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『モータル・コンバット・イン・エクステンシブ・フォレスト』

 夜、草木も眠るウシミツ・アワー。ケオス極まりない生命の坩堝たる未知の樹海はひっそりと静まり返っていた。
 日中我が物顔で闊歩していた猛きモンスターたちの姿は無く、狡猾な夜行性モンスター達が息を殺し、木々の狭間に隠れ潜んでいた。
 そんな昏き木々の中を、歩く人影が一つ。乾いた血の如き赤褐色の襤褸布めいた外套。人骨を思わせる装甲。
 そしてフードの下には頭蓋骨を思わせるフルフェイスメンポが顔を覆い隠し、更に左目を隠すように、眼帯めいて襤褸布がメンポに巻かれてていた。
 “死神”と形容する他ない姿の男の人影が、そこにあった。
 本来未知の樹海において、ハンターや調査隊の夜間活動は許可されていない。
 類を見ぬほどに雑多で不可思議極まりない未知の樹海の生態環境は一夜を越すにはあまりに過酷と考えられているからだ。
 極めて危険度の高い凶暴竜の頻発する発見も、その判断に拍車をかけていた。
 では、この死神めいた無謀者は何者か?
 未知の樹海を監視するバルバレハンターズギルドの職員が見れば、気の狂った与太者か、無謀な密猟者だと結論付けるだろう。
 ……そして、得てしてそういう者は長生きできぬとも。
「GRAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」
 突如、夜を裂かんとばかりに狂気に満ちた咆哮が轟き響く!死神めいた男は煩わしそうに咆哮を発したモノを睨み付ける。
 漆黒の外皮と暗緑色の鱗。小さな前肢と太い後肢。
 全身の筋肉が隆起し血走り、小さな頭部には己の顎すらも突き破る牙が乱立し、巨木めいた太い尻尾を備えた巨躯。
 それは獣竜の一種、“恐暴竜”イビルジョーであった。
 イビルジョーの足元には同じイビルショーの死体が横たわっており、口元は鮮血と肉がこびり付いていた。
 生来の生命維持欠陥により、イビルジョーは満たされることのない飢餓感に苛まれ、高すぎる体温を維持するために、同胞すらも捕食対象にしていた。
 その食欲は時として周囲の生態系すら破壊する恐るべきものであり、ハンターズギルドにとっては最重要監視対象の一つであった。
 仕留めた同胞の肉を一通り食い終えると、イビルジョーは死神めいた男の視線に気が付き、視線をかち合わせた。
 交差は一瞬。男を新たな獲物に定めたイビルジョーは天を仰ぎ吼える!
「GRAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」
 おお、見よ!咆哮したその瞬間、イビルジョーの口元から黒いエネルギーの放流が溢れ出し、
 その上顎から頭、そして首を覆い隠したではないか!コワイ!何たる生物とは思えぬ禍々しい変貌か!
「餓え乾きか」
 その悍ましき変貌を受け、死神めいた男は無感動に呟く。
 そう!今男の眼前に在りしは、高齢化による極度空腹と共食いによる龍属性エネルギー過剰摂取により発狂せし、最悪のイビルジョー!
 「餓え乾く恐暴竜」!「飢餓個体」!「全てを貪り、食らう者」!
 或いは、「怒り喰らうイビルジョー」!
「GRRRRR!」
 イビルジョーは口から龍属性エネルギーと強酸性の唾液をまき散らし、突進噛み付き!イビルジョーは血と肉の感触を期待した。
 だが、勢いよく閉じた口中は空虚だ。
 何も無い。噛みつくその瞬間まで微動だにしなかった男は何処に。
「イヤーッ!」
「AGRRRR!」
 次の瞬間、イビルジョーは頭から地に叩きつけられた。同時に、死神めいた男が着地する。一体何が?
 ハンター動体視力を持つ者が見れば、男が瞬間的に跳躍し、イビルジョーの顔にハンマーめいた痛烈な両腕打撃を繰り出したのが見えたことだろう。
 何たる人間とは思えぬ膂力とワザマエか!
「グググ…生き腐れが」
 死神めいた男はイビルジョーを嘲った。そのメンポの奥の目は赤黒く光り、誰に向けたとも知れぬ憎悪に輝いていた。
 そして徐に上顎を右手で掴むと、背中に縄めいた筋肉が浮かび上がる!そしてそのまま、目にも止まらぬ速さで右腕を振り上げた!
「見苦しい!死ね!イヤーッ!」
「AGRRRRRRR!?」
 骨の砕ける音と、肉の裂ける音が、夜の静寂を塗りつぶす。
 恐るべき膂力で上顎を可動範囲外まで瞬時にこじ開けられたイビルジョーの頭部は、上顎から上が毟り取られ、
 毟り取られた際の衝撃で背骨が背の肉を突き破り、不気味な曲線を描いていた。おお、ナムアミダブツ!何たるゴア光景!
「ググググ…グググググ…グハハハハハハハハ!グッハハハハハハハハ!」
 死神めいた男は呻くように笑いだし、やがてその声は哄笑へと変わった。
 血と髄液滴るイビルジョーの上顎を持つその姿は、理不尽な死を振り撒く死神そのものであった。

――――
「これは・・・」
 日が変わり、未知の樹海最深部近く。黒仮面青装束のハンターAKITOはしゃがみこみ、小型モンスターの死体を検分した。
 死体は辛うじてジャギィとしての特徴を残してはいるが、6割程の肉体が無残にも引き千切られていた。
 周囲には、このジャギィのような死体がいくつも転がり、ゴアめいた光景が広がっていた。
 AKITOは自身の小型デバイス、エスカドライザーに映される
 『死体』『鳥竜種:ジャギィ』『肉体烈断』『攻撃形跡該当:無し』
 等の情報を横目で眺めつつ、沈黙思考する。
(イビルジョーかと思ったが…該当無し?なら、この殺戮は捕食目的ではない…狂竜化個体、か…?
 いや…狂竜ウイルスは検知されていない…なら、何だ?)
