BLACK FRACTION◆Wott.eaRjU



「さぁ、そろそろ返答をお願いしたいのだがね……」

男――サカキが低い声でそう呟く。
紡ぐは何かの回答を、要求する旨を伝えるための言葉。
言葉とともに、向け続けるは視線の矢。
年相応の威厳さは消えず、冷たさすらも感じられる程に睨みを利かせた瞳。
月並みな表現だがまるでナイフのように鋭い……そんな感じだ。
そう、既に何分間も返答を待っているというのに。
サカキは極めて平然を貫き、其処に立っていた。

(即答は出来んか。まあ、無理もない。重要な事だ、所詮他人でしかない私と組むかどうか……慎重になるのはわかる)

沈黙に紙一重の思考。
この殺し合いを潰す為に手を組む。
サカキがロべルタに出した提案、極めてシンプルな内容。
要するに自分の生存のために、お互いを利用するだけ利用し尽くす。
いささか大袈裟な表現かもしれないが、根本は間違ってはいない。
青臭い子供の決め事ではなく、信頼関係とやらは二の次だ。
いかに互いの利が噛み合うかが重要な事。
サカキにとってロべルタを抑える事が出来れば、この上とないメリットとなる。
ロべルタのポテンシャルは既に先程の騒ぎで、その一端を見ている。
素晴らしい。射撃技術を始め、思わず感心する能力値だ。
味方に出来れば己の戦力が飛躍的に上がってゆく。
だが、敵に回す事になれば手を焼く事は必至。
故にこの同盟交渉の機は、自分のものにしておきたいのは当然と言える。
決して無限とは言えない時間の中で、サカキは静かにロべルタの次の行動を見守る。

(とはいえ、なかなか肝が冷えるこの状況はどうにかしたいが)

しかし、現状は余裕綽綽なものとは到底言えない。
サカキの視界に一際強く映るものはロベルタの表情ではなく、ぽっかりと一つの穴が空いた筒だ。
ロベルタによって、依然として向けられている黒い銃身からサカキは眼を離せない。
予備動作はあるだろうが、きっとロべルタの技術に掛かれば些細なものになるだろう。
故にいつ銃弾が飛び出してくるかを見計らうのは容易ではない。
結局はロベルタの決断次第、恐らくは一発の発砲がサカキ自身の死へと繋がる。
単なる推測にしか過ぎないが、不思議と自信はある。
サカキの行動を警戒するロベルタの視線――あまりにも冷たいもの。
犯罪組織ロケット団の中でも、これ程までの眼を持つ者はそうそう居ない。
ロベルタが歩んできた人生が、いかに常識と逸脱している事がわかる。
だが、本当に重要な事はロベルタが何をしてきたかわけではない。
何が出来るか――それがサカキにとって有益な事であり、大体の見定めは終えたつもりだ。
結論から言えばロベルタの有用性は十分。
但し、この状況を乗り越えてからの話ではあるが。

(こうも黙っていられると、こちらも何らかの行動を示す必要がある……が、煮え切らんな。
私としたことがどうにも気が乗らない、いや……自信が伴ってこないと言った方が正しいかもしれん)

自分らしくもない。
弱音とも言うべき事を思う己に苦笑しながら、サカキはあの出来事を考える。
思い出すは先程の一件。
園崎詩音――サカキを含むその場に居た4人は、園崎魅音と認識している人物による騒動。
普通の少女だと思っていたが、様々な奇妙な能力を行使した魅音。
人間離れした反応で、事の次第に反応したロベルタとヴァッシュ。
そして何よりも、只の学生だと思っていた広瀬康一にも常識を超えた力があった。
言葉すらも発する人形を――ポケモンのような物体を何処からともなく出す力。
馬鹿げている。あまりにも馬鹿げた力が溢れている。
ギラーミンの言葉通りなら、未だ見ぬ参加者にも相応の力があるのだろう。
サカキはロケット団のボスである共に一人のポケモントレーナー。
ポケモンを戦わせる事を主としており、自身の能力の行使には慣れていない。

