主役 ◆SP/JeyPn5I
「いやいや……この度はとんだ災難でしたねぇ……」
やや不快に感じる湿り気が充満したレストルームで、男はただ一人鏡に向けてそう言葉を発した。
もちろんそれは誰かに聞かせるためという訳ではない。
間抜けにも殺し合いなどというものに巻き込まれてしまった不運な自分に対する皮肉だ。
もちろんそれは誰かに聞かせるためという訳ではない。
間抜けにも殺し合いなどというものに巻き込まれてしまった不運な自分に対する皮肉だ。
鏡に映るのは、栗色の髪の毛を丁寧になでつけ黒縁の丸眼鏡をかけた恵比須顔の男。
着込んだ上物のスーツとネクタイはピシっとしており、一見すればどこかのエリート銀行員という感じだった。
着込んだ上物のスーツとネクタイはピシっとしており、一見すればどこかのエリート銀行員という感じだった。
一見すれば……ということは、つまり彼の正体は銀行員ではない。
仕事の内容的には似てなくもないが、正しくは彼はニューヨークに縄張りを持つギャングの一員だった。
しかし、マフィアではない。マフィアではなくその組織は”カモッラ”という。
一般人からしてみればどちらでもよさそうなものだが、これを間違うと彼は不機嫌になるので気をつけねばならないだろう。
仕事の内容的には似てなくもないが、正しくは彼はニューヨークに縄張りを持つギャングの一員だった。
しかし、マフィアではない。マフィアではなくその組織は”カモッラ”という。
一般人からしてみればどちらでもよさそうなものだが、これを間違うと彼は不機嫌になるので気をつけねばならないだろう。
そして、そのカモッラの一つである組織の名前は――マルティージョ・ファミリー。
鏡の前の男はそこで久しく”出納係(コンタユオーロ)”を勤めている者だ。
ファミリーに出入りする金の流れを管理、監視すると……やはり、銀行員と仕事は似ているかもしれなかった。
鏡の前の男はそこで久しく”出納係(コンタユオーロ)”を勤めている者だ。
ファミリーに出入りする金の流れを管理、監視すると……やはり、銀行員と仕事は似ているかもしれなかった。
「……ったく、なんでこんな目に会うんだ?」
一つ嘆息すると、男は伊達でしかない眼鏡を外し懐へと仕舞った。
ネクタイを引き抜き丸めてポケットにつっこむと、シャツの襟を開き、手ぐしを通して整えられていた髪を下ろす。
そして鏡の前の男の印象が一変する。銀行員のような男から――……
ネクタイを引き抜き丸めてポケットにつっこむと、シャツの襟を開き、手ぐしを通して整えられていた髪を下ろす。
そして鏡の前の男の印象が一変する。銀行員のような男から――……
実際の年齢よりも若く、少年という形容が相応しい童顔。
ほどほどにアグレッシブそうで、かつ癖のない風貌。
ギラつくというほどではなく、適度に意思が強そうで前向きな表情。
ほどほどにアグレッシブそうで、かつ癖のない風貌。
ギラつくというほどではなく、適度に意思が強そうで前向きな表情。
……――主人公……っぽい男へと。
◆ ◆ ◆
「あそこにいたラッドって……”あの”ラッド・ルッソだよなぁ……」
近くに放置されていた鞄の中身を検めながら、少年――フィーロ・プロシェンツォは浮かんだ考えを言葉としてこぼす。
「――義手もしてないってことは……あの”刑務所”……少なくともあの前。いや、”列車”より以前なのか。
なんでか……なんて今は考えてもしょうがないんだろうけど厄介な話だな。
あいつは俺のこと知らないだろうし……――と!」
なんでか……なんて今は考えてもしょうがないんだろうけど厄介な話だな。
あいつは俺のこと知らないだろうし……――と!」
鞄の中から出てきた一枚の紙の中に、自分とラッド・ルッソ、そして他にも知った名前を見つけてフィーロは目を丸くした。
「クレアもいるのか、頼もしいんだか恐ろしいんだか……そもそも”いつ”のクレアかってのが分からないが……。
それに、エルマーとクリストファー……、グラハムってのはラッドの弟分だっけか?」
それに、エルマーとクリストファー……、グラハムってのはラッドの弟分だっけか?」
フィーロは壁にもたれかかり盛大に大きな溜息を吐き出す。
「よりにもよって、どうしてこんなに厄介な連中ばっか集められてんだよ……」
――いや、殺し合いなのだから当たり前なのか?
