…ここは荒廃した平原の広がるデタム平原。
作物は枯れ、生き物は死に、土地は天からの恵みを長い間受ける事ができず、荒れ果てていた。 その長い荒廃に廃村となった町は数え切れないほど存在する。この廃村もその一つである。
小さいながらも長い歴史を持つこの村。国へ救済の手を望み、叔父達の先祖が愛したこの地を救って欲しい… この村人は国へ人手が欲しいと懇願した。
しかし、今この村は廃村になっている… 理由は言うまでもない。救済の手が差し伸べられなかったからだ… 国はこんな小さな村を救うより、より大きな農地を持つ村に国は人手を派遣するに決まっている。
死滅して行く農地の作物。なおも照り続ける太陽。 その廃村に住んでいた一人の若者は「太陽」を憎んだ。作物を焼き、地を簸やがらせ村を壊滅へと導いた天空に輝く「太陽」が…
作物だけではない。友でもあり仲間であった村人もまた、照りつける太陽に
無慈悲にも死に追いやられた。 唯一の家族である家畜は今では荒野に骨として転がっている。
若者は全てを諦めかけた… 自身も皆と同じ結末を辿るのか? っと自暴自棄になるその時に、救世主は舞い降りた。
救世主は無償で力を授けてくれた。そして、苦しみから解放されるとも…
「太陽。 起きなされ。」
廃村の中の一つの建物。 村から少し外れたその建物の暗がりの中で、老いた男は寝ている青年を起こす。
寂れたベッドの上で青年は静かに目を開けると自分を起こした声の主を見て、ベットから起き上がる。
「…私は、眠っていたのか。 すまない来客にも気付かないとは…」
「いえいえ。気にする事はありませんょぅ。」
頭を下げる青年に返すようにお辞儀をするその男。
「手はずの程はどうですか?イヨゼル=フォート卿」
「ぃょふぉふぉふぉふぉ… 大丈夫ですじゃ「太陽」。」
その「太陽」と呼ばれる青年は、イヨゼルと呼ばれる男にそう問う。 すると、不気味な笑い声を浮かべる男は楽しそうにそう答え、「太陽」に向かってまたお辞儀をする。
「あなたがその名で私を呼ぶ必要はないのですよ… イヨゼル卿… もとは一農民の… その私などをそんな大層な名前で呼ぶことはない…」
イヨゼルに謙遜する青年は、改まり頭を下げる男にたいして諭すように話す。
「いいえ、「太陽」。 この地を荒廃させた愚帝レナドに反旗を翻し、苦しむ農民や他領主の希望の光となったあなた様は、全てのものに平等に空に輝く「太陽」そのものです
ぃょぅ…」
なおも頭を下げ続けるイヨゼルは、敬意を込めたように答える。 今居る反乱軍のそのほとんどは「太陽」の言い表せない魅力に惹かれた者達だ。 彼が反乱軍の実質のボスといっても過言ではない
青臭い理想を語る愚かな青年… と罵る農民も居たが、その「力」を見て考えを改め反乱軍へ入っていった者達。 理想を実現するだけの力を所有し自分達の未来を変えるだけの力を持つ「太陽」は、反乱軍の反乱成功に欠かせない「希望の光」である。
「光か… 無事に反乱が成功したときには、その後のハニャンの支配はイヨゼル卿に… 我らヘリオスの戦いを支援して下さるあなたは、我々の恩人のような者… あなたなら… あなたなら我々の苦しみを分かってくれる。 あなたになら、この国を任せられる。」
「恐れ多くも… その大業。 喜んで承らせてもらいますぃょぅ… ふぉふぉふぉふぉっふぉ…」
イヨゼルは再び不気味な笑いを浮かべると、今後の戦いについての計画書をおいてその建物から出て行く
