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  • 自分用SSまとめ
  • 億泰「学園都市つってもよォ~」③

自分用SSまとめ

億泰「学園都市つってもよォ~」③

最終更新:2011年06月03日 22:23

meteor089

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管理者のみ編集可

億泰「学園都市つってもよォ~」 ① ② ③

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268 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/07(木) 19:29:24.83 ID:p+o8WyD10 [19/41]
不良B「あぁー? なんだテメエ?」


ゆっくりと部屋の中に入ってきたのは一人の男だった。


大胆に改造された短ランとボンタン。

右の肩には「億」、左の方には「BILLION」

独創的なツーブロック、切り揃えられた細く短い眉毛。

ガッシリとした長身から発せられる威圧感。

ひと際目を惹くのは胸元につけられた大きく光る『$』の一文字。

不良B「どうやら…ジャッジメントやスキルアウトじゃあねえみたいだなぁ?」

突然の侵入者に驚くも、その風貌から自分たちと同類だと判断するスキルアウト達。
肩をいからせ、舌を巻きながら脅しをかける。

不良B「その肩の文字はなんだぁ? チーム名か? び…BILLION? はっ! 聞いたことねえよ」

不良C「どこの弱小チームだか知らねえけどよ、悪いが取り込み中だ。 ボコられたくないならとっとと帰んな」

身長差のせいで見上げながら脅しをかける男たち。


  「けどよぉ…そんなオレにも判ったことがあってなぁ~…」


不良C「おいっ! テメエ! 『無視』してんじゃあねえっ!」 

脅し文句を気にすることも無く悠然と歩くその男の胸倉を掴んだその瞬間。

バキンッ!

小気味いい音とともに崩れる男。
ぐるんと白目を剥き泡を吹きながら倒れた一人の顎が粉々に砕けていた。

287 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/07(木) 19:48:07.81 ID:p+o8WyD10 [21/41]
 「テメエらがよぉっ~ 吐き気がするほどゲスだっつーことは間違いようねぇーっつーことだよぉッ!!!」

そう…『虹村億泰』が吠えた。

そのままズンズンと大股で佐天の側にいる男に歩んでいく。

不良B「なっ! テメェ! 近寄るなっ! 俺に近寄るんじゃあねえっ!」

悲鳴めいた声をあげながら佐天を盾にしようとする男だったが…

ドグシャアッ!!!!

不良B「ぶぎゃあっっ!!」

見えない砲弾が直撃したかのように吹き飛んだ。
操り糸を断ち切られた人形のように転がり、柱に衝突。
佐天の後ろに隠れようとした男の顔面には大きな拳の痕がくっきりと映っていた。

291 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/07(木) 19:57:06.96 ID:p+o8WyD10 [22/41]
目の前で何が起こっているのかまるで理解できず呆然とする佐天。
気がつけば佐天の肩に暖かい何かがかかっていた。

佐天「…え?」

その感触に目をやる。
佐天の細く小さな肩にかかっていたのは見覚えのある学ラン。

ゆっくりと首を動かす。

涙でグシャグシャに歪んだ視界の先には立っているのは見間違いようのないあの男だった。
ガラの悪い格好をしている癖に甘党で。
間延びした口調で話すデリカシーの無い奴。
虹村億泰がそこに立っていた。

億泰「よぉ~… 平気かよ? そうそう、これってオメェ~んだよなぁ? もう落とすんじゃあねぇーぜぇ~」

そう言ってヘラヘラと笑いながら佐天の腕をとる億泰。
ポトリと音を立てて佐天涙子の掌の上に落とされたのは母の祈りと…初春の想いがこもった小さなお守りだった。


佐天「……うん。 ……うん」

お守りを握り締めたままコクコクと頷く佐天。
ボロボロと大粒のナミダを流しだす。
肩を大きくしゃくりあげながら泣き出した佐天を見て困ったように頭をかく億泰。

ポンッと。
頭に大きく分厚いナニカが置かれたような…そんな感触を佐天は感じた。
そのままガシガシと乱暴に頭を撫でられたような気がして顔をあげる佐天。

しかし目の前に立っている億泰は『両の腕』をズボンのポケットに『入れたまま』そこに立っているだけだった。

佐天「え?」

不思議な現象に思わず呆けた声をあげる佐天。
そんな佐天を見て億泰は何も言わず背を向ける。

その瞬間。
佐天は感じた。

背を向けた億泰から発せられてる恐ろしいまでの気迫と怒りが入り交じった『凄み』を。

298 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/07(木) 20:10:53.13 ID:p+o8WyD10 [24/41]
瞬く間に仲間が再起不能になったのを見て、リーダー格の男が緊張した声をかける。

リーダー「テメー…何者だ? 俺らが『トリック』って知らねえわけじゃあねーよな?」

億泰「……『トリック』だぁ~? 随分と『チープ』で安っぽい『トリック』だなぁ~?」

リーダー「なっ!?」

スキルアウトならば知らぬ者はいないはずのチーム名を小馬鹿にされ絶句する男。

億泰「ンなこたぁよぉ~…オレァ知ったこっちゃあねぇーんだよぉ~」

恐れる様子もなく近づこうとする億泰。
しかし、その歩みがピタリと止まる。

303 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/07(木) 20:16:53.55 ID:p+o8WyD10 [25/41]
リーダー「テメェ…動くんじゃあねぇ」

億泰の歩みを止めた原因。
それは動けない黒子の首筋にあてがわれた大きなナイフだった。

リーダー「そうだ… そのままを動くんじゃねえぞ? 動いたら…このガキを殺す」

黒子の身体を盾にした状態のまま空いた方の手で新たなナイフを取り出す。

ナイフを振りかぶり、投擲しようとするのは誰が見ても明らかだった。

しかし…それが意味のあるものだと黒子には思えなかった。

黒子(今更何を…? 今までの結果から見てナイフ一本じゃあ当たるわけが…!?)

能力がいまだ不明とはいえ、大の大人を吹き飛ばす億泰に効果があるとは思えない。

しかし次の瞬間、黒子の頭に恐ろしい確信がはしった。
ただナイフを投擲するだけでは意味がない。
だがこの男のもつ能力、それが問題なのだ。

黒子「よけれっ! にじむらはんっ!」

突きつけられたナイフを気にすること無く叫ぶ黒子。

リーダー「チィッ!」

黒子の叫びにより狙いがそれたのだろう。
投げられたナイフは億泰の肩の肉を裂くだけに留まった。

億泰「なっ! なにぃっ!?」

驚愕する億泰。
それもそのはず、億泰は『確実に』飛んでくるナイフを削り飛ばしたはず…だったのだ。

目測を見誤った原因。
それは男のもつ能力に起因する。
偏光能力(トリックアート)。
虚像をつくり距離感と方向感覚を狂わせる能力。

投擲物にその能力を利用すれば目視回避は不可能になるのだ。

リーダー「テメェ! 誰がしゃべっていいって言った! 殺すぞクソガキ!」

狙いが外れたことに苛立ち、黒子を締め上げる男。
しかし、それでも黒子はしゃべることを止めなかった。

黒子「お、おくらすさん…佐天さんを連れて…逃げれくらさい…わらくしはジャッヒメント…覚悟はできてますろ…」

一度はへし折られた心、しかし状況が変わった。
この男は『今』、自分を殺すことはできない。
ならば自分を見捨てることさえ出来れば、少なくとも佐天涙子と虹村億泰、そして見知らぬ少年の明日は守ることができる。

黒子(己の信念に従い、正しいと感じた行動をとるべし…でしたわよね)

幼い頃に遭遇した事件を思い出す。
独走した結果、先輩と友人を危険に晒した苦い思い出。

しかし。

億泰「…」

億泰はその黒子の言葉を聞いているようには見えなかった。

321 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/07(木) 20:37:49.97 ID:p+o8WyD10 [28/41]
億泰「なぁ~… さっきよぉ~… アンタ…『トリック』…とか言ってたよなぁ~?」

ズシャア!

そう言いながら更に一歩足を踏み出す億泰。
焦りの感情が消えている億泰に怯えるようにしてナイフを振りかざし叫ぶ男。

リーダー「動くなっつってんだろーがああああ!」 

その言葉と同時にピタリと立ち止まり、腕を組みながら頬を掻く億泰。

億泰「いいぜぇ~… もう一歩も動かねえ……で、さっきの続きだけどよぉ~…」

リーダー「なっ! なに意味わかんねーこと言ってんだっ!」

324 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/07(木) 20:42:41.62 ID:p+o8WyD10 [29/41]
億泰「…オレのはよぉ~『トリック』じゃあねえ… 『タネ』も『仕掛け』もねえぜぇ~?」

リーダー「なに調子こいてんだテメエっ! 動くんじゃあねえっつってんだろが! 立場ぁ忘れてんじゃあねえっ! 俺が上っ! テメエは下だっ!」

億泰「…あぁそうだなぁ~…だってよぉ…」


億泰「動くのは『おまえ』だもんなぁ~?」


 ガ オ ン !


猛獣が吠えるような不思議な音。
それと同時に億泰の目の前に男がたっていた。

リーダー「…へっ!?」

ガシィィッ!

