(投稿者:天竜)
白竜工業には、ディナギア以外に、もう一人メードが所属している事は、今はまだあまり知られていない。
それもその筈、彼女はまだ教育期間を終えていないのだ。
しかも、社長からの提言で、世界各地を転々と修行の旅をしているのだから…。
こちら白竜工業対G兵装開発特務課!出張版!!
「白竜工業最強であるこの私が、何故わざわざ第二次防衛ライン後方で迎撃の討ち漏らしの相手をする必要があるんだろ…まったく」
砂漠地帯の片隅で、機械仕掛けの剣を携えた金髪の少女がため息をつく。
周囲に遼軍の姿は見えない。
「私が討ちもらしたらどうする気なんだか…いえ、これは外崎殿の私への期待の現われ、ね。
多分私
一人で配置してくれと頼んだんでしょう…後方にも遼軍が配置されてるんでしょうね」
少女が静かに笑う。
「…見えた。始めましょう」
遥か彼方に、Gの一団の黒い塊を見据えた少女が立ち上がり、剣を上に放り投げる。
「神剣アポカリプス、砲撃モード」
アポカリプスと呼ばれた剣は、くるくると回転しながら宙を舞い、少女の方に落ちてくる。
それを手の上で更に器用に回しながら、剣の変形を行う。
剣の柄の横にあるグリップを起こし、それを握る。
刀身が上下に広がり、更に刀身の横の部品が左右に展開する。
その姿は、既に剣ではなく、むしろ大銃と形容するのが相応しかった。
「最大効率点、確認、直撃時敵最大損耗率八十パーセント確認、電力充填完了…敵の目標地点到達まで」
少女が不敵な笑みを浮かべ、展開した剣先を遥か彼方にいるGの群れへと向ける。
「…三」
刀身から、白い電気が放たれ始める。
「…二」
その電気が、剣先の中心点に収束を始める。
「…一」
剣先に集まった凄まじい電力の球体が、今にもはじけんと輝きを放つ。
「アポカリプス、最大出力モード…ラグナバースト、ファイア!!!」
剣先から解き放たれた雷のような凄まじい電光が、Gの黒い塊を飲み込んでいく。
それと同時に、少女が駆け出す。
まだ電流が音を立てて刀身に纏わりついている。
少女が、剣の形状に戻ったアポカリプスを構え、今だ生き残っていたGを片っ端から斬り潰す。
「私は白竜工業最強のメード、白雷騎士
エレスティア!!誰にも、敗北する事は許されないんだからッ!!」
少女が名乗りを、白竜工業の誇りとともに自らの名、エレスティアという名を叫びながら、目の前にいたワモンを両断する。
「私の名、恐怖と共に地獄でも語り継いで貰うわよ!!」
背後から突進してくる
シザースを、振り向き様の横一閃で両断し、
その勢いのまま前にいたウォーリアに左手の機械の爪を叩き込む。
「でェいっ!」
爆発音と共に爪が突き出、ウォーリアを貫く。
「討ち漏らしにしては規模が大きい、激戦区とはいえ…成る程、分かったわよ、私がここに配置された理由がッ!!」
爪を引き抜き、最後に残ったシザース三体を睨む。
「…上等じゃない!」
エレスティアの叫びと同時に、シザース三体が突進してくる。
「よっ…と!!」
中央のシザースの背を蹴って宙返りしながら、逆さのままで剣の柄についている箱のような部品を取り外し、
腿の辺りに隠してあった同じパーツと交換する。
そして、そのまま空中で剣を変形させる。
「アポカリプス、砲撃モード…受けなさい!雷弾の嵐をッ!!」
敵が振り向いた瞬間、上下逆さの姿勢のままエレスティアが、
銃形態のアポカリプスを小威力で乱射し、敵の頭上に電流の雨を降らせる。
防ぎ損ねたシザース一体が電流の雨をまともに受けて黒焦げになって倒れる。
「動きを止めてる暇なんて、無いッ!!」
着地したエレスティアがアポカリプスを一回転させ、剣の形状に戻す。
「アポカリプス、剣撃モード…最大出力開放!!」
二体のシザースが突進してくる中、アポカリプスの刀身に白い雷が宿る。