「リーダー」
「ん?」
 沈黙思考を続けるAKITOの背に声がかかる。振り返るとそこには、蒼仮面黒装束の青年と紅仮面紅装束の少年が立っていた。
「ブラッド…アーチャー…状況はどうだ?」
「どうもこうも…あちこち死骸だらけだ」
 ブラッド、と呼ばれた蒼仮面の青年は吐き捨てるように言った。心なしか紅仮面の少年、アーチャーの体が震えている。
「アーチャー…大丈夫か?」
「ゴメン、大丈夫…大丈夫」
 そう返したアーチャーの声は震えていた。恐らく、相当なゴア風景を垣間見たのだろう。無理もない、とAKITOは胸の中でごちた。
 彼はまだ15だ。荒事に慣れる年齢でもなく、そのような精神性も持ち合わせても居なかった。
「おう、おう。大丈夫か」
 ふと、上から声が降る。同時に、樹木の間から一人の男が降り立った。碧仮面に金黒の陣羽織と赤銅色の甲冑を身に纏っている。
「ブシドーか…そちらはどうだ?」
「20間程向こうか。恐暴竜の骸があった。惨い有様だったぞ。とても生存競争で負けたとか、そう言う類とは思えん」
 ブシドーは一旦言葉を切り、続けた。
「まるで、殺すための殺戮よ」
「殺戮…」
 AKITOは訝しんだ。長年狩場に身を置いているが、ここまで無軌道な殺戮に遭遇した経験は少ないからだ。
 彼ら4人は独立狩猟団「MASKED HUNTERS」欲望を基にする光「マスクドエナジー」の下に集まった仮面の戦士たちである。
 今この場に居るのは、仮面ガンナー・AKITO、仮面ブラッド・十六夜、仮面アーチャー・聖良紅牙、仮面ブシドー・頼朝の4名。
 彼らの現在の目的は、幾つもの世界が融合したことで誕生した、この「繋がりし世界」において、未だ世界が繋がり続ける原因を探すことであった。
 未知の樹海は通常では考えられぬ異常な生態系が形成されており、ここに何らかのヒントがあるのでは、と彼らは考えていた。
 だが、今回の状況は異常であった。野営地から出て見れば、あちらこちらにモンスターの屍。
 異様なアトモスフィアを感じ取り、彼らはクエストを一端中断し、原因究明のための調査を開始したのだ。
「何らかの痕跡は・・・確認できたか…?」
「いや…何も確認できなかったな」
 十六夜は頭を振った。
「不気味なくらい、下手人を確認できる痕跡が無い。これだけの規模の殺戮で、それが分からないなんて・・・」
 頼朝も状況を報告する。
「こっちの恐暴竜だが、上顎から上が毟られていたな。団体でなく個であるのは間違いないが…あそこまでの膂力、金獅子くらいしか思い当たらんな」
「なら…ラージャンなのか?」
「わからん。毛が落ち取らんかったからな」
 AKITOはポーチからクエスト依頼書を取り出す。そこには「狩猟対象:ラージャン」「受注許可:G級許可証」と記されていた。
「しかし…コイツでないとすると…」
 彼らが下手人について更なる考えを巡らせようとした、その時!
「GYAAAAAAAA!?」
 樹海の奥より、獣の悲鳴が轟いた!
「今のって!」
「金獅子だな」
 仮面の戦士たちはアトモスフィアを戦士のソレへと切り替え、悲鳴の発生源へと駆ける。
 やがて、仮面の戦士たちは、開けた平地に辿り着いた。そこは、なだらかな傾斜が広がり、周囲の平地とは小さな崖で隔てられた窪地であった。
「あ、あれって…」
「馬鹿な…!?」
 仮面の戦士たちは見た。彼らからタタミ10数枚分離れた平地の中心で、右腕から血を流すラージャンと対峙する死神めいた男を!
「グハハハハハ!グハハハハハ!」
 死神めいた男は両手を広げ哄笑する。その手甲に備えられた骨爪は鮮血と肉で紅く汚れていた。
「よもや、あれで金獅子に深手を?」
 頼朝は驚愕に目を見開く。他の戦士たちも一様に驚愕し、絶句していた。
「GRRRRRRRR!」
 ラージャンは傷ついた右腕を顧みず、右フックを放つ!並のモンスターならば一撃で骨を砕きうる恐るべき攻撃だ!
「イヤーッ!」
 だが、死神めいた男はカラテシャウトと共に左手で難なくラージャンの右フックを受け止める!
 そして同時にチョップ突きを繰り出した!狙うはラージャンの左眼球!
「イヤーッ!」
「AGRRRRR!?」
 おお、ナムアミダブツ!死神めいた男のチョップ突きは寸分違わずラージャンの左眼球を破壊する!苦痛のあまり、ラージャンは顔を覆い怯む。
「イヤーッ!」
「AGR!?」
 死神めいた男はこの隙を逃さず、電撃的にラージャンの両角をマンリキめいた力で掴んだ。そして、掴まれた衝撃で、ラージャンは地面に引き倒される。
「グググ…何たるブザマ」
 死神めいた男がラージャンを嘲る。そして天高く、右足を掲げた。
「ウワァー!」
 聖良はこれから起こりうるゴア光景を予測し、目を背けた。
「カイシャクしてやろう…死ぬがいい!イヤーッ!」
「AGRRRRRRR!?」
 高速で繰り出された踵落としが、ラージャンの皮膚を、筋肉を、頭蓋を、脳を破壊する!
