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プロローグ

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プロローグ

この大地を創造したのは、四十八種の龍だという。
 龍は恐るべき力を持ち、全てを知る知を持ち、決して死ぬことはない存在だという。人は創造主たる龍に刃向かう力もなく、ただ人は龍を神として崇(あが)めたたえた。
 二年前までは。
 龍の恐るべき力に、刃向かおうとする愚者は数多く存在した。しかし、そのほとんどは龍の力の前に身を焼かれ、刻まれ、屍(しかばね)すら残ることはなかった。
 ただ、四人を除いては。
 のちに『龍殺し』と称えられる四人は、龍という神的存在に、人の身で打ち勝つことができたのだ。

「で、この龍殺しというのが、現在の冒険者ギルドの発端(ほったん)となったわけ」
 昼間でも騒がしい、アグス王国王都ジルベ・オリンの宿屋兼酒場『ルナシェイド』の一角で、女が連れに向けてゆっくりと喋っていた。
「龍を倒すということは、即ち神に勝つことと同意だからね。龍を倒した者にはこれ以上ない名誉が与えられる。現実にこのアグス王国も、二年前の龍殺しが一人『高位魔術師』と称されしミラクル王の創設した国だしね。他の三人もそれぞれに大手の冒険者ギルドを構えてるし、どれだけの名誉かは分かるでしょ」
「まあね」
ふっ、と溜息をついて、連れの女が答える。
 そのテーブルに座っていたのは、奇妙な3人組だった。
 饒舌(じょうぜつ)に語っていたのは、青い髪の女。髪と同じく透き通るような青の瞳は、宙空のどこかをぼんやりと見つめている。露出度の高い黒の服を、同じく黒のマントで包み、薄く開いた口許からは鋭く尖った犬歯が見え隠れする。血の気の引いたような白い肌と端正な顔立ちはどこか人形を連想させ、大陸でも数少ないヴァンパイアだと知れた。
 対して連れの片方は、濃い紫の長衣を羽織った不気味な女。長く伸ばした黒髪が顔の半分を隠し、さらに目深(まぶか)にかぶったとんがり帽子のつばが、その目許も隠している。ごく一般的な魔道師の格好ではあるが、ここまで不気味なのも珍しい。
 そして三人目――これが最も奇妙だった。
 身長は目測で約20cm。背中には透き通った羽虫のような羽根を生やし、しかし見目は人の女そのもの。人里離れた森の奥に住まうといわれる、稀少(きしょう)な妖精の一族だと分かる。体に見合ったサイズのティーカップで花蜜のジュースを飲みながら、鮮やかな薄緑の髪をかき上げる姿は、あまりにもこの俗な場所に合っていなかった。
 見目にも、種族としても全く合っていない三人組。誰がどう見ても、この三人の関係は一言で言えた。
 冒険者である――と。
「まあ」

ヴァンパイア――葉奏(はかな)は、軽く肩をすくめて話を続けた。
龍殺し、っていっても、実際に龍を殺せるわけじゃないけどね。大地創造の四十八龍は、即ち神。決して命尽きることもないし、ましてや人に命を奪われるわけがない」
「じゃ、何で龍殺しって呼ばれてんの?」
 妖精――ティンカーベルが口を挟む。待ってました、とばかりに葉奏が微笑んだ。
「龍を殺すことは不可能でも、龍と戦ってある一定のダメージを与えれば、龍はしばしの眠りにつくらしいよ。龍殺しの四人はその間に、寝ている龍から牙、鱗、血の三つを持って帰った。だから正確に龍殺しっていうのは、龍の体の一部を持って帰ること、ってわけ」
「へー」
龍殺しの四人が倒したのは、『甲鱗(こうりん)の龍ティアマト』っていう、でっかいトカゲみたいな龍らしいけど」
「へ?」

葉奏の一言に、魔道師――歌妃(うたき)が異論を挟む。
「龍ってみんな、でっかいトカゲみたいな姿してるんじゃないの?」
「こらこら、それは龍に失礼だって。龍っていうのは、四十八種の神々の総称でしかないからね。ヴァンパイアの始祖、『血啜(ちすすり)の龍リュカ』なんかは、人間の男みたいな姿をしてるらしいよ」
「へぇ〜」
ティンカーベルが感心したように頷いた。
「さすが姫。物知りだねぇ」
「今はまだ無理だけど・・・」
そこで言葉を区切り、ホットコーヒーを一口すすった。
「いつかは、『愛染(あいぜん)』で龍殺しをやろうね」
 冒険者ギルド『愛染』。創立して半年、まだ四人しかいない弱小ギルド。
 しかし志は大きく、それを止められる者は誰もいない。
 誰も――それを止められるかのような事件が翌日に起きるとは、予想できていなかったが。

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