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黒の騎士団(前編)

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黒の騎士団(前編) ◆/VN9B5JKtM






真紅達があすかと別れてから10分後。

「美琴、抱っこして頂戴」
「え? えっと……こう?」
「抱き方が違う!」
「痛っ! な、何もはたく事ないじゃない」

彼女達は気付かない。



30分後。

「そう言えば美琴、あなたの荷物はクーガーに渡された物なのよね?」
「ええ、そうだけど。それがどうかしたの?」
「じゃああなたの元々持っていた荷物はどうしたの?」
「あ……。橋の傍に置きっ放しで来ちゃったから……多分、ライダー達が回収してると思う……」
「そう……。支給品は何だったか覚えてる?」
「えっと、確か銃弾とおふだよ。衛宮さんは拳銃を持ってたわ。あ、あとレストランを覗いた時に、他に犬のぬいぐるみも衛宮さんの支給品だったみたいな事を言ってたけど。
 確か……こんな風に垂れ目で、耳が垂れた感じの」
「!? まさか……くんくん、あなたもここに居ると言うの? 美琴、そのぬいぐるみは今どこに!?」
「え!? えーっと、その……。レストランの中にそれらしき物が真っ二つにされて転がってたような……」
「!?!?!?」
「し、真紅……?」
「ああ、なんてことなの……。くんくん……あなたまで…………」
「ちょ、ちょっと、しっかりして! 真紅!」

彼女達は気付かない。



一時間後。

「それにしても、あすかさん遅いわね……」
「本当、紅茶も淹れずに何をしているのかしら」
「うーん……。あ、薬とか探してるんじゃないかしら? デイパックも持って行ったみたいだし」
「だとしても一言ぐらい断ってから行くべきだわ。美琴、探しに行くわよ」
「え、じゃあちょっと待ってて、入れ違いにならないようにメモ残すから。『放送までに戻ります』これで良し、と。って、ちょっと真紅、待ってってば」

彼女達は気付かない。
橘あすかに訪れた不幸にも、病院に迫りつつある脅威にも、四人の殺人者達が手を結んだ事にも。

彼女達はまだ気付かない。



   ◇   ◇   ◇



橘あすかの殺害後、今まで使用していたバズーカを失ったラッド・ルッソは代わりの武器を求め、手に入れたばかりのデイパックを漁っていた。

「あん? 何だこりゃあ、本か? コイツは役に立ちそうにねぇな」

最初に出てきたのは螺湮城教本、第四次聖杯戦争のキャスターの宝具だ。
制限を受けているとは言え、魔術師以外でも使用できるその宝具は十分に有用なのだが、ラッドにはただの本にしか見えない。
取り出した螺湮城教本をハズレと判断し、無造作に自分のデイパックに放り込む。

「お次は、っと。お? コイツは……対戦車ライフルってヤツか? いいねぇ、コイツならあのバカでけぇロボットでもぶっ殺せそうじゃねぇか!」

次に出てきたのは全長2m近い対物ライフル、鋼鉄破り(メタルイーター)。
湾岸戦争では2000m先の戦車を爆破した伝説を持つ対戦車ライフル『バレットM82A1』に無理矢理フルオート機能を追加した試作モデルだ。
1931年から連れて来られたラッドは湾岸戦争などという単語には聞き覚えが無いが、とにかく凄い銃だという事だけは理解できた。

「ん、待てよ? コイツはどう考えても人間用にしちゃ大袈裟すぎるよな。こんなモンが支給されてるって事は……。
 おいおいおい、まさかこの会場にはあのロボットみてぇなヤツがまだまだうろついてやがるって事かぁ? 楽しみだなぁ、オイ!」

強力な武器を手に入れた事でラッドのテンションが鰻登りに上昇し、新しい玩具を買ってもらった子供のようにはしゃいでいる。

「つーかこんな良いモン持ってたってのに、何でさっきの野郎は使おうともしなかったんだぁ?
 あれか? 僕にはこの玉があるからこんなものに頼らなくても死にません、とか思ってやがったのか? そうなんだろうなぁ。
 まぁ、そんなヌルい考えだから俺みたいな奴にぶっ殺されるんだけどよ。ヒャハハッ」

残りの戦利品を自分のデイパックに仕舞い込み、立ち上がる。
体に刻まれた傷は徐々に癒えつつある。失ったバズーカに代わる新しい武器も手に入った。あとは溜まりに溜まった殺意をぶつけるだけだ。

「さぁて、まずは黒スーツの野郎からぶっ殺すか。コイツですぐに吹っ飛ばしてやるからなぁ……逃げんじゃねぇぞ?」

まだ付近にいるはずのウルフウッドを殺すため、その後を追って走り出す。
そして西へと向かったラッドが見たものは、大型の四足獣の背に乗り遠ざかるウルフウッド達の後姿だった。

「何だありゃあ? ひょっとして、あの鹿みてぇな乗り物も支給品なのかぁ?
 おいおいおい、せっかくあのムカつく野郎をぶっ殺せると思ったのによぉ! そりゃねぇんじゃねぇのかぁ?」

