自分用SSまとめ
05 ハッピーエンド
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meteor089
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05 ハッピーエンド
腹が立ったというか、呆れたというか……何なのかしらね、あいつの私に対する態度って。
具合が悪いのに私にあんなことするなんて……ねぇ?
酒場のバニーガールなんかと私を一緒にしてるんじゃなわよ、まったく。
でもね、私に手出しするまでのククールは本当に具合が悪そうだったわ。それは本当よ。
単に体調が悪いような感じじゃなく、こう……トロデーン城で見た、
いばらで呪われた人たちのような、苦しく悲しげな感じって言ったらいいのかなぁ……。
どんなにもがいても、逃れられないようなものに襲われたような……。
ま、それでも結局私にあんなことしてくるんだから、ものすごく具合が悪いってことでも
なかったってことよね!
海辺の教会の沿岸に船が着いたのは、太陽が東の空に昇りきった時だったわ。
あいつがまだ船室から出て来ないもんだから、出発することが出来なくって、
船の上で少し待つことになったの。
手持ち無沙汰だったから、私は船縁に頬杖をついて東の海の彼方を見てぼんやりしてた。
少ししたら、ブーツ独特の船板に響く足音が、後ろに近づいてくるのがわかったわ。
そして、足音は私のすぐ後ろで止まった。
「……ずいぶん元気そうね」
私は顔を海の方に向けたまま、ククールの顔を見てもいないくせにそう言った。
「薬が効いたんだよ」
「え……でも万能薬、いらないって言ってたじゃない?」
「オレにとっての一番の万能薬は君だよ、ゼシカ」
「……………………………………………」
相変わらずよね、こんなクサいセリフ言えるのはククールぐらいなもんよ!
私はくるっと体をククールの方に向け、船縁に背を持たれかけた。
海から吹いてくる風が、背中に当たって少しくすぐったい。
目の前にいるククールは、夜とは違う、いつも通りのククールだった。
「私が万能薬なら、あんたはせいぜいうしの糞じゃない?一度錬金釜に入れてもらったら?」
私がそういうと、ククールの口調が妙に明るい感じになった。
「ゼシカと一緒なら入ってもいいぜ?……二人で何を作ろうか?」
いつもの私だったら咄嗟に言い返すところだけど、私はククールの顔をじーっと見て、
思わず噴き出してしまったのよ。
ああ、よかった、いつものククールだぁ……って思ってね。
「人の顔見て笑うなよ!」ククールはちょっと怒っているようだったわ。
「ごめんごめん!元のククールに戻ったと思ったらね、何だかおっかしくなってきて」
私の笑い顔に不満そうなククールは、静かに私の横へ近づき、船縁に両手をかけた。
「夜のこと……謝るよ。ごめん」
「いいわよ、もう。とりあえずあんたが元気になってよかったわ」
私の言葉を聞くと、ククールは海の方へ落としていた目線を私へ向けた。
「……どうしてもダメなんだよな、あいつと会うと」
「あの……イヤミ兄貴のこと?」
「しょうがねーよな、オレが生まれたときから恨まれ続けてるんだ。
今すぐ関係がよくなる訳でもないし」
私は返事も出来ず、黙ってしまった。
「……もう出発するんだろ?行こうぜ」
「うん」
短く返事をして、私とククールはエイトたちが待つ、船の板梯子へ向かった。
この後、ベルガラックへ行ったんだけど、結局ドルマゲスの姿を私たちは見つけることは出来なかった。
でもね、かなりドルマゲスに近づきつつある――みんなそんな風に感じていたわ。
ドルマゲスはどうやら北の島にある遺跡に潜んでるらしいのよ。
そこの結界を破るための魔法の鏡をサザンビーク城に借りにいくことになってね、
サザンビーク国王とチャゴス王子に面会したの。
チャゴス王子を初めて見た時、いつもにこやかなエイトの顔が、突然少し暗くなった。
そう、ミーティア姫の婚約者があの王子だったのよね。
まぁ、大切な姫様があんなどーしようもない王子様と結婚させられるのかと思うと、誰だって暗くもなるわよ。
だってあんなに姫様の婚約を喜んでたトロデ王でさえ、実物のチャゴス王子を見てからは
「この婚約は本当によかったのかのう……」ってずーっとボヤいてるし。
魔法の鏡を貸してもらう代わりに……という条件で、私たちはチャゴス王子のある儀式の
手伝いをすることになってね、王家の山で一晩野営をしたことがあったわ。
私は一人テントで寝ていたんだけど、夜中に突然目が覚めちゃって、
うまく寝付けなくなってしまって……仕方ないからブランケットを肩に羽織って、
気分転換でもしようと外に出てみたの。
空を見上げると、いろんな大きさの星が溢れんばかりに輝いていて、とっても綺麗だったわ。
いくつか立てられたテントの中央では、大きな焚き火がしてあった。
その少し離れたところにある大きな木に、立ったまま寄りかかって本を読んでいるククールがいた。
「あれ?焚き火の番をしてるの?」ククールに歩み寄りながら私が話しかけると、
ククールは本を閉じ、私に微笑んだ。
「ああ。もうちょっとでエイトと交代の時間なんだ。……どうした?」
「寝てたんだけど、目が覚めちゃって……隣に座っていい?」
「どうぞ」
そう言ってククールは私に左手を差し出した。
えーと、これは私の手を取って座るのをエスコートしますよ、ってことよね?