 一瞬後、ラージャンの頭部があった場所には、死神めいた男の右足が小さなクレーターと、砕かれた血肉と脳髄が飛び散っていた。
 両手に、未だ皮膚と頭蓋の一部が付着した剛角を持つ様は、死を振り撒く害悪そのものであった。
「な…何て奴だ…」
 十六夜は、ゴクリと唾を飲み込んだ。
「まさか…生身でラージャンを嬲り殺しにできる化け物がいるとはな…」
 AKITOは努めて冷静に状況を分析した。
「おいアーチャー、大丈夫か」
「大丈夫、大丈夫だから…」
 未だ震える聖良の背を頼朝が擦る。
 4者4様、違いはあれど、眼前のゴア光景に飲まれかけていた。それ故、死神めいた男が彼らに視線を向けていることに一瞬気が付けなかった。
「これは、チョージョー」
 気が付けば、死神めいた男はタタミ4枚分の距離まで近づいていた。
「人もおったとは」
 仮面の戦士たちは、即座に戦闘態勢を整える。眼前の害悪の出方を伺った。死神めいた男は両手を合わせ、お辞儀をし、アイサツした。
「ドーモ、初めまして。デスチェイサーです」
「デス、チェイサー?」
 聖良はデスチェイサーのアイサツを不思議そうに復唱する。他の仮面の戦士は、突飛な行動に判断が遅れた。
「どうした?人ならば、アイサツする能はあろう?」
 デスチェイサー苛立たしげに仮面の戦士たちを見据える。その眼光は赤黒い光を放っていた。そして、ジゴクめいた声でアイサツを促す。
「アイサツせよ。これから殺し合う故に」
「ドーモ、デスチェイサー=サン。仮面ガンナーです」
「仮面ブシドーです」
 AKITOと頼朝は素早くアイサツを返した。彼らはこの行為を、東方に古来から伝わる殺し合いのプロコトルであると判断した。
「ドーモ、仮面ブラッドです」
「か、仮面アーチャーです」
 一拍遅れ、十六夜と聖良もアイサツする。ここはアイサツを返すべきであると判断したからだ。
「グググ…やればできるではないか…では」
「ちょっと待った!」
「アーチャー?」
 デスチェイサーはジュー・ジツを構えようとした。それを聖良は大声で止めた。デスチェイサーは煩わしげに聖良を睨む。
「何用か?」
「ここに来る途中の死体の山…あれ、やったのアンタか?」
 聖良は怒りで肩を震わせ問い掛けた。
「さて、どれの事だ?あそこのボロ屑以外にも多く殺した故、覚えておらぬ」
「アンタ、いったい何でこんなことを!」
 聖良は義憤からデスチェイサーを怒鳴りつけた。だが、帰ってきたのは無感動な視線であった。
「下らぬ。殺すからだ、総てを」
 そしてデスチェイサーは一瞬で間合いを詰め、聖良の眼前へと降り立つ。
「無論、オヌシらも例外ではない!」
右目の赤黒い光を強め、デスチェイサーは唐竹チョップを放たんとする!突然の間合いの詰めに聖良は反応できない!
 KRRRRN!
「ほう」
 聖良に放たれんとしたチョップを受け止めたのは、十六夜の片手剣であった。
「アーチャー、武器を取れ!」
「ぶ、ブラッドニキ…」
「コイツは・・・話が通じる相手ではない!」
 チョップと片手剣が鍔迫り合う。おお、見よ!段々とチョップが片手剣を押しやっているではないか!
「拙い…イヤーッ!」
「イヤーッ!」
「イヤーッ!」
 十六夜は右手の盾でデスチェイサーの横っ腹を殴りつけようとしたが、一瞬早く鍔迫り合いを中断したデスチェイサーは連続バク転で距離を取った。
 その距離、タタミ5枚分!そして見よ、デスチェイサーの首があった場所を空しく薙ぐ頼朝の太刀を!何たる瞬間的な状況判断か!
 もしバク転でなくブリッジ回避ならば、デスチェイサーの胴は真っ二つであっただろう!
「グググ…どうやら楽しめそうではないか!」
「コイツ、中々やりおる」
 改めて、デスチェイサーはジュー・ジツの構えを取る。頼朝は太刀を下段に構え、十六夜も片手剣を中段に構えた。
 AKITOは既に軽弩の照準をデスチェイサーに合わせている。聖良は慌しく折りたたんでいた弓を展開した。
 デスチェイサーはその様を見、嬉しそうに笑った。
「グハハハハ!結構!結構!では、死ぬがいい!」
 デスチェイサーは矢のように勢いよく飛び出す。十六夜と頼朝が迎え撃つために前に飛び出し、AKITOは牽制のために弾丸を放つ。
 BARM!BRAM!BRAM!
「イヤーッ!」
 デスチェイサーは稲妻めいてジクザグに回避行動をとる!回避の先に、頼朝が太刀を振りかぶり躍り掛かる!
「イヤーッ!」
「イヤーッ!」
 KRRRRRN!
 身の丈ほどある太刀と、只のチョップが鍔迫り合う。本来ならば鋭き太刀が勝り、チョップは無残にも敗れ去るはずの構図である。
 だが、現に太刀はチョップを斬れず、気を抜けば太刀をそのまま押しのけかねぬ蛮力で持って、鍔迫り合いは均衡を保っていた。
「何たる邪悪…」
 頼朝は、鍔迫り合い越しにデスチェイサーの目を見つめ、畏れを込めて呟いた。
 デスチェイサーの赤黒い目は、嘗て彼が命を賭して戦った邪悪存在、幻魔を思い起こさずにはいられないほどの邪悪さを秘めていた。
「邪悪?下らぬ括りだ」
 デスチェイサーは嘲笑う。その右目は赤黒く爛々と輝く。頼朝は輝きに秘められた有象無象の憎悪の群れを、無意識に怖れた。
「儂は全て平等に殺す。人も、獣も、そして貴様らも。例外は、無い!」
 そしてデスチェイサーは、鍔迫り合いに込めていた力を一気に抜き、素早くしゃがみこんだ!
「ぬおッ!?」
 デスチェイサーの言葉に一瞬呑まれ、頼朝はこの急激な緩みへの対応が一瞬遅れた!言葉の掛け合いも、イクサの中では重要なファクターなのだ!
「イヤーッ!」
「グワーッ!」
 この隙を逃さず、デスチェイサーは足払いで頼朝の体勢を崩す!大振りな獲物である太刀は、崩れた姿勢では威力が半減以下となってしまう!
