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鈴「あっづー……」セシリア「な、何ですのコレは……」⑩
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鈴「あっづー……」セシリア「な、何ですのコレは……」⑩
573 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/07/16(土) 00:19:52.27 ID:9UgcdOyJ0
最後の書類にさらさらと署名を書き込むと、ペンを机のホルダーに戻して深く息を吐き、黒革の椅子に深く背を預ける。終わった。財閥というものは巨大な回遊魚のようなもの。動きを止めたら、衰弱し、やがて死んでしまう。動きを止めないために普段学園に持ち込んでいる端末からできる仕事はしているし、国からの支援や、各傘下企業の従業員たちにほぼ任せ切りでも回らないわけではない、しかし、大きな舵を取るその決定と言うものは、自分がとらなければならない。そこには大きな責任があり、きっともっと有能な者もいるだろうけれど、責任を負うことができるのはセシリアだけなのだから。
「おわりましたわー……!」
満面の笑顔でうんと両腕を高く伸ばす仕草は、未だ恋も未熟、経験も未熟な10代の少女そのもので。まるで、溜まった宿題を片付けて喜んでいるかのような印象さえ受ける。
「お疲れ様でございます、セシリアお嬢様。湯浴みの準備は整っております。手筈どおりに夕食はお嬢様がお部屋に一度お戻りになられた後に」
控えていた初老の執事が恭しく頭を垂れる。両親を喪った12歳のあの日から、セシリアはオルコット家の当主となった。その華奢にも見える双肩にはオルコットに連なる者全て、その歴史の全てを背負い、更に国家の威信をかけた第三世代IS技術のテストパイロットとしての責務までを背負っている。
事故の後、これでオルコット家は終わりなどと言う声も聞かれた。敏腕で知られたセシリアの母は、非常に優秀な人であったが、一人娘であるセシリアには非常に甘く、やや過保護な一面もあった為、当初セシリアが当主を引き継ぐことに難色を示すものが大半だった。しかし、セシリアはそれらの声を撥ね退けて、母の跡を継ぎ、オルコット家の当主となった。蝶よ花よと育てられた無垢な思春期の少女は、自分自身を犠牲にしながら、文字通り全てを賭して家の為に尽くした。
あどけない瞳に精一杯の決意を宿し、未だ可愛らしいという表現の似合う容姿から想像される様々な中傷もものともせず突き進むセシリアを見つめる、オルコット家の使用人たちもまた二つに割れた。今こうしてオルコットに仕え続けている者には一つの共通認識がある。『仕えているのはオルコット家ではない。両親の死を超え、遺された全てを護る決意に進み続けるセシリアに仕えているのだ』と。
574 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/07/16(土) 00:20:35.47 ID:9UgcdOyJ0
「ありがとう。それで部屋割りのほうは……?」
この笑顔の為ならば、例えこの先セシリアの失策があってオルコットの家が没落したとしても、決して主を違えぬ決意。しかし……内心は至極複雑だ。この老執事にとってセシリアは単に主君というだけではない。まだ言葉も話せぬ頃から知っている少女はまさに孫娘のようにも感じている。いや、使用人全てにとってセシリアは孫娘であり娘であり妹なのだけれど、その時間が長い分その感情の傾きも大きい。
「……は、お嬢様の仰せのままに…………しかし……」
「ありがとう、じいや♪ うふふ……一夏さん……」
正直、未だ婚約の約定さえ交わしていないどこの馬の骨とも知らない……いや、世界唯一の男性IS操縦者で、元ブリュンヒルデであるチフユ・オリムラの弟君であるという事とイチカ・オリムラという名前であることは良く知っている。それだけだ、女性遍歴は?セシリアを泣かせる男か?16になるとはいえ流石に早いんじゃないか?どうせならもっとこう、婿養子なりなんなり、逃げられなくしてからが良いのではないか。
(そもそも紳士と呼べるのか!?ワシはまだ認めてなどおらぬぞ……ッ!!)
しかし幸せそうなお嬢様の笑顔を見ていると、それを無碍に否定もできない。せめてチェルシーがこちら側ならいいのだが、チェルシーはどちらかといえばセシリアの味方だった。憎い、イチカ・オリムラが憎い、お嬢様をどうするつもりだ、渾身の右ストレートを叩き込む事にならなければいいが……。スキップしながら執務室を出て行くセシリアを見送りながら、じいやはギリっと拳を握り締めていた。
575 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/07/16(土) 00:27:42.25 ID:9UgcdOyJ0
―――― セシリアは薔薇の花びらいっぱいのお風呂を済ませると、薄手のワンピースに軽くショールを羽織った姿で自室へ足早に戻ってゆく、今にも踊りだしてしまいそうな気分で廊下を歩むセシリアの気分に水を差す使用人は一人もいなくて。
「一夏さん……昨夜はアレでしたけれど、今度こそ、今度こそ……うふふ、うふふふ」
自室への入室にノックはいらないと思うけれど、今は部屋の中に一夏がいるはずだ。案内された部屋が誰の部屋なのか気付いているだろうか?