リーダー「ぎゃぶッ!」

『まるで』首を掴まれたかのように宙に浮く男。


億泰「捕らえたぜぇ~ダボがァ~~ッ!!!」

333 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/07(木) 20:51:48.30 ID:p+o8WyD10 [30/41]
リーダー「ギッ! な、なんだっ!」

ジタバタともがくが空中に磔にされたかのようにびくともしない。

リーダー「テッテメー! 離せっ! 離しやがれっ!」

恥も外聞もなく口走る男。
そんな男のセリフにピクリと億泰が反応した。

億泰「離せだぁ~? 確かにそーだなぁ… このまま『片手』じゃあちっーとばかし殴りたりねえもんなぁ~」

リーダー「なっ! 何ワケわかんねーこと言ってやがるっ!」

男が毒づいたと同時に、フッと重力戻り、宙に浮いていた男の両足が地面についた。

男「…へっ?」

思わず気の抜けた声を漏らすトリックのリーダー。
目の前にたつのは凄まじい迫力をだす億泰が立っていた。


億泰「テメェらはよぉ~… オレを『怒らせ』やがったんだからよぉ~」

じっとりと男の全身に冷や汗が噴き出る。
それは圧倒的な悪寒だった。

リーダー「ひ…ひぃッ!!!」

追い詰められた男はヤケになったままナイフを振り上げる。
しかし。

億泰「オオオオオラアアァァァァァァッッッッ!!!!!」

ドゴバキボゴグシャバギィッ!!!!!

リーダー「げぶッ! ごッ! がぶッ! みぎゃッ!」

億泰の吠え声とともに、何も無い場所から叩き込まれる連撃の嵐。
『殴られる』ようにひしゃげ、砕け、折れていく身体。

億泰「ンダラアッッ!!」

そして、気合の入ったその叫びと共にゴミクズのようにボロボロになり吹き飛ぶ男。

343 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/07(木) 21:07:22.38 ID:p+o8WyD10 [32/41]
べチャリと情けない音を立てて部屋の隅に転がりビクビクと痙攣する男。
もはや原型をとどめている場所など何処にもないようだが、かろうじて息はあるようだった。

そんな男を冷たい目で見下ろしながら、誰に向けたわけでもなく呟く億泰。


億泰「『罪』ってのはよぉ~… そうなるようなことをしてりゃあよぉ~ …どっかから廻り廻って『罰』がやってくるんだ…」

億泰「おれの兄貴もよぉ~… そうだった…」

億泰「だからよぉ… 殺しはしてねえ… 命だきゃあ助けてやったぜ」


そう言い捨てて踵を返す億泰。
億泰の向かう先には今だ立ち上がることも出来ない黒子がいた。

億泰「よぉ~ 大丈夫かぁ~?」

黒子の目の前でヤンキー座りをしながら間延びした声で問いかける億泰。

黒子「…に、にひむらはん… あならは…いっらい?」

億泰「あぁ~? 何言ってっかわかんねぇーぜぇ~? とりあえず…ホレ立てっかよ?」

そう言って倒れたままの黒子を立ち上がらせようと手を伸ばす億泰。

348 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/07(木) 21:16:03.50 ID:p+o8WyD10 [33/41]
佐天涙子は言葉もなく億泰の背中を見つめていた。
システムスキャンではレベルゼロだったはずの億泰がふるったとてつもない力。

佐天(なんだ…結局… あたしだけ欠陥品だったってことか…)

チラリと横を見ればそこには蹲っている少年がいた。
ブルブルと醜い脂肪を揺らしながらその姿がまるで自分のように見えて目を逸らした佐天。

その視界の中に飛び込んできたものを見て佐天は声を失った。

佐天「!?」

億泰の背後にゆらりと立ち上がる影。
グシャグシャにされた顎をブラブラと揺らせながら立ち上がっている男。
出会い頭に億泰に吹き飛ばされたスキルアウトの一人だった。
その男は先程投擲されたナイフを拾い、億泰の背後に忍び寄っていた。

355 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/07(木) 21:21:01.54 ID:p+o8WyD10 [34/41]
えっとね。
フライのスタンド殴ってる時にグーパンラッシュしてた。

363 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/07(木) 21:30:05.95 ID:p+o8WyD10 [35/41]
佐天「ぁ……」

億泰は黒子のそばにしゃがみこみ手を伸ばしている。
ジリジリと間を詰めるスキルアウトの男に気付いた様子もない。

なんとかして声を振り絞り、それを伝えようとするがカラカラに乾いた喉はろくに動かない。
億泰の背後でナイフを振りかざす男。
そして。
勢い良く振り落とした。


不良C「とったぁぁっ! 死ねぇっっ!!!」


黒子「にっにひむらはんっ!!」

億泰「なっ!? なんだとぉぉぉ~!?」

億泰が気付くより僅かに早く男の姿を見て黒子が叫び声をあげる。
それは完全な不意打ち。
全く反応が出来ないまま硬直する億泰。

億泰「やべえっ! 『間に合わねえっっ』!!!」

370 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/07(木) 21:38:59.58 ID:p+o8WyD10 [36/41]
コマ送りのようにゆっくりと億泰の首めがけて吸い込まれるように落ちていく兇器。
その一部始終を佐天は見つめていた。

佐天(……ダメ)

数瞬後、そこには延髄を断ち切られた億泰がガクリと崩れ落ちる。

佐天(………ダメだよ)

それはもはや確定されているであろう未来。
肩にかかった学ランの温かさ。

それら全てが認めたくなく、佐天は大きく息を吸い込み。

そして叫んだ。

佐天「おくやすーっ!!!」

必死になって伸ばされた手からポトリとお守りがこぼれおちる。

377 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/07(木) 21:49:59.57 ID:p+o8WyD10 [37/41]
――超能力の発現には根本の法則がある

――それは自分だけの現実

――パーソナルリアリティとも呼ばれるそれは能力者が個々に持つ感覚のこと

――現実や常識から切り離された独自の認識や感覚、土台となる自分だけの世界観

――可能性として存在する本来はありえない現象を実現する力

佐天涙子は嫌だった。
目の前の男が死ぬような未来を否定したかった。
しかし…現実は無情にも彼女の願いを踏みにじっている。
10数年間という生涯の中で、もっとも大きな感情が佐天涙子の胸を焦がしていた。

そして。

ふわりと柔らかな風が吹き、『それ』が空を舞い、宙に浮いた。
じんわりと指先に血行が集中し熱くなった手のひら。

佐天「…え?」



『それ』は母の願いが込められたちいさな布の袋。

一番の親友である初春飾利が想いをこめて繕ってくれた大事なもの。

窮地に陥った自分たちを救ってくれた虹村億泰から手渡された宝物。

手からこぼれおちた『それ』は重力に抗い、風に舞い、一直線にナイフを振り落とさんとする男の顔にぺちりと頼りない音をたてて貼り付いた。


不良C「がっ!」

突如視界を奪われ、思わず顔に手をやる男。
貼り付いた『それ』を苛立ち任せに地面に投げ捨て…そこで気づいた。

目の前にいる恐ろしい男の存在に。

391 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/07(木) 22:04:37.96 ID:p+o8WyD10 [39/41]
不良C「…ヒッ!?」

億泰「どーやらよぉ…テメエにはよぉ… オレが言いてえことが判んなかったようだなぁ~」

ミシリと足音を鳴らし近づく億泰。

億泰「判りやすく言ってやるぜぇ~っ! この虹村億泰がよぉ~ッ! テメーらの『罰』っつーことだっ!!!」

ズバァン!

まるで砲弾が至近距離で直撃したように吹き飛んでいくスキルアウト。

雑巾のようにボロボロになって泡を吐く男。

億泰「けっ! ビョーインのベッドの上で反省しやがれってんだ!」

413 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/07(木) 23:59:55.72 ID:p+o8WyD10 [41/41]
自業自得な行動をとったスキルアウトに向かい毒づく億泰。
とはいえ渾身の一撃を顔面に喰らった男が返事を返せるわけもなかった。

完全にノビた不良たちを確認した黒子が億泰に声をかける。

黒子「あの…にじむらひゃん?」

億泰「ん~ なんだぁ~?」

黒子「もうしわけないのれすけど…わたくしのポケットから携帯電話を取り出してくらさいません?」

そう言って自分のスカートを目で指し示す黒子。

億泰「…あぁ~?」

黒子「ほんらいなら…おねえはま以外に身体をまさぐられるのなんれゴメンですけれろ…」



プルプルと震える腕をなんとか動かそうとするも力が入らず地面にペタリと伏せてしまう黒子。

黒子「ご…ごらんのとおり…今のわらくしじゃあ…ろくに動くこともできないみたいれすし…」

そう言って諦めた苦笑の表情のまま続ける黒子。

黒子「いまは貴方に頼むしかないんれすのよ…」

億泰「ん~… なんだか判んねえけどよぉ~ ポケットから携帯電話を出しゃあいいんだよなぁ~?」

そう言って億泰は黒子の側にしゃがみ込み、無造作にスカートのポケットの中に手を突っ込んだ。

ズボォッ!

