(投稿者:フェイ)
「……来ましたわね…ジーク!」
後方から敵を蹴散らし進む爆音を聞いた
メディシスは、振り返らずに呟く。
瞬く間に追いついてきたその実力に、思わず笑みを浮かべ――慌てて口元を引き締める。
「……………メディシス」
「わかってますわ」
剣を抜いたジークと、油断なく杖を構えるメディシスが背中を合わせる。
「貴女の獲物はアレ――適材適所という奴ですわ」
視線の先にいるのはGの群れ最後尾、まるで壁のように視界を埋めながら動く小山群――
タンカー。
その数、凡そ7。
ゆっくりとした進行速度ながらも、確実に前進し、このまま進めば帝都に到達することは間違いない。
「ちゃんと裏方に徹して、小型の連中はなんとかして差し上げましょう。貴女は、貴女の役目を果たしてくださいませ!」
「……………ぁ………」
「なんですの?」
「………………………その…………」
「~~~~、わかりましたわ! 言いたい事は大体わかりましたから! さっさと行って、倒してきてくださいな!」
何か言いたげに口をもごもごとさせていた
ジークフリートだったが、メディシスの言葉に一つ頷くと、改めて顔を引き締める。
その表情を見ながら、メディシスは背中あわせのまま移動し、ジークフリートを正面からタンカーに向き合わせる。
「―――――――――行く」
だんっ、と地を蹴る音とともに、背中から離れていくジークフリート。
瞬く間に距離を詰めるその脚力は、まさに飛び掛ろうとしていた
ローカストに、空中へ逃れる隙さえ与えず正面から真っ二つに叩き斬る。
切り込んだ踏み込みの足に力を込め、再び加速、音が響くたびにGが倒れ、ジークフリートは前へと進んでいく。
後姿を見送りながら、後から到着する
アイゼナ、ベルゼリアを確認。
「………よし」
「ん、メディ」
「ええ、アイゼナ、ベルゼリアはジークフリートの後を。…ついでにあのバカケダモノの援護を頼みますわ」
「やぼーる。復唱、ジークフリートへの追従。レオ・パールの援護」
「私は、
プロミナと一緒に背後を護りますわ。…おそらく、スルーズの作戦も、貴女方攻撃型によるタンカーの迎撃を目的とした布陣でしょうし」
「ん、それじゃ」
ベルゼリアはしっかり頷くと、再びアイゼナの肩に乗る。
「アイゼナ、いこ!」
「やぼーる!」
背中に搭載された補助用エンジンがうなりを上げ、マフラーから蒸気が上がる。
出力を上げたアイゼナの一歩目に、地面が揺れる。
そのまま、ジークフリートの切り開いた道を直進していく。
開かれた道をふさぐように、左右から再び距離を詰め立ちはだかる
シザースを前に、ベルゼリアが叫ぶ。
「アイゼナ、ぱんち!」
「がおーん!」
腰をひねり、遠心力をつけて叩き込まれる鋼の拳。
前面に突き出された、戦車の装甲すら突き破るシザースの顎を砕きながら、そのまま頭まで貫く。
振りぬいた瞬間のアイゼナを狙い、ローカストが飛び掛るが。
「めっ!」
アイゼナの肩から、小柄な影―――ベルゼリアが迎撃に跳ぶ。
飛びあがったローカストは蹴りを放つために身を一度縮め、対するベルゼリアは同じように一瞬身を縮める。
蹴りが放たれた瞬間、空中ながらも僅かに身をそらして蹴りを避け。
「……!」
まさにクロスカウンター。
うーくんをローカストにめり込ませ、さらに小柄な身体を生かし伸びきったローカストの脚を踏み場にさらに飛びながら左、右、連打。
「えい、えい、えいっ!」
かわいらしい声と共に、ローカストを殴り倒し、そのまま地面へと叩きつけ、その上に着地。
続けてバックハンドに振りぬきながら裏拳を背後のウォーリアの腹部へと打ち込みひるませ、身をひねりながら飛び上がり、上段回し蹴り。
吹き飛んだ
ウォーリアが、後続のGへと突っ込んで雪崩のように倒れていく。
着地したベルゼリアは積み重なるGを無視し、アイゼナの周囲を回るように立ち踊る。