「あ、ク、クローゼットやチェストを調べられていたらどうしましょう……いろいろ見られてしまいますわね……困りますわ……んふふふふふ……」
困ったと言いながら、緩んだ笑みに頬を緩めると、ドアを軽く叩く。 反応はない。
「……一夏さん?」
もしや、気付いて……出て行ってしまったのだろうか。昨日あんな事があったのだし、何か思うところがあるのかもしれない。
一抹の寂しさを抱きながらドアを開けて、とぼとぼと室内に入るセシリアは、寮に持ち込んだものより遥かに大きいベッドに向かって。
576 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/07/16(土) 00:38:55.88 ID:9UgcdOyJ0
「……!!!」
ぱあっと表情が華やぐ。ベッドには誰かが眠っている盛り上がりが一つあった。いてくれた、きっとノックに応えなかったのは本当に眠ってしまっているのだ。弾む気持ちでベッドにゆき、シーツを頭までかぶって、黒髪を覗かせる一夏の傍へ腰を下ろして
「……一夏さん、ご夕食の準備はもうすぐ整いますわよ……一夏さん……起きてくださいまし」
甘い声色で、一夏に優しく声をかける。『夕食よりも……』なんて展開を期待してしまうのは贅沢でもなんでもないはずだ。それとも、お目覚めのキスが要るだろうか?そもそも一夏はキスしすぎだ、ラウラともそうだし、箒とも未遂。知らないところで他にもあると踏んでいる。
「で、でででで、では……ッ!このわたくし、セシリア・オルコットが目覚めのキスを…………ッ!」
そっと髪を耳にかけ、一夏の顔まで覆っているシーツをするりと下げて……
唇を突き出して目を閉じたまま、がっしと顔面をシーツの中から伸びてきた手に掴まれた。
「ちゅ……ぅ……ふぇ?え?えっ!?」
「セシリア……いや、オルコット……二日連続を教師が許すと思ったか?」
聞こえてきた、一夏だと思っていた人物の声に動きが凍りつく、心臓が止まるんじゃないかなんて錯覚も覚えてということはこの頭をがっしり掴んでいる手は、サザエの壷焼を食べて、中の汁を出す為に殻を素手で割ったという伝説を持つ織斑千冬のアイアンクロー。
「ち、ち、ち、千冬さん……」
「……今は先生だ、オルコットぉ……」
578 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/07/16(土) 01:30:28.17 ID:9UgcdOyJ0
亡国企業のエムを迎えに来た女と対峙した時よりも、正直怖かった。
「な、なぜ、どうしてここに!?」
狼狽しながら問うセシリアの眼窩が左右から押し込められてメキメキと音を立てている気がした、やばい、眼球が飛び出てしまう、そんな錯覚さえ覚える。
「何……チェルシー君が『先に』一夏をこの部屋に通したものでな……この部屋はもしや、と思ったわけだ……」
「くっ……!チェルシー……ぬかりましたわね……っ!!」
口惜しげに呟くセシリアの頭が更に締め付けられる。
「痛いですわ!痛いですわ!痛いですわ!痛いですわ!」
「ですわを付ける余裕はまだあるようだな。チェルシー君は私にも引かず、今日は見逃せと言っていたよ。忠臣だな、オルコットよ」
「ま、まさかそれでは千冬さん……!?チェルシーを!……殺ったんですの!?」
「貴様、教師を何だと思っている」
指が更に食い込む、しゃれにならない痛みにピンと伸びた手足がびくびくと痙攣する。
「痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!」
痛みを訴える声からですわが消えたのを確認して、千冬はセシリアをベッドの上に放り出す。
「全く、本当に油断も隙もないな……いや、油断だらけ隙だらけだが暴走だけは一人前だな」
油断も隙もない、とは何かが違う気がした千冬はわざわざ言い直しながらベッドを降り、部屋の電気をつける。
「まぁ、セシリア。お前の今日の成果は見事だ、それなのに、随分と責められていたようだな……心中穏やかでなかろう……それも専用機を与えられたものの責任だ、とも言ったが……それを癒されたいと感じることは誰にも責める事はできない」
千冬が腕を組んで部屋の中を見て回りながら、ベッドの上のセシリアにかける言葉は、年長者として、一夏の姉として、教師として、そして、いつか義妹になるかもしれない少女への優しさに満ちていて、セシリアは傷むこめかみをさすりながら、ベッドの上で上体を起こす。
「織斑先生……千冬さん…………」
579 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/07/16(土) 01:32:38.77 ID:9UgcdOyJ0
「だから、今夜は私が朝まで一緒にいてやろう」
「………………は?」
セシリアの頬を一筋の汗が伝う。今夜は暑くなりそうだった。
582 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/16(土) 10:47:17.66 ID:OIXnEpUGo
夜は始まったばかりだ…
夜は始まったばかりだ…
584 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/07/17(日) 00:21:13.83 ID:7Sgz/XQm0
夕食に並べられた料理は、どれもとても美味しくて、一夏も目を見張るものだった。
「うんセシリア!これ美味いな!」
はじめ案内された部屋とは別の部屋に移動させられた一夏は、はじめの部屋が誰の部屋なのかも気付いていなかったのか、何の屈託もなく食卓を囲んで、料理に舌鼓を打つ。一夏の隣では無く向かいの席に座らされたセシリアは食事を続け、一夏の隣にいる千冬を警戒していた。
(今夜ずっと一緒って……千冬さん、どういうつもりですの……)
いくらなんでも昨夜のはサービスが過ぎるというか、一年専用機持ちのグループでは、千冬は最大の障壁の筈だった。それにも関わらず、セシリアは他でもない千冬の手配したホテルで三人で休む筈が実際部屋についたセシリアは一夏と二人きりになり、愛を深める機会を与えられた。
それが、千冬に認められたのだと認識するのは無理もない事だろうし、誰が同じ立場でもそう思う筈だ。ついに姉公認なのだと。
ところが結果としては愛を深めるどころか、一夏が暴走してしまった為に水入りとなってしまった。
(わたくしはあのままでもよろしかったのですのに……)
セシリアは内面こそ初心だが、ハッキリ言ってしまえばムッツリスケベに分類される。興味は人並み以上にあるし、男を誘惑する魔性の女が男性にとっての理想像だと結構本気で思っている。だからこそちょっとエッチな下着で迫ったりもするし、一夏とプールと聞けば水着も布地面積を減らしたビキニを用意したりと、専用機組のエロス担当とか言われる始末である。
当然そうなって後悔はしたかもしれない、だからこそ千冬も止めたけれど、後悔しなかったかもしれない可能性はある。そんな風に考えられるのは持ち前のポジティブさ、こんな時にそれを発揮するのもセシリアらしいと言えばらしい。プライドを支える自立心の強さ。時に扱いにくいとされるそれは、他の専用機持ちに比べて、自ら甘え難い壁を作ってしまうものではあった。けれどその強さが、とうとうサイレント・ゼフィルスの撃墜を成し得たのだから。
(きっと……はじめは後悔するかもしれませんけれど……何があろうとわたくしは一夏さんを信じていますわ。一夏さんも後悔してしまうのかもしれないけれど……でも、でも……負い目だけで傍にいてくれる人ではない筈。わたくしが好きになった人ですもの、きっと……)
千冬の心を理解していないというわけではないし、それはそれで凄くうれしい、でもそれはそれとして、一夏に抱かれたっていいじゃないかなんて思ってしまう。食事を続ける一夏を見ていると、いつかこの先、10年後もこうして食卓を囲んでいる夢想がある。一度きりで満足するつもりもないし、10年20年先を見れば、強ち後悔ばかりでもないんじゃないかなんて考えて、僅かに頬を染めながら一夏を見つめてしまう。