 だが、デスチェイサーは頼朝にこれ以上の追撃を仕掛けることができなかった。飛び掛かってくる十六夜の斬撃に対応せねばならなかったからだ!
「イヤーッ!」
「イヤーッ!」
 十六夜の突進斬りの斬撃軌道を、デスチェイサーは右ブレーザー(腕甲)でしなやかに往なす。
 そしてカウンターとして繰り出されたデスチェイサーの左ストレートを、十六夜は盾で受け止めた。
 ストレートの衝撃で、僅かに盾が軋み、盾を持つ右腕に痺れが走る。
「何つぅ、馬鹿力だ!」
「グググ…ではもっと披露してやろう!イヤーッ!」
「グワーッ!」
 デスチェイサーは右腕で十六夜の左腕をマンリキめいた力で掴むと、体を時計回りに回転させ、頼朝に向け放り投げる!
「イヤーッ!」
「グワーッ!」「グワーッ!」
 体勢を立て直そうとした頼朝めがけ、十六夜の体が直撃する!二人はそのまま、タタミ2枚分の距離まで転がっていく。
「イヤーッ!」
「イヤーッ!」
 追撃に映るデスチェイサーを妨げるように、聖良が矢を放つ。
 デスチェイサーは鞭めいて右腕を振るい、矢をブレーザーで弾く。そこへ、AKITOが更なる牽制として弾丸を放つ!
 BARM!BRAM!BRAM!
「イヤーッ!」
 デスチェイサーは鞭めいて左腕を振るい、弾丸をブレーザーで弾く。
 この一瞬の防御の間、体勢を立て直した頼朝と十六夜が同時に突進する!1対1では力負けするという状況判断によるものだ!
「イヤーッ!」
「イヤーッ!」
 上段から唐竹に振り下ろされる太刀を、デスチェイサーは最小限の体捌きで右に避ける。そこへ向けて、十六夜が高速の突きを振るう!
「イヤーッ!」
「イヤーッ!」
 デスチェイサーは、その突きを右ブレーザーで受け流す。
 そのままカウンターとして左チョップを繰り出さんとするが、それを阻まんと、頼朝が刀身を180度捻り、左腹めがけて斬り上げる!
「イヤーッ!」
「ヌゥ!?イヤーッ!」
 デスチェイサーは、十六夜に繰り出すはずだったチョップを瞬時に太刀へと振り降ろし、親指と人差し指の間で、強引に白刃取りを行った。
「ヌゥー…」
 一瞬の沈黙。1対2の膠着状態は、直ぐに仮面の戦士たちに優勢が巡ってきた。
 ボンッ
 デスチェイサーたちの頭上10メートル付近で、奇妙な破裂音が響き渡った。
「イヤーッ!」
「イヤーッ!」
「ヌゥーッ!?」
 その音と同時に、頼朝と十六夜は右ストレート!
 デスチェイサーは両腕を交差させ顔面へのパンチを防ぐが、これこそが彼らの狙い!頼朝と十六夜は素早く飛び離れる!
「何…グワーッ!?」
 防御故、一瞬反応が遅れたデスチェイサーは上空から降りしきる無数の礫を避けることができなかった。果たしてこれは何か?
「へっへーん」
 天に掲げた弓を降ろし、聖良が得意げに笑う。
「『一点集中、アサルトスナイプ!』ってね!」
「曲射か、コシャク!」
 そう、降りしきる礫の正体は弓使いの奥義の一つ「曲射」である!
 射出後短時間で弾ける特殊な袋を取り付けた弓を空中に放つことにより、降りしきる礫で広範囲を制圧する恐るべき攻撃である!
「良くやったアーチャー!」
「珍しくいい手際よな!」
 聖良に賞賛を送りつつ、頼朝と十六夜は再びデスチェイサーへと攻勢をかける!
「スゥーッ…ハァーッ…」
 デスチェイサーは、腰を落とし、深く呼吸した。
 仮面の戦士たちはその行動を訝しむ。何か大技の予備動作であろうか?
「何かする前に、潰す!」
 十六夜は先行し、先程よりも速い突きを繰り出した!十六夜は、この突きの直撃を確信していた。
 …だが!
「イヤーッ!」
「グワーッ!」
 突如として、十六夜はワイヤーアクションめいて吹き飛ばされた!
「ブラッドニキ!?」
 吹き飛ばされる十六夜を見て、聖良は悲鳴を上げた。
「何だ…今のは・・・!?」
 その横でAKITOは驚愕の声を漏らす。
 もし読者の皆様の中に極めて鍛えられたハンター動体視力を持つも方がいらっしゃれば、デスチェイサーが何をしたか目視することができたであろう!
 デスチェイサーは稲妻の如く繰り出される突きに対し、左手を当て飛び越し、跳躍の勢いからのトビゲリを、十六夜の胸部へと痛烈に繰り出したのだ!
 おお、何たることだ!デスチェイサーは何らかのヒサツ・ワザを放とうとしたのではない!注視していたのだ!
 相手の筋肉の緊張、武器の動き、目線から、次にどのような攻撃をしてくるのかを、観察していたのだ!ゴウランガ!何たる高速化された状況判断か!
「イヤーッ!」
 これを見た頼朝は、自身の出せる最速の胴薙ぎを放つ!
「イヤーッ!」
 カラテシャウトと同時に、デスチェイサーの姿が頼朝の眼前から消える。頼朝はデスチェイサーの姿を探した。
 …デスチェイサーは、直ぐに見つかった。
「な、何!?」
 乗っていたのだ。振り切った刀身の上に!頼朝がそれに気が付いた時には、デスチェイサーは既に蹴りを頼朝の眼前まで繰り出していた!
「イヤーッ!」
「グワーッ!」
 顔面をボールめいて蹴られ、頼朝はワイヤーアクションめいて吹き飛ぶ!デスチェイサーは蹴りと同時に空中へと回転しながら跳んだ!
 BARM!BRAM!BRAM!