とたんに真っ赤になって黒子がわめく。

黒子「ちょっ! そっちじゃなくて! 逆! 逆れすの!」

億泰「あぁ~? …ンだよ、なら最初っからそう言えよなぁ~?」

ぼやきながら反対側のポケットの中に手を突っ込む億泰。

416 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/08(金) 00:05:58.63 ID:Qomi7BcS0 [2/22]
黒子「なっ! どこを触ってるんれすのよ! あっ! あなたには! デリカシーの欠片もないのれふか!!」

ギャーギャーと騒ぐ黒子に辟易しながらポケットの中をまさぐる億泰。

億泰「…うるせェなぁ~… と、コレか?」

ズボっと黒子のスカートの中から携帯電話を取り出す億泰。

黒子「まったく…この件はのちほどたっぷりと苦言を呈させれもらいますわ…」

ブツブツと文句を言い続ける黒子。

黒子「とにかく…その携帯電話のサイドにあるボタン…そうそう、そこれすの。 そこを押してくらさいまし」

億泰「ボタンー? あぁこれか? …押してもいいのかよぉ~?」

黒子「えぇ…押してくらさいな。 ボタンを押すのは今ですわ」

億泰「…わかったよぉ~ 押すぜぇ?」

そう言いながらカチリと携帯電話のサイドキーを押し込む億泰。

423 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/08(金) 00:17:59.53 ID:Qomi7BcS0 [3/22]
■廃ビル最上階・数分後

億泰がボタンを押して5分もたたずに、けたたましいサイレンの音が部屋の空気を震わせた。

警備員「君達っ! 大丈夫かっ!」

部屋の中になだれ込んでくるのは武装したアンチスキル。

億泰「なっ…なんだぁ~!?」

大挙して現れたアンチスキルに驚いて目を丸くする億泰。
その横でフラフラと黒子が立ち上がった。

黒子「いろいろありましたけろ…どうひゃら…一件落着のようれすわね…」

いまだ呂律は回らないままではあるが、黒子の足元は先程よりも随分としっかりしていた。


黒子「さすがはういはるれすわ…もしやと思い…支部に待機させていた甲斐がありまひたわ…」

425 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/08(金) 00:28:04.70 ID:Qomi7BcS0 [4/22]
佐天を追う前、黒子が初春に下した指示。
それは支部に待機し情報の中継を一任するという無茶といえなくもない大雑把な命令。
そんな黒子の指示を素直に守ったのが初春飾利だった。

黒子の携帯から発せられたエマージェンシーコール。
それに気付いた初春が驚くほどのスピードで現場を逆探知、最寄のアンチスキルの詰所に出動依頼をしたのだ。

アンチスキルの異例ともいえる迅速な行動は初春の見事な手腕がなければありえなかっただろう。

警備員「まさか我々アンチスキルの回線が割り込こまれるとは思いもよらなかったが…」

そう言って周囲を見渡すアンチスキル。

警備員「どうやら…事はもうすんでいるようだな」

部屋の隅に転がっているスキルアウトの男たちを見てそう呟くアンチスキルの隊長。
拘束されていくスキルアウトの男たちは気絶。
まったくの無抵抗のまま廃ビルより連行されていっ。

428 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/08(金) 00:32:55.74 ID:Qomi7BcS0 [5/22]
黒子「ええ…おかげさまれ。 困ったときには頼りになる仲間れすのよ……っ?」

そう答えた黒子の膝からガクンと力が抜ける。
そのまま倒れこみそうになった黒子の肩に回されたのはがっしりとした手。

億泰「オメェーもよぉ~ フラフラなんだからよぉ~ 強がってんじゃあねぇぜぇ~?」

黒子「…に、虹村はん?」

そう言ってアンチスキルに向かい黒子を放り投げるようにして渡す億泰。

黒子「ちょ、ちょっろ! か弱き乙女になんれ扱いをするんれすか!」

アンチスキルの隊員が用意した担架に横になりながらもジタバタと暴れようとする黒子。

黒子「お、覚えれらさいれすのよー!」

舌足らずな捨て台詞を残しながら黒子が運ばれていく。

431 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/08(金) 00:40:14.23 ID:Qomi7BcS0 [6/22]
警備員「さぁ、君もだ。 立てるかい?」

そう言って伸ばされたアンチスキルの手。
しかし佐天はその手を掴もうとはしなかった。

佐天「あ…大丈夫です! あたし一人で立てますから!」

そう言って立ち上がろうとする佐天。
しかし足は言うことを聞かずペタンと座り込んでしまう。

佐天「あ、あれ?」

おかしな表情で呟く佐天。
そんな佐天を見た億泰が口を開く。

億泰「オメェーも無理してんなよなぁ~ 腰抜けてんだろぉ~? 強がらずに『白井』みたいに運んでもらえよなぁ~」

佐天の胸にチクリと。
ナニカが刺さった。
その感情を理解できぬまま佐天は自分でも信じられない行動をとっていた。

437 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/08(金) 00:47:06.22 ID:Qomi7BcS0 [7/22]
佐天「…ん」

億泰「……何のつもりだぁ? そいつぁよぉ~?」

佐天のとった行動の意味が理解できず眉をひそめる億泰。
億泰に向かい伸ばされているもの。
それは佐天の両腕だった。

佐天「……こ、腰が抜けてさ…あ、歩けない」

そう言って顔を赤く染める佐天。
だが。

億泰「んなのはよぉ~ 見りゃあ判るけどよぉ~」

全くもってこちらの行動を理解しようとしない億泰だった。
なんとも言えない間があたりを包み…しょうがなく、小さく佐天は呟いた。

446 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/08(金) 00:54:43.10 ID:Qomi7BcS0 [8/22]
佐天「………ぶ」

億泰「あぁ~? だから何だってぇ~? 声が小さくて聞こえねえよぉ~?」

悪意なくそう言いながら佐天の口元に耳を寄せる億泰。
その億泰を見てプツンと。
佐天の中のナニカが変な音を立てて切れた。

スウと息を吸い込み、あらん限りの声を出す。

佐天「おーんーぶっ!!!」

グワーッと凄まじい大声が億泰の耳を襲う。

億泰「うおおおおっっ!!」

大音量の声に思わず耳を抑える億泰。

佐天「おんぶしてって言ってんの!! 女の子が歩けないって言ったらそれぐらい常識でしょ!」

一気にそうまくしたてる佐天。
続く言葉は耳を抑えている億泰に届いているかどうかは不明ではあったが。

457 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/08(金) 01:03:58.08 ID:Qomi7BcS0 [9/22]
佐天「しっ! し信じらんない! フツーここまで言わせるぅ!?」

フーフーと真っ赤な顔のまま鼻息を荒くする佐天。

億泰「おおおぉ… ビックリしたぁ~…」

そう言いながら頭を振る億泰。
感情を爆発し終えた佐天は、ようやく自分が言ったことの意味に気付く。
気恥ずかしさのあまり目をつぶり、真っ赤になってうつむく佐天。

このまま消えてしまいたい、そう思った佐天に何でもないような声がかかる。

億泰「ったくよぉ~… おんぶして欲しいなら最初っからそー言えよなぁ~?」

佐天「え?」

目を開いた佐天の前には億泰がしゃがみこみ背中をむけていた。

468 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/08(金) 01:12:47.35 ID:Qomi7BcS0 [10/22]
言ったはいいものの、いざ目の前に背中があると緊張し動くことが出来ない佐天。

億泰「? どーすんだぁ? 乗らねぇのかぁ~?」

硬直した佐天に首だけ振り返りそういう億泰。
このままでは億泰は立ち上がってしまうのではないか?

佐天「…ぁ」

喉の奥から小さな声が漏れ、気がつけば佐天は億泰の背中に飛びついていた。

大きい背中に触れて赤面する佐天。

億泰「あぁ~ビビったぜぇ~ 今思うとよぉ~康一の『あれ』はおっそろろしいもんなんだなぁ~…」

ブツブツと何事かを呟きながら立ち上がる億泰。

佐天「わ!」

グンと佐天の視界が上に引っ張られ、思わず億泰の首にしがみつく。

484 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/08(金) 01:31:59.75 ID:Qomi7BcS0 [11/22]
億泰「さてと… ここにゃあもう用はねぇことだしよぉ~… 帰るとすっかぁ~」

そう言って背中に佐天をぶら下げたまま軽々と歩き出す億泰。

佐天「わ! わわ!」

おんぶなどと言ったものの、幼い頃を別にすれば背負われるなど初めての経験。
慣れない動きに思わず腕に力を込める佐天。
それはピンポイントで億泰の首をしめることとなった。


億泰「ガフッ… おいテメェ~ オレを窒息死させる気かぁ~?」


佐天「え? あ、違っ! ごめん!」

そう言って手を離そうとする佐天。
グラリとバランスが崩れ、床に落ちそうになるも。

億泰「こぉーのスカタンがぁ! 手ぇ離したら落ちるだろぉーがっ!」

毒づきながらグイッと佐天を支える億泰。

486 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/08(金) 01:34:28.18 ID:Qomi7BcS0 [12/22]
佐天「…え?」

自分を押し上げるような感触。
確かに伝わるズッシリとした腕。
それを佐天涙子の小さなおしりは確かに感じ取っていた。

佐天「――っ! ――っ!」

真っ赤になってジタバタと億泰の上で暴れる佐天。

億泰「おっおい! 暴れんじゃあねぇ~!」

佐天が急に暴れだした原因が理解できない億泰。

佐天「あっ! あ、あの! 足! 足のほう持って!」

声にならない悲鳴を飲み込んで必死に億泰にそれだけ伝える佐天。

億泰「? はぁ~? まぁ別に『オマエ』がそう言うならそれでもいいけどよぉ~」

なぜ佐天が暴れたのか気にすることもなく背負い直す億泰。

ようやく態勢が落ち着き一息つく佐天。

489 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/08(金) 01:43:11.88 ID:Qomi7BcS0 [13/22]
■廃ビル内・階段