私はぎこちなくククールの手に自分の右手を置き、ククールと一緒に地面へ座った。
焚き火は座った場所からはそんなに近くないのに、顔に熱気が感じられたわ。
「何の本、読んでたの?」
「ああ、これ?昔……オレが十五歳の時かな。オディロ院長が誕生日プレゼントにくれたんだよ。
院長はオレの親代わりであり……一番の心の支えだったからさ、
修道院を出る時にせめて形見の一つでもと思って、持ってきておいたんだ。
……でも、聖書は忘れてきちまったよ。一応聖職者なのにな」
「最初から持ってくる気なんか無かったんでしょ?」
私が笑って言うと、ククールは「バレた?」と小さく呟いて、二人で顔を見合わせて笑った。
「言っちゃあ悪いけど、オレは神様がいるなんて信じてないからな。
こんなヤツがこれまでよく僧侶なんかやって来れたもんだと思うよ、我ながら」
「でも、自分から修道院に入ったんじゃないの?」
「そりゃそうさ。身寄りの無い子供の生きる術なんて限られてるからな。
ガキだったオレは何かにすがりたい一心で、あの日修道院に駆け込んだんだ……」
ククールはゆっくり立ち上がって、焚き火の炎をじっと見つめている。
「……今だったら違うな。この旅が終わったら、誰にも頼らずひとりで生きて行きたいね、オレは」
そう言ったククールの顔は、まるで子供みたいに見えた。
ポルクやマルクぐらいの、男の子の顔……。
――ククール、嘘ついてる。
どうしてか解らないけど、私はそう思ったわ。
ククールはきっと……自分と一緒に生きてくれる人を、今でも心の奥から狂おしいぐらいに求めてる――。
ドルマゲスを倒せば、この旅もハッピーエンドを迎えることができるって私はずっと思ってきた。
でも……どうやら違うみたい。
よく考えたら私もククールも、失った大切な人を取り戻すことはもう出来ないのよね。
旅が終わったら、私もククールも、どうやって生きてくのかな……。
兄さんの助け無しで、私はどうやって……。
それが判った時こそ、私にとってのこの旅のハッピーエンドなのかも知れないわ。
そんなことを考えていたら、馬車に一番近いテントからエイトが出てきた。
「ククール、お疲れ!……あれ?ゼシカも起きてたの?」
「うん……何だか寝付けなくって」
「そっか……あ、ククール、代わるから寝ちゃえば?」
「……ああ、そうするよ。じゃあなゼシカ、お休み」
そう言って私の右手を取り、軽くキスをして、自分のテントに入っていった。
エイトはいつものニコニコ顔で、私に言った。
「相変わらず仲良しだねぇ、ゼシカとククールは」
「違うわよ、相変わらずなのはあいつだけ!相変わらずキザなのよ、ククールが!」
私が反論すると、エイトは私の顔を見てケラケラ笑い出し、思わず私もつられて笑ってしまった。
旅が終わった後も、こうやって笑いながら楽しい生活が送れますように――私は心の中でそう祈っていた。
具合が悪いのに私にあんなことするなんて……ねぇ?
