いつも何度でも ◆yX/9K6uV4E



――かなしみは数えきれないけれど その向こうできっとあなたに会える




     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


私――栗原ネネがアイドルになる切欠ってなんだったんだろう。
そう思った時、戻ってくるのは、いつも病室でした。
小さなテレビと、大きな熊のぬいぐるみ。
そして、窓から見える大きな桜の木。

それが、妹――あの子が見れる唯一の風景でした。
私は、そこであの子と一緒に居て。
あの子の思いを共有していました。

テレビを見て。
桜を見て。
歌を歌って。


あの子の世界はそれしかなかった。
それしかない世界を広げてあげたかった。
でも、思いつくことも無くて。
私はあの子の傍に居てあげる事しか、出来なかった。

治療は上手く、いかず。
苦しむ妹の手を、私は、握る事しかできなくて。
小さなてのひらは何処までも冷たくて。

私は何も出来なかった。

泣いた。
泣いて、泣いて。

何も出来ない私を呪った。

そんな私をあの子は慰めた。

それがまた、哀しくて。

私は泣きながら、笑った。


治療にはお金もかかって。
それを捻出するのに、両親はひたすら苦労して。
けれど、全く効果が見えず。
苦しむあの子を見て。

二人は、いがみ合ってしまった。
いがみ合う必要なんてないのに。
上手くいかないという焦りと。
いつになったらこの状況から抜け出せるのかという諦観。

大好きな人達が、今も愛し合ってあるのに。
喧嘩をしているのを見るのは、私も辛かった。

疲れた顔して、怒鳴りあう両親を見るのが、本当に哀しかった。

生活の苦難は、私にも降りかかって。
買いたいものも、買えず。
おしゃれするお金すら、無く。
何処にも連れて行ってもらうことは、無く。
行きたい学校にも当然行けることは無く。

結果、友達の話についてく事も、出来なくなって。
私は疎外感を味わいながら。

ただ、ひたすら我慢を強いられ続けて。


でも、妹は充分に、色んなものを与えられて。



ある時、私は思ってはいけない事を思ったんです。



羨ましい、ずるい。
あの子だけ愛されて。
あの子だけ見てもらえて。


あの子が居なければ、両親は、私は――――と。








     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇










「あったっ!」

私――大石泉は給湯室のゴミ箱に投げ捨てられていた瓶を見つける。
救護室で拝借したゴム手袋で、その瓶を注意深く取った。
まず、何の毒か理解しなければ。
そうすれば、的確な治療法がわかるはず。
私はラベルを見て。

「――――これは」

ぎりと歯噛みをする。
……呼吸器不全を起こすそれは、明確な特効の解毒剤が無い。
けど、けれど。
まず、お湯に解けてるから大分薄れているはず。
そして、後は入れられてる量だ。
少なくとも、一瓶全部入れられている訳が無い。
何故ならば、一瓶全部入れられているなら――――

「即死の筈。だから、まだ可能性はあるはず」

知ってるだけでも、まだ施せる治療法はあるはず。
やらなきゃ、私が、私自身の力で。
私がやらなきゃ、誰が救える?
だから、だから!


力を、力を貸して。
さくら、亜子。
臆病だった私を、色んな世界に連れて行ってくれたよね。
私を信じて、色んな所に。
嬉しかった。
だから。

私は、自分を信じる。
さくらや亜子が凄いといってくれた自分を。


藍子さんがいったように。



さぁ、走ろう。


私が救わなくて、誰が救うの?



絶対に、絶望になんか――――



負けない!