585 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/07/17(日) 00:26:43.51 ID:7Sgz/XQm0
「あれ?……セシリア、どうしたんだ?イギリスには不味いものしかないって認識を改めさせてやるみたいな事いつも言ってたじゃんか。この料理本当に美味しいぜ!」
「え、ええ、と、当然ですわ。オルコット家の料理人は超一流ですもの」
視線に気付いた一夏が、ナイフとフォークを持ったままじっとしているセシリアに笑いかける。どこかドモるように回答するセシリアに一夏は不思議そうに首を傾げるも、そんな不思議そうな一夏に気付いたセシリアがまた柔らかく微笑むから、一夏にはそれがなんだか嬉しくて、安心して食事に再び手をつける。そんなやりとりをしていると、千冬の考え通り、急ぐ必要が本当に無いのかもしれないと思うから、ミルクをたっぷりと入れたノンシュガーの紅茶を軽く啜る。
「ところでセシリア、風呂はどうすればいいんだ?先に入るか?」
「ぶっ!」
あまりに唐突な大胆発言に咄嗟に横を向いてセシリアは紅茶を盛大に吹いてしまい、丁度隣に控えていたじいやに思い切り吹きかけてしまった。じいや自身は全く動じる様子もなく、何故か拳をプルプルと震わせながら眼鏡の奥で一夏を睨んでいたし、部屋に控えている使用人たちの間に動揺が走る。
「ご、ごめんなさいじいや!チェルシー、お願い」
慌てて気遣うセシリアの姿を見て、一夏は朗らかに笑い。
「あはは、セシリアどうしたんだよ、そんなに慌てて」
「い、一夏さん。……わたくしは……勿論やぶさかではございませんが……」
ちらちらと千冬の様子を伺いながら、耳まで赤くなりながらもじもじとするセシリアを見て、当の一夏は不思議そうに目をぱちくりと瞬きさせていた。
「……一夏、うちとは違うのだぞ…………この規模の邸宅に風呂が一つなわけ無かろう。先も後もない」
見れば千冬も少し恥ずかしそうに頬を染めながら、目頭を押さえて溜息を吐いている。
「あ、そっか、そうだよな、使用人さん達もいるんだもんな」
一夏の家は、二階建ての一軒家だ。もうずっと千冬と二人で暮らしているその家には風呂場は当然のように一つしかない。故に、その使用時間は厳密に区切られている。といっても千冬は滅多に帰って来ない為基本的に一夏が好きなように使えるのだが、稀に運悪く一夏が少し出かけている時に千冬が帰って来てしまい、一夏が気付かず千冬の入浴中の風呂に入ってしまった事がある。その時は一夏は本気で死を覚悟した。もしも警察が家宅捜査に入る事があったら、風呂場からは所謂ルミノール反応が大量に出た事だろう。単純に一夏はそれを懸念して、自分はいつごろ入るのかを聞いただけなのだが、
風呂など好きな時に好きな人が入ればいい、と言うより、自分専用のシャワールームが当たり前のようにあるセシリアにとっては、先に入るか?との問いはつまり、『先に入っててくれ、セシリア……すぐに行くから』くらいの意味に聞こえたし、むしろ使用人たちもそっちの意味に取っていたから。
「…………そんな気はしてましたけれど……はぁ」
肩透かしにセシリアはがっくりと頭を垂れるしかなかった。
「セシリア……?大丈夫か??」
586 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/07/17(日) 00:50:00.51 ID:7Sgz/XQm0
「一夏さん!一夏さんは、いつもいつも……っ!」
心配するような声をかける一夏に、つい、セシリアは声を荒げてしまう。どうしてこう、わざとやってるようなボケで振り回すのだろう、どうしていつも肩透かしなのだろう、でも好き!大好き!一夏さん大好き!I Love ICHIKA!一夏さん!一夏さん!一夏さん!一夏さん!一夏さん!一夏さん!一夏さん!一夏さん!一夏さん!一夏さん!一夏さん!一夏さん!一夏さん!一夏さん!一夏さん!一夏さん!一夏さん!一夏さん!一夏さん!…………充填120%。セシリアはガタンと椅子を蹴って立ちあがり。
「わたくしは、わたくしはこんなにも……!!一夏さんをおした「はいそこまでー」
「」
千冬に割りこまれ、口をパクパクとさせながらセシリアは二の句が継げず、千冬を唖然と見つめていた。昨夜は二人きりにさせようとしてみたり、一世一代の告白を潰したり、セシリアはこの人が判らなかった。
「織斑。食べ終わったのならさっさと風呂に行ってとっとと寝ろ。明日はもう日本に発つんだぞ……どうせ、お前は酌に付き合わんのだろう?」
いつか弟と酒を交わしたいなんて思っているけれど、中々適うまい、なにせ一夏ときたら健康オタクというかなんというか、不摂生をとにかく嫌う。姉が酒を飲むのも余りいい顔はしない。
もっとも、文句を言えば痛い目を見る事が明らかだから文句は言わないけれど、少し千冬には心配だった、なにせ、日本は20歳だが他の国はアルコールの規制が違う。イギリスのように年齢制限の緩い国もあれば、そもそも年齢制限が存在しない国も存在する。酒との付き合い方と言う文化の違いと言えばそれまでだが、残念ながら、惜しむらくは……。
千冬お気に入りの義妹候補はイギリス人だ。イギリス人だから全員がそうとは言わないが、セシリアは結構飲む。千冬にとっては、将来、家族として酒を酌み交わすのも楽しみではあったけれど、問題は一夏だ。
(今のうちに免疫をつけさせておいて損はあるまい……)
セシリアの懸念は、杞憂そのもので。千冬は千冬なりに、二人を応援する立場は崩していなかった。何せ、ここしばらくの連続事件で最もセシリアにデレたのは千冬なのだから。千冬にとっては、この名門貴族当主のお嬢様が最終的な国籍をどうするのか、既にそこが問題だった。
「酌って、千冬姉また飲むのかよ……俺は未成年だし、酒なんて健康に悪いだけだって何度も……なあ?セシリア」
「ぇえっ!…………ぇ、ぇぇ……」
一夏に話を振られ、酒はいけないと言っている一夏の手前、サイダーが大好きですわ!何て言えなくて、セシリアは動揺しつつ、サイダーの瓶を持って控えているチェルシーに目配せする。
「目が泳いでいるぞ、オルコット」
目配せされて、チェルシーがやれやれと肩を小さく竦めながら一歩前に出て、一夏に微笑みかける。
同性でも一瞬どきりとする柔らかな空気と、大人を感じさせる色気。セシリアにとっての理想の美女は、姉のように思っているチェルシーの姿で。セシリアも少し、見蕩れてしまいつつ。少し見蕩れてる様子の一夏を見て、ギリギリと悔しそうに奥歯を鳴らすのだった。
「一夏様、イギリスでは…………(以下略)」
「そ、そうなのか……?じゃあもしかして……そんな……まさか……セシリアも……?」
セシリアを指さす一夏の手が何気に震えている。まさか呑むのか?と言いたげなその仕草に、セシリアは内心汗を流す。まずい、ここは慎重に答えるべきだ。
(……ひょっとして一夏さんは、お酒を飲む女は嫌い……や、やっばいですわ……)
「そそそそっそんな筈がございませんわっ!!わ、私お酒はきらいでしてよ!」
「ではお嬢様、こちらのストロング・ボウは処分いたしますがよろしいですか?」
(チチチチチェルシィィィィ!?ナナナナナナナ何を仰ってますのぉぉぉぉ!?)
控えていたチェルシーが真っ先に反応するのをキッと泣き出しそうな眼で睨みつける。チェルシーは、泣く位ならさくっと呑むと仰ればいいのです、とアイコンタクトで主人であり幼馴染であり妹のようなセシリアに微笑みかけていた。
592 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/07/18(月) 00:12:48.73 ID:n8jOy/hh0
「ストロング・ボウ?」
一夏が首を傾げる、ストロング・ボウと言えばイギリスではサイダーの銘柄だが、日本人からしてみればなんかよく判らない名前に過ぎない。しめた、とセシリアは笑みを深める。これならごまかせるかもしれない。
「こちらはサイダーでございます。ストロング・ボウは英国で最も親しまれているサイダーのブランドでございますわ」
(チェェェェェェェルシィィィィィィィィィィィィ!?)