その場で狙いをつけようとライフルを構えるが、獣が路地を曲がって見えなくなったため断念する。
それならばと周囲を見回し、その近辺で一番高いビルに飛び込む。
屋上までの階段を二段飛ばしで一気に駆け上がり、そこからウルフウッド達を狙撃しようとするが。

「クソッ! 周りのビルが邪魔で見えねぇじゃねぇか」

辺りで一番とはいえ、それでも遥か高みから密集して乱立するビル群を見下ろせるほどの高さではない。
せいぜい周りのビルよりも一、二階分だけ高い程度だ。
見晴らしの良い広場ならともかく、入り組んだ路地の隅々までを見渡せるはずもない。

「チッ! 仕方ねぇ、病院に向かうとするか。待ってろよ、電気女ぁ。今ぶっ殺しに行ってやるからよぉ!」

次なる獲物を求めて、ラッドは病院へと歩を進める。



   ◇   ◇   ◇



放送終了後、真紅と美琴は病院内にある病室の一つに居た。

「どうなってんのよ……?」

美琴の愕然とした声が病室内に響く。
その声に釣られるように、真紅は名簿に――正確にはその一点、たった今自分の手でチェックを入れた名前に――視線を落とす。
信じられないのも無理はない。真紅も最初は我が耳を疑った。

「何であすかさんの名前が呼ばれてるのよ!」

ついさっきまで行動を共にしていた仲間の死が告げられたのだから。



『橘あすか』
その名が呼ばれた瞬間、頭をハンマーで殴られたような衝撃を受けた。
目の前が真っ暗になり、聴覚は仕事を放棄し、頭はぴたりと思考を停止する。
五感を失い、ぼんやりとした意識だけがふわふわと漂う、そんな感覚。ペンを取り落とさなかった自分を褒めてやりたいぐらいだ。

一拍遅れて自分を取り戻し、その意味を理解すると、胸にぽっかりと穴が空いたような喪失感に包まれた。
次いで襲ってきたのは、ジュンの名が呼ばれた時にも、翠星石蒼星石の名が呼ばれた時にも味わった、胸を押し潰すような悲しみ。
そして、確かにそこに存在していたはずの絆を無理矢理引き千切られた、そんな理不尽な暴力に対する抑えようも無い怒り。


既に何人もの参加者が死者として名を呼ばれている以上、いつ自分達が死亡者のリストに名を連ねてもおかしくはなかった。
だが、まさかこんな形であすかとの別れが訪れるなど考えもしなかった。
正直言って、まだ実感が湧かない。
実は自分の聞き間違いか何かで、あすかは何事も無かったかのようにひょっこりと姿を現すのではないか、そんな幻想に縋ってしまいたくなる。

(それでも……認めなければならないのね……)

できる事ならば、悲しみが癒えるまでこのままじっとしていたい。
だが、この殺し合いでは仲間の死を悲しむ、そんな僅かな時間すら与えられない。
ここで自分が悲しみに飲まれて足を止める訳にはいかない。第一、あすか自身もそれを望まないだろう。

左腕の切断面をそっと撫でる。

(あすか……今一度、あなたの想いにかけて誓うわ。私は私のやり方で、この殺し合いを止めてみせる)

顔を上げた先には、まだ呆然としている美琴の姿がある。
契約の指輪で繋がっているためか、断片的な思考が流れ込んでくる。
また一人、自分を信じた人間が死んでしまった。
また一人、自分のせいで人を死なせてしまった。
恐怖、混乱、悲しみ、自己嫌悪、様々な負の感情がごちゃ混ぜになって濁り切った思考の渦。

まずは混乱の真っ只中にある彼女を落ち着かせなければならない。
彼女を捕らえて放さないドス黒い渦から、手を取って引き上げてやらねばならない。
彼女にとっては酷だろうが、それでもあすかの死を受け入れて先に進まねばならない。

あすかが居ない今、それは自分の役目だ。
そう思い、真紅が美琴に声をかけようとした瞬間。


轟音と共に部屋の壁が爆散した。



   ◇   ◇   ◇




壁を突き破って数発の弾丸が病室の中に飛び込み、美琴の座っていたベッドに大穴が穿たれた。
コンクリートの破片が額にぶつかり、じんわりと血が滲む。

「ヒャァッハハァ! おいおい、対戦車用ってだけあって、すげぇ威力じゃねぇか! こんなモン人に向けちまっていいのかよぉ!?
 オイ! 電気女ァ! まだ生きてんだろぉ!? まさか今ので死んじまったなんて事ぁねぇよなぁ!?」