(だが、何も出来ないわけでもあるまい。 現に私の命は未だ続いている……この状況下ですらも)

サカキは思う。
手持ちのポケモンが一匹も居ない今、自分は弱者の部類に入っているだろう。
支給された一振りの剣もあるが、拳銃相手では有効距離に違いがありすぎる。
仮に交渉が決裂し、戦闘に転がり込めば恐らく自分に勝ち目はない。
ロケット団のボスも落ちぶれたものだと非難されようが、気にする事はない。
自分の目的はこの場からの脱出。
一時の感情に溺れ、暴走するなど甘い時期はとうの昔に過ぎている。
自分がこの場で弱者というのなら――それを受け入れた上で行動すれば良いだけの事
ならば慎重に動かなくてはならない、たとえば次の手の打ち方など。
まあ、全ては、今後のロベルタの反応次第なのだが。
そんな時、サカキは思わず眼の前の出来事に眼を奪われる。

(なっ!?)

ロベルタの腕から何かが零れ落ちる。
いや、それが何かはサカキにはよくわかっていた。
只、事実としてはあまりにも受け入れ難かった。
そう、それは一挺の拳銃。
今までサカキに向けて突きつけられたものであり、ロベルタにとって重要な武器。
何故この状況で手放す、サカキを襲う疑問もごく当然のもの。
たとえ交渉に応じる気があってもこれでは警戒が薄すぎる。
この目の前の女がそんな真似をするのか――そう、するわけがない。
地へ落ちる拳銃から即座に視線を放し、ロベルタを見やるが既に遅い。
サカキは一瞬、目の前で何が起きているのか理解出来なかった。

「まいったな、このような馬鹿げた武器があるとは……」

回った。
サカキが銃に気を取られている間に、ロベルタはデイバックからあるものを取り出した。
手早いでは生ぬるい。
女性とは思えない筋力を存分に扱った事による、眼にも止まらぬ動き。
クルリとさも軽々と言ったようにそれはサカキの前で回った。
白と黒の躯体を持つそれには厚みがあり、かなりの重さを窺えるというのに。
それは一見して只の十字架にしか見えない。
髑髏を模したような、中心部にある握り手をロベルタの左手がしっかりと掴む。
そして一度の回転を終えて、やがてそれの先端がサカキの正面を捉えた。
ぽっかりと空いた、深い窪みがサカキと向かい合う。
銃とロケットランチャーを複合させた、設計思想に隠しようのない無茶がある。
暗殺者集団、ミカエルの眼では与えられる事が至上の名誉と認識されている武器。
個人兵装の類では最強にして最高と称された得物――パ二ッシャー

「……それが君の答えかね」

パ二ッシャーの銃口が、サカキにとっては嫌に冷たいものに見えた。


◇     ◇     ◇


自分は誰だ。
幾ら鍛えていようが、パ二ッシャーの重量は相当なもの。
確かな重みを腕に感じながら、ロベルタは思う。
そう、自分の名はロベルタ――本当の名前はロザリタ・チスネロス、あの日捨てた筈の名前。
ラズレス家に面倒をみてもらい、今は婦長として誠心誠意彼らのために尽くしている。
自分を拾ってくれた旦那様、そして次期当主である若様のために。
その筈だった。


