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ボーイ・ミーツ・トンデモ発射場ガール prologue 03: レベル4の先達に師事する決心
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meteor089
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ボーイ・ミーツ・トンデモ発射場ガール prologue 03: レベル4の先達に師事する決心
[19764] prologue 03: レベル4の先達に師事する決心
Name: nubewo◆7cd982ae ID:a8d5efc6
Date: 2010/09/10 21:27
「婚后さん! あたしに空力使い(エアロハンド)の極意、教えてくださいっ!」
Name: nubewo◆7cd982ae ID:a8d5efc6
Date: 2010/09/10 21:27
「婚后さん! あたしに空力使い(エアロハンド)の極意、教えてくださいっ!」
どんな心境の変化だったろう。
彼女では足元にも及ばぬような高位の能力者。
それも低レベルの自分をいかにも見下していそうな高飛車なお嬢様。
自分らしくない嫌な気持ちが湧いて出るからと、彼女は婚后光子とは距離をとっていたのに。
彼女では足元にも及ばぬような高位の能力者。
それも低レベルの自分をいかにも見下していそうな高飛車なお嬢様。
自分らしくない嫌な気持ちが湧いて出るからと、彼女は婚后光子とは距離をとっていたのに。
当麻と待ち合わせをした、学舎の園と普通の区域の境目にて。
時計は無粋だから持ち歩いていない。
携帯電話にはもちろん時刻が表示されているだろうが、それに光子が気づいたことはない。
周りに同じような子女が多い環境で育ったからか、周囲を見回せば大概は大時計や花時計が見つかるのだった。
待ち合わせまでまだいくらか時間がある。
少し離れた位置にある時計から視線を戻すと、向こうも遊ぶ気だったのだろうか、小綺麗な花を髪飾りに生けた少女と、ごく普通の花飾りで長い髪を留めた少女が歩いてくるのが見えた。
彼女達とは、つい先日の水着撮影のときに知り合った。
白井黒子の友人らしい。
お互い顔は見知っているものの名前を光子は把握しておらず、簡単な挨拶と名前を互いに教えあったところで、
時計は無粋だから持ち歩いていない。
携帯電話にはもちろん時刻が表示されているだろうが、それに光子が気づいたことはない。
周りに同じような子女が多い環境で育ったからか、周囲を見回せば大概は大時計や花時計が見つかるのだった。
待ち合わせまでまだいくらか時間がある。
少し離れた位置にある時計から視線を戻すと、向こうも遊ぶ気だったのだろうか、小綺麗な花を髪飾りに生けた少女と、ごく普通の花飾りで長い髪を留めた少女が歩いてくるのが見えた。
彼女達とは、つい先日の水着撮影のときに知り合った。
白井黒子の友人らしい。
お互い顔は見知っているものの名前を光子は把握しておらず、簡単な挨拶と名前を互いに教えあったところで、
いきなりあんなお願いが飛んできたのだった。
「え、ちょっと、お待ちになって。一体全体唐突になんですの? 藪から蛇でも出てきそうですわね」
「それを言うなら藪から棒に、ですよ。にしても、佐天さん一体どうしたんですか?」
「それを言うなら藪から棒に、ですよ。にしても、佐天さん一体どうしたんですか?」
初春にとっても寝耳に水だったのだろう。
友人の意図を量りかねているようだった。
友人の意図を量りかねているようだった。
「え、いやあ。アハハ」
いきなり指摘を受けて佐天は視線をさまよわせ、しかしそれでもはぐらかしたりはしなかった。
「あたしの能力、一応空力使いなんです。あ、全然大したことないですけど。それで、伸びない自分から逃げないで、ちゃんと向き合いたいって最近思うことがあったんですよ。知り合いにレベル4の同系統の能力者の人がいるなんてすっごくラッキーな偶然じゃないですか。もちろんご迷惑になるでしょうからそんなに教えてもらえないかもしれないですけど、アドバイスとかもらえたら嬉しいなーって」