「おや、セシリアはサイダーが好きだと言っていたが?どうした、遠慮しなくていいのだぞ?」
(お義姉さまァァァァァァァ!?)
微笑みながら一夏にすらすらと説明するチェルシーと、セシリアの嗜好を事もなげにバラす千冬を、セシリアは追い詰められた表情で交互に見る。姉のように慕う幼馴染と、どさくさまぎれに義姉と内心で叫んだ未来の小姑(予)にハメられたと感じたセシリアは本当に泣き出しそうに両目を潤ませていた。
その表情が、幼馴染の専属メイドと担任教師にはとても嗜虐心を刺激させて、可愛くて仕方が無い反応で、もうちょっと意地悪してやりたくなる悪循環を生んでいる事にセシリアは気付いていなかった。
「なんだ、セシリアはサイダーが好きなのか、隠す事ないじゃないか、結構可愛い所あるんだな」
「…………!!!」
対面の一夏の言葉にナチュラルに赤面させられてセシリアは俯き加減に膝の上できゅっと手を握る。もう頭の中はお酒がどうこうではなく、可愛いと告げられた事でいっぱいになっていた。
(……ふむ)(……あら)
面白くないのは、二人の小姑達で。一番可愛い反応を引き出したのが一夏の天然ボケである事が少し気に入らない。そもそも、セシリアが酒を飲むという事を暴露したつもりが、一夏は日本で言うサイダーのイギリス版であると思っているようだ。
593 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/07/18(月) 00:15:37.82 ID:n8jOy/hh0
「ではお嬢様、一夏様もああ仰っておられますし、お注ぎ致しますね」
「チ、チェルシー……!」
トクトクと炭酸飲料がグラスに注がれて行く。一夏は良く知っている無色透明ではないサイダーに少し驚いたようにマジマジと見ていた。イギリスサイダーの色合いはクリアな琥珀色で、一見すると日本のビールを薄くしたような黄金色をしている。
(……あぁ……そ、そんなに……み、見ないで……くださいまし…………)
キメの細かな微炭酸の泡がうっすらと表面を飾る様子等から、一夏にそれがお酒だと気付かれてしまうんじゃないかと思い、恥ずかしさにセシリアは顔を赤くして、潤んだ瞳で一夏を見つめる。
「なあセシリア……これって…… ――ど、どうしたんだセシリア?」
ふと感じた疑問を口にしようとしてセシリアに目を向けた一夏は目を丸くして身じろぐ。一瞬で鼓動が速くなるようなそんな、同級生とは思えない色気をセシリアの仕草から感じた。セシリアは一夏の目から見て美人だったし、とても無防備で可愛い所があるのも判っている。セシリアが鈴の事を好きでも構わない、傍で見守りたい。その心の誓いに嘘はないけれど、そんな顔をされると、また、欲望が頭をもたげてしまう。さすがにここでゴーサインを出せる程理性はぶっ飛んでいないが。
(なんだ、サイダーを注いだくらいで何なのだこいつら……)
至近距離でそれをあてられる千冬は軽くうんざりとした顔で体を引いていた。どこから見つめ合って雰囲気を作る流れになった、全く理解できない。若いからか?と思いサイダーを注ぎ終えたチェルシーを見れば、やはり二人が見つめ合ってもじもじしている空気にあてられて頬が微かに引き攣っていた。
594 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/07/18(月) 00:24:45.31 ID:n8jOy/hh0
「……で、何か言いかけていたな、一夏?」
「……あ!ああ、そうそう。イギリスのサイダーって黄色いんだな。なんかビールみたいな……」
「そ、そうですのよ、イギリスのサイダーはリンゴの発泡……いえ、リンゴの炭酸飲料なのですわ!!」
千冬の追撃に話が蒸し返され、危うく発泡酒とぶちまけそうになって慌ててセシリアが言いなおす。小姑ズの舌打ちが聞こえた気がしたがもうそれに構っている場合では無い。一夏は見蕩れていた気恥かしさからそれで納得したようだったけれど、
「よろしければ、一夏様もいかがですか?」
チェルシーが微笑みながら一夏の方へ回る。千冬としては日本国内の法律的に弟に飲ませるのは抵抗があったが、ここは英国。郷に入らば郷に従えとも言うし、今はプライベートの食卓なのだ、それに、チェルシーが一夏にも薦めに行った時のセシリアの表情は傑作だった。ここは止めはすまい。別の使用人が運んできたパイントグラスのエールをちびりと傾けながら、一夏の様子をにやにやと眺める。
「あわわ……」
オロオロしているセシリアは酒のつまみには丁度いい。イギリスのビター・エールは冷えていないのが日本人の舌には不味いと思われがちで、イギリス人自身も大抵は不味いと思っている。しかし、だんだんとクセになっていく味わいの深さが特徴とされており、海外生活が長く、渡航経験も非常に多い千冬にとってはイギリスに着たらこれと決めている程お気に入りの酒だった。
「へえ、これがかぁ……ありがとうございます、チェルシーさん。セシリア、いただきます」
初めて飲むサイダーの匂いを嗅いだりしつつ、一夏は笑みを深める。フルーティなリンゴの甘い香りが鼻腔を擽り、とても美味しそうだ。セシリアに笑いかけてから、ハーフパイント程注がれたそれを一夏はごくごくと飲み始めた。
(お、終わりましたわ…………流石にこれはバレましたわ……ああ、お酒を飲むなんて幻滅されてしまったかもしれませんわ、うう、チェルシーも千冬さんもどうして今日はこんなに意地悪ですの……)
深々と溜息を吐きながら、セシリアはがっくりと肩を落とす。
「ふふふ、セシリア。別にいいじゃないか。好きなのだろう?好きな物を嫌いと言うような事の方が一夏は嫌がるぞ」
言葉は優しく、尤もな事を言っているけれど、千冬の口元はニヤニヤと楽しそうな笑みが浮かんでいる。
「そ、それは……そうかもしれませんけれど……っ……ぅぅ、一夏さん、ごめんなさい、わたくしサイダーが好きなんですの……」
千冬に抗議の声を上げつつも、観念したように一夏に打ち明け、サイダーをくぴりと小さく飲む。
595 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/07/18(月) 00:26:55.45 ID:n8jOy/hh0
「セシリア!これすっごく美味しいな!!チェルシーさん、もう一杯く ら さい」
「「ぶーっ!」」
聞こえてくる一夏の明るい声に、セシリアは思わず口に含んだサイダーを、千冬は口に含んだエールを二人同時に吹き出してしまう。
(ま、まさか気付いていないのかこの馬鹿者は……ッ!?)
(せ………………セェェェェフ!ですわ!)
