力-Strength-(前編) ◆YhwgnUsKHs


 終演を迎えし惨劇の舞台。
 死者は4人。
 残された者は9人。
 1人は北の場にて休息を選び、1人も休息を選び北の場から去った。

 そして、南の場には今6人の参加者が存在する。

 3人はこの会場で作られた1つの○の元に誓いを立てた者達。
 ○は一度別れここに集った。ただし2人の欠員アリ。

 2人は長い間行動を共にした2人。
 その間には固い信頼関係が存在していた。会ってまだ12時間も経っていないとしてもだ。

 最後の1人は慢心と傲慢を貫く王。
 従者は斃れ今彼はまた1人となった。


 1つの惨劇が終わった場で、彼らは何を決するのか。
 そして残った2人はどう動くのか。



 *****


 南劇場ホール内。
 劇場全てのホールと比べれば最も小規模なホールだ。
 能や歌舞伎などの日本演劇の為に作られた舞台には桧が使われ、横に伸びた欄干が目を引く。
 背面には松をあしらわれており和風舞台に恥じない様相だ。



 もっともここにいる者でその舞台に目を惹かれている者はいはしないのだが。



「圭一……そんな、圭一!!」


 100年の運命を越えた少女、古手梨花
 数多くの短い期間を繰り返した結果身体には不釣合いな大人びた本性を獲得してしまった彼女も今のこの事態にはなりふりを構わず動揺していた。

 目の前には自らの運命を変えてくれた少年、前原圭一がいる。彼女が会いたかった仲間の1人だ。
 だが、彼の足はぐちゃぐちゃに粉砕されており、その目は閉じられてもう目覚める気配はなかった。


「圭一……そんな、そんなぁ!!」


 終わったはずだった。
 繰り返される悲劇はもう終わったはずだった。仲間たちの手によって。
 『繰り返される悲劇』の間なら、仲間が死んだとしても平気だった。どうせ次がある、という冷酷な諦めがあった。
 だけど、もう悲劇は終わってしまったのだ。
 もう仲間が蘇る事はない。
 羽入の力を頼ろうにもここで話せた試しも見つけられた試しもない。
 主催によって羽入の介入が阻まれているのか、羽入が殺されてしまったのかは分からない。
 わかることは1つ。『次』はもう望めない。この牢獄では。
 抜け出したはずの牢獄の外にあったのは、さらに過酷な牢獄だったのだ。


「梨花ちゃん……」


 その圭一を手で支えていた少女は目の前で泣き崩れる梨花をただ見ているしかできなかった。
 やっと会えた2人の仲間。だが、その状況は極めて最悪だった。
 静かに燃え上がる蒼い炎、竜宮レナはこんな巡り会わせをした神を呪った。
 よりにもよってなんでこんな。

 それぞれの同行者、トニートニー・チョッパーニコラス・D・ウルフウッドもただ黙っていた。
 チョッパーは辛そうに、ウルフウッドは無表情にしながらも本当の感情はサングラスに隠しながら。


 そして残る2人は。



「そろそろその耳障りな騒音を止めぬか小娘が」



 金色の英雄王、アーチャーことギルガメッシュは冷徹な目で梨花を見てそう告げる。

「お、おいこら!」

 あまりに梨花のことを考えない発言にチョッパーが思わず文句を言おうとしたが口をレナがすかさず封じたためそれはできなかった。

(な、なにすんだよレナ!)
(ダメチョッパーくん!あの人、多分イスカンダルさんが言ってたアーチャーだから!)
(え!?)