光子がどう思うか、それは初春には分からなかった。
しかし佐天の自分を茶化したような態度の裏に、いつになく真剣な思いが潜んでいることに初春は気づいていた。
佐天はそこで言葉を切って、真面目な顔で頭を下げた。
しかし佐天の自分を茶化したような態度の裏に、いつになく真剣な思いが潜んでいることに初春は気づいていた。
佐天はそこで言葉を切って、真面目な顔で頭を下げた。
「あの、お願い、出来ないでしょうか」
光子はじっとその姿を見つめた。
目の前の少女は、直接話したことはほとんどないが、明るくて物事をあまり深く考えていなさそうな子だとしか認識していなかった。
目の前の少女は、直接話したことはほとんどないが、明るくて物事をあまり深く考えていなさそうな子だとしか認識していなかった。
「佐天さん、だったわね」
「あ、はい。佐天……佐天涙子って言います」
「可愛いお名前ね」
「はあ」
「あ、はい。佐天……佐天涙子って言います」
「可愛いお名前ね」
「はあ」
佐天は肩透かしを食らって気の無い返事をした。
「もし、軽い気持ちでアドバイスを貰いたいのなら、お断りするわ。能力の伸ばし方なんてそれこそ人によって違うのだから、簡単な助言が欲しいのなら学校で先生に聞いたほうがずっといいわ。私は先生ではありませんから、あなたにとって良くないアドバイスをするかも知れませんし」
それは事実だったし、興味本位にアドバイスが欲しいという程度の安っぽい仕事を引き受ける気は光子にはなかった。
試されているのを感じたのか、佐天は姿勢をキュッと正し、
試されているのを感じたのか、佐天は姿勢をキュッと正し、
「あの、答えになってないんですけど、婚后さんは自分のこと、天才だって思ってますか?」
「ええ、勿論。あんなふうに世界を解釈し、力を発現できるのは世界でただ1人、私だけですもの」
「ええ、勿論。あんなふうに世界を解釈し、力を発現できるのは世界でただ1人、私だけですもの」
即答だった。
そして、佐天の返事を聞くより先に言葉を繋いだ。
そして、佐天の返事を聞くより先に言葉を繋いだ。
「でも、努力ならいつだってしていましたわ。そして一切努力をせずにレベル5になれるような人だけを天才というのなら、私は天才ではありませんわね」
その言葉の意味を理解するようにほんの少しの間、佐天は返事をするのに時間をあけた。
「私も、この学園都市に来たからには自分だけの力が欲しくて、でも学校の授業を聞いても、グランドを走っても、能力が身につく気がどうしてもしないんです。それが一番の近道なのかもしれないけど、それも信じられなくて……。だから、努力をして力を身につけた人の言葉が欲しいんです。婚后さんが、学校の授業を真面目に受けるのが一番だって言うなら、それを信じます。いままでよりもっとがむしゃらにやります。だから……」
ふ、と光子は自分の昔を思い出して笑った。
それは低レベル能力者が誰しもが感じる悩みだ。
かつて自分もそれを抱えていた人間として佐天の思いをほろ苦く感じながら、言葉に詰まった佐天に助け舟を出した。
それは低レベル能力者が誰しもが感じる悩みだ。
かつて自分もそれを抱えていた人間として佐天の思いをほろ苦く感じながら、言葉に詰まった佐天に助け舟を出した。
「私、弟子を取るからには指導には容赦をしなくってよ!」
弄んでいた扇子をパッと開き、挑むような目で佐天を見つめた。
「えっ、あの、助けてくれるんですか?!」
半分、手が差し伸べられるのを信じていなかった佐天はあっさりとした承諾の返事に思わず聞き返してしまった。
半分、手が差し伸べられるのを信じていなかった佐天はあっさりとした承諾の返事に思わず聞き返してしまった。
「貴女にやる気があるのなら、ね」
「はい! 頑張ります!」
「はい! 頑張ります!」
ビッ、と敬礼のポーズをとった。
初めは驚き、ただ話を聞いているだけだった初春も、佐天の少し後ろで安心するように笑った。
劣等感を隠すための強がりとしての明るさと、生来の朗らかさ、その両方を佐天涙子という友人は持ち合わせている。
前向きなときも後ろ向きな時も明るく振舞ってしまうのが、気遣いができる彼女の美徳であり短所であった。
初春は彼女が前向きな気持ちでこうした話を出来ていることが嬉しかった。
