微笑みの行方(後編)◆Wott.eaRjU
観覧車前、大阪の凶行により
ドラえもんに確かな危険が迫る。
しかし、その事を知る者は誰一人として居ない。
言うなれば二人だけの戦い――それは一つだけではなかった。
そう。未だ終わってはいない。
大阪とドラえもんの二人ではない、あの二人の戦いは。
終わってなんかいやしなかった。
「……いつの間にかこんなところまで来ちまったなぁ」
両脚から地面に降り立ち、どこか感慨深く呟くのは
カズマ。
右腕は依然として金色に輝き、シェルブリットは健在。
真紅の羽は残り一枚、三発目の弾丸は腕の中で燻ぶり続ける。
只、発射の時を今か今かと待っているだけだ。
シェルブリットの意思に応えるかのようにカズマはゆっくりと腕を上げる。
カズマの目の前、今まで戦っていた彼女に向けて。
「そのようですわね。ですが、もう十分に時間と距離は稼がせて貰いました。
そろそろ……終わりにしましょう」
聖剣グラム右肩に担ぎ、を
カルラはカズマへ返す。
カルラの目的は口にしてみれば単純な事。
ドラえもんの安全を死守する、そのためにカズマを引き離す事は不可欠。
目論見は功を奏し、現在、カルラとカズマは既に遊園地内には居ない。
G-4エリアに存在する東出入口、カズマが侵入した地点から外へ。
幾つものエリアに跨る湖付近までカズマの誘導を果たした。
そして今に至り、カルラは不敵にも宣告する。
終わらせる。最早最後まで言う事もないだろう。
その言葉が意味するは、只、勝利という形でこの場を切り抜ける事だけだ。
振るう。下ろすようにグラムを振るい、剣先をカズマへ翳す。
「オーケー、望むところだ。越えさせてもらうぜ……アンタって言う壁をなぁ!」
「あら、大きくでましたわね。生憎ちょっとやそっとではやらせませんことよ」
「上等ッ!!」
「まったく、元気が良い事で。なら――いかせてもらいますわ」
言葉が交わされる。
カルラだけでなく、カズマの方にも笑みが浮かんでいる。
互いを知ることはあまりにも少ない。精々名前位だろうか。
しかし、それぞれの力は身を以って実感している。
カルラの方はシェルブリットが巻き起こす、破壊的な衝撃。
カズマの方はカルラの怪力から繰り出される、強烈な打撃。
それらを共に認め合い、同時に闘志を燃やす。
負けてたまるか――ひたすらに純な想い、それでいて無骨な力強さを秘めた願い。
躍動する意思に感応するように二人は駆け出す。
シェルブリットを、聖剣グラムがまるで見えない鎖で繋がれ、引かれ合うかのように。
爆発的な加速を以ってしてぶつかり合う。
「抹殺の、ラストブリットオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
「はああああああああああああああああああああああああああああッ!!」
シェルブリットと聖剣グラムによる斬撃が赤い火花を散らす。
約七千倍まで面積拡張された機殻剣であるグラム。
とある世界の源、概念核の半分を内蔵したグラムの強度は相当なものだ。
だが、カズマのシェルブリットも伊達ではない。
それもシェルブリットの中でも三発目、“抹殺”が示す通り締めの一撃と成り得る。
除々に押し込まれていくはグラムの刀身。
明らかに剣先がカズマではなく、カルラの顔へ近づいていく。
お世辞にも五分五分とは言えない状況。
カルラの頬から一滴の汗が流れ落ち、彼女にもそれほどの余裕はない事を示す。
「っ……良い腕をしてますわ。勿体無いですわね、あなた程の力があればわたくしたちも気が楽だというのに」
「知るかよ、んなコト……てめぇらが何をしようが関係ねぇんだ!」
「何があなたをそうまでさせるか、少し興味がわいてきますわ」
「誰にだって知らねぇコトは、知る必要がねぇコトはあるんだ……そうさ、俺の闘う理由もなぁッ!!」
更にシェルブリットの勢いは増していく。
カズマには負けられない理由がある。
殺し合いなどには興味はない。
しかし、それしか手段がないのだ。
そのためにはどんな事でもやってやる。
呆れるほどに真っ直ぐな感情を、カズマはシェルブリットの弾丸に込める。
爆発的な威力を誇るシェルブリットは、やがてグラムの刀身をも砕く事だろう。
但し、カルラが何もしなければ――ありもしない仮定に基づくならば。
「なるほど、確かにそうですわね。わたくしが知っているコトは殆どありません。
ですが、お忘れではなくて? あなたもわたしくしと同じ、知っているコトはあまりにも少ないでしてよ。
