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第9話

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第9話

「あんた……強いねぇ……」
 片足が焼き切れたリックスが、荒い息混じりに呟く。
 感電で半ば麻痺しているであろう声音で、ろくに聞き取れないような小さな声で。
「……人間やめてない奴で、ここまで強いのは初めて見たよ……」
「……そりゃ、どうも」
 簡潔に答えを返す。そして、弓を引き絞った。
 片足を失い、地に伏せるしかないリックス。最後の『稲光』を撃てば、それだけで殺すことができる。
「殺しなよ。わしができる最後の忠告さ。今、ここで殺しておかないと、わしはいずれ、必ずお前を殺しに行く。だから殺しな。簡単だろう? その右手を離すだけで、わしは死ぬ」
 ディスはその言葉を聞いてもなお、弓を引き絞ったままで固定する。
 ぐずぐずしている時間などないのに。一刻の猶予もないのに。それでも――
 ディスは、引き絞った弓から力を抜いた。
「あーっ! しち面倒くせえっ!」
 肩をすくめる。同時に、ディスをまとっていた雷の鎧が解けた。大気に霧散した雷は微かな放電と共に収束し、人の形を造る。
「殺すだの死ぬだの殺されるだの何だの、面倒くせえことは大っ嫌いなんだよ」
「……ディス、甘すぎ」
 弓を肩にかけて、ディスはそのままやんばるくいなの背に乗った。リオもそれに続く。 「……わしを殺していかないのかい?」
「ああ。どうせすぐ再生するだろうから、このまま放っておくぞ。もう邪魔すんな」
 リックスはその言葉と共に、可笑しそうに笑った。けらけらと――ひどく乾いた声で。
「甘いね。甘すぎるよ。わしはこの程度の傷なら、半日あれば回復する。そして回復したら、すぐにでもアンタを殺しに行くよ。ディスレイファン。わしは手段なんて選ばんよ」
「だったら何回でも殺しに来いよ。同じ数だけ追い返してやる」
 ふん、とディスが鼻を鳴らして、面倒臭そうに頭を掻いた。
「俺はな、今日と明日と明後日と、俺と俺の知ってる奴が適当な毎日を送れればそれでいいんだよ」
 やんばるくいなに鞭を入れる。ディスは、そのまま走り去った。
 リックスは大きく嘆息して、そして哄笑する。
「……ディスレイファン、ね」
 生き疲れた眼差しには、どこか光を帯びて。雪のように白かった肌には、どこか赤みを帯びて。
「なあ妖怪、わしをこのまま殺すんだろ……。失敗作は即時破棄が、アンタのモットーだもんねぇ」
 ベロに造られて生きてきた人生。
 死にたくないと思ったのは初めてだった。
「やだねぇ……」
 はー、と再び嘆息する。まるで無垢な少女のような微笑を浮かべて。
「生まれて初めて男に惚れたってのに、死にたかぁないねぇ……」

「リックスもやられまぁーしたかぁー。これはもう大変、大変、たーいーへーんーでーすねぇー」
 けらけらとモニターを見ながら、深い帽子を被った男が呟いた。
『科学の妖怪』『知の風雲児』『狂気の賢者』『狂科学者』。幾多の呼び名がある彼はその中でも、殊更に『科学の妖怪』という呼び名を気に入っている。
「これはーもー研究所に来る気まーんーまーんーでーすねぇー。失敗作で時間がぁー。稼げるとはぁー。思いませんがぁー。一応、一応、いーちーおーうーでーすねぇー」
 ぽちっ、と近くにあった赤いボタンを押す。
 ゴゴゴ、と大地が軋むような音。それと共に、ベロの研究室へと至る道へ、幾多の平気が生まれた。
「さーてさてさてさてさて。私の可愛い可愛いかーわーいーいーベイビイ諸君んー。ディスレイファンをそりゃーもーうー、ぷちっとやっちゃってくださいなぁー」
 にやにやと笑いながら、別のボタンに手をやる。
「あとリックスー。君はもうー。失敗、失敗、しーっーぱーいーでーすねぇー。このまま死んじゃーえぇー」
 ぽちっ、という小さな音と共に、モニター上にあったリックスの生体反応が消えた。

「……ひどいな」
 馬車(ケンゴ車)から降りて、周囲を見回し、エースは一言そう言った。
 直立不動の、身体中に矢を生やした屍。原型すら留めていない、焼け焦げて溶け落ちた骸。そして。
 最早、屍と呼んで良いのかも分からない、粉々に砕け散った肉片。
「ディスがやったのかな?」
 血臭と屍臭が満ちるその場所で、顔色一つ変えずに呟くエリタカ。普段が物憂げな優しい青年であるがゆえに、それはどこか恐怖を与えるような無表情だった。
「そっちの二人はディスとリオだろうよ。だが――ここで粉々になってる奴は違うな」
「違うの?」
 エースの言葉に、異論を挟む葉奏。エースは普段なら絶対にしない、真剣な眼差しで葉奏を見る。
 葉奏はそれに動じる素振りも見せず、言葉を続けた。
「三人いて二人までがディスさんとリオさんに殺されてて、もう一人が違うっていうのはおかしいわ。ディスさんも火薬の一つや二つ持ってない訳ではないだろうし、不可能ってことは――」
「黙れ」
 葉奏の言葉は、あっさりのエースの冷たい視線に阻まれる。
「……何よ」
 葉奏も負けじと睨み返すが、その足はがくがくと震えていた。
「手段がどうだの、不可能だのは関係ない。あいつは、例え誰が相手でもこんな真似はしない」
「……エース、あんまり葉奏さんを怖がらせちゃダメだよ」
「別に、怖がらせたつもりはない。大体、僕はここに、この女がいる事自体が不愉快なだけだ。今回の件については、あんたは関係ないだろ。血啜の血族」
 そのエースの眼差しは、まるで射抜くような。忌むような。
「……あたしは、見た目よりも役立つつもりでいるけど?」
「僕らの役に立ちたいなら、馬車の中で微動だにせずうずくまって震えていてくれ。その方が何倍も有難い」
 にらみ合う眼差し。交錯する敵意。劣勢は――葉奏。
「まあまあ、落ち着きなよ。エース」
「僕はいつだって落ち着いてるつもりだ。エリタカ」
「少なくとも、役に立つか立たないかはこれから決めようじゃないか」
 す――僅かな動きで、エリタカが剣を引き抜く。同時に、エースの顔色が変わった。
「……十……二十……それ以上か」
「うん、もうとっくに囲まれてる」
 ゆっくりと岩山を揺るがすように、まるでそれは、整然と揃えられた彫刻のように。
 全身を鉛色の鎧で覆った巨漢が、数え切れぬほどに馬車を囲んでいた。

      to be continued

コメント・感想

  • 次回・・・死ぬな!みんな!!巨人兵の前に倒れ逝く者達・・・ディスの運命やいかに・・・ -- エリタカっぽい?
  • うちの服がどうなってるのか気になる〜wまさか、ずっとまっぱ?それより気になるのが↑のコメント・・エリタカなのか・・? -- りお@雷鳴の龍
  • 女の子モンスターの服は体の一部だから、復活するんじゃ?wエ○タカ氏は北○○に○○されたはず・・・戻ってきたのかなw -- Kengo
  • 兵器が平気に・・・。俺の出番ドコー? -- ねこ
  • カムサハムニダ〜(T人T) -- エリタカっぽい?
  • 俺溶けてるー(´∀`) -- ハジャ
  • かれこれ1ヶ月以上になりますが・・10話まだっすか?w -- ACE
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