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『ヘイトレッド・グラウンド・ゼロ』

「グワーッ!」
 腹部から夥しい血をまき散らし、男が倒れる。
 既にその全身には幾重もの裂傷が刻まれ、周囲の石畳には男のものと思われる血液が紅色に染め上げんとばかりに零れ落ちていた。
 男は倒れながらも折れた自身の得物を、八界統鬼斬破刀の切先を、敵に向けていた。
 視界が擦れる。だが、敵はまだ捉えられていた。所々が錆びた鋼鉄の人形。
 切り落とした左肩からは如何なる原理か稲妻が迸り、先程己を貫いた槍のような右腕には男の血がこびり付いている。
 今は何時だ。自分はどれ程戦った。血を殆ど失い朦朧とした意識の中で、男は状況の把握に努めた。
 (死んだら終わりだ。アノヨは無い)
 呪詛めいて己に言い聞かせる男の脳裏には、過去の記憶がリフレインする。走馬燈だ。
 肉体が死を回避しうるために、全ての記憶を読み漁る。
 その過程で男はぼんやりと思い返した。イクサに至る顛末を。

―――

 未知の樹海。
 ハンターズギルドからそう呼称される地の最深部には、かつて栄えたであろう文明の痕跡がいくつか存在する。
 この未知の樹海から発掘される奇妙な武具『発掘装備』、これらの技術的ルーツの探求は
 ギルドの未知の樹海探査部門たるギルドクエスト管理局に与えられた任務の一つであり、
 日夜専門チームによる発掘調査が行われており、その護衛としてハンターが指名されることも少なくは無かった。
 ハンター・ブレイヴもまた、そんな護衛の依頼を受諾したハンターの一人であった。
 採掘地点C、そう仮称される場所が、今回の仕事場であった。一見地上に崩れかけた石積の四角い一室が露出しているだけだが、
 事前の調査により地下室が存在していることが判明しており、今回の発掘調査はその地下室の発見を目的としていた。
 表出している遺構をなるべく傷つけぬように、発掘調査は進んでおり、予定では2週間ほど掛かるとされていた。
 だが、予想を裏切り、地下室への入り口は5日目に発見されたのであった。
 調査6日目、内部調査確認のために少数の先遣隊が地下に下りて行った。
 しかし、如何なる事か。丸一日経っても、先遣隊が帰還することは無かった…

―――

 調査7日目、ブレイヴは地下室への入り口へと立っていた。
 黒蝕竜の兜と腰当、黒狼鳥の胴当、金属の籠手と具足を纏い、己の得物たる八界統鬼斬破刀を背負うその姿は、
 彼自身の戦歴を思わせる。実際、彼の武具は全て最高峰たるG級で揃えられている。
「先程お話しした通りです」
 調査責任者のモートンはブレイヴの様子を伺う様に話しかけた。
「昨日調査に向かった先遣隊が今日になっても帰還していません。事前の契約通り…」
「モンスター可能性も考慮し、先遣隊の行方を調査せよ、だったな」
 BRAVEはうっそりと答えた。
「は、はい。その通りです」
 モートンは内心冷や汗をかいていた。目の前のハンターは、何か不気味であった。
 捨て鉢なような、そうでもないような、人を不安にさせるアトモスフィアを纏っていた。
 彼が纏う黒蝕竜の兜もその不気味なアトモスフィアを強調していた。
「了解している」
 ブレイヴはカンテラの油の量を確認する。地下では直接酸素を消費する松明の使用は自殺行為故の対応である。
 カンテラの確認を終え、その他の道具の確認も済まし、ブレイヴは地下室への入り口に踏み込もうとした。
「モンスターが潜んでいる可能性を考え、我々は一旦ここを撤収します。報告はバルバレギルドで」
「了解」
「…無事の帰還を」
 モートンのなけなしの激励に応えず、ブレイヴは地下室へと滑り込んだ。