狂ったように笑いながら、ドアを蹴破って現れたのは白スーツの危険人物。

「な……ラッド・ルッソ……? どうして、ここに……?」
「それなんだけどよぉ。地下で会った、ストレイト・クーガー、だったか? アイツと同じ制服着た野郎がテメェのそっくりさんを追っかけてたんだよ。
 それで、だ! ソイツが消毒液の臭いをプンプンさせてやがったからよぉ! テメェが居ると思ってわざわざ病院まで来てやったんじゃねぇか!
 名前は聞いてねぇけどよぉ、さっきの放送でテメェのお仲間が呼ばれたんじゃねぇか? オレがぶっ殺してやったからなぁ!」

その言葉を聞いた瞬間、美琴の思考が真っ白に染まる。
目の前でクローンの一人が一方通行に殺された時のように、怒りで何も考えられなくなる。
バチリと、美琴の意志を代弁するかのように火花が爆ぜる。

「……アンタが…………アンタがあすかさんを……ッ!」

瞬間。
磁力で銃を引っ張られたラッドが体勢を崩す。
部屋中のパイプ椅子が浮き上がり、四方からラッドを襲う。
カーテンレールがベキベキと音を立てて引き剥がされ、矢のように飛翔する。
病室に並べられていたベッドがふわりと持ち上げられ、勢い良く叩きつけられる。

目の前を舞うシーツを乱暴に振り払い、ポケットの中からコインを取り出す。
突き出した拳の親指の上にコインを乗せ、ベッドと壁に挟まれて身動きが取れないラッドに向けて音速の三倍で撃ち出そうとした瞬間。

「美琴!」

真紅に腕を引かれる。
体勢を崩して軌道が逸れた弾丸がオレンジ色の軌跡を描き、ラッドの足元に大穴を開ける。
床が崩れ、下階に落下したラッドが瓦礫に埋もれる。

「あ……真紅……」
「ダメよ、美琴。ここで殺してしまえば後悔するわ」

茹だった頭が急速に冷えていく。
また人を殺してしまったかも知れない、という恐怖が美琴を襲う。
ラッドの生死を確認しようと、床や壁の残骸に含まれる鉄筋を能力で操作し、積み上げられた瓦礫を持ち上げる。

「やってくれるじゃねぇか、電気女ァ!」
「ハァ……良かった、生きてる」
「それにしても喧しいわ。本当、人間のオスは下劣ね」

ラッドの生存を確認すると安堵のため息が漏れた。
ほっと息をつき、真紅に苦笑を返す。
残念ながら、ラッドに対しては真紅の言う事も正しいので否定はできない。

「悪いけど、ちょっと気絶してもらうわよ」

上から下へ、雷を落とすようにラッドに向けて雷撃の槍を飛ばす。
電撃を受けたラッドはビクリと一度だけ体を痙攣させ、そのまま全身を弛緩させた。

それを見届け、美琴は床に膝をつく。
真紅の背に腕を回し、その胸に額を預ける。

「美琴?」
「ゴメン、真紅。もうちょっとだけ、このままでいさせて……」

突然告げられたあすかの死、激情に任せてラッドを殺そうとしてしまった後悔。
少し、感情を整理する時間が必要だ。

額に感じる柔らかなドレスの感触を通じて、真紅の温もりが伝わってくる。
真紅の手が背中を撫でる度、胸中に溜まった澱が溶けていくような気がする。



数分後、落ち着いた美琴が立ち上がる。

「もう大丈夫なの?」
「うん。心配かけてゴメン。……それと、ありがとう」

ふと左手で何かを掴んでいる事に気付き確認すると、真っ白いシーツだった。
そう言えばラッドとの戦闘中ベッドを飛ばした時に宙に舞い上がっていた。
どうやらその時に掴み、それからずっと握り締めていたらしい。
せっかくなので、このシーツもデイパックに仕舞っておく。

あれだけ派手に戦闘したのに誰も来なかったため、病院内には誰も居ないのだろうとは思ったが、一応軽く見て回る。案の定誰も居なかったが。
そして病院を出て、C-4駅を調査する前に劇場に寄って行こうと西へと足を向けたところで。


爆炎が、辺りを包み込んだ。



   ◇   ◇   ◇



ロベルタミュウツー、ナイン、リヴィオ、同盟を結んだ四人はまず最初の目的地を病院へと定めた。
C-4駅から南下して図書館を通り過ぎ、劇場から東へ。
そして病院に到着した時、その入り口から二人の少女が出て来るのを発見した。
事前にナインから情報を得ていた四人には、それが真紅と美琴の二人だとすぐに分かった。
当然、迷うことなくその殺害を決意する。


作戦は驚くほどすんなりと決定した。
まずロベルタがパニッシャーに搭載されているロケットランチャーで砲撃。
さらに距離を詰め、パニッシャーの機関銃で着弾点付近を一掃する。
最後にミュウツーとナインが接近し死体を確認、もし息があれば止めを刺す。

ナインの情報によれば敵は二人とは言えその戦力は侮れない。
最大火力による先制攻撃で反撃の間を与えずに殲滅する、それが四人の選んだ戦法だ。

巨大な十字架から放たれたロケット弾が爆発し、爆音と煙塵を撒き散らす。
絶え間なく吐き出される銃弾が地を抉り、壁を穿つ。
超人的な再生力を持つリヴィオやミュウツーでも生きてはいられないほどの圧倒的な火力、美琴のような一般人なら数秒と経たず肉塊になるはずだ。人形の真紅など跡形も残らないだろう。

