剣士と悪役とバイトと人形と◆YYVYMNVZTk



「あぁ……いいなぁ、小さいなぁ……」
「おい、いいからさっさと歩け」
「可愛いなぁ……あ、ゾロさん」
「……なんだ」
「この子、抱きしめてもいいですか? ……潰れたりしないですかね?」

ぎろり、と後ろを歩く少年を睨む。
黒髪で眼鏡をかけ、身長はやや小さめ。会って間もないが、まぁ普通の人間だ。
いきなり変な刀を持って襲いかかってきた時は何かと思ったが、まぁそれもいい。
どうやらその刀――刃はついていない模造刀だったとはいえ、持ち主を操るという、所謂魔剣(?)みたいな物だったらしい。
名前も聞いたことがない刀だったが、広い世界にはそんな物もあるんだろうと、適当に流す。
自分が持っていても何の役にも立たないし、たとえまた暴れ出しても簡単に止めることは出来ると考え、一応返してはおいたが。
ここまでは、特に問題はない。決して気に入る類の人間じゃないが――邪魔にならないんだったら勝手にしておけばいい。
だが――今度はじろりと、少年の胸元……正確には、その両手に抱きかかえられた謎の生物を見る。
白い毛に覆われたそれは、今までにゾロが見てきた生物とは外見を異にしている。
とはいえ、グランドライン入りしてからというもの見てきた生物といえばどれもこれも珍種ばかりだ。同じものを二度見たことのほうが少ないかもしれない。
これもまた――適当に流す。広い世界には、こんな生き物もいるのだろう。
だが――今度は半ば呆れた目で、少年の顔を眺める。
小さいもの、可愛いものが好きだということは、さっきからそわそわと呟いている独り言ともなんともつかない言葉を聞いているうちに察することは出来た。
広い世界には、そんな人間もいるのだろう。だがしかしこれは――適当には流せない。
にやにやと笑いながら小動物をつついたり、さすってみたり、撫でてみたり、はっきり言って気色が悪い。
頬を赤らめる男なんざ誰が好き好んで見るものかとは思うものの、向こうが勝手についてくるのだから嫌でも顔を合わせることになる。
無条件にイラついてくるのは、この小鳥遊とかいう野郎が持って生まれた才能なんじゃないだろうかと、そんな気までしてくる。

「お前ァ、女か。情けねぇ」
「な……! 俺は男ですよ、正真正銘の! まかり間違っても女装が似合ったりなんかしない……普通の一般男子学生です!」
「あぁ分かった分かった。だからちょっと黙ってろ」
「ちょっと……! 人を女呼ばわりしといて」

小鳥遊の叫びを中断したのは、かざされたゾロの左手。

「黙ってろ。――誰か近づいてくる」

ゾロの言葉を聞き、小鳥遊はびくりと身を震わす。
遠目に見えるのは……ログハウス? いつの間にかキャンプ場のすぐそばまで来ていたようだ。
小鳥遊宗太は、自分が今何に巻き込まれているのか、一応は理解しているつもりだ。
自分は今、殺し合いを強制されている。ワグナリアで佐藤さんが種島先輩をからかうネタに出てきそうな、陳腐な題材だ。
しかし、言葉では理解していても――現状は、まったく認識出来てないといっても差支えない程度。
そもそも、殺し合いをしろと言われて、それで殺し合いが出来るという人間は、どこかの回路が狂っているんじゃないだろうか。
……でも、こんな話を聞いたこともある。
戦場帰りの兵士たちに、何故貴方は敵兵を殺せたのかと質問して……返ってきた答え。
祖国のためだとか、自分たちの正義を信じてだとか、そんな答えは返ってこなかったらしい。

「殺せと命令されたから」

一番多かった答えは、それだったそうだ。自分で決断しない。言われたことをやるだけ。
確かにそれが一番楽なのだろう。
じゃあ、今自分たちが置かれているこの状況はどうなんだろう?
「殺しあえ」と言われ――見せしめに、二人死んで――
……この状況下なら、殺し合いに乗るのも有り得ない話ではないかもしれないと少し思った。
自分が、殺し合いに――戦いに巻き込まれる?
――やっぱり実感が無くて、少なくとも自分は殺す側には回らないだろうな、とぼんやり考える程度だった。
だがそれでも、自分の身は自分で守らなければならないということくらいは分かっている。
近づいてくる人間が、殺し合いに乗っていないという保証はどこにもない。
緊張で汗ばんだ手で、自分に与えられた刀が腰に差さっているのを確認。
いざというときは……これで、戦うしかない。