「やはり私は此処で時間を潰すわけにはいきません。一刻も早く、手短に終わらせるつもりです……何もかも」


サカキの声と謙遜ない程に低い声が響く。
そうだ、自分はこんな意味のわからない場所には興味がない。
あの日、とある記念式典に出席した旦那様――無慈悲なる爆弾に、身を焼かれたあの方を忘れた事はない。
革命を信じて、殺して殺しまわった結果、マフィア共の麻薬を守る番犬でしかなかった自分。
そんな自分を追っ手から匿い、あまつさせ屋敷に住まわせて貰った御恩。
たとえ四肢を引き裂かれようとも、頭をカチ割られようとも恩義を忘れてはならない。
だから、自分は誓った。
旦那様の葬儀の後、涙と雨でボロボロになった若様がポツリと漏らした疑問――
『どうして殺されなければならなかったのか』、あの子らしい純粋な言葉が踏み切らせた。
もう一度、銃を取り、返り血を――旦那様を殺した“あのクソ共”の汚らしい血を浴びる覚悟を。


「貴方も見たでしょう。先程の少女……一見何も力がなかった彼女ですらも異常な力がある。
最早、のんびりと構えているわけにもいかない。
私は現時点で最も判り易く、遂行が可能な行動を取るつもりです……たとえ手にした情報が少なかろうと、何が待っていようとも」
「……優勝か。が、ギラーミンが必ずしも約束を守るとは限らないだろう。 君はそんな不確実な事に己の命を賭けられるのか?」


確かにサカキの言う通りかもしれないと思う感情もある。
だが、命ならとうの昔に捨てている。
恐れを抱く事はたった一つだ。
ラブレス家の優しさによって、今日まで繋ぎとめられたこのちっぽけな人生。
幾多の血に塗れたこの身体が、彼らのために何も出来ずに朽ち果ててゆく。
それだけがどうしても我慢出来ない。

「ずっと考えていました。貴方と手を組むべきどうか……いえ、この殺し合いとやらが本当に意味があるのかどうかを」


周囲の空気が変わる、ロベルタの瞳が更に鋭さを増していく。
サカキは思わず息を呑む。
サカキには未だ彼女にどのような目的があるかはわからない。
だが、彼女が諦めという意思を持ち合わせていない事は痛い程にわかる。
彼女が作る、底冷えがする程に冷たい表情を見てサカキはそう思えずにはいられない。
そして、彼女が次に何を言おうかしているのも大体の予想はついた――
故にサカキは彼女との会話に乗り出す。

「私は、ギラーミンとやらのあの言葉は不自然としか思えません。
自分を倒したら何でも願いを叶える……あの時、貴方が言ったようにギラーミンが死んだら一体誰が願いを叶えるのか……疑問に思うのは可笑しい話ではない。
ですがギラーミンはその事を見落とした、それは一体何故でしょうか」
「……奴はつい考えずに口にした。自分に与えられた台本を……己のボスによって用意されたセリフ、いや若しくは奴に任せられていたのかもしれない。
子供に仕事を言いつけるわけでもあるまい。
ギラーミンに言うべき要項だけを伝え、それを我々に知らせるような類の説明をしろと……そして奴はつい口にしてしまった。
事情を知らない我々にとっては、不自然なセリフが出てきてしまった事に気づかずに……」
「そう、貴方が言ったように、ギラーミンの上に何者かが居るという前提なら何も問題はありません。
あれは単なる進行役であり、彼の殺害が褒美とやらの、彼の上に立つ者に辿り着く資格に直結しているのかもしれない。
しかし、この殺し合いが単独でのものならば不自然さが残ります」
「勿論、褒美の渡し方だな。奴を殺せばあらゆる願いを叶える事の出来る力が手に入る……なんとも抽象的で下らん言葉だ。
問題なのはその手に入れ方……よもや殺すだけで急に力が湧く事もあるまい。
大方、奴の上の存在がなんらかの行動を起こすのだろう……私も君の推測を聞き、確かに納得はした。
あのギラーミンのセリフは、奴が自分の上に何者かが居る事を前提にしていなければ出てくるわけがない。
だが、何度も言うようだが奴らが約束を守る保障は」
「そうです。ですが――」

