呼び水◆b8v2QbKrCM



「クッ……15人もとは。想定外だな」

C-2とB-2の境界線付近の路傍で、サカキは独り歯噛みした。
15人――先程の放送で伝えられた死亡者の数だ。
その中にイエロー・デ・トキワグローブの名があったこと自体は大きな驚きではなかった。
サカキが知る参加者の内では、イエローはお世辞にも身体的能力が高いとは言えない。
恐らくレッドとイエローも、自分と同様にポケモンを奪われた状態でここに放り出されたのだろう。
いかにイエローが腕のいいトレーナーであっても、肝心のポケモンが手元になければ意味がない。
現状の問題は、どこにいるかも知れないトレーナーのことではなく――

「まさかオレがいない間に襲撃を受けたのか?」

電伝虫をデイパックに押し込め、道の行き着く先を仰ぎ見る。
サカキが焦る理由。
それはヴァッシュ達と連絡がつかないということだった。
15名という死亡者は想像以上の数だ。
にも関わらず、様々な事情から、サカキは彼らの名を知らぬまま。
故に放送から彼らの安否を知ることは出来ず、電伝虫という生物の力を借りることにした。
それが、数分前。
サカキは山頂の学校を目指し、黙々と山道を歩いている。
結論から言えば、サカキはヴァッシュ達と連絡を取ることができなかった。
いくら待てどもコール音が止むことはなく、何の反応も返ってこないのだ。
襲撃を受けて通信に出ることができない状況にされたのか。
或いは何らかのトラブルで電伝虫が使用できなくなってしまったのか。
いずれにせよ、事態が良くない方向へ転がっているのは明白だった。
やがて山道を抜け、学校の門前に辿り着く。
周囲に他の参加者はいないのか、ここまで一切の障害らしきものはなかった。
明け方の山というのは、ひどく静かで、冷たい。
サカキは朝露に靴を濡らしながら、康一達と別れた地点を目指して歩き出した。
森の木々の間を行き、草と低木を脚で乱暴に掻き分ける。


そして、森の中にソレを見つける。


「……最悪の展開だな」

成程、これでは連絡など望むべくもあるまい。
サカキを迎えたのは、森の中に放置された二人分の死体だった。
片方は見覚えのない青年。
もう片方は、サカキと合流する手筈になっていた少年であった。
広瀬康一という名は知らないが、その外見はしっかりと記憶している。
二目と見られないほどに損壊した死体ではないのだ。
見間違えということは、ない。
そしてこの青年が、恐らくは襲撃者。
どちらも息絶えているということは相打ちになったのか。
よもやこんなに早く計画が暗礁に乗り上げようとは。
サカキは誰に向けることもできない憤りに表情を歪めた。
もう一人、ヴァッシュ――サカキはその名を知らない――の姿が見えないのは、危機を逃れたのか、あるいは。
少なくとも康一と同じ場所で死亡したというわけではないようだ。

「私だ! 誰かいないか!」

周辺に響き渡るよう声を張り上げる。
付近にヴァッシュがいるならば、この声を聞きつけてやってくるだろう。
危険人物を招き寄せるリスクは承知だが、それ以上に早期の合流が重要だとサカキは判断した。
――暫し、待つ。
周囲は依然として静寂に包まれ、人間の気配すら感じられない。

「駄目か……計画の建て直しは避けられんな」

あの男はここにはいない。
あるいは、この世にも――
サカキは少年の死体の傍らに落ちていた電伝虫を拾い上げた。
目をつけていた相手を二人も同時に失ったのは痛い。
しかしだからといって計画に変更はない。
予定通りに手駒を集め、戦力を整えるだけだ。
そのためには自身も身を守れるだけの装備を整える必要があるだろう。
幸か不幸か、辺りには二人分の持ち物が散らばっている。
差し当たってはこれらを有効活用させて貰うとしよう。
サカキは冷徹な思考で計画に微修正を加え、物資の回収を開始した。