 空中にいるデスチェイサー向け放たれたAKITOの弾丸も回転する両腕のブレーザーに空しく弾かれる!頼朝と十六夜は同じ窪地の崖壁へと吹き飛ばされた。
「グワーッ!」
「グワーッ!」
 崖壁へと叩き付けられた二人は、デスチェイサーの次なる攻撃に備えようとした。
「イヤーッ!」
 デスチェイサーのカラテシャウトが響く!デスチェイサーからの直接攻撃に備えていた二人は目を見開いた!
 デスチェイサーは、二人目掛けラージャンの死体を投げつけたのだ!ナムサン!蛮力ここに極まれり!
「そのままトマトめいて潰れ死ぬがいい!グハハハハハ!」
 そしてデスチェイサーは、後衛たる聖良とAKITOを殺さんと駆ける!まずは聖良だ!
「うわわッ!?」
 反応しがたい速度で己に向け突進するデスチェイサーに焦り、矢を番え損なう。
 聖良は仕方なく、腰に佩いたサーベルを抜刀し斬りかかる!デスチェイサーもチョップ迎撃!
「イヤーッ!」
「イヤーッ!」
 SMAAAAASH!
 チョップとサーベルの一瞬の交叉!
 だが悲しいかな。対人戦闘のみを考慮したサーベルでは、対モンスター戦闘に特化した武器と互角以上に打ち合ったチョップに耐えられぬ!
 サーベルはチョップを受け中腹から圧し折られる!非現実光景を前に聖良は思わず叫ぶ!
「お、折れたァ!?」 
「アーチャー…下がれ…ッ!」
 警告と共に、AKITOが一発の楔形弾丸を放つ。デスチェイサーは煩わしげにその弾丸を左ブレーザーで弾こうとした。
 だが、楔形弾丸は弾けず、ブレーザーと装束の隙間に突き刺さる!
「グレネード・シェル…」
「ヌ?」
 AKITOはぼそりと呟く。デスチェイサーは訝しんだ。聖良は事態を察し素早く後退する。そして。
 KABOOOOM!
「グワーッ!」
 突如として楔形弾丸が小爆発!左腕のブレーザーを吹き飛ばした!爆炎を引きずり、デスチェイサーは後退する。
 ブレーザーが砕け散った左腕からは血が流れる。
「やるではないか」
 デスチェイサーは飽く迄不敵な態度を貫く。そしてふと、己が投げつけたラージャンの死体が目に入った。
「何…」
 デスチェイサーは驚愕した!そこには胴体から真っ二つに切り裂かれたラージャンの姿があったからだ。
 そしてデスチェイサーは気付く!崖壁に吹き飛ばした二人の姿が見えぬことに!
「シマッタ!」
「イヤーッ!」
「イヤーッ!」
 デスチェイサーの視界外からアンブッシュの機会を窺っていた十六夜と頼朝が攻撃を仕掛ける!
 デスチェイサーは振り返り、鈍化した主観時間の中で迫る2刃を見た。左ブレーザーは破損。2刃を受け流すことはできない。
(ならば)
 デスチェイサーは2刃へ向け、両腕を突き出した。指による白刃取りを狙っているのだ。
 だが、突き出す途中で、両腕が痙攣し動きが止まる。デスチェイサーは、背中に何かが刺さったのを感じた。同時に、全身の力が弛緩する!
(これは、麻痺毒!?)
「パラライズ・バレット…」
 再び、AKITOがぼそりと呟く。デスチェイサーは理解した。彼の者が己に麻痺毒を込めた弾丸を撃ち込んだことを!
(コシャク…!?)
 デスチェイサーの主観時間が、元に戻る!
「イヤーッ!」
「イヤーッ!」
「グワーッ!?」
 十六夜と頼朝の斬撃が、中途半端に突き出された両腕を切り落とす!
 デスチェイサーは腕を切り落とされる激痛と共に背後から恐ろしげなアトモスフィアを感じ取る!
「爆砕…」
 AKITOの軽弩から瑠璃色の光が漏れる。恐らくヒサツ・ワザだ!デスチェイサーは逃れんとしたが、麻痺は未だ解けぬ!
「スプレッドォ…バーストッ!」
 そして、軽弩から弾丸が瑠璃色の軌跡を描き放たれる!弾丸は寸分違わずデスチェイサーに命中!小爆発!
 そして爆発と連鎖して内部から小型弾が複数零れ出し、これらも連鎖爆発する!
「グワーッ!」
 デスチェイサーはきりもみ回転しながら吹き飛んだ。やがて、数度バウンドし、地面に叩き付けられる。
「やった…か?」
 十六夜は吹き飛ばされたデスチェイサーを見やった。ピクリとも動かない。
「ブラッドニキ!」
 聖良が十六夜の元に駆け寄った。AKITOも警戒しつつも十六夜と頼朝の元に近づく。
「大丈夫?派手に蹴られてたけど」
「ああ…大丈夫だ。あれくらいの怪我なら、直ぐに治る」
「良かった…」
 聖良はほっと胸を撫で下ろした。頼朝は、未だデスチェイサーに厳しい視線を向け、残心した。
「仕留めたかね?」
「どう、だろうな…」
 AKITOもまた、銃口をデスチェイサーに向けたままだ。
「このタイプの敵とは初遭遇だ…恐らく人間なんだろうが…」
「人間?纏う気が邪悪すぎる。人間とは思えんぞ?」
「だが…奴は格闘技術を持って力を振るった…化け物は戦闘に技術を使わない…元々持つ膂力や魔力で十分な故に…」
「それもそうだが…じゃが、あの蛮力はどう説明する?」
「何らかの…超自然的な働きか?ともあれ…ライザーで精査でもしなければわからんだろう…」
 AKITOはポーチからエスカドライザーを取り出し、デスチェイサーへと向ける。
 するとエスカドライザーの画面には「精査開始」「進捗:6%」等の文字が浮かぶ。
「これでよし…あとはどうするか…」
「イヤーッ!」
 仮面の戦士たちの間に、再び緊迫したアトモスフィアが満ちる。
 先程まで微動だにしなかったデスチェイサーが、カラテシャウトと共に立ち上がったからだ!