―――

 カンテラの明かりを頼りに、ブレイヴは石畳の地下通路を進む。
 通路は人一人が通るのに不便の無い広さであり、ハンターとして鍛えられた嗅覚はこの地下に生命活動の妨げが無いことを告げている。
(崩落の形跡は無い)
 ブレイヴは慎重に進み、先遣隊の痕跡を探る。入り口から現在地点まで一本道を進んできたが、何の形跡も発見できていないのが現状であった。
(どこだ?)
 カラッ
 ふと、ブレイヴの足元から何かを踏んだ音が聞こえた。屈み、手に取って改めると、それは拡大鏡であった。
(先遣隊の物か?)
 暫く手の内で拡大鏡を弄び、何らかの手がかりが無いかと調べるが、特に見当たらなかった。
(落とした、のか?学者が不用心な)
 そう思いながら顔を上げ、ランタンを前方に掲げると、ブレイヴは目の前が行き止まりであることに気が付いた。
(行き止まり・・・?)
 目の前の壁は周囲の石畳と比べると明らかに異質であった。壁は不自然に黒く、石畳と違い一枚であるとわかった。
 ノックするように叩くと鈍い音が返る。
(金属?唐突に変わったな)
 隈なくカンテラで照らしてみると、左端中央に指が4本ほど入りそうな窪みを確認できた。
(これは)
 ブレイヴの脳裏には東方に伝わるフスマという扉との類似性を、この窪みから感じ取った。
(同じ原理ならば・・・)
 己の直感に従い、ブレイヴは右手の人差指から小指を窪みにはめ込み。扉に対し左から右へと流れるように力を込めた。
 すると、如何なる原理か。金属の壁はその重さを感じさせること無く左から右へ滑り、ブレイヴの前には新たな空間の入り口が現れた。
 だが、開かれた先の景色に、ブレイヴは一瞬でカラテ警戒をせざるを得なくなった。
 まず、認識したのは濃密な血の臭い。次に先遣隊と思しき者たちの惨殺死体。そして壁に立てかけられた、人の姿を模した鋼鉄の人形。
「これは・・・」
 ブレイヴはカンテラの取っ手を腰に括り、太刀の柄に右手を添える。そして、慎重に室内に侵入した。
 室内も扉と同じく金属製なのか、カンテラの灯りを反射し、部屋の様子を浮き上がらせた。
 死体と鋼鉄の人形の奥の壁には破損したガラス製の筒が複数、中身らしきものは無い。
 一部の壁面と筒は木の根を思わせるゴム質の物質で繋がっており、何らかの技術の存在を匂わせている。
 扉は今ブレイヴが入って来たもの以外確認できない。
(下手人は、誰だ)
 ブレイヴは慎重に形跡を探る。争いの形跡を。血痕は入り口付近にはない。そして死体が残っているという事実。
 下手人は最悪モンスターではなく、まだこの室内にいる可能性があった。
 ブレイブは死体群に近づき、屈みこんで死因を検分する。
 いずれも鋭い何かで心臓や腹部、あるいは頭部を一突きに貫かれており、抵抗らしい抵抗もできずに殺されたことが見てとれた。
 更に詳しく検分せんとした、その時。
「イヤーッ!」
 ブレイヴは悪寒を感じ、素早く後方へ飛びのいた!刹那、先程まで頭があった場所に鋭い槍めいた鉄塊が振り下ろされていた!
 素早く立ち上がり、太刀を抜刀したブレイヴは下手人を確認し絶句した。
 何故ならそれは、先程まで壁際に居た筈の鋼鉄の人形だったからだ!しかもその両腕は人間を模した物から槍を模した形へと変化していたのだ!
(馬鹿な)
 だが、何よりブレイヴの、戦闘者としての心を激しく動揺させたのは、
 攻撃の瞬間まで、その気配を察することすらできなかったことだ。何たる隠密性か!
 その動揺を見逃さぬかのように、鋼鉄の人形は恐るべき速さで突進し、右腕槍で突きを繰り出す!その速さ、かの迅竜に迫らんとするほどだ!
「イヤーッ!」
 ブレイヴは、咄嗟にこの突きを八界統鬼斬破刀で左に受け流す。刀身から稲妻が迸る!直後、己の行動選択のミスに気付く!
