明くる日の朝、光の子・晃司はモウムの家で暮らすことになった。晃司は立って歩くことは出来ていたが、食事をすることはままならなかった。しかしタケルが食事の仕方を一回教えただけで晃司はたちまち自分で食べられるようになっていった。
モウム:ほう、晃司は学習能力が優れているようじゃ。どれ、ならば別の事も試してみようではないか。
それからというものトルガルの村人たちは晃司に文字の書き取りや計算、料理、裁縫など様々な物を教えた。すると晃司は瞬く間にどんどん習得していった。晃司の学習能力の凄さに驚いてはいたが、逆にそれがトルガル人にとってはかけがえのない希望となっていった。だが驚くべき所はそれだけではなかった。晃司には驚異的な自己治癒能力も持っていた。例え転んでケガをしても、彼に付いた傷が一瞬で光となって消えてしまうのだ。
その様子を一週間かけて見ていたガカイは城に戻るとヨゴに今まで見た少年・晃司のことを報告した。
ヨゴ:それは誠か?
ガカイ:はっ!もしこのままあの晃司という者が居座ればあの村は次第に勢力を拡大させ、このロタ王国の脅威となるでしょう。
ヨゴ:なるほど。もしそうなればいつ我に刃を向けて来るかわからぬな。だが、その晃司というものがロタの手に入れば、栄光は我らの手に治まる。よし、ガカイ!今すぐその晃司とやらをその村から奪ってこい。もし抵抗するならば根絶やしにしても構わん!!
ガカイ:ははっ!!
ガカイはさっそくロタの兵士を数十人引き連れてトルガル村に向かって行った。
その頃、晃司はモウムの息子であるタケルという青年やその隣人のトカイたちといっしょに田んぼの稲刈りの手伝いをしていた。光司はタケルに教わったとおりに手際よく、その稲を刈り取っていった。
トカイ:晃司は飲み込みが早くて頼もしいな。
タケル:そうだな。料理や裁縫なんかもを少し教えただけでもすぐに覚えてしまうものな。今度は武術でも教えてやるか。
モウム:まあ、何事も経験が第一だ。晃司は不思議な力を持っておる。私たちがこの子を育てれば、あのヨゴにも決して負けることのない力強い村となるであろう。
するとその時、村の門の外から足音のようなが聞こえた。
ガカイ:御用改めである!
タケル:ん?何だろう?
タケルたちはその様子を見に門の傍まで出向いた。するとそこには、十数人のロタの兵士さちが門の近くにずらりと並び、その前にヨゴの護衛士・ガカイが立っていた。
トカイ:あれは、ロタ王国の兵隊たちじゃないか!ん?その前にいるのは、夜の護衛士か?
タケル:何だ?また俺たちに何か仕掛けるつもりなのか?
モウム:おそらく、晃司を狙っているのであろう。
タケル:え?晃司を!?
トカイ:わからぬ…。だが、あの様子だとヨゴ陛下は晃司を警戒していると見て間違いなかろう…。
そう言うとモウムが何事もなかったかのようににっこり笑いながらガカイの前に出た。
モウム:これはこれは、ガカイ様。今日はわしらに何か要望がございますでしょうか?
ガカイ:ここに晃司と名を持つ天から降った光の子供がいるはずだ。今すぐそいつを引き渡せ!さもなくば、お前らの命いや村はない。
タケル(やはり、晃司が狙いか…。)
モウム:いやはや、そんな子供は知りませんな。何か勘違いをなされているようだ。
ガカイ:とぼけるな!あの晩の夜、ヨゴ陛下が村に落ちた光に気付いて、城からその一部始終を望遠鏡で覗いていたのだからな!
ガカイの言葉に動揺したトルガル人だったが、モウムはこれは何を言っても無駄だと察し、冷静に対応した。
モウム:(やはり、見ていたか…。)それで、その…要件は何でございますでしょうか?
ガカイ:何度も言わせるな!晃司という少年を我がロタ王国に差し出せと言っている。
モウム:して、晃司をどうするおつもりかな?