がさりと音がして、茂みの中から現れたのは自分と同年代くらいの男だった。
とはいえ、自分が……あまり良い気持ちはしないが、少年と形容されがちなのに対して、目前の男が持っている雰囲気は、青年と言うほうが近い。
きっちりと着こなしているのは制服だろうか? 濃紺のブレザーの中心に、高級そうなネクタイが一つ。
手に持つ鞄のようなものは彼に与えられた支給品なのだろう。大事そうに抱えている。
短く揃えられたオールバックの黒髪には、一筋だけ白が混じる。
そして最も印象的なのは鋭い視線だ。見定める視線を、逸らすことなくこちらへ送ってくる。
――と、小鳥遊の前に立っていたゾロが、男に声を投げかける。

「おい、いいか? その鞄の中身……俺に教えてくれ」
「ふむ、いきなり鞄の中身を教えろとは……破廉恥だね?」
「あぁ? 何ワケの分からねーこと言ってるんだ。俺はただ刀が欲しいだけだ。
 その中に刀が入ってないんだったら……」
「だったらどうするのかね?」
「一つ、俺と手合わせしてくれねえか?」

にやりと不敵な笑みを浮かべ、ロロノア・ゾロはそう言った。

 ◇

「……君の連れ合いは、『手合わせしようぜ!』が挨拶の国の生まれなのかと問いたいのだがよろしいかな?
 そういえば、オープニングがそれで始まるアニメが夕方頃に放送されていた覚えがあるが……それの影響なのだろうか。
 でかい図体をしておいてアニメ脳とは……嘆かわしいね?」
「いや、まぁ……なんというか……何故そこで俺に話を振るんですか? ははは」
「それは勿論君が会話に入りきれてなかったからだよ。ほうら、これで君と私はフレンドリー。うむ、仲良きことは善きこと哉。
 友達としてお願いしたい――この血気盛んな緑髪の面倒は、君で見てくれないだろうか?」
「いやー、その理屈は分かるんですが……貴方が原因の怒りなのに矛先がこっちを向くのは理不尽じゃないでしょうか?」
「ははは、何、気にすることはない――慣れれば、気持ちいいらしいよ?」

――小鳥遊宗太は後にこう語る。
『あの時、プチンって音が聞こえた気がしたんです――幻聴なんでしょうけど……堪忍袋の緒が切れる音って、あんな音なんでしょうね……』

瞬間――ゾロは刀を抜き、先ほどから人を食ったような態度ばかりとる青年へと切りかかっていく。
無論、本気の抜きではない。人を小馬鹿にした態度に腹を立てた、半ば鬱憤晴らしの一撃だ。
全力にはほど遠い、相手を倒すつもりなど微塵もない峰打ち。
とはいえ、自身のそれがかわされるとは、ゾロは欠片も思っていなかった。
――なら、刃の峰が肉を打つ感触がいつまでも伝わってこないのは何でだ?

刀が振り切られ――青年・佐山が立っていたのは切っ先の軌跡から、更に数センチ奥。

「やれやれだね。口より先に手が出るとは……風見でもあるまいし」
「あの……俺が口を挟むのもなんですけど、貴方は口が出過ぎです」

小鳥遊の突っ込みも効果なく、佐山はゾロの前に再び立つ。
鋭い視線はそのまま。今度は見定める視線ではない――試す視線。

「……何者だ、てめぇ」
「名は佐山・御言。佐山の姓を持つ、『悪役』だ」
「ロロノア・ゾロ。『剣士』だ」
「小鳥遊宗太です。えっと……『ファミレスのアルバイト』?」
「『剣士』に『ファミレスのアルバイト』とは……面白い組み合わせだね」
「俺にはまったく面白くない話だがな。だが……佐山、アンタは面白そうだ」

そう言って、ゾロは不敵に笑う。
いくら手を抜いていたとはいえ、ゾロの剣を容易く避けるとは只者ではない。
純粋に、一剣士――いや、闘いを生きざまとする一人の男として――血が滾る。

「興味を持ってくれて嬉しいよ。さて、早速だが――君たちに、交渉を持ち掛けよう」
「交渉……ですか?」
「だがその前に、私の仲間を紹介しておきたい。……蒼星石君、起きているかね?」


佐山は小脇に抱える鞄へと声をかける。
その様子を見て不審がるのは小鳥遊だ。

(仲間……って、ぱっと見た感じ、周りには誰もいないみたいだけど……?
 今佐山さんが話しかけたのって鞄だよな……まさか、あの鞄の中に誰か入ってるとか?)