 小声で告げられたその言葉にチョッパーの動きが止まった。
 イスカンダルに教えられていた『遭遇したら迷わず逃げなければならない』相手。
 赤い双眼に金色の髪。鎧こそ情報と違うがまず同一人物だろう。
 そう考えるとチョッパーの体から冷や汗がダラダラ溢れ出した。
 とんでもないのに『おいこら』と言ってしまったと。
 自分を見つめる冷たい視線にチョッパーは自分の死を嘆き始めた。



「まあまあ英雄王。あまり余の同盟相手を脅してやるな」
「フン。貴様は相変わらずだな征服王。別に脅した訳ではない。そこの珍獣が勝手に恐れをなしたのだ」


 そんなチョッパーに救い船を出してくれたのは征服王、ライダーことイスカンダルだった。
 それに対してアーチャーは既知のサーヴァントに対して呆れた視線を向ける。


「まさかまたも貴様と合間見えるとはな。相変わらず夢を見ているらしい。我が目を醒まさせてやったというのに」
「生憎夢を見進むのが我が性分なのでな。というか英雄王、貴様が『また夢を見るといい』と最期に言ったのではないか」
「『我が庭で』だ。ここは我が庭から切り取られたか、あるいは模造された偽りの庭よ。このようなところで見るなと言っている」
「んな細かい事は……あーあー、すまんかったから空間を揺らめかせるな」


 レナとチョッパーが2人のやり取りを呆然と見ていた。
 仲が良いような、悪いようなやり取り。
 そういえばライダーはアーチャーを危険だとは言っていたが『悪い奴』とは言っていなかった。
 どちらもあまり変わらないような気もするが。


「まあお前たち。とりあえず各々言いたい事はあるだろうがな。一先ずここは情報交換といかんか?
 そこの少年についても話を聞いておきたいしな」

 イスカンダルが場を取り成す形で他の5人を見渡しそう言った。
 レナとチョッパーは元々別れていた仲間だから当然なので、言葉の相手は梨花、ウルフウッド、ギルガメッシュだ。


「ほう、征服王。まさか我と対等に情報交換などできるつもりか? 今再び眠りにつかせてやってもいいのだぞ?」
「まあ焦るな英雄王。貴様とて大人しくしたがって殺しあうつもりなどなかろうに。聖杯戦争とは状況が違うのだからな」
「……フッ。まあいいだろう。今の我は気分が良い」

 そう言ってギルガメッシュは圭一の死体を見やった。
 それを見ての表情はまさに喜悦。
 当然それを見て不快な気分を抱く者などここにほとんどいるはずなく、ただ呆れるイスカンダルだけだった。

「哀れな雑種どもに餌をくれてやるも悪くない」
「本当に相変わらずだなおい……お前たちも構わんか?」


 ギルガメッシュをなんとかなだめたイスカンダルはウルフウッドに目を向けた。
 先刻からイスカンダルとギルガメッシュに警戒を向けている男。恐らくはかなりの手練だろうとイスカンダルは踏んでいた。

 ウルフウッドは圭一の傍で膝を突いている梨花を一瞥すると、憮然とした顔で答えた。


「ワイは構わん。今はそれが最善やろうしな。こっちもさっきの現象について説明が欲しいところやさかい」


 そう大人しく言うが、ウルフウッドの視線は厳しい。
 特にギルガメッシュに対して。
 さっきの『耳障り』に関して彼も怒っていたのだろう。
 チョッパーと違い何も言わなかったのは、ただギルガメッシュの実力とその気性を既に知っていたからだ。


「よし……さて。では何から始めるとするか」



 *****



 圭一の死体を寝かせやっと泣き止んだ梨花を含め6人はホール内で向かい合った。
 ギルガメッシュだけはわざわざ舞台の上に乗って見下ろす形だったが。

 最初に語りだしたのはイスカンダルだった。
 レッドと共に橋にてハクオロ園崎魅音、砂の男、電気の少女に遭遇した事。

「魅音!?」「みぃちゃん!?」「それクロコダイルか!?」

 その話に反応したのは梨花、レナ、チョッパーの3人だった。

「ああ。すまんなレナ。余は間に合わなかった。だが娘は強大な相手に最後まで立ち向かっておったぞ。同行した男の為にな」
「みぃちゃん……」
「お人好し、なんだから…!」
「それと医術師。おそらくその者で間違いはないだろうな。尤も余が川に落ちた後戻った時にはもう死んでいたがな」
「あのクロコダイルを倒せる奴がいるのか……」

