(投稿者メイン:店長 サブ:フェイ、ニーベル)
「報告──
ワモン種、全体の四割を掃討! 順調です」
少し興奮ぎみに通信兵が伝えた。
彼自身もこの報告に半ば信じがたいものに違いない。アレほど劣勢だと当初から言われていた彼らが、逆にGを押し返しているという事実を。
「よーっし、たっぷり弾丸準備完了っ! 戦線に戻るわ」
四割撃破の報告にやや遅れる形で、弾丸補給を終えた
テレサからの報告が伝わる。
その一方でテレサの分まで踏ん張っていた
ヘレナの消耗──特に吶喊後に自由発射させていたコイルガンの消耗が気がかりだ──を考慮して、テレサと交代させるべきとアガトは判断する。
「了解。……A~F隊、前に出れるものはテレサに続け! ヘレナは一度下がれ! コイルガンを休ませないとな」
「了解……!」
「いっくわよー!」
ヘレナからは明瞭な、テレサからは気合の入った返事が返ってくる。
再度の入れ替わりを行い、前半組にとっての二回目の突撃。
その勢いは最初と変わりないほどだった。その突撃力は今まで引き受けてくれた友軍を救い、そして借りを返せと叫んでいるようだった。
テレサを先頭に展開していく部隊と入れ替わるようにヘレナは一旦交代する。
その際、偶然すれ違ったテレサとアイコンタクトを交わした。
「……。……あと五割……か」
マークスは焦がれる思いで望遠鏡を覗いていた。
次第に、じわじわと。這うような速さだがGの数が減っていく様を見る。
彼が出来なかったこと、考えなかったことが実現しようとしていた。
「おらおら~っ!」
凄まじい勢いで弾丸を討ちだすセイントグレイシスは、その銃口をマズルフラッシュで彩られ、その光が僅かにテレサを照らす。
三姉妹で一番面制圧力に優れたテレサが前にでることにより、瞬く間に休んでた分を掃討という形で補っていく。
「おにい……じゃなかった、アガト助祭。こっちは?」
ついつい口癖となってしまった呼び方をしかけた
アリッサから、自分に対する指示を求める通信が来る。
今のところ、テレサの攻撃力がGの前進を止めてるという状態だ。補給をするなら今のタイミングが最適だろう。
「……。一度退いて弾薬補給だ。無理して戦って負けたくないだろ?」
「うん、……じゃ、戻るね」
「ああ。……テレサの援護だ、後方部隊は少し前に出るぞ! ヘレナとアリッサが再行動可能になるまで」
「ちょっと、アガト助祭!?」
自らもライフル銃を取り、司令部を守ってた後方部隊に前進命令を下す。
その非常識な近くにいた兵士らが驚いて、必死にアガトに早まったことをしないでと頼み込んだ。
「安心しろ。後方支援だけだ」
「無茶はしないでくださいよ。司令官殿」
「わかってるさ」
だが、前線に司令官が直々にやってくる──共に戦ってくれているという事実は瞬く間に同士に伝わっていく。
それは士気の更なる上昇という形で現れた。
後方部隊の到着、そしてヘレナとアリッサの補給完了と参戦。
ほぼ教会の現存戦力を全てぶつけるような状況は、Gの殺傷力を大幅に向上させることになった。
そのため、しばらく順調にワモン種の数を撃ち減らしていき、いよいよ総数が当初の一割へと向かっていく。
流石の兵士らも疲労の色が見え始めるが、次第に顔の見え始めた勝利──Gの殲滅──によって、不安の色は無かった。
「………皆、あと少しだ! …ヘレナ、テレサ、アリッサ! 悪いが散開して各個撃破に当たってくれ」
「──承知!」
「ラストスパーット!」
「あと、もう一息ですね!」
前線の兵士ら同様に、流石の三姉妹らにも疲労の色があった。
それでも、ここが踏ん張りどころと空元気を出して一気に攻勢に出る。
彼女らが前に出て、それを援護するという理想的な形になった。
「……なんとか、なるな」
マークスの呟きは数十分後に証明された。
☆
最期のワモンに、ヘレナの十字杖が振るわれた。
拉げた体から体液が飛び散り、地面に零れる。
もう一度、彼女は周囲を見渡した……そこに広がっているのはGの残骸のみ。
生きて動くGの姿は、そこには存在しなかった。
「……こちらへレナ、敵の掃討を完了しました」
「………。ミッション・コンプリートだ! 総員、怪我人の救護に当たれ!」
──数時間に渡るこの戦闘は、ワモン種の数は千匹前後という数にも関わらずに教会の戦力が重傷こそあれど奇跡的にも人的被害が皆無であった。
三姉妹も漸くひと段落しおえたことに安堵し、生き残ったことを喜ぶ。
戦場には勝ち鬨の声が上がり、その傍らでは傷ついた仲間に肩を貸したりする光景が広がっていた。
「よし、よくやったな皆!」
「……被害は負傷者のみ、か」
「あぁ~、もう疲れた!」
「私も、流石に……」
「ご苦労様です。テレサ、アリッサ…」
テレサは自分の武器を椅子代わりにして座り込んでしまう。
アリッサはテレサほどにないにしろ気疲れがある分精神的に来た感じだ。