酒場のバニーガールなんかと私を一緒にしてるんじゃなわよ、まったく。
でもね、私に手出しするまでのククールは本当に具合が悪そうだったわ。それは本当よ。
単に体調が悪いような感じじゃなく、こう……トロデーン城で見た、
いばらで呪われた人たちのような、苦しく悲しげな感じって言ったらいいのかなぁ……。
どんなにもがいても、逃れられないようなものに襲われたような……。
ま、それでも結局私にあんなことしてくるんだから、ものすごく具合が悪いってことでも
なかったってことよね!
海辺の教会の沿岸に船が着いたのは、太陽が東の空に昇りきった時だったわ。
あいつがまだ船室から出て来ないもんだから、出発することが出来なくって、
船の上で少し待つことになったの。
手持ち無沙汰だったから、私は船縁に頬杖をついて東の海の彼方を見てぼんやりしてた。
少ししたら、ブーツ独特の船板に響く足音が、後ろに近づいてくるのがわかったわ。
そして、足音は私のすぐ後ろで止まった。
「……ずいぶん元気そうね」
私は顔を海の方に向けたまま、ククールの顔を見てもいないくせにそう言った。
「薬が効いたんだよ」
「え……でも万能薬、いらないって言ってたじゃない?」
「オレにとっての一番の万能薬は君だよ、ゼシカ」
「……………………………………………」
相変わらずよね、こんなクサいセリフ言えるのはククールぐらいなもんよ!
私はくるっと体をククールの方に向け、船縁に背を持たれかけた。
海から吹いてくる風が、背中に当たって少しくすぐったい。
目の前にいるククールは、夜とは違う、いつも通りのククールだった。
「私が万能薬なら、あんたはせいぜいうしの糞じゃない?一度錬金釜に入れてもらったら?」
私がそういうと、ククールの口調が妙に明るい感じになった。
「ゼシカと一緒なら入ってもいいぜ?……二人で何を作ろうか?」
いつもの私だったら咄嗟に言い返すところだけど、私はククールの顔をじーっと見て、
思わず噴き出してしまったのよ。
ああ、よかった、いつものククールだぁ……って思ってね。
「人の顔見て笑うなよ!」ククールはちょっと怒っているようだったわ。
「ごめんごめん!元のククールに戻ったと思ったらね、何だかおっかしくなってきて」
私の笑い顔に不満そうなククールは、静かに私の横へ近づき、船縁に両手をかけた。
「夜のこと……謝るよ。ごめん」
「いいわよ、もう。とりあえずあんたが元気になってよかったわ」
私の言葉を聞くと、ククールは海の方へ落としていた目線を私へ向けた。
「……どうしてもダメなんだよな、あいつと会うと」
「あの……イヤミ兄貴のこと?」
「しょうがねーよな、オレが生まれたときから恨まれ続けてるんだ。
今すぐ関係がよくなる訳でもないし」
私は返事も出来ず、黙ってしまった。
「……もう出発するんだろ?行こうぜ」
「うん」
短く返事をして、私とククールはエイトたちが待つ、船の板梯子へ向かった。
この後、ベルガラックへ行ったんだけど、結局ドルマゲスの姿を私たちは見つけることは出来なかった。
でもね、かなりドルマゲスに近づきつつある――みんなそんな風に感じていたわ。
ドルマゲスはどうやら北の島にある遺跡に潜んでるらしいのよ。
そこの結界を破るための魔法の鏡をサザンビーク城に借りにいくことになってね、
サザンビーク国王とチャゴス王子に面会したの。
チャゴス王子を初めて見た時、いつもにこやかなエイトの顔が、突然少し暗くなった。
そう、ミーティア姫の婚約者があの王子だったのよね。
まぁ、大切な姫様があんなどーしようもない王子様と結婚させられるのかと思うと、誰だって暗くもなるわよ。
だってあんなに姫様の婚約を喜んでたトロデ王でさえ、実物のチャゴス王子を見てからは
「この婚約は本当によかったのかのう……」ってずーっとボヤいてるし。
魔法の鏡を貸してもらう代わりに……という条件で、私たちはチャゴス王子のある儀式の
手伝いをすることになってね、王家の山で一晩野営をしたことがあったわ。
私は一人テントで寝ていたんだけど、夜中に突然目が覚めちゃって、
うまく寝付けなくなってしまって……仕方ないからブランケットを肩に羽織って、
気分転換でもしようと外に出てみたの。
空を見上げると、いろんな大きさの星が溢れんばかりに輝いていて、とっても綺麗だったわ。
いくつか立てられたテントの中央では、大きな焚き火がしてあった。
その少し離れたところにある大きな木に、立ったまま寄りかかって本を読んでいるククールがいた。
「あれ?焚き火の番をしてるの?」ククールに歩み寄りながら私が話しかけると、
ククールは本を閉じ、私に微笑んだ。
「ああ。もうちょっとでエイトと交代の時間なんだ。……どうした?」
「寝てたんだけど、目が覚めちゃって……隣に座っていい?」
「どうぞ」
そう言ってククールは私に左手を差し出した。
えーと、これは私の手を取って座るのをエスコートしますよ、ってことよね?
