自分用SSまとめ
04 万能薬
最終更新:
meteor089
-
view
04 万能薬
あの船を見た時は、本当に動くなんて信じられなかったね。
でも、動いちまったんだよ。
世の中は不思議なことがあるもんだよな。
「せっかく船でいろんなとこに行けるようになったんだ。世界中を回らないと損だぜ」
そうオレがエイトに言うと、ヤツも「いろんなところに行ってみたいねぇ」なんて乗り気だった。
そしたらさ、トロデ王に
「こらエイト!ワシらは道楽で世界を旅しているわけじゃないのだぞ!!」って怒られてたけどな。
それでもとりあえずドルマゲスの行方を捜すために、
いろんなところに寄り道してみることにしたのさ。
ゴルドや法王様のいる大聖堂には、オレも一生に一度は行きたいと思ってはいたよ。
これでも一応聖職者だからね。
――でもそこに、あいつがいたのは計算外だった。
でも、動いちまったんだよ。
世の中は不思議なことがあるもんだよな。
「せっかく船でいろんなとこに行けるようになったんだ。世界中を回らないと損だぜ」
そうオレがエイトに言うと、ヤツも「いろんなところに行ってみたいねぇ」なんて乗り気だった。
そしたらさ、トロデ王に
「こらエイト!ワシらは道楽で世界を旅しているわけじゃないのだぞ!!」って怒られてたけどな。
それでもとりあえずドルマゲスの行方を捜すために、
いろんなところに寄り道してみることにしたのさ。
ゴルドや法王様のいる大聖堂には、オレも一生に一度は行きたいと思ってはいたよ。
これでも一応聖職者だからね。
――でもそこに、あいつがいたのは計算外だった。
あいつ――マルチェロは法皇様付きになってたんだよ。
あいつはクソが付くほど真面目だし実力もあるから、法皇様に気に入られるのも当然だと思うよ……うん。
ただあいつは少し権力志向のところがあるから、法皇様が上手く抑えてくれるといいけどな……。
実際、この前会った時、あいつの周りにはどうも窺い知れない悪い気配が流れてた。
死んだオディロ院長はマルチェロのそういうところを良く解ってて、
やんわりと注意するのが上手だったんだ。
久々に会ったマルチェロは、オレに対して相変わらず虫ケラを見るような視線を向けてきた。
そして呪いをかけるかのように、オレを蔑む言葉を口から出してくる。
そうするとさ、オレは本当に呪われたように頭の中が凍りついちまうんだ。
ダメだね、あいつの悪口にはまだ慣れねーや……。
ゼシカにはどんな悪口言われても平気なのにな。不思議なもんだよ。
あいつと会った後すぐ、ドルマゲスが西の大陸の大きな町に現れたという
情報を聞いたんで、オレたちはそこへ行くことにしたんだ。
その間たった一日の船旅だったんだけど、頭の中が呪われてるオレにとっては
一週間にも一ヶ月にも思えたね。
船にいる間じゅう薄暗い一番小さな船室の中で、一人でベッドにずっと寝転んでいた。
頭の中ではずっとあいつの言葉が渦巻いてる――。
酒があるか、バニーちゃんでもいれば気を紛らわせたんだろうけど……
あいにくどっちも用意してなかったんだよなぁ。
こんなことがあいつに会う度にずっと続くなら、ドルマゲスよりもあいつを倒した方が
オレのためになるんじゃないか?
エイトは気を遣って、オレのいる船室にやって来ては
「具合悪そうだね……船酔いかなぁ?」
とか話しかけて来たけど、それに答える気にもならなかった。
「……そっとしといてやるのがいいでがすよ、兄貴」
ヤンガスはそう言ってそっとエイトを船室から連れ出してってくれた。
ヤンガスは「とうぞくのはな」が利くだけじゃなく気も利くんだよなぁ、意外と。
船室に一つだけある窓から太陽の光が消えると、
明かりが無い船室は夜が深まるに連れて暗さが増していった。
部屋が真っ暗になり、自分の手のひらさえも見えなくなった頃、
突然船室のドアをノックする音が聞こえた。
とうとう幽霊でも出たかと思い、最初は返事をしなかったんだ。
するともう一度ノックの音が聞こえてきた。
返事をするのもかったるかったけど、とりあえず礼儀は守らないとな。
「――はーい」
「私……ゼシカだけど、入っていい?」
「……どうぞ」
せっかくのゼシカの訪問なのに、オレは何をする気にもならなかった。
いつもだったらゼシカの顔を見る度に
「いつキスしようか?」とか「どこでキスしようか?」とか
「どこにキスしようか?」とかばっかり考えてるのに、だぜ?