一息。
長い問答を経て、ロベルタは少し息を吸う。
この殺し合いの事について会話を重ねたのは何も今回が初めてではない。
互いに相手が何を言うのか見当がついていた
サカキの問いかけは至極尤もなものだ。
有無を言わさずに自分達を此処に集めた者達など信用には値しない。
だが、何も可能性が0というわけではない。
そう、彼らが自分達を集めた目的。
言うなれば彼らが指示した道標に沿って歩いて……いや、走って行けば――可能性はある。
辿りつく可能性は0ではない。


「彼らを表の舞台に引っ張り出す事は出来るでしょう。
最後の一人となれば彼らが接触を行わないわけがない……彼らの望みは私達の中からたった一名を選びぬく事なのですから。
そして、その後の事はそれから考えるつもりです、ギラーミンを殺した後に出てくるであろう人物の出方次第で。
勿論、この場からの脱出は絶対に譲る気はありませんが……!
ですから、残念ですが……名も知らない紳士殿、お別れです」


そう、優勝してしまえばギラーミン――いや、真の主催者とも言うべき存在に近づく可能性が出てくる。
集団では動きにくい、単独での行動の方が裏切りなどを気にする必要もない。
弾薬の補充は別の参加者から奪うなりなんなりし、強者と戦う事になっても奇襲などを織り交ぜればやりようはある。
只、今まで以上に警戒すればいい。
パッと見ては武器とは思えず、今まで気づかなかったパ二ッシャーがある。
既に一挺の拳銃で満足していたため、碌に読んでいなかった説明書にも目を通した。
詩音を追う途中、サカキに追いかけられている間の僅かな瞬間に。
引き金を連結した形になったパ二ッシャーの掴み手に力を込め、ロベルタは狙いをつける。
たとえ、未だ使い慣れていない武器だとしてもこの距離で外す事はない。
依然としてサカキに向けられた銃口からはやがて、無数の銃弾が吐き出され――る事はなかった。


「……君は何故、そうまでして拘る。何か大きな目的でもあるのか、何か大切なものでも失ったか……仇討でもするつもりか?」
「仇討ではありません。私が行うのは所詮、穢れた犬同士による共食い。その途中で寄り道をする……そう、ギラーミンという犬の喉笛を食い千切る。
同い穢れた犬であるこの私が……只、それだけの事です」


己に向けられた銃口をサカキは食い入るように見つめる。
サカキが投げ掛けた疑問はごく自然なもの。
彼は未だロベルタの事情はわからず、名前すらも知らない。
ロベルタにとって無視してもいい質問だが、彼女は何故か動きを止める。
理由は彼女自身にもわからないが、心辺りはある。
サカキが浮かべる顔、彼の醸し出す雰囲気に見覚えがあった。


「犬か……ククク、面白い。自分のコトをそこまで評せられる君が、今までどんな生き方をしてきたか是非気になるところだ。
だが、生憎お喋りを楽しむ時間もなければ、私にはそんな趣味もない。
君も私をこのまま殺すつもりだろうからな……そこでどうだろう。一つ提案があるのだがね」
「……手を組むという話ならもう結構ですが」
「そうではない。何、簡単な事だ」


組織を、それも堅気のものではない――法に触れた組織を束ねる一介のボスの面構え。
一向に動じず、不適な笑みすらも浮かべながら話を進めるサカキ。
余裕などない筈の状況であるが、サカキとてプライドがあるのだろうか。
世界を股にかける犯罪組織の長が、自分より年下の娘なぞにコケにされてたまるものか。
たとえ馬鹿みたいな銃器を携えた、狂犬と呼ばれた元テロリストだったとしても。
勿論、口に出すような事はしない、する必要はない。
野心を常々と抱く多くの手下どもを力づくで従わせてきた、ボスとしての威厳があれば事足りるのだから。
そして、サカキは続ける。
彼の言うように、至極簡単な提案を叩きつける。


