そして、レナド大将軍の王宮に着くタカラード。
「このたびはまことにご苦労であった。」
王座で帰ってきたライツァーたちの労をねぎらうと、レフティスとライツァーは一歩前にでて跪き報告を行う
「太陽の討伐の任、このライツァー=サルタマークとレフティス=サルタマーク大臣が完遂いたしました。」
「褒めてつかわす。 そして、
ギィーラ=ジルオス そなた達もこのたびの働き、高く評価に値する。ついては…」
「発言中申し訳ないですが、この度のこの依頼に対する報酬は一切いただきません。」
「お頭! どういうことだい!?」
せっかくの大金星なのに… タカラードの突然の言葉に驚き、レナド大将軍の前であるにもかかわらず声を上げる
「こちらはあなた方、
ハニャン連邦に対して大変な無礼を働きました。 それなのに金をせしめようなんざ、ふざけてるにも程がありますぜ。」
「タカラード殿。 そのような事をお気になさらずともよろしいです。 確かに始めは少しの相違がありましたが、その正当な働きはレナド大将軍のおっしゃったように高く評価に値します。ご謙遜なさらずともここは快く…」
「そうか… レフティス大臣。 じゃあ、そいつを快く受け取るぜ、そして全部をハニャン連邦へ快く寄付する! そいつを反乱軍の奴ら鎮圧の資金に当ててくれ。」
「ちなみにその反乱軍の鎮圧とやらにもうちの部下を使ってくれ。もちろん、タダでな ギロコルテ、任せられるか?」
「了解です。タカラード様」
明らかにその場で決めたにもかかわらず、タカラードの命令に従うギロコルテ
「そ、そんないくらなんでも、そこまで我らに尽くす必要はありません! こちらはあなたがた
ルアルネ傭兵団に対して何も見返り無く酷使するなど、逆に無礼に当たります!」
「それでも、気にしない。」
「…」
何故こんなに尽くしてくれるんだ? 今後の関係を考えて、借りでも作っておくつもりなのだろうか… シンと王宮が静まり返る。
(何が真意だ?この人物、豪快さに似合わず、ずる賢いのかもしれん…)
横目で軽く睨むそんなライツァーに、突然ウィンクするタカラード。
「な、なんだ?」
ゴツイ顔から発せられるあまりにも不釣合いで愛らしいウィンクに鳥肌が立つライツァーは、身構える
「俺達、カッコいいだろ?」
「…………は?」
「カッコいいだろレフティス大臣、ライツァー将! これが俺達ルアルネ傭兵団の美学だぜ!」
「その寛大さ、器の大きさ! これでこそ正義の味方、さすがルアルネ傭兵団!他の奴らに真似出来ない事を平然とやってのける! そこにしびれるあこがれる!」
「カッコだけで生きていけるほど、この世は甘くない。 それでも、カッコ
つけるのがルアルネ傭兵団。 さあ、どうぞ呆れてください。」
「…」
「…」
「…」
ギロコルテに従ったわけではないが、口を開けて呆れるサルタマーク兄弟。 あの豪胆なレナド大将軍でさえ、想像もしていなかったその言葉を聞いて驚いている
「ルアルネ傭兵団は本当に聞きしに勝るな、レフティス、ライツァーよ。 全く… 彼らは我が生きてきた中で一番 型破りな人間だ。 タカラード殿。 」
沈黙から少したった後、愉快そう言うと、笑顔を浮かべるタカラードを見るレナド大将軍。
「なーに、今後とも御ひいきして貰う為のサービスみたいなモンですよ。 討伐ならアレだが、鎮圧戦や説得に関しての交渉はきっとコイツが役に立つ。」
「愚昧なる身ですが、宜しくお願いいたします。」
「こ、こちらこそよろしくお願いいたします。」
レフティスはお辞儀をするギロコルテを見て、我に返ると慌てて頭を下げる
「さて、俺達は次の仕事に行くとするかギィ! 気合出していくぞ!!」
それだけ言うと、レナド大将軍に背中を見せて何事もなかったかのように帰ろうとするタカラード。
「…まじで? あたい、遠征から帰ってきたばっかなのに…」
「馬鹿! そこはオーーーー! って大声上げろってんだよ!! 次は、クライムに行って仕事しなきゃな! あの兄ちゃんを助けなきゃならねェ。 そらそら、歩け!!」
「タカラード様。 依頼主から内容は極秘にしてほしいとも備考されています。 今の発言はこちらの秘匿義務を怠ったとみなされます。」
「やべ… まあ、大丈夫だろ! んじゃ、ギロコルテ。 色々面倒ごとを
押し付けてすまねぇな。」
「尻ぬぐいのするのが我ら5番隊の勤めです。 もう慣れました。」
「ギロコルテさん… すみません。」