そして、数分歩いたところに止めてある馬車に乗り込むと揺られるその馬車の中で「太陽」の前で見せた愛想の良い顔から一転、眉間に皺を寄せ苛立ちの表情を見せる。
「せいぜい、この国とやらのために働け。この国の主導権はあんな青臭い若造でなくこのワシにこそふさわしい。この国の主導権さえ手に入れば、いつ牙を剥くか分からん反乱軍のゴミもろとも貴様も粛清してくれるわ…」
吐き捨て「太陽」に対する敵意をあらわにしたイヨゼル。最初からこの男は農民を救うつもりなどなく、体(てい)のいい駒としてしか考えていない。 挙句に自身の利権の事しか考えていない悪党だ。
「
ディメスキンよ。」
頭を上げて馬車の天井に突然話しかけるイヨゼル。 馬車の外には、全身を白いフードで隠したいやになるくらいの怪しい格好をした男が、馬車の上であぐらをかいて座っていた
「よろしいのですか? あのまま利用し続けると言う手もありますぜ?」
(おそらく)ニヤニヤとするフードのディメスキンと呼ばれる名前の男は、「太陽」の力を利用し続ける提案を出す。しかし、その提案を鼻で笑いながらイヨゼルは蔑むように答えた。
「あのガキの目指す理想はワシの目指す理想とは、かけ離れとるからのう… 農民は農民らしく重苦に苛まれるのがお似合いじゃ。」
嫌な笑いを浮かべると、この男は最初から「太陽」を利用する事だけしか考えていない。
この男… 「理想」などと聞こえのいい言葉を使っているが、ようするに自身がいかに強い権力を持ち他者を抑圧するどうかにしか考えていない。典型的な悪党だ。
「哀れですな~ 利用されるだけされてポイとは… まあ、奴も元は頭の悪い農民ですし、強大な力を持つあの者を生かしておくのは危険ですな。 粛清の手はずはこちらに任せてくださいねフォート卿」
「ぃょふぉっふぉっふぉ… 頼りにしておるぞ。 貴様にもそれ相応の見返りを用意しとおいてやる。」
馬車からは二人の男の高笑いがこだまし、荒野には不気味に風がながれる
場所はシレモンに戻る…
進軍のための準備の間、再び
ヒッキー達は用意された部屋で時間をもてあます。
いよいよ、本格的に反乱軍へ攻撃を仕掛けるときが来たようだ。
落ち着かない様子で過ごすヒッキーとニーダとは対照的に落ち着いた様子で武器の手入れなどをするギャシャールとギィ。そう…僕達のもともとの目的は反乱軍の殲滅…
これで当初の目的にこぎつける事が出来たのだけど…
反乱軍の未知の力やこの国を滅ぼしかねない大災害の誘発。そして、それまでのタイムリミットも残り少ない… 条件はかなり厳しくなってきた。
「反乱軍を倒しても、「アレ」を止めなければ大雨による水没で結局は終わりニダ… あの雨と反乱軍の関連性はまだ実証しきれていないニダ。 確率的に考えて反乱軍がアレを操っていると推測できるニダね。それにしても気になるニダ… どのような原理で「アレ」を操っているニカ?」
独り言を繰り返すニーダは、相変わらず部屋の中を
ぐるぐると歩き回る
うざったそうにするギィは帯剣を磨き終え、今度はライツァー将との戦いで使った特殊な武器を手入れを始めた。
「変わった武器… でも、アレだけこれを扱えるなんて、凄い訓練が大変だったでしょ? ルアルネの常装備なの?」
ギャシャールのセイフを聞いて嬉しそうに話し出す。
「これは「流星手戟(りゅうせいしゅげき)」さ。私が隊長になった時に与えられた私だけの武器… ルアルネでは勲章の代わりみたいなもんさ。鎖の両先端には、分銅の代わりに練成した鋼の刃がついてる。」