そう、やれやれと首を振りながら名簿を仕舞うとフィーロは鞄から帽子を一つ取り出した。
先の丸い漆黒の山高帽で、ワンポイントなのか派手な鳥の羽根がついている。
だがそれよりもこの帽子の奇異な点と言うと……
そう、やれやれと首を振りながら名簿を仕舞うとフィーロは鞄から帽子を一つ取り出した。
先の丸い漆黒の山高帽で、ワンポイントなのか派手な鳥の羽根がついている。
だがそれよりもこの帽子の奇異な点と言うと……
「これで戦えって? 俺は大道芸人か何かかよ!?」
帽子のつばの部分を捻るとそこから刃が飛び出してくるというところだった。
仕込まれた何枚かの刃は湾曲しており、最後まで捻ると船の尾についているプロペラの形となる。
フィーロの脳内にはある事情によって膨大な武道や兵器の情報が詰まっていたが、これは初めて見るものだった。
仕込まれた何枚かの刃は湾曲しており、最後まで捻ると船の尾についているプロペラの形となる。
フィーロの脳内にはある事情によって膨大な武道や兵器の情報が詰まっていたが、これは初めて見るものだった。
まぁ、ないよりかはましかと……そうフィーロがその帽子を被った時、階下から二発の銃声が耳に届く。
◆ ◆ ◆
レストルームより飛び出し、廊下に出たところでそこが病院の中だと知るとフィーロは慎重に静かな廊下を走った。
手近な階段まで一息でたどり着くと下を覗き込み、また慎重に音を立てないようにそこを降りてゆく。
手近な階段まで一息でたどり着くと下を覗き込み、また慎重に音を立てないようにそこを降りてゆく。
「(別に誰かにどうこうされるような人間は知り合いにはいないし、赤の他人にも興味はないが……)」
かと言って己の敵となりうる人間を放置するわけにもいかないとフィーロは銃声のした場所へと近づいてゆく。
四階ほど下り一階につくと、リノリウムの床で靴底が音を立てないようより慎重にゆっくりと廊下を進みその場所を探る。
四階ほど下り一階につくと、リノリウムの床で靴底が音を立てないようより慎重にゆっくりと廊下を進みその場所を探る。
「(……もう終わった後って感じか)」
特徴的な生臭さを鼻でとらえるとフィーロは進む足を速め、そしてその現場へと辿りついた。
床に倒れている金髪の少年は、年若くしてギャングスターとなったという点がフィーロと通じていたのだが、
それを知る由もない故にフィーロはそれをただの死体として検める。
床に倒れている金髪の少年は、年若くしてギャングスターとなったという点がフィーロと通じていたのだが、
それを知る由もない故にフィーロはそれをただの死体として検める。
「(さっきの銃声でってのは間違いないか……にしても随分と至近距離だったんだな)」
仰向けに倒れた少年の頭に銃創は二箇所あり、その内の一つである右目の銃創はその周囲に火傷が見られた。
これは銃口から噴出したガスや火薬が原因で起こるもので、つまり彼は文字通り目の前に銃を突きつけられて死んだということになる。
これは銃口から噴出したガスや火薬が原因で起こるもので、つまり彼は文字通り目の前に銃を突きつけられて死んだということになる。
「騙まし討ち……か?」
とりあえず”犯人”の気配が近くにないことを確認するとフィーロは懐から一つの虫眼鏡を取り出した。
普通のよりもややレンズが大き目で持ち手にダイヤルのついたそれを少年の死体へと向けると、探偵の様に覗き込む。
ほどなくして、そこに床に倒れた少年の”生前の姿”が映し出された。
普通のよりもややレンズが大き目で持ち手にダイヤルのついたそれを少年の死体へと向けると、探偵の様に覗き込む。
ほどなくして、そこに床に倒れた少年の”生前の姿”が映し出された。