能力の話は、彼女が最も劣等感を感じ、苦しんでいる事柄だったからだ。
初めは驚き、ただ話を聞いているだけだった初春も、佐天の少し後ろで安心するように笑った。
劣等感を隠すための強がりとしての明るさと、生来の朗らかさ、その両方を佐天涙子という友人は持ち合わせている。
前向きなときも後ろ向きな時も明るく振舞ってしまうのが、気遣いができる彼女の美徳であり短所であった。
初春は彼女が前向きな気持ちでこうした話を出来ていることが嬉しかった。
能力の話は、彼女が最も劣等感を感じ、苦しんでいる事柄だったからだ。
「そうね、それじゃまず申し上げておきたいことは」
しばらく思案していた光子が言葉を紡ぐ。
「まず、学校のことを学校で一番になれるくらいきちんとやるのは最低限のことですわ」
その一言で、佐天の顔が曇った。
『出来る人間の台詞』が第一声に飛んできたからだった。
『出来る人間の台詞』が第一声に飛んできたからだった。
「別に次の考査で学年トップになれなんて言ってるわけではありませんのよ。 ただ、あとで後悔するような努力しかしていなければ、そこから前向きな気持ちが折れていくでしょう? それでは伸びませんわ」
わずかに佐天の表情も明るくなったが、やはりその言葉は聞きなれた理想論でしかなく、彼女の閉塞感を吹き飛ばすものではなかった。
光子も常盤台においては上位クラスに所属するもののその中ではごく凡庸な位置にいるので、自分自身が自分の垂れた説教を好きになれなかった。
光子も常盤台においては上位クラスに所属するもののその中ではごく凡庸な位置にいるので、自分自身が自分の垂れた説教を好きになれなかった。
「それで佐天さん、あなたのレベルはいくつですの?」
「あ、えっと……ゼロ、です」
「あ、えっと……ゼロ、です」
噴出する劣等感を顔に出さないようにするのに、佐天は必死になった。
ただレベルを申告するだけなら、チラリと顔を見せるその感情に蓋をするだけでよかったかもしれない。
だが幻想御手(レベルアッパー)という誘惑に負けた自分の浅ましさは、レベル0であるという劣等感を何倍にも膨れ上がらせ、持て余すほどに堆積していた。
ただレベルを申告するだけなら、チラリと顔を見せるその感情に蓋をするだけでよかったかもしれない。
だが幻想御手(レベルアッパー)という誘惑に負けた自分の浅ましさは、レベル0であるという劣等感を何倍にも膨れ上がらせ、持て余すほどに堆積していた。
「ゼロ? あの、出鼻をくじいて悪いですけど、本当に空力使いという自信はおありなのね?」
弱い意志が誘惑に負けてズルをした過日の自分を思い出して、ひどい自己嫌悪が蘇る。
「あ、はい! あたし一度だけ力が使えたことがあって、そのとき、手のひらの上で風が回ったんです。先生にも相談したらほぼ間違いなく空力使いだって」
はぐらかす自分も嫌になる。
何もかもが後ろ向きになって、思わず光子に謝って今の話を無かったことにしてもらおうかなんて考えすら湧いてくる。
何もかもが後ろ向きになって、思わず光子に謝って今の話を無かったことにしてもらおうかなんて考えすら湧いてくる。
「そう、分かりましたわ。そうですわね……私もこれから用がありますし、この週末に時間をとってやるのでよろしくって?」
「はい、それはもうもちろん! レベル4の人に見てもらえるなんてどんなにお願いしたって普通は出来ないことなんですから!」
「はい、それはもうもちろん! レベル4の人に見てもらえるなんてどんなにお願いしたって普通は出来ないことなんですから!」
彼女は自分の退路を一つ一つ断っていった。それが最善の道だと気づいていた。
「ふふ。じゃあ、宿題を出しておきましょうか」
「え、宿題、ですか?」
「え、宿題、ですか?」
光子は頼られるのが好きだった。
真面目でひたむきな佐天の姿勢は、先輩風を吹かせたい気持ちをくすぐるものがあった。
そして、かつて自分の面倒を見てくれた先生からかけられた言葉を思い出し、それを口にする。
真面目でひたむきな佐天の姿勢は、先輩風を吹かせたい気持ちをくすぐるものがあった。
そして、かつて自分の面倒を見てくれた先生からかけられた言葉を思い出し、それを口にする。
「貴女、風はお好き?」
「え? あの、風って。扇風機の風とかですか?」