ゼシカはランプを手にして、ゆっくり船室のドアを開けて船室に入って来た。
「ククール……具合どう?エイトが錬金釜で万能薬作ったから持ってきたんだけど……飲んでみない?」
そう言ってベッドに近づき、ランプを枕元にあるサイドボードに置いた。
そしてベッドの上に横たわるオレの顔を覗き込んできた。
ランプの明かりに照らされた、ゼシカの顔……ゼシカの豊かな胸がオレの目の前にある。
――ちきしょう……こんな状態じゃなかったら、何だって出来る距離じゃねーか。
オレは返事もせずに、仰向けのままでただゼシカの顔を見ていた。
――かわいいよなぁ。こんな娘、滅多にいないぜ?そこら辺のバニーちゃんや踊り子のねーちゃんたちが
100人束になっても負けるよ。このデカくて柔らかそうな胸も……たまんねーよなぁ(ゴクリ)。
ただなぁ……まだ色気が少し足りねーんだよなぁ……
やっぱりこの娘、まだ男と付き合ったことがねーんだろうなぁ……。
ゼシカはポケットから薬の包みを取り出し、サイドボードに置いた。
「気休めかも知れないけど、少しは楽になるかもよ?」
「……いらねぇよ」
「どうして?具合悪いんでしょう?……少しでも楽になると思うけど」
「……いらねぇ」
「やっぱり気にしてるの?マルチェロに言われたこと……」
「あいつの名前を呼ぶなよ!!!!」
あいつの名前を出されちまったんで、思わず怒鳴ってしまった……。
オレとしたことが、レディに対して失礼だよな。
ほら、ゼシカもびっくりしてるじゃないか。
その時だった。
頭の中に突然あいつの顔が浮かび上がってきた。
そしてオレに酷い言葉を投げかける……口に出すのもおぞましい……
幼い頃からオレに言い続けてきた言葉の数々……。
オレはあいつの顔を見る度に、自分がまだ修道院にやってきた頃の
幼いままであることに気づかされる。
繊細で、傷つきやすく、泣き虫のククール少年。
「……っ痛てぇ……!」
今度はいきなり頭がキンキン痛み出した。
じっとしてられず、ベッドの上で体を何度も捩らせた。
「ちょ、ちょっと!!大丈夫?ククールってば!!!!」
心配そうな顔で、オレを見つめるゼシカ。
そんな顔するなよ。もっと笑えって、オレ言っただろう?
笑ってた方が君は何百倍もかわいいんだぜ……。
もがき苦しんでいるオレを見て、ゼシカは両手でオレの肩を揺すったり、背中を擦ってくれている。
ゼシカのそんな動きに合わせて、オレの目の前にある
ゼシカの胸が……ゆっさゆっさと揺れていた……。
おいゼシカ、オレを誘惑するなよ~。
左手がゼシカの胸に届きそうだな……
胸に手を出すように見せかけて、嫌がってる隙に唇にキスってのはどうだろう?
右手もゼシカの顎には添えられそうだし、
キスするには問題なさそうだな……あわよくば胸も触れるかもな……。
そんなことを思っていたら、左手は知らないうちに
ゼシカの波打つ胸に直行していたんだ。
次の瞬間。感じたのは柔らかい胸の感触や甘い唇じゃなく、頬の鋭い痛み。
オレの左頬にゼシカの平手打ちが飛んできていた。つまり……オレの負け。
「痛ってーな!!何すんだよ!!!」
「それはこっちのセリフでしょ!!!!」
ゼシカは髪の毛も総立ちしかねない程の怒りようだった。
「人に手ェ出すだけの元気があれば、大丈夫そうよね!!あと四時間ぐらいで夜が明けるけど、
そのころにはもうベルガラック近くの教会に着くらしいから、さっさと準備しておきなさいよ!!」
怒鳴り口調でゼシカはそう言い、船室のドアをものすごい勢いで閉めて出て行った。
再び船室に一人っきりになったオレは、ベッドの上で大の字になり、
ぼんやりと天井を見上げていた。
ゼシカが置き忘れていったランプがあるせいで、
自分の横顔の影が天井に拡大されて映っている。
――あれ?頭の中がすっきりしてるぞ。
オレ、元に戻ったんじゃないか?