うーくんがシザースへめり込み、さーちゃんが仰け反らせ、ひねりを加えたアイゼナの拳が粉砕する。
止まることなく繰り出され続ける兎と鉄拳の連打に周囲のGは攻撃を控えつつ、二人を取り囲むように動き始める。
次第に倒れていたウォーリア達も立ち上がり、突出するジークフリートと、アイゼナ、ベルゼリアを分断するように壁になってゆく。
「……うー、多い」
「………
ベルゼリア、提案1」
「んー?」
とん、と肩に乗りなおして、ひそひそと喋る言葉を聞く。
その間にも相手は距離を詰めてくるが、構わずアイゼナとベルゼリアは確認するように一つ頷いて。
「結論、有効」
「ん、アイゼナ、気をつけて」
「やー、ベルゼリアも」
アイゼナが掌をあげ、天高く突き出す。
肩からその掌へと飛び移ったベルゼリアは姿勢を低くし、脚に力を込める。
ベルゼリアを落とさないように、慎重にアイゼナは振りかぶり、固定。
「3、2、1……!」
ベルゼリアのカウントダウンに合わせて力を込め。
「ん!」
「角度確認完了、よし。ベルゼリア・カノーネ・クーゲル―――投射」
アイゼナが思い切りぶん投げると同時にベルゼリアが掌を蹴る。
ベルゼリアの身体はアイゼナの馬力と、本人の脚力、そして軽さも相まって弾丸のように飛んでいく。
その高さと飛距離は、Gのつくった壁を跳び越すのに十分であり、着地点近くには、孤軍奮闘するレオ・パールの姿。
「れおーっ」
「うお!?」
ずどんっ、と近くに着地するベルゼリアに驚いたようにのけぞるレオ・パール。
着地地点にいたワモンが踏み抜かれ悶絶する。
が、ベルゼリアは構わずレオ・パールの近くに寄りぷくーと頬を膨らませて上目遣いに睨みつけ。
「ひとりぼっち、めっ!」
「う………」
「めっ!!」
「わ、わかった、わかった!」
未だ不満そうに唸りながら、レオ・パールは改めて鉈を構えなおす。
「ジークのとこまで、いっしょにがんばる」
「うー…」
「めっ!!!」
「わかった!!」
――――こわいちびっこだ。
「まったく……っと!」
壁の向こうにアイゼナ、さらに向こうへベルゼリアとレオ・パールの姿を見ながらメディシスは奮闘する。
周囲には、いくつものGの死骸、死骸、死骸。
「プロミナ! まだ持ちまして!?」
「はぁ、はぁ…な、なんとか!」
消耗を抑えるためにか、炎を短剣サイズへと縮めたプロミナが応える。
プロミナとも声は届くがこちらも分断されている――ジークフリートを前に進ませるためとはいえ、早計だったか。
そこまで考え、メディシスは首を振る。
(――ジリ貧だけはさけたいところですわね…)
思考中にも襲い来るローカストの蹴りを避け、背後に寄っていたワモンを鎌で斬る。
二つになってもいまだ動こうとするワモンの身体を石突で押さえながら飛び退ろうとして。
「…っ!?」
踵が、死骸の一つにぶつかった。
躓いてしまったと思った瞬間には既に遅い、スピードに乗っていたメディシスの身体は勢いにのって宙に浮く。
途端、警戒していた周囲のGがいっせいに距離をつめてくる。
一瞬の逡巡、せめてもの防御に前へと杖を突き出して。
「グレイプニールっ!!」
天から降り注いだ鎖が周囲のGを下がらせ、倒れる直前のメディシスを救い上げるようにして立ち上がらせた。
「……スィルト!」
「お待たせしました、メディ。…遅れました?」
たん、と空中より降り立ち、威嚇するようにメディシスを支える以外の剣鎖が乱舞する。
スィルトネートは、メディシスを立ち上がらせると、背中をあわせクスリと笑う。
それに答えるメディシスは不敵な笑みを取り戻し。
「……そうですわね、遅刻ですわ。これで、貸し一つですわよ?」
「あら? 今助けてあげたのでチャラでしょう?」
「あの程度なら、助けがなくとも持ち直すことは可能でした…わ!」
振り向きザマに鎌を一閃。