「え? あの、風って。扇風機の風とかですか?」
その問いはあまりにシンプルで、逆に難しかった。
「扇風機も確かに風を吹かせるわね。もう一度言うわ。風はお好き? それ以上のアドバイスはしませんから、自分でよく答えを考えてみなさいな」
「はあ……」
「はあ……」
どうしたらよいのかと思案すると同時に、今までとまったく違ったアプローチで攻められることが面白く思えていた。
「私が自分の力を伸ばすきっかけになった質問ですのよ、それ。念のために言っておきますけれど、ちゃんと考えて答えを出さないと何の意味もありませんからね」
「自分で、ちゃんと考えてみます」
「自分で、ちゃんと考えてみます」
不思議と面白い思索だった。
返事をする傍ら、頭の中ではすでにぐるぐると回る風の軌跡が描かれていた。
返事をする傍ら、頭の中ではすでにぐるぐると回る風の軌跡が描かれていた。
「そうしなさい。今週末に答えを聞かせてもらうわ」
「ありがとうございます。でも……あの、いいんですか? 自分で言うのもなんですけど、こんな面倒なお願いを簡単に引き受けてもらっちゃって」
「あら、私こう見えても後輩の面倒見はいいほうですのよ? 真面目に何かを学び取ろうとする人は、嫌いではありませんし」
「ありがとうございます。でも……あの、いいんですか? 自分で言うのもなんですけど、こんな面倒なお願いを簡単に引き受けてもらっちゃって」
「あら、私こう見えても後輩の面倒見はいいほうですのよ? 真面目に何かを学び取ろうとする人は、嫌いではありませんし」
佐天に微笑みかけるその表情は、すでに教え子を見る顔になっていた。
それからもう少し軽い話をして、初春と佐天は学舎の園の中へと向かっていった。
当麻は待ち合わせの時間より5分遅れてやってきた。
遅刻されるのは嫌いだった。
相手にも事情があるだろうとか、そんなことを考えるより、自分のことを大切に思ってないのだろうかという不安のほうが先に湧いてくるからだ。そして不安の矢は当麻の側を向いて、怒りや苛立ちに変わるのだった。
当麻は待ち合わせの時間より5分遅れてやってきた。
遅刻されるのは嫌いだった。
相手にも事情があるだろうとか、そんなことを考えるより、自分のことを大切に思ってないのだろうかという不安のほうが先に湧いてくるからだ。そして不安の矢は当麻の側を向いて、怒りや苛立ちに変わるのだった。
「どうして遅れましたの」
最大限に自制を効かせてそう尋ねると、財布を溝に落としたので拾い上げようとしたら自転車とぶつかったとの説明が帰ってきた。当麻は硬貨を、相手は買い物を散々にぶちまけ、さらには外れたチェーンの巻き直しまでしたのだとか。
ひと月に足らないこの短い付き合いですっかり納得させられるのもどうかと思うが、この上条当麻という想い人の運の悪さを光子はよく理解している。だからそんな絵に描いたような言い訳を、それでも疑いはしなかった。
なじるのを止めたりはしなかったが。
ひと月に足らないこの短い付き合いですっかり納得させられるのもどうかと思うが、この上条当麻という想い人の運の悪さを光子はよく理解している。だからそんな絵に描いたような言い訳を、それでも疑いはしなかった。
なじるのを止めたりはしなかったが。
二人で歩くときは当麻の左を歩くのが、光子の習慣になっていた。
当麻は鞄を右手で持つことが多い。
それに合わせて当麻の左手と自分の右手を繋ぐのだった。
当麻は鞄を右手で持つことが多い。
それに合わせて当麻の左手と自分の右手を繋ぐのだった。
「鞄、持つぞ」
自分の鞄を持ったままの当麻の手が、光子の前に伸びてきた。
「お願いしますわ」
ありがとうを言わず、微笑を返した。
その気安さが嬉しい。
その気安さが嬉しい。
鞄を持ってもらい、開いた自分の両腕を使って当麻の左腕に抱きついた。
当麻が照れるのが分かる。
こうしてべったりと抱きつくといつもそうだった。
当麻が照れるのが分かる。
こうしてべったりと抱きつくといつもそうだった。
私も恥ずかしいですけど、でも嬉しいんですもの。
当麻さんもきっと喜んでくださっているのよね。
そう光子は納得していた。
自分のプロポーションに自信があるものの、それをダイレクトに感じている男性がドキッとしていることに思い当たらないあたり、光子は初心(うぶ)だった。