鞄の大きさをもう一度確認。少なくとも、人が入れる大きさではない。
ああいうものに入るのを持ちネタにしてた芸人がいたけれど、それでもあの大きさには入りきれないだろう。
もしかしてこの人……鞄がお友達とか言い出してしまうタイプの人間じゃないだろうかと少し心配に。
確かにさっきから言葉が飛躍しすぎている節はある。その可能性は捨てきれない。

(でも変人の相手なら……慣れたくはなかったけど、慣れてしまったし……)

いつも相手にしているのは姉たちやらワグナリアスタッフやら複数人。
佐山が変人であろうと、一人ならばそこまで心配せずともよいかもと、どこかズレた考え。
とりあえずは行く末を見守ろうと、佐山とその手に握られた鞄を見つめる。
驚いたのは、鞄の中から声が聞こえてきたことだ。鞄越しなためにくぐもってよく聞こえなかったが、それは確かに人の声。
この鞄、やはり誰か中にいるらしい。
なら今度は、別の疑問が浮かんでくる――もしかして、変人なのは佐山ではなく鞄の中の人物なのではないのだろうか。
鞄の中に入るという行動自体常軌を逸している。先ほど佐山は、起きているかと声をかけた。それはつまり、鞄の中でその人物は眠りについているということ。
鞄の中で寝る……しかも、こんなわけのわからないことに巻き込まれているのに。
ただの馬鹿か、或いは大人物か。良く考えてみると、彼(?)を仲間と呼ぶ佐山も、やはり変人であることに間違いない。
つくづく自分は変人と縁があるのだろうかと、心中嘆く小鳥遊だった。

「ふむ、先ほどのゾロ君とのやり取りで目が覚めてしまったらしい。
 それでは対面といこうか――蒼星石君だ」

鞄が、開く。
光源は、お世辞にも明るいとは言えないランタンが三つ。佐山とゾロと小鳥遊が持つものだ。
鞄の中から出てきたそれは、三方向から光に照らされ立つ。
希代の人形師ローゼンが手がけた作品の中でも、最高傑作と称される七体のアンティークドール――ローゼンメイデン。
ローゼンの作品は、緻密にして繊細――まるで生きているかのようなリアルさがその特徴である。
その極みとも言えるのがローゼンメイデン――薔薇乙女たちだ。「生きているかのような」ではなく、「生きた」人形。
気高く、凛々しく、そして美しく。第四ドール蒼星石は、其処に立つ。

「はじめまして。僕は蒼星石。ローゼンメイデン第四ドール……君たちに分かるように説明すると、生きた人形ということになるのかな」

とん、と鞄から降り、地に足をつける。ランタンの赤白色に照らされた彼女のイメージは、その名の通り蒼。
頭にはシルクハット。履くのは裾の締まった半ズボン。髪は短く揃えられている。こう書けばまるで男の子のそれだが――
短く首筋のあたりで揃えられた髪は、艶やかに輝く焦げ茶色。柔らかな髪質は蒼星石は少し動くたびにさらりと流れる。
顔の色は白。だが生気の無い人形とは違う、やや桃の混じった、温かみのある白だ。
こちらを向く瞳は、右と左で色が違う。オッドアイと呼ばれるそれは、右は翠の、左は紅の光を持っている。
小さな、完成された少女。世界の蒐集家が、喉から手が出るほどに欲しがる一品。

「おいおい……小人か?」
「違うよ。何と言えばいいのかな……生きている、人形……やっぱりこれが一番近いね。
 僕たちローゼンメイデンはお父様に作られた人形に過ぎない。人のように成長することもない。
 だけど、自分で考えることだって出来るし動くことだって出来る。僕たちは――生きているんだ。」
「僕たちってことは……お前の他にもお前みたいなやつがいるってことか?」
「ローゼンメイデンは全部で七体――名簿に載ってたのは、そのうちの四体だけどね。
 真紅と翠星石水銀燈……この三人も、僕と同じ薔薇乙女――ローゼンメイデンさ。……信じてくれるかな?」
「信じるも何も、目の前にいるんだからどうしようもないだろ。広い世界には動く人形もあるんだなと思うだけだ。
 俺の仲間にも喋るトナカイがいるしな。なら動く人形くらい十分あり得る話だろ」
「喋るトナカイ? へぇ、僕も会ってみたいな。……ねぇ、そこの眼鏡の人……大丈夫? ……やっぱり、それが普通の反応なのか」