スィルトネートが頭を下げると同時にその頭上を鎌が通過、飛び掛ってきていたワモンが切り裂かれる。
姿勢を低くしたままのスィルトネート、その両腕から放たれた剣鎖は左右から遅い来るシザースを貫いて。
「それは失礼しました…でも、二年半前の貸しを考えたら、結局これでチャラですのね」
「アレはとっくに返しましたわ! そんな昔のを掘り返すのでしたら、貴女こそ二年一ヶ月前の貸し忘れてませんわね!?」
「ええ、ですが、それについてはもう話がついたはず…なぁなぁに」
「誤魔化したっていうんですわそういうの!」
シザースを振り回す剣鎖、メディシスはその鎖を飛び越すと腰より射出された剣鎖の鎖を踏み場にさらに跳躍。
カドゥケウスの刃のない石突部でウォーリアの頭部を殴打しながら背後へ回り、振りぬく。
首を落とすと、ローカストの蹴りを避けバックステップ。
その間にシザースをズタズタにした剣鎖はスィルトネートの手元に戻り、再び獲物を求め駆ける。
「まあまあ、そう怒らず」
「また誤魔化そうとしてますわねスィルト!?」
プロミナに迫る
ワモンを貫き、動きを止めればプロミナがそのワモンへと炎の短剣を突き刺す。
次第に戦場をプロミナと合流する方へとすりあしで移動するスィルトネート、メディシスもそれに続く。
周囲から襲い掛かるうちのいくつかが、胴体、脚などを銃弾に撃ち抜かれて倒れる。
後方支援の的確さに感謝しつつ、手から炎を消したプロミナへと合流し。
「仕方ないですね、わかりました。今回は私の貸しということで……帝都で美味しいナポリタンのお店でも見つけておきましょう」
「…なんか釈然としない物言いですわね…まぁいいですわ。その言葉、忘れないでくださいませ!」
「あ、あの…お二人とも戦闘中に何を…」
「気にしないでくださいな、プロミナ。……メディ、とりあえずスルーズの方から連絡は飛ばしましたので、増援は間もなく来ますけど」
「了解ですわ――私達はこのまま中盤を支えますわ。決して後衛まで敵を撃ちもらさないように」
メディシス、スィルトネートがそれぞれの武器を構え、プロミナは腰より日本刀『陽蛉』を引き抜く。
「護りはこちらで固めますわ。いいですわね、二人とも!」
「はいっ!」
「かしこまりました」
「よろしい。―――――――頼みましたわよ。ジーク…!」
「!!」
一匹目のタンカーが沈む――――それを背に走るはジークフリート。
続く二匹目のタンカーへ。
「うおおおお………っ!!」
爆音のごとき音が響き、タンカーに正面から剣が叩きつけられる。
宝剣『バルムンク』―――
ヨロイモグラの外殻すら叩き割るその一撃は、やすやすとタンカーの頭部を粉砕する。
「お――――おおおおおおおおお!!!」
ジークフリートは、そのまま刃を突き立てるとタンカーの背に乗り、柄をしっかりと握り締め駆け抜ける。
ぎ、ぎと音を立てながら縦に切り裂かれていく甲羅。
強引に甲羅をかち割りながら、ジークフリートは走る。
「おおおおおおおおおおっ!!」
走る、走る。
背の甲羅を叩き割られ、タンカーが断末魔の叫びを上げる。
「はぁっ!!!」
ずだん、という着地音を残し、再び走る。
背後でタンカーが崩れ落ちるがジークフリートは振り返らない。
立ちふさがるウォーリアを柄で殴打し下がらせ、飛び掛るシザースを片腕で払いのける。
目標は、只、タンカーのみ。
「――――――――…はああああぁぁぁっ!!!」
地を蹴り、跳躍、その落下の勢いのまま下へと突き出したバルムンクを三匹目のタンカーへ突き刺す。
根元まで深々と突き刺さった剣を一息に抜き、離脱。
タンカーはその場に崩れ落ちる。
地面へと降り立ったジークフリートは四匹目のタンカーへと向かう。
ようやく敵として捉えたのか、ジークフリートを正面へ見たタンカーは口から黄色の液体を吐き出す。