わたくしのコトを……あなたは何も知らないと同然ですわ」
抵抗。既に両腕を柄に添え、カズマのシェルブリットへの対抗を強める。
重く圧し掛かる質量により、腕の筋肉が悲痛な悲鳴を上げている。
しかし、止めはしない。膝はつかない。意思は曲げさせない。
カズマがかなみを追い求めるように、カルラにも終われない理由は当然ある。
たとえグラムまでも砕かれようとも退くわけにはいかない。
希望で終わらせる事はしない。
何故なら――居るのだから。
全てを捧げるに値するお方が、カルラには居るのだから――負けられない。
「この剣はわたくしにはあまりにも軽すぎますわ。
そこでわたくしは考えました……軽いのであれば重くすればいい。
ええ、簡単なコトですわね。ならば、込めましょう――」
グラムの重量は約3キロ程しかない。
カルラの愛刀と較べるとあまりにも軽い。
至極尤もな事をカルラは口にするが疑問は残る。
口で言うには容易いが、剣の重量などそうそう変えられるものではない。
だが、カルラの表情からは真剣さが窺え、決して戯言を言っているわけではない事がわかる。
そう。事実、カルラには自信があった。
「この剣に――」
不意に思う。
血生臭い戦場の中を駆け巡る自分。
大剣を振い、志を共にした仲間達と共に闘い抜けたあの日々。
生まれた国も、種族も疎らな自分達を束ねる男は奇妙な仮面を被っていた。
仮面だけではない。今までお目に掛かった事がない程に奇妙な人であった。
出会いの時、衛兵に対して無礼を働いたというのに、彼は自分を許した。
非常にはなれきれない、人の上に立つ者としては甘すぎる性格。
しかし、それが彼の良いところであると思う。
だから自分も彼に仕え、彼に全てを捧げる覚悟が持てた。
きっと同じだったのだろう。
そうに違いない。
「聖剣の名を持ちし、この剣に――」
様々な顔が一度に浮かぶ。
気真面目な男、いつも不景気そうな顔を浮かべていた――
ベナウィ。
心優しい少女、いつも心配そうにあるじ様を見ていた――
エルルゥ。
不器用な女性、いつも見ていて飽きず真っ直ぐだった――
トウカ。
放送で呼ばれた仲間達、きっと志半ばで散っていった彼ら。
日常は音をたてて崩され、彼らと笑い合うこともない。
ならば自分はやってみせよう。
さっていってしまったもの達へ別れを言うように。
この聖剣による剣舞を演奏に見立てて、自分が送り出そう。
眠りゆく幼子に歌い聞かせるように、彼らの心に届くように。
そう。散りゆくものへ――子守唄を送ろう。
只――どんなものにも負けない、この想いと共に。
「わたくしと、彼らの想いを――今、この瞬間だけはッ! 譲れぬこの想いだけはッ!!」
唸りを上げる。
重くなった――背負ったものが。
ベナゥイ、エルルゥ、カルラ――三人が願ったであろう想いをグラムへ込める。
あとは任せなさい――そう言うように、彼らの想いを継ぐかのように、言葉を紡ぐ。
御苦労さま、と労いの言葉は敢えて言わない。
わざわざ口にするまでもない。
只、見てもらえばいいだけなのだから――自分を。
同じ主君に仕える、一人の仲間としての――自分の闘いを。
最後まで、押し通せるものならば何でもいい――自分の願いを。
全てを一纏めにして託すだけだ。
この聖剣グラムへ――ありったけの想いを叩き込む。
「トゥスクルのカルラが、この身を以って――全力でッ! 我が身を剣とし、ご覧にいれましょうッ!! 」
ギリヤギナではなく、クナンでもなく、敢えてトゥスクルの名を口にする。
それが礼節だと思ったから、少なくとも今この場では。
あるじ様への忠義――カルラを含めた四人が共有する意思が一つに集まる。
一つ一つの火が共に重なり、やがて大きな炎となる。
負けられない。あるじ様と再び出会い、
アルルゥの三人でトゥスクルへ生還する。
純粋な願いがその勢いを強めていく。
まさに烈火の如く。今、この瞬間にカルラが燃やし上げる闘志のように。
想いが生み出す力は、シェルブリットの衝撃にも負けることはない。
遂にはシェルブリットを押し返し、刃が確実に喰い込んでいく。
呻くように声を洩らすはカズマ、一瞬だけ膝が九の字の形に折れそうになる。
外殻が削られ、金色の破片が地面に落ちていく。
一瞬の内に急転したパワーバランスに対しカズマは――
「ああ、スゲぇよアンタ。
たまげた、マジでたまげたさ……正直、俺はアンタに勝ったと思い込んでた。
この剣の重さはハンパじゃねぇ……だからよぉッ!