「私とゲームをしよう。君は犬としてこの殺し合いで優勝を目指し、私はあくまでもギラーミンの殺害を目的とする。
そう、先程の彼らと協力し、私はこのゲームを潰して見せよう。
そして私は君のように己自身を犬とは見なしはしない。
奴と同じ位置……いや、最終的には奴を見下ろす形でケリをつける。
私と君のやり方……どちらの方ギラーミンの命を奪えるか、それを確かめようではないか……放送とやらで呼ばれる互いの名前でな」


競争。
言うなればどちらがギラーミンを倒す事が出来るかどうかの競争。
但し、それには人の命が関わる。
ギラーミンを倒すとはいえ、危険人物に襲われた時に、サカキは当然反撃を行うつもりだ。
結果的にその参加者の命を奪う事になっても、それは気にする事ではない。
自分の命を守るためには仕方のない事だと割り切る事など簡単な事だ。
だが、それよりもサカキは“ある事”を平然と見過ごすのをロベルタに告げている。
そう、ロベルタが優勝を目指す――殺人を犯そうとする事に特に言及していない。
肯定でも否定でもない、あくまでも無言。
それはロベルタに対し、勝手にやれと暗に言っているようにも見えた。
しかし、ロベルタは首を縦に振ろうとはしない。

「……確かに貴方の方はそれでいいでしょう。少なくともそのゲームに乗れば、貴方はこの場を切り抜けられる。
ですが、私には何もメリットはありません」

当然の反応。
ロベルタにしてみれば此処でサカキを逃す手はない。
何も参加者を殺すには正攻法だけが必要というわけでもない。
時には相手を口車に乗せて、騙し討ちをするのも手段の一つだろう。
そのためには自分の存在を知っているサカキは此処で消しておけば、後々問題になる事もない。
が、流石にその事はサカキ自身も理解しており、ロベルタがそう切り返してくる事を予想出来ていた。

「君の言う通りだな……そこでだ、その代わりといってはなんだが……君にこれらを譲ろう、きっと君の役に立つ筈だ」

自分とのゲームに乗ることへの交換条件。
サカキが取り出したのは少量の包帯と薬、そして五本の短剣――投擲剣・黒鍵。
確かにロベルタにとってはどれも有難いものだろう。
包帯と薬は負傷した右腕の治療に、黒鍵はナイフと見立てれば色々と応用が利く。
だが、それでは理由には弱い。
故にロベルタの表情にそれ程の変化は見られない。
幾ら魅力的な物とはいえ、そんな物はサカキを殺してから奪ってしまえば良い話なのだから。
そう、その事をサカキは見落としている――わけがない。

「私を殺した上で奪うつもりかもしれないが、本当にそれでいいのか? 此処で私が死ねば、きっと疑問に思うだろう。
今も私の連絡を待っているあの二人の青年と少年……彼らは君の事を不審に思うかもしれない。
あの見るからに正義感に満ちた彼らが君を疑ってしまえでもしたら、それは面倒な事だろう。
彼らの力を忘れたわけでもあるまい。」
「……ッ」

今もサカキを待つ二人の人間、ヴァッシュと康一。
康一の方は言うまでもない。
突如として奇妙な人形を発現し、それで詩音の動きを完全に抑えた恐るべき力。
どうやってやったのか、どこまであの力が及ぶのか。
何一つわからない力を持ち、言動からしてこの殺し合いを憎むだろう。
一方、いまいちパッとした動きは見せなかったヴァッシュだが、サカキとロベルタは見抜いている。
彼も只の一般人ではない。
何よりもあの一触即発とも言える状況に、『ラブアンドピース』など酔狂染みた事を叫んで、乱入を行える度胸。
自分達の予想以上の実力を持っているからこそ、成し遂げた芸当であると二人は奇しくも同じ推測をしていた。
そう、そんな自信がなければ只の馬鹿でしかない――まあ、半分は当たっていると言えるのだが。
そして、その二人がサカキの連絡が途絶えた事を知れば、詩音かロベルタのどちらかに殺されたと疑うのは当然だろう。
少なくとも、危険人物であると疑われるのは免れない。
彼らのような実力者から眼をつけられる事は、避けたいと思うのは自然な話だ。


