─ここは、東の海イーストブルー、トルガル島・ロタ王国。
イーハン:今年の収穫はどうだ?
モウム:はい、おかげさまで。大豊作でございます。
イーハン:うむ、そうか。
トルガル村の長であるモウムの言葉にロタ国王・イーハンはふと微笑む。
タケル:はい、イーハン陛下。
イーハン:おぉ!これはまた見事なトマトだ。
モウムの息子であるタケルは籠から採れたてのトマトを1個差し出した。イーハンはタケルからトマトを受け取り、かじり付く。
イーハン:うむ、いい味だ!これでまたロタは安泰だろう!
このロタ王国という国は、もともと気品あふれる誇り高き国だったが、イーハンという青年が国王に就任してからは愛に溢れた豊かな国になっていった。イーハンは困っている人を見過ごせず、貧しい者や困っている者などがいれば迷わず助け、例え窃盗や暴力などで罪を犯した者がいたとしても場合によってはその者を自分の家臣に招き入れたり、物を分け与えたりするなどをしていた。さらに、イーハンは貧しい人たちのために土地を与えるために家臣にロタ王国の隣にあるトルガル森を一部開拓しように命じ、「トルガル村」という村を作った。その後もイーハンは度々村に訪れてはロタ王国の品々を村の人々に分け与えたり、彼らと一緒に村の畑を手伝ったりもしていた。トルガルの村の者や多くのロタ民族は、そんなイーハンを慕っていた。
しかし、その翌日のこと、イーハンは突然の高熱で倒れ寝床に伏せていた。それを知ったロタ人やトルガル村の村人たちもイーハン国王の見舞いにと城を訪れた。だが、イーハンの弟・ヨゴに拒まれ、追い返されてしまった。そしてその夜、23歳というあまりにも若さで帰らぬ人となってしまった。彼の早すぎる死に国中の人たちは悲しみに包まれた。
イーハンの死から翌日が経って、ヨゴが次期国王として就任された。しかし民たちにとっては彼が王になるのは快く思っていなかった。ヨゴはイーハンとは違って貴族としてのプライドを誰よりも強く持っており、身分の低い者たちをかなり軽蔑していた。そのため誰かが彼の前を横切ったり、彼の服を汚すなど些細なることでも暴行を振るうなど国民にもひどい扱いを受けていた。そのため彼がロタ王国に就任すると知らされた時はみんなの頭には不安しか残っていなかった。
だが、その不安は次期国王就任式の式に起きた。それはヨゴがこんな発言をしたからだ。
ヨゴ:私が就任したからにはトルガル村をロタ王国から引き離したいと思っている!
ヨゴは貴族の優雅な気質や誇りよりも自然や民を愛するイーハンの思惑には全く理解できていなかった。そのためイーハンが開拓した村を小汚い貧乏村と評してはトルガル村の村人たちを強く非難していたのだ。トルガルの村人たちを含むロタの民たちは当然納得出来ず、猛反発した。
ヨゴ:黙れ!ここは世界政府加盟国だぞ!豊かで平和な国?そんなものが何の役に立つ!それに我が兄のイーハンの死因は過労死。つまりトルガル村のやつらにこき使われたせいで、兄は死んだのだ!
トルガル人:な!? こき使われただと!?でたらめをいうな!イーハン陛下は我々の為に自ら足を運んでくれたのだぞ!
ヨゴ:ふん!知るか!そもそもこのロタというものはもともと気品あふれる誇り高き国なのだ!お前らのような貧乏人の集団がこれ以上大きくなられればこの国の品質が下がるのだ!よいか!トルガルの者はロタから一歩も足を踏み入れてはならん!もし一歩でも足を踏み入れてみろ?その時は即刻死刑だ!
─その日以来、トルガルの村人たちはロタの地面を踏むことが出来なくなった。しかもヨゴやロタの兵士が度々現れては村の作物を強奪する・畑を荒らる・移動に使う馬や牛を無惨に殺すなどしてひどい嫌がらせするようになった。だが不思議なことにそのことに誰も抗議したりする者はいなかった。
トカイ:や、やめてくれ!
トルガルの村人の一人・トカイは蔵から作物を持ち出す兵士にしがみついた。
ロタ兵士:邪魔をするな!
💥ザシュッ!
ロタ兵士は強引に引き離すと、肩を斬り付けた。
トカイ:ぐわぁ!!
タケル:トカイさん!