当麻さんもきっと喜んでくださっているのよね。
そう光子は納得していた。
自分のプロポーションに自信があるものの、それをダイレクトに感じている男性がドキッとしていることに思い当たらないあたり、光子は初心(うぶ)だった。
「それで、佐天さんに空力使いとしてちょっと指導をすることになりましたの」
安いファストフードの店でホットアップルパイを食べるのが光子のお気に入りだった。
初めてそれを口にしたのは当麻と知り合ったその日だから、それは特別な食べ物なのだ。
今でもアップルパイとは認めていないが、中身のとろとろとした食感は気に入っていた。
初めてそれを口にしたのは当麻と知り合ったその日だから、それは特別な食べ物なのだ。
今でもアップルパイとは認めていないが、中身のとろとろとした食感は気に入っていた。
そのファストフード店への道すがら。
頼ってくれる人間が出来たことが嬉しくて、すぐさっきの話を当麻にした。
頼ってくれる人間が出来たことが嬉しくて、すぐさっきの話を当麻にした。
「へえ。そういうのって珍しいんじゃないのか? 能力者が能力者の指導をするなんてさ」
「まあ学校の先輩後輩でなら稀にありますけれど。でもこんな風に依頼されたのは私くらいかもしれませんわね」
「しかも相手はレベル0なんだろ? なんていうか、それで伸びるもんなのかね?」
「まあ学校の先輩後輩でなら稀にありますけれど。でもこんな風に依頼されたのは私くらいかもしれませんわね」
「しかも相手はレベル0なんだろ? なんていうか、それで伸びるもんなのかね?」
そこで、光子はハッと息を呑んで、当麻の顔を見た。
彼もレベル0であり、その彼よりも別の能力者の手伝いをすると言った自分の無神経さに気づいたからだった。
自分がレベル0であることに、当麻は全く劣等感を見せない。
彼の能力について聞いたのは付き合う前だったから、実はあまり能力の話はしたことがなかったのだった。
レベル4の自分が話を振るのは、すこし怖かった。
彼もレベル0であり、その彼よりも別の能力者の手伝いをすると言った自分の無神経さに気づいたからだった。
自分がレベル0であることに、当麻は全く劣等感を見せない。
彼の能力について聞いたのは付き合う前だったから、実はあまり能力の話はしたことがなかったのだった。
レベル4の自分が話を振るのは、すこし怖かった。
「あの、怒ってらっしゃらない?」
「へ? なんで?」
「へ? なんで?」
いきなり話が変わって、当麻は間の抜けた顔をした。
急に光子が深刻そうな表情を見せたことが全く理解できなかった。
急に光子が深刻そうな表情を見せたことが全く理解できなかった。
「その、当麻さんも確か」
「あ、あー。そういうことか。俺もレベル0だ。まああんまり気にしてないけど。右手のせいなのは分かりきってるしな」
「当麻さんの能力は確か、AIM拡散場を介した超能力のジャミング、でしたわよね?」
「へ? なにそれ」
「あ、あー。そういうことか。俺もレベル0だ。まああんまり気にしてないけど。右手のせいなのは分かりきってるしな」
「当麻さんの能力は確か、AIM拡散場を介した超能力のジャミング、でしたわよね?」
「へ? なにそれ」
まるで初耳だといわんばかりの顔で当麻は聞き返した。
光子は学園都市の言葉で説明のつかないその能力を当麻の適当な説明を聞いて理解していたため、それがもっともらしい理解の仕方だった。
光子は学園都市の言葉で説明のつかないその能力を当麻の適当な説明を聞いて理解していたため、それがもっともらしい理解の仕方だった。
「違いますの?」
「能力を打ち消すところは合ってるけど……。そうか光子はそんな風に解釈してたのか」
「能力を打ち消すところは合ってるけど……。そうか光子はそんな風に解釈してたのか」
ニッと笑い、
「試してみるか」
大通りの隣にある休憩スペースのベンチを指差したのだった。
ベンチに腰掛け、すぐさま『実験』を始めた。
「嘘……なんで、どうしてですの?!」
能力者に特別な準備は必要ない。
すぐさま当麻の手を握って、そして愕然とした。
初めは小さな威力で、そしていまや自分の最大出力。
台風を優に超える風速と風量で当麻は自分の視界から消えるくらい吹っ飛ぶはずなのに。