     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇










そう思ったら、私は、あの子のことを恨み始めてたまりませんでした。
あの子が楽しそうに笑うのが許せない。
何もしらずのうのうと愛に包まれているのが。
そう思ってしまいました。
最悪ですよね。

一番苦しかったのは、誰か考えれば解ったはずなのに。

それでも、子供だった私には解らずに。
冷たくしたり。
一緒に居る事をやめたりしました。

あの子は、哀しく微笑んで。
私は、その笑顔が、だいっきらいで。

一度だけ。

一度だけですが――――――――



お姉ちゃん、大丈夫? ねぇ、お姉ちゃん、お話きくよ。わたし、えへへ。


と、無邪気に、笑うあの子が。


どうしても、許せなくて。


パチンと、強く叩いてしまいました。


あの子は泣いて、泣いて。


私も泣いて。


病室を飛び出しました。





そして、一人で公園でブランコをこいで。



初めて、夜遅く帰ったあの日。





妹の容態が、急変した事を、聞いたんです。








     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇









「お二人とも、ネネさんは!?」
「今、胃の中のもの全部吐き出させている所よ」
「意識はあるものの、あんまり話す元気はないみたいね」

はぁはぁと相変わらず肩で息をするネネさんがいて。
心の底から、助けなきゃと思う。
嘔吐する声が、救護室に響くが気にしない。

「引き続きお願いします!」

私は見向きもせず、薬品棚を空ける。
無数の薬品があったが、一つ一つ手にとって違うことを確認して。。
目的物を必死に探した。あるはず、あるはずなんだ。
だから、見つかって!
皆、頑張ってるんだから!

「…………あった!」

ただの、ビタミンE。
それに、ステロイド剤も一応。
無いかもしれなかったけど、ちゃんとした救護室でよかった。
後は……活性炭も見つかった。
そして

「下剤もある……よし!」

これで、大体揃ってる筈。
少なくとも最善は尽くせる。
救える筈なんだ!


「胃洗浄終わったわよ!」
「じゃあ、ネネさんをベットに!」
「解ったわ」
「まず……注射を……」
「私に任せて」
「出来るんですか?」
「私は大人よ?」

そう、ウィンクする川島さんが、たくましく見えた。
楓さんが首をかしげて。

「なんで、ビタミンE?」
「この毒は活性酸素によって、ひきおこるものなんです……それでビタミンEはそれを、減らす事ができるって」
「なるほど……少しでも頼るしかないのね」
「後活性炭も」
「解ったわ」

そして、私は下剤を取り出して。

「これも飲ませてください」
「げ、下剤?」
「腸の中のものも全部だします、なるべく消化させないんです」
「……大変ね」
「そうじゃなきゃ……助かりません!」


助けなきゃ。
救わなきゃ。
出来る限り。
頑張って。



「……ねぇ、此処までして、彼女を助けるの?」
「……どういうことです?」
「今……助かっても……毒物によっては、数週間後に、死ぬのもあるんでしょう?」


楓さんの言葉に、息が詰まる。
この毒薬もそういうもので。
確実な特効が無いということは……今助かっても、数週間後に死ぬかもしれない。
血液に致死じゃない量ぐらいが溶け込んだとしても。
いずれ、死んでしまう。
その可能性が極めて高い毒物だ……。


だから、そんな苦しんでまで、助ける必要あるの?



ねぇ……どうなの?



私は…………



そっと、彼女の手を触れた。



温かくて。



握り返した。








――――うん!



「それでも、彼女は生きようとしているんです! 今、苦しくても、それでも精一杯、希望を持って、未来に!」



だから!



「彼女が諦めないなら! 私が、諦めるわけには、行かない! 彼女が私を信じてくれてるから! 私も彼女を信じる!」




必死に、私は、治療を続ける。



「希望は、此処にあるって!」




そう、




「私たちは……生きなきゃ、いけないんだ! だから、こんな所で、死んじゃ……駄目!」





死んじゃいけないの。
ネネさん、頑張って。
お願いだから。


「駄目……意識が…………」
「そんなこと無い! 私は、私は絶対、諦めない!」





生きて!