ガカイ:決まっているだろう?そいつは不思議な力を持つ天からの者。その子はお前らみたいな地位や栄光もない石ころのような存在に相応しくない。だからこのガカイがわざわざ迎えに来て、晃司を迎えにそちらに参ったそれだけの話だろう。
タケル:黙れ!誰が石ころのような存在だ!この島はイーハン様によって作られた我らの大切な村なんだ。ろくでもなしのお前らの好きにさせてたまるか!
タケルはガカイの聞き捨てならない言葉に居ても立っても居られず抗議した。
ガカイ:ろくでなしだと?ふんっ!とんだ言いがかりだな。そもそもここは、世界政府加盟国なのだ。我々ロタ王国は気品あふれる誇り高き国なのだ。それをイーハン前国王はお前のような者をロタ民族の一部だなどと言い放ち、くだらぬ村まで作りおった。だが今は新しき国王ヨゴ様の力により、共存だの自然豊かだのというまやかしを捨て、再び国に相応しい地位と権力を取り戻す時が来たのだ。まあ、いずれこの村も取り壊す所存なんだがな…。
一同:……!?
つい本音を漏らしたガカイの言葉にトルガル人たちは驚きを隠せなかった。
モウム:な、なんと!?
ガカイ:あぁ、少し口が過ぎたようだったな・・・。だが晃司という少年を我々に渡してもらえれば、1年くらい村の保障はしてやる。どうだ?悪くない話だろう?
タケル:ふざけるな!お前らなんかにこの村を……いや……晃司を渡してなる者か!
トルガル人:ああ、そうだ。どうせこの村は滅ぼされるんだ。晃司を渡して黙って滅ぼされるのをただ指をくわえて見てるくらいなら死んだほうがマシだ!
タケルは怒気を放ちながら槍を構えた。気が付けば村の人たちも弓や石礫、鍬などを持ち出していた。トルガル人は武器を構え、応戦しようとした。
ガカイ:ふぅ~…。なら、仕方がない。行け!晃司というガキを奪うのだ!
トルガル村に兵がなだれ込み、村を襲い始めた。
タケル:父さん!ここは俺たちに任せて、晃司を急いで岩の社に!
モウム:ああ、わかった!だが決して無茶をするなよ?
タケル:ああ、大丈夫だ!みんな、なんとしてでも俺たちで晃司を守るんだ!
トルガル一同:おー!!
トルガル村の人たちは晃司を守ろうとそれぞれの武器で襲い掛かる兵たちに必死に抗戦した。
その隙にモウムは晃司を連れて森へと逃げた。
ガカイ:少年を探せ!抵抗する者は殺せ!なんとしてでもやつを連れてくるのだ!
ガカイは兵に指示を出し、モウムの後を追うように森へと向かった。
ガカイに続き、ロタ兵も何人か追おうとしたが、後方からトルガル人に矢を射られ、倒れた。
一方、モウムは晃司を大きな岩の洞窟にある社の傍まで来ると、晃司を社の中に入れた。
モウム:よいか?わしが「いい」というまで出てきてはならんぞ?もし、出てきたとしてもわし以外の人には決してうかつに近寄ってはならぬぞ?
晃司:うん、わかった。
モウムは社の扉を閉めるとその場を離れ、森の辺りを探索するように歩き回った。しばらくするとガカイがやってきた。
ガカイ:晃司という小僧はどこだ?
モウム:わしも知らんよ。森へ来る途中はぐれてな、今探しているところじゃよ。
ガカイ:そうか。ならば、手伝ってやる。
ガカイは静かに目を閉じると感覚に全集中を研ぎ澄ませた。
モウム:はっ!?しまった!まさか、彼は覇気使いであったか!?
しばらくすると、彼の口が少しにやけた。
ガカイ:見つけた…!
そうつぶやくと、岩のあるところへ向かった。
モウム:い、いかん!!