「ふんふん… これは炭素鋼? …いや、合金か。 石柱に叩きつけたのに刃こぼれはないのを見ると、かなり特殊な素材を使って強度を上げているニダね。それにこの刃の鋭さは凄いニダ… ダイコンの戻し斬りも簡単に出来そうニダね。」
いつの間にか、隣にいるニーダに驚きオーバーなリアクションを取るギィ。
「うわ! いきなり近づいてくるんじゃないよ!! あんたはヒッキーの隣にでも行ってな!」
自分の武器を物珍しそうにみるニーダを邪険に扱い追い払おうとする。
「凄い武器ニダ… よく出来てるし隊長になれればこんないいものがもらえるニダか? すばらしいニダ。」
「そ、そうかい? 私以外にもルアルネには5番隊まであって、あたいは3番隊の隊長さ。 他の隊長も、その隊長だけが持てる特殊な武器をもってる。詳しいことは言えないが、まあ並大抵で手に出来る武器じゃないからね。」
褒められた瞬間にずいぶん饒舌になるギィ。 おだてに弱いのか? ニーダは食い入るようにその武器を見ている。ギィは複雑な顔をしながらもさっきの様に無下に追っ払おうとはしない
「…」
部屋の隅のほうで、そのやり取りを見ているだけのヒッキーに少しギャシャールは疑問に思う。主人公なのに会話が皆無なのはいつもの事だが、うつむいたまま何か考え事をしている。
「ヒッキー?どうし…」
「雨だ! 雨が降ってきたぞォ!!」
話掛け様とするギャシャールだったが、突如にしてそとから衛兵の叫び声が聞こえて来る。
「やばい…! もう降って来たのかい!?」
「落ち着くニダ! 本格的に雨が降り始めるまで、まだまだ時間が掛かるから心配しなくても… って、ギィ! どこに行くニダ!?」
「外に決まってんだろ!? このハゲ!」
「ウリはまだハゲてないニダ! ちょっと!待つニダ!! 外に行って何をするつもりニダァァァ…」
何が出来るでもない… 外に飛び出していくギィにニーダもつられて着いていく。
「はぁ ヒッキー行こう。」
「うん。」
ギャシャールもヒッキーも、外の様子が気になりギィとニーダが飛び出していった外に出て行くことにした。
「痛っ!」
「これが… 雨?」
空から降ってくる大粒の雨。ヒッキーの腕に落ちると、普通の雨では得られない衝撃を受け腕には痕が残り赤くなる。
叩きつけるような天空からの大きな水滴は、地面に落ちると水風船を地面に叩き落した様にバチンと弾ける派手な音を立てる。
「こんなのがザーザー降ってきたら
ハニャン連邦じゃなくたって水没しちまうよ…」
土が固い平原ならなおさらだが、こんな化け物じみた大雨が本格的に降り始めたら、どんな場所でも洪水が訪れてしまう。
「ハニャンに一年ぶりの雨… ってことは予想通りニダ! ウリの仮説は正しかったニダ!流石はウリ!!コンヴァニアが誇る…」
「黙ってろ」
「痛ぁ! …ウウウ でも、急がないといけないニダ。反乱軍がアレを操ってるならすぐにやめさせないと…」
この一大事に、無神経に大喜びするニーダをうんざりした表情でギィはどつく。
ニーダは殴られた場所を痛そうにさすると、反乱軍がおそらく操っていると思われる天候の変化をやめさせないといけないと話す。
そういえば、反乱軍がアレを操っているといっても誰がどうやって何を使ってあんな大規模に天候を変化させているのかわからない… これでは、彼から起こる戦いに勝っても雨を止める事は出来ない。
それじゃあ意味が無いじゃないか?