二人して咳き込みながら、一夏という人物の認識を二人して改める。酒を普段口にしない一夏にとって、イギリスサイダーのように甘く、炭酸のすっきりしたリンゴ味の酒等全くの未体験の味。酒と言われていれば、お酒なのかと予備知識から酒っぽい所が判ったかもしれないが、今回の一夏の中の認識はあくまでサイダー。しゅわっとして甘い炭酸飲料。実際しゅわっとして甘いのだから、少し頭がぼうっとする気はするけれどサイダーとしか思えない。
ちなみに、ストロング・ボウ・サイダーのアルコール度数は5.3%、大体ビールと同じくらい。イギリスでシェアNo1を誇るサイダーで、日本国内でも洋酒を扱う販売店ならば国内でも気軽に買う事が出来る。
596 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/07/18(月) 00:30:34.69 ID:n8jOy/hh0
「かしこまりました、一夏様」
「チェルシーさんって、リアルメイドさんれすよね……いい匂いがする」
――!?
「あら、いやですわ一夏様ったら……ええ、リアルメイドさんですわ、ご・主・人・様♪なんて」
「ぉぉ……り、リアルご主人様……ッ セシリアはいつもチェルシーさんにお世話して貰ってるんですよね?いいなぁ、俺もチェルシーさんみたいなメイろさんが傍にいてくれたら……きっと毎日が幸せなんらろうな……ねえチェルシーさん今夜は……」
――――!?
超アウトだった。というかアウトであって欲しい。素面でこんな風に口説きまくる一夏など想像したくもない。そもそもサイダー一発で酔っぱらう等セシリアと千冬が思った以上に一夏は酒に弱すぎる。呂律がやや回っていないのできっと酔っているのだろう。口説き上戸とでもいうのだろうか、煩悩のタガが外れているのか、ジゴロ上戸か、兎も角、一夏がチェルシーを突如口説き始めた。
「い、い、い、い、い……一夏さんッ!!な、ななななな何をしていらっしゃいますの!!!!」
口をパクパクとさせながらわなわなと震える指で一夏を指さすセシリアを見て、その怒りの表情にも一夏は動じずにへらリと笑う。そもそもタレ目なセシリアが怒っても怖いよりもちょっと可愛いと一夏は思う。
「へへへ、なんらよ、妬くなって……心配しなくたって、俺が愛してるのはセシリアだけらぜ……?」
「――――――!!!!!」
サイダーをくいと煽ってから、ウインクしながら告げる一夏の笑顔は、酔っていると判っていても鈴の拡散衝撃砲より、箒のブラスターライフルより、ラウラのレールカノンより、シャルロットのパイルバンカーより、簪のマルチロックミサイルより、一撃でセシリアのハートをズギューンとブチ抜いた。ボンと言う音が聞こえそうなほど一瞬で真っ赤になって、セシリアは倒れる。
薄れる意識の中で、千冬がまるで滑るように残像を残しながら一夏に近づいてゆくのが見えた気がした。
「―――― 酔った勢いとかどんだけだ貴様!!」
597 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/07/18(月) 00:31:25.49 ID:n8jOy/hh0
====RESULT====
○織斑 一夏 [41分28秒 甘い言葉] ×セシリア・オルコット
○織斑 千冬 [41分29秒 姉・瞬獄殺] ×織斑 一夏
602 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/18(月) 02:50:44.25 ID:/QQ6dM+DO
セシリア可愛すぎんだろ……これは一夏もたまらんわ
セシリア可愛すぎんだろ……これは一夏もたまらんわ
603 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/07/19(火) 00:36:03.31 ID:OzJ+eqmA0
――――
「う……ん……」
セシリアは、懐かしい寝心地の中で目を覚ました。毎日丁寧に手入れされたシーツがとても心地よくて、ここが学園では無いと思い出す。
「……!!!!」
そして、自分が何故ここにいるのかを思い出して、顔を真っ赤にしながらがばと起きて、部屋を見回す。
「……さすがに、そ、そんな甘い事はございませんわよね」
あのとき一夏が言ったのは、酔った勢いなのだろうけれど、それでも、とてもとても嬉しくて、目が覚めたら隣に一夏がいて二人とも裸でも全然構わない、というかバッチコイ。流石にチェルシーも千冬もいた以上はそれ以上なんかありえないのだけれど。
「もう……こんな時間ですのね」
ベッドに運ぶ時に、序でにチェルシーが着替えさせてくれたのだろう、シルクの肌触りが心地よいパジャマを着ている。バルコニーに明かりが見えて、のそりとベッドから降りてそちらへ向かう。
「おう……セシリア、目を覚ましたか」
カラ、とロックグラスを掲げてバルコニーのテーブルで酒を楽しんでいたバスローブ姿の千冬が笑いかける。
「千冬さん……また飲んでいらしたのですか?」
緩く笑いながら近づいて行き、椅子を引いて隣に腰を下ろす。今夜はこの季節には珍しく雲が遠く、月が美しい。
「……あの、一夏さん……は?」
あんな所で、愛してるなんて言われてしまって、それを思い出すたびに心臓が軽快なリズムを刻む。少し酔っていたあの声が耳からも離れなくて。もう暫くは何の栄養も無くても平気かも知れない。
605 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/07/19(火) 00:47:18.07 ID:OzJ+eqmA0
「うむ、滅殺した」
「――――はい?」
たった一言。千冬の言葉が一瞬セシリアには何を言っているのか判らなかったが、ぐっと拳を握る千冬を見ると、要はボコったのだとすぐに理解する。そこまでしなくても、と眉をハの字に苦笑いするセシリアへ、ロックアイスを入れたグラスを用意しながら、千冬は首を振る。
「まったく、あいつはムードと言うものが全く無い!お前もだセシリア。もうすこしこう……年齢相応にだな、青春をしろ!青春を!お弁当を作って食べさせるとか、手を繋いで赤面したりとか、あるだろう普通……そもそも貴様ら告白も済ませていないと聞いているぞ!?」
やたらと高級そうな酒瓶を開け、用意したグラスに少し注ぐとセシリアの方へ突き出しながら千冬は息を荒げる。あげた例えの中に弟の死亡フラグが混ざっているがそれはさておき。