当麻の右手には何度やっても風の噴出面を発現させられない。
これっぽっちも自分の能力による大気の変化を観測できないのだった。
次にその右手を自分の右手の甲に重ねてもらい、その状態で当麻の鞄に触れる。
すぐさま当麻の手を握って、そして愕然とした。
初めは小さな威力で、そしていまや自分の最大出力。
台風を優に超える風速と風量で当麻は自分の視界から消えるくらい吹っ飛ぶはずなのに。
当麻の右手には何度やっても風の噴出面を発現させられない。
これっぽっちも自分の能力による大気の変化を観測できないのだった。
次にその右手を自分の右手の甲に重ねてもらい、その状態で当麻の鞄に触れる。
「そんな、何も出来ないなんて……。当麻さん、あなた本当にレベル0ですの?」
レベル4の自分の能力を完璧に封じ込めて、それどころかどんな能力で封じ込めたのかすらも悟らせない。
AIM拡散場を介した超能力のジャミング、さっきまで自分がしていた勘違いで説明をするなら、上条当麻はレベル5でなくてはならないだろう。
AIM拡散場を介した超能力のジャミング、さっきまで自分がしていた勘違いで説明をするなら、上条当麻はレベル5でなくてはならないだろう。
「誰が好き好んでレベル0なんてランク付けを貰うんだよ。もっと高かったら小遣い増えるのにさ」
カツカツの経済状況をもたらすことだけが、当麻にとってレベル0を疎む理由らしかった。
劣等感から道外れた世界へ踏み出す人間が掃いて捨てるほどいるこの都市で、その認識はあまりにおっとりとしていた。
劣等感から道外れた世界へ踏み出す人間が掃いて捨てるほどいるこの都市で、その認識はあまりにおっとりとしていた。
「でも、それならレベル0と認定された能力で、どうして私の能力を無効化できますの? ……自慢に聞こえたら嫌ですけれど、私、自分の能力は非凡なものを自負しておりますのに」
「うーん、なんでって言われてもな。俺の右手はそれが超常現象なら何でも無効化できるんだ。レベル5の電撃でも平気だったし、たぶんレベルは関係ないんじゃないか?」
「あ、あなた、超能力者(レベル5)と能力をぶつけ合ったことがありますの?!」
「うーん、なんでって言われてもな。俺の右手はそれが超常現象なら何でも無効化できるんだ。レベル5の電撃でも平気だったし、たぶんレベルは関係ないんじゃないか?」
「あ、あなた、超能力者(レベル5)と能力をぶつけ合ったことがありますの?!」
怪我をさせないようにと丁寧に気遣った自分がバカだったかも知れない。
光子はそう嘆息した。
レベル5で電撃といえば、やはり常盤台の超電磁砲だろうか。
グラウンドから見たあの水柱は、自分の能力で防げるようなものではないように思えた。
それを防ぐというなら、自分の能力でも何も出来ないだろう。
光子はそう嘆息した。
レベル5で電撃といえば、やはり常盤台の超電磁砲だろうか。
グラウンドから見たあの水柱は、自分の能力で防げるようなものではないように思えた。
それを防ぐというなら、自分の能力でも何も出来ないだろう。
「ああ、なんか道端で知り合ってさ、それからアイツがやたら絡んで来るんだよな」
「……常盤台の学生、ですの?」
「お、やっぱりビリビリと知り合いなのか? あいつ確か中2って言ってたし、光子と同級生だよな」
「……常盤台の学生、ですの?」
「お、やっぱりビリビリと知り合いなのか? あいつ確か中2って言ってたし、光子と同級生だよな」
共通の知り合いがいるのかもしれないと思って嬉しそうに話を振った当麻だったが、光子の表情を見て固まった。
「仲、よろしいんですの?」
自分だけの席に、無理やり割り込まれたような気持ち。
知り合いというだけなら当麻にも女性のクラスメイトはいるだろうに、同じ常盤台の中学二年で当麻の心許した相手というのが、やけに疎ましかった。
知り合いというだけなら当麻にも女性のクラスメイトはいるだろうに、同じ常盤台の中学二年で当麻の心許した相手というのが、やけに疎ましかった。
「い、いや。別に、ただ知り合いってだけだぞ? なんかいちいち突っかかってくるから相手してるだけで」
「そうですの」
「そうですの」
全然納得してない表情の光子を見て、なんなんだ? と首をかしげる。
そしてふと気づいた。
もしかして妬いてるのか?
