最後のチャンスを再び勝ち取った男:前編

―自殺者

人は彼らをそう呼ぶ。
恋人や故郷、子供や戦友を失った者達である彼らは、EARTHから支給された特殊極まりない装備を手に駆け巡る。
しかしそのような装備に限って戦果は出るものだ。
いつしか彼らは死にたくても死ねない者達として、戦場に居座り続けた。
そして彼らは「ラストチャンサー」と呼ばれるようになった。


ある戦線の塹壕で、18歳ほどの少年は、奇妙な銃剣を着けた身の丈ぐらいもあるライフルを構えていた。
それは、拳半分ほどの杭を持ち、引き金が二つも有る銃だ。
奇天烈な装備を持つ少年の目は黒く、その光は限りなく濁っていた。
その横に居た中年の男性が持つ装備は銃ですらなかった。
彼は両手で大槌を持ってはいたのだが、その先は誰が見ても明らかであろう、爆薬だった。
その男の目もまた濁っていた。

杭付きのライフルを持つ少年、ラウルは後ろめたい過去を持っている。
それは、自らの町を守ろうと奮闘はしたのだが、得体の知れないGに襲われて町も部隊の人間も片思いの女をも失った過去。
その過去から逃げるかのように、ただ終わらぬ復讐を果たす為に彼はラストチャンサーの一員になった。
ただ終わらぬ復讐、それは唯ひたすらにGとの戦闘を続ける事であり、彼は死ぬ気など毛頭も無かった。

「良い眼をしてきたなあお前も。来た頃とはだいぶ違うぜ。」

ラストチャンサーは常に前線に在る。
半端な兵士など直ぐに死に、それを補充する為に新兵が送り込まれる。
だからこそ自然と精鋭とルーキーだけとなる。
その上、その精鋭さえも使えぬ装備を持たされて死ぬ事も多い。
その中で生き残ってきたラウルは運が良く、その上生き残るだけの能力を有した猛者とも言える。
しかし能力が在るから生き延びるわけではないのが戦場である。
何れは彼も死ぬだろう。

「でもあんたらと違う所があるんだぜ。」
「おいおい、そりゃなんだ?」
「俺は死ぬ為にここに居るんじゃないんだ、一匹でも多く奴等をぶち殺すする為にここに居る。」

そうラウルが言うと、中年の男は呆れてこう言った。

「そりゃたいしたことだ、できればだがね。」

それを聞いたラウルは無論腹は立てたが、どうする事も出来なかった。
何故なら塹壕に向けてGの群れが接近しつつあったからだ。
この塹壕は丘の上に在る。
つまり陸戦型Gの頭上を取っている。
ならば、確実に先制射を与える事は出来るはず。
そうであるはずだった。
そう、彼らの頭上を取られない限りは。

『畜生!奴等器用に上からも来やがった!』

どうやら、彼らの周辺に数体のフライが飛んできているとの報告が上がった。
これにより彼らは上を取っていると言うアドバンテージを少し失ったと言える。
それ言うまでも無く、見晴らしの良い丘と言う場所はフライにとっては最高の狩場であるからだ。

『来るぞ!弾幕を張れ!』

ワモンを狙う筈だった対空砲座も狙いを地面から空中に移し、曳光弾をばら撒く。
それを追うように対空戦G用装備がフライに殺到する。
散弾や対空ロケットの束が空を彩り、フライの群れは跡形も無く砕けたが、その下では武装の暴発や操作ミスで肉片が飛び散り、火達磨になった人間が転げ回る。
精度の悪い部品や無茶な設計など、絶望的な要素が詰められた武器揃いであるため、そうなってはおかしくはなかったのである。
ラストチャンサーの武器とは皆そのようなものであり、兵器の操作ミスで死ぬ事など良く在ることとして部隊内でも認識されている。
それはラウルが持つライフルにも同じような事が言えた。
だからこそラストチャンサーで生存するには運が必要なのである。

「次は下から来るぞ!ならず者ども、銃を構えろ!」

部隊長が号令を出したと同時に、何人かの兵士は各々が持つ奇怪な装置を構え、それ以外の新米兵士は操作に戸惑いながらも構え始める。
無論、ラウルは一瞬でその対物ライフルを構え、照準をワモンの頭へ定めていた。
次第と距離が縮まる中、少年は蟲への憎悪を沸き立たせている。
憎悪こそが少年の生きがいであった。

「撃て!撃ちまくれ!」

瞬間、この世のものとは思えない轟音や煙が立ち、様々な攻撃がGを襲う。
少年が放った対物ライフルの一撃はワモンの足を食い千切り、続けざまに少年の隣に居た3人かの兵士が連携して一匹一匹潰していく。
のた打ち回るワモン。弾け飛ぶラルヴァ。そして反動に耐えられずに気絶した人間や、暴発によって体が吹き飛ぶ人間。
人間側の損害は自滅によるものが多く、反面腐っても最新鋭なのかGは数を減らしつつあった。

「もっとだ!もっと撃ちまくってやる!」

犯場興奮状態になっていたラウルは一つ違和感を自分のライフルから感じた。
それまでに銃身が異常加熱されていた事もあり、弾倉付近も加熱していたのかもしれない。
それは半分程は第六感の物だっただろうが、それを感じて彼は自分のライフルを投げようとした。
その瞬間、ライフルは爆発し、ラウルは塹壕の壁まで吹き飛ばされ、彼の意識は次第に薄れてきている。

「畜……生、こん…なところで………!」

薄れ行く意識の中、少年は死んでしまうであろう悔しさと果たせぬ復讐への未練を感じ、全てが闇に帰るような感覚に襲われた。


―後編に続く
最終更新:2009年01月22日 21:50
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