第五回放送 ◆yX/9K6uV4E
千川ちひろが困惑しながら、モニターを見つめて、嘆息を一つ大きくついた。
頬杖を突きながら、机の上に広がっていた書類に書かれている名前に、一つずつ斜線を引いていく。
斜線を引かれていった名前は、全て病院に集ったアイドル達。
いずれ、この集団から死者が出ることは想定していた。
神谷奈緒と
北条加蓮の襲撃もその内に起きる事も。
だが、襲撃した二人ごと、大量に殺戮せしめる留美の活躍は、ちひろには正直驚きしかわかない。
「茜ちゃん含めて、何人死にましたっけ?」
「……えーと九人ですね」
「発破かけた通り頑張ったということ、でしょうか」
この時間帯で、九人死んだ。
その数そのものは、前回死んだアイドルの少なさを鑑みて、まあいい。
だが、一箇所に固まるとは頭の隅で考えていたが、その通りになるとは。
原因は何か、ちひろはそう考え、結局一つしかない。
神谷奈緒、北条加蓮、和久井留美に共通してあったものだろう。
「覚悟を決めた女は強い、と言う事ですか……仕方ないか……やれやれ」
覚悟を決めていた、それだけだろうとちひろは結論付ける。
ともあれ、これで大きなアイドルの集団が、一つ無くなった。
残った二人はもう抜け殻なようもので、ちひろの頭の中から消えていた。
逆にもう、そこから紡がれるものに、期待しなくていい。
そうちひろは頭を切り替えて、もう一つの集団――警察署に集まるアイドルをを見つめる。
「まあ、残るなら、『此処』ですよね。ねえ、貴方もそう思うでしょう?」
「ええ。まあ……あっ」
「言っちゃったみたいな顔しても、無駄ですよ。今更互いに中立気取っても仕方ないでしょう」
ちひろは眼鏡をかけたサポートの人間の失言を、悪戯を見つけたように、楽しそうに笑う。
主催と立場でありながら、中立とは言いがたいちひろ。
この殺しあいの目的を考えれば、中立である理由は、必要は無いのだが、それでも行き過ぎた面はあると考える。
けれど、眼鏡をかけた彼女も徐々に魅せられていることに、自覚する。
その集団に集まるアイドル達に。
実際今も、その集団に目がいっている。
「ねぇ」
彼女が気がつかないうちに、ほんの耳元から囁き声が聞こえてる。
振り向く事も、出来ないぐらいの隣に、千川ちひろは居るだろう。
そして紡がれる声に、彼女は生きた心地がしなかった。
「貴方のお気に入りのアイドルは、だぁれ? 貴方にとって『希望』のアイドルは?」
顔を動かす事は許されず、ただモニターを見つめるしかない。
警察署にいる八人のアイドル達。
ちひろの操作によって、ひとりひとりが大写しにされていた。
「やっぱり、
高森藍子? まさしく満開の『希望』がいい?
それとも、
高垣楓? 揺ぎ無い確固たる一人の『希望』が魅力的かしら。
……ああ、栗原ネネかしら? 消えそうなのに、精一杯生きる『希望』が好み?
他にも
矢口美羽、
川島瑞樹、
小日向美穂……ああ
でも、貴方のことを考えると、きっと…………」
なんでこの人は、楽しそうに人を追い詰めてくるのだろう。
眼鏡の彼女は戦慄しながら、大写しにされた子を見る。
それこそ、彼女が追っていた子で。
「
緒方智絵里。身の丈以上の夢を追い続ける、何者でもない子が、好きそうね。
勇気を振り絞って、幻影の『希望』を追う彼女の事が……うふふ」
今はまさしく高垣楓に打ちのめされ、失意に沈む儚げな子。
それが彼女にとって、希望のアイドルにも見えて。
気になっていて。
「そうねぇ……彼女には『役割』がある」
「
三村かな子のような……?」
「いえ、それとは別の……その内、そういう状況になると思うので、見てるといいですよ」
「……はあ」
「そうやって『希望』に魅入られ、『希望』を見出す事……それこそ、意味があることなんですから」
そして、と千川ちひろは言って。
もう一人、大うつしにされる子。
千川ちひろが介入してまで、引き出そうとしている子。
「高森藍子。 貴方の『希望』はきっと揺るがない。その程度じゃ、貴方は哀しみに沈まない。それこそが貴方の輝きだからよ」
狂気的に笑い、見つめる先に移る子。
誰よりも彼女の希望を妄信的に信じていて。
誰よりも重たいものを背負わせようとしてる。
そうにしか、彼女には見えなかった。
「あの
相葉夕美は……」
「ああ、もう決まってます。通話も終えましたしね。そろそろ放送でしょう」
「はい」
「それで禁止エリアは――――」
ちひろが告げたエリアに、彼女は唖然とするように、口をあけて、もう一度聞き返した。
「……正気ですか!?」
「ええ。もう終わったんですから」
それは、一種の宣告だった。
もう必要ない。
盤面だけを見て、切り捨てるように。
さて、とちひろは、にっこり笑い。
「さて、放送ですね」
そしていつも通り、希望、或いは絶望を告げる。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
おはようございます。元気にしてましたか?