俺はアンタへの、その弱い考えに対して――反逆する!!」
反逆する。
只、それだけだ。
心なしか饒舌に、胸の奥底で眠る激情が隠せない。
そんな様子で。
「なおさら負けられねぇんだよ、俺はぁッ!
確かにアンタは強い、けどなぁッ……ここでアンタに負けちまえば終わっちまうんだよッ!
そうさ。俺が誓った信念が、この弾丸が曲がっちまうのさ……!
あの劉鳳のヤロウのようにはならねぇ、だから俺は――」
今もなお、シェルブリットの傷は確実に大きくなっていく。
ゆっくりと、しかし確実に喰らいついているグラムは、いつかはカズマの拳を両断する事だろう。
だが、ここで退けるわけにもいかない。
カルラに守りたいものがあるように、カズマにもあるのだから。
今は遠く離れて行ってしまった、大切なもの。
あの大雨が降りしきる日、立ち寄った雨宿り先で偶然見つけた。
震える手でパン切れを差し出し、瞳の奥底に自分に対しての恐れを潜ませていた少女。
自分を、“カズくん”と呼んだあの少女を諦められはしない。
無常と言うクソったれ共に攫われたあの少女を、放っておくわけにはいかない。
この身体がボロボロになろうとも構いやしない。
いつしか当然のものだと思っていたあの日常を。
碌な稼ぎも出せず、いつも食糧の心配をしていたあの日常を。
ずっと一人でも良いと思った。
どうせ、アルター能力者である自分は世界の鼻つまみ者だ。
誰とも分かり合える事はないと思った。
その認識をいとも簡単に打ち砕いてくれた少女を。
あの少女と笑って過ごした日常を――なんとしても取り戻す。
「かなみを取り戻すためにもッ!
負けらねぇ、負けらねぇ――俺の、このシェルブリットは飾りじゃねぇんだああああああああああああああああッ!!」
発光する。
カズマの全身が虹色に輝く。
虹の薄膜が覆うように走り出し、カズマの咆哮が響く。
それは確かな目覚めの時。
今まで眠っていた力の覚醒にも等しい。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」
深々と斬り込まれていたグラムが押し返される。
赤黒い傷跡すらも虹色に包まれ、やがて切断面が消えていく。
そして――周辺の地面が削り取られ、シェルブリットが再構成を始めた。
しかし、全く同一ではない。
所々の形状が変化し、何よりシェルブリットは一際大きくなっている。
それは以前、アルター結晶体の力を取り込み手に入れた力。
シェルブリット“第二形態”が構成される。
「これでぇッ! ラストオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
禍々しいまでに強力な、第一形態よりも更に強靭な拳。
ギシギシと軋む音が響く。
グラムとシェルブリットのどちらによるものか。
周囲の人間からは判別が出来ない程に、その音は大きさを増している。
当の本人達にはわかっているのだろうか。
そうかもしれない。彼らの耳には届いているかもしれない。
しかし、きっとそんな事は最早どうでも良いと思っているに違いない。
どちらが劣勢か、有勢か。自分には勝算があるのかどうか。
そんな詮索は野暮な事でしかない。
どちらにしろ、やるべき事は決まっているのだから。
「……カズマでしたわね?」
「ああ、それがどうした?」
「いいえ、もう一度確認しておきたかっただけですわ。とくに意味はありませんことよ」
「へっ、良くわかんねぇ女だな……それにだ。なんで笑ってるんだい、アンタ?」
「色々と言わせて貰いましたが……わたくしも結局は一人の戦士であった、ということですわね」
「けっ、まわりくどいな。要するにだ、昂ぶってんだろ――カルラさん、アンタも俺と同じようになぁッ!」
「ご想像にお任せしますわ。まあ……答えは出ているようなものでしてよ、わたくしとあなたにはッ!」
互いの顔を見やる。
時間に直せばほんの少ししかない。
しかし、それにしてはやけに印象に残る。