モウムも急いでガカイの後を追う。
一方、晃司は社の中に身を隠していたが、外の様子が気になり、社の扉の隙間から覗いた。すると、なにやら岩の洞窟から人影が入ってきた。モウムだと思った晃司はすぐ扉を開けた。だが、そこにいるのはモウムではなく紺色の鎧を着たガカイだった。ガカイは晃司にお辞儀をしながらこう言い放った。
ガカイ:おぉ。これはこれは、天から授かりし者・晃司様。お迎えに上がりました。
晃司:あ、あんた、誰?
ガカイ:私はロタ王国の護衛士ガカイでございます。我陛下、ヨゴ様がお待ちです。
晃司:でも、モウムが「モウム以外の人には付いて行ってはいけない」って…。
ガカイ:これはあくまで、陛下があなたのことを知りたいと直々におっしゃっているのです。ささ、こちらに。
と、言ってガカイは晃司に手を差し出した。晃司はおそるおそる手を伸ばす。
モウム:そうはさせん!
そこに息を切らしたモウムが飛んできてガカイに体当たりを食らわせる。そして晃司の前に立ちはだかった。
モウム:晃司、行くな!お前はトルガル村にとって、なくてはならない希望なのだ!だから行ってはならん!
そう息を切らしながら杖を構え、晃司を諭した。
ガカイ:くっ、黙れ!貴様らのようなこんな地位も名誉もない民族なんぞ、このロタ王国には相応しくない。いっそなくなって当然なのだ!
モウム:いいや、この島はイーハン様によって作られた我らの大切な村なのだ。お前らの好きにはさせん!
ガカイは剣を抜いてモウムに斬り掛かる。モウムはそれを杖で受け止め、剣を押しのける。そしてガカイとモウムの激しい小競り合いが始まった。杖と剣がぶつかり合う度に火花が散る。
💥キィン!
💥キィン!
💥キン!
それぞれの武器がかち合い、互いに押し合う… ちなみに力は今のところ両者とも互角である。
モウム:そのような情のかけらもない輩には必ず天罰が落ちるぞ。
ガカイ:戯け!この国に情など必要ない!地位と名誉があればロタ王国は滅びはせん!
そう言ってガカイは刀に力を込め押し付ける。モウムはその圧倒的な力に押されていった。
モウム:くっ…、晃司!この場から離れるんだ!
晃司:え?で、でも…。
モウム:わしのことは気にするな!この男を退けたら今すぐにでもそっちへ追い付くから……な!
ガカイ:ほう、この私を退かせると?おもしろい。だが、はたしてそれが出来るかな?
ガカイは一旦離れると今度は下から剣を振り、斬り上げる。モウムは杖で防ごうと構えたがガカイの剣に弾き飛ばされれ、モウムの手から杖が離れてしまった。
モウム:し、しまった!?
ガカイ:そこだ!
🗡\ザシュッ!!
モウム:ぐわぁ!!
隙を突かれたモウムはガカイに体を一文字に斬られる。致命傷を負ったモウムは地面に倒れた。
晃司:モウム!
モウム:ぐっ…、晃司…!逃げろ…!逃げるんだ!
モウムはすぐ起き上がり、かすれた声で晃司に叫んだ。晃司はモウムの言葉を聞いて、森の奥へと逃げた。
ガカイ:そうはさせるか!💥うがっ…!
ガカイは晃司の後を追おうとした。だがその時、背中に激痛が走った。見るとモウムが隠し持っていた短刀で背後からガカイの脇腹を突き刺していた。
モウム:ふっ、そうは簡単に生かせぬぞ…。このモウム…、死んでもお前を晃司のもとへは行かせはせぬ!
ガカイ:んぐっ!くっ……、おのれ… この死にぞこないが!
不意を突かれたガカイはモウムをすぐ様斬り伏せると晃司の行方を追った。うつ伏せに倒れたモウムはもはや虫の息だった。
モウム:こ、晃司…逃げろ…。そして、この島を頼んだぞ…。
最後の力を振り絞り、晃司が向かった方向に叫ぶとそのまま倒れ込んだ。そしてそのままモウムの体は動くことはなかった。