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第4話

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第4話

「・・・全く、何でこんなガキんちょ捕まえないといけないんだか・・・」
 はぁ、と大仰に女が溜息をつく。小柄なショーティよりもさらに頭一つ分は小さいであろう少女である。しかしどこか生き疲れたかのように表情を歪め、愛らしい顔が台無しになっていた。
「・・・」
少女の対面にいる全身鎧の大男は、沈黙でそれに答えた。
 逆に動きづらいあろうと思われるほど、重厚かつ巨大な鎧。体格だけでも、ただでさえ小柄な少女のゆうに三倍はある。紅の鎧は返り血を隠すためのカムフラージュか。人間らしさが垣間も見えない姿は、どこか機械を連想させる。
「・・・相変わらずアンタは無愛想だねぇ。ま、ぐだぐだ喋り続けるような変態妖怪よりはマシだけどさ」
愛らしい顔に見合わぬ、乱暴な言葉遣い。どこか似合っているのは、その身にまとう雰囲気のためか。
「つーか、こんなガキんちょさらって来いだなんて、ついにロリ属性でもついたんか? アイツ」
 がっ、と少女の肩を大男の手が掴(つか)む。骨の折れる鈍い音と共に、少女の肩が力なく落ちた。
「ふん、悪口を言われたら攻撃するようにプログラミングされてんのかい?」
痛みなど微塵(みじん)も感じていないかのように、少女が皮肉を言う。
「それともアンタの意志かい? アルバート」
 痛めたはずの肩へと、大男――アルバートの手に重ねるように手をやる。どこか優しく、しかし皮肉げに。
「そんな顔すんなよ。悪かった」
はぁ、と少女が大仰に溜息をつく。
「大丈夫さ、アンタもわしも――機械人形アルバートも、ホムンクルス『切り裂きリックス』も、アイツなしじゃ生きていけないんだからね」
 少女――リックスがそう呟いて、アルバートも満足したのか手を放した。
 三人を乗せた馬車が進む。誰も知らない、『科学の妖怪』が根城へ。

「あのヤロォ・・・一人で行きやがったのかよ・・・」
 眉間にしわを寄せて、エースが煙草を噛み潰した。目の前には申し訳なさそうな顔をしたピノモカと、頭に包帯を巻いたエクリプスが座っている。
 葉奏、及び尚徳から言われた、『ショーティがさらわれた』という事実。一人で先行したディスを恨みつつ、エースは灰皿で煙草をもみ消す。
「・・・その、何だっけか」
再び煙草を口にくわえ、溜息混じりに。苛々(いらいら)すると、どうにも煙草が増えるらしい。
「『科学の妖怪』ベロとかいう変態に、ショーがさらわれたのは間違いないんだな?」
「まず間違いないね・・・」
沈んだ顔で、エクリプスが肯定する。
「俺達の前に現れた二人の刺客――そのうち一人は、葉奏さんと昔戦ったことがあるらしい。『科学の妖怪』ベロの最高傑作、アルバート試作型の改良機・・・」
「・・・自動で動く人形か・・・そんなもの、存在するのか?」
「存在してなきゃ、あの男の存在が説明できない」
エクリプスが再び、溜息混じりに呟いた。
「信じられるか? 俺の二倍以上は背丈があった。あれが人形じゃないとすれば、バケモノ以外の何だよ・・・」
「ちっ・・・」
エースは眉根を寄せ、パチン、と指を鳴らした。
「少々お待ちをぉぉーっ!」
という声が遠くから聞こえてくると共に、部屋へと男が飛び込んでくる。全力疾走したのか、汗だくでひどく息が荒い金髪の男。
「ケンゴ、呼んでから来るまで五秒以内にすませろって言ってるだろうが」
 金髪――『月河』の専任情報収集係、ケンゴががっくりとうなだれる。
「いくらオレが早くても、百メートルを五秒で走るのは無理です・・・」
「その辺りは気合でどうにかしろ」
身も蓋もない言葉に、ケンゴはまた表情を歪めた。
「で、分かったか? 『科学の妖怪』ベロの根城は」
「・・・分かりませんでした・・・」
「死ね。死んで詫びろ。そしてあの世から情報をもらってこい」
「いや、その、あの、聞いてください・・・」
ケンゴが息を整えながら、呪文詠唱に入ったエースをなだめる。
「情報収集にかけては、オレもいささか自信があります。しかし、その情報網全てを使っても、少しの痕跡さえ探ることができませんでした。どんな情報網にも引っかからないように情報操作をしているか、または、誰も知らない辺鄙(へんぴ)な場所にあるのか、どちらかです」
「・・・結局わからねーのかよ」
うーん・・・とエースが頭を抱える。
「こんなんじゃ、ディスの足取りもつかめねーだろ・・・」
「あのあの」
言葉は、これまでにない方向――ピノモカだった。
「だったら・・・ディスさんどこいったんですか? 場所も分からないような敵を、どうやって倒そうっていうんでしょう・・・?」
「・・・さぁな・・・」
 四人で頭を抱える。結局、結論は出そうになかった。

「よぉ、ディス」
酒場『ルナシェイド』の入口で、少し驚いた顔をしたシュヴァルベが言った。
「お前がここに来るなんて珍しいな。でも悪ィ、今ちょっと閉めてんだわ」
 酒場の中を覗き込んでみると、ほぼ半壊状態と言ってもいい惨状である。テーブルは倒され、皿は割れ、料理は飛び散り、中には血痕もある。従業員たちが必死に掃除をしていた。
「・・・なんか、いきなり暴れたやつがいたんだって?」
「ああ」
苦い顔をしながら、煙草の煙を吐き出すシュヴァルベ。
「うちも冒険者ギルドだから、少々の荒くれ者なら捕まえる自信があったんだがな。ティファも必死に抵抗したんだが、全治一ヶ月の重症だよ。ティファで止められないなら、誰がかかったって無駄だよ」
「・・・そうか」
ふぅ、と溜息をついて。
「あいつは、二階か?」
「用事か? 身重だから、あんま心配かけたくねぇんだがな」
「すぐに済む」
 ディスは返答も聞かず、ずかずかと酒場へ入っていく。リオが黙って、その後をついていった。
「・・・ディス」
聞こえないとは分かっているが、呟かずにいられなかった。
「久々に見たよ。『流星矢』のお前を」

『システィーナ♪』と書かれた部屋の扉。ディスは二、三度深呼吸をしたのち、扉を叩く。
 内側から高く澄んだ声で、「はい?」と帰ってきた。
「よぉ」
扉を開き、中へと入る。
「・・・なんだ、意外と元気そうだな」
 窓際に置かれているベッドに寝ている、腹の大きな女。三つ編みにした栗色の髪と、窓から注ぐ日光、そしてひどく色白の肌が、まるでサナトリウムを連想させる。
「あら・・・久しぶりね、ディス」
 満面の笑顔を浮かべて、女が嬉しそうに言った。ディスもまた、微笑を浮かべる。
「ああ、随分久しぶりだ」扉を閉め、軽く辺りを見回して――。「梨紅」

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