「そ、そう仰られましても……わたくしには……って、千冬さんっ!?スコッチはマズいですわよ……!?わ、わたくしまだ年齢的に……」
「ん、そうか……」
しょんぼりとした顔でグラスを手前に引き、千冬はそれをグイと呷る。思わず見えた千冬のちょっと可愛い表情に、セシリアは小さく肩を揺らして笑っているけれど……ふと、セシリアはそのスコッチの瓶に見覚えがあって、じっと見ていた。
「ん?どうした」
「――……いえ、あの、千冬さん、こちらのロイヤル・サルートは…………」
「うむ、お前の部屋のチェストに隠してあったやつだ。下着の奥に隠すとは念入りだな」
「やっぱりいいいい!!」
607 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/07/19(火) 01:14:04.92 ID:OzJ+eqmA0
――
セシリアとてまだまだ少女と言っていい女の子、隠し酒のスコッチを一人コッソリとチビチビやるのは、実家に帰ってきたときのお楽しみの一つ。あまり女の子は関係ないが。
「なななな、何で勝手に飲んでいるんですのっ!?それはわたくしの……!!」
ロイヤル・サルートは、名前にロイヤルがつくとおり王室にちなんだ高級酒で、安いもので日本円で一万円くらい、高いものなら世界に250本しか存在しないヴィンテージがあったりする高級ブランド。勿論、今千冬が呑んでいるのは結構高いほうの酒で
「おやぁ……セシリア、おかしいな……?貴様はまだ年齢的にスコッチがいける年では無いと記憶しているのだが……」
先程断られた事をやや拗ねているのか、随分ともったいぶった口調で千冬が睫を伏せながらそう告げる。セシリアの隠し酒だと判っていて言っている。なにせ、千冬が発見した時点で開封した後があり、中身も減っていたのだから。
「ぅ……っ……わたくしの……わたくしの……わたくしの~~…………18の誕生日に飲もうと、取っておきましたの……」
一生懸命言い訳を考えて、なんとか取り戻そうと足掻くセシリアが可愛くて、千冬は喉をクツクツと鳴らし、また一口呷る。
「開封済みで結構減っていたが?」
「そそそ、それは~…………ち、チェルシーが~……」
「ほほう……――だ、そうだが?チェルシー君」
「お嬢様ったら、心外です。お疑いになるだなんて。前回の御帰省の際に内密に買ってくるようにと頼まれてお屋敷を抜け出してまで買ってきましたのに」
「」
言い訳に困り、頼れるチェルシーに内心謝りながらチェルシーのせいにしたところ、既にチェルシーもグルだったようで……ぎぎぎと振り返るセシリアの背後で、ハンカチを目元に添えて、くすくすと笑っているチェルシーがいた。
「ふん!セシリア・オルコットよ、語るに落ちたな? 代表候補生が自室でコソコソこんないい酒などけしからんにも程がある。貴様はサイダーでも飲んでいろ」
今回の帰省では少しだけ、こっそりと一夏と飲んだりしたらいいことあるかもなんて思っていた品が、世界最強ののんべえに呑まれてしまう。流石に一人で残り全部は飲みすぎというものだから、大丈夫だろうけれど。
なんて思ったセシリアがチョロかった。
「――チェルシー君、君はいける口かね?」
「はい、お嬢様に付き合っていつも……織斑様、よろしいのですか?今日は飲みたい気分だったんです」
「ちょっ!!ダメに決まってますわ!?」
セシリアの記憶では、チェルシーはかなり強い。セシリアが飲みたいときには必ずじいやとチェルシーが席を共にしていた。時々飲みすぎてしまうセシリアをいつもベッドに運ぶのはチェルシーの役目。セシリアはチェルシーが潰れた所を見たことがない。飲み方が上手いというのもあるのだろうけれど、何度か潰そうとしたセシリアは三日間は頭ががんがんするような酔い方を経験する羽目になった。
608 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/07/19(火) 02:01:38.75 ID:OzJ+eqmA0
「ふん、貴様が付き合わぬからだ。そら、起きてくると思ってサイダーもあるぞ」
ドンとテーブルにサイダーを瓶ごと置くと、早速とチェルシーと乾杯を交わす千冬。千冬もたいがい冷たいが、今日のチェルシーは更に冷たい。
「……え?あら?チェルシー……?どうして……注いでくださいませんの?」
恐る恐る問うセシリアだったけれど、チェルシーはそれを無視してくいっとグラスを傾ける。
「申し訳ありませんお嬢様、本日の営業は終了です」
「……あの、チェルシー……ひょっとして……怒ってませんこと?」
恐る恐る伺うように言いつつ、注いでもらえなかったサイダーを自分でグラスに注ぐ。
「お嬢様、あちらをご覧ください」
大きく深呼吸してから、チェルシーが庭の一角を指差す。言われるがままにセシリアは庭の一角に眼をやる。焚き火だろうか?こんな時間に、誰が?イヤカフスにそっと手を沿え、コンソールだけを呼び出してその焚き火を拡大する。
「…………あの、チェルシー……どうして藁人形を火刑に処してますの?」
「おわかりいただけませんか?よーく、藁人形の着ているものをご覧ください」
「……?」
着ている物といわれると、どうやら、黒いビキニのようなものを着ている。
「って!あれわたくしの……!!」
「お嬢様、何度も何度も何度も何度も言いましたが、黒はやりすぎです」
「うむ、百年早い」
うんうんと二人が頷きあっているのをセンサーは感知していたけれど、今はそんなものどうでもいい。バチバチと燃える藁人形と勝負下着に、セシリアはガタンと立ち上がってチェルシーに怒りをぶつけようとしたけれど、その機先を目の笑っていないチェルシーの微笑みに制されて、小さくなって椅子に座り込む。
「それではお嬢様、お説教タイムです」
「今日は緊急の三者面談といこうか、オルコット」
大人二人に挟まれてセシリアはどちらとも目があわせられない。子一時間後、部屋の中から着信を告げる携帯電話の音が鳴り開放されるまで、セシリアはこってりと担任教師と実質保護者に挟まれて絞られることになった。
613 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/19(火) 22:07:31.54 ID:MOCJxo0No
エロリア!エロリア!淫乱ブロンド!やることなすことシャル臭い!
エロリア!エロリア!淫乱ブロンド!やることなすことシャル臭い!