体中から血を流して倒れ伏す美琴と粉々に砕け散った真紅、四人はそんな光景を予想していた。
だが爆煙が晴れた時、そこには死体はおろか血の一滴すらも見当たらなかった。

「跡形も無く消し飛ばした……という訳ではないだろうな。どうにかしてロケットランチャーの爆発を防ぎ、煙に紛れて逃げたという事か?」

リヴィオが呟く。
最強にして最高の個人兵装、パニッシャー。その威力はリヴィオが一番良く知っている。本来ならばあんな小娘の一人や二人、逃がすはずがない。
だが、なぜかこの会場内で見つけたパニッシャーは威力が大幅に落とされていた。加えてここにはリヴィオの理解が及ばぬ能力者や支給品の存在もある。
ならば。認めたくないが、この場に限って言えば、逃げられる事もあるのではないか。

「こちらに二つの足跡がございます。大きさから見て、先ほどの少女達のものと見て間違いないでしょう」

地に伏せ、何かを探すような素振りを見せていたロベルタが体を起こして口を開く。
ロベルタが指し示した地面には、小柄な少女のものとそれより更に一回り小さい子供のもの、二つの足跡が南に向かって続いていた。

『どうする? 追うか?』
「当然よ。南は湖で行き止まり、その東、F-6の橋は禁止エリアで渡れない。このまま追い詰めて殲滅するわ」



   ◇   ◇   ◇



美琴は超能力者だが、それ以外は基本的にただの少女だ。いや、頭脳も体力も中学二年生とは思えないほど優れているのだが、それでもやはり一般人の域を出ない。
当然ながら、敵の気配を探るだとか、自分に向けられた殺気を読むなどといった芸当は出来ない。それは真紅も同じだろう。
つまり、美琴達は自分達が狙われていることに気付いていた訳ではない。
では何故奇襲が失敗したのか、そう問われれば、御坂美琴は最強の電撃使い「超電磁砲」だから、そう答えるしかないだろう。

科学技術の最先端、学園都市。そこでは何万人もの研究者達が日夜研究に明け暮れている。その研究内容の一つにAIM拡散力場というものがある。
能力者は能力を発動している時以外でも常に周囲に微弱な力を発している。この能力者が無自覚に発している力の事を総称してAIM拡散力場と呼んでいる。
どんな力を発しているかは能力者の力の種類によって変わってくる。例えば発火能力者なら熱量、念動力者なら圧力、という具合だ。
そして電撃使いの美琴が発しているのは――電磁波。
彼女はその反射波を感知することでレーダーのように周囲の動きを察知し、死角からの攻撃にも対応することができる。

美琴達は病院の入り口から外に出た。そして劇場に向かって歩き出したところで、電磁波のレーダーが自分達に向かって高速で飛来する何かの存在を捉えた。
それがロケットランチャーだということまでは分からなかったが、彼女はそれを何者かの攻撃だと判断し、即座に迎撃態勢に入った。
美琴が迎撃準備を完了した時点でロケット弾の着弾まで残りコンマ数秒、常人ならば回避も迎撃も諦めて地面に伏せるしか手がない距離まで迫っていた。
だが彼女は学園都市第三位の超能力者、七人しか居ないレベル5の一人、超電磁砲だ。それだけあれば彼女にとっては十分過ぎる。
飛来物が飛んでくる方向に向けて、電圧にして数億ボルトの雷撃の槍を放つ。
電気刺激を受けたことにより信管が作動し、砲弾は美琴達の10m以上手前で爆発。二人は爆風に煽られ地を転がることになったが、ほぼ無傷でこの初撃を回避することができた。

「真紅、無事!?」
「っ……大丈夫よ。一体何が……?」
「敵よ。真紅、こっち。とりあえず逃げるわよ」

ロケット弾が爆発する直前、電撃で一瞬だけ照らされた視界に四つの人影が映った。
問答無用で砲弾を撃ち込んで来た事から、彼らは殺し合いに乗っていると見て間違いない。
真紅の手を引いて、南に向かってひたすら走る。

「美琴! どうするつもりなの!? こっちは行き止まりよ!」
「行き止まりじゃないわよ。湖さえ越えれば逃げ切れる」
「どうやって? まさか泳いで渡るなんて言うつもりじゃないでしょうね?」
「空を飛んで、って言ったらどうする?」

真紅は一瞬驚いた表情を見せたが、信じてくれたのかそれ以上は何も言わない。
林を真っ直ぐ突っ切り、湖の畔に到着した。対岸までは目算で300mといったところだ。
向こう岸に広がる林を眺めながら、真紅が口を開く。