見た目に反して物わかりのよいゾロと、その仲間の話に少々の驚きはあったものの、蒼星石の興味はすぐに小鳥遊のほうへと移っていく。
自分が稀有な存在だということは理解している。動く人形というその現実は、誰もが受け入れられるものではない。
不気味に思われて拒絶されることは想定の範囲内。それは仕方のないことだと分かっている。
だから……蒼星石のほうを見つめたまま一言も言葉を発さない小鳥遊宗太のことも、仕方がないことだと受け入れなければいけない。
常識を兼ね備えた、普通の人間なら――

「か、可愛い……」
「え?」

ぽつりと小鳥遊が呟いた単語。蒼星石は最初、聞き間違いかと思った。
あれだけ真面目な顔で見つめられた末にそんな言葉が出てくるとは、完全に想定の範囲外。
蒼星石は知らない――小鳥遊の言葉に戸惑い、少し困った表情をしながら言った、「え?」の破壊力が、どれだけのものなのかを。
小鳥遊の反応を窺う中、知らず知らずのうちに緊張により強張る表情。小鳥遊の一言により、それは崩れ。
一瞬の呆けた顔は蒼星石が本来持つ無垢な少女のそれ。と、そのまた一瞬後には小鳥遊の言葉が聞き間違いではなかったかと眉をひそめる。
聞き間違いならと思うと同時に、言葉の意味をようやく理解し、頬を赤く染め。
様々な感情が一瞬のうちに現れて、複雑な表情を生み出す。ただの人形では到底持ちえない、生きるヒトの持つ愛らしさ――爆発。

気づけば蒼星石はぎゅ、と抱き締められていた。
慌て振りほどこうとするも、背まで周る腕は細身な外見とは裏腹に、予想以上に力強い。
顔を上げると、至福の表情を浮かべる小鳥遊の顔。

「ちょ、ちょっといきなり……!」
「事後承諾になりますが……抱きしめてもよかったでしょうか!?」

抱きしめたまま正々堂々と了承を得ようとする男、小鳥遊宗太。漢である。
だが、佐山・御言がそれに口を挟む。

「小鳥遊君……!」
「あ……す、すいません! 思わず我を忘れてしまって……!」

あたふたと弁解を始める小鳥遊。とはいえ、その両腕は未だに蒼星石の身体に回されたままだ。
その様子を見て、佐山は口で言うよりも行動で示すほうが早いと動き出す。
確かめるように右手を握り、開き――そして一気に目標まで手を伸ばす!

「……ひゃっ!?」
「せっかく蒼星石君を愛でるというのに……このふらチックなお尻をスルーとは、いただけないね?」

佐山の右手がむんずと掴むのは蒼星石の尻だ。佐山がふんわりやわらかチックと形容した尻だ。
新庄のまロい尻とは違い、やや小ぶりで膨らみも緩やか。だが、その曲線は心地よいフィット感を生み出す。
撫でるのは終いにし、今度はやや強く揉みしごく。同時に顔を近づけ、触覚だけでなく嗅覚でも蒼星石を確かめる。
薔薇乙女の名の通り、ほのかに漂う香りは薔薇の香り。

「ん……佐山君、やめてよ……」

抱きしめられ、尻を弄られ。息も絶え絶えに蒼星石は抵抗の声を上げる。
だがそれで止められるのならば――佐山も小鳥遊も、変態と呼ばれることはなかっただろう。

(うわぁ……困ってる蒼星石ちゃんも可愛いなぁ……しかも人形ってことはこれ以上歳も取らないってことだろうし……完璧じゃないか!)
(ふむ、新庄君とよく似た、けれど違う反応を見せてくれる……愛でる側としては心地よいね、この差異は)

とはいえ――止(や)める者はいなかったが、止(と)める者はいた。
一瞬のうちに視界が銀になったことに、小鳥遊は疑問を覚える。
その後に続いた、髪が数本鼻頭に落ちる感触と、銀に映る自らの顔を見て――ようやくそれが、刀だと認識する。