タケルはトカイの悲鳴に気付き駆け寄る。その隙にロタ兵士は颯爽と作物を持ち去って行く。タケルは抵抗する村人たちを蹴散らしながら村の作物を意気揚々と持ち去る兵士たちを悔しそうに睨みつけた。
タケル:くっそ!あいつら・・・!
タケルたちはトカイを診療所に連れて行き、傷の手当てをした。
リカ:大丈夫?お父さん。
トカイ:ああ、大丈夫だ。傷も思ったほど深くはないみたいだったし。
タケル:だけどあいつら、ヨゴというやつが王座についてから毎回毎回俺たちの村へ来て好き放題やってやがる。ロタのやつらはこのことを知らないのか?
モウム:いや、ロタの民たちはわしらがヨゴの兵士らにひどい仕打ちを受けていることを知っておろう。だが、いくら助けたいという者がおったとしても、それが出来ないのであろう。
リカ:え?なんで!?
モウム:さあな、だがおそらくヨゴがロタの民に何か命じたのであろう。トルガルの者らをかばうものなら死刑にするとかな。
タケル:俺はそんなやつ王として認めない!いつかヨゴをこのロタ王国から追い出してやる!
そう言うとタケルはロタ王国の方を見つめていた。
─そんな夜のこと、ロタ王国に流れ星のような銀色の光が降ってきた。その星はトルガル村にある丘に落ち、爆発とともにトルガル村全体に閃光が走った。
トルガル人:何だ?こんな夜中に。
トルガルの村人たちはあまりの眩しさに眠りから覚め、窓を開けたり、外に出たりしだす。
トルガル人:ん?村の丘に何か光っているぞ。
トルガルの人たちは、さっそく光のある丘へ行ってみた。すると、そこには光を纏った子供が仰向けに横たわっていた。よく見ると、3歳くらいの少年だった。しばらくすると、彼の身に纏っていた光が消えた。タケルがその少年に駆け寄るとすぐ抱き起こした。
タケル:おい、起きろ!大丈夫か?おい!
少年はタケルの声で目を覚まし、キョロキョロと辺りを見回す。するとここでモウムが少年に近づきこう口にした。
モウム:おそらくこの子は天からの授かりものかも知れんぞ。
リカ:天からの授かりもの・・・?
モウム:わからぬ・・・。だがもしやとすれば、こやつはこのトルガルの村にとって救世主となってくれるやもしれぬ。
タケル:天からの授かりものか・・・。うん!そうかも知れないな。だとすれば、この子の名前は何がいいだろう?
トカイ:星に乗ってやって来たから、「星司 」というのはどうだろう?
タケル:よし!決まった!天からの授かりものだから、光を司る者・「晃司 」という名にしよう!
トカイ:あぁ、いや・・・だから・・・星司 に・・・。
リカ:うん!私も「晃司 」がいい!
トカイ:えぇっ!?Σ(゚Д゚;)
トルガル人:俺も!
トルガル人:僕も
トルガル人:私も!
トカイ:うっ・・・。クソゥ・・・周りが同意見なら仕方がない・・・。
こうしてこの少年は「晃司 」と名付けられた。そして、晃司はその後、モウムに引き取られることとなった。
だが、その一部始終はトルガルの村人たちだけではなかった。ヨゴもさっきの光に気付いており、望遠鏡で城からトルガル村の様子を覗いていた。事が終わるとヨゴはすぐに護衛士のガカイを呼んだ。
ガカイ:お呼びでしょうか?ヨゴ陛下!
ヨゴ:見たか?トルガルに落ちたあの光を。
ガカイ:はい!おそらくどこからの隕石かと・・・。
ヨゴ:私もそうだろうとは思ったが、さっき望遠鏡で覗いてみたら光の中から子供が現れた。
ガカイ:子供・・・ですか?
ヨゴ:ああ!そこでお前にあの子供がどんなやつなのか探ってきてほしい。不審な点があったら随時、私に報告するように。
ガカイ:ははっ!!
ガカイは早速城から出ると、すぐにトルガル村へ向かった。
ヨゴ:さぁて、その子供があの村にとって「吉」となるか「凶」となるか・・・。もし「吉」となるならば一刻も早くあやつを我がものにしなければ・・・!フフフフフ・・・・
ヨゴはトルガル村を見つめると、不適な笑みを浮かべて手を伸ばし、まるで村を握りつぶすかのように手を握りしめた。