カツカツと足音が響く。
無言のまま階段を降りていく億泰と背負われたままの佐天。

静かな緊張に耐え切れず、佐天がポツリと呟く。

佐天「あ、あの…あたしさ…重く…ない?」

億泰「別にぃ~? 『テメエ』の背丈なら、まぁこんなもんじゃあねぇのぉ~?」

そう答えを返し、また静かになり階段を降りていく億泰。
またチクリと小さなトゲが佐天の胸に刺さる。
気がつけば佐天は更に口を開いていた。

佐天「…ねぇ」

億泰「あぁ?」

佐天「なんで…お、『億泰』はあたしのことだけ『オマエ』とか『テメエ』って言うの?」

493 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/08(金) 01:53:04.76 ID:Qomi7BcS0 [14/22]
恐る恐るそう問う佐天。
しかし返ってきたのは理解できないといいたげな億泰の声だった。

億泰「…はぁぁ~?」

ズキリと佐天の胸がまた痛む。

佐天「そっそりゃ…あたしは初春みたいに清楚じゃないし…白井さんみたいにオシャレでもないけど…」

佐天「でっでも…あたしだってさ…ほら一応はさ…オンナノコ…なんだしさ…」

言いきることができずに最後はムニャムニャと口の中で呟く佐天。

しかし、そんな佐天の決心は大きな億泰の笑い声で吹きとばされた。

億泰「ブハハハハッ! なぁーに言ってんだぁテメエ?」

佐天「…‥え?」

億泰「オメェーがナイスバディのおねーちゃんなら話は別だけどよぉ~」

佐天「…はぁ?」

億泰「女も何もそれ以前によぉ~ そもそもオマエラ全員『ガキンチョ』だっつーの!」

そう言っておかしそうに笑う億泰。

495 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/08(金) 01:57:13.66 ID:Qomi7BcS0 [15/22]
佐天「……はい?」

プククと笑い続ける億泰の背中で揺られながら呆けた声を返す佐天。

佐天「…え、待って待って。 じゃあなんであたしのこと『テメエ』とか言うの?」

億泰「? あぁ~ そいつはよぉ~」

そう言って億泰が理由を語ろうとする。
ガキンチョだからという理由はいまだ腑に落ちないものの、それでもゴクリと喉を鳴らして億泰の返事を待つ佐天。
しかし。

億泰「テメェが『ん』だからなぁ~」

佐天「…ん?」

意味が分からない億泰の答え。

497 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/08(金) 02:04:45.61 ID:Qomi7BcS0 [16/22]
億泰「あぁ。 『ん』って呼びづれぇーんだよなぁ~」

佐天「……」

ぼんやりと佐天の中に答えが浮かび上がってきた。

――――――――――――――――――――――――――――

「お茶が入りましたよぉー」
「おっ! 待ってたぜぇ~! サンキューなぁ~ 『初春』ゥ~」
「強がらずに『白井』みたいに運んでもらえよなぁ~」

――――――――――――――――――――――――――――

初春…ういはる…ういはる『ぅ~』
白井…しらい…しらい『ぃ~』
佐天…さてん…さてん


佐天「えっと…もしかしてさ……まさかだけど………」

あまりにも馬鹿らしいことを言ってるんじゃないかと不安になるも聞かずにはいられなかった。

佐天「…………語尾?」

507 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/08(金) 02:16:43.14 ID:Qomi7BcS0 [17/22]
億泰「あぁ~ そうそうそれだわ。 語尾がよぉ~ なんだかしっくりこねぇんだよなぁ~」

だが返ってきた答えはまさかの大当たり。
億泰の背中で揺られながらがっくりと脱力しきる佐天。

佐天「……そ、そんな理由で」

億泰「ンだぁ~? しっかり掴まんないと頭から落ちっぞぉ~?」

ぐらぐらと背中で揺れる佐天の異常に気づかずそう答える億泰。
しかし次の瞬間、億泰の首に回された腕におもいっきり力がこもった。

億泰「ゲホッ! おいコラァ『テメェ』! 今度は掴みすぎだってのぉ!」

文句をいう億泰だったが、佐天は聞いていなかった。

佐天「だっ、だとしてもさぁ! あたし…ほ、本名ぜんぶ名乗ったよね!?」

ガクガクと億泰の首を揺すりながら続ける佐天。

佐天「さ、『佐天』って呼びにくいなら…さ…その……ほら…」

モゴモゴと口の中で何かを呟く佐天。

512 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/08(金) 02:26:09.20 ID:Qomi7BcS0 [18/22]
佐天「る……る、るるる…」

億泰「あぁ? 電話かぁ~?」

真っ赤にどもる佐天の呟きを聞いて何を勘違いしたのかあたりを見回す億泰。

佐天「ちっちがうって!」

億泰の首を揺すりながらイチかバチかのまま次の言葉を口にする。


佐天「る、るいこ……ってさ…呼んでもさ…いい…じゃん」


そう…呟いた。

億泰の学ランに包まれ、億泰に背負われ、億泰に名前で呼ぶように促している。
こんな恋愛ドラマを普段の自分が見たのならば笑い飛ばしているはずだった。
だが耳まで赤く染めた今の佐天は、まるで答えを待っている恋愛ドラマのヒロインのように緊張していた。

けれど、億泰ならば…
ガキンチョと言って笑い飛ばすこの男ならば…
さして抵抗なく自分の名前を呼んでくれる…

そう佐天涙子は思って『いた』。

516 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/08(金) 02:33:28.41 ID:Qomi7BcS0 [19/22]
億泰「あぁ~… 悪ぃーんだけどよぉ~ 女をよぉ~ …名前で呼び捨てるのはちょっとなぁ~」


佐天「…え?」


思いもよらない答え。
絶句し、真っ青になる佐天。

調子づいてしまった。
白井さんのように…今すぐにでもこの場から消えてしまいたい。

想像以上の絶望と悲しみの感情が佐天の小さな胸をかき乱す。

そんな佐天の揺れ動く心情をまるっきり無視して言葉を続ける億泰。

億泰「最近よぉ~ 康一…あぁ、オレのダチなんだけどなぁ」

億泰「彼女の名前を呼び捨てにするとよぉ~ …なんか怖い目で睨んでくるんだよなぁ~」

億泰「だからオレァよぉ 女の名前を呼び捨てんのはやめたんだよなぁ~」



佐天「は………はぁぁぁぁ!!??」

530 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/08(金) 02:41:50.71 ID:Qomi7BcS0 [20/22]
億泰「っつーわけだからよぉ~ 名前の呼び捨ては…」

そう続ける億泰に佐天の大きな叫び声がかぶさった。

佐天「ちょっ! ちょっと待って! 億泰! あんたバカじゃないの!?」

突如億泰の背中で暴れだす佐天。

億泰「おっとと… なんだぁ~ いきなり人をバカ呼ばわりたぁ~感心しねぇなぁ~?」

億泰「それによぉ~ オレァは年上だぜぇ~? 少なくともテメーよりは頭いいだろーしなぁ~」

佐天「いーやっ! バカだって! それ関係ないじゃんっ!」

億泰「…はぁ~?」

佐天「あーもー! その人は自分の彼女の名前を呼び捨てにされるのが嫌だったの!」

億泰「…どういうことだよ?」

まるで理解した様子を見せない億泰。
そんな億泰に怒鳴るようにして言葉をぶつける佐天。


佐天「だーかーらっ! この場合はいいのっ! あたしがいいって言ってるんだからっ!」

533 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/08(金) 02:53:08.35 ID:Qomi7BcS0 [21/22]
億泰「…えーっと…つまり?」

佐天「あ、あたしの名前で……る、るいこって …そ、そう呼んでもいいってこと!」

真っ赤になったまま勢いでそう叫ぶのが限界だった。
億泰の広い背中に顔をうずめる佐天。

億泰「…」

そんな佐天の言葉を聞くも…答えようとしない億泰。

コツ…コツ…コツ…

階段をゆっくりと降りていく億泰の足音が廃ビルに響く。
まるで死刑執行を待つ囚人のように硬直したまま億泰の言葉を待っている佐天。

そして。

億泰「…なんだか…釈然としねぇけどよぉ」

億泰「そう呼ばれたいってなら遠慮無く名前で呼ばせてもらうぜぇ~?」

億泰「それでいいんだよなぁ? 『涙子』ぉ~?」

その言葉と共に廃ビルから足を踏み出す億泰。
思わず顔をあげた佐天の頬を静かな風が撫でた。

594 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/08(金) 19:28:26.87 ID:6H8Ev7q10 [1/10]
533
■廃ビル前

『涙子』
今…たしかに億泰にそう名を呼ばれた。
揺れる佐天の思考。
返事を返さなけれとは思うものの、グルグルと頭の中を駆け巡る感情を言葉にすることができず…

佐天「う、うん……それで…いい」

ボソリとそう呟くことしかできなかった。

立ち止まった億泰と佐天の目の前には専用特殊車両と忙しそうに駆け回るアンチスキルの大人たち。

しばらく、ぼんやりとただなんとなくそれを眺めるだけの億泰と佐天。

吹き抜ける柔らかな風がゆっくり佐天の火照った頬と頭を冷やしたせいだろう。
なんとなく気になっていたことを佐天は口にした。

596 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/08(金) 19:29:56.79 ID:6H8Ev7q10 [2/10]
佐天「…ね、億泰?」