 人形の左腕槍は右腕槍からワンテンポ遅れ、突きの動作!
 ブレイヴは咄嗟に上体を左に逸らす!だが槍が一瞬速い!
「グワーッ!」
 左腕槍が鎧ごとブレイヴの右肩の肉を抉る。何たる鋭さと破壊力か!そしてこの息がかかるほどのワン・インチ距離!これでは太刀が振れぬ!
「イヤーッ!」
 ブレイヴは一歩強く踏み込み、右肘で人形を突き飛ばす!金属同士の鈍い衝突音と共に人形が離れる。
 ブレイヴは人形が体勢を立て直すまでの一瞬で、八界統鬼斬破刀を構え直し、状況判断に努めた。
(恐るべき速さだ。だが、何より恐れるべきはあの槍!G級モンスターの重殻を真正面から容易く砕く程…直撃は死!それだけは避けねば・・・)
 ブレイヴと人形はじりじりと間合いを見計らう。ブレイヴは沈黙思考を高速化させる。この突発的なイクサの勝機を見出すために。
 ここで破壊せねば、後にどのような被害が出るか計り知れぬ!
(あれが機械仕掛けの類ならば、八界統鬼斬破刀の雷撃が有効なはずだ。だが、おそらくそれは内側の話。
 あの装甲は、少なくともあの槍からは雷撃は内部に通らぬ。先程の接触こそ、その証左!)
 ブレイヴは人形を観察する。重ねた月日によるものか、所々に錆が見える装甲。人と変わらぬ四肢と恐るべき両腕の槍。その代わりに手が無い。
 頭部と思わしき部位には顔と判断できるパーツは無い。
 そしてブレイヴは、肩関節部の装甲が他の装甲よりも薄い事に気が付いた。如何なる設計理論に基づいた構造だろうか?だが、狙うべきは決まった!
(仕掛けるならば、そこか!)
「イヤーッ!」
 気炎を上げ、ブレイヴは踏み込む!狙うは左肩関節部!人形は左腕槍で八界統鬼斬破刀を受け止める!接触面から雷が迸るが人形にダメージは無し!
「やはり、その槍には通らぬか。ならば!イヤーッ!」
 ブレイヴは鎌めいたローキックを放ち、人形の左足を崩す!人形はバランスを崩され横転する!
 だが、右腕槍が変形し、手を形作る!その手で地面を叩き、高速連続側転!おお、何たる非人間的動作か!
 側転を終え、人形は右手を地に付け顔を上げる。
「イヤーッ!」
 そこには八界統鬼斬破刀を振り下ろさんとするブレイヴの姿が!ブレイヴはこの回避後の一瞬を予期していたのだ!
 八界統鬼斬破刀の刀身は、寸分の狂いなく左肩関節部の最も薄い装甲を斬り、左腕を肩から斬り落とした!ワザマエ!
 斬撃と共に雷が迸り、人形は痙攣する!斬り落とされた関節部を雷が苛む!人形は着地姿勢のまま動きを止める。
 ブレイヴは油断すること無く距離を取り、残心した。
(まずは一本。やはり雷撃が効くようだな)
 人形の左肩からは稲妻が迸る。内部の機械仕掛けが雷撃でショートしているのだ。
(次は内部に確実に雷撃を叩き込む。さしもの古代の叡智と言えど、これならば)
 だが、人形が顔を上げた時、ブレイヴは己の考えが浅慮である事を悟った。人形の胸部装甲が突如として開き、無数の弾丸が飛び出してきたのだ!
 BRATATATATATATATATATATATA!
「グワーッ!」
 放たれた弾丸は小さく、殺傷力は低かった。だが、それを補って余りある圧倒的数と面制圧力!
 たとえ一撃が小さくとも避けることすら叶わぬ殺人弾幕はブレイヴの鎧を、肉体を、そして武器を削る!
「ヌウーッ」
 ブレイヴは急所への弾丸をどうにか八界統鬼斬破刀で防ぐ。だが、弾丸の雨に晒され、刀身が限界だ!ブレイヴは活路を探す!
(どうする…!?)
 だが、活路を見つけるよりも早く、人形が目の前にいた。その右腕は既に槍に変わっている。弾幕を維持しつつ、ここまでやってきたのだ!
「しまっ・・・」
 咄嗟に八界統鬼斬破刀を振るう。だが、無慈悲なる槍は刀身を圧し折り、鎧を貫通し、ブレイブの腹部に深々と突き刺さった!