614 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/07/20(水) 01:01:22.26 ID:1R0JHdC90
――――
「……セシリア、電話が鳴ってるぞ?出なくていいのか?」
「い、いえ!出ます!!」
部屋の中から、セシリアの携帯がけたたましく洋楽を鳴らしている。部屋の中へパタパタとパジャマのまま駆けて行くセシリアの背を見ながら、千冬は小さく笑みを零す。
「千冬様、いかがなさいましたか?」
隣にいるチェルシーも、目で追いながらそっと微笑んでいたけれど、千冬の様子に、その答えが判っているのにあえて問いかける。
「ふっ……いいや……ああしていると本当に愛らしいと思ってな……つい口を出してしまう、すまないな」
担任で、弟の恋人候補だからと少々過保護だったろうかと困り顔でチェルシーに謝罪の言葉を向けるけれど、チェルシーはそれに首を振る。
「いいえ、それだけお嬢様が愛されているのだと感じます。ふふ……自慢の主です、気高く、美しく、そして強い」
「確かにな、強いよ……」
ギシ、と椅子の背もたれを小さく鳴らしながら寄りかかる。ああして友達と電話している姿を見ると、まるで日本を発ってから今日までが平和な日々だったかのようだ。
「あら、ブリュンヒルデのお墨付きだなんて、光栄です。きっとお嬢様もお喜びになります」
「……そういう意味ではないよ……そちらの強さの話ならまだまだだ、伸び悩んで塞ぎ込んで、一つの壁は越えたようだが……な」
IS操縦技術についての強さではないと軽く肩を竦めながらチェルシーに返す。確かに強くはなったがまだまだだ、まだ、ブルー・ティアーズを本当の性能で稼働できただけに過ぎない。それで勝てる程世界は甘くない。同時にまだまだ伸びしろがあるという事だが。
「ふふふっ、判っております……ありがとうございます、お嬢様の事、お任せ致します」
「……まったく、キミは人が悪いな……私は担任だぞ?生徒の事は当然見るさ」
年下のチェルシーにからかわれた気がして、でもそれも悪くは無いと千冬は小さく口の端を上げる。
「………………………………護り切ったものに内通の容疑などかけられて、心中穏やかでないのだろうに……もう今はそんな事があったのかさえあの姿からは見えん、それどころか、とても楽しそうだ……その心の強さだよ。」
そして、強いと評した内容を、改めて言葉にした。自分には無い強さ。勿論千冬自身弱いつもりなど無い、ただその質が違う。千冬はそれでも、セシリアの強さが羨ましいと感じて目を細める。
「お嬢様には、本当に辛いことは受け容れてしまう……悪癖、がございますから……。もっと甘えてほしい、頼って欲しいと思うこともあります」
「ックク、そこは寛容……と言ってやれ。だがなるほどな、悪癖か。確かに甘え下手だよ……泣いて甘えたがるのであれば私も邪魔をせんつもりだったというのに……平気で浮かれて背伸びパンツときた。前向きもあそこまで行くと確かに悪癖だな」
呆れたように庭の燃えカスの方を眺める。丁度使用人たちが残骸を片付けている所だった。黒はいい、実際千冬自身も下着にはそれなりに拘る、相手もいないがそこは女のたしなみという奴だろうと。
(いきなりセクシーランジェリーというのは悪癖で片付けるレベルで無い気もするが……な)
「そんなお嬢様だからこそ、私たちはオルコット家に仕え続けているのです」
「なるほど、良い家だここは。また家庭訪問に来るかもしれん……卒業後もな」
「いつでもお越し下さいませ、お待ちしております。千冬様」
616 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/07/20(水) 02:56:11.96 ID:1R0JHdC90
――
少し時間は遡って、電話を取りに戻ったセシリアの部屋の中では、セシリアのイメージとは少し違う、ロックの着信音が流れていた。イギリスはウェールズ出身のロックバンド、LostprophetsのCan't Catch Tomorrow。この着信音を設定しているのはたった一人、鈴からの着信だと判るから、セシリアはできる限りの早足で、ベッドサイドの携帯電話を取る為にシーツの上にダイブする。
「もしもし、鈴さん!」
自然と声が弾む、久々に鈴の声が聞こえると嬉しくなってしまう。まだ離れて二日くらいしか発っていないのに、随分長く離れていた気がする。
『あ、出た出た、んじゃそっちからかけ直して』
「鈴さ――は?ちょっと!?鈴さん?……切れてますわ……」
ツー、ツー、と通話終了を知らせる電話口に深く溜息をついてから、着信履歴を見て最新の着信をコールする。ほぼ呼び出しまでのタイムラグなく、すぐにまた鈴の声が聞こえた。
「もしもし?遅いわよ!かけ直してって言ったでしょ!時差?」
「……はぁ……全く……電話に時差なんかありませんわよ全く。大体何ですの今のは」
『あー、ごめんごめん、ほら、国際電話って高いじゃない?ってか、何やってんのよー、朝からずっと電話待ってたんだから!』
つまり電話代はセシリアもちにしろとの事、一瞬切ってしまおうかなんて思ったけれど、掛けなおしてくれる保障は無いし、鈴と楽しく話せるのならその程度のことは些細なこと、ベッドにヘッドスライディングした態勢のまま、自然と足をゆらゆらと動かしてしまう。
「ごめんなさい、いろいろあって少し眠っていましたの……」
謝罪の声も少し弾む。
『ふーん、ま、いっか。一夏は?そこにいんの?』
鈴の問いは、今が朝の9時である日本にいる鈴から考えれば自然なことなのだけれど、セシリアにしてみれば現在時刻は0時。そんな時間に男女が二人きりなどとんでもない。と、言っても……計画では思い切り今頃は一夏と一緒だった筈なんだけれど。
「お、おりませんわよ……」
617 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/07/20(水) 02:57:04.83 ID:1R0JHdC90
『そっかそっか、良かった良かった。それより聞いたわよ!あんたサイレント・ゼフィルス落としたんだって!?すっごいじゃない!』
気のせいか、いや、気のせいではないのだろう。鈴の声がとても嬉しそうに弾んでいる。千冬は毎日学園に定期連絡をしている様子だったし、どこからかそれを聞きつけたのだろう。それとは別になんとなく、それにはラウラの諜報能力が一枚噛んでる様な予感がした。
「でも、逃げられてしまいましたわ」
『いいじゃん、また出てきたら倒すんでしょ?』
「…………」
沈んでいる様子を見せる前に、鈴の明るい声が耳に届く。この親友の明るい声は、どうしてこんなに、胸に届くのだろう。どうしてこんなに、励ますのが上手いのだろう。
『あれ?聞こえなかった?』
「……聞こえませんでしたわ……………………」
聞こえた言葉を、もう一度聴きたくて、強請るように言ってしまう。
『アンタんち電波弱いんじゃないの? 次出てきたらまた倒すだけでしょ、って言ったの!』
「……うん、うん……聞こえましたわ……。ふふっ!勿論倒しますわ!ですから、その時は鈴さんは先にやられてくださいな?」
その強請りを鈴は気付いているのだろうか、それは定かではないけれど。からかう様に返す鈴の声に、セシリアもからかうように告げる。こうして二人で話しているととても心が弾んでくる。互いに。
『ちょっと?調子乗ってんじゃないわよ、そんな事言うやつは次にカマセになるフラグよそれ~?』
「そんな法則、わたくしが曲げて差し上げますわ、ふふふっ」
偏向射撃の使い手だけに、なんて楽しげに言葉を向ける。親友と呼べる存在はこれまでいなかった。強いて言えばチェルシーがそうだけれど、チェルシーは少し違う。仕事に忙しい母、あまり構ってはくれない父に代わり、いつもいつも傍にいてくれて、優しく、姉のような存在。本当に対等な、共に在る事が嬉しい存在。かけがえの無い友。
『なによその笑い方、きっもち悪いわねぇ!』
「うふふふふっ…………ありがとうございます、鈴さん」
だから、感謝の言葉が、自然に紡がれる。
『……ん』
だから、電話の向こうの返事も小さく、言葉少ない。
618 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/07/20(水) 03:00:21.76 ID:1R0JHdC90
「そういえばそちらはどうですか?散らかしていませんこと?」
『……………………………………ん』
「…………今のなっがーい間は何ですの……?
