檄!皇室親衛隊・蛇

(投稿者:フェイ)


コンコンコン、とノックを3回。

「失礼いたします」

ドアを開き一礼をして、スィルトネートはその部屋の中へと入る。
豪華ながらも、シンプルでどこか味気のない一室――ギーレン・ジ・エントヒリの使用する宰相室。
後ろ手に扉を閉じて。

「――スィルトネート。ノックが一度足りん」
「…あら、ベルクマン上級大将、いらっしゃいましたのですか…それは失礼を」

改めてベルクマンにしっかりと礼をした後、ギーレンの近くへと控える。
ベルクマンはその様子を横目で見ながらも、何も言わずギーレンへと向き直る。

「――では閣下」
「良いだろう。レギナルトに言って政界にも手を回させよう」

その返事に一つ頷き、ベルクマンは立ち上がる。

「ではそのように」
「うむ」

手にしたファイルを抱えなおし、ギーレンに一礼するとベルクマンは部屋を出て行く。
その後姿を眺めていたスィルトネートは、ドアが閉じた瞬間、見えないように舌をべーと出し。

「―――スィルトネート」
「っとと…お見苦しいところを」

指摘されると恥ずかしそうに微笑み、口元を隠してみせる。
その仕草にギーレンは苦笑いを浮かべ、肩を竦める。

「ベルクマンは嫌いか」
「戦争しか考えていないような方は苦手ですもの」
「…ベルクマンは、そのような男ではないが?」
「少なくとも、平和のインテリジェンスは感じませんもの………さて」

姿勢を改め、顔を引き締めるとスィルトネートはもっていた紙束を机の上へ提出する。
表紙には表題と目次。
『各MAIDの実戦における動きとその思想』
目次の貢には皇室親衛隊に所属するメードの名前がずらりと書かれている。

「ご苦労。どうだ?」
「今の所、やはりもっとも危険なのはジークフリートかと。次点でメディシスとシュヴェルテ、です」
「メディシスと…シュヴェルテか」

紙束を捲り、メディシスとシュヴェルテの欄を確認する。
各項を眺め一通り確認すると、視線を戻す。

「他のメードは?」
「単純に戦闘力で言えば、確かにベルゼリアやレオ・パールは脅威でしょう。しかし、思想面でみれば…」

スィルトネートもまた自らがもつコピーに目を通し。

「我が帝国のメードは、他国に比べ各教育担当官の影響を強く受けていますから。ヴォルケン中将やディートリッヒ少佐らはこちらへ引き込める可能性があります」
「逆に、引き込みづらいゼクスフォルト少佐に付くシュヴェルテや、ユリアンと近しいメディシスは、ということか」
「ええ。その二人は単純に戦闘力でみても脅威と判断できます」
「ふむ…」

一つ頷くと、ギーレンは顔を上げスィルトネートを視線で貫く。
その視線を正面から受け止める。

「―――お前の勝ち目は?」
「薄いかと―――ですが、我が王が勝てというのならば、どのような手段を使ったとしても」
「……なるほど」

満足そうに頷くギーレン。
その様子を見、主を満足させたことにスィルトネートの口元には誇り高い笑みが浮かぶ。

「ご苦労だった。下がって良いぞ」
「はい。……あ、それとギーレン様。レギナルト様はまだ?」
「ああ…間もなく到着する。そうだな、終えたら久しぶりに三人で会食と行くか。―――父上が何も問題を起こさなければ」
「ふふ…楽しみにお待ちしております。では」

スカートの端をつまみ、優雅に一礼。
ゆっくりとスィルトネートはその部屋を出、扉を閉じた。




最終更新:2008年11月26日 23:22
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