第1話
闇商会ブラックナイツ。
アグス王国最大の犯罪組織。『いけねぇキノコ』や『あぶねぇキノコ』の密売から、売春、暗殺までを手がける超大手組織。
正規軍による討伐…失敗。大手冒険者ギルド『月河』への討伐依頼…失敗。しかし戦って敗れたわけではない。いかなる情報網を用いても、ブラックナイツの本部を発見できなかったのだ。
末端の構成員を捕まえたこともあるが、彼らは何も知らなかった。トカゲの尻尾切り。本部を直接叩かなければどうにもならない。しかしその本部が見つからない。故に、国王ミラクルは頭を抱えていた。
そこそこの実力者を捕まえなければ、意味が無いという事だ。例えば…目の前の女…とか。
「何がそんなに可笑しいの?」
女が問う。青い髪と青い瞳。透き通るように白い肌と、端麗すぎる顔立ち。その女はまるで人形の様だった。
「いやいや、まさかブラックナイツの暗殺者がうちの所にくるなんて思ってもみなかったからね。あは」
男…知らない者など、少ししか居ない、アグス王国の創立者で龍殺し。生ける伝説のミラクルは、確かに笑っていた。
「あらそう。あたしは葉奏。これから貴方を地獄に叩き落す死神よ」
女…葉奏は微笑し、付け足した
「自慢してもいいのよ、地獄でね」
「葉奏ちゃんさぁ、うちのこと甘く見てない?」
1年近くまともな戦闘をしてないとはいえ、高位魔術師で龍殺し。甘く見ているはずがなかった。
「うちの寝室に押し入ったこと、後悔させてあげるよ。ベッドで♪」
言い終わったと同時、二つの火炎球が葉奏の頭上に出現。落下。「くっ」体をひねり、紙一重でそれをかわす。火炎球は床に当たって弾け飛ぶ。その余波で、葉奏のお気に入りの黒いマントが少し焦げた。
「…ちょっと、ベッドに辿り着く前に灰にするつもり?」
「今のが避けられないなら、捕まえても意味ないし〜。うちとベッドを共にする資格もないね」
「…あんた何様?」
「王様♪」
「戯言を・・・」
きっ、と葉奏がミラクルを睨みつけ。
「これはお返し!」
葉奏が右手をミラクルのほうにかざす。刹那、右手から炎の槍が飛び出し、ミラクルに襲い掛かる。
「ふぅん」
炎の槍はミラクルに当たる直前で、弾けて消えた。
「葉奏ちゃんも詠唱無しで魔法が使えるのね」
「腕一本すら動かさずにかき消すなんて化け物?」
質問してから、きつく唇を噛んだ。口内に血の味が広がった。
葉奏は今更ながら、少し後悔した。こんな仕事、断ればよかった…。心の中で呟いた。
「こんなナイスガイに化け物とは失礼な!」
ミラクルがぱちん、と指を鳴らした。
突然、葉奏の両足が、鉛のように重くなった。そして両腕。耐え切れず、床に倒れこむ。
「何を…」
足も腕も、自分の物では無いような錯覚。
ミラクルは葉奏に近づき、膝を付く。それから片手で葉奏のあごをつかみ、無理やり顔を上げさせる。
「ほんっと、綺麗だよね〜。キスして良い?」
問いかけに
「殺す…」
短く答えた。
「つれないなぁ。まぁ良いや、葉奏ちゃんぐらいの実力者だと、もうそろそろ麻痺がとけるかな」
ミラクルは葉奏を抱き上げ、ベッドへと運ぶ。それから優しく、ベッドに寝かしてやる。葉奏は抵抗しなかった。麻痺はすでに解けていたが、けっしてベッドシーンを期待したわけではない。ミラクルの放つ殺気が、あまりにも恐ろしかったから。動くに動けなかった。
「葉奏ちゃんって、ヴァンパイアだよね?」
「そうよ…だから詠唱無しで魔法が使えるの。もっとも、あたしは格闘のほうが向いてるみたいだけど」
無駄に豪華なベッドの上。葉奏はミラクルの隙を探した。…どこにも見つからなかった。
「ふぅん。格闘なら、うちに勝ち目はないね。あはは」
「それで? まさか本気でベッドシーンやるつもりじゃないでしょう?」
ミラクルはにやっと笑い
「やるつもりだよ。話のあとでね♪」
葉奏の頬に触れた。
「黙ってあたしに殺されてくれるなら、考えてもいいわよ」
自分の頬に触れている手を、軽く払いのける。
「なんでそんなにうちを殺したいわけ? 依頼されただけでしょ? 倍額出すから裏切っちゃえ♪」
葉奏は少し考える素振りを見せ
「…無理よ。ブラックナイツが裏切り者を生かしておくわけない…」
その申し出を断った。
倍額に釣られそうになった。いや、正直釣られたい。所詮は金の為にやっているのだから。しかしそれはできない。裏切れば、待っているのは確実な死。しかも拷問のおまけ付き。今ここで、ミラクルに殺されたほうがずいぶんマシだ。
to be continued