私はぎこちなくククールの手に自分の右手を置き、ククールと一緒に地面へ座った。
焚き火は座った場所からはそんなに近くないのに、顔に熱気が感じられたわ。
「何の本、読んでたの?」
「ああ、これ?昔……オレが十五歳の時かな。オディロ院長が誕生日プレゼントにくれたんだよ。
院長はオレの親代わりであり……一番の心の支えだったからさ、
修道院を出る時にせめて形見の一つでもと思って、持ってきておいたんだ。
……でも、聖書は忘れてきちまったよ。一応聖職者なのにな」
「最初から持ってくる気なんか無かったんでしょ?」
私が笑って言うと、ククールは「バレた?」と小さく呟いて、二人で顔を見合わせて笑った。
「言っちゃあ悪いけど、オレは神様がいるなんて信じてないからな。
こんなヤツがこれまでよく僧侶なんかやって来れたもんだと思うよ、我ながら」
「でも、自分から修道院に入ったんじゃないの?」
「そりゃそうさ。身寄りの無い子供の生きる術なんて限られてるからな。
ガキだったオレは何かにすがりたい一心で、あの日修道院に駆け込んだんだ……」
ククールはゆっくり立ち上がって、焚き火の炎をじっと見つめている。
「……今だったら違うな。この旅が終わったら、誰にも頼らずひとりで生きて行きたいね、オレは」
そう言ったククールの顔は、まるで子供みたいに見えた。
ポルクやマルクぐらいの、男の子の顔……。
――ククール、嘘ついてる。
どうしてか解らないけど、私はそう思ったわ。
ククールはきっと……自分と一緒に生きてくれる人を、今でも心の奥から狂おしいぐらいに求めてる――。
ドルマゲスを倒せば、この旅もハッピーエンドを迎えることができるって私はずっと思ってきた。
でも……どうやら違うみたい。
よく考えたら私もククールも、失った大切な人を取り戻すことはもう出来ないのよね。
旅が終わったら、私もククールも、どうやって生きてくのかな……。
兄さんの助け無しで、私はどうやって……。
それが判った時こそ、私にとってのこの旅のハッピーエンドなのかも知れないわ。
そんなことを考えていたら、馬車に一番近いテントからエイトが出てきた。
「ククール、お疲れ!……あれ?ゼシカも起きてたの?」
「うん……何だか寝付けなくって」
「そっか……あ、ククール、代わるから寝ちゃえば?」
「……ああ、そうするよ。じゃあなゼシカ、お休み」
そう言って私の右手を取り、軽くキスをして、自分のテントに入っていった。
エイトはいつものニコニコ顔で、私に言った。
「相変わらず仲良しだねぇ、ゼシカとククールは」
「違うわよ、相変わらずなのはあいつだけ!相変わらずキザなのよ、ククールが!」
私が反論すると、エイトは私の顔を見てケラケラ笑い出し、思わず私もつられて笑ってしまった。
旅が終わった後も、こうやって笑いながら楽しい生活が送れますように――私は心の中でそう祈っていた。