何度でも。何度でも言う。





「生きて、生きて、生きてっ!」












     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇









慌てて、病室に戻ると、呼吸器をつけて手術室にいくあの子が居ました。
辛そうに。哀しそうに。

そして、誰も居ない部屋で。

余りにも醜い私が鏡に映った時。


たまらず、鏡を割って。



私は、私を呪いました。

私はなんて、ちっぽけで。
私はなんて、愚かで。


こんなにも、妹を傷をつけてしまったって。


誰も、居ないベッドで、私は泣いていた。


その時、見つけたのです。


あの子の手紙を。



それは、両親への想い。
それは、両親への感謝。
それは、私への感謝。
それは、私への想い。


生んでくれたこと、愛してくれたことの感謝、祝福。



そして、私に、自分の分まで、幸せになって欲しい。


お姉ちゃん、幸せになってね。

お姉ちゃんの笑顔、大好きだよ。




お姉ちゃんの、歌、大好き。




その言葉、でした。





それは、私を解放する、何よりの言葉でした。











     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇







「ねぇ、藍子ちゃん」
「なぁに?」
「わたしの贖罪、そして、わたしの想いを、今、頑張っている、大切な友達に、伝えるね」
「うん、傍で見てるよ」



わたしは、そうやって、救護室に入る。
そこには、ネネさんが居て。


だから、わたしは、歌う。



彼女にとって、祝福の歌を。




「呼んでいる胸のどこか奥で。 いつも心を踊る夢を見たい」



幾千億の想いを乗せて。
あの子に、届け。


「かなしみは、数え切れないけど その向こうで、きっと貴方にあえる」



貴方は。



生きなきゃ、駄目なんです。



貴方の歌を。



誰よりも、聞きたい人がいるのだから。







     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





「果てしなく道は続いて見えるけれど この両手は光を抱ける」



それは、『アイドル』小日向美穂が歌う歌。


誰もが知っている歌。


誰もが聞いたこと有る歌。


「この歌……でも、どうしてこの歌を?」
「解らないわ……けど」
「凄く……胸に通る」



「生きている不思議 死んでいく不思議 花も風も街も みんな同じ」





でも、それは、栗原ネネの、心に。


きっと、届く。







     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






その言葉を見た時、私は、歌っていた。

あの子と見たアニメの曲を。
一緒に歌った曲を。

不思議と心の中に残る曲を。


素敵な歌だね。
素敵な歌詞だねって。


あのアニメの主人公のように、なりたいなってあの子がいって。


私はなれるよといった。


そうして、私は、あの子に生きて欲しいと。


強く願って。



その歌の通り。


閉じていく思い出の中に、忘れたくない、囁きがききました。


こなごなに砕かれた鏡の上にも、新しい景色が写っていました。




お姉ちゃんの歌を聞くと元気になるって。


だから、もっと、聞かせて。




そう言ってくれたから!







――――――私は、アイドルになったんだ!









     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇








「呼んでいる 胸の何処か奥で、いつも何度でも夢を描こう」



そして、小日向美穂の歌は、



高森藍子の歌声が重なって。



更に大石泉の歌声が重なって。





哀しみなんて、何処にもなくて。


其処にあるのは、優しさで。


何よりも、輝くもので。


希望があって。


何処までも、夢を描けて。



そして




「かなしみの数を言い尽くすより、同じくちびるで そっと 歌おう」






栗原ネネの歌が、重なったんです。






あの子に、届けたい歌を。


笑いながら。



何処までも。




私は元気でいるよと。




生きて、いるよと。



伝えるように。











     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇









私の前に、希望をもつ人達が居ました。
皆、私が意識を取り戻したのに、泣いて、笑って。
私は嬉しくて。一緒に泣いてしまいました。


身体はまだ重い。
けれど、大丈夫。

私は、生きている。


救われたから。


ねえ――――



お姉ちゃん、頑張ってるよ。



私は、もう迷わない。



いつまでも、貴方が、望んだ私で居るから。





「輝くものはいつもここに 私のなかに見つけられたから」







【G-5・警察署/一日目 真夜中】

【大石泉】
【装備:なし】
【所持品:基本支給品一式x1、音楽CD『S(mile)ING!』、爆弾関連?の本x5冊、RPG-7、RPG-7の予備弾頭x1】
【状態:疲労、右足の膝より下に擦過傷(応急手当済み)】
【思考・行動】
 基本方針:プロデューサーを助け親友らの下へ帰る。
 1:救えた!
 2:タイミングを見計らって図書館に行き、首輪爆弾に関する本を取ってくる。
 3:夜が明けたら港に船を探しに行く。そして、学校も再調査する。
 4:緊急病院にいる面々が合流してくるのを待つ。また、凛に話を聞いたものが来れば受け入れる。
 5:悪役、すでに殺しあいにのっているアイドルには注意する。
 6:行方の知れないかな子のことが気になる。