そして一見して平然としているヘレナも、左腕の義手が小刻みに震わせている。
おそらく、コイルガンの多用の影響でフレームが痛んでいるのだろう。
「………ご苦労さん」
「ありがとう、ございます」
テントから自分の分の椅子を持ってきて、ヘレナを座らせる。
ヘレナは彼女らしく、アガトに恐縮した様子を見せながらも体は椅子への着席を促した。
疲れが一気に出たのか、ヘレナは珍しくぐったりと疲れた様子を人に見せていた。
普段なら、無理してでも隠すのだが。
「よーし、動ける奴は俺について来い、撤収準備だ!ほら、マークスも動けるんなら手伝ってくれよ」
「そうだな……私も手伝わねばな」
「はぁ~、けどなんとか目標達成できたわね~」
少しばかり座っていたことで多少の元気が戻ったのか、テレサがアガトらに話しかけてきた。
アリッサは他の二人ほど派手に動いていない分元気だったので、撤収の手伝いをしている。
アガトやマークスといった後方組も、倒れこんだ兵に肩を貸して運んでいる。
身分や立場の上下は、この際だれも言わなかった。
「ったりまえだ。ま、俺だけの力じゃないがな。だろ?」
「ええ…そうです。これは皆の力によるものです」
「一番の立役者達はそこで休んどけ。よっと……」
「マークス助祭……その」
「……ほら」
隣で物資を運んでいたアリッサが気を使ってマークスに話しかける。
マークスはアリッサの運んでいた物資を持ち上げ、運ぶ。
「あ、ありがとうございます……って、いえ、そうじゃなくてその、落ち込んでたりとか……してないですか?」
「……どうした」
相変わらずの鋭い目線で、アリッサを見る──本人には見つめるのつもりだが、その表情からにらんでいるとしかいえないような目つきになっている──マークス。
「う、その……ええと……」
「……犠牲は少ないほうが良い」
「そ、そうですよね…」
嫌いではないが話しづらそうにするアリッサに、マークスは彼の言うところの笑みを浮かべる。
それでも表情には口の先が少ししか歪んでいないようにしか見えない。殆ど変化が見受けれなかった。
これが普段彼を警護している童元であれば、主の変化を知ったかもしれないが。
「……話しにくければ無理しなくて良いぞ?」そう言うと負傷者に肩を貸し衛生兵のところへ
「あ、はい……」
──上手く話せないなぁ。
アリッサはマークスのことは嫌いではなかった。
しかしながら、あの目でにらまれるといいたいことがいえなくなってしまうのだ。
駄目だとは分かっていても、どうしてかあの表情が苦手なのだった。
「おーい、どうかしたか?」
「あ、いえなんでもありませんっ…てつだいまーっす」
「大丈夫かアリッサ? 結構無理してもらったから休んでても良いぜ?」
「テレサ姉さまやヘレナ姉さまはまだしも、私はそんなにうごいていませんし……」
目線を二人に向けると、テレサとヘレナは座ったまま殆ど動かずに疲れを癒している。
先ほど声を掛けてたテレサだったが、やはりどこか無茶をしてたのだろう。
二度目の着席で根を張ったかのように動けなくなったのだ。
「そっか。じゃあ、頼むぜ」
「はいっ」
「マークス、悪いんだがちょっと撤退指示頼むー」
「……了解した」
部隊の方へ出向き 各隊の隊長へ指示を送るマークス。
その間にアガトはテントに戻って、自分の水筒から水を出し、タオルを濡らしてヘレナとテレサのとこに持っていった。
汗からGの体液やらですっかり汚れてしまった彼女らに対する差し入れだ。
「ほら」
「さんきゅー♪」
「感謝を……」
「帰るときになったらちゃんと呼びに来るからな」
「……出し終えたぞ、アガト」
「アガト助祭~。おわったよー」
彼女らが受け取ったタオルで顔を拭っている間に、司令部のあるテントに各部隊の隊長らへ細かい指示を出していたマークスが戻ってきた。それに付いてくるように、アリッサも手伝いを終えて戻ってきた。
「おっと、ありがとな」
「……ふん」
相変わらず人が近寄りにくい目でアガトを見るが、やはりアガトは気にした様子を見せずに、マークスの肩をぽんぽんと叩く。
「さ、町に戻ろうぜ、マークス」
「……指揮は見事だった」
ぼそり、と真正面を向かずにマークスが聞こえるか聞こえないかぐらいの声の大きさで呟く。
その呟きは、アガトは聞き逃さず。
「サンキュ……ヘレナ、テレサ、戻るぜ!」
「りょーかーい、さって帰ったらぱーっとしよう~」
「テレサ、ほどほどにしておきなさい?」
「ほどほどに、ね」
こうして、ハイデラ平原で行われた戦闘は終結。
補給その他のためにクロッセル陸軍と入れ替わるように本拠地である
セントレーア市国へと戻る教会。
この戦いにおいて成しえた死者無しという奇跡と共に、アンティフォナ作戦は人々の知るところとなるのであった。
最終更新:2009年01月10日 23:16