ベッドの上から体を起こし、ゆっくり首を回してみた。
頭の痛みもない。いつものオレだ。
ただ違うのは――左頬の痛みがあることだけ。
ゼシカのやつ、思いっきりやりやがって……。
何だか突然腹の奥からおかしみが込み上げてきて、
オレは船室で一人大笑いをしてしまったんだ。
オレの呪いが解けたのは、ゼシカのビンタのおかげか?
それならトロデ王や馬姫様も、ゼシカに一発かましてもらったらいいかもな――
そんなくだらないことを考えていたら、急に眠気が襲ってきちまってね。
もう一度ベッドに横になってみると、サイドボードの上の、ゼシカが置いていった万能薬が目に入った。
ゼシカ、オレにとっての万能薬はこんな薬じゃなく、君自身が薬なんだ――
今度キメる時には、ゼシカにこう言ってやろう――そう考えながら眠りについた。
……ま、ほんとに言ったら思いっきりバカにされるだろうけどな。
あいつはクソが付くほど真面目だし実力もあるから、法皇様に気に入られるのも当然だと思うよ……うん。
ただあいつは少し権力志向のところがあるから、法皇様が上手く抑えてくれるといいけどな……。
実際、この前会った時、あいつの周りにはどうも窺い知れない悪い気配が流れてた。
死んだオディロ院長はマルチェロのそういうところを良く解ってて、
やんわりと注意するのが上手だったんだ。
久々に会ったマルチェロは、オレに対して相変わらず虫ケラを見るような視線を向けてきた。
そして呪いをかけるかのように、オレを蔑む言葉を口から出してくる。
そうするとさ、オレは本当に呪われたように頭の中が凍りついちまうんだ。
ダメだね、あいつの悪口にはまだ慣れねーや……。
ゼシカにはどんな悪口言われても平気なのにな。不思議なもんだよ。
あいつと会った後すぐ、ドルマゲスが西の大陸の大きな町に現れたという
情報を聞いたんで、オレたちはそこへ行くことにしたんだ。
その間たった一日の船旅だったんだけど、頭の中が呪われてるオレにとっては
一週間にも一ヶ月にも思えたね。
船にいる間じゅう薄暗い一番小さな船室の中で、一人でベッドにずっと寝転んでいた。
頭の中ではずっとあいつの言葉が渦巻いてる――。
酒があるか、バニーちゃんでもいれば気を紛らわせたんだろうけど……
あいにくどっちも用意してなかったんだよなぁ。
こんなことがあいつに会う度にずっと続くなら、ドルマゲスよりもあいつを倒した方が
オレのためになるんじゃないか?
エイトは気を遣って、オレのいる船室にやって来ては
「具合悪そうだね……船酔いかなぁ?」
とか話しかけて来たけど、それに答える気にもならなかった。
「……そっとしといてやるのがいいでがすよ、兄貴」
ヤンガスはそう言ってそっとエイトを船室から連れ出してってくれた。
ヤンガスは「とうぞくのはな」が利くだけじゃなく気も利くんだよなぁ、意外と。
船室に一つだけある窓から太陽の光が消えると、
明かりが無い船室は夜が深まるに連れて暗さが増していった。
部屋が真っ暗になり、自分の手のひらさえも見えなくなった頃、
突然船室のドアをノックする音が聞こえた。
とうとう幽霊でも出たかと思い、最初は返事をしなかったんだ。
するともう一度ノックの音が聞こえてきた。
返事をするのもかったるかったけど、とりあえず礼儀は守らないとな。
「――はーい」
「私……ゼシカだけど、入っていい?」
「……どうぞ」
せっかくのゼシカの訪問なのに、オレは何をする気にもならなかった。
いつもだったらゼシカの顔を見る度に
「いつキスしようか?」とか「どこでキスしようか?」とか
「どこにキスしようか?」とかばっかり考えてるのに、だぜ?