「うっ、うわああああ!?」

目の前で繰り広げられる訳の分からない光景に対して、ゾロが再度プチンといったのだ。
怒りで血管を浮かび上がらせ、鬼のような形相で小鳥遊たちを睨む。

「早く話を進めろ……!」


 ◇

それでは、と前置きして、佐山が司会進行を進める。
出会った山道からキャンプ場へと一旦戻って仕切り直しだ。これは更なる乱入者を避けるための選択である。
佐山がゾロと小鳥遊の元へとまっすぐ向かえたのは、夜の山道に光るランタンの明かりを見つけたからだ。
日中ならまだしも、夜中、それも他に光源がまったく存在しない山中でランタンを使うのは見つけてくださいと言っているようなもの。
友好的な人物ならまだしも、奇襲を仕掛けてくる殺人者もいるかもしれない――そう考え、周囲に誰も潜伏していないことを確認済みなキャンプ場へと移動した。
キャンプ場には潜伏に丁度良さそうなバンガローが複数個用意されていた。
佐山の手によって、その全てに明かりが灯され、一見するとどのバンガローに人が入っているのか分からない。
そこまで用意した上で話し合いの場に選んだのは、

「なんでトイレなんだ……」
「キャンプ場の隅に位置してはいるものの、全体を見渡すことが出来る場所だ。この上なく最適な場所だと思わないかね?
 それに……これで私たちはクサい仲というわけだ。――仲良くなれて、何よりだね?」
「やっぱり佐山君って下品だね……」

と、前置きもここまでにしておいてと断り、佐山はゾロ達に交渉を持ち掛ける。
結びたいのは――『同盟』だ。

「何も、これから先もずっと共に行動しようと言っているのではない。互いに危害を加えないという約束のようなものだと考えてくれても構わない。
 難しい話ではないと思うが、どうかね?」
「俺は別に構わない……というか、こちらからお願いしたいくらいです。まだ何がどうなってるのかさっぱりで……」
「そんな面倒そうなものに縛られる気は無ぇ。だいたい……佐山、俺はアンタのことが、まだ信用できん」
「小鳥遊君。これで私たちと君は仲間だ……! ん、そこの緑髪。いまどきヤンキーでもそんな頭はしないよ? しっしっ」
「てめぇ……馬鹿にしてんのか?」
「私は先ほどから、佐山・御言として行動している。今の私を見て信用できないというのなら――仕方がない」
「ぶっちゃけた話、俺もさっきの佐山さんの行動を見る限りでは全幅の信頼にはほど遠いんですが……」
「小鳥遊君、佐山君のことについてはあまり触れてあげないで。あれでなかなかしっかりしたところもあるんだ。……残念なところが多すぎるけど」
「皆……セメントだね。言葉は人を傷つける――覚えておいたほうがいい」

なんやかんやと会話を続けていくうちに――同盟についてはまだ判断できないが、互いに有用な情報については交換しておこうということになる。
名簿を見て、簡単な説明も付けながら知り合いの名前を挙げていく。
合流すれば力になってくれるであろう人物、殺し合いに乗る可能性のある人物、殺し合いには乗らないだろうが、危険な人物――さまざまだ。
もし探す人物と会った場合は、誰が探していたのか、何処で遭遇したのかについて伝え、その後同行するかどうかは各々の判断に任せるということになった。

「……でも、正直な話……まったく現実味がないんですよね。ドッキリか何かじゃないかと思ってるくらいですよ」
「殺しあえと言われて……本当に殺し合いが始まると思えないと?」
「そうです。俺はほんの数時間前までファミレスでバイトしてて、そしたらいきなりこんな場所に送られて……
 非常識ですよ。少なくとも俺は、誰かを殺そうなんて考えちゃいません。どうしたらここから帰れるのかが知りたいだけです」

言って小鳥遊は、ふぅと息をつく。
確かに最初集められたあの場所で、二人殺された――だけど、それはまるで映画か何かのワンシーンのようで――現実感というものが、完全に欠如していた。
自分はまだ、死というものから遠く離れている気がする。
そこまで考えて――自分に支給された、あるアイテムのことを思い出す。

「あ……! ちょっと見て欲しいものがあるんです」

バッグからポケベルを取り出す。一見普通のポケベルにしか見えないこれ。
だがしかし、それには隠された機能がある。前後二時間ほどに死んだ参加者と、それを殺した参加者――両方の名が表示されるのだ。
リアルタイム性には欠けているものの、仲間の安否、そして殺し合いに乗った可能性のある危険人物の名前を知ることが出来る。
その旨を佐山に伝え、表示された名前の中に知っているものはないかと確認してもらおうとする。