違う出会い方をしていればなど、そんな仮定は考えるだけ無駄だ。
ここまできたのだ。
ここで引き下がれるか。
ここで仕切り直しに出来るか。
ここで――ケリをつけるしかないだろう。
「だったらよぉ――――刻もうぜぇッ!!」
理解は終わっている。
互いの実力は既にとっくの前から。
付け加えて互いの譲れぬ想いもわかった。
もう十分だ。十分過ぎる。
この闘いには十分すぎる程に意味があった。
ならばもう良いだろう。
これ以上言葉を紡ぐ必要などはない。
くどい。くどすぎるのだ。
あとはもうこれだけ事足りる。
腹の底から、只、この想いをぶつけてやる。
背負ったものがどうした? それがどうした?
結局は違うのだろう。言うなればそれは建前に過ぎない。
本心はそこじゃない、わかっている。ああ、滑稽なくらいにわかってる。
自分は今、この瞬間が堪らなくも嬉しい事が。
この勢いに身を任せてしまえば、他の事を何も考えられなくなってしまう程に。
自分は今、全力で飛び込んでいる。
子供の時、誰もが感じたように。
自分が無我夢中になれる時間へ。
一瞬で過ぎ去っては欲しくない。
自分が自分らしく感じられる。
どんなものにも換えられない。
だったら知らしめろ。馬鹿でも良い。何でもいい。
こいつに教えてやれ。
自分もお前と同じだと教えてやれ。
根本はお前と何も変わりはしない。
自分とお前は――大馬鹿ヤロウなんだってことを。
「カルラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
「カズマアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
名前を呼んで。
こいつの、どこか憎めないこいつの名前を。
只、名前を呼んで――力強く。
◇ ◇ ◇
「あの女……今度会ったら、ぜってぇに……!」
カズマが一人愚痴を零す。
勝負の結果は簡単に言ってしまえば引き分け。
最後最後までシェルブリットに対し、斬り込んできたカルラ。
第二形態まで発動させたが、未だに腕に痺れが残っている。
忘れられない。またしても刻むべき名前が増えてしまった。
今度出会ったら――何故だか奇妙な笑みを浮かべている自分に喝を入れる。
楽しむな。お前の目的は一つだ。あいつを助け出せ――絶対に。
内なる声に従うようにカズマは歩き出す。
カルラの行った先は生憎わからない。
もしかすれば遊園地でドラえもんという青いへんちくりんと合流しているのだろうか。
遊園地に戻る事も視野に入れて、カズマは行くあてもなく歩を進める。
「かなみ……もう少し、しんぼうしてくれよなぁ……」
譲れない想いを胸に秘めながら。
【G-4 中部/1日目 朝】
【カズマ@スクライド】
【状態】:疲労(中) 墜落による全身に軽い負傷 砂鉄まみれ 右腕に痛みと痺れ 右目の瞼が上がらない 右頬に小さな裂傷(アルターで応急処置済み)
【装備】:桐生水守のペンダント(チェーンのみ)
【道具】:基本支給品一式(食料を二食分、水を1/3消費)、ランダム支給品0~2
【思考・状況】
1:とにかくあの野郎をぶん殴る。(誰かはよく分かっていない)
2:優勝狙い。
3:次に新庄、伊波と出会ったら……
4:メカポッポが言っていた、
レッド、佐山、小鳥遊に興味。
5:カルラと決着をつける
※ループには気付いていません
※メカポッポとの交流がどんな影響を及ぼしたのかは不明です。
※参戦次期原作20話直後。
※何処へ行くかは次の方にお任せします。
◇ ◇ ◇
「まったく……散々な目に遭いましたわね」
そう呟きながらカルラは一人歩く。
見ればカルラの全身はずぶ濡れの状態になっている。
あの瞬間、互いの名前を叫びあった瞬間。
グラムとシェルブリット均衡は崩れ、大きな衝撃が襲った。
即ちシェルブリットがグラムの刃を押しのけ、カルラの元へ。
勢いは衰えたものの、それでもシェルブリットの威力は依然として十分なもの。