「それで、どうやって飛ぶつもりかしら?」
「うん……。真紅、ゴメン」

謝ると同時に真紅の胸にデイパックを押し付ける。
何事かとこちらを見上げた真紅を病院で手に入れたシーツで包み、その上から砂鉄で全身を覆っていく。

「ちょっと美琴、何をするの!?」
「実は私自身は飛べないの。でも、真紅だけなら飛ばせるわ」
「なっ、まさか美琴……止めなさい! 私も残るわ!」

真紅の叫び声を黙殺し、砂鉄を押し固めて砲弾と化す。

美琴の認識では、この殺し合いに集められているのは皆レベル4、レベル5の能力者とも対等に渡り合えるような強者ばかりだ。
美琴が全力で戦ってもかすり傷一つ負わせられなかった最強の超能力者、優勝間違いなしと思われた一方通行が最初の放送前に死亡した事実。
そして今までに美琴が出会った相手、カズマ衛宮切嗣、砂の男、ライダー、レッド、ハクオロ、ラッド、クーガー、ラズロ、ナイン、あすか、真紅。
いずれも並々ならぬ猛者だ。何の力も持たない少年だと思ったレッドでさえ、美琴の電撃を浴びても死ななかった。
あすかが斃れた今、美琴と真紅の二人だけでそんな相手を四人も敵に回して勝てるなどとは思えない。

だから美琴が選んだのは、真紅一人だけでも生き延びられる可能性が高い方法。
真紅の全身を砂鉄でコーティングして、超電磁砲の弾丸として湖の対岸に撃ち出す。
湖の向こうには林が広がっている。多少のダメージはあるかも知れないが、木々がクッションになって死ぬ事は無いだろう。

「次の放送までにC-4駅に行くから、そこで待ってて」

対岸に向けて真っ直ぐに伸ばされた美琴の手から、亜音速の砲弾が撃ち出された。



   ◇   ◇   ◇



美琴の手で湖の対岸に飛ばされた真紅は400m程の距離を飛翔した後、G-5エリア北東の林に墜落した。
距離が離れた事で美琴の能力による支配から放れた砂鉄が空気中に飛散し、露になったシーツがバサリと広がり減速する。
木々の枝葉がクッションとなり、落下の勢いを和らげる。
シーツが枝に引っかかり、ズタズタに引き裂かれながらもスピードを殺す。
契約者と離れたせいで思うように能力を発動できないが、それでも何とか薔薇の花弁を展開して緩衝材にする。
柔らかな腐葉土が真紅の体を受け止め、その衝撃が全身に響き渡る。

「ッッ…………! あんな風にレディを撃ち出すなんて、信じられないわ」

軽くボディをチェックするが、左腕以外で新たに破損した箇所はないようだ。
ふらふらと立ち上がり、埃と砂鉄まみれになったドレスの汚れを払って駅へと歩き出す。

「美琴……C-4駅で待ってるわ。遅れたりしたら、承知しないわよ……」




【G-5 北東/一日目 夜】

【真紅@ローゼンメイデン(漫画版)】
[状態]:左腕損失、全身にダメージ(小)、砂鉄まみれ
[装備]:庭師の鋏@ローゼンメイデン、蒼星石のローザミスティカ@ローゼンメイデン
[道具]:基本支給品一式×2、不明支給品0~2個(未確認)、不思議の国のアリス@現実他、いくつかの本
    真紅の左腕(損傷大)、コイン入りの袋(残り91枚)、タイム虫めがね@ドラえもん、病院で調達した包帯や薬品類
[思考・行動]
 1:殺し合いを阻止し、元の世界へ戻る。
 2:C-4駅で美琴を待ち、地下鉄を調査する。
 3:列車に乗って、会場全体を一通り見ておきたい。地下鉄調査後再び電車に乗って最終的にはG-7駅を目指す。
 4:ループを生み出している何かを発見する。
 5:翠星石のローザミスティカを手に入れる。
 6:劇場にて起こっている戦闘が気になる。
【備考】
 ※参戦時期は蒼星石死亡以降、詳細な時期は未定(原作四巻以降)
 ※あすか、クーガーと情報交換し、スクライドの世界観について大雑把に聞きました。
 ※美琴と情報交換し、学園都市や超能力の事を大雑把に聞きました。
 ※蒼星石が居る事や、ホーリエが居ない事などについて疑問に思っていますが、参加時期の相違の可能性を考え始めました。
 ※ループに気付きました。ループを生み出している何かが会場内にあると思っています。
 ※情報交換済みの人物:ルフィ、前原圭一、クーガー、美琴
 ※彼らの知人:レナ、沙都子、梨花、魅音、詩音、切嗣(圭一)、ゾロ、チョッパー、ハクオロ、アルルゥカルラ(ルフィ)
 ※要注意人物:アーチャー(遭遇)、ライダー(詳細ではない)、バラライカ(名前は知らない)、ラッド
        無常、ラズロ、ヴァッシュ、カズマ、クロコダイル、水銀燈(殺し合いに乗っているようであれば彼女を止める)
        カズマとアーチャーは気に食わないので、出来れば出会いたくもない
 ※ライダー、ハクオロ、レッド、佐山、小鳥遊に関しては100%信用はしていません。
 ※対主催チーム(佐山、小鳥遊、蒼星石)の存在、悪魔の実の能力者の弱点(カナヅチ)を知りました。
 ※参加者によっては時間軸が異なる事を知りました。
 ※nのフィールドへは入れない事。ローゼンメイデンへのボディへの干渉の可能性を考え始めました。
 ※地下空間の存在を知りました。地下にループ装置があるのではと推察しています。
 ※会場は『○』の形に成っているという仮説を立てています。○の中心にワープ装置があるのではという仮説を立てています。
 ※蒼星石の記憶を引き継ぎました(バトルロワイアル開始から死亡まで)