「だが、此処で私のゲームに乗れば私は彼らに対し、君の事について話さない事を約束しよう。
『結局追いつく事は出来なかった』、とでも言えば彼らは信じるだろう。
これで君にもメリットはある……そう思わんか?」


ロベルタは何も言わない。
只、沈黙を貫き続ける。
依然としてパ二ッシャーの狙いは逸らさずに、サカキを研ぎ澄まされた瞳で睨みながら。
両のポケットに手を突っ込み、悠然と構えるサカキはその睨みにも億さない。
彼もまたそれ以後は何も言わず、身守り続ける。
ロベルタが歩く道を、己を犬と称した女の意思を、その目に焼きつけるためにも。


「さぁ……どうする?」


最期に発した駄目押しの問いかけ。
その言葉が響いた途端、パ二ッシャーの銃口が――


動いた。


◇     ◇     ◇



「迷う事はありません。一刻も早く、私の目的を果たす……たとえ、あのサカキという男との取り決めがなんであろうとも。
そう――」

既に太陽が顔を出し始めている辺り一帯をロベルタが走る。
背中には支給されたパ二ッシャー、右腕に巻かれたものは簡易治療による包帯。
懐には五本の黒鍵、そして既に支給されていたコルト・ローマンも用意してある。
まさに万全の装備、合衆国の軍隊を相手にするにはもってこいといったところか。
だが、この場で相手にするのはアメリカではない。
自分が相手をするのは化け物共なのだ――腕を生やす事が出来たり、奇妙な人形を出す事の出来る種類の。
ならばこちらもそれ相応の装備、覚悟を以って挑まなければ生き残れない。
そう、だからロベルタは乗った。
この殺し合いにも、サカキの提示したゲームとやらにも。


「サンタマリアの、名に誓い――」


この場に似つかわしくない言葉を呟く、だが不思議と心が休まるような心地がした。
サーチアンドデストロイ。
女子供であろうと油断は出来ない、即刻殺せば脅威は霧のように消えてゆく。
一度油断を見せればまた、あのような失態を犯す可能性がある。


「すべての不義に――」


詩音の予想外な抵抗――あんな事はもう二度とあってはならない。
そのためにも硝煙の臭いが身体中に染み込むまで、銃弾を叩き込めば良い。
優勝し、必ずギラーミンを殺して、真の主催者を引っ張り出す。
それを胸の奥底に焼き付けて、自分は暴れ狂おう。
所詮、犬は犬だ。
それもとびっきりの――旦那様を殺した奴らを叩き殺すまでは、死ぬことは許されないとう使命を帯びた狂犬。
故にロベルタは走り続ける。


「鉄槌を――!!」


最後に支給された支給品。
何かの錠剤が含まれた瓶をロベルタはデイバックの中に保管し、疾走する。
そして、その瓶の中には少しだけ空洞があった。
少しだけ、ほんの少しだけの空間がポッカリと空いていた。


◇     ◇     ◇



「行ったか……」


額に滲み出た汗をサカキは拭う。
やはり長い間、銃口とにらめっこをするのは神経が削がれる心地がするものだ。
しかし、当面の危機は去ったのもまた事実。
手放したものは多くはあったが、それでも上出来だ。
ポケモンが一匹も居ない状況は自分にとってあまりにも酷なものと言える。
その状況を乗り越えただけで、十分に妥協点は出る。
サカキはそう確信していた。