二回目の朝がやってきましたね。
と言う事で、五回目の放送です!
よっぽど、この前の“警告”、或いは、“御節介”が聞きまたしか?
皆さん頑張ってくれたようで、何よりです。
ご心配なく、今回はまだないですよ。
何がないかは、まあ言われなくても、解りますよね?
さて、皆さんも慣れてきたと思うので、早速いきましょうか。
前ふりをしたら、気になるでしょう?
誰が死んだのか。
それでは、死者の発表をします。
以上九名。
頑張りましたね、流石、希望のアイドル!
皆張り切ったお陰で沢山出ました。
此方としてはありがたい事です。
それとも、これを聞いて『絶望』しましたか?
必死に生きようとしてる、アイドル達の皆さんは。
………………ふふっ。まだまだ、こんなもんじゃ足りませんよ。
『絶望』も『希望』も。何もかも
まだまだ、もっともっと、生き足掻いて、『希望』を輝かせなさい。
続いて、禁止エリアの発表です。
8時にE~7
そして10時にG~7
いいですか? 10時にG~7です。
ふふっ……このことゆめゆめ考えて。
どうするか、きちんと、決断してくださいね。
その決断が、希望と絶望。
どちらに傾くか、楽しみにしています。
さて、もう、気づいてる人は居るだろうし、知ってる人もいるでしょう。
貴方達のなかには『役割』を持っているアイドル達がいることを。
今更隠しても仕方ないですし、そういう子が居るんですよ、知らない人はこれを期に知ってくださいね。
どんな『役割』があるか。
まあ、そんなことに意味はないんですよ。
どう足掻こうと、その子達の歩みはその子達だけの歩みなのだから。
そして、『役割』に縛られるか。
『役割』から、脱するのか。
それも貴方達次第です。
だから、精一杯進んでくださいね。
此処まで生きて、其処に居る皆さんなら、自分の道は自分で切り開いてるでしょう。
だから、いえることは一つ。
輝く、アイドル達。
貴方の希望を、その生き様を。
絶望に抗う様を。
絶対的な正しさを、信じて。
貴方達が望む夢、切り開いて、見せてくださいね。
楽しみにしています。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「本当に、其処を禁止エリアにするんですか?」
「ええ。もう伝えましたし」
「高森藍子に影響を与える事が彼女の今の『役割』だったんですか?」
「さて……? それは彼女が決めることですよ」
禁止エリアに指定去れた島を眺めて。
ちひろとナビゲーターの女は言葉を交わす。
ナビゲーターは困惑しながらも、彼女の決定には従うしかない。
指定された島に居る彼女。
それは言ってしまえば死刑宣告みたいなものだ。
それに対してどういう反応をするのか、まだわからなかった。
また
「高森藍子。 この決定に貴方はどんな答えをだしますか?」
ちひろは楽しそうに、笑って。
「大丈夫ですよ貴方の決断は、常に『希望』に満ち溢れ、そして絶対的な正しさを持っている。
誰もがきっと、貴方の決断を、祝福しますよ」
それは本当に祝福なのだろうか。呪詛の間違いではないだろうか。
「そして、その決断をし、答えを乗り越えた先の、絶対的な『希望』……ひいては『アイドル』こそが」
――――私たちの『計画』の行き着く先、答え。いいえ、『希望』なんですよ
【残り 19名】
最終更新:2016年07月26日 22:15