同じ夜明けを見ている ◆SqzC8ZECfY




東の空から差し込む夜明けの輝き。
反対に西の空にはまだ星が残る光と闇の空漠の下、街灯の人工的な光に照らされた道路を一人の男が走っていた。
カツ、カツと足音がアスファルトを叩く音。
だがそれは一定しないリズム。
地味なコートを羽織り、ふらつく足取りで、時折体勢を崩しながら、それでも前へと身体を運ぶ。
衛宮切嗣は汗と血が入り混じる苦悶の表情を浮かべていた。
襲撃者からの逃走を図る際、己の奥の手である固有時間加速を使った。
その反動が切嗣の肉体に莫大な付加をかけていたのだ。
切嗣は自らの時間を三倍速まで引き上げることで、普段の三倍の速度で動き、逃走に成功した。
ならばその反動とは一体何なのか。
それは至極、単純な話。
三倍の速度で動くために、心臓の鼓動や全身の血流を、同じく三倍の速度で動かせばどうなるか。
不整脈でまともには身動きがとれず、一気に三倍の血が循環すれば毛細血管は耐え切れず破裂し、全身に内出血を起こす。
使った時点で、全力で戦うことはほぼ不可能だ。
それどころか一刻も早く身体を休めなければならないほどのダメージである。
だが足を止めれば追いつかれる。そして襲撃者に追いつかれれば自身の命は風前の灯に等しい。
だから無理を押して、さらに切嗣は走る。
ぜえぜえと荒い息の音だけが、道路上の静かな空間に響く。
どれくらい走ったのか。短いようで永遠に感じる時間だった。
太陽が地平線から顔を出していた。
真夜中の風景に慣れていた切嗣の瞳には、夜明け間際の微かな光に照らされたショッピングモールの姿がやけにまぶしく写る。
やはり切嗣の予想通りだった。
消防署から南下してこのモールにたどり着くには、地図の下辺から上辺に地形が繋がっていなくてはならない。
だがそれを考えるのは後だ。
後ろを振り返る。
襲撃者は数百メートル後方で悠然とこちらに歩を進めてきている。
本気で追ってくる気がないのか、それともどういうつもりかは切嗣は知ろうとも思わない。
ただその慢心に付け込んで、状況をすこしでも有利にする方法と手段を模索するだけだ。
切嗣は迷わずモールへと飛び込んだ。
広い駐車場を横断して、さまざまな店舗が連なる自動ドアの向こうへとその身を躍らせる。
もう一度振り返った。
まだ襲撃者は追いついていない。
まだあの傷の男の姿は敷地の中には見えない。
このモールなら隠れる場所には事欠かない。
隠れてやり過ごし、そしてまずは体力の回復に勤めなければならない。
とりあえず、あの男が追いついてくるまであまり時間があるわけではない。
切嗣は目に入った様々な店舗のうちの一つ――――とあるレストランへと飛び込んだ。


   ◇   ◇   ◇


コートの男がショッピングモールへとたどり着いてから十分ほどの時間が過ぎていた。
顔の端から端まで真一文字の大きな傷を刻んだ偉丈夫が、その巨大な施設の入り口に立ったところで、感心したように呟く。
傷の男、その名はサー・クロコダイル

「しかし……たいしたもんだな」

遠目から見た限りでは、ただ巨大なだけに過ぎない建築物かと判断したが、そうではない。
ドアはガラス。透けて見える内部は華やかな装飾が施され、閑静な周囲の景色から切り離されたようなきらびやかさで彩られていた。
内部へと歩を進める。
すると磨き上げられた硬質の床が先へと伸びており、その両脇に連なる小奇麗な構えの様々な施設が彼を迎えた。
そこらの軒下に店を広げた露天商ではない。高級商店街を屋内に詰め込んだようなその景色は、クロコダイルの世界にはないものだった。
コートの男を追っていることも僅かの間忘れて、物珍しそうに周囲を見回しながら歩く。

カツ、カツと硬質の足音が一定のリズムで響く。
その歩みが突然、止まった。
フン、わずかに鼻を鳴らして、ある施設を凝視している。
その視線の先にはレストランの入り口があった。
ガラス戸の向こう側には店内の様子が見えている。
白いクロスに覆われた清潔なテーブルに落ち着いた色合いの椅子。
明るすぎない程度に調節されたライトがそれらを照らしている。
そして床のカーペットにぼんやりと写る――――影。