今鈴はセシリアの部屋にいるはずだ、もうすぐエアコンも必要なくなるけれど、鈴の部屋のエアコンが直るまでは鈴はセシリアのルームメイトである。セシリアの心配としては、部屋にある自分のベッドが先ず第一。何せ鈴が着てからというもの大きいベッドは毎日二人で眠っていたわけで、セシリアがいないなら、鈴が一人で使うことになる。
一つ、ベッドの上で飲食禁止。
一つ、ベッドの上に上がるときは寝間着が基本。
一つ、友達と遊ぶときは友達の部屋で。
イギリスに発つ前に課した制約だけれど、まず守られているとは思っていない。とりあえずはどのくらいやらかしたのかを確認したい。
『……まぁまぁ、そんな事いいじゃん!金持ち喧嘩せずって言うじゃない?』
「喧嘩になるようなことをなさったんですのね……?」
思った以上に酷かったようだ、どれも守られていない可能性がある、帰る時には一度チェルシーにも着てもらうべきだろうかなんて思いながら、目頭を押さえる。
『なるようなことって言うかなんていうか…………あー、うん。 ごめんね』
言い訳を続けようとする鈴の声が言いよどむ。返す言葉がなくなったのか、単に面倒くさくなったのかはセシリアには窺い知る事はできなかったけれど、明るい明るい謝罪がセシリアの耳に入る。不思議と謝罪の筈なのに、とてもとてもイラッと来た。
623 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/07/21(木) 00:16:26.89 ID:G45MzjEu0
「ちょっと鈴さんっ……人の部屋に居候の身で何やらかして下さいましたの!?」
少し怒ったような声、多分実際に怒ってるのだけれど、あまり強い声色では無い。それはセシリア自身がこのやりとりも楽しいと感じているからで、それは、鈴も同じように感じている。
『あはは、いやほら……ちょっとパジャマパーティを』
「どーしてわざわざ人の部屋でやるんですの!?」
パジャマパーティはちょっと予想外だった、というか……なにそれ、参加したかった。きっといつものメンバーが集まったのだろうとすぐに想像できる。
『えー、いいじゃん。あーあ、アタシも行きたかったな―、イギリス』
「ですから、次の日にでもエコノミーで自力でおいでになれば迎えに行きますと……」
『いや、片道何時間かかると思ってんのよ!?同じ飛行機で行けばいいじゃないの。大体一般じゃ最速でもほぼ日帰りじゃない……明日の朝そっちを発つんでしょ?』
「時差が理解できて他国の代表候補生がどうして政府機に乗れない事が理解できないんですの?ちょっと考えれば当たり前ですわよ。大体今回はブルー・ティアーズのメンテナンスを本国で行うついでなのですから仕方がありませんわ」
LHRに向ける航空便の出発は大体昼前、到着は大体夕方になる。セシリア達が出発したのが夜間だったから、運良く翌日の昼の便にうまく席が取れたなら、到着は丁度サイレント・ゼフィルスと交戦していた時間帯だから、今頃は鈴も一緒だった筈だ。
しかも、翌日の便が取れなければ、確実に入れ違いになる。
『まぁいいわ、今度ゆっくり連れて行きなさいよね~。そんで夏はどうなのよ~?』
「な、何もありませんでしたわ!」
『…………ちょっと、何があったのよ?』
一発で何も無かったというのが嘘だとばれて、鈴が低めの声で問い詰めてくる。鋭い、というかセシリアの嘘が下手すぎた。
「そ、それは秘密ですわ。でも、鈴さんが心配するようなことはございませんわよ。まあ男女二人で旅行したのですから、これはもうわたくしの勝利は確定的かしら。一夏さんとの愛が深まったのを感じますわ!」
『はぁ……あっそ、よかったわね。……アンタの事だから絶対この前買ってたエロ下着で勝負掛けると思ってたけれど……やっぱり千冬さんに邪魔されたんでしょ、あんたも懲りないバカねぇ』
安堵したような溜息の後、いつもの軽口が帰ってくる。その声色に少し切なそうな色を感じるから、セシリアはそれ以上の自慢はしない。同じ男性を愛した者同士、恋のライバルだけれど、それ以上に鈴は大切な親友なんだから。
「懲りる理由がございませんわ。鈴さん……わたくし、どなたにも負けるつもりはございません。一夏さんを心からお慕いしております」
「はいはい、ごちそーさま……一夏がそれに気付いてるとは思えないけどねー。」
鈴からも負けるつもりが無い強気な言葉を予想していたセシリアには、鈴の返す声は素っ気無くて、少しセシリアにはそれが寂しい気がした。
630 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/07/22(金) 23:17:01.28 ID:GiXgpw5l0
『…………なによ?』
僅かな言葉の隙間も、この鋭い親友の前では明確な違和感として伝わってしまうよう。それはちょっと嬉しいななんてセシリアは思うけれど、違和感を感じる側としては黙ってもいられないもので。鈴は少しぶっきらぼうな態度で問いを投げる。
「いえ、なんだかこう、張り合いが無いというか……ひょっとして鈴さん、今生死の境をさまよう怪我でもしていらっしゃいます?」
『してないわよ、どういう意味よそれ』
「どうもこうも、そのままですわ?なんだか、一夏さんから身を引いてるような……ま、まさかついにわたくしに負けをお認めになられたんですの!?」
嬉しい事の筈だ、いつか、一夏の隣で純白のドレスに身を包む時、そこに鈴の姿が無いのはとても寂しい。認めてくれたのなら、それは。そこに鈴がいてくれるということ、の筈なのだから、とても嬉しい事の筈だ。でも、嬉しさの中に違和感がどうしても生じてしまって、セシリアは言葉を泳がせる。
『……』
「鈴さん?……鈴」
『うっさいなぁ…………どうしろってのよ……認めてなんかいないわよ……でも、でも……あんたが嬉しいって事をアタシがどうこう言いたくないだけで……』
「そんな事で……」
『そんな事って何よ!仕方ないじゃない、アタシはそりゃ好きだけど……そりゃ好きなんだけど……でも……』
鈴は一夏が好きだ、でも、その気持ちは届かなかった。何度も届かせようとしているうちに、一夏の心の向き先を知った。はじめは簡単に負けるつもりなんて無かった。だからこそ、その向き先を良く知る必要があると思った。
『……あたしは……』
知れば知るほどに、その存在が大きくなっていった。その姿を追っていた筈が、だんだんと目が離せなくなっていた。そして自分の心の向き先を自覚したとき、気持ちが一気に楽になった。
「鈴……さん?」
『……あ、あんたと一夏の事なんか、ぜーったい応援しないんだから!!』
精一杯の言葉を吐いて、鈴は一方的に電話を切る。応援なんかしたくない、隣にいたいのは自分だ。負けを認めるつもりなんか無い。
あんな朴念仁、認めるもんか。
一 夏 に な ん か 負 け る も ん か 。
631 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/07/22(金) 23:20:38.36 ID:GiXgpw5l0
――――