白竜工業 逆襲の始まりは突然に

(投稿者:天竜)

 白竜工業が、エントリヒ帝国へと移転して間も無くの事だ。
 白竜工業へ、武器製作の依頼が舞い込んだ。
 設計図まで送ってよこす程気合が入っていたので、社長はすぐにそれを承認した。

 武器の主は、一人のメードだった。彼女の名は、シュヴェルテ…。

 移転した白竜工業の社長室で、獅遠がシュヴェルテに会っていた。
「呼びつけて申しわけありません。
 我々が武器を製作する上で、必要な工程がありますので、協力をお願いしたいのです」
「ええ、構いませんが…それは?」
 シュヴェルテが尋ねる。
「我々は『見極め』、と呼んでいます。
 武器を扱う特性、動きなどを見るために実戦形式で戦闘を職人達に見せる、というものです」
「成る程…動作に最も適した調整を施すわけですね?」
「その通りです」
 社長が笑顔で頷く。
「それで…実戦形式で、ということは相手がいる、という事ですよね…あの、相手はどなたなのですか?」
「少しお待ちを…ディナ!待ちに待った初見極めだぞ!来い!!」
 獅遠社長が叫ぶと、社長室の外の廊下をどたどたと走ってくる音が聞こえた。
「呼ばれて飛び出て即参上!」
 そして、ドアを蹴破って、黒に近い紫髪の少女が入ってくる。
「はじめまして、シュヴェルテ殿!噂は聞いてたよ!私はディナギア!ディナって呼んでね!よろしく!」
 少女が笑顔で頭を下げる。
「あの…これは?」
「我々の見極め、以前は竜式が担当しておったのです。
 しかし、竜式が機能を停止し、その後我々が戦力と、そしてかけがえの無い仲間として生み出したのが彼女です。
 …が、どうにも無礼ですね…代わってお詫び申し上げる…」
 社長が頭を下げる。
「…いえ、むしろ私のほうも、堅苦しすぎると肩が凝ります…胸のせいもあるでしょうが…」
 シュヴェルテの一言の後、数秒の沈黙が発生した。ディナが、お互いの胸を見比べている。
「負けた…私も結構大きい方だと自負してんだけどね…」
 そして、敗北を悟ったディナが、少し寂しげに呟いた。
 その言葉の意味は、言うまでも無いので割愛する。
「と、ともかく!作業場の真ん中はいつも見極め用のフィールドとして開けてあります。そちらの方へお越しください」
 社長が、二人のトークに真っ赤になって作業場のほうへ逃げるように走っていった…。
「しっかし、うちの社長も純情だよねぇ…」
 ディナが苦笑しながら呟く。
「私のマスターもそうですから…」
「へぇ…まぁ、男ってのはそれくらいの方が良いよね」
「ええ」
 二人で談笑しながら、作業場のほうへ歩いていった。

 その後、見極めはつつがなく行われ、シュヴェルテには完成した武装が送られた。
 そして、更に月日が過ぎ、『あってはならない事』は起こった…。



 その時、彼らは…



 獅遠は、病気の体を推して皇帝へと会いにいっていた。
 それをたしなめる者達もいたが、皇帝に一喝され、獅遠は今、皇帝の目の前にいた。
「獅ィ遠よ…良ぉく来た」
 皇帝が、嬉々とした声で言う。
 獅遠が信頼に値する男である事を、皇帝は知っている…いや、それを理解しているのは皇帝だけなのかもしれない。
「は、皇帝陛下もお元気そうで何よりです」
 獅遠が、それに笑顔で答える。
「で?今日は何用で来たのだ…?」
「…ここでは少し問題があります、どこか邪魔が入らない所はありませぬか?」
 獅遠が、真剣な表情で言った。皇帝もそれに気付き、静かに頷く。
「むぅ…分ぁかった、なぁらば場所を変ぁえるとしよう」