「…………」

クロコダイルの目が無機質な狩猟者のそれに変化した。
ゆっくりとレストランのドアに手をかけ、開けていく。
馬鹿が――と口元が思わず歪んだ。
よりによってガラス張りで中の様子が丸見えの店に飛び込み、あまつさえ隠れたつもりで自分の影すら隠せないとは。
レストランの入り口からすぐの場所にあるレジの向こうにはキッチンへの入り口が在る。
その入り口の床には、人の形をした影がうっすらと浮かんでいた。
つまりそこに奴はいる。入り口のすぐ横の壁に身を隠したつもりでいる。
だがクロコダイルにとっては、その位置さえ分かっていれば、そんなチンケな壁は盾になどならない。


「――砂漠の宝刀ッッ!!」


容赦も慈悲もなく、間髪入れずに必殺の一撃を放った。
砂には細かく砕かれたガラス質や鉄分が含まれている。
砂とは元々が鉱物であり、それを凝縮した刃はつまり一般的な剣のそれと変わらない。
むしろクロコダイル自身の鍛錬によって剃刀以上に細く鋭く、まさに砂粒のようにミリ単位以下まで研ぎ澄まされた一撃は、名刀と呼ばれる剣の切れ味すら遥かに上回る。
ただの壁などたやすく両断し、その向こう側で震えて隠れるネズミの首にいたっては話にもならないだろう。


――斬ッッ!


切り裂く音。


――どさっ。


何かが落ちた音。


――ころころ。


そして、何かが、転がる、音。


   ◇   ◇   ◇

明け方の空気は冷える。
夏休み真っ最中の学園都市からいきなり拉致された御坂美琴は、もちろん夏服だ。
校章の入ったベストをワイシャツの上から身につけているとはいえ、短いスカートに半袖だけではちと辛い。

「うー……ほんとどこなのよ、ここは」

夏でもなく冬でもない。
その中間の何ともいえない微妙な気温である。
おまけに先程のひと悶着で少し汗をかいてしまって、それがさらに身体を冷やす。


土埃に塗れた全身をパンパンとはたいてから、なだらかな斜面に広がる草むらに身を預けてしばらく休んでいたが、いつまでもこうしているわけにもいかない。
そろそろ行動を起こすことにする。
とりあえず外気でこれ以上身体を冷やすのは御免こうむりたいところだ。
斜面の下に視線を向けると、そこには一本の大きな道路があった。
無数の街灯に照らされて、薄暗い景色の中から浮かび上がるように存在をアピールしている。
道路の周りにはぽつんぽつんと民家。そしてもう一つ、道路の街灯に匹敵する光量に彩られた巨大なショッピングモールがやや遠くに見えている。
ここから降りていけばひとまず休む場所には困らない。
そう判断して御坂美琴は斜面を駆け下りようとした。

「……!」

周囲は無人。そして静寂。
ゆえに動くものが存在すれば、それはことのほか目立つ。
少なくとも200メートル以上離れているとはいえ、その姿を彼女の視界が捕らえるのは容易いことだった。
即座に草むらに伏せて身を隠す。
美琴が見つけたのは、ふらついた足取りで、それでも懸命にモールに逃げ込んでいくコートの男。
そしてその数百メートル後方。
悠然と道路の真ん中を進み、コートの男を追うもう一人の男。
コートの男は追われているのだろうか。
殺し合いをしろといわれてここに放り込まれたからには、この状況で推理できることは――、