―――

「ゲホッ!ゲホーッ!」
 ブレイヴは血を吐きながら意識を取り戻す。数秒、意識を失っていたのだ。
 八界統鬼斬破刀は既に手から離れ、人形は無慈悲なる処刑人めいて一歩ずつ歩を進めた。
(死ぬのか・・・ここで死ぬのか?)
 ブレイヴの全身を、ゾッとするような寒気と脱力感が駆け抜ける。血を失い過ぎた。このままでは失血死は免れぬ!
 だが、人形はその手間すら惜しいと言わんばかりにブレイヴに近づく。やがてブレイヴの目の前で静止すると、右腕槍を振り上げた。
(死ぬのか…何も為せずに…弟よ、お前すら見つけられずに!)
 ブレイヴの主観時間が鈍化する。槍が振り下ろされる。その緩やかな時間の中で、ブレイヴは見た。人形に纏わり憑く幾つもの黒い人影。
 人影は人形の首を絞めるような動作や殴るような動作をしていた。槍に纏わりついている者も居る。それらの行動に統一性は無い。
 敢えて一つ挙げるとするならばそれは、人形への憎悪か。
(何だこれは・・・幻か?)
 己が見た光景に呆けているうちに、人形の槍がブレイヴの心臓を貫く!血飛沫が舞う!
「グワーッ!」
 最早これまで。そう覚悟を決めたブレイヴはしかし、再び奇怪な光景を目にする。貫かれた己の心臓から、様々な色の光が溢れ出したのだ!
 それは瑠璃色であり、山吹色であり、碧であり、炎のような赤であり、蒼と白であった。
 そして、人影の群れが光に手を伸ばす!渇望するかのように!ブレイヴは恐怖した。己の正気を疑うこの光景に!
 ブレイヴの意識は混濁し、ブラックアウトせんとする。死が間近なのだ。彼は光に群がる人影を感じた。そして声を聴いた。
『憎い…力を!』
(ちか・・・ら?)
 ブレイヴの意識は、闇に落ちた。

―――

『憎い』『何故私が』『殺してやる!』『滅びろ』『消えよ!』『絶やせ!』『家畜の分際で!』『根絶やしにせよ!』『死んでしまえ!』

 耳を劈かんばかりの幾千もの憎悪の声。ブレイヴはその只中に浮いていた。
「これは・・・地獄か?」
 ブレイヴは己の周囲を見渡す。黒い奔流が自身を中心に球を描くようにめまぐるしく流動している。声は放流から発せられていた。

『許されない!』『理不尽だ!』『娘の仇!』『同胞の敵め!』『神に逆らうか!』『この暴君め!』『刃向うな!』『屈辱を晴らす!』

 声に統一性は無い。ただ幾人もの人間が思い思いの憎悪を叫んでいるだけに過ぎなかった。
 ブレイヴはこの光景が理解し難かった。ブレイヴは徐に奔流に近づく。
(これは・・・)
 ブレイヴは奔流に既視感を覚えた。その既視感を確かめるため、放流の中に手を伸ばす。
 冷静であれば言い知れぬ危機感を覚える行為である。だが、ブレイヴは夢遊病患者めいて臆さぬ。
 やがてブレイブは奔流の中から何かを掴み取った。引き上げると、腕が、そして顔が、奔流の中から現れ出た。
「やはり、か」
 それは人の形をした黒い影であった。その姿は、死の直前垣間見たあの人影と不気味なまでに一致!
 人影は俯いたままブツブツと憎悪に塗れた呪詛を吐き散らす。
「どうなっているんだ、これは」
 ブレイヴは、己が夢を見ているのか本当に死んでしまったのか判別がつかなかった。
 意識が落ちる瞬間見たあの光景は、幻覚ではなかったのか?そんな疑問が浮かんでは消える。
『憎い…憎い…』
「何なんだコヤツは。怨霊の類か?」
『力を…』
「何?」
 引き上げた人影のアトモスフィアが変わった。そして同時に気付く。先程から、憎悪の声が止んでいることに。奔流が動きを止めていることに!
「何が…」
『力を…力を…』
 人影は顔を上げた。ブレイヴは戦慄する!黒一色であった人影の顔に、禍々しい赤黒の目が浮かび上がったからだ!
『『『『力を!』』』』
 雷鳴の如く轟く声と共に、幾千もの赤黒の目がブレイヴを見据える!そして気付く!掴んでいた人影が、自分を黒く浸食していることに!
「何を…一体何を!?」
『『『『力を寄越せ!光を!』』』』
 腕からだけではない。四方八方から人影がブレイヴめがけて飛び出し、コールタールめいてへばり付く!
 やがて、全身を黒く覆い尽くすように、総ての人影がブレイヴに纏わり付いた。