「はあああああああああああああああっ!!!」
凄まじい電力を伴ったすれ違い様の横一閃。
シザース二体と、エレスティアが、交差した。
エレスティアがアポカリプスを再び空中に放り投げる。
「成ッ!敗ッ!!」
エレスティアの叫びと同時に落ちてきたアポカリプスが、丁度彼女の目の前に突き刺さる。
それと同時に、背後の二体は爆砕した。
「ふぅ…任務完了っと…さて…外崎殿が待ってるだろうし、帰ろっか」
エレスティアは、そのまま戦場と反対方向に駆け出していった…。
「…と、いった感じです」
エレスティアが、コック帽を被ったヒゲ面の男に戦闘を報告している。
「相変わらず、良い調子じゃねェかい」
ヒゲ面の男が凄みのある笑みで頷く。彼こそ、白竜工業調理器具担当、外崎啓行である。
彼は、エレスティアの修行の引率として、世界中を転々としている。
現在は最大の激戦区であるザハーラの首都『ヤグフ・トナ・スール』に滞在していた。
「当然です。私は白竜工業最強のメード…敗北も苦戦も許されません。
示すのは、ただ圧倒的な勝利のみでなくては…白竜工業の名に傷がついてしまいますから」
「最強ってのは勝手だが…気負いすぎるなよ?まだお前は生まれて間もない。
今は勝利よりも経験を積む事…生きて帰る事を優先しろ。
別にお前が『負けて』も白竜工業の名に傷がつく事は無いが、
お前が『死ぬ』のは我々にとっても白竜の名にとっても大きな痛手だ」
「了解、肝に銘じます」
エレスティアが頭を下げる。
「ところで…」
「ん?何だ?」
「…あの、今日の夕食は何ですか?」
エレスティアが少し遠慮がちに尋ねる。
「…お前、何が良い?」
外崎が笑顔で尋ね返す。
「相変わらず良い戦果だからな、お前の好きなものを作ってやる」
外崎の言葉に、エレスティアの反応が変わる。
「じゃ、じゃあ…社長室にあったあのじゃがバター、再現できます!?」
満面の笑みでエレスティアが尋ねる。
「おう、当然だ。材料も全く同じものが揃ってるしな」
「では、それを!それと、もしよろしければ、内田殿の故郷で食べられていたという、
煮干だしの醤油ラーメンというのが、食べてみたいのですが…」
「お前…なかなかコアな所を突くな…良いだろ、分かった!楽しみにしてな!!」
外崎が笑顔で厨房へと出て行く。
彼の料理の腕前はプロの中でもかなり上の方に属する。
かつて、白竜工業が楼蘭にあった時、農機具担当の内田智和と組んで食堂『白竜食堂』を経営していた。
何しろ、エレスティアの旅に引率した理由は世界各地の料理を学び、自らの食の道を更に探求したかったからなのだ。
この旅はエレスティアの修行の旅だけではなく、外崎の修行の旅でもあるのだ。
この物語は、世界各地を巡るエレスティア達の、戦いと出会いの物語である…。
本日の料理
じゃがバター
白竜工業社長の好物でお馴染みの、ふかしイモにバターを乗せたもの。
醤油をかけても美味しく、社長はそれを好む。
尚、使用されているジャガイモの産地は楼蘭本土の最北端にある、
白竜工業農業器具担当の内田智和の畑。最高品質クラスである。
煮干だしの醤油ラーメン
楼蘭本土の最北端で食べられている醤油ラーメンの主流を占める特殊な醤油ラーメン。
最北端の地土着のラーメン店のほぼ全てで食べる事が出来る。
煮干でだしを取ったラーメンであり、その独特な癖を持つあっさりな風味は賛否両論ある。
内田智和の好物であり、外崎の得意料理の一つで、保存可能な材料は絶えず持ち歩いている。
ちなみに、『醤油ラーメン定食』は白竜食堂の主力商品でもあった。
続く
あとがき
どうも、天竜です。長編を書き始めました。
今回は世界各地を旅しながら各地のメードの話を書く予定です。
いつも通り無茶な話しか書きませんが、気に入ったらどうぞお付き合いくださいませ…!
最終更新:2008年11月19日 13:17