「ググググ…やるではないか」
 デスチェイサーは俯きつつ嗤った。その全身は爆発により所々が黒焦げとなり、切り落とされた両腕からは血が止めどなく流れていた。
 致命的な傷だ。では、何故嗤うのか?
「どうやら、一気に殺さねばならんようだな」
 デスチェイサーは顔を上げた。フードと眼帯は爆発により千切れ飛び、その下のフルフェイスメンポも口元以外が吹き飛び、素顔が露わとなっていた。
 それは、男の顔であった。短い黒髪。虹彩が赤黒に光る右目。そして肥大化した黒と赤の異形の左目。
 その顔を見、仮面の戦士たちは驚愕した。露わとなった男を彼らは知っていた!嘗て、共に狩場を駆けたことがあった故に!
「ブレイヴ…さん…だと!?」
 AKITOは声を震わせた。他の3人は最早声すら出せぬほどに困惑していた。
 先程まで自分たちを恐るべきカラテで持って殺さんとしていたのは、共通した知人であったからだ。
「馬鹿な…何があった…!?」
「ブレイヴ?この体の事か?」
 デスチェイサーは無感動に呟いた。そして、切り落とされた腕の断面を虚空へと向ける。
 すると、切り落とされた腕が宙を飛び、切断面同士がニチャリと生々しい音を立て衝突する。
 そして、黒い風が切断面を覆うと、瞬く間に傷が塞がり、腕は元通りに修復された。ナムサン!何たる超自然的再生風景か!
「この体の持ち主は死んだわ!今ここに在りしは、只の死よ!」
 デスチェイサーは両手を広げ、仰々しく仮面の戦士たちを嘲笑った。その言葉に、仮面の戦士たちは再び衝撃を受ける。
 見知ったハンターの死。彼らにとってはこの世界において初めての体験であった。
「まさか…」
「アーチャー?」
 聖良が怒りに肩を震わせる。十六夜は振り返理、聖良を見た。怒りに身を任せ、聖良が吼える。
「まさか、お前が!殺したのか!ブレイヴさんを!」
「・・・だとすれば?」
 デスチェイサーはつまらなさそうに聖良に問うた。聖良はその様子に更に怒りを燃やす。
「絶対に、許さない!」
 聖良は弓を再び構えようとした。
「ほう、許さない、か」
 だが、デスチェイサーは既に聖良のワン・インチ距離!
 聖良の主観時間が鈍化し、デスチェイサーが処刑カラテ奥義ジキ・ツキを放たんとする様をゆっくりと眺めた。
「それだけか!イヤーッ!」
「グワーッ!?」
 聖良は目を見開いた。気が付けば自分は突き飛ばされていたからだ。傷は無い。無い?では先程の声は?
「アバッ・・・」
「ぶ、ブラッドニキ!?」
 ナムサン・・・無残にも心臓をジキ・ツキで粉砕されたのは十六夜であった!彼は咄嗟に聖良を突き飛ばし、身代わりとなったのだ!ナムアミダブツ!
「こ、この…」
 十六夜は力を振り絞り、デスチェイサーの腕を掴んだ。デスチェイサーはそれに一瞥せず、ただ淡々と、未だ形を留める骨爪で、喉元を掻き斬った。
「イヤーッ!」
「グワーッ!」
「まずは、一人!」
 デスチェイサーは邪悪な嗄れ声で嗤った。そして十六夜から腕を引き抜き、倒れかかった体を石ころめいて無造作に蹴り飛ばした。
 十六夜の体は、呻き声すら上げずタタミ3枚ほどの距離までバウンドし、転がっていく。デスチェイサーは血に塗れた腕を掲げ、挑発した。
「さぁ、次は誰が死ぬ?」
「死ぬのは、テメェだ!」
 後ろから声。白刃を煌めかせ迫るのは頼朝である!下段から斬り上げがデスチェイサーの背を襲う!
「イヤーッ!」
「イヤーッ!」
 デスチェイサーは咄嗟に側転回避を取る。
「貴様」
「避けるなよ、クソが」
 デスチェイサーは素早く体勢を立て直し、頼朝と対峙した。視線をかち合わせ、デスチェイサーは訝しんだ。アトモスフィアが奇妙だ。
 纏うそのアトモスフィアは先程よりも猛々しく、粗暴なそれへと変質している。最早別人と言っても過言ではなかった。
「まぁ、よい」
「よい、じゃねぇよスカしやがって!テメェのその態度」
 頼朝は太刀を上段に構えた。殺意が白刃に流し込まれる。デスチェイサーもまたジュー・ジツの構え!
「気に食わねぇ!」
 猟矢の如く、頼朝が駆ける!そして、先程よりも力強く、太刀が振り下ろされる!
「イヤーッ!」
「イヤーッ!」
 デスチェイサーは斜め後方に回転回避!
 おお、見よ!先程までデスチェイサーの居た地面が、斬撃の衝撃により砕け散る!何たる太刀の破損を顧みぬ恐るべき斬撃か!
「無手では不利」
 デスチェイサーは即座に状況判断し、地面に落ちていたあるモノを掴んだ。死神はただ回避したのではない!
 おお、その手に掴むのは彼が折り取ったラージャンの角ではないか!
「イヤーッ!」
 カラテシャウトと共に、手にした角が黒い超自然の風に包まれる!瞬く間に、角は音を立て変形し、無骨な刀の形を取った。
「これでよかろう。イヤーッ!」
「イヤーッ!」
 骨刀を手にしたデスチェイサーは頼朝に斬りかかる。頼朝はそれを受け、一瞬鍔迫り合った。だが、静寂は一瞬。両者は嵐めいた斬撃を振るう!
「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」
「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」
 AKITOは軽弩を構え、デスチェイサーを狙う。だが、デスチェイサーは決してスコープサイトに捉えられぬ様、頼朝を盾にして立ち回っていた。
 AKITOは軽く舌打ちをした。今の頼朝は、頼朝であって頼朝ではない。彼の中に潜む第2の人格“阿修羅”が表に出ているのだ。
 “阿修羅”は猪突猛進な直情型の戦士である。そして今回の表出も、十六夜がやられたことに対する頼朝の怒りに呼応しての物だろう。
 AKITOとの連携なぞ、取りようも無し!