 電撃を受け川に落ちたこと。
 戻ってみるとそこにはクロコダイルの死体とハクオロ、レッド、そして重傷の男が居た事。
 男が令呪を持っていたこと。

「令呪だと?……成程」


 次に反応したのはギルガメッシュだった。


「心当たりがあるのか?」
「ああ。そ奴は騎士王、セイバーのマスターだ。名簿を見る限り間違いあるまい。その男は放送前に死んだのだろう?
 ならば確定だ。第2回放送でその男の名が呼ばれたのだからな」
「話を先取りするな。……まさかあの娘のマスターがあの男だったとはのう」
「我が仕留める前にやられるとは、所詮雑種か。不憫な奴よ言峰は」
「監督役がどうかしたのか?」
「此方の話だ」

 レッドが男を助ける為劇場へ向かった事。
 そして――

(……ハクオロ。余はお前を諦めてはおらんぞ)
「マスターの男をハクオロが殺害した。余が少し離れている間にな」
「「「えっ!?」」」
「……」

 イスカンダルの発言にレナ、梨花、チョッパーが驚愕し、ウルフウッドはただライダーを見ていた。
 ギルガメッシュは意外そうにしながらも笑みを浮かべる。

「ハクオロを弁護はしておく。あの男にも大切な者がいた。その者たちはここで散った。マスターの男と少女の行動は危険と取られても充分だった。
 ハクオロはもしもその男が――という疑念を捨て切れなかったのだ。余が問答無用で襲われたのも事実ではあるしな」
「で、でも話も聞かないでなんてひどすぎるだろ!」
「チョッパーよ。その男は既に3人、いや魅音という娘を入れれば4人も失っていたのだ。これ以上大切な者を失う事に堪えられなかったのだろう」
「う……」
「あ奴はその後我らと共に行動はできないとし別れた。我らを信用できなかったのではない。
 あ奴は自分にその資格がないと言ったのだ」
「そんな……」

「ククククッ!あの男の最期としてはこれほど滑稽なものもあるまいなあ。
 もし言峰が全てを見ていたとしたら果たしてこの最期に言峰は満足したのか……いや、恐らく無理であろうな。
 ハクオロと言う男を壊したがるかもしれんが、あ奴の乾きは満たされまい」
「だからさっきから何の話だ?」
「気にするな。そこで終わりか?」
「ああ。その後は皆わかっての通りだ」
「ワイと梨花は知らん話やぞ」
「あー、そうさなぁ……」


「ちょっと待ってイスカンダルさん」

 レナがイスカンダルに問いかけた。

「さっきの話じゃレッドくんがここに来てないとおかしいよね?でも、レナたちは会ってないんだよ?だよ?」
「!!」

 レナの言葉に梨花の肩が震えた。

「レッドが劇場に向けて飛んだのは間違いない。……リカと言ったな。お主何か知っておるのか?」
「あ、あ……」

 梨花の異常にすぐ気づいたイスカンダルが梨花に向かって聞く。
 梨花は怯えた顔で答えようとしたが、その肩を抑える手があった。


「ニコ、ラス……」
「それについてはワイらの話で教えたる。こいつとワイは朝の4時あたりから一緒におったからほとんど情報は一緒やし。
 ワイが言ったほうがスムーズやろ。ここで起こったことは他の奴の話で聞くとするわ」
「わかった。ならば……」
「ウルフウッドでええ」
「ウルフウッドよ。報告を頼む」
「ワシはおどれの部下か……まあええわ」


 2番目に語りだしたのはウルフウッドだった。
 桜田ジュンの死体を見つけたこと。
 遊園地前で梨花と出会ったこと。
 赤髪の男に襲われた事。
 ルフィという少年に出会い、火傷顔の女に襲われ、ルフィが死んだ事。