億泰「あん? まだなんかあんのかぁ~?」

佐天「あのさ…アンタってレベルゼロ…無能力者だったんじゃないの?」

佐天の脳裏に蘇るのはスキルアウトの不良どもが吹き飛ばされるシーン。
圧倒的なまでのそのチカラを振るったのは間違いなく億泰だったはず。
しかし、以前見たシステムスキャンの結果表には確かにレベルゼロと記載されていたのだ。

そんな佐天の疑問に珍しく億泰が言いづらそうに答える。

億泰「…あれはなんつーかよぉ… オメーらが言う『超能力』ってぇヤツじゃあねぇんだけどよぉ~…」

597 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/08(金) 19:31:25.72 ID:6H8Ev7q10 [3/10]
困ったように言葉を選ぼうとしている億泰を見て佐天は事情が判らないまま察した。

佐天「……やっぱいいや」

億泰が言いたくないことをわざわざ聞き出す必要もない。
そう佐天は思い質問を無理やり打ち切る。

億泰「お、そっかぁ? 助かるぜぇ~ 説明すんのメンドクセーんだよなぁ~」

佐天のそんな気遣いに気づかずカラカラと笑う億泰だったが、ふと何かを思い出したように佐天に話しかけた。

億泰「そぉーいえばよぉ~ オメーも『超能力』ってやつ使えたんだなぁ~ そうならそうと言えよなぁ~」

そう言いながらしみじみと頷く億泰だったが、それを聞いてポカンと口を開ける佐天。

佐天「…えっ?」

600 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/08(金) 19:34:37.40 ID:6H8Ev7q10 [4/10]
億泰「んだよ、もう忘れちまったんかぁ~? オメーが『お守り』をよぉ飛ばしたんだろぉ~?」

億泰に言われ佐天はじっと自分の手のひらを見つめた。

佐天「…あたしが?」

その瞬間は途切れ途切れにしか思い出せなかったが。
それでも確かに覚えていた。

億泰を助けたいと願い伸ばした手。
その時、確かに指の先がぼんやりと熱くなったことを。

不思議な感触を思い出しながら佐天は独りごちる。

佐天「…そ、そうなのかな?」

自分に言い聞かせるようにそう口にした佐天に億泰が何でもないことのように答える。

601 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/08(金) 19:36:16.28 ID:6H8Ev7q10 [5/10]
億泰「? じゃねえのぉ~? あんなビルん中で都合よく風なんて吹くわきゃねぇーだろフツ~?」

佐天「…あたしに…チカラが?」

そう呟きながら小さな自分の手のひらを見つめ、意識を集中する。
だが手のひらに熱を感じることも、風がそよぐこともなく。

何も。
何も起きなかった。

佐天「……ううん。 きっと億泰の勘違いだよ… だって…あたしはさ…正真正銘のレベルゼロだもん…」

ため息をつきながらそう言って自嘲気味に笑う佐天。
しかし。
そんな佐天の呟きはいとも容易く億泰が否定した。

603 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/08(金) 19:39:51.46 ID:6H8Ev7q10 [6/10]
億泰「…そぉかぁ~? オレはそう思わねぇけどなぁ~?」

そう佐天に言い聞かせるように呟く億泰。

佐天「…ど、どーいうこと?」

『能力』を持っていないという億泰に否定され、混乱する佐天。
そんな佐天の動揺を知ってか知らずか続ける億泰。

億泰「『オレ達』の『能力』っつーのはよぉ……最初は『自分』の身を守りてぇ!とか、あいつをトッチめてやるっ!って思ったときに出てくるんだ」

佐天「う、うん…」

億泰「だからよぉ~ 諦めんなぁまだ早えと思うぜぇ~? ま、オレァ『超能力』っつーのはよくワカンネぇんだけどなぁ~」

佐天「……」

そう言いながら歩き出す億泰。
億泰の背の上で揺られながら佐天の胸の内でじんわりと暖かいナニカが広がった。

604 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/08(金) 19:41:29.65 ID:6H8Ev7q10 [7/10]
佐天「ね。 それってさ……もしかして励ましてくれてるの?」

億泰「あぁ~? 励ますぅ~? オレがただそう思っただけっつーことなんだけどよぉ~」

佐天「…プッ」

相も変わらぬ億泰の間延びした声を聞き、何故か吹き出してしまう佐天。

億泰「? なぁーに笑ってんだオメェ~?」

佐天が急に笑い出した理由が判らずに問いかけてくる億泰。

佐天「ふふっ…なんでもなーい!」

ギュウ

そう言って力を入れすぎないように気をつけながら億泰の首にしがみつく。

佐天(そうだよね…御坂さんだって努力したっていうし…あたしも頑張れば…きっと!)

気がつけば…佐天涙子の心の中に一陣の爽やかな風が吹いていた。




608 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/08(金) 19:52:56.22 ID:6H8Ev7q10 [8/10]
億泰「さぁーてと…オメーの家はどこだよ? メンドクセーしよぉ… オレもとっとと帰りてぇーんだよなぁ~」

そうぼやきながら大通りに足を進める億泰。

佐天「え? あ、あたしのとこの寮はあそこを右に曲がって…」

言われるがままに指をさした佐天だったが、ふと大事なことに気がつく。

佐天「あ! ああぁ!!」

億泰「うおっ! うるっせぇーなぁ~? オメェはオレの耳の鼓膜を破りたいっつーのかぁ~?」

またもや耳元で大声をだされ、そう毒づく億泰。
しかし佐天はそんな億泰の文句など全然気にすることもなかった。

612 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/08(金) 20:03:29.70 ID:6H8Ev7q10 [9/10]
佐天「そういえば億泰! ア、アンタさぁ! さっきから何回もあたしのこと『オメー』って言ってない!?」

億泰「あぁ~? 『重ぇ』? 確かにそう言われるとなぁ… だんだん重くなってきた気がしなくもねぇなぁ~…」

佐天「ちっ! 違うって! そういう意味の『オメェ』じゃなくって!」

億泰「はぁ? 『重ぇ』以外になにがあるっつーんだぁ~?」

佐天「なっ! 重い重い連呼すんなぁ~! ってそうじゃなくって! …あーもー!」

ガクガクと億泰の首を揺する佐天。

億泰「ゲフッ! おいオメェ!首しめるんじゃねえって何回言やぁわかるんだよぉ!」

佐天「うっうるさーい! アッアンタもさぁ! ちょっとくらいドギマギするべきなんじゃないのぉー!?」

ペチポコと億泰の頭を叩こうとする佐天、うっとおしそうにそれを避ける億泰。
学園都市の街中に響きはじめる佐天と億泰の口喧嘩。

佐天涙子の腕に通された小さな『お守り』が静かに風に吹かれた。

646 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/08(金) 21:41:44.33 ID:oCVeLv0R0 [1/20]

■柵川中学学生寮・佐天涙子の部屋

億泰に背負われたまま、自室まで送ってもらった佐天。
こちらが満足に礼を言う暇も与えずに学園都市の人ごみに消えていった億泰の後ろ姿をぼんやりと思い返しながら学ランを脱ぐ。
結果的に預かることとなった学ランをハンガーを通し、壁にかけ、洋服に着替えベッドに倒れ込む佐天。

枕に顔をうずめたままポツリと呟いた。

佐天「……『涙子』だってさ」

…パタリと足が布団の上で動いた。

佐天「……ヌフフ」

ニヤニヤと笑いながらベッドの上でパタパタと足を動かす佐天。
その時、佐天の耳にガチャリと自室のドアが開く音が飛び込んできた。

647 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/08(金) 21:46:58.18 ID:oCVeLv0R0 [2/20]
初春「さっ佐天さん! だっ大丈夫ですかっ!?」

佐天「初春…」

転がるように佐天の部屋に飛び込んできたのは初春飾利。
ジャッジメント支部でアンチスキルに出動を依頼し、ジリジリとモニターの前でその後の連絡を待っていた。
その後、病院から黒子の連絡をうけスキルアウトが全員拘束されたと知った初春は居ても立ってもいられず支部を飛び出したのだ。

ゼェゼェと息を切らし、もはや足元がフラフラの初春飾利。
そんな初春を見た佐天がゆらりと立ち上がり…そして初春の胸に向かって飛び込んだ。

佐天「ういはるぅー!!」

力いっぱい初春を抱きしめる佐天。

初春「わわ!! どっどうしたんですか佐天さん?」

突然胸の中に飛び込んできた佐天の行動に戸惑いながらもそう問う初春。
そんな初春に佐天は心の底から懺悔する。

佐天「ゴメン初春… あたし泣き言いってたよね…」

初春「えっと… 昨夜のこと…ですか?」

昨晩、初春の部屋で佐天が口にした言葉。

649 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/08(金) 21:48:49.21 ID:oCVeLv0R0 [3/20]
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「今のあたしって無能力者じゃない?」
「それってさ…学園都市にいる意味がないと思うんだ」
「欲しいなぁ。 力。 自分に自信をもてるような力が…」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

佐天涙子は確かにそう口にした。
誰も解決できない自分だけの問題を一番の親友に愚痴ったのだ。

佐天「ゴメン。 あたしね…間違えるとこだった」

初春「佐天さん?」

佐天「つまんないことにこだわって…ズルしてチカラを…手に入れようとしてたんだ」

佐天の脳裏に蘇るあの男の言葉。

650 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/08(金) 21:51:03.66 ID:oCVeLv0R0 [4/20]
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【『罪』ってのはよぉ~… そうなるようなことをしてりゃあよぉ~ …どっかから廻り廻って『罰』がやってくるんだ…】