「イヤーッ!」
「イヤーッ!」
 致死の刃の嵐が、頼朝…否、阿修羅…とデスチェイサーの間で吹き荒ぶ。その斬り結びは、傍から見れば互角であった。
 だが、ハンター動体視力を持つ者ならば気付くであろう。デスチェイサーの骨刀に徐々に亀裂が走りだしていることに!
 阿修羅の剛撃を骨刀が受け止めきれぬのだ!
「イヤーッ!」
「イヤーッ!」
 CRAAAAAASH!
 遂に、骨刀の亀裂が致命的となり、斬撃を受け止めた部分から真っ二つに圧し折れる!
「獲った!イヤーッ!」
 阿修羅はデスチェイサーの命を狩らんと、素早く刃を返し、斜めに斬り上げる!
「イヤーッ!」
 デスチェイサーは致命の刃を側転回避!だが再びの無手!リーチ上優位は阿修羅へと傾く!期は逃さんと、阿修羅が追撃する!
「イヤーッ!」
「グワーッ!」
「獲った!…グワーッ!」
 阿修羅の剛撃が、遂にデスチェイサーの右腕を捉え、肩から両断する!
 だが、斬られ宙を舞う右腕が、まるで意志を持つかのように阿修羅の右頬を打ち据えた!
 そして同時に、懐まで潜り込んだデスチェイサーが太刀の柄を持つ右腕を、掴んだ!
「な、離しやがれ!」
「ああ、離してやろうぞ!イヤーッ!」
「グワーッ!?」
 離すと同時に、左チョップと左膝蹴りが阿修羅の腕を挟み込み、骨を無残にも圧し折る!阿修羅は激痛に悶え、たたらを踏んだ。
 斬られた右腕は素早く超自然の黒い風により再生する。そして素早く、ポン・パンチを鳩尾へと叩きこんだ!
「イヤーッ!」
「グワーッ!」
 阿修羅はくの字に曲がり、壊れたブーメランめいて高速で回転しつつ吹き飛ぶ!そして思い出していただきたい!
 デスチェイサーはAKITOのスコープサイトに捉えられぬ様に、即ち阿修羅の背後に必ずAKITOがいるように立ち回っていたことを!
 吹き飛んだ阿修羅が衝突するのは壁ではなく、AKITOだ!
「グワーッ!?」
「グワーッ!」
 AKITOと阿修羅が衝突し、二人は転がり、倒れる!
「グッ…」
 AKITOは俯けに倒れ、己の上に覆い被さった阿修羅を押し退けようとした。
 だが、ポン・パンチの一撃を深く鳩尾で受けた衝撃により、阿修羅は気を失っている!気絶した人間は往時よりも重くのしかかる!
「ググググ…」
 邪悪な嗄れ声で嗤いながら、デスチェイサーは未だ腰を抜かした聖良に近づく。
「次は貴様だ」
 2度も切り裂かれ、己の血に塗れた右手で、聖良を指差す。
「あ、ああ…」
 聖良は蛇に睨まれた蛙めいて、動くことも儘ならない。想像していただきたい。
 もし、見知った友人が突如として異形の力を振るい、己を殺さんとしたならば。
 その時果たして平静でいられる人はどれ程いるのだろうか。少なくとも聖良は、平静ではいられなかった。
「アーチャー…」
 AKITOは呻く。デスチェイサーは無慈悲な死神の鎌めいて、チョップを天高く掲げた。聖良は震えた。震えながら、思わず言葉が零れる。
「ブレイヴさん。本当に死んじゃったのか…?」
「同じことを2度言わすでない」
 そう返すデスチェイサーの目は喜悦に歪んでいた。そして、吐き捨てるように言った。
「儂は死!嵐の如き死よ!木端よ、消し飛べィ!イヤーッ!」
「アーチャー!」
 デスチェイサーがチョップをギロチンめいて振り下ろす。AKITOは叫び、聖良は堅く目を瞑った。だが、一向にチョップは振ってこなかった。
 思わず聖良は目を開けた。すると、おお、ナムサン!デスチェイサーのチョップを止めるかの如く、白いコロイド光が巻き付いているではないか!
 デスチェイサーは突然の事態に狼狽えた。
「何だ?これは!」
 やがてコロイド光は形を成し、手を、腕を、足を、胴を、頭部を形作り、やがて人の形へと変化した。
 コロイド光人型はデスチェイサーのチョップを抑えている方とは逆の腕を天に掲げた。
 そして、そこから強烈な4つの光が迸り、仮面の戦士たちのライザーへと、注ぎ込まれた!
「これは…マスクドエナジー…?」
 どうにか気絶した頼朝の下から這い出たAKITOはライザーを取り出す。光が収まると、ライザーが文字を出力した。
『デスチェイサーはマスクドエナジーの残滓に』『有象無象の怨霊が取りついた存在』『肉体は仮死状態』
『デスチェイサーを倒すには』『マスクドエナジーをブレイヴのソウルに照射すべし』『さすればエナジーの勝るソウルが邪悪に克つ』『健闘を祈る』
「マスクドエナジーを…注げと」
 AKITOは己の成すべきを直ぐに判断した。立ち上がり、CQCを構える。デスチェイサーは、コロイド光人型の拘束を振りほどいた。
 拘束が解かれると、人型はすぐに消滅した。
「何かは知らぬがコシャク…」
 デスチェイサーはAKITOに対峙する。AKITOは毅然と宣言した。
「返して貰うぞ…その体を!」
「ほざけコワッパ!」
「ほざいてんのはそっちだ!」
 唐突にデスチェイサーの後方より飛ぶ怒号!デスチェイサーが訝しむよりも先に、声の主はデスチェイサーに組み付き、羽交い絞めにした!
「イヤーッ!」
「グワーッ!お、オヌシ!?」
 デスチェイサーが下手人の顔を見て驚いたのも無理はない!それは、先程殺したはずの十六夜であった!