更に第一形態ではなく、第二形態であった事も忘れてはならない。
本当に一瞬だけ、咄嗟に身体を引いたがカルラの意図は叶わなかった。
グラムは手放さなかったものの、カルラは湖へ向かって弾き飛ばされた。
常人ならそこで意識を失い、死に陥ったかもしれない。
しかし、カルラは持ち前の丈夫さを生かし、なんとか這い上がった。
大分流されたりはしたが、もう問題はない。
少し身体を休めれば、いつもどうりに闘える事だろう。
目に映るはG-2エリアに存在する、遊園地への出入り口。
「さぁ、もう一踏ん張りですわ。ドラえもんも待っていらっしゃるでしょうに……」
心なしかおぼつかない足取りでカルラは歩き続ける。
前に倒れ込みそうになるのを、グラムを支えにしてなんとかやり過ごす。
しかし、顔は俯かせはしない。
きっとそれは自分らしくはないと思うから。
それに自分がそんな事ではドラえもんも不安がるだろう。
のび太という仲間が死んでしまった今、彼の傍には誰かが必要なのだ。
支えとなる何かがなければ、彼は踏み外してしまうかもしれない。
ならば自分が――
不意に衝撃が走った。
「――あ」
熱い。
背中が焼けるように熱い。
剣や拳のような感触ではない。
矢を射られたような感覚が背中を走り出す。
なんなのだろう。
同時に聞こえた、“何かの”音の正体もわからない。
半ば無意識的に後ろを振り向こうとする。
――また音が響く。今度は連続的なものが。
熱さが増えた。
どうにも立っていられない。
思わずグラムを手放す。
カラン、やけに頼りない音が響く。
その音がどうにも被った。
今の自分自身、この有り様と。
こんなものか。
案外自分の身体もか弱いものだったのだろうか。
ぼんやりとそう思いながら、崩れるように地に倒れ伏す。
ふと、再びカルラの脳裏に浮かび出す。
先程見た光景、仲間達の様々な顔が浮かんでは消えていく。
特にベナウィ、エルルゥ、トウカの三人が鮮明であるのは気のせいだろうか。
答えは――出ない。よくわからない。だけど心地が良い。
彼らの顔がだんだんと近づき、奇妙な一体感すらもある。
いろんな事があった。
決して捨てきれぬ、過去の思い出の数々。
取るに足らないようなものもあれば、とても綺麗な色で彩られたものもあった。
きっとあの頃からだろう。難破船の遭難で船員を皆殺しにしたあの日。
トゥスクルの者達に捕えられ、あるじ様と出会ったあの日から変わった。
あの素晴らしい日々が、もはや遠いものになっていく。
もう決して取り戻せはしない。
ここで全てを諦めてしまえば、きっと。
出来るものならばご勘弁ねがいたい。
だけど――もうわかった。
もはや自分の死は避けられないかもしれない。
だからこれで最期になっても良いように。
一つだけ、たった一つだけやってみせよう。
その前に――
(ありがとうございますわ……みなさま……。
そして、あるじ様……出会ってくれて、ありが…………とう…………………)
トゥスクルの皆へ。
何よりも最愛のお方、あるじ様へのお礼を。
自分なりの言葉に込めながら。
◇ ◇ ◇
「ほんましぶとかったなぁ、あの人」
心なしか足取りが軽い。
既にこの場で何発も発砲したグロック17を携えながら。
春日歩こと大阪は喜びを噛み締めながら、一人呟く。
自分とジョルノの分だけではない。
ドラえもんという変な青だるまあ持っていた分も入っているため、かなり心強い。
まあ、デイバックの中は四次元になっており、外見に変化はないのだが。
「やっぱり運が良かったんかなぁ、わたし。
まともにやったって、勝てるわけあらへんし」
振りか返る。
先程、自分の前を通り過ぎて行ったカルラに向けて銃弾を浴びせた事を。
背中に一発、そして更に二発目、三発目――兎に角、たくさん撃った。途中で数えるのをやめたくらいだ。
いつの間にかカルラは動かなくなった。
その結果に大阪は満足し、彼女から離れて今に至る。
何故気づかれなかったのか?