「その言葉が聞ければもう結構ですよ。 あなたも次の依頼を控え、休みがないのは同じですから、私も文句ばかりは言えない。 それでは、御武運をタカラード様、ギィーラ。」
「ガハハハ!任しとけって!」
「同僚が頑張るってんなら気合入れなきゃねぇ。 行って来るよギロコルテさん!」
静粛には程遠いドカドカとした足音を響かせて二人は王宮を去っていく。
「なんとまあ… 精力的だな。」
背中が見えなくなると、ライツァーは自然そう口からこぼれるように言葉が出る
「個性溢れる方々ですねルアルネ傭兵団の方は。」
「まあ、知的な人間がいるのが分かっただけでも大きな収穫だ。 それにこの女はじゃじゃ馬女と違って、扱いやすそうだな。」
「ライツァー将殿! すみません、失礼を… って、ギロコルテ殿?」
「…」
謝罪の言葉を浮かべるも反応がないギロコルテに困惑する。タカラードが居なくなったにもかかわらず、なおも見送りを止めない。
「あの… ギロコルテ殿?」
仲間と別れ、寂しいのかと思い、再度声を掛けようとするレフティスはその次の瞬間に更なる衝撃を受ける事になった…
「ああ~! 行ってしまわれるのですねタカラード様///// でも、良いのですタカラード様// 私はあなたにいわれた事をこの胸に刻んで、職務に励むまでです。 あなたのお力になれるだけで、私は幾幾万の兵を得たかの様に力に溢れます////
たとえ、あなたが他の女性を見ていたとしてもそれでも良いのです。 あなたのお声が… あなたのその吐息が… わたしに大いなる力をもたらしくれるのです//// 必ずしや、このギロコルテ=ウィンドは反乱軍の鎮圧と説得を果たし あなたのその御腕に…」
「ギロコルテ殿!」
「これはレフティス大臣。 どうかなさったのですか?」
ようやく自分の世界から戻ってきたギロコルテは何事もなかったかのように振舞う。
「いえ、特には…」
「そうですか。 ああ~//// 行ってしまわれるのですねタk(r」
レフティスの返事にすばやく答えると再び自分の世界へ入っていくギロコルテ。
(ルアルネ傭兵団には、まともな奴は居ないのだな…)
真面目でお堅い印象から一変あまりの急変ぶりに、驚きを通り越して疲労を覚える二人は、討伐から帰ったばかりの疲れも相まって倒れそうになる。
そんな二人を尻目に何処から何処までも破天荒なルアルネ傭兵団に対して、レナド大将軍はまたしても微笑を浮かべる。
(これが忍ぶ恋というものなのですね…)
口を開けて呆然としているライツァーとは対極的にギロコルテを見ながら感心しているレフティスがいた。
そんな前代未聞の謁見があった事など、つゆも知らない3人は用意された睡眠に入るためにベットへ潜り込もうとしている
「さて、やっとまともなベットで寝れるニダ」
「そういえば… 寝袋って暖かいんだけど何か寝にくいんですよね。 それにすぐ下が地面って言うのもなんか余計に落ち着かないというか…」
「また贅沢言ってる。 でも、ベットのほうが寝やすいのは確かだよね。」
「…」
「ニーダさん?」
「ウリは今、唐突に気がついたニダ…」
「寝る前にまだトイレに行ってなかった、とかだったら怒るよ?」
「そんなくだらない事じゃあないニダ! これからの事ニダよ。」
「そうだ… 僕達、半ば無理矢理連れてこられたけど、もしかしてずっとギィのおつきとして連れまわされちゃうの?」
「…勘弁して。 ギィの無茶に付き合ってたらあと半年で過労死しちゃうって。」
「って言っても、どうするニダ! 皆、家なき子状態ニダよ? 行く宛てなんてないニダ。」
(もう、ニーダさんはコンヴァニアに帰るつもりは無いのかな? 最初はあんなに帰りたがってたのに…)
ニーダの言葉を聞いて
ヒッキーはその心情の変化に戸惑う。
「だったら、ルアルネ傭兵団に居りゃあいい。」
「そういう事だ。歓迎するぜ諸君!」
ノックもせずに開かれた扉からギィとタカラードがそう言って入ってくる。
「謁見、早かったね」
「ウダウダ無駄にあれ感謝これ謝罪なんてのは、めんどくさいからな。 用件言って、キメポーズ、はい終わり!っだ」
キメポーズ… はよく分からないが、とりあえず簡潔に済んだらしい。
「それはともかくだ… 行くあてがないなら来ないか?お前らの今回の働きのおかげで、何とか太陽討伐は完了した。 その能力を是非ルアルネに役立てて欲しい。」