「さて、私も急がねばならんな……」

自分の提案を受け入れ、取り敢えずはこの場を去ったロベルタを思う。
互いの生存を確認するために、既にお互いの名前は交換済みだ。
偽名を使っている可能性もあるが、正直ロベルタがこの先死のうがどうなろうかはどうでもいい。
自分のカードと成らなかった者の末路など所詮些細な事だ。
それがたとえ興味を、経歴に興味を持った人物であろうとも。
自分と別れる際、姿がかなり遠くなった時に何かを口に含んでいたが、それについてもあまり興味はない。
まあ、彼女の言った名前が放送で呼ばれたら鼻で笑ってやろう――その位の認識。
しかし、約束を違えるつもりはない。
嘘も方便とは言うが、それではサカキの誇りが許さなかった。
そのような手段を講じずとも、自分はこの殺し合いに生き残るという自信がサカキにはあるのだから。

「先ずは集めるべきだな……彼らだけでは足りない。 そう、仮初の形だが結成する価値はある――」

康一とヴァッシュへの連絡もした方が良いだろう。
既に時間はかなり経っている。
あまり心配させても面倒であるし、他の参加者と不用心に接触するかもしれない。
性格にクセがありそうだが、それらをコントロールするのも上に立つ者の勤め。
よって、サカキは固く決意する――

「新生ロケット団……目的は只一つ、ギラーミンの殺害……そして奴の上に居る存在を引きずり出す。
必ずや率いてみせる……たとえ何があろうともな」


サカキの野望は未だ終わらない。




【C-2 北部 山道/一日目・早朝】
【サカキ@ポケットモンスターSPECIAL】
[状態]:健康
[装備]:投擲剣・黒鍵 5/10@Fate/zero
[道具]:支給品一式、電伝虫@ONE PIECE
[思考・状況]
基本:ゲームを潰してギラーミンを消す
1:ヴァッシュに連絡を入れ、彼らの元に戻る
2:同士を集め、ギラーミンへの対抗勢力を結成する(新生ロケット団)
3:ヴァッシュと康一にはロべルタの事は『追いつかなかった』と説明し、彼女の事は言わない。
※備考
 第三部終了(15巻)以降の時間から参戦。
※康一、ヴァッシュ、はまだ知りません。
※詩音を『園崎魅音』として認識しています。
※ギラーミンの上に黒幕が居ると推測しています

【C-2 中心部 山道/一日目・早朝】
【ロベルタ@BLACK LAGOON】
[状態]:健康 。メイド服。 右腕に切り傷(応急処置済み)
[装備]:パ二ッシャー@トライガン・マキシマム(弾丸数100% ロケットランチャーの弾丸数2/2) コルト・ローマン(5/6)@トライガン・マキシマム 投擲剣・黒鍵 5/10@Fate/zero
[道具]:支給品一式 コルト・ローマンの予備弾42 グロック26(弾、0/10発)@現実世界 謎の錠剤入りの瓶@BLACK LAGOON(残量 95%)パ二ッシャーの予備弾丸 2回分、ロケットランチャーの予備弾頭 6個
[思考・状況]
1:サカキとのゲームに乗り、殺し合いに優勝する。
2:園崎魅音(詩音)を追い、殺す。
3:必ず生きて帰り、復讐を果たす。
【備考】
 原作6巻終了後より参加
※康一、ヴァッシュ、名前はまだ知りません。
※詩音を『園崎魅音』として認識しています。
※ギラーミンの上に黒幕が居ると推測しています、よって優勝の褒美は有効であると考えています。
※錠剤を服用しました、具体的な影響は後の方にお任せします。
※何処へ行くかは後の方にお任せします。


支給品説明

【パ二ッシャー@トライガン・マキシマム】
ウルフウッドが使用する、十字架の形をした『最強にして最高の個人兵装』
銃とロケットランチャーの複合兵器。
制限:本ロワでは原作での破壊力を出せないように、また超人でなくとも扱えるよう制限がある。

【謎の錠剤入りの瓶@BLACK LAGOON】
原作七巻、バオの回想シーンでロベルタが服用したアレ。




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奈落の花 ロベルタ エル・ブエロ・ガザ・デ・フローレンシア
奈落の花 サカキ 呼び水





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最終更新:2012年11月30日 00:14