   ◇   ◇   ◇



真紅を対岸に逃がした後、美琴はここで敵を迎え撃つため、周囲の地面から砂鉄を集めていた。
勝てる保証はどこにも無いが、それでも黙って殺されるつもりなど無い。
林をキッと見据え、いつでも動けるように身構える。
やがて、下草を踏み分ける音と共に、木々の間から四つの影が姿を現した。
ラズロと呼ばれていた男、巨大な十字架を持つメイド服の女、白い異形の生物。
そして、黒い騎士装束を身に纏い、灰色の髪を肩口で切り揃えた少女。

「ナインさん……」
「また会ったわね、美琴。真紅が居ないようだけど、どこに行ったか教えてもらえるかしら?」
「真紅なら先に行かせたわよ。今頃は湖の向こうに居るんじゃない?」
「そう……」

ナインが左腕を変形させ、ミュウツーが白い大剣を構える。
リヴィオがホルスターから拳銃を抜き放ち、ロベルタが十字架の先を美琴へと向ける。

「それはつまり、真紅が逃げ切るまであなたが時間を稼ぐという事かしら?」
「残念だけど違うわね」

美琴の前髪が逆立ち、ぶわりと広がった髪がバチバチと火花を散らす。
一瞬遅れて美琴に向けられたパニッシャーが火を噴き、大量の鉛弾が吐き出される。
さらに一瞬の後。漆黒の大蛇が鎌首をもたげるように、美琴の目前に砂鉄の小山が盛り上がり銃弾を飲み込んだ。

「私が本気で戦うと、真紅まで巻き込んじゃうのよ」

美琴の前から、横から、背後から、地面を持ち上げるように砂鉄の蛇が次々と姿を現す。
その数は大小合わせて十を超える。

蛇が獲物に飛びかかるように、長く伸びた砂鉄の蛇が襲いかかる。
巨人が腕を振るうように、大質量の砂鉄の塊が地面を薙ぎ払う。
砦を守る防壁のように、黒い壁が大きく広がり銃弾を飲み込む。

勢い良く振るわれた漆黒の鞭が地面を削り取る。
大質量の塊がぶつかり、傍に生えていた巨木が薙ぎ倒される。
殺意を込めて撃ち出された凶弾が、残らず砂鉄の壁に阻まれる。

美琴は周囲数十mほどから掻き集めた大量の砂鉄を武器として、四人を相手に一歩も譲らず攻防を繰り広げる。

とは言え、やはり四対一という数の差はどうしようもない。
傍から見れば互角に戦っているようにも思えるが、その実はギリギリのところで均衡を保っているに過ぎない。
美琴にとっては一手一手が命懸け、一歩でも間違えば即座に死亡するという、薄氷の上を渡るような極限のやり取りだ。
能力者が力を行使するためには複雑な計算式を正確に演算しなければならず、今の美琴のように全力での戦闘にはかなりの集中力が必要となる。
常に四人の敵に気を配らなければならず、一瞬でも気を抜けないというプレッシャーが徐々に美琴の精神をボロボロに削り取っていく。


ロベルタの銃撃にタイミングを合わせて、ナインとミュウツーが距離を詰める。
近づいた二人を砂鉄の剣で薙ぎ払った瞬間、一瞬だけリヴィオに対する注意が逸れた。
その機を見逃さず、リヴィオが美琴に銃口を向け。

直後、銃声が響いた。



   ◇   ◇   ◇



美琴の電撃を浴びて気絶していたラッドは病院の外から響いてくる爆発音で目を覚ました。
近くに転がっていたデイパックとメタルイーターを拾い、体を軽く動かして怪我の具合を確かめる。
先ほどの戦闘で折れた肋骨がまだ完治していないようで、呼吸するたびに鈍い痛みを返してくる。
傷の治り具合から見て、自分が気を失っていた時間はそれほど長くはないのだろう。
となると、恐らくは外で戦闘しているのは電気女。
気を失う前の出来事を思い出すと、沸々と怒りが込み上げて来た。
断続的な銃声が聞こえる中、ラッドはひたすらに美琴への怒りを昂らせる。