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


佐天「あたし…もう少しでさ。 能力なんかより大切なモノを…無くしてたかもしれなかったんだ」

佐天「だから… だからさ… ほんとーにありがとね」

そう言って初春を抱きしめる佐天。

初春「えっと…よく判んないですけど… でも…佐天さんが元気になったのならなによりですよ」

そう言って柔らかく笑う初春飾利。

佐天「うぅ…初春はほんとにいい女だよぉ~」

グリグリと初春に頬を摺り寄せながらそう呟く佐天。

そんな佐天の言葉を聞いて突然初春が吹き出した。

652 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/08(金) 21:52:14.29 ID:oCVeLv0R0 [5/20]
初春「フフッ」

佐天「ん? どしたの?」

初春「いえ…今の口調がなんだか虹村さんみたいでおかしくて」

そう言ってクスクスと笑う初春。

佐天「え? い、いやそれはっ! えっとあの…」

思わぬことを初春に指摘されてアタフタとする佐天。
そんな佐天をおかしそうに見ていた初春がふと気付いた。

初春「佐天さん…アレって?」

初春の視線の先には壁にかかっている億泰の学ラン。

佐天「あ、あれは…」

ゴニョゴニョと恥ずかしげに呟く佐天を尻目に、真剣な顔をした初春がその学ランを手にとる。

653 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/08(金) 21:54:34.59 ID:oCVeLv0R0 [6/20]
初春「…これ虹村さんの制服…ですよね?」

佐天「う、初春?」

真面目な初春を見て佐天がおそるおそる親友の名前を呼ぶ。

初春「佐天さんっ!」

佐天「わっ! なっなに? 初春?」

初春「ほんっとぉーにっ! 何処にも怪我は無いんですか!?」

泣きそうな顔でそう佐天に問い詰める初春飾利。

佐天「怪我? いや、あたしは全然? っていうかどうしたの?」

訳がわからず怪訝な顔をする佐天に向かい、初春が学ランを握っていた手をひろげた。

佐天「!?」

初春の手にベットリとこびりついているのは赤黒い液体。

初春「じゃ、じゃあ! この血は!?」

655 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/08(金) 22:07:19.51 ID:oCVeLv0R0 [7/20]
佐天「……嘘」

ボソリと呟く佐天。

…何故気づかなかったのだろうか?
スキルアウトの一人が投げたナイフが億泰の肩を切り裂いたのを佐天はその目で見ていたはずだった。

だというのに。
自分はそんな怪我を負っている億泰におんぶをせがみ、背中の上で暴れた。

想像を絶する体験をした佐天がそのことに気づかなかったのも無理はない。
薄暗いビルの中だったというのもあっただろう。

しかし、佐天は億泰が負った傷に最後まで気付くことが出来なかった。

佐天「……だって 全然痛がってる素振りもなくて…」

661 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/08(金) 22:15:35.96 ID:oCVeLv0R0 [8/20]
うつろな目をした佐天の頬がペチンと音をたてた。

佐天「…いひゃい」

佐天の頬を両手で挟み込んだのは真剣な顔をした初春飾利だった。

初春「佐天さん! 悩んでたってしょうがないです!」

佐天「ういはる…!?」

初春「今の私達にできることは何も無いかもしれません! でもっ!」

初春「明日があるんです! 私達だけじゃなくて! 白井さんだって! 虹村さんだって!」

佐天「…初春」

初春「明日一緒にジャッジメントの支部に行きましょう! もし明日虹村さんが来ないなら…」

670 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/08(金) 22:27:37.26 ID:oCVeLv0R0 [10/20]
初春「私が書庫(バンク)から情報抜き取っちゃいます! そして一緒にお見舞いに行きましょう!」

佐天「…」

初春「今の私達に出来ることはそれしかない…違いますか? 佐天さん!」

初春の言葉を聞き、佐天がゆっくりと顔をあげた。

佐天「…そう…だよね。 グジグジしててもはじまらないよね…」

初春「そうですよ! いじけちゃった佐天さんなんて佐天さんらしくないです!」

断言する初春飾利を見て佐天が安心したように呟く。

佐天「…言うじゃない 初春の癖に」

初春「エヘヘ…何たって佐天さんの親友ですからね!」

薄い胸を張りながら佐天の呟きに答える初春。

初春「そうと決まったなら…私達がすることは一つですよ佐天さん!」

佐天「…そだね。 私達まで辛そうな顔してたら…白井さんや億…アイツだって困っちゃうもんね!」

初春「そうです! この学生服は私がクリーニングに出しておきますから…佐天さんは早く休んじゃってください!」

佐天「うん…よーっし! 寝るぞー!」

674 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/08(金) 22:37:47.31 ID:oCVeLv0R0 [11/20]
■翌日・風紀委員第一七七支部

佐天「……来ない」

初春「来ませんねー」

椅子にまたがりブラブラと足を揺らしながらドアを見つめる佐天と初春。

  「……お二方?」

背後から険しい声がかかる。
だが。

佐天「やっぱ休んでる…のかな?」

初春「かもしれません… 昨夜男性の学生を収容した病院は無いみたいなので…」

佐天と初春はその声を完全に無視していた。

黒子「まったくいつまでボンヤリしてるんですの! 佐天さんはともかく初春! あなたは仕事が山ほどあるはずですわよ!」

堪忍袋の緒が切れたように白井黒子が二人を叱りつけた。

677 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/08(金) 22:45:56.62 ID:oCVeLv0R0 [12/20]
初春「はっはいぃ!」

条件反射的に背筋を伸ばしキーボードに向かう初春。

黒子「ボヤボヤしてたら何時まで経ってもこの事件は解決しませんですわよ? まったくもう…」

ブツブツ言いながら書類をめくる黒子を見て、佐天が呆れたように呟いた。

佐天「白井さんって……タフですよねー」

ペラリと書類をめくりながら黒子が答える。

黒子「わたくし、麻痺には慣れてますもの」

佐天「そ、そんな問題!?」

黒子「…冗談ですわ。 今、こうしてここにいられるのは…あの男たちが使った薬品が即効性を重視したものだったからに過ぎませんわ」

そう言いながら更にページを捲る黒子。

黒子「レベルアッパーもですが…スキルアウトの無法な暴力の取締りも改めなければならないことを痛感しましたわ…」

トントンと書類の端を机で揃えながら続ける黒子。

黒子「……ところで。 さっきからなにをそんなにドアを気にしてるんですの?」

679 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/08(金) 22:54:21.05 ID:oCVeLv0R0 [13/20]
黒子「……虹村さんが? 重傷?」

目を丸くする黒子。

佐天「えっと…重傷かどうかはまだ判らないんですけど…」

初春「虹村さんが来なかったらお見舞いに行こうって昨夜二人で話してですね…」

そう口々に説明する初春と佐天だったが、ピシャリとした黒子の一言で遮られる。

黒子「何を言ってるんですの!」

佐天「だっだって…」

初春「そんな…放っておけって言うんですか?」

思わず反論しようとする佐天と初春。
だが。

黒子「何を悠長に待ってるんですの! 初春! さっさと書庫(バンク)にアクセスして情報をプリントなさい! 『三人分』ですのよ!」

返ってきたのは予想を超えた黒子の指示だった。

682 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/08(金) 23:03:03.43 ID:oCVeLv0R0 [14/20]
呆気にとられた初春が思わず黒子に質問をする。

初春「…い、いいんですか? 風紀委員でも個人情報を検索するには許可が必要だって…」

黒子「非常事態になりかねませんのよ! そんなこと言ってる場合ではありません! さっさとなさい!」

初春「はっはいっ!」

パソコンに向かい豪雨のような音を鳴らしながらいくつものコンソールを操作しだす初春。

黒子「佐天さん!」

佐天「…はっはい!」

思わず背筋を伸ばし返事をする佐天。

黒子「虹村さんへのお見舞い品などは用意してますの?」

佐天「えっ? いえ、お見舞いっていうか…借りた学生服をクリーニングしただけですけど…」

黒子「わかりましたわ! すぐにでも出発するつもりですし、忘れないようにしてくださいですの!」

初春「プリント、終わりました!」

黒子の大きな声に負けじと叫ぶ初春の声。

手渡されたのは排出されたときの熱を保ったままのコピー用紙。

黒子「さぁ! 行きますわよ!」

687 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/08(金) 23:10:04.77 ID:oCVeLv0R0 [15/20]
■第7学区・とある学生寮

黒子「ここで…間違いはないのですわね」

目の前のドアを見て黒子がそう問いかける。

初春「はい! 虹村さんの住居は間違いなくここです!」

佐天「…」ゴクリ

思わず唾を飲み込む佐天。
三人の少女たちの前には物言わぬ無機質な金属のドアが立ちふさがっていた。

黒子「………『押し』ます…わよ?」

インターホンに手を伸ばしたまま、そう確認をとる黒子。

初春「は、はい……『押しちゃって』…ください…」

佐天「お、お願い……します…」

不思議な緊張感が場を支配し、震える指で黒子はインターホンを…

押した。

695 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/08(金) 23:18:18.39 ID:oCVeLv0R0 [16/20]
ドアの向こうで鳴り響くチャイム音の残滓。