歴史を感じさせる造りの紅い槍。
奇妙な内容の巻物。
白い鞘に収まった刀。

デイパックの中身も有用だ。
基本的な支給品は幾らあっても困るものではない。
袋に詰められているのは薬草の類だろうか。
用途の分からない鍵――これも一応貰っておこう。
そして最後に。
少年のデイパックに入っていた、黒いベスト。
一見すると単なる衣服だが、触れてみれば通常とは異なる素材で繕われていることが何となく分かる。
サカキはスーツの下に着用していたベストを脱ぎ、代わりにそちらを身につけた。
質量は増していて多少硬質ではあるものの、行動に支障はなさそうだ。



「……む?」



ふと、サカキは足元に落ちている血痕に目をやった。
まずここに一つ、少し離れたところに一つと、死体から少しずつ遠のいていく、一連の血痕。
まるで何者かが流血しながらこの場を立ち去っていったかのようだ。
少量かつ、それぞれがかなりの間を置いて点在しているので、
荷物を回収するために屈んでいなければ気がつかなかったに違いない。
サカキは指先で血痕に触れた。
流れ出して間もないのか、まだ凝固しきっていない。
推定だが、彼らの絶命と前後して流れたのだろう。
可能性は大きく分けて二つ。
一つは、ここで斃れている死体のどちらかが、血を垂らしながらここへ移動してきた可能性。
それならば別段気にかけるような痕跡ではない。
もう一つは、第三者がこの場を離れていった可能性。
血痕が意味を持つとすればこちらの方だ。
――生き残っていたヴァッシュ。
――襲撃者の片割れ。
――巻き込まれた完全な第三者。
傷を負っての流血なのか、それとも返り血が地面に垂れただけなのかは関係ない。
いずれにしても、ここで起きた出来事を詳細に把握していることだろう。

「……追う価値はあるな」

無駄足の危険性はあるが、ここで立ち止まっていても意味がないのもまた事実。
サカキは血痕の指し示す先へと視線を移す。
森の中に、絶海の孤島の如く佇む人工建築物――古城。
もし人が見知らぬ森を彷徨うとすれば、ただ徒に歩き回ったりはしない。
無意識のうちに人工物を目指してしまうものだ。
それが大規模な建造物であれば尚のこと。
血痕の主でなくとも、参加者の誰かが脚を休めに留まっていることも有り得る。




死体に背を向け、サカキは歩き出した。
目指すは古城――
そこに誰がいるのか、何が起ころうとしているのか。
今の彼に知る術はない。


そして、彼がリスクを冒してまで口にした声。
目当ての相手こそいなかったが……聞き届けなかったものがいない保証など、有りはしないのだ。
血痕は呼び水のようにサカキを古城へ誘う。
サカキの声もまた、誰かを誘う呼び水になるのかもしれない。


【B-2 森/一日目 朝】
【サカキ@ポケットモンスターSPECIAL】
[状態]:健康
[装備]:投擲剣・黒鍵 5/10@Fate/zero、防刃ベスト@現実
[道具]:支給品一式×3、電伝虫@ONE PIECE×2、破魔の紅薔薇(ゲイ・シャルグ)@Fate/Zero
     忍術免許皆伝の巻物仮免@ドラえもん、和道一文字@ONE PIECE、シゥネ・ケニャ(袋詰め)@うたわれるもの、謎の鍵
[思考・状況]
基本:ゲームを潰してギラーミンを消す
1:血痕(ヴァッシュが浴びた返り血)を追って古城へ赴く
2:同士を集め、ギラーミンへの対抗勢力を結成する(新生ロケット団)
[備考]
 第三部終了(15巻)以降の時間から参戦。
※康一、ヴァッシュの名前はまだ知りません。
※詩音を『園崎魅音』として認識しています。
※ギラーミンの上に黒幕が居ると推測しています。
※康一の死亡を確認しました。ヴァッシュの生死についてはどちらとも確信していません。
※表記されている道具のほかに、通常のベストが一着、デイパックに入っています。
※防刃ベストは通常のベストに偽装したもので、銃弾等を防ぐほどの性能はありません。




B-2・森にベナウィの死体、広瀬康一の死体が放置されています。荷物は空のデイパックのみです。
また、その周辺にサカキの声が響き渡りました。




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最終更新:2012年12月02日 18:23