欺瞞 ◆yX/9K6uV4E



――だとするならば、それは自己欺瞞に満ちている。









     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇







亡くなった二人分の荷物を持って、島村卯月は歩き始める。
若干重たいと感じるが、それが二人の生きた証だと、卯月は思う。
だから、もう一度、よいっしょと思いながら、背負いなおして、前を見た。
其処には、動く事もない遊具が沢山あって。
本来ならば、遊具で遊ぶ子供たちで溢れているはずなのに。
ただ、箱だけあるのは寂しくて、がらんどうのようで。
見ているだけなのに、切なくなっていく。




煌びやかだった筈の場所を、卯月は黙々と歩いていく。
未だ声が発する事は出来てないし、今はもう話せる人も居ない。
それはとても辛くて卯月にとってしんどくなってしまう。
元々、誰かと話す事が好きだった。
家族と話すこと、友達とはなすこと、いろんな人と。
話題は日常のこと、アイドルのこと、色んな話を。
直接会って話したり、はたまた電話で話したり。
長電話をして、電話料金がとんでもない額になった時は、流石に顔が真っ青になった。
それ位、卯月は誰かと話す事が好きで。


でも、今は、誰も隣に居なかった。
先程まで一緒に居た、幸子も、輝子も、愛梨も。
この島で出会った里美も、美波も。
そして、ずっと一緒に居た凛も、未央も。
誰も彼もいなくて。
卯月は、ただ一人、がらんどうの遊園地を歩いている。


思い込み、だったのだろうか。
喋れなかったけど、文字で必死に愛梨と言葉を交わして。
少しでも解ったと思っていた。
けれど、やはり齟齬はあった。
結果、自分は大切な友達を失ってしまった。
愛梨を責める事は、きっと出来ない。

声を失ったという事実は、卯月にやはり重たい。
もっと自由に喋れば、きっともっと心を交わせる事ができただろうに。
そうすれば、ああなる事なんて無かったはずなのに。
考えれば、考えるほど苦しくなっていく。

兎に角、今は愛梨に会わなければ。
愛梨にあって、何があったのか。
そして、彼女の助けになるならば。
何かできるならば、力にならなければ。
彼女の魔法を解くことは出来るかわからないけど。


けれど、やはり。


声が、出ない。
自分の思いが、伝えられない。
卯月は喉を押さえて、頑張ろうとするけれど、全然、声がでない。
これじゃ、愛梨と喋る事が出来ない。

こんな状態で、何か出来るのか。
出来やしない。


喋りたい。
声が、欲しい。


私の声は、何よりも、私自身である為の、証明なのに。



なのに、喋れないのはどうして?



それは、まるで自分自身の否定で。



それは、まるで、何かも否定しているようで。


何もかも、解らなくて、解りたくなくて。

俯きながら、無言の遊園地を、卯月は歩いている。


だけど、それでも
頑張ろうと思ったから。


凛に会いたい。
ニュージェネレーションは、まだ続いてるだから。
凛も居て、未央も『居る』

だから、また三人になれば。


『ニュージェネレーション』になれば。



きっと失った『声』も『島村卯月』も、戻ってくる。



そう思って、卯月は笑った。
笑っていようと思った。
死んだ人達のためにも。
自分自身のためにも。


卯月は、不思議と笑っていて。


でも、その姿は、『欺瞞』に満ちていた。


今、卯月が通り過ぎたメリーゴーランドの傍で、亡くなってしまった少女――水本ゆかりが、卯月に言った言葉がある。




――――どんな、苦しくても、辛くても、それでも、、資格が無くても





そう、たとえ、それが殺し合いをしても。






――――それすら、乗り越えて『私達は笑わないといけない』









卯月は、笑っていた。
彼女が救えなかった命の上に立ちながら。
彼女が声をかけなかった命の上に立ちながら。



全てに、覚悟をもって、彼女は笑っていた。




それは、まるで水本ゆかりが言った、『笑顔』で、彼女が望んだ『アイドル』の姿だった。





けれど、卯月は、気付かない、気付かない振りをした。




それが、アイドルなんて。



それが、島村卯月だなんて。





思いたくなかったから。





でも、その姿は、卯月の今の姿は、水本ゆかりが言ったものだ。
そうやって、笑っていた。
卯月は、全部の上に立ちながら、それでも、笑っている。


でも、気付かないことにした。
でも、解ってないことにした。



そうだと、思ってしまえば。



それは、水本ゆかりの肯定だ。
また、それは彼女のような殺し合いをした人の肯定だ。


そんな事をしてしまえば、やがて、自分自身もそうなってしまう。




そんなのは嫌だ。




だから、気付かない。



私は、水本ゆかりじゃない。




声を失っても、島村卯月なのだから。




私は、笑っているけど、笑っていない。


そう思う、ことにする。




ただ、卯月は、自己欺瞞に満ちながら。






彼女は、誰も居ない静かな、輝くがらんどうの中、たった独りで歩いていた。






【E-5 遊園地 出口付近/二日目 黎明】


【島村卯月】
【装備:なし】
【所持品:基本支給品一式、グロック26(11/15)、神崎蘭子の首輪、携帯電話、未確認支給品x1-2(神崎蘭子)】
【状態:失声症、精神的憔悴、迷い、自己欺瞞】
【思考・行動】
 基本方針:島村卯月、がんばります
 0:声が、欲しい。私は、あの子じゃない。
 1:愛梨ちゃんを探して、もう一度話をしたい。
 2:凛ちゃんを見つけて……どうしたらいいんだろう……?
 3:歌う資格なんてない……はずなのに、歌えなくなったのが辛い。

 ※上着を脱いでいます(上着は見晴台の本田未央の所にあります)。服が血で汚れています。


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最終更新:2015年03月08日 11:49