「あの後ろの男にコートの人が襲われたってことか……」

御坂美琴は超能力者である。
都市ぐるみでそのような能力開発を行う『学園都市』において、トップクラスの能力者たちが集う名門、常盤台中学に所属。
そのようなエキスパートたちの中でも彼女は一目置かれる存在だ。
二つ名は超電磁砲<<レールガン>>――――その力は単独で軍隊に匹敵すると言われるレベル5、つまり最強の超能力者の一人であるという称号。
だが彼女には元からそのような強力な能力があったわけではない。
もともとの力量はレベル0。つまり彼女は自らの努力によってここまでのぼりつめたということだ。
むしろだからこそ自らの力に対する自負も強い。
自分が正しいと思ったことを貫き通す。まっすぐに。
その実力も相まって常に人の輪の中心にいるが、そういったスタンスをとればそれなりに敵も多い。
だがそれも意に介さない。自分を信じているのだ。
そうやってできなかったことなどないから。
頑張れば報われる。正しいことをすれば世界はきっとよくなる。皆幸せになれる。
信じていた。
そう、今までは。
草むらに身を伏せた美琴は、その体勢のまま動かず、地面の青草を握り締めた。
その手には震えがあった。
そうしているうちにもう一人の男もコートの男を追ってモールへと歩を進めていく。

「くっ……」

御坂美琴は勝気な性格だが基本的には優しい人間だ。
子供の頃は病気の人を助けるためと言われて、自分の遺伝子情報を素直に医者に提供した。
それは今も変わっていない。
いつもどおりなら正義の味方よろしく、あの男の前に立ちはだかって電撃をお見舞いしていただろう。
それができなかった。
隠れて離れたところから見ているだけ。
その手には震え。
本人は指摘されれば否定するだろう。
だがそれは紛れもない、恐れと言う感情だった。


   ◇   ◇   ◇


「は……はっ……」

懸命に呼吸を落ち着かせる。
このモールは広大だから、隠れることさえできれば確率的に見つかる可能性は限りなく低い。
敷地面積は数百メートル四方、店舗数だけで数十を数えるだろう。
大丈夫だ。
しばらくはゆっくり休めるはずだ。

「くそっ……」

切嗣は歯噛みするのを抑えきれない。
あの傷の男、そこらの魔術師どころの話ではない。
人間を越えた存在、サーヴァントクラス。
名簿にあったライダーやアーチャーといい、あんな化け物がゴロゴロいるとでもいうのか。
勝てない――と切嗣は己を冷静に客観視した上で考える。
自分ですらそうなのだから圭一などは生贄となるべくしてここに連れてこられたようなものだ。
人間の範疇では、どう足掻いたところで勝ち残るなど不可能に等しい確率。
腕の令呪を見やる。魔力の反応は健在。
呼べばセイバーは応えてくれるだろうか。


「――令呪をもって我が傀儡に命ず」


小さく、呟くように鍵となる言霊を紡ぐ。


「――ここへ来い……セイバーッ……!」


令呪の一画が消えた。
正しく機能すれば次元の壁すら越えてサーヴァントはマスターの元へ駆けつけるはずだった。
それが令呪の力だ。
全ての願いを叶える超常の願望機たる聖杯がもたらす奇跡の一つ。
だがそれが――――何も起こらなかった。

「なぜだ……!?」

驚愕に切嗣の目が大きく見開かれた。
ここへ自分たちを連れ去ったギラーミンが令呪の働きを妨害したとでもいうのか。
もしセイバーを召喚できるとしたら、彼女は絶対に殺し合いなど認めないだろう。
圭一のような一般人が巻き込まれていればなおのこと。
殺し合いを停めるために動くであろうセイバーの召喚をギラーミンが邪魔するとしたら?
ならば――――それが可能だとしたら、奴は聖杯以上の力を持っているのか。
にわかには信じられないが、それならばライダーやアーチャーが自分たちと同じ立場で殺し合いをさせられているのも納得がいく。
だが、おかしい。
それほどの力を持っていながら、何故今さら、奴はノビタとかいう少年への復讐などに固執するのか。
名声? ――そんなものは復讐などせずともいくらでも手に入るだろう。
もし聖杯の力すら意のままに妨害できるなら、それは国一つ、惑星一つをその手に治めることすら可能な力を持つということ。
それに比べてギラーミンは、あまりに目的が小さすぎる。
数多の怪物どもを含めた大勢の人間を容易く拉致し、脱出不可能な閉鎖空間を形成し、最後の一人になるまで殺し合わせる。
これほどまで大掛かりな仕掛けを用いた悪辣なゲームの最終目的が――たったひとりの少年への復讐だというのか。
馬鹿げている。
ギラーミンの小ささだけが、あまりにこの殺し合いのとんでもないスケールから浮いている。
だが、正直にいって現在の切嗣にはそこまで考えているような余裕はない。
前門には令呪の力すら封じるギラーミン。後門には人外の怪物ども。
虎と狼の挟み撃ちなどというレベルを遥かに超えている。

衛宮切嗣は絶対に生きて返り、聖杯の力を手に入れ、争いのない世界をもたらさなければならないというのに――――!!