それは簡単、石ころ帽子を深々と被っていた事で説明がつく。
そして大阪は、カルラへ不意打ちを仕掛けた事について何ら後悔の念はない。
だって、既にもう一人殺しているのだから。
名前は知らない。自分が殺した少年が
ジョルノ・ジョバァーナだという事は知らない。
しかし、その事実をたとえ知っても大阪には特に感慨は湧かない。
精々、ごめんなぁ――そのくらいの感想だ。
先程の放送の内容、厳密に言えば大阪自身は失神していたため聞いていない。
ドラえもんのデイバックにあった、名簿に挟まれていたメモ帳から大阪は情報を読み取っていた。
まあ、死者が15人であるという事はもっと前から知っていたのだが。
そう。大阪がその事を知ったのは、カルラとカズマがテント前で闘っていた時。
ドラえもんが悲痛な面持ちで見守っていたあの時、大阪は既に意識を取り戻していた。
大きな衝撃音を撒き散らした戦闘は、皮肉にも大阪の覚醒に一枚噛んでいたというわけだ。
そして大阪は決断した。失神した振りをしながら――彼女にとっては、あまりにも迅速に。
「けど、気い抜いたらあかんで。
だって、わたし以外にもぎょーさんおるんや……わたしよりつよい人がぎょーさんなぁ……。
だったら、減らせる時に減らせるべきちゃう?」
大阪の選択。
それは以前よりも積極的に殺し合いに乗っていく事。
どう考えても自分では勝てそうにない相手に対しては手出しはしない。
狙うべきはお人好し、自分を疑っていない人間達。
集団に紛れ込むのもあまり長い時間は不味い。
何故なら大阪はこの場には榊以外、一人も知り合いが居ないと思っている。
現実は大阪の知る榊は居なく、彼女の知り合いは一人も居ない。
そう。居ないのだ。
大阪にとって、信用できると胸を張って言える相手は一人も。
自分が特別な存在だとは微塵にも思っていない。
何処にでも居る学生。勉強も運動もあんまり。授業中も良く眠くなる。
せんせーにも良く怒られる。何故か友達には変わってると言われる。
辛いものが大の苦手――ありふれた特徴、漫画や映画に出てくるような波乱に満ちた人生もない。
だからだ。だから大阪は思った。
自分と同じように相手を騙し、この殺し合いに乗っている参加者が居てもなんら可笑しくない。
なにせ自分でも考えられたのだ。
もの凄い頭の良い、俗に言う天才と称される人物は、きっと凄い作戦を練っているに違いない。
特に勘も鋭いとは言えない自分がそんな人間に勝てるわけがない。
たとえ、人の良さそうな人間でも腹の底では何を考えているかわからない。
今も覚えているのは、病院の入り口に書かれてあった手配書にあった、男の顔。
ヴァッシュ・ザ・スタンピード――危険であるとわかっている人物。
あの笑顔がもしや、人間を殺した時に見せたものだとしたら寒気が走りそうだ。
自分自身がしでかした事は棚に上げ、大阪は未だ見ぬヴァッシュへの恐怖を持ち続ける。
あれほどの懸賞金なのだ。
きっと警察の人も何人も返り討ちに出来るくらいに、恐ろしく強いのだろう。
そしてそんな人間がこの場にはまだまだ居るかもしれない。
「なんかけったいな剣も手に入ったし……大丈夫や。
きっとうまくやれる、さっきみたいにしっかりしたら……きっとなぁ」
それなら先手を打とう。
勝てる、そう思えた時は迷わずこの引き金を引こう。
騙し合いでは分が悪い。そこまで持っていかれる前に、逃げるなり仕留めるなりなんなり片をつける。
いや、今はカルラが落とした聖剣グラムあるため、これを使ってもいいかもしれない。
かなり大きいが不思議とそれほど重くはなく、両手なら十分に扱えそうだからだ。
石ころ帽子による奇襲もきっと有効だ。
更にカズマという危険人物の情報も手に入り、ヴァッシュやラズロの事共々誰かに知らせるのも良いかもしれない。
こに人達は危険だ。そんなメッセージを何処かに残せば数を減らし合ってくれるかもしれない。
気を緩ませずにこのままいけば、きっと――戻れる筈だ。