「ふむ……私の知人の名前は、幸いにしてないね。蒼星石君はどうかね?」
「僕も大丈夫。じゃあ……これは小鳥遊君に返しておくね」


蒼星石からポケベルを受け取り、またバッグに入れようとしたとき、ポケベルが更新の印を点滅する。
思わずびくりと身が震えた。また、誰かが――死んだ。
願わくば――それが、伊波さんではありませんようにと願いながら、ボタンを押していく。

トウカ死亡、殺害者ミュウツー

知らない名前だ。不謹慎な話だけど、少しだけ安心してしまった自分が嫌になる。

エルルゥ死亡、殺害者バラライカ

また、知らない名前。次の名前はと、ボタンを押す。

ウソップ死亡、殺害”

「ウソップ……って」

え、と思ったその瞬間、小鳥遊の後ろから手が伸び、ポケベルを奪い取る。
振り向いたその時には、ポケベルはゾロの手の中で握り潰されていた。

 ◇

画面に映る名前を見た瞬間、反射的に手が出て――それを握り潰した。
もう少し待てば殺した相手の名前が分かったのだということに気づいたのは、破片が手のひらに刺さり血が流れ出始めてからだった。
だが既に過ぎたことだ。悔やんでも仕方のないことだ。
割れた機械のなれの果てを地面に払い落す。少しばかり刺さった破片も、そう深い傷にはなっていない。
適当に引き抜き、つばでもつけておけば勝手に治るだろう。
問題は――

「おい、佐山」
「……いきなり人の物を壊しておいて、謝罪もなしかね?」
「今は時間が惜しい。聞いてくれ。一撃だけでいい。――手合わせを、願いたい」
「理由は――聞く暇も惜しいね。こちらで勝手に察するとしよう。その前に――」

佐山は、己のバッグから一振り刀を取り出すと、ゾロへと投げつけた。
対しゾロは、それを掴み、鞘から引き抜き刀身を眺める。

「……悪くない刀だ。いいのか?」
「気にしなくとも良い。私からの――いや、私たちからの餞別だと思ってもらって構わない」
「そうか……じゃあ貰っておくぜ。なら――」

四人はトイレから出て、草原へと移動する。
ゾロと佐山が向かい合い、二人の行方を小鳥遊と蒼星石が見守る構図だ。

ゾロは両手に刀を持ち、構える。
右手にはトウカの刀。左手には轟八千代の刀。
三刀流には一本足りない。だが――今は、それを気にするような場面ではない。
息を吸い、吐き。全身に力をこめ、抜く。今――ロロノア・ゾロは、『剣士』となる。

対峙する佐山も、準備は万全。拳を握り、身体は相手に対して半身。
剣を握る相手ならば――と思考を巡らせかけるも、それを破棄。
小細工を弄するような相手ではないということは、この短い交流の中でも分かったことだ。
一撃。一撃と言った。ならば相手は、それを守るだろう――ならば自分も、何も考えず、ただ無心に、一撃に集中する。



「いざ――」

「尋常に」

「「勝負!」」



決着は――いや、決着と言っていいのかすら定かではないが――二人の動きは、始まるとほぼ同時に終わった。
両者ともに、動いたのは刹那の時。
刀を振るい、拳を振るい――それを受ける。たった四つの動作しか、そこには存在しなかった。

「ゾロさん――!」「佐山君!」

大上段から振り下ろされた二本の刀を右腕一つで受け止めたのは佐山だ。
だが――佐山の右腕は、引き裂かれることなく存在している。受ける刀の刃は――両方共に峰だ。
佐山の左手は、貫手の形となりゾロの眼へと一直線に向かっている。
だが、これも同様に――睫毛に触れるか触れないかという瀬戸際で、止まっている。

佐山が一呼吸つくと、刀は佐山の腕から離れていく。
腕の痺れを感じながら、佐山はゾロへと声をかける。
これで満足かね、と。

「……ああ。お前の力も良く分かった。だが……最後、何故寸止めた?」
「それはこちらの台詞だよ。もし逆刃でなければ、そのまま貫くつもりではあったがね」
「食えない野郎だぜ……おい、小鳥遊」
「は、はい!?」
「お前はこいつらに預けていく。縁が合ったら――また会うこともあるかも知れねぇな」

は? と、ゾロの言葉を理解しようと努める。
それはつまり、俺は佐山さんと蒼星石ちゃんと一緒に行動するということで――
ゾロさんは、一人?

