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誰が世界を救うのか (藻式)

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匿名ユーザー

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だれでも歓迎! 編集
※この小説はハチミリ氏のFLASH「救世主猫」を元ネタにさせていただいています。
かなり自分勝手に着色しております上に、若干?の暴力・流血・陰惨表現を含むことがありますので苦手な方はご注意ください。






幼い少年と母親らしき女性が道を歩く。
雑草がまばらに生えた道は舗装もされていない粗末なものだったが、少年はむしろそれを楽しんでいた。足下に転がる小石を蹴り、遠くに飛ばすことに夢中になっている。
ピンと尖った耳とせわしなく揺れる長い尾が、その熱中ぶりを表していた。
女性は微笑みながら少年の様子を見ていたが、ふと前方の人影に気づくとその表情が微かに強ばった。
夕暮れ時の田舎道には珍しくもない、大きな鞄を背負った行商人。遠目にそれを確認すると、女性の表情の緊張は少しだけ解ける。

だが、その時。
少年が蹴り上げた小石が勢い良く風を切りながら行商人の方に飛ぶ。
それは子供が蹴ったにしてはあまりにも強烈な飛び方と早さで、行商人の足下の小石を跳ね飛ばした。その歩みが驚きで止まる。
女性が慌てたように少年を連れてその側に駆け寄った。
謝罪する女性に行商人は笑って首を振る。少年の脚力を褒めながらその頭を撫で、鞄から小さな飴を取り出してその手に握らせた。

しばらくの間道の向こうに手を振っていた少年はやがて向き直り、再び女性と道を歩き出す。ややあって女性が口を開いた。
「―――」
呼ばれた自分の名に、飴をころころと頬の内で転がしながら少年は女性の顔を見上げた。
「あのチカラは使わないようにって、言ったでしょう?」
「でも、今のひとはなにも言わなかったよ」
「人前だから駄目っていうんじゃないのよ」
納得いかないように少年は下を向き、再び小石を蹴飛ばした。今度は慎ましく転がり、道端の土くれの一部に収まったそれを見ながら、少年は拗ねたように口を開く。
「そんなに『悪い』チカラなの?」
一瞬の間の後、女性は弾かれたように少年を抱きしめた。驚く少年に、女性は押し殺したように言葉を紡ぐ。
それは少年に聞かせながら、自身に言い聞かせているようでもあった。

―――違うの、それは―――それは、『悪い』ことなんかじゃないのよ―――








お世辞にも豪奢とは言えない、むしろどちらかと言えば廃屋と呼べそうな小さな平屋。
ちっぽけな埃っぽいベッド、古ぼけた軋む椅子一脚、少し触れればがたがた揺れる四本足のテーブル。
ぎりぎりキッチンと呼べそうなスペースにあるのは、衛生面がこの上なく心配な錆の浮きかけた蛇口とその下で常に曇ったシンク。
そして申し訳程度に置かれたガスコンロとまな板、そこに転がる小型の万能包丁。床に鎮座したあまりにも小さな冷蔵庫。
平屋におけるたった一つの殺風景な部屋を構成するのは、大体そんなものだった。
そして、そのおおよそ非文化的な部屋にも住人はいた。
ベッドの上の薄い掛け布団の膨らみがその存在を誇示している。

既に陽は高い。
陽光はひび割れたガラス窓から、その寝坊助に向けて容赦も遠慮もなく差し込み続けていた。
「……うぅ…」
呻くような声とともにもぞもぞと掛け布団が内側にまるめこまれる。眠りの縁から呼び覚まされつつある睡眠者の、それはせめてもの抵抗だった。
だが続いて鳴り響いた自身の空腹を訴える腹の音によって、三大欲求内のせめぎ合いはあっさりと食欲に軍配が上がったらしい。
「…畜生、腹減ったぞ…」
まだ寝ぼけ半分ではありつつも襲い来る飢餓感には勝てないらしく、わりとしっかりした口調と動作でこの部屋の唯一の住人たる青年が顔を上げ、ベッドを降りた。
短めのものにもかかわらずその青い体毛は寝癖がつき、耳は垂れ尾は殆ど引きずらんばかりというだらしのない様相ではあったが。
そんな重い身体を引きずりながら清潔とは呼べないキッチンで朝食の準備を始める青年。

名を、ギコという。





少女は走っていた。
わき目もふらず、ただただ走っていた。
走るたびにその背はひきつるように痛んだが、今の少女にはそれを構っている余裕などなかった。
息がどんなに苦しくとも、今の少女には止まることは許されなかった。
ただ、走らなければならなかった。
理由などない。いや、あったのかもしれないが、それは少女の知るところではなかった。
それがわかったら、それを知っていたら、どんなによかっただろう。

わたしにはなにもない。

泣くことも叫ぶこともできないまま、そもそも何に叫ぶべきなのか泣くべきなのかもわからないまま、少女は走り続けていた。





「それで?」
広く整った部屋。煌びやかな照明。豪勢な室内の装飾。選びぬかれた品のいい調度品。
重厚な椅子に座る、青年の穏やかな声音。
どれをとっても恐怖をもたらすような要素などないにもかかわらず、這い蹲る男の顔色は蒼白を通り越して殆ど紙のようであった。
その顔にはびっしりと脂汗が浮かび、その視線は正面に鎮座する青年ではなく床だけに固まっている。
まるで、見る事を恐れているかのように。
見るものが見れば、その男が、鳴りそうな歯を抑え込むのに必死だという事にも気づいたろう。
恐怖する男。この広く美しく部屋にそぐわない、唯一の因子であった。
だがその恐怖の対象であろう青年そのものは、全くもって穏やかな態度をとっているように思えた。
頬杖をつき、その口元には微笑さえ浮かんでいる。
「さあ、報告しろよ」
「…はッ、はいっ!」
平伏して返事をした男のその声は早口でみっともなく裏返ったもので、青年のゆるやかな声音とはどこまでも対照的であった。
「…そ、そのッ…自由時間の際ッ、担当のものが目を離した隙に乗じて、逃走を…。す、すぐに追跡したのですがッ撒かれギッ」
男の言葉はそう長くは続かなかった。
青年が気だるげに振った手にあわせるように、男の首だけが外れ、床に転がっる。
うつむいていた為に血は案外飛び散らず、ただそこに敷かれた絨毯に血溜まりをつくり、また一部は吸い込まれていった。
青年は椅子から立ち上がり、それを見下ろす。
その視線は、何も孕んではいなかった。
哀惜や同情の念はもちろんのこと、軽蔑や憎悪さえも。
道端の石ころでも見るような、全くの無価値な視線であった。
そのまま青年は視線を外し、窓から街を見下ろす。
陽光に照らされた街は、ネオンを輝かせる夜に比べてどこか頼りなく貧相に見えた。

どこかにいる。何も迷う事などない。

ゆったりと室内に振り返った青年は、壁に備え付けられた仕掛けを起動して部下を呼び出した。
「探し物」の為の指示を出す為―――ついでとして、床に転がった「ゴミ」の始末をさせる為だ。
穏やかに指示を出すその口元には相変わらず微笑が浮かんでいた。ただ、それはどこか作り物めいたものであったのだけれど。

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