「冗談かと思ったら本物か……、進んだ科学は魔術と見分けがつかないっていうけど本当だな」
”タイム虫めがね”――それがその道具の名前だった。
付属の説明書によると”覗いた場所の過去が映し出される”というもので、それは今真実だと確認された。
未来が見えるというほど都合はよくないが、しかしこういう誰かを殺した誰かを知るには都合がいい。
だが、しかし――……
付属の説明書によると”覗いた場所の過去が映し出される”というもので、それは今真実だと確認された。
未来が見えるというほど都合はよくないが、しかしこういう誰かを殺した誰かを知るには都合がいい。
だが、しかし――……
「…………? …………”いきなり撃たれて、いきなり死んだぞ”?」
撃たれた少年は死ぬ間際に金色の人形の様なものを隣に出していた。
それは驚くべきことだったが、それよりも驚いたのは銃を撃った者……いや、銃すら見えなかったことである。
虫眼鏡を左右に振りそこらの”過去”を見渡してみるが、しかしそこにそれらしい姿は映らない。
それは驚くべきことだったが、それよりも驚いたのは銃を撃った者……いや、銃すら見えなかったことである。
虫眼鏡を左右に振りそこらの”過去”を見渡してみるが、しかしそこにそれらしい姿は映らない。
更に過去へと遡ってみるが、しかしやはり少年一人だけだ。
なにやら呟いているようだったが、しょせん虫眼鏡なので音までは伝わることもなく彼が何を口にしたのかはわからない。
なにやら呟いているようだったが、しょせん虫眼鏡なので音までは伝わることもなく彼が何を口にしたのかはわからない。
――犯人の手がかりは、虫眼鏡の中には一切映らなかった。
◆ ◆ ◆
「見えない殺人者がいる――ってことか」
厄介だな、とこぼすとフィーロは虫眼鏡を懐に戻し、とりあえずは裏口へと向けて進み始めた。
何らかの道具を使ったのか、それとも殺人者本来の能力なのか、またはトリック殺人なのか……?
それが何なのかは不明だが、近くにいるということならば移動すれば離れられるだろうとフィーロは歩く。
何らかの道具を使ったのか、それとも殺人者本来の能力なのか、またはトリック殺人なのか……?
それが何なのかは不明だが、近くにいるということならば移動すれば離れられるだろうとフィーロは歩く。
「”INVISIBLE MURDER” ……まるでホラー映画だな。けど、”21世紀”じゃあ時代遅れだぜ」
過去でもなく未来でもない現代――”2002年から呼び出されたフィーロ・プロシェンツォ”は扉を潜り夜の中へと出る。
狂騒の夜に主人公の物語が始まる。
――”大騒ぎ(バッカーノ!)”が今から始まる。
【E-5/病院・裏口の外/深夜】
【フィーロ・プロシェンツォ@BACCANO!】
[状態]:健康、不死者
[装備]:スピードワゴンの帽子@ジョジョの奇妙な冒険
[道具]:支給品一式、タイム虫めがね@ドラえもん
[思考・状況]
1:とりあえず”見えない殺人者?”から離れる。
2:殺し合いを積極的にするつもりはないが、降りかかる火の粉は容赦なく払いのける。
[状態]:健康、不死者
[装備]:スピードワゴンの帽子@ジョジョの奇妙な冒険
[道具]:支給品一式、タイム虫めがね@ドラえもん
[思考・状況]
1:とりあえず”見えない殺人者?”から離れる。
2:殺し合いを積極的にするつもりはないが、降りかかる火の粉は容赦なく払いのける。
※タイム虫めがねは過去しか見れません。また、音声は聞こえません。
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