 皇帝私室、獅遠と皇帝が二人きり、護衛もいない。
「こぉこならば邪ぁ魔は入らん…安心して話すが良い」
 皇帝がニヤリと笑う。
「恐れ入ります…実は、例のスパイ騒動についての事なのです」
 獅遠が、話しはじめる。以前よりもやつれた彼を見て、病を推してまで動き続けていたのだろうということが理解できた。
「なぁるぅほぉどぉ、表で話せぬわけだな…お主、何か掴んでいるのか?」
「…まずご理解に感謝します」
 そう言って、獅遠が皇帝に頭を下げる。
「陛下も知っての通り、白竜工業は認めた者にしか武器を製造しません。
 彼女は、我々の開発した武装を使っていました。
 少なくとも、自分とディナが見極めをした限りでは彼女が裏切るわけがありません」
「…汝のぉ言う事ぉは正しいだぁろう」
 皇帝も、それに納得したように頷く。
「ご理解に感謝します。流石は我々のような国家から煙たがられるような者達を受け入れた陛下だけの事はあります」
「…汝は我ぁが友だからな」
 皇帝が豪快に笑う。
「…ありがとうございます」
 獅遠はゴホン、と咳払いをし、話を続ける。
「それで、その事態について…自分なりに色々と調査しました。
 まぁ、病人の自分が調査できる範囲なんてたかが知れていましたが…あの事件、裏で仕組まれています」
「…余ぉも薄々感づいておる…だぁが、迂闊に手出ぁしは出来んのが現状だ。
 獅ぃ遠…汝ほどの男だ、それは理解できよう?」
「はい…ですから、自分は皇帝の元に来ました…問題は、この世界全体ですから…それを前提に聞いて下さい」
「遠慮せずに言ってみよ、汝は余の友なのだからな」
 皇帝が包容力のある笑顔で頷く。まさに、皇帝、という肩書きに相応しい懐の広さである。
「何をやっているのかは自分でも掴みきれていませんし、自分にはそれ以上調査できるパイプはありませんが…
 …今回の事には、少なくとも皇帝派が絡んでいます」
 獅遠が静かに、真剣な表情で話した。
「…嘆かぁわしき事よ…戦場で、しぃかも我々の為に命を張る戦士の命を、己が謀の道具にするか」
 皇帝が悲しそうな眼で遥か遠くの戦地のほうを見る。
 獅遠の言葉で、事態の概要が理解できたようだ。
「いつか、彼女たちのような存在が生まれずに済む時代が来る事を、祈る他ありませんね」
 獅遠も静かに頷く。
「…うむ。そぉれで、汝は余に何を望むのだ?」
「え?」
「汝のことだ、ここまで話したのだから、何か頼み事があるのだろう?」
「…お見通し、ですか…その洞察力の深さには相変わらず感服致します」
「遠慮せずに言うが良い。汝の心に偽りが無く、愚かしいほどに曇りが無いのは余の心にしっかりと伝わった」
 皇帝が笑顔で頷く。
「では、遠慮なくお願いさせて頂きます…我々を『信じて』下さい。
 我々がもし、国の敵と認識されたときでも、もし陛下が我々を信じていただけるなら、自分は決して『陛下自身を』裏切りはしません」
 獅遠の眼は、真剣だった。
「フ、フフフフ…フハハハハハハハハハハハ!!!」
 皇帝が、突然笑い出す。
「成ぁる程な、汝が今何を為そうとしてここへ来たのか、大よその見当がついたわぁ!
 分ぁかった…なぁらば余は汝らを信じぬくとしよう!可能な限り支援も約束しようぞ!
 …相変わらず、面白い男よ…自らの命と立場以上に、己が『義』を貫くか!!」
「これが、自分の性分ですので」
 それに、獅遠も笑顔で答える。獅遠も、皇帝がどういう人物か良く知っていた。
 だから、信頼した上で彼に行動開始を明かしたのである。
「フフ…どうやら、汝は現在の余にとっては本当に必要な人間らしいな…汝に頼みがある」
「何なりと」
 獅遠が、皇帝にひざまずく。
「…これからも、一片も曇る事無くその心を保ち続けよ。この先、この世界がどうなろうともな」
「誓いの儀礼、というものをお望みならばこの場でその証を立てましょう…
 この命、燃え尽きるまで、この心を守り抜くことを誓います」
「…うむ!白竜獅遠よ、その誓いしかと見届けた!!」
 皇帝が威厳ある声で答えた。

 その直後…
「あの…ところで、以前頼んでいたものは出来上がってます?」
 獅遠が、こっそりと皇帝に耳打ちする。
「…もぉちろんだとも。それに、こぉれならこの密談の言い訳も立つ。
 …ディナによぉろしく伝えておいてくれ」
 皇帝が再びニヤリと笑った…


 エントリヒ帝国首都ニーベルンゲの片隅には、ひっそりと、そして、明らかに異質な存在感を放つ町工場が存在する…。
 その名は、白竜工業。
 かつて楼蘭に居を置いていた、気難しい職人達の溜まり場…。

 その更に奥に、黒板と円形の机が存在する部屋がある。

「お帰り、社長!」
 ディナが笑顔で獅遠を迎える。
「ディナ…ただいま帰った」
「で?皇帝陛下の協力は得られそう?」
「ああ、流石は陛下だ、俺の心を理解してくださった」
 獅遠が笑顔で頷く。
「…謀殺されたシュヴェルテの仇、それに、ジークの心を傷つけた罪は重いよ…絶対に、この落とし前はつけてやる…!!」
 ディナが、右手の拳を握り締め、呟く。
「ディナ…ああ、その意気だ。我々は我々の義の元に動く!
 旅の支度を整えよ!俺が行けない分、お前に託すぞ!!」
「了解!全ては我らが正義の為に!!」
 ディナが剣を掲げる。
「…あ」
 そして、その直後、社長とディナは同時に沈黙した。
 ディナが掲げた剣が、天井に刺さったのだ。
「…はぁ、またか」
「…てへっ…やっちゃった♪」
 ディナがいたずらっ子ぽく舌を出す。
 一体これで何度目だろうか…ディナは毎回こういうタイミングで天井に剣を刺すのだ。
「まぁ良い、ここは俺が直すから、お前は旅支度を整えろ…それと」
「?」
「…旅立つお前に餞別だ」
 獅遠が、ディナに大きめの袋を投げる。
「これは?」



「お前が楽しみにしていた、皇帝特製ジークフリートの抱き枕だ」



 …白竜工業は、馬鹿の集団だ。
 そう思っているものは多い。
 事実、この世界においては、とんでもない馬鹿だ。

 だが、こんな馬鹿がいるのも、この世界なのだろう…
 こんな馬鹿が、どうにもならない事に必死になるのも、この世界なのだろう…


そして、新たなる戦いへと物語は続く…



あとがき
と、言う訳でマーク殿とのコラボの為に書いてみましたよ~!
皇帝は…何というか、俺の脳内では人格者の変態紳士、というイメージが強く、
社長と白竜工業が認めたのは国というより彼個人、といった側面が強いのです。
よって皇帝と社長は友人です。
この後ディナは旅に出ますが…あ、これはこち白本編や出張版とはパラレってますのでよろしくお願いします。
こち白のディナは旅には出てません(爆)

…そして最後に…

社長、わざわざディナの為にワンオフで頼んでおいてたんですねぇ、ジーク抱き枕ww
…そして皇帝も懲りないお人だww
元ネタ考案の方々、勝手に使って申し訳ないorz
最終更新:2008年12月14日 21:44
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