「でもちょっと待って。 反乱軍がアレを操ったとは限らないと思うな… 単にアレを自分達が操ったものと「見せかけ」の脅しをかけてきただけかもしれない。」
よくよく考えればそうなのかもしれない。反乱軍と言えどその正体はほとんど農民だ。もし土地を洪水で壊滅させてしまえば、戦いに勝利する事が出来ても今以上に彼らの生活は脅かされる事になる。反乱軍はこれから起こる水害を単なる脅しとし、レナド大将軍達を脅迫しているだけかもしれない
「…! そうか、第三者がいる可能性もあるって事か。 「アレ」が反乱軍とは全く関係ない場合も… おい、ニーダ! どうなんだい!?」
反乱軍の連中は関係なく、第三勢力の存在も考えれる… といっても、その第三勢力は誰かとは分からないが…
「…「アレ」を操ってる奴自体が、反乱軍の仕業に見せかけてるだけかも知れないニダがね…」
「それも可能性としては考えられるニダが、しかしレナド大将軍に反乱軍の脅しの手紙が届いたのは「アレ」が出てきてすぐニダ。「見せかけ」としてならあんな、都合よく早くは手紙は届かないニダ」
「確かに爆発起きてすぐには手紙は届かないっか… でも、これでやる事は決まったね。」
「ああ!反乱軍の野郎達が操ってんなら、そいつらを倒しちまえば良いんだ!」
さっきも言ったが、反乱軍がアレを操っているといっても誰がどうやって何を使ってあんな大規模に天候を変化させているのかわからない… 確かに反乱軍のことを捨て置くわけには行かないが、まずは洪水を止めないと大変な事になる。
「それが賢明ニダ… あの爆発も、実際喰らえば城は壊滅とは言わないニダが大
ダメージを負うニダ。洪水までの時間も秒読み… 行動は早ければ早いほど言いニダ! って言っても、ハニャン連邦が軍隊を編成するまで待機しておかないといけないから勝手な行動はできないニダが…」
ニーダも、内心はそう考えているが、あれの大元の元凶が何なのかは分からない… 実際反乱軍が操っているかどうかも定かではない… 分からない事だらけだ… だったら、自分が今できることをするしかない。
「…」
戦意を高めるギャシャールたちを尻目に、暗くうつむき鬱
オーラを発するヒッキー。 そのマイナスのオーラを感じ取ったギャシャールは様子がおかしいヒッキーに声をかける。
「どうしたのヒッキー?さっきから「痛っ!」しか言ってないよ?」
「…皆は。」
なおもうつむいているヒッキーは、静かに口を開いて不安そうに見上げると思い切ったように皆に質問をする。
「ん?」
「皆さんは怖くないんですか…?」
ヒッキーは正直怖くてたまらない… 何十万ほどの反乱軍に、国一つをも滅ぼせる力とも戦わないといけない。もしかしたら死ぬかもしれない… そんな状況の今が怖くて不安で仕方がない
それなのに自分以外の皆は、臆した様子もなくそれどころか戦意を奮い立たせているではないか… 自分が情けなると同時に彼らのその勇気の秘密が知りたかった…
「今更… 怖いに決まってるじゃないかい」
「へ?」
ギィの即答の返事に呆けたように反応するヒッキー。怖いに決まっているなんて… あれほど強いギィがさらりと弱いところを見せてヒッキーは困惑する…
おおかた、「あの程度でビビッてんじゃないよ!」と叱咤されると思っていたのだが、全く予想もしなかったその回答にしばし固まる
「もしかして、僕達がぜんぜんアレを見て動揺してないとでも思ってたの?」
ギャシャールもヒッキーに、自分も心の揺らぎがあることを伝える。 港で絡んできたチンピラを一瞬で地に伏した歴戦の戦士である彼女達… 今までの幾多の逆境も跳ね返して来たに違いないと思っていた。
しかし、実際は訳の分からない力で港を壊滅に追い込んだ「アレ」に皆は恐怖していたのだ。
「でも… 反乱軍と戦うって事は「アレ」とも戦わなければいけないんだよ!?それなのに… 皆は…!」
「皆、「怖い」以上に強い感情で動いてるだけ…」
恐怖を感じていても、それを表に出す事もなく行動する彼女達。 自分達は「恐怖」の感情以上の強い感情によって動いていると話す。
自分にはどうしても分からない… 確かに今までにも怖いことは沢山あった… それでも、怖いのを「我慢」して何とか行動に移していたけど、今回の様に圧倒的な何かに立ち向かうのは自分には無理だ…
かつて、
ヴァイラ教に居た時もそうだ… 「甘言」によって入信させられ、正気を失わせ忠実な信徒へと変貌させられる人々…
自分はなぜか正気を失う事はなかったが、それでも逃げ出せば殺されるかもしれない… 「恐怖」によってそうすることが出来なかった。