(舐めやがって、あのクソアマァ! これで二回目だ……テメェは二回も俺をコケにしたんだぞ!? 分かってんのか!?
 『生きてて良かった』だぁ!? 私は強いから相手の命を気遣う余裕もあります、ってかぁ!? 随分な自信だなぁ、オイ!
 おまけに今も気絶してた俺は放置して他のヤツとやり合ってやがる! 俺ごときには何回襲われても殺されません、とでも言いてぇのかぁ!?
 ……上等じゃねぇか。
 ――テメェは殺す。絶対にだ。
 テメェがどうしても俺を殺したくねぇ、ってならそれでも構わねぇ。だがな、俺は何度でも立ち上がってテメェを殺しに行くぜ?
 十回やられようが、百回倒されようが、千回ぶちのめされようが。この手でテメェを殺すまで、何度でもなぁ……!)

美琴の殺害を固く誓い、銃を担いで歩き出す。
気付けば外からの銃声が止んでいた。
まずは外の戦闘がどうなったかを確認しようと病院を出たところで、黒い影が視界の端を過ぎった。

(あぁん? 今のヤツは南に向かったのか? そっちには湖ぐらいしかねぇよなぁ? 誰だか知らねぇが、んなトコに用があるとは思えねぇ。
 って事は、だ。何か別の理由があるって事だよなぁ。例えば、逃げた電気女を追ってる、とかよぉ!
 おいおいおい! ついさっきぶっ殺されかけた俺だから分かるけどよぉ、あの電気女もガキみてぇなナリして相当な化物だぜ?
 その気になりゃあのロボットともやり合えるかも知れねぇ。それが尻尾巻いて逃げてるってぇ事は、追ってる方はそれ以上だって事だよなぁ?
 ……思ってやがるんだろうなぁ。自分は絶対に殺されねぇってよぉ……!
 決めたぜ。テメェも電気女のついでにぶっ殺してやるよ)

名前も知らない何者かを殺害リストに加えると、湖の方に向かったであろう美琴を追ってラッドも南に足を進める。
路地を抜け、林を横切り、木々の隙間から湖が見えた頃、少女の話し声が聞こえてきた。
気取られないよう足音を殺して近づき、木々の後ろから覗いたラッドが見たものは、湖の畔で対峙する一人と四人の姿だった。
その五人のいずれもが見知った姿、ラッドが自分の手で殺すと決めた者達だ。

(おい、おいおいおいおいおい! マジかよ! マジかよ!! どうなってんだ、こりゃあよぉ!?
 あの電気女と何か喋ってるのは左手が刀になる女だよなぁ? おまけにクソメイドに宇宙人野郎、ラズロのクソ野郎まで居やがる!
 おいおいおい、こりゃあマジでヤベェだろ! 俺がぶっ殺してぇ奴らが勢揃いじゃねぇか!
 つーかテメェら俺抜きで勝手に殺し合ってんじゃねぇよ。テメェらは全員俺がぶっ殺すんだからよぉ。
 こいつはやっぱアレか? 遠慮しねぇでここで全員ぶっ殺せ! って、そういう事かぁ!? そうなんだな!?
 いいぜいいぜ!! 言われるまでもねぇ! テメェら全員まとめてぶっ殺してやるよ!
 っと、忘れるところだったぜ。宇宙人野郎は最後まで取っとかねぇとなぁ……!)

二脚を立ててメタルイーターを固定し、地に伏せて狙撃の体勢に入る。
本当なら密集したところに弾丸をばら撒いて一気に殺したいが、フルオートでの射撃は反動が大きすぎて上手く狙いを定められない。
弾倉に込められた弾数もそう多くはないため、できれば無駄弾は撃ちたくない。弾切れになればマガジンを入れ替える間、どうしても隙ができる。
今ならまだ奴らは自分達が狙われている事に気付いていない。ここは欲張らず、一人を確実に仕留めるべきだ。

そしてラッドは最初に誰を狙うべきかを考える。
まず電気女はダメだ。確かに自分がここに来た目的はコイツを殺すためだが、今コイツを殺せば今度は自分が残りの四人を相手取る羽目になる。
宇宙人もダメだ。コイツは一番最後、あと一歩で優勝できるというところで殺すと決めている。今はまだその時ではない。
残るは左手が刀になる女、ラズロ、メイドの三人。この中から誰を優先して殺すかだが。

(当然、コイツしか居ねぇよなぁ?)