あの日常へ、東京の友達たちの元へ。
大阪は迷いなく歩き続ける。
心なしか引きつった微笑みを浮かべながら。
【F-2 遊園地近く/1日目 朝】
【春日歩@あずまんが大王】
[状態]:健康、
[装備]:グロック17@BLACK LAGOON(残弾17/17、予備弾薬39)、石ころ帽子@ドラえもん、 聖剣グラム@終わりのクロニクル
[道具]: 支給品一式×3<大阪、ジョルノ> 不明支給品(0~1)<大阪>、不明支給品(0~2)<ジョルノ>
モンスターボール(ピカ)@ポケットモンスターSPECIAL、君島邦彦の拳銃@スクライド
[思考・状況]
1:生き残るために全員殺してギラーミンも殺し、現実に帰る。
2:あまりにも強そうな相手とは関わらない、あくまでも不意をつけば倒せそうな相手を狙う。
3:お人よしの集団に紛れるのもいいかもしれないが、あまり長い時間は居ない
4:ラズロ(リヴィオ)、ヴァッシュを警戒。
5:機会があれば積極的に殺しに行く。危なくなれば逃げる。
6:余裕があればカズマ、ヴァッシュ、ラズロの事について何処かにメッセージを残す。
【備考】
※
サカキを榊@あずまんが大王だと思っています。
※『石ころ帽子について』
制限により、原作準拠の物から以下の弱体化を受けています。
大きな物音、叫び声などを立てると、装備者から半径30m以内にいる者はそれを認識する。
鍛えた軍人レベル以上の五感を持つ者に対しては、上記の制限(距離、"大きな物音、叫び声"の判定)がより強化される。
(具体的には、より遠い距離、微かな気配でも装備者の姿が認識されやすくなる)
さらに、常人のそれを超えた五感を持つ者に対しては完全に無効。
※聖剣グラムは制限により意思が封じられています。
よって一言も話せません
【聖剣グラム@終わりのクロニクル】
1-st・Gの概念核の半分を内蔵した剣。
二メートル程の大剣だが重量は3kg程。
原作1の下巻に登場。
◇ ◇ ◇
「ハァ、ハァ……待っててね、カルラさん……!」
遊園地内を駆けてゆく影が一つ。
青だるま――失礼、青いネコ型ロボット、ドラえもんだ。
あまりにも短い両脚をしきりに動かしながら、ドラえもんはとある地点を目指している。
その目的地は観覧車前、カルラとの待ち合わせの場所。
先程一度向かった筈の場所だ。
「急がなくちゃ。
カルラさんがあの子と鉢合わせにでもなったりしたら……カルラさんが危ない……!」
そう。ドラえもんは一度襲われている。
春日歩こと大阪に一発の銃弾を撃たれた。
生憎頑丈なボディにより機能停止は免れため、今この場で生き永らえている。
何発も撃たれ続ければ装甲が持たなかっただろうが、ドラえもんの動きは速かった。
ほんの少し前までカズマのシェルブリットの脅威をまざまざと見せられ、恐怖は既に十分なもの。
それに加えて、身近な人間の死――のび太死亡が死への恐怖を更に一層強いものとさせていた。
死にたくない。実にシンプル且つなにものにも換えられない感情のままに、ドラえもんは逃走を果たした。
大阪の方もカルラとカズマの闘いを見ていたのだろう。
ドラえもんを追って行けば、カルラと出会ってしまうかもしれない。
もし、ドラえもんが自分の事を話せばその場で殺されてしまうことだろう。
目にも止まらぬ動きを取り、ガラの悪そうな青年と互角にやり合う。
大阪は不意打ち以外では、あんな化け物じみた女に勝つ事は無理だと早々に諦めていた。
よって大阪が取った行動も逃げの一手。奇しくもドラえもんと同じだった。
そしてドラえもんは今、再び観覧車前へ戻っている。
途中で既に崩壊したテント痕で、カルラのデイバックを回収した後に。
わざわざデイバックを持ってきたのは、大阪に対抗するためだ。
少女とは言え、銃を持った人間に丸腰では抵抗出来ない。
荷物は大阪と共に置いていたため、既に彼女のものだ。
そこでテントがあった場所にカルラのデイバックがあった事を思い出しだ、というわけだ。