ララモ党に潜伏し成り行きで今はここに居るがもし、ギャシャールに会わなければ…
殺される恐怖に負け逃げ出す事が出来ず、今日の今までララモ党の「平和」にすがり付いていたに違いない…
「ウリだって… トイレの怪談話を聞いた後に夜中にトイレがいきたくなったときは、怖くても我慢して行くニダ… 漏らすのはもっと嫌だからニダ」
「…?」
ニーダが何やら分かりやすく? たとえ話をしてくれる… 分かったような分からないような…
「たとえが微妙… まあ、そんな感じ。」
そんな感じ、と言われても… 今の説明で分かった人は一割程度だと思うが…
「傷つくのは怖い。ましてや傷つけるのも怖い。でも、それ以上もっと嫌なことがあるんだよ… そんな感情に負けて何もしない事さ。」
ギィの言葉を聞いて まあ、ようするに負けず嫌いなだけ… と、静かな声でつぶやくギャシャールだが、自分も確かにそうかも知れないとギャシャールは考える… 自分で突っ込んでおきながらそれを肯定するのもアレだが…
「皆は「強い」ですね。」
皆も怖かったんだ。 それを克服する事が出来る凄い存在だ… 自分もいつかはこんな風に恐怖を克服できる事が出来るのでだろうか?引き篭もりの自分には皆が凄くまぶしく感じる。
「悩みならどんどんウリに打ち明けるニダ! ヒッキーはウリの親友ニダ!」
「43歳にもなって、15の若者に親友って…」
「ヒッキー。ここはキモイの呪文だよ!」
でも、皆はこんなに近くにいる。 もう、ヴァイラ教にいたときの様に遠い存在ではない… いつかは彼らの様になりたいと心からヒッキーは思った。
「何をやっているんだあいつ等は…」
部屋の中でライツァー将は降りしきる雨の中で、4人で馬鹿騒ぎをしているのを呆れたよう様子で見ている。
「うらやましいです」
レフティスはそれを見て、無邪気に騒ぐ子供のような彼らをうらやましくてたまらなかった。自分は幼少の頃そういって遊ぶような記憶がなかったからだ。
両親はすでに他界していないが、母の英才教育によって物心ついたときから教育を受けつづけた。礼儀や節度、戦略に至るまで夜通し教え込まれた。
「…」
ライツァーも同じだ。他界した父に幼い頃から戦いの手ほどきを受け、子供が玩具で遊び始めたそのときから無骨な鋼の武器を手にして訓練されていた。
今では王の側近として、将軍の右手と言われ槍術では右に出るものはいないが、血反吐を吐きながら子供の時代を犠牲にした訓練の賜物だ
二人は兄弟であれ、共に遊んだ記憶は何一つない。
「くだらない事を言って、すみません。 …ところで、反乱軍へ攻撃するための準備を今しがた整えていますが」
「とうとうか… しかし、準備時間はかなり短いな。」
「もしアレが反乱軍が操っているものでなかったらどうなるのでしょう… そうなれば、彼らは…」
「下らん事は考えるなレフティス。 遅かれ早かれ、反乱軍とは戦わなければならない。 もう、避けては通れん」
反乱軍をいたわる様子をみて遮るようにライツァーは発言する。
「これは個人的な頼みなのですが… 私も戦場へ連れて行ってはいただけませんか?」
「お前は参謀であろうが。 本来は王の隣にいなければならない存在。 それは諦めろ。」
「そんな事を言って… 本当は私を戦場へ行かせたくないのは、分かっています。しかし…」
「分かっているなら言うな… これ以上な。」
「反乱軍ヘリオスが何を考え何をなそうとしているのか… 今後、同じようなケースの事件が起きても対応に困らないよう情報が欲しいのです」
「しつこいぞ! いい加減にしろレフティス!」
聞き分けの悪いレフティスに業を煮やしたライツァーは怒鳴りつける。
「何としてでも付いて行くつもりですから、しつこいのは当たり前です。 じゃあ、言い方を変えましょうか… くだらない心配なんていいですから、私を連れて行ってください」
「お前…」
レフティスは、何を言われても頑なに着いていこうとするはずだ。 おそらくOKをもらうまでずっと、この問答を続ける事になる…
「役には立ちませんが、
足手まといにはだけはなりません。 どうでしょう?連れて行っていただけませんか」
「好きにしろ、この大馬鹿者が…!」
この頑固さは筋金入りだ… こうなってはもうこっちが妥協するしかない…
「おい、レフティス! ついてくるのはいいが… 母上の様に命を落とすんじゃないぞ。」
「こんなところで死ぬつもりはありませんよ。これくらいの事で命を落とせば、亡き父上の侮辱になりますから。」
最終更新:2009年05月03日 00:59