そしてふと気づいた。
もしかして妬いてるのか?
わずかにツンと尖らせた唇は、まさにそれらしかった。
そういう機微に気づく当たり、誰とも付き合っていなかった頃の上条当麻とは違うのだった。
ベンチに座ったまま、光子の肩を抱き寄せる。
唇はもっと突き出されてしまったが、照れ隠しなのが見て分かった。
そういう機微に気づく当たり、誰とも付き合っていなかった頃の上条当麻とは違うのだった。
ベンチに座ったまま、光子の肩を抱き寄せる。
唇はもっと突き出されてしまったが、照れ隠しなのが見て分かった。
「可愛いな、そういうとこ」
「だって」
「だって」
抗議するように軽く睨んだ光子に笑みを返した。
夕方までベンチでベタベタとじゃれあう二人は周りにとってはいい公害であり、警備員(アンチスキル)に追い払われるまでこの公園で甘い雰囲気を撒き散らしたのだった。
夕方までベンチでベタベタとじゃれあう二人は周りにとってはいい公害であり、警備員(アンチスキル)に追い払われるまでこの公園で甘い雰囲気を撒き散らしたのだった。
そして週末。
第七学区の中央近く、小さな公園で待ち合わせだった。
第七学区の中央近く、小さな公園で待ち合わせだった。
「こんにちは、佐天さん」
「あ、こんにちわです。婚后さん」
「あ、こんにちわです。婚后さん」
姿勢を正して、丁寧に腰を折り曲げる。
「今日はよろしく、お願いします」
「それで宿題はできましたの?」
単刀直入に本題に踏み込んだ。
「あ……はい、一応、考えてきました」
「一応ね……答え次第では今すぐにでも話を終わりにしますわよ? ちゃんと自分で納得した答えですのね?」
「一応ね……答え次第では今すぐにでも話を終わりにしますわよ? ちゃんと自分で納得した答えですのね?」
短く、そして答えの読めない質問。
それ一つで自分を量られることへの不安。
佐天は思い切れないでいた。
宿題をもらった瞬間の、やってやろうじゃん、という気持ちはすっかり萎えきっていた。
それ一つで自分を量られることへの不安。
佐天は思い切れないでいた。
宿題をもらった瞬間の、やってやろうじゃん、という気持ちはすっかり萎えきっていた。
数日間自分で悩みぬいた結論。
それを自信を持って伝えることが出来ない。
もっといい結論を自分は出せないかと色んなふうに考えてみたが、結局、満足出来るようなものを胸に抱くことが出来なかった。
それを自信を持って伝えることが出来ない。
もっといい結論を自分は出せないかと色んなふうに考えてみたが、結局、満足出来るようなものを胸に抱くことが出来なかった。
「……自分で、結論を出しました。精一杯の答えだから、変わったりはしません」
「そう、じゃあ、話して御覧なさい。『貴女、風はお好き?』」
「そう、じゃあ、話して御覧なさい。『貴女、風はお好き?』」
少し前に聞いた問いと、寸分たがわぬ言い回し。
空力使いだというなら、心の底からそれを愛しているのが自然だろうに。
きっと高位の能力者の人たちは、それを満喫しているだろうに。
自分の答えのつまらなさが、たまらなく不快だった。
きっと高位の能力者の人たちは、それを満喫しているだろうに。
自分の答えのつまらなさが、たまらなく不快だった。
「嫌いだなんてことはないですけど、私は多分、風っていうものを、そんなに好きじゃないと思います」