「でも、なんであの子は……ぼくやカルラさんは襲ったりしないのに……なんで……」
ショックだった。
そう。はっきり言ってショックだった。
まさか有無を言わずに発砲されるとは。
自分だから大事には至らなかったものの、生身の人間では十分に致命傷になった筈。
のび太は弱虫だが、優しい人間だ。
もし先程の自分のように、いきなり襲われたら――それでお終いだ。
たった一発の銃弾が、色々な可能性を持った少年の未来を台無しにしてしまった。
凶器は刃物かもしれない、もしくはシェルブリットのような異能によるものかもしれない。
真実は定かではないが、のび太が死んでしまった事実が変わることはないだろう。
その事が堪らなく悔しかった。
やがてドラえもんは観覧車へ再び辿り着く。
其処には彼を待っていたものがあった。
「カ、カルラさん!」
先程の少女ではない。
見知った顔だ。
操作室の直ぐ傍に居る事がわかる。
既に太陽は顔を出しており、視界もいい。
数十メートルの距離はあるが、はっきりと判別できる。
「良かった! ぼく、本当に心配したんたよ!」
叫びながら近寄る。
そう。観覧車前に居た人物とはカルラだった。
背中を操作室に預け、座り込んでいる姿が見える。
両目はしっかりと閉じられ、只、沈黙を保っている。
きっと先程のカズマという男との戦いで披露したのだろう。
全身が濡れている事はよくわからかったが、今のドラえもんにはどうでも良かった。
カルラが無事であった事だけで満足だったのだから。
もう他の事は考えたくはない。
何かを、安らぎを追い求めるように腕を伸ばす。
その時、ドラえもんは感じた。
ぬめりとした感触を、カルラの背中からしっかりと。
「え……? これって…………?」
わからない。
いや、本当はわかっている。
理解したくなかった。
横目で見れば、周囲にも同じものがある。
それでも受け入れたくはなかった。
この感触の正体を知ってしまえば、それで全てが終わりだと悟ったのだから。
だが、それは結局、無駄な足掻きでしかない。
「あ、あ、あああああ――」
腕についたものが赤い血液である事をドラえもんは悟る。
だが、ドラえもんは知らない。
大阪が完全に立ち去った後、カルラは全力で此処を目指した事を。
転んだ。
何度も転んだ。
血反吐を吐いた。
盛大に辺り一帯に吐いた。
その内立っていられなくなってきた。
考えた。不思議と直ぐに答えは出てきた。
滑稽だろうとも良かった。地面に身体を這い蹲らせた。
彼を待ってやりたかった。出来る限りの笑顔で待ってやりたかった。
何故?
何故、そこまでしたかったのかって?
決まってるじゃない。
何故なら、約束をしたのだから。
初めて出会った場所、観覧車前でもう一度会おう。
そう言ったのだから――約束を守ってやりたかった。
たったそれだけの事でしかない。
しかし、それは果たして良かったのだろうか。
今、この瞬間はドラえもんにとっては。
カルラが無事であった。
ドラえもんが信じた現実は所詮、幻想でしかなかった。
その幻想が音を立てて壊され、ドラえもんは。
只――
「うああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
慟哭を上げるしかなかった。
一人、カルラの亡骸をその腕に抱きながら。
どす黒い感情がドラえもんを支配していた。。
【カルラ@うたわれるもの:死亡確認】
【F-2 観覧車前/1日目 朝】
【ドラえもん@ドラえもん】
[状態]:健康 、???
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(カルラ)、不明支給品0~2
[思考・状況]
基本行動方針:?????????????????
【備考】
※他の世界の参加者たちを異星人と考えています。
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最終更新:2012年12月02日 16:37