「――――あ?」

その瞬間に思考が中断。
切嗣の視界に強烈な光が差し込んだ。


   ◇   ◇   ◇


首が転がっていた。
砂刃が放たれ、それによって鋭利な切断面を見せる壁の向こう側から、ころころとカーペットの上で転がる首。
それを見てその刃を放ったクロコダイルが忌々しげに呟いた。

「ちっ」

それは間抜けな顔をした、犬のぬいぐるみの首だった。
綿をはみ出させた哀れな目がじっとクロコダイルを見つめている。

「小細工をしやがって忌々しいネズミが……」

興が冷めた。
この広大な施設をムキになって探すのも馬鹿馬鹿しい。
それよりもかつてグランドラインに名を轟かせた大海賊には、このレストランに現在進行形で強烈に興味を惹かれるものがあった。
麦わら一味によってその謀を完膚なきまでに潰されたクロコダイルは、国家転覆を企てた超重犯罪者として七武海としての権利を全て剥奪された。
その後、世界でもっとも厳重な警備を誇る大監獄の奥深くに収容されていたのだ。
それゆえに――、

「酒なんざァ本当に久々だからな……」

その手にはワインの瓶とグラスが一つずつ。
レストランのキッチンに冷やしてあったものを見つけたのだった。
真っ白なクロスが張られたテーブルにそれを置いて、どっかりと椅子に座る。
キン――と、指先を砂刃に変えて瓶の首を一閃。
コルクごと瓶の上部を切り離し、グラスに赤い液体を注いだ。
顔に似合わぬ優雅な仕草で、手に取ったグラスを顔に近づける。
それから軽く振って香りを楽しむと、一気に飲み干した。
日常的にラム酒で酒盛りする海賊にはワインなど水のようなものだ。

「……うまい」

それでも久々の酒の味は格別だった。
毒は入っていないようだった。
そんなことをギラーミンがするくらいなら、そもそも互いに殺し合わせるなどという面倒なことはしない。
あのネズミにもそこまで細工する余裕と時間があったとも思えない。
もう一杯を楽しむべく、再びクロコダイルはグラスにワインを注ぐ。
本当に久しぶりだ。
そう考えると、自分を酒も飲めない境遇に追いやった麦わらのルフィのことが頭に浮かぶ。

「……信じれば裏切られる」

かつてクロコダイルはルフィにそう語った。
それは昔の自分がそうだったからではないのか。
『裏切る』、ではなく――『裏切られる』。

その顔を真一文字に横断する傷は、失われた左腕は、彼がかつて辛酸を舐めてきた証ではないのか。
だが彼は自らそれを絶対に語ろうとはしないだろう。
全てを心の内に封じ込めて、誰を頼りにすることなく、自らの研ぎ澄まされた力のみで、どこまでもただ征くのみ。
クロコダイルは無言。
グラスをあおる。
ワインを注ぐ。
それを繰り返すうち、いつのまにかワインの瓶は空になっていた。
大きく息をついて椅子の背もたれに寄りかかると、ぎしりときしむ音が静かな店の中に染み渡る。