ゼシカはランプを手にして、ゆっくり船室のドアを開けて船室に入って来た。
「ククール……具合どう?エイトが錬金釜で万能薬作ったから持ってきたんだけど……飲んでみない?」
そう言ってベッドに近づき、ランプを枕元にあるサイドボードに置いた。
そしてベッドの上に横たわるオレの顔を覗き込んできた。
ランプの明かりに照らされた、ゼシカの顔……ゼシカの豊かな胸がオレの目の前にある。
――ちきしょう……こんな状態じゃなかったら、何だって出来る距離じゃねーか。
オレは返事もせずに、仰向けのままでただゼシカの顔を見ていた。
――かわいいよなぁ。こんな娘、滅多にいないぜ?そこら辺のバニーちゃんや踊り子のねーちゃんたちが
100人束になっても負けるよ。このデカくて柔らかそうな胸も……たまんねーよなぁ(ゴクリ)。
ただなぁ……まだ色気が少し足りねーんだよなぁ……
やっぱりこの娘、まだ男と付き合ったことがねーんだろうなぁ……。
ゼシカはポケットから薬の包みを取り出し、サイドボードに置いた。
「気休めかも知れないけど、少しは楽になるかもよ?」
「……いらねぇよ」
「どうして?具合悪いんでしょう?……少しでも楽になると思うけど」
「……いらねぇ」
「やっぱり気にしてるの?マルチェロに言われたこと……」
「あいつの名前を呼ぶなよ!!!!」
あいつの名前を出されちまったんで、思わず怒鳴ってしまった……。
オレとしたことが、レディに対して失礼だよな。
ほら、ゼシカもびっくりしてるじゃないか。
その時だった。
頭の中に突然あいつの顔が浮かび上がってきた。
そしてオレに酷い言葉を投げかける……口に出すのもおぞましい……
幼い頃からオレに言い続けてきた言葉の数々……。
オレはあいつの顔を見る度に、自分がまだ修道院にやってきた頃の
幼いままであることに気づかされる。
繊細で、傷つきやすく、泣き虫のククール少年。
「……っ痛てぇ……!」
今度はいきなり頭がキンキン痛み出した。
じっとしてられず、ベッドの上で体を何度も捩らせた。
「ちょ、ちょっと!!大丈夫?ククールってば!!!!」
心配そうな顔で、オレを見つめるゼシカ。
そんな顔するなよ。もっと笑えって、オレ言っただろう?
笑ってた方が君は何百倍もかわいいんだぜ……。
もがき苦しんでいるオレを見て、ゼシカは両手でオレの肩を揺すったり、背中を擦ってくれている。
ゼシカのそんな動きに合わせて、オレの目の前にある
ゼシカの胸が……ゆっさゆっさと揺れていた……。
おいゼシカ、オレを誘惑するなよ~。
左手がゼシカの胸に届きそうだな……
胸に手を出すように見せかけて、嫌がってる隙に唇にキスってのはどうだろう?
右手もゼシカの顎には添えられそうだし、
キスするには問題なさそうだな……あわよくば胸も触れるかもな……。
そんなことを思っていたら、左手は知らないうちに
ゼシカの波打つ胸に直行していたんだ。
次の瞬間。感じたのは柔らかい胸の感触や甘い唇じゃなく、頬の鋭い痛み。
オレの左頬にゼシカの平手打ちが飛んできていた。つまり……オレの負け。
「痛ってーな!!何すんだよ!!!」
「それはこっちのセリフでしょ!!!!」
ゼシカは髪の毛も総立ちしかねない程の怒りようだった。
「人に手ェ出すだけの元気があれば、大丈夫そうよね!!あと四時間ぐらいで夜が明けるけど、
そのころにはもうベルガラック近くの教会に着くらしいから、さっさと準備しておきなさいよ!!」
怒鳴り口調でゼシカはそう言い、船室のドアをものすごい勢いで閉めて出て行った。
再び船室に一人っきりになったオレは、ベッドの上で大の字になり、
ぼんやりと天井を見上げていた。
ゼシカが置き忘れていったランプがあるせいで、
自分の横顔の影が天井に拡大されて映っている。
――あれ?頭の中がすっきりしてるぞ。
オレ、元に戻ったんじゃないか?
ベッドの上から体を起こし、ゆっくり首を回してみた。
頭の痛みもない。いつものオレだ。
ただ違うのは――左頬の痛みがあることだけ。
ゼシカのやつ、思いっきりやりやがって……。
何だか突然腹の奥からおかしみが込み上げてきて、
オレは船室で一人大笑いをしてしまったんだ。
オレの呪いが解けたのは、ゼシカのビンタのおかげか?
それならトロデ王や馬姫様も、ゼシカに一発かましてもらったらいいかもな――
そんなくだらないことを考えていたら、急に眠気が襲ってきちまってね。
もう一度ベッドに横になってみると、サイドボードの上の、ゼシカが置いていった万能薬が目に入った。
ゼシカ、オレにとっての万能薬はこんな薬じゃなく、君自身が薬なんだ――
今度キメる時には、ゼシカにこう言ってやろう――そう考えながら眠りについた。
……ま、ほんとに言ったら思いっきりバカにされるだろうけどな。