アンティフォナ作戦 1

(投稿者メイン:店長 サブ:フェイ、ニーベル)

突如、クロッセル連合国とザハーラ共和国との間のより、ワモン種を中心とするGの一斉移動が近日確認された。
グレートウォール戦線の空白地域を突くようにして北上するGはこのまま行けばクロッセル連合国への到達を意味する。
この場で最も近い地域に戦力を持っているのは”教会”。
それを受けて、教会はその対応策を練るにいたる……。

○月□日 クロッセル連合国国境30km地点
”教会”移動本営テント内
時刻 10:26

双眼鏡をしまいながらテントの中へ入っていっていく一人の神父の格好をした青年。
彼は教会の異端審問官と呼ばれる役を担う一人……アガト助祭。

「いや、流石にすごい量だな」

無論Gのことである。彼は先ほど外から眺めた──といっても見えたのは砂埃であって、直接Gを見たわけではない──感想を呟いた。

「よくもまぁ、気軽に言えたものだな」

そんなアガトを見て呆れた口調で言葉を漏らすのは同じ異端審問官であるマークス助祭である。
彼らの間に階級差はない。

「直接見ないと把握できないことだってあるさ。主戦場まで大体あと1時間前後ってとこか」

テントの中央にはここら辺を記した紙の地図が広げられており、その地図の上には青い凸の形をしたコマ──自軍を示す物に赤いコマで示されたいまより北上してくるGの群れを表す物とが置かれていた。 
そして地図には幾多もの書き込みがあり、報告に従って赤いコマのいちを移動させられていく。
同じテントの奥のほうで教会の三姉妹……ヘレナとテレサ、アリッサの三人が立っている。
彼女らはただ黙って二人のほうを見守っていた。あくまで教会の戦力という扱いであるためだ。

「……突然の奇襲、しかも戦力が整っていないこの場にだ。どう考えてもこのままでは飲み込まれるだけだぞ」
「そうだな。ヨロイモグラがいなかったことが不幸中の幸いか」
「……アガト、貴様は危機感というのがないのか?」

場を見つめてながら、マークスはアガトに糾弾する。

「始まる前から緊張感で押しつぶされてたら何も出来ないだろ?」
「緊張感が無さ過ぎるのもどうかと思うがな。……さて本題だ」
「……そうだな。さて、どうするか」

アガトはマースクの目線にも怯まず、含みのない口調で言い返す。マークスはいつも通りの彼を見て話題を切り替える。
まるで普段の挨拶代わりに交し合う二人は、最初から何も無かったかのように解決するべき問題に取り組む。

「相変わらずマークス助祭とアガト助祭は仲悪いわねぇ」
「もぅ、テレサ姉様は……」

蚊のような消え入りそうな小声でつぶやくテレサとアリッサにヘレナは黙り、目を瞑りながら仁王立ちしている。
動かざるごと美しい彫刻のごとくである。

「……今の兵力では絶対に耐えきれん。かといってなにもせずただ待っていれば……援軍が到着す

る前に我々は奴らの胃の中だ」
「ほうほう、それで?」

二人の会話を聞かない周囲の教会の隊員らはその間も定期報告などを受けて、さらに書き込みとか増やしていく。
情報も逐次集められており、いつでも教会の司令官たる異端審問官らに参照できるようにテーブルの上に資料が置かれていく。

「……犠牲はつきものだ。
戦車によるバリケードを築きありったけの支援砲火。その後に歩兵分隊による波状攻撃。
一隊が攻撃した後素早く後退しもう一隊が離脱する部隊の安全確保の支援砲火を行ない、
……メードによる攻撃を仕掛ける。それを後退しつつ行なう」
「まぁ待てよ。一番前の部隊はどうなる」
「犠牲は付きものだと言ったろう」

マークスは告げる。
最小限の犠牲をもって最大の効果を齎せる。
コスト重視のこの作戦では、一の犠牲で九の成果を残すというもの。
軍人としては文句のない作戦だ。

「確かに効率を考えれば最善といえるわねぇ~」
「……確かに、そうですけど」

傍から聞いている三姉妹のうち、アリッサは言いようのない淀みを感じた。
確かにマークス助祭の話は正しいと理解はしている、だが切り捨てられた一は……と考えてしまうのだ。

「……はっ!」 

そんなアリッサの思いを他所に、マークスの模範解答に近い正解に対しアガトは鼻で笑った。

「…ほう。鼻で笑うか 小僧」

ただでさえ鋭い目つきがさらに鋭くなり アガトを刺すように睨む。
目線が針のようにアガトへと突き刺さるが、アガトは自信満々に告げる。

「当たり前さ! 犠牲を出すなんて真っ平御免だ」
「……ならば貴様は犠牲を出さずに、この危機を乗り越えるとでも。……笑わせるな青二才」

再びの衝突。最初のとは比べ物にならない険悪な空気がマークスより流れ込む。
下手したら拳を交えた争いになるかもしれない……二人のことは嫌いではないアリッサは気が気ではない。