「ほう――――」

そのとき、光が射した。
店の通り側から逆方向の壁は、こちらも一面ガラス張りで外の景色を眺めることができる。
この光は夜明けの光だった。

「そういや日の光を見るのも久々か……」

眩しそうに目を細め、大監獄の奥深くで闇だけを見つめてきた男が嗤う。
だが太陽の光をもってしても、その瞳の奥に宿る闇を消し去ることはできなかった。


   ◇   ◇   ◇


御坂美琴には二万人の妹がいる。
正確には自分と全く同じ遺伝子を持つクローンが二万人いる。
幼い頃、不治の病に対抗するために君の遺伝子が鍵になるかもしれないと言われ、それを信じるままに自分の遺伝子情報を提供した。
だがそれはどこでどう捻じ曲がったのか。
人間のクローンを量産するという非人道的な結果を生み、それが何に使われているかを知ったとき、美琴は絶望した。
超電磁砲こと御坂美琴の劣化複製品――レディオノイズ。
その扱いは一言で言えば実験動物。
研究者たちが求める真実のために、実験のために、家畜以下の扱いを受けて、ただ殺されるためだけに存在する。
そしてそのクローンたちもそれを正確に受け止め、肯定していた。
動物が好きで、他人を気遣うことができる、ちょっと感情表現がズレてるけど、れっきとした女の子。
美琴と同じ姿形をした、だけど紛れもなく美琴と違う個性を持った一人の人間たちが、自らを実験動物と――そう呼んだ。
その研究によってもたらされる結果は、真実を追究する大人たちにとっては、法や倫理よりも、何をおいても大事なものだったらしい。
学園都市の巨大な権力はその実験を黙認していた。


二万人のレディオノイズ――妹達<<シスターズ>>を二万通りの実戦で殺戮することで、最強のレベル5能力者である一方通行は進化する。


御坂美琴の世界における最高性能のコンピューターはそう結論を出した。
レベル6は人ならざる領域と言われている。
それは能力開発の研究者たちが求めてやまない神の領域だ。
だがそこに至るためならば何をしても許されるというのか。
実験のために生きたまま解剖され、テストのためと言う名目で命の尊厳を踏みにじられ続け、数が足りなければ量産すればいいと。
製造費、単価18万円の肉の塊は研究者が求める真実のための踏み台に過ぎないというのか。
御坂美琴はそれが許せなかった。
妹達がそんな運命を享受する羽目になったのは自分のせいだ。だから自分が何としても止めてみせる。
御坂美琴は決意した。
実験を中止させるために、自らの能力をフル稼働して、研究施設を潰して潰して潰しまくった。
だがそれは結局のところ徒労に終わる。
研究施設は何度潰そうとも別のルートから実験を再開した。
実験の要である一方通行を倒そうとも考えたが、同じレベル5でありながら力量の差は歴然としていたのだ。
御坂美琴では、あの一方通行に対して万が一の勝ち目もない。
最高性能のコンピューターが出した結論だった。

そして美琴自身もそれを認めざるを得なかった。
どうしようもない、と。
割り切れれば楽になれた。
クローンがいくら死のうが自分には関係ない。
だが彼女はそれができない。
御坂美琴はどうしようもなく優しく、善人で――――だから背負い込む必要もない罪悪感すら背負い込んで、自分自身の無力を呪い続ける。
そして彼女が見つけた最後の手段は自らが一方通行に挑み、あっけなく殺されることだった。
クローンの大元たる自分自身が何の抵抗もできず、無様に死亡する。
そうすればそのクローンたる妹達をいくら殺したところで進化の餌にはなりえないのではないかと、研究者たちがそう思い直してくれればと考えた。
だが、それを止めにきたのはレベル0の無能力者。
にも関わらず美琴がどうしても勝てない、幻想殺し<<イマジンブレイカー>>の上条当麻だった。
心配してわざわざ夜の街中を探し回ってきてくれた彼は、美琴の話を聞いて「止めろ」といってくれた。
嬉しかった。
御坂美琴は、本当はずっと誰かに助けて欲しかったのだ。
だがその気持ちに甘えることは許されない。
このままでは妹達がただ殺されていくだけだ。
だから立ち塞がる当麻を撃った。
自分は間違っていないと、そう思って、撃った。
だけど――――撃ってから気付いた。
美琴はそんな自分がたまらなく嫌になった。
今の自分が、今の御坂美琴が、御坂美琴は大嫌いだった。


   ◇   ◇   ◇


結局、御坂美琴は斜面の草むらから動けないでいた。
あの男がモールに入っていくのを指を加えて見ていたのだ。

「何やってんだろ、私……」

力はある。
武器もある。
デイパックにしまわれた銃弾をレールガンとして撃ちだせば、並大抵の相手は敵にならない。
だが――ここに連れ去られる以前の経験と、先ほどのカズマと名乗る男との戦いが、美琴から自信を奪っていた。
一方通行に勝てない。
上条当麻にも勝てない。
妹達を助けることもできない。
カズマとの戦いからも尻尾を巻いて逃げ出した。
そんな自分に何ができる?