立ちすくむ三人の少女。
誰も口を開くこともなく、静まり返った数十秒が経過した。

佐天「出て…」

初春「きませんね…」

心配そうに呟く佐天と初春。
しかし。

黒子「…もう! 何をモタモタしてるんですの!」

逆に白井黒子はヒートアップ。 ドアホンをカチカチと連打しはじめた。

黒子「意識不明なら意識不明ってちゃんと言ってから倒れるべきじゃないですの!」

なんとも無茶苦茶なことを言いながら連打する黒子。

そんな黒子に自業自得ともいえる不幸が訪れた。

696 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/08(金) 23:26:51.66 ID:oCVeLv0R0 [17/20]
  「さっきからピンポンピンポンウルっせぇんだよぉ~!!!」

内側から蹴り破られるようにして開く金属のドア。
ドアに備え付けられているチャイムを連打していた黒子がそれを避けられるはずもなく。

黒子「プギャッ!」

盛大な音を立てて黒子の顔面にドアが直撃した。

億泰「ったくよぉ~! 人がグッスリ眠ってるのを邪魔しやがってよぉ~! 覚悟はできてんだろぉ~なぁ~!?」

声を荒らげる億泰だったが。

億泰「…あぁ? なんだぁ? なんでオメーらがいんだぁ~?」

目の前にいるのが見覚えのある少女だということに気付き不思議そうに首をひねった。

697 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/08(金) 23:34:47.32 ID:oCVeLv0R0 [18/20]
■とある学生寮・虹村億泰の部屋

見舞いに来たと告げる三人の少女を一瞥する億泰。

億泰「ふぅ~ん… まぁ、なんにもねぇ~とこだけどよぉ~ あがりたいならあがれよなぁ~」

そう言いながら一人自室の奥へと引っ込む億泰。

佐天「おっ…お邪魔しまーす」

初春「しっ白井さんっ? 大丈夫ですか?」

黒子「アイタタ…も、問題ありませんわ」

キョロキョロとあたりを見回しながら部屋の中に入っていく佐天。
涙目で顔をおさえる黒子を支えながら初春も佐天の後に続く。

たった数歩で踏破してしまう短い廊下を抜けた少女たちの目に飛び込んできたもの。

743 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/09(土) 01:25:45.11 ID:sb+ySHCP0 [1/23]

佐天「うわぁ…なんにも無い」

初春「…見事なほどに殺風景な部屋ですねー」

黒子「ゴミに埋もれてるよりはまだマシといったレベルですの」

目の前に広がるのは元から部屋に備え付けられている僅かな家具のみだった。
生活味の無い部屋に思わず呟く三人の少女たち。

億泰「あぁ~? 仕方ねぇ~だろぉ~? 突然こっちぃ来るよう言われたんだしよぉ~」

そうボヤきながらガシガシと頭をかく億泰。

男の一人暮らしの部屋ということで些か緊張し、胸を踊らせていた佐天と初春は肩すかしをうけたようにガックリと気落ちする。

億泰「…ンでよぉ~ いったい何の用なんだよぉ~?」

しかし気落ちしていたのも束の間、訝しげな億泰の声に自分たちが来た目的を思い出す。

佐天「そっそうだっ!」

初春「虹村さん! 服を脱いでください!」

まずは説明をしようとする佐天と、説明をスッ飛ばして事実の確認をしようとする初春。

746 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/09(土) 01:29:34.70 ID:sb+ySHCP0 [2/23]
億泰「はぁ~? …熱でもあんのかぁ~?」

いきなり服を脱げと言われ怪訝そうな顔をする億泰。

そんな億泰の背後に立つのは揺れるツインテール。
ひたりと億泰のシャツの上に手を置くやいなや

黒子「つべこべつべこべうるさいですの! 傷がどの程度か確認するだけですのよ!」

黒子が怒鳴った。

空間移動、テレポートと呼ばれるそれは触れたものを転移させることができる極めて得意な能力である。
白井黒子がその能力を発動した瞬間、億泰のシャツが空中に舞った。

億泰「おおっ!?」

瞬間、自身の身体にひやりと外気が触れ、驚きの声をあげる億泰。
しかし、服を剥がれ上半身が裸になった億泰よりも、さらに驚いたのは三人の少女たちだった。

747 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/09(土) 01:30:48.82 ID:sb+ySHCP0 [3/23]
佐天「…なっ何それ!?」

初春「何考えてるんですか虹村さんっ!」

黒子「どこからどう見てもガムテープじゃないですの!」

引き締まった上半身の肩口には適当に切ったであろうガムテープがベタベタと不細工に貼りつけられていたのだ。

億泰「なっ何だ何だぁ~?」

大声をあげた少女たちに反応して後ずさる億泰だったが…その肩をガシッと掴まれた。

黒子「『何だぁ~』じゃありませんのよ!」

億泰の肩を掴んだのは背後にいた黒子。
そのままベリィッとガムテープを剥ぎ取る。

749 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/09(土) 01:32:42.07 ID:sb+ySHCP0 [4/23]
億泰「おっおい! 何だかワカンネェーがもうちょい丁寧にやってくれよなぁ~!?」

億泰「オレァこう見えてデリケートでよぉ~!」

そう主張する億泰だったが、その主張が聞き入れられることはなかった。

黒子「こんなズサンな治療をしている貴方に丁寧なんて言葉はいりませんの! 初春っ!」

億泰が動かないようにしっかりと肩を掴んだまま頼れる仲間に声を飛ばす。

初春「はいっ!」

黒子の答えに間髪入れず返事を返す初春。

初春「……よかったぁー 只の浅い裂傷ですねー」

傷口を検分した初春がホッとした声をあげる。
そして、ニュルンとチューブから塗り薬を手に取り…そのまま億泰の肩に手を当てた。

億泰「オッ! オオッ!? オオオッ!?」

ビクビクと悶える億泰。

755 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/09(土) 01:35:03.84 ID:sb+ySHCP0 [5/23]
初春「ハ―――イ ちょっと沁みますけど動いちゃダメですよー」

ホンワカとした口調とは正反対の力強さで億泰の傷口に薬を塗りこみはじめる初春。

億泰「オオウッ! ダメッ! 沁みるっ! 沁みすぎるぅ~ッ!!」

初春「ダイジョブですよー すぐに終わりますからねー」

数分後、そこにはグッタリとした億泰の姿が!

佐天「なんで悶えるのよ……気持ち悪ぅ~」

ゲーと舌を出しながら億泰に文句を言う佐天。
だが。

初春「あ、あれ? 腕が… すいません佐天さん~。 ちょっと手伝ってくださいー」

初春の協力を求める声に気付き硬直した。

756 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/09(土) 01:38:02.72 ID:sb+ySHCP0 [6/23]
なんかスマン
制速よく知らないから、あとで意見を聞くとしてとりあえずは終わらさせてもらってもいいかな?

761 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/09(土) 01:43:04.38 ID:sb+ySHCP0 [7/23]
佐天「…え」

佐天の目に飛び込んできたのは億泰の両脇の下から飛び出ている初春の手。

初春「ほ、包帯を巻こうとしたんですけど…むぎゅ」

億泰が少し身動きをしただけで背中に顔を潰され鼻声をあげる初春。

佐天「…ど、どうやって?」

初春「ど、どうやってもなにも… ぷぎゅ 私が持っている包帯を私の反対側に渡してくれれば… ふぎゅ」

何とかして億泰の胴に手を回そうとする初春だったが、それは億泰の背中に顔を押し付けるだけに留まっていた。

佐天「え、えええ!?」

初春が求めている自分の取るべき行動を察して真っ赤になる佐天。

763 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/09(土) 01:51:45.80 ID:sb+ySHCP0 [8/23]
佐天「そ、それって…」

上半身裸になった億泰の前で初春と一緒に包帯を巻くということ。

佐天「いや…いやいやいや!」

ブンブンと顔を振り、助けを求めるように黒子を仰ぎ見る佐天。

佐天「し、白井さん!」

だが、そんな佐天の助けを求める声は無情にも拒否された。

黒子「お、お断りですの!」

無理やり立ち上がろうとする億泰を全力で押しとどめながら黒子が鼻息荒く答える。

黒子「今わたくしが手を離せばもう治療は不可能ですの!」

プルプルと震える腕を隠そうともせずに黒子が続ける。

765 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/09(土) 01:56:23.54 ID:sb+ySHCP0 [9/23]
黒子「だいたい殿方の裸に触れているというだけでお姉様への愛に対する重大な裏切り行為ですの!」

ヨヨヨと泣き崩れるような顔をしながら畳み掛けるように続ける黒子。

黒子「佐天さん! わたくしを助けると思って早くしてくださいですの!」

佐天「そ、そんなぁ…」

泣き笑いのような顔をする佐天に、初春の声がかかる。

初春「佐天さん! むぎゅ 昨日言いましたよね! ぷぎゅ 私達には明日があるって!」

佐天「う、初春ぅ…」

億泰の背中に顔をうずめながらも初春が叫ぶ。

初春「今です佐天さん! ふぎゅ 『明日って今さ!』」



後に白井黒子はこっそりとこう語った。

「真っ赤な顔のまま虹村さんの前に正座して、粛々と包帯を巻いていた佐天さんの恥じらった顔は見物でしたの」

「あぁ、一度でいいからわたくしもあのように恥じらうお姉様を拝みたいものですわ」

――と。

766 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/09(土) 02:04:47.15 ID:sb+ySHCP0 [10/23]
億泰「お? おお! おおおっ!」