タンカーの体内で濃縮され、あらゆる金属、衣類などを溶かしきる――強酸。
ジークフリートは、まともに被れば一溜まりもないそれを、臆することなくしかし冷静に、最低限の回避行動で避ける。
最短の距離で酸をかわしたジークフリートは、タンカーの足元へ潜り込み、剣を振るう。
「せぇぇいっ……!!」
タンカーの脚へとバルムンクを横薙ぎに叩きつけ、叩ききる。
そのまま身をひねりながら回転、足の裏が地を削りながら勢いのままに二撃目。
「せぇいやっ!!!!」
前の両足を断ち切ると、自重に耐え切れなくなったタンカーが前のめりに沈んでいく。
隙を逃さず、真上の腹部へバルムンクを突き立て、走る。
甲羅部分に比べ柔らかい腹部はやすやすとバルムンクの侵入を許し、引き裂かれていく。
「はぁっ!!!」
駆け抜けた後には、また一つ、タンカーの死骸。
瞬く間に四匹のタンカーを倒し、バルムンクについた体液を一振りで払うと残り三匹へと向き直る。
警戒に周囲へ集まるGを一瞥―――少々数が多く、これを超えて他の三匹へ向かうには骨が折れるか。
そう考えた瞬間、取り巻くGの一角が吹き飛ぶ。
「ジーク!!」
「! ……………ベルゼリア!」
拳を突き出したアイゼナの影から、ベルゼリアとレオ・パールが飛び出す。
ジークフリートを護るように左右へ立つ。
そこへアイゼナが加わり。
「ちっちゃいの、ベルゼリアたちにまかせるっ」
「…………了解」
「うるるるるるぅっ!」
構える三人―――そこへ、轟音が響く。
「………………あれは…」
「増援、確認」
着陸した輸送艦より走り出す兵を見ながら、ヴォルケンは戦場を眺める。
「全く、これだから通常の軍は出足が遅いといわれるんだ――――ウチのベルゼリアが傷物になったらどうしてくれる」
「こらこら何いきなり親馬鹿してんの。仕事するわよ仕事。
レーニ。スルーズからの状況を纏めて頂戴」
「はい、ライサ様。…ジークフリートによるタンカー四匹の撃破を確認。飛行型Gは殲滅完了。残存敵戦力46%。ジークフリートがタンカーを撃破すれば残りは22%まで低下、掃討戦へ持ち込めます」
「OK、ありがと」
簡易地図を広げ戦場を確認するライサは、現在の地形とその場を見比べ、タンカーの位置を確認。
「この状況なら、陸軍投入で十分そうね――各メードの消耗度が気になるところではあるけど」
「そうだな。アシュレイ君? いるか?」
「はい!」
SSの装備を着込んだアシュレイと、それに付き従うは
シュヴェルテ。
巨大な盾と長剣を構え、ヴォルケンの前へと並ぶ。
「前線指揮を頼むよ。シュヴェルテと共に各メードの援護。ジークフリートのタンカー撃破後はそのまま掃討戦に移ってくれ」
「了解です」
「ただ深追いはしないでくれよ? 第四防衛線までだ」
「わかっていますよ―――では」
シュヴェルテとアシュレイは同時に敬礼。
装備を確認しなおすと、並んで走り出す。
「全軍、メード・シュヴェルテとゼクスフォルト少佐に続け!」
「ジークフリートのタンカー六匹目撃破を確認」
「――了解、これより掃討戦だ。深追いはせず! しかし徹底的に叩け!」
メディシスらの援護に飛び込むシュヴェルテは、高く跳躍。
足元にいたワモンを大盾オストヴィントが押しつぶし、姿勢を整えたシュヴェルテはアロンダイトを引き抜き構える。
同時に、援護を行うヴォルフェルト、カッツェルトは弾薬の補給を行うと再び援護を開始。
後に続くように雄たけびを上げながら、戦線へと雪崩れ込む兵士達。
後方陣営より遠く。
七匹目―――最後のタンカーが、ジークフリートの手によって倒された。
- メード被害:消耗は激しいが、致命的被害は無し。
- 一般兵被害:死者0 重傷18 軽傷83
- 備考 :絨毯爆撃、及びタンカーの酸による周辺自然への被害甚大。
結果報告 :大勝と判断
最終更新:2008年11月27日 00:11