「たすけて……」

それはずっと言えなかった言葉。
だけど心の奥にずっと潜んでいた言葉。
ボロボロに擦り切れて、脅え、傷ついたたった一人の少女が漏らした呟きは、誰の耳にも届かない。

「う……」

夜明けの光が美琴の顔を照らす。
その目には今にもこぼれそうな涙。


   ◇   ◇   ◇

価値観が違う。

生き方も違う。

信念も全く違う。

<<魔術師殺し>>衛宮切嗣。

<<王下七武海>>サー・クロコダイル。

<<超電磁砲>>御坂美琴。

そんな三人の男女が、この一瞬、この場所で、いまこの時だけは、




――――同じ夜明けを見ていた。




【A-5 モール内部のレストラン/1日目 早朝】

【サー・クロコダイル@ワンピース】
【状態】:ダメージ無し
【装備】:なし
【道具】:基本支給品一式、拳銃(28口径)0/6@現実、拳銃の予備弾36発、ウシウシの実・野牛(モデル・バイソン)@ワンピース
【思考・状況】
1 皆殺し(主催も殺す)
2 麦わらの一味はやや優先度高く殺害する
※切嗣、圭一の名前は知りません




【A-5 モール内部(レストラン以外のどこか)/一日目 早朝】

【衛宮切嗣@Fate/Zero】
[状態]:全身にダメージ(中)、疲労(中)、令呪残り二画
[装備]:コンテンダー・カスタム29/30@Fate/Zero 、防災用ヘルメット
[道具]:コンテンダーの弾薬箱(スプリングフィールド弾30発入り) 支給品はすべて確認済)、基本支給品一式
    ロープ×2、消火器、防火服、カッターナイフ
[思考・状況] 基本:なんとしてでも元の世界に帰る
1:どうすればいいんだ……。
2:クロコダイルから逃げる。
3:圭一が心配。

【備考】
 会場がループしていると確信。
 クロコダイルの名前は知りません。
 スナスナの実の大まかな能力を知りました。

【A-4 緩やかな斜面の茂み/一日目・早朝】

【御坂美琴@とある魔術の禁書目録】
【状態】:疲労(大)
【装備】:なし
【道具】:基本支給品 起源弾@Fate/Zero(残り28発)、不明支給品0~2
【思考・状況】
 基本行動方針:脱出狙い。上条を探す。
 1:どうしよう……。


 ※くんくん人形@ローゼンメイデン は真っ二つになりました。
 ※切嗣がモール内のどこにいるかは次の書き手さんにお任せします。




【起源弾@Fate/Zero】
切嗣が使用する魔弾。全部で66発が作られた。
彼の体内より摘出された左右の第十二肋骨をすり潰した粉を霊的工程を以って凝縮、コンテンダーに込められる.30-06スプリングフィールド弾の芯材として封入した物。
概念武装としての側面も持つ。効果は「切断」と「結合」という切嗣の奇異な起源を撃たれた対象に具現化するというもの.
対象が生物である場合は命中した箇所は、傷が開く事も出血する事もなくただ古傷(内面的には神経・毛細血管は元通りには再生していない)のようになる。
が、魔術師に対して使用する場合は事情が異なってくる。
何も知らずにこの魔弾に対し魔術を以って干渉してしまった魔術師は、切嗣の「起源」による影響を自身の魔術回路にまで受けてしまう。
結果魔術回路を循環していた魔力は本来の経路を無視して暴走し(つまり魔術回路が「ショート」する)、肉体を破壊する。
ダメージは回路を巡っていた魔力の大きさに比例し、その程度によっては絶命に至る。
仮にそれほどのダメージから運良く一命をとりとめようと、神経及び魔術回路は完全に破壊されてしまう。
故に肉体がまともに機能しなくなるばかりか、魔術師としても確実に再起不能となる。
原作3巻まで無駄撃ち無しで38人の魔術師を葬ってきたため、残りは28発である。





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闘争と逃走と 衛宮切嗣 方針
闘争と逃走と サー・クロコダイル limitations




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最終更新:2012年11月29日 01:49