アラキの旅 #0

(投稿者:A4R1)


ある砂丘の一角にひっそりとある家屋
そこに住む三人に、今まさに旅立ちの時が迫っていた…


「マスター…お出かけになるのですか…。」
「あぁ。」
一人の男がコップを片手に窓辺に立ちながら外の雲行きを眺めていた。
コップの中には苺ミルクが並々と注がれている。
その姿を一人の女が指をくわえながら眺めている。
「あいつが過労で倒れちまったらしい。
 しばらく会ってなかったしな。俺も線香の一つぐらい供えてやらねぇとな。」
「ま、まだ死んでないよ!」
「ジョークだ。」
慌てて訂正する男に、マスターと呼ばれた男がいたずらっ子のような笑顔を向ける。
半袖から覗いている筋骨が浮き上がった腕で重火器を持ち上げ、
作動に異常をきたすような損傷が無いかを簡単に簡単に確認し、様々な銃が飛び出たバッグの横に置いた。
そして苺ミルクを一口飲み、女のほうに顔を向ける。
「しかし、あの人がこの国を発って半年経ちましたよね。私もそれ飲みたいです。」
「もう、そんなに前の事だったか…。ほり。」
男が飲んでいる物を受け取り、一口飲んで返した。
「私達が時の流れを遅く感じているのでしょうか?間接接吻美味しいです。」
「……っ!!?」
女の一言に、男は座っていた椅子をがたりといわせ、バランスを大きく崩した。
顔が一瞬で真っ赤になり、口をせわしなく動かせ、やっとの思いで声を発した。
「リ、リリリ、な、何をいっ…!?!?」
鼻から紅色のペーストが垂れてきている。
「セテさん、冗談ですよ。」
「ほれ、ちり紙。」
「も、もう…ビックリしちゃったよ…。」
セテと呼ばれた、今驚いていた男がいそいそと紙でふき取り、鼻に詰め込む。

「それはそうと、新たなMAIDが活動開始可能な段階に来ている時にこのような事になるとは思いませんでしたよ。」
今、新たなMAIDが三人、活動の安定のための最終調整の段階に入っていた。
青いショートヘアーのMAID
赤いアシンメトリーのMAID
黄色がかったツインテールののMAID
「うぬぬぅ…教育できないのは痛いな…。」
「どうしましょう…。」
女が、物々しい音を立てている装置を横目で確認して頭を抱える。
「もうそろそろ目覚めるはずですが…。天の邪鬼そうな子もいるので、飛行機の発信時刻ピッタリに目覚めそうですね。」
「参ったな…。」


男がしかめ面で頭を掻き時計を睨む。
数珠つなぎの弾丸が飛び出ている鋼鉄の箱を指で叩く。
「目覚めるまで待つと、飛行機の出発に確実に間に合わないよ…。Gの襲撃で、ただでさえ運行数が少ないのに、乗り遅れたら次はいつになるのか解らないよ。」
「搭乗時間まであまり時間がありませんね…。」
「…ガチでアイツの『サイゴ』に間に合わなくなっかもな…本来ならMAID全員で押し掛けたかったが、仕方ない…。
 リリ、俺の作業デスクの3番の引き出しに三人の特徴とか、俺が出てからやらせるべき事がまとめてある。目を通しておいてくれ。
 あと、各MAIDに用意した銃器をしまっているロッカーのカギも入っている。何かあったら迷わず活用してくれ。
 しばらくの間、三人を頼む。」
「私一人で三人を…ですか…。」
「…大丈夫?」
リリと呼ばれた女が暫時困惑したが、すぐに
「わかりました。望まれたのなら成し遂げて見せましょう。」
「恩にきるな。頼んだぞ!よし、行くぞ!セテ!!」
「じゃ、行ってくるよ、リリ。」
「気をつけて…。」
「あぁ!!」
「うん!!」
男二人がテーブルの上に置かれていた荷物と大量の重火器を抱え、戸を蹴り開けて外へ飛び出した。
リリが流し台の窓から外を見ると。武装した一台の車が砂煙を上げ横切って行った。
見舞にしてはいささか物騒ではあったが、怪しむ者は恐らくいないであろう。

ついさっきまで起こっていた騒がしさとは無縁のように、雲一つ無い空が広がる。
鳥のさえずりが聞こえ始めた。
「さてと…。」
リリが男の指していたデスクに向かう。
デスクの横に貼られた名前シールには、左に傾いた字で「荒木 藤十郎」と書かれている。
上に「あらき とうじゅうろう」と振り仮名が降ってある。
その名を持つ者が、たった今セテと共に出た男だという事を彼女は知っていた。
「1番…2番…これですね。」
引き出しを開けると、そこには一冊のノートとタグのついた鍵が入っていた。
タグには「銃器 捨てないように」とある。
そのカギを手に、彼女は三人の姿を確認した。
装置の中で眠っているため、見えるのは顔のみ。
その彼女らを眺め、リリが呟く。
「求められている…私も、この子達も…。」
そして、困ったような笑みを浮かべた。
「一段、二段、いえ、数段手厳しい事が待っていそうですね…

 …これから…。」


始まりは 告げられた



関連項目

最終更新:2008年11月21日 18:44
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。