―――

 ガシャン!

 ブレイヴの右手が、引き抜かれんとした人形の右腕槍を掴んだ。人形は構わず引き抜かんとする。だが、マンリキめいた力がそれを阻む!
 槍を掴みつつ、ブレイヴは立ち上がった。人形は槍を引き抜かんと尚ももがく!
「離して欲しいか?」
 ブレイヴは地獄めいて呟く。そして左手をチョップの形にし、振り上げる!
「ならば、望み通りにしてやろう!イヤーッ!」
 CRAAAAAAAASH!
 ブレイヴのチョップが人形の鋼鉄の腕を強引に破壊断烈!何たる破壊力か!人形は引き抜くことに拘り過ぎた結果、ブザマに転倒!
 ブレイヴは、己に突き刺さった槍を引き抜き放り捨てる。
 胸には穴がぽっかりと空いており、そこからは止めど無く血が流れる。明らかな致命傷!なら、何故彼は動いているのか!?
 人形は起き上がり、素早く体勢を立て直す。だが、おお。見よ!ブレイヴを中心に超自然的に風が吹き、零れた血がブレイヴめがけて集まっていく!
 やがて集まった血は螺旋を描きブレイヴに収束していく!ボロボロの鎧も崩れ去り、螺旋の一部となる!
 やがて血の螺旋は人型となり、ブレイヴに装束を形作った。乾いた血を思わせる赤褐色の襤褸布に人骨を思わせる装甲と手甲鉤を思わせる無骨な骨爪。
 そして顔にあたる部分には、頭蓋骨を思わせるフルフェイスメンポをフードが覆い隠していた。何たる死神を思わせる禍々しき変異か!
 そしてブレイヴであった者は、両手を合わせ、オジキをした。そして、古の戦士の決闘を思わせるかのような挨拶をした。
「ドーモ、デスチェイサーです」
 ブレイヴは、否、デスチェイサーは挨拶を終えたコンマ7秒。人形に躍りかかる!右ストレート!
「イヤーッ!」
 CRAAAAAAAASH!
 人形は後方の壁まで吹き飛ぶ!衝突の衝撃で打撃部にヒビが生じる!反撃として胸部装甲を開き、再び殺人弾幕を展開する!
 BRATATATATATATATATATATATA!
「イヤーッ!」
 デスチェイサーはこの殺人弾幕に臆せず突進する!その両腕は色付きの風めいて躍動し、玉を弾き、弾幕をこじ開けた!おお、ゴウランガ!
 そしてデスチェイサーは、息も掛からんばかりのワン・インチ距離に到達!無慈悲に拳を構えた!
「イヤーッ!」
右ストレート!内臓発射機構破損!
「イヤーッ!」
左ストレート!内臓発射機構損壊!
「イヤーッ!」
右ストレート!胴体貫通!
「イヤーッ!」
左ストレート!頭部粉砕!
「イイイイイイヤァアアアアアアアーッ!」
渾身の右ストレート!鋼鉄の壁ごと人形粉砕!ナムアミダブツ!
 砕け散った人形は、小規模な爆発を起こし完全に四散した。
「グ、ググ。ググググ…」
 デスチェイサーは足元に飛び散った破砕粒を踏みにじる。微かに口元から漏れる獣の如き笑い声。
「グハハハハハハハハ!グハハハハハハハハ!」
 やがて笑い声は哄笑となり、誰も居ない闇の中に溶けて消えた。
 こうして、デスチェイサーは誕生した。誰も知ることは無かった。少なくとも、この時は。
最終更新:2015年11月10日 03:56