「生憎俺は不死身なんでね」
 十六夜がデスチェイサーを嘲笑う。十六夜は、過去のトラブルから不死の力を会得しており、心臓を潰した程度では死なないのだ!
「死んだフリして期を伺ってみれば、大当たりだ!リーダー、コイツにぶちかましてやれ!」
「ああ…!」
 既にAKITOは走り出していた!その右手に瑠璃色の光を溢れんばかりに湛え、デスチェイサーへと突き出す!
「受け取れ…ブレイヴさん!」
 デスチェイサーの胸元へとAKITOの右手が添えられ、瑠璃色の光が、マスクドエナジーが爆発的に輝きだす!
「何だ…これは!」
 AKITOのマスクドエナジーに呼応し、聖良の、十六夜の、頼朝のマスクドエナジーも輝く出す!そして光は加速度的に拡散し、彼らの視界を塗りつぶした!

―――――

 気が付けばデスチェイサーは、否。その中核たる悪霊は己自身の精神世界の中に己を見出していた。
 周囲には、自身と共に彷徨っていた悪霊たちが魚群めいて渦を巻いている。
「何だ。一体何が」
 悪霊は狼狽えた。先程まで順調だったはずだ。己が思うままに殺して、殺して、殺してきたはずだ。だと言うのに…
「馬鹿な。儂はまだ殺しておらんぞ。全てを!人を!獣を!龍を!」
「それがオヌシのエゴか」
「何?」
 気が付けば、悪霊の目の前には誰かがいた。極彩の光に編まれた男が、ブレイヴがそこに居た。
「貴様、死んだはずだ!」
「死んではいない。貴様が生き長らえさせたのだ。俺の体を使うためにな」
 淡々と言葉を述べ、ブレイヴは悪霊へと近づく。
「く、来るな!イヤーッ!」
 悪霊は手を翳し、周囲の悪霊群をブレイヴに急襲させる!ブレイヴは焦らず、カラテを構えた。
「イヤーッ!」
「アバーッ!」「アバーッ!」「アバーッ!」
 そして泰然とした構えで繰り出されたチョップが、大海を割る聖人の寓話めいて、悪霊群を真っ二つに引き裂く!
 悪霊群は、引き裂かれた端から、消滅していく!
「おのれ…」
 悪霊はジリジリと後退して呻いた。ブレイヴの目は真っ直ぐと悪霊を見据える。やがて両者は、ワン・インチ距離まで近づいた。
「オヌシらの憎悪。同情せぬわけではない」
 ブレイヴはジュー・ジツを構えた。悪霊も構えようとした。だが、思うように体が動かぬ!
 目の前の男に一時的に与えられた膨大なマスクドエナジーの力が、悪霊を苛む!そしてブレイヴは括目し、吼える!
「だが、私の目的の邪魔になるのなら…容赦はしない!砕くのみ!イヤーッ!」
「グワーッ!」
 ブレイブのチョップ突きが悪霊の胸を貫き穿つ!
「イヤーッ!」
「アバーッ!」
 素早く腕を引き抜き、更に唐竹チョップが左肩から右胴までを砕き斬る!
「馬鹿な…そんな馬鹿な…」
「成仏せよ…小蠅め!」
 悪霊の末期の声を、ブレイヴは踏みにじるかのごとく罵倒する。悪霊は、注ぎ込まれたマスクドエナジーに耐え切れず膨張し、そして!
「サヨナラ!」
 断末魔の声と共に爆発四散!こうして、死の嵐を吹かんとした名も無き怨念たちは、消滅した!ナムアミダブツ!
 悪霊たちの残滓が黒い雪めいて精神世界に降り注いだ。やがて、それらは集合し、一握の闇となり、ブレイヴの手の内に収まった。
 ブレイヴはそれを無感動に見つめ、やがて、握り潰した。潰された闇は、ブレイヴの手に溶けるように、消えていった。

――――

 光が収まった数秒後、デスチェイサーのメンポが砕け散り、ブレイヴの顔が露わとなった。十六夜は万一に備え羽交い絞めを解かない。
「ブレイヴさん…?」
 AKITOが声を掛ける。ブレイヴは俯いており、表情は窺えなかった。
「すまん」
 ブレイヴは、短く謝罪した。そして、完全に気絶した。
 十六夜は、ゆっくりとブレイヴの体を地面に横たわらせた。
「しかし、どうにかなったな」
「ああ…」
 十六夜とAKITOは緊張の糸が切れたかのように座り込んだ。聖良は気を取り戻した頼朝を助け起こしていた。
 これからどうなるのだろう。まさか馬鹿正直に話す訳にもいくまい。AKITOは今後のブレイヴの為の弁明を思案した。
 だが、考えが纏まらず、空を見上げた。太陽が空の真上で輝いていた。
「まぁ…どうにかなるだろう」
 疲労を吐き出すかのように、AKITOはぼんやりと呟いた。

――――

 だが、戦士たちは気付かなかった。仮面の戦士たちから500フィート程離れた木々に紛れし古い遺跡の柱の上、彼らを監視する影があったことを!
「何と、出鱈目な」
 影は呟く。紅いローブに騎士めいた紅い装束を纏ったその影は生い茂る枝の位置を巧みに見切り、顔を見せぬようにしていた。
「しかし、あの死神…」
 影は顎に手を当て思案する。
「あれ程の邪気と力。もしや我らの同類か?」
 影は暫し沈黙思考する。やがて思考を終えると、影は大げさにローブを翻し、嗤った。
「もしそうだとするならば歓迎せねばな。だが、もしそうでないのなら…」
 影は溶ける様に消え始めた。おお、何たる超常現象か!
「我ら“赤衣の男”達の害となる前に、消さねばな」
 やがて影は完全に消失した。まるでそこに最初からいなかったかのように。
 風が不気味に木々を揺らした。遠くない未来で訪れるであろう戦いを予見するかのように。
最終更新:2015年11月10日 04:44