 ※村松さくら、土屋亜子(共に未参加)とグループ(ニューウェーブ)を組んでいます。


川島瑞樹
【装備:H&K P11水中ピストル(5/5)、婦警の制服】
【所持品:基本支給品一式×1、電動車椅子】
【状態:疲労、わき腹を弾丸が貫通・大量出血(手当済み)】
【思考・行動】
 基本方針:プロデューサーを助けて島を脱出する。
 0:よかったわね。
 1:今は身体を休める。
 2:日が開けたら港に船の確認をしにいく。(その時、車を出す?)
 3:もう死ぬことは考えない。
 4:この島では禁酒。
 5:千川ちひろに会ったら、彼女の真意を確かめる。

 ※千川ちひろとは呑み仲間兼親友です。


高垣楓
【装備:仕込みステッキ、ワルサーP38(6/8)】
【所持品:基本支給品一式×2、サーモスコープ、黒煙手榴弾x2、バナナ4房】
【状態:健康】
【思考・行動】
 基本方針:アイドルとして、生きる。生き抜く。
 0:うん、よかった。
 1:アイドルとして生きる。歌鈴ちゃんや美羽ちゃん、そして誰のためにも。
 2:まゆの思いを伝えるために生き残る。
 3:……プロデューサーさんの為にちょっと探し物を、ね。
 4:お酒は帰ってから……?


矢口美羽
【装備:歌鈴の巫女装束、鉄パイプ】
【所持品:基本支給品一式、ペットボトル入りしびれ薬、タウルス レイジングブル(1/6)】
【状態:健康 びしょぬれ】
【思考・行動】
 基本方針:?????
 0:うん。よかった
 1:悪役って……。


【高森藍子】
【装備:ブリッツェン?】
【所持品:基本支給品一式×2、CDプレイヤー(大量の電池付き)、未確認支給品x0-1】
【状態:健康 びしょぬれ】
【思考・行動】
 基本方針:殺し合いを止めて、皆が『アイドル』でいられるようにする。
 0:希望は此処に。私は私の全てを誇る
 1:絶対に、諦めない。
 2:美穂と共に。
 3:自分自身の為にも、愛梨ちゃんを止める。もし、悪役だとしても。

 ※FLOWERSというグループを、姫川友紀、相葉夕美、矢口美羽と共に組んでいて、リーダーです。四人とも同じPプロデュースです。
   また、ブリッツェンとある程度の信頼関係を持っているようです。


【栗原ネネ】
【装備:なし】
【所持品:基本支給品一式×1、携帯電話、未確認支給品x0-1】
【状態:憔悴】
【思考・行動】
 基本方針:輝くものはいつもここに 私のなかに見つけられたから
 0:輝くものはいつもここに 私のなかに見つけられたから

※毒を飲みましたが、治療により危機は脱しました。体力の消費、倦怠感はあるもの、健康です。(数週間、数ヶ月単位では不明です)


日野茜
【装備:竹箒】
【所持品:基本支給品一式x2、バタフライナイフ、44オートマグ(7/7)、44マグナム弾x14発、キャンディー袋】
【状態:健康 びしょぬれ】
【思考・行動】
 基本方針:藍子を助けながら、自分らしく行動する!
 0:やった!
 1:川島さんの様子を見る。
 2:できることがあればなんでもする!
 3:迷ってる子は、強引にでも引っ張り込む!
 4:熱血=ロック!


【小日向美穂】
【装備:防護メット、防刃ベスト】
【所持品:基本支給品一式×1、草刈鎌】
【状態:健康、ずぶ濡れ】
【思考・行動】
 基本方針:恋する少女として、そして『アイドル』として、強く生きる。
 0:輝くものはいつもここに 私のなかに見つけられたから。
 1:藍子を理解、そして、アイドルとして共に居る。
 2:悪役って……?


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姫川友紀
川島瑞樹
高垣楓
矢口美羽
高森藍子
日野茜
栗原ネネ
小日向美穂
千川ちひろ

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最終更新:2013年11月17日 23:49