グルグルと肩を回しながら億泰が驚く。

億泰「ほぉ~っ! こいつぁズイブンと楽になるもんなんだなぁ~! ありがとよぉ~」

笑いながらそう礼を言う億泰だったが…

佐天「…い、いいからさ。 その…服…着てよ…」

真っ赤になって俯く佐天。

初春「あうう… 白井さーん… 私の鼻低くなってませんかー?」

鼻を抑えながら泣き言をこぼす初春。

黒子「…や、病み上がりにはキツすぎですの… いろんな意味で…」

だらりと脱力しベッドの上で横になっている黒子。

三者三様の疲弊しきった少女たちは返事をする気力すら無かった。

771 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/09(土) 02:14:24.06 ID:sb+ySHCP0 [11/23]
少女たちが一息をつくのを見計らって億泰が口を開く。

億泰「…ところでよぉ~ 昨日の奴らのことなんだけどなぁ~」

先ほどとは打って変わって真剣な億泰の口調に緊張する少女たち。

億泰「…あいつらぁ一体よぉ… なんなんだぁ~?」

そう問いかける億泰に返事を返したのは黒子だった。

黒子「…彼等はスキルアウトと呼ばれてますわ。 いわば…無能力者の落ちこぼれ達が武装した不良集団といったところですの」

淡々と事実を口にする黒子。

億泰「……そいつぁわかった。 けどよぉ…」

そう言って口ごもる億泰。

772 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/09(土) 02:16:51.36 ID:sb+ySHCP0 [12/23]
黒子「どうしてあのような場所にわたくしたちがいたか? ですの?」

億泰「そうそう。 それだよ。 オレにゃあどぉーにもそこんところが判らなくてなぁ~」

そう言って首をひねる億泰。

黒子「それは…言葉にしづらいのですが…」

チラリと気遣うように佐天を見る黒子。
ただ嫌な予感を感じたとしか言えないのだ。
そんな黒子をフォローするように佐天が口を開いた。

佐天「えっと…あたしがさ…トラブルに首を突っ込んじゃったせい…なんだよね」

そう言ってテヘヘと笑ってみせる佐天。

778 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/09(土) 02:26:55.42 ID:sb+ySHCP0 [13/23]
そんな佐天の顔を見て、何かを考え込む億泰。
静かになってしまった空気をなんとか払拭しようと黒子が慌てたように言葉を紡ぐ。

黒子「ですが虹村さん? 貴方がなさってくれた協力は…本当の本当に感謝していますの」

黒子「そして…無関係の貴方を巻き込んでしまい、申し訳ないとも思っていますの」

そう粛々と告げる黒子。
しかし、その黒子の言葉も事もなげに流さしてしまう億泰。

億泰「あ? いや…そいつは別にイイんだけどなぁ~」

そんな億泰の態度に少しムットしたまま黒子が問い返す。

黒子「では…さっきから何を考え込んでらっしゃいますの?」

億泰「いや…なんつーかよぉ~」

そう言ってゆっくりと言葉を選ぶ億泰。

782 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/09(土) 02:37:00.78 ID:sb+ySHCP0 [14/23]
億泰「学園都市つってもよォ~… 思ったよりかはアブねえんだなぁ~… ってなぁ~」

そう億泰が呟き、痛いところを突かれたかのように黒子と初春の顔がゆがむ。

黒子「それは…」

初春「たっ確かに! 虹村さんの言いたいこともわかりますけど!」

億泰の言葉に何故かムキになって反論をする初春。
理由は判らない。
しかし億泰に自分たちジャッジメントの頑張りを不当に低く評価されるのは嫌だった。

初春「私達だって一生懸命事件の捜査をしてるんですよ? レベルアッパーや第十学区の件だってあと少しで!」

黒子「…初春」

ジャッジメントの捜査内容を漏らしそうになった初春を静かに諌める黒子。

初春「あっ… と、とにかく…今よりももっと安全な街にするために私達だって頑張ってるんです」

そう胸の内を吐露して下を見つめてしまう初春。
そして…初春の告白を聞いた佐天が何か決心したような目をしてポケットの中をまさぐった。

コトリと小さな音をたてて床の上置かれたのは小さな音楽プレイヤー。

784 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/09(土) 02:42:59.77 ID:sb+ySHCP0 [15/23]
佐天「……これ…レベルアッパー…です」

その佐天の告白を聞いて、初春と黒子が飛び上がるようにして驚いた。

初春「えっ!?」

黒子「現物…ですの!?」

黒子の言葉にコクリと頷く佐天。

佐天「手に入れたのはつい最近で…だからあたしのパソコンのキャッシュの中にはきっとまだそのDLしたサイトのアドレスも残っているはずです」

そう言って黒子に音楽プレイヤーを差し出す佐天だったが…

黒子「…さ、佐天さん?」

プルプルと拳を震わせる黒子はそれを受け取ろうとはしなかった。

佐天「……はい。 覚悟は…できてます」

怒られると思い、下を向き、唇を噛み締めた佐天の両手がものすごい勢いで掴まれた。

佐天「え?」

787 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/09(土) 02:52:42.25 ID:sb+ySHCP0 [16/23]
黒子「お手柄ですわ! 大手柄ですわ! よくもまぁ教えてくださったですの!!!」

ブンブンと上下に振られる腕。

佐天「え、ええ!?」

てっきり怒られると思っていた佐天は目の前で満面の笑みを浮かべる黒子の変わり様についていけなかった。
目を丸くした佐天に初春が補足する。

初春「レベルアッパーについては…正直お手上げ状態だったんですよー」

初春「ネットの書き込みではまことしやかに囁かれてはいたものの…真偽がつかめなくてですねー」

初春「それこそ違法な取引をしているスキルアウトに乗り込もう! って白井さんが言ってたくらいだったんですー」

そう言って嬉しそうに笑う初春。

黒子「し・か・も! 唯一レベルアッパーを取り扱っていると謳っていたスキルアウトは『昨日』全員再起不能の重傷になりまして!」

黒子「あのような外道には当然の報いなのですけども困っていたのも事実ですの!」

初春の言葉に続けてそう喜ぶ黒子。

佐天「へ? 昨日?」

呆気にとられる佐天。

790 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/09(土) 03:02:05.16 ID:sb+ySHCP0 [17/23]
黒子「ええ! これこそ天の恵みですの! さっそくこのプレイヤーからデータを解析して木山先生に調査を依頼してホームページから配布先を特定して…あぁもうやることが山積みで嫌になりますの!」

そう毒づきながらも嬉しそうな黒子。

佐天「えっと……お咎め…なし?」

おそるおそるそう尋ねる佐天だったが。

黒子「お咎めも何も! むしろ二階級特進ですのよ!」

初春「白井さーん それじゃあ死んじゃってますよー」

そう困ったように笑う初春。
喜ぶ黒子と初春を見て、ふっと佐天の頬に笑みが浮かぶ。

佐天(…なんだ…一緒だったんだ)

佐天(…あたしと同じ中学生で…あたしと同じ年齢で…あたしと同じ女の子だったんだ)

佐天(違う世界に住んでる筈がない… 同じ世界に住んでいたんだ…)

そう独りごちる佐天に億泰の声がかかった。

794 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/09(土) 03:14:17.90 ID:sb+ySHCP0 [18/23]
億泰「何だか知らねぇけどよぉ……良かったんじゃあねぇかぁ~?」

そう億泰に問われ、静かに頷く佐天。
億泰の目を見つめながら素直に答えることができた。

佐天「…うん きっとこれが正解だったんだと…あたしもそう思う」

そう静かに言い切った佐天を見た黒子と初春の動きが止まる。

黒子「…佐天さん? …貴方…もしやとは思いますけども…」

初春「さ、佐天さん? ……なんですか? 今の雰囲気?」

佐天「へ?」

黒子「こう…心と心が通じ合ってるといいますか…」

初春「熟練のサッカー選手みたいにアイコンタクトで会話をしたというか…」

佐天「え、えええええ!?」

言いたいことを察した佐天の頬が真っ赤に染まる。
そんな佐天を見た億泰のデリカシーのない一言。

億泰「…おめぇーはよぉ~ …オレの前だけじゃあなくて白井や初春の前でも真っ赤になるけどよぉ~ そいつぁ癖かなんかかぁ? 『涙子』ぉ~?」

799 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/09(土) 03:24:54.28 ID:sb+ySHCP0 [19/23]
佐天「な゛っ!」

黒子「んまっ!」

初春「わわっ!」


硬直する佐天、ニンマリと笑う黒子、ポカンと口をあけて驚く初春。
次の瞬間にはキャーキャーという甲高い叫び声が学生寮に響きわたり、近隣の住人に多大な迷惑をかけたのは言うまでもない。




そして


ジャッジメント・白井黒子の手元には二枚のカードが残ることとなった。
一枚のカードは幻想御手・通称「レベルアッパー」

そして残ったもう一枚のカード。
それは億泰が叩きのめしたスキルアウトが口にした第10学区エリアG・通称「ストレンジ」

二枚のカードはフラフラと風に吹かれ、不安定に揺れている。
表が出るのはどちらのカードか。
それはまだ謎のままである


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