「まーたやらかすのかしら?」
「もう、何楽しそうにしているんですかっ……!」

不謹慎な台詞をのたまうテレサに対し、アリッサは小声ながらも叱る。
テレサはそれでも後の顛末を知っているかのように余裕の表情を浮かべていた。

「当然。それが出来ずになんのための指揮官だ」
「指揮官というものは被害を最小限にし、作戦を遂行させる。…余り出過ぎた言葉は口にするなよアガト」

あまりにも理想のみで現実を見ようとしないアガトに、さらに怒気が混じらせるマークス。

「作戦の遂行? じゃあ聞くが、なんのために戦ってるんだ?」
「決まっている。我らが民の為だ」
「なら、ここにいる皆も護ってやらなきゃな」
「兵士は民を守る為の壁だ…現実はそこまで甘いモノではない」

マークスのかなり険悪な視線に、辺りにいる部下達が静まりかえる。

「はは、残念だったな。俺たちは軍じゃない。有志だ」
「……なんだと」 

ぽん、とマークスの肩を叩く。そのまま横を通り過ぎてテントの入り口へ向かう。

「アガト助祭の勝ちかしら……?」
「まだ、そうとは決まって無いと思いますが……」

アガトの方向へ視線を移していくマークスを尻目にアガトは答える。

「ゆっくりと後ろで笑ってみててくれ。俺たちなりの遣り方をさ」

そして全くの……澄み切った笑みで三姉妹の方を見る。
そこに微塵の憂いは無い。

「さぁ、行こうぜ。完全無欠の勝利にむけてさ!」
「……貴様、それで作戦を遂行できければどうなるか。 分かっているな」

じっと見つめるマークス。
言外に今回の作戦の結果次第ではただでは済まないぞ、という警告が含まれていた。
そんなマークスに振り向いて、まるで子供のような笑みをうかべて断言する。

「護れば良いんだろ、全部!」
「──了解しました」

今まで目を瞑って待ってたヘレナが目を開いて、アガトのほうへと歩み始める。

「ヘレ姉が動くならしかたないわね~」
「あの、マークス助祭……その、言ってることは正しいと思います。
けど、少しでも皆さんを守れるなら……そちらにかけてみたいのです」

アリッサがマークス助祭に対して頭を下げながら言葉を投げかける。
その言葉を受けて、今まで強面だったマークスの表情は緩んだ。

「……やってみろ。それにお前が謝ることではない」
「あ、はい……」
「そういうこと。すべては助祭様の責任なんだから♪」
「そ、そんなこと気にしていません! それではマークス助祭、いってまいります」
「テレサ、アリッサ。いきますよ」
「よし。それじゃ、行くぜ!」 

アガトは早速その場の全員に声をかけて指揮を執りはじめる。
アガトの檄を受けて、各々はテキパキと己のするべき行動を開始していく。

「了解、これよりセントレア教会はアガト助祭の指揮により戦闘行動を開始します──アガト助祭、作戦名をいかがしますか?」

通信を担う兵がアガトに、全軍指揮官に聞く。
少しばかり司令官となったアガトは考え、

「そうだな、作戦名は……アンティフォナだ」
「了解、これよりアガト助祭指導の下で作戦を実行する。
作戦名はアンティフォナ。全軍全力を挙げて作戦に臨め──我らが神の加護があらんことを!」

この時、この作戦の名前を決定した。

「我らが神の加護があらんことを!」

 周囲が意気軒昂している最中、眼を閉じるマークス。
──見せてもらうぞ。アガト、お前の理想の行く末を。
そして柄に無く、彼の成功を祈る自分がいることを再発見した。

「──これより三姉妹も出撃します。指示を、アガト助祭」
「ここはビシッと決めないとね、助祭?」
「……がんばります」
「任せておけ。テレサは突撃。相手の霍乱を頼む。
ただしお前の打撃力は後々までちゃんと動いてもらうから絶対に無理はしないこと。
ヘレナはテレサ及び他の第一陣の援護を頼む。
アリッサは後方で第二陣と待機。第一陣の様子をみつつ、危険になったらすぐ入ってもらうから気は抜かないでくれよ?」

 大まかな作戦内容は既に決まっていたのか、アガトは三人に夫々所定の行動を伝える。
長々としゃべらず、三姉妹にやるべきことを伝える。
この分かりやすい説明ができることも、アガトが選ばれた理由なのかもしれない。

「了解しました」
「いいわね~わかりやすくって!」
「もぅ、テレサ姉様は……了解です」
「心配しなくても随時詳細な指示はだす。聞き逃すんじゃないぞ?」
「んふふ、ここはこのテレサ様におまかせよ~♪」
「……まったくもう。テレサ姉様は」

 物静かなヘレナは了解を示す最中、浮かれているテレサの隣でアリッサがため息を吐く。
ため息の後はいつもの調子になったなと微笑を浮かべる三女。
もう、最初の不安は影も形もなくなっていた。
最終更新:2009年01月07日 21:03
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