「だ、駄目ですよそんなのっ! 危ないです! 皆で一緒に行動したほうが――」
「行かせてあげようよ、小鳥遊君。……きっと、あの人にはあの人の考えがあって、そうするんだろうから」
「で、でも、蒼星石ちゃん……」
「小鳥遊。分からないんならはっきり言ってやる――お前は、足手纏いだ。
 むしろ俺一人のほうが楽なくらいだ。だからお前は、佐山と、蒼星石と一緒にいろ」

離別は突然だ。いきなり言い渡された別れの言葉に困惑しか湧いてこない。
だが――自分の無力さも、仲間の死を知ったゾロが何を考えているのかも、分かってしまうから。
だから……今は、見送ることしかできなかった。
せめて、少しでも男らしく、胸を張り答える。

「分かりました。ゾロさん……また、会えますよね?」
「縁が合ったら――な。……じゃあ、俺は行かせてもらう」

刀を腰に差し、荷物を纏め、ゾロは足早に去っていく。
振り返らずに、真っ直ぐに――
キャンプ場を出る直前、手だけを振って、別れの挨拶とする。

 ◇

「それで、佐山さん……この後、どうするつもりなんですか?」
「ふむ。ひとまずは、協力者を増やしていこうかと思っている。三人寄れば文殊の知恵……仲間は多ければ多いほど良いよ。
 とはいえ、あまり集まりすぎても船頭多くして、だ。せねばならないことは山ほどある。大事なのは役割分担だね」
「そうですね……少しでも多くの人を集めてからじゃないと、俺たちだけ逃げるわけにもいかないし」
「でも、どうやって集めるの? 一人一人僕たちが接触するのは難しいと思うよ?」

それはだね、と佐山はバッグの中から細長い物体を取り出す。
幼稚園のころには誰もが使ったことがあるだろうもの――クレヨンだ。
佐山はクレヨンを弄りながら、これを使おうと思うと二人に話す。
当然二人には意味不明。クレヨンで書き置きをしていこうというのだろうか?
しかし、クレヨンというのは確かではない。書けるものが決まっているし、紙などに書いていってもきちんと伝わるとは限らない。
そもそも、筆記用具ならばランダム支給品のほかに共通のものが持たされているではないか。
二人の疑問には答えることなく、佐山は蒼星石に声をかける。


「蒼星石君、少しこちらに来てくれないかね?」
「? うん、いいけど……」

蒼星石が近づくやいなや、佐山はぐいと蒼星石の身体を持ち上げる。
またこれかと蒼星石は抵抗の声を上げるものの、佐山は少し動かないでいてもらいたいと返すばかりだ。
観念したのか蒼星石は力を抜き、佐山の為すがままに。
佐山はクレヨンを蒼星石の顔に近づけ――小鳥遊のほうをちらりと見る。
これから先、佐山がすることをしっかりと見ていてほしいと、言葉には出さずとも目で合図。
そして――佐山は、蒼星石の可愛らしい口元に、立派な髭を描いた。クレヨンでだ。

「ちょっと……なにやってるんですかー!?」
「ふふ……驚いたかね?」
「可愛いものに……可愛いものにそんなことをするなんて……!」

蒼星石に髭を生やされ、本人よりも怒ったのは小鳥遊だ。
小さくて可愛い――小鳥遊にとっての絶対の正義に対し、なんたる狼藉を……!
だがしかし、よく見てみれば。
髭が生えた蒼星石も――案外、悪くないかも?
髭とそれ以外とのギャップは、逆にチャームポイントになり、先ほどまでの完璧な少女像とは違い、マスコット的な可愛らしさを持っている。
そうか……!