「いきなりそんなこと言われたって… 僕達これからどうするかまだ、きちんと話し合ってないんです。」
「契約ってのはどうだ? 労働に対する正当な報酬を支払う雇用関係。 なにか自分達の用事が出来たんなら休暇を与える、それなら文句はねぇだろ?」
「そうだ… 僕達、お金なんて何一つ持ってない無一文なんだ。 もし、用事があっても今のままじゃあ何も出来ないかも…」
「お金が溜まるまでって事でよければ… それで、ある程度の優遇はしてくれる?」
「おう! 食堂でルアルネ丼食べ放題だ! 食費が浮くぜ?」
(そんなもん優遇もクソもないよ… あんなもん食わされるなら、まだレズボン鉱山で働いたほうがまだマシだっての…)
「でも… 雇うって言っても、ギーコードさんの離反も元はと言えば、
ヴァイラ教のせいみたいなもんだし… 教団に居た僕がルアルネに行ったらきっと…」
「何だそりゃ? じゃあ、お前は来んな。」
「そ、それは…」
「ひどすぎるニダ! ウリは怒ったニダよ!」
ヒッキーの遠慮を聞いて、そう吐き捨てるように辛辣な言葉を投げかけるタカラードにニーダは憤慨する
「ルアルネなめんな小僧、おっさん。 そんなちっちゃい事気にする奴がここに居ると思ってんのか? それにこりゃあ強制じゃねぇ、さっき言ったけど雇用関係だ。 気にイラねェならこの話無しだ」
「そんなちっちゃい事気にする奴がここに居ると思うんだけど…」
ギャシャールがジト目でギィを見ると、頭をガジガジと掻いてヒッキーに対してギィは静かに話す
「ヒッキー。 あんたの事ならとっくに許してる。 おかしらにも言われたけど、元ヴァイラ教に居たからってあんたを敵対視するのはもう止める。」
「ホントかニダ!?」
「最初は、なんか… 納得できなくてイライラしてたけど、もう踏ん切りはついた。 悪態つかずついてきてくれた礼の代わりだ。 今後一切あんたをヴァイラ教に居たなんて色眼鏡で見ないよ。 だから変な遠慮はもうよしてくれよ…」
「良かったニダねヒッキー! これでもう、枕を涙でぬらす事はないニダ」
「んで、どうする? ヒッキー、ホルホール、ガサール。 」
「悪くない話ニダ!ちょっと、疲れそうニダが…」
「確かに… でも、ルアルネ傭兵団って悪いところじゃないよね? ギィやタカラードさんを見てると、なんとなく分かる。」
「僕も賛成。 どうせ、行く当てもないし給料もらえるんだから文句は無いよ。」
「よっしゃあ!! 決定だぜ! 今日からお前らはルアルネの用心棒だ! っつうわけで、さっそく仕事がある。 ギィも一緒だ、よかったな!」
「過 労 死 決 定!」
「ギャ、ギャシャール?」
「そういうな、クライムって町のララモールって奴を助けなきゃならねえ。こっちはこう見えても急いでるってんだ!」
「「ララモール!?」」
聞き覚えがある名前に二人は驚く、ヒッキーは一度会っていて面識がある。ギャシャールにとっては… 何なんだろうか? 友人 もしくはそれ以上の関係かもしれない
「ガサールは
ララモ党に居たわけだ、地元の地形は詳しいだろ?よろしく頼むぜ。」
「ララモール…」
もう会うことは無いと思っていたのに… まさかこんなに早く出会う事になるなんて、嬉しさもあり反面、不安もある。 自分は任務失敗で迷惑をかけた身だ、彼に会うとしてもどんな顔をして会えば良いんだろうか…
「つう訳で出発! ルアルネの誇る飛空挺だ、乗り心地は抜群だぜ? ねむいなら飛空挺の中で寝るんだな。」
「出発するなら最後に少し位、挨拶がしたいんですけど…」
「あ~ そういうのは無しだ。 ヒーローってのは去り際は音無くしなきゃならねぇ。 黙って出発だ!」
「それに、次の謁見まであと数日は待たないといけないからね、そんな余裕は無いんだよ。 それになんだか、大忙しみたいだよ下は?」
「…分かりました」
「おっしゃあ! 船に乗り込む行くぞ野郎ども」
タカラードは嬉しそうに言うが、心の中でギャシャールとは違った不安を抱く二人がいた。
場所はシレモンから少し離れた平原に移動したヒッキーは、そこに停泊している巨大な飛行船を目の当たりにして言葉を失う。
「これがルアルネの飛空挺… で、でかい…」
「ムハー! これが宙に浮くなんて信じられないニダ、タカラード殿! ちょっと動力源が何か見せてもらって良いですかニダ?」
眠そうな顔が一転して興奮するニーダだが、ギィはそんな彼に釘を刺す。
