に、思わず固まってしまった。
「今日こそ決着をつけてやるぜ!!」
土岐が、大砲を取り出して、平賀に向けて撃ちまくっている。
「それはこっちの台詞だ!!」
それを、平賀は華麗に切り払い続けている。
「お前ら…!」
「良い加減にしないか!」
そして、獅遠と真田が、巨大な盾を構えて彼らに向けて必死に叫んでいるのだ。
その周囲では、他の職人達が、『行け!そこだ!』とか、『やれやれ!』などと叫んでいる。
ディナギアは、苦笑して呟いた。
「皆、仲が良いなぁ…」
それに対して、全員が同時に叫んだ。
「どこが!!」
その後、大破した建物を必死になって修理する土岐と平賀の姿が見られたとか、見られなかったとか…
終わり
後書き
とりあえず、まずここまで読んで頂いた事に最大限の感謝を。
今回は白竜工業の中身を書いてみました(笑)
こういう愉快な奴らです。
何か書かねば、書かねばと思っていたら、こんなものになりました。
シリアスなのを期待しておられた方、申し訳ありません。
シリアス方面はもう少しお待ちくださいませ。
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最終更新:2008年11月17日 20:26