悩むまでもない。
スコープを覗き込み、走り回る獲物の動きを追いかける。
立ち止まって銃を構えた瞬間、その心臓に狙いを定めて引き金を絞る。
ラッドの手の中でライフルが暴れ、耳をつんざく爆音が轟き、銃口から弾薬が吐き出され。


リヴィオの体が水平に吹き飛んだ。



「おいおいおいおい! ラズロォ、テメェ何やってんだぁ!? そっちのお嬢ちゃん達とお手手つないで仲良しゴッコかぁ!?
 まさかとは思うがよぉ。ただでさえ強ぉい強ぉい自分がコイツらと手ぇ組めば誰にも殺されるはずがねぇ、だなんて思ってたんじゃねぇだろうなぁ?
 おいおい、そんな舐めた考えじゃ俺みてぇなチンピラにぶっ殺されちまうぜぇ? って今更そんな事言っても遅せぇんだけどよぉ!
 なぁ、オイ、気分はどぉだぁ!? ヒャァッハハハァッ!!」



   ◇   ◇   ◇



「ラッド・ルッソッッ!」

乱入して来たラッドに向かってナインが飛び出す。
それを横目で見ながら、ロベルタがパニッシャーをラッドに向けて弾丸を撃ち込む。
ラッドは生い茂る木々を盾にして機関銃の連射をやり過ごし、ナインに牽制の射撃をしながら林の中に駆け出す。

「ッ! 逃がさない!」

ナインが逃げたラッドを追って林に飛び込んで行く。
残ったのはロベルタとミュウツー、美琴、それに地に倒れて動かないリヴィオだ。
ラッドが現れたのは、リヴィオが引き金を引く直前。美琴が死を覚悟し、ミュウツー達四人が勝利を確信した、その瞬間だった。
最悪のタイミングで横槍が入ったせいで、四対一の圧倒的に有利な状況が一変、二対一になってしまった。
数の上ではまだ有利とは言え、美琴の能力を考えると油断すればやられかねない。

「勝手な行動は謹んで頂きたいものですね」
「放っておけ、時間稼ぎ程度にはなる。それよりも、今はあの女を殺す方が先だ」

ロベルタのぼやきに答えたのはミュウツーではなく、ラッドに撃たれて倒れていたはずのリヴィオだ。
左腕が吹き飛ばされているにもかかわらず、むくりと身を起こし、何事もなかったかのように立ち上がる。

「おや、生きていたのですか。てっきり死んだものかと思っていましたが」
「勝手に殺すな。左腕が肩から吹き飛んだだけだ、この程度なら半日もあれば治る」

リヴィオの方に目を向けると既に血は止まっており、ピンク色の傷口から白い骨が覗いている。
ミュウツー達の目の前で、シュウシュウと白い煙を立ち昇らせながら、ゆっくりと左腕が再生していく。

「普通の人間にとっては十分に致命傷なのですが……」
「これでも治りが遅いぐらいだ。本来なら心臓を撃たれても致命傷にはならない。死ぬ前に再生するからな」
『暢気に喋っている暇は無いぞ。見ろ』

ミュウツーがリヴィオ達にテレパシーを送る。
一箇所に集まったミュウツー達の逃げ場をなくすように、黒い蛇が周囲を取り囲んでいる。
漆黒の大蛇がミュウツー達の周りでとぐろを巻き、一つに合わさって黒い竜巻となる。

黒い壁に周囲を囲まれ、辺りが闇に閉ざされる。
ガリガリと地面を削りながら、竜巻が徐々に半径を狭めていく。
リヴィオやロベルタが壁に向かって発砲するのが音で分かるが、全く効果がない。
出来れば手の内は晒したくなかったが、今は出し惜しみしていられる状況ではない。
このまま何もしなければ、やがては迫り来る黒い渦に巻き込まれて粉々にすり潰されてしまう。

『V-Sw、第二形態だ』

手元の大剣に念を送ると同時に、グリップのボタンを握り込む。
V-Swの背面が展開され、中からスラスターが現れる。
刃を構築していた機殻が収納され、光を圧縮した刃がせり上がるように出てくる。
眩い光に目を細めながら、上体を捻りV-Swを構える。

「それがお前の切り札か?」

弾が切れたのか、舌打ちと共に拳銃を持ち替えたリヴィオが光の刃を見ながら尋ねてくる。

『オレの、と言うよりはこの機殻剣V-Swの、だな。第四形態まで変形できるが、これはその内の第二形態だ』

制限により第二形態までしか変形できない事や、一度変形させるとその後四時間は変形できない事は伏せておく。
今は利害が一致して手を組んでいるが、この二人もいつ敵になるか分からない。そんな相手にわざわざ弱みを見せる事はない。

『今からオレがこの剣で壁を切り開く。恐らく一秒と持たずに復元されるだろうが、お前ならその間にあの女を始末できるだろう』

テレパシーで指示を送ると、ロベルタが軽く頷いて巨大な十字架を構えなおす。
パニッシャーの威力は身を以て体験している。あの威力と連射性なら、一秒もあれば人一人殺すぐらいは容易いはずだ。

『頼んだぞ、V-Sw』
『マカセテ』

コンソールに浮かんだ文字に頷きを返し、目の前の壁に向けて光の大剣を振り下ろす。
背面のスラスターから白光が勢い良く噴き出し、大剣を振る動きを加速する。
全身の力でV-Swを振り抜きながら、そのグリップ部分にあるトリガーを押し込む。
瞬間、刃を構成する光が爆発的に膨れ上がり、その大きさと輝きを増す。

――全長十mを超える光刃が、黒い壁に叩きつけられた。









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