「あんたねぇ… こっちとらコンヴァニアの科学者でさえ成し得なかった大型船の飛行能力を持ってる船だよ? その技術をわざわざ教えるはず無いだろ。」
「減るもんじゃ無し固い事を言うニダ…」
「どこでも企業秘密みたいなもんはある、勘弁してくれ」
ニーダはリーダーであるタカラードの言葉を聞いて諦めると、未練がましそうにジロジロと船を見ている。
「黙って出発か? 挨拶くらいして行ってはどうなんだ…」
「旅立つところを止めるなど、無粋なことをして申し訳ないありません。」
いざ船に乗り込もうとしている5人に後ろから近づいていく二人の男性。 サルタマーク兄弟だ。
「わざわざ来てくれたんですか!?そんな…」
「あなた達は一緒に戦った友です。 見送りくらいはさせてください」
謙遜するヒッキーに対してレフティスは笑顔でそう答える。
「まあ、何時敵になるか分からんコウモリ集団だが、それなりの活躍は評価できたのでな… 一応、ねぎらいをしておかねばと思って。」
皮肉たっぷり答えるライツァー将だが何だかんだで見送りに来てくれたようだ。
「なんだい、義理堅いね…」
「「「このたびは本当にありがとうございました。」」」
ヒッキー達は一同にお礼を言って、お辞儀をする。
「いいえ、いいのです。 皆さんのご活躍を期待いたします。」
「せいぜい金のために頑張れ。」
素直に見送りせず相変わらず皮肉たっぷりのライツァー将に皆は苦笑をうかべる
「ううう~ 名残おじいニダ… いろいろありがどうございまずだ~」
涙でくしゃくしゃのニーダの求めた握手を、嫌がりもせずに快く受けるレフティスは、あいも変わらない笑みを浮かべる
「お二方、元気でいてください」
「ありがとよ、レフティス大臣、 う○こ右野郎もね。」
ヒッキーは深く再度お辞儀をする傍らで、ギィは先ほどのお礼とばかりにライツァー将を貶すと、背中を向けて自分だけさっさと船に乗り込む。
「き、貴様は! 次に会うときはその減らず口を叩き潰してやる… 覚悟していろ!」
鋭い睨みを物ともしないギィはニヤニヤ笑いで船に消えていく。その彼女に態度が気に食わないのか拳を握り締めてプルプルと震わしている。
「最後まで仲が悪かったね二人とも…」
「ギロコルテの事をよろしくお願いする。 また、何かあったときは俺達に頼ってくれ。」
「はい。ありが…」
「わが国の事は我々で何とかするつもりだ。 部下に礼儀の一つも教えられん貴様ら連中に、頼みごとなど今後一切せん!」
「兄さん… ムキになりすぎですよ。」
「レフティス! お前が私に何の相談も無く討伐を依頼したのが全ての間違いだ! 今度の事は運が良かっただけであって、早々うまくいくことなど無いのだぞ!」
「…」
頭に血が上っているライツァーにレフティスは困り果てている。
「あの~」
「ああ、すみません。 ギャシャール殿もお元気で」
「うん。 話し相手になってくれてありがとうレフティス大臣… ハニャンは居心地が良かったよ。 ライツァー将も凄く頼りになったし、ありがとうございます。」
「私などでよければ、何時でも快くお相手になりましょう」
「もうそろそろ出発らしいから… レフティス大臣、ライツァー将。 お元気で。」
「「ありがとうございました」ニダ」
「はい」
「あの女に伝えておけ、貴様の武なぞ私には遠く及ばんという事をな!」
「し、しっかり伝えておきますニダ。」
怒りを燃え上がられるライツァーにびくつきながらニーダは静かに答える。
そして、サルタマーク兄弟を残して皆船に乗り込むと、タカラードは大声で発進を乗組員に知らせる。
「おっしゅあああああ! 発進するぞコンチクショウ!!」
「アイアイサー!」
その言葉と共に船の噴気孔から猛烈に風が吹き出すと、周辺に爆風が巻き起こり近くにいたサルタマーク兄弟を吹き飛ばす。
「うわぁ!」
「な、なにぃ!」
突然の風に吹き飛ばされそうになりそうになるが、なんとか草にしがみつき何とか耐える二人。
船はその風で高々と飛び上がると、空の彼方へと飛び立っていく。
「飛び上がる時にアレほどの突風が発生するなら事前に注意しておくのが普通であろうが! どこまでも礼儀の知らん連中だった…!」
「いいじゃないですか、彼ららしいですよ! あはははは!」
「笑い事ではない!」
体勢を整えた二人は消えていく船を眺め、ルアルネ傭兵団の見送りの報告のため、シレモンへ戻っていった
最終更新:2009年05月03日 10:39