「この蒼星石ちゃんの可愛らしさで、無駄な争いを止めるんですね……!
 こんな可愛い子が非戦を訴えれば、みんな聞いてくれるはず……!」
「少し変化球で言うとすれば――君は少し、頭がおかしいね?」

笑顔でそう返し、佐山は蒼星石の頭の位置を少し動かしてやる。
すると、不思議なことに髭だけは場所を変えず――宙に浮いている。

「――!? これって、空中に描けるってことですか?」
「物わかりがいいね。これで、皆が通りそうな場所に色々と書いておけば――通った人間は、見逃さないだろう。
 何せ、空中に字が浮かんでいるのだからね」

だが、と佐山は断りを入れる。
同封されていた説明書によると、空中に書かれた文字が残るのは、書いてから六時間だけらしい。
それを過ぎれば、自動的に文字は消え、全ては元通り。

「さて、それでは方向も定まったことだし、まずは人通りの多そうな道路沿いに進んでいくとしようか……っと」
「佐山さん、大丈夫ですか? ……やっぱり、さっきのゾロさんの剣で腕を痛めて?」
「何、少し痺れるだけだよ。心配はない。……それに元々、こちらは握れぬ拳だ」
「……無理はしないでね、佐山君」
「大丈夫だとも。蒼星石君に心配をさせるわけにもいかないしね」

実際に、大したことはない。ゾロも寸前で力を抜いたようだった――数時間もすれば痺れは取れ、元通りだろう。
この程度は怪我のうちに入らない。昔は散々鍛えられたものだと、少しだけ過去を思い返す。
飛葉での修行――あの糞爺め、と思い至るのはすぐ。
だが、そこで鍛えられたからこそ、今の自分がある。
今は握れぬ拳も――力を向ける先を見定めたその時には、握ることとなるだろう。これは予感ではなく、確信だ。

出来れば、その時までに。
自らの対となる、新庄君に会いたいものだなとそう思い、佐山は歩を進めていく。
――『悪役』として。


【D-8 キャンプ場/一日目 早朝】

【佐山・御言@終わりのクロニクル】
[状態]:右腕に痺れ
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、空気クレヨン@ドラえもん、不明支給品0~1(確認済み)
[思考・状況]
1:新庄くんと合流する。
2:協力者を募る。
3:本気を出す。

【蒼星石@ローゼンメイデン】
[状態]:健康、精神的疲労
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0~2、天候棒(クリマ・タクト)@ワンピース
[思考・状況]
1:翠星石と合流する。
2:佐山と行動する。
3:現状では、ゲームに参加する意思は無い。
4:変態が二人に増えた……

【小鳥遊宗太@WORKING!!】
[状態]:健康
[装備]:秘剣”電光丸”@ドラえもん
[道具]:基本支給品一式、獏@終わりのクロニクル
[思考・状況]
1:佐山たちと行動する。
2:伊波まひるを一刻も早く確保する。
3:ゲームに乗るつもりはない。

【共通備考】
※ポケベルにより黎明途中までの死亡者と殺害者を知りました。

【空気クレヨン@ドラえもん】
空中に文字や絵を描くことが出来るクレヨン。
原作では描いた絵が動き出す能力もあったが、ここでは制限されている。
書いた文字や絵は書かれてから六時間後に自動的に消えるように設定されている。




「ったく……」

佐山たちと別れ、ゾロは一人山を降りる。
ウソップが死んだ――信じられない。だが、あのポケベルの情報が確かならば、そうなのだろう。
静かな怒りが、腹の奥から湧きあがってくるのを感じる。
殺しても死なないような奴だと思っていた。お調子者だとも。
だが――仲間だった。仲間という言葉では足りぬほどに――繋がりが、あった。
今にもそこの草むらからひょっこりと顔を出しそうな気がする。
よぉゾロ。このウソップ様が来たからにはもう心配はいらないぜ!

――そんなもの、気のせいだ。

ウソップは――死んだのだろう、きっと。
なら――この怒りは、何処へ、誰へ向ければいい?
分かっている。

「ギラーミン……とかいったな。それと、名前も知らないウソップを殺した奴……」

お前らは――この俺が、斬る。それがウソップに対して出来る、最後の手向けだ。


【E-8/一日目 早朝】

【ロロノア・ゾロ@ワンピース】
[状態]:健康
[装備]:トウカの刀@うたわれるもの、八千代の刀@WORKING!!
[道具]:支給品一式、迷路探査ボール@ドラえもん
[思考・状況]
1:ウソップの仇打ち
2:ゲームにはのらないが、襲ってきたら斬る(強い剣士がいるなら戦ってみたい?)
3:ルフィ、チョッパーを探す

※参戦時期は未定。
吉良吉影のことを海賊だと思っています。
※黎明途中までの死亡者と殺害者をポケベルから知りました。

【轟八千代の刀@WORKING!!】
ワグナリアフロアチーフである轟八千代が常に帯刀している刀。
実家である轟刃物店の特注品である。




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最終更新:2012年11月29日 00:09