「ルフィ~~~~~!ルゥフィ~~~~~~!!」
「喧しい珍獣だ。あの下女、我と会う前に斯様なことを仕出かしていたとは」
「火傷顔って……あの女の人、チョッパーくんの仲間まで」
「あ奴がなあ」

 その話に反応したのは梨花とウルフウッド以外の4人全員だった。
 しかもその相手は火傷顔の女だ。
 もっとも2人はそれに対してあまり反応はなかった。


「ああ……そこで死んでるのを見つけた時は驚いたわ」


 ウルフウッドが見やると、座席の陰に倒れている人影があった。
 隻腕で顔に火傷傷のある女、バラライカだった。


「隻腕ながら最期まで戦士として我らが軍勢に立ち向かった。仕留めた英霊達の進言もあってな。
 そ奴はできる限り無事で帰還させた」
「別に粉々にしても構わんかったんやけどな」

 バラライカのデイパックはその処置のおかげか傷はなかった。
 軍勢に自ら突っ込んでしまった無常のデイパックは大分ひしゃげ、中の物がいくつ無事かわからない状態だった。

「……」
「チョッパーくん……」

 チョッパーは無言で泣きながらバラライカの遺体を見ていた。
 殴り飛ばしたかった。問い詰めたかった。何で殺したんだ。なんでルフィを殺したんだ、と。

 でもその相手はもういない。もうそこで死んでいる。
 その遺体を殴るなんていうのはしてはいけない行為だ。
 問いかけても答えてくれはしない
 だからチョッパーは自分を止めた。
 悔しくて悲しくて目の前が涙で何も見えそうになっても。


 *****


「どうやって殺したんかは後で聞くとしてや……その後は」

 ウルフウッドは続きを話し出した。
 ギルガメッシュと遭遇して劇場へ誘導された事。
 そこで赤い帽子の少年と白スーツの男と遭遇したこと。


「レッドだ!」「レッドくんだ!やっぱり劇場に来てたんだ」
「むぅ……白いスーツだと?」

 反応したのは○同盟の3人。レッドと見て間違いない少年の情報が出たのだから当然だろう。
 だが、イスカンダルの反応だけは違った。レッドではなく、白スーツの男に対して。

「なあその男。くしゃくしゃの髪にいい笑顔で死なないと思っている奴を殺したいとか言っていなかったか?」
「最初の条件しか当てはまる気はせえへんけど……殺人大好きですって顔はしとったな」
「そう、か」
「ちょ、ちょっと待ってイスカンダルさん!それってまさか!」

 レナが顔を青くした。
 イスカンダルの告げた情報がある人物の情報と同じだったのだ。
 仲間の兄貴分であるはずの男に。


「危険だという可能性は充分あったのだがな。おそらくはラッド・ルッソというグラハムの兄貴分で間違いないだろう」

「っ!!」

 その結論にレナとチョッパーの顔は曇った。
 ここまで来れば予想はつく。
 レッドは劇場の近くまで来ていた。なのに、ここにいない。
 そしてさっきの梨花の動揺。レッドと共に居たのは危険である可能性がある人物。

 導き出される予想は最悪のもの。
 2人にとって信じたくないもの。
 なぜなら――


「そいつにその子供は殺された」


 殺人者は、大切な仲間の兄貴分なのだから――





「レッド……お前は最後まで他者の為に生きたのだな……すまん」



 ウルフウッドに渡された、残されたレッドの両腕を抱えながらライダーは目を瞑った。
 イスカンダルとて歴戦の猛者。仲間の死など幾千も越えてきた。
 それでも、たとえ臣下ではなかったとしても、自分を信じ同盟を結んだ少年の死を悼まない理由にはならない。

 残された腕には黒いグローブと包帯。その下には○の印がある。

(最後までお前は我らの誓いの印を守ったのだな。
 偶然にしても故意にしても、お前は誓いを残したのだ。
 レッド。お前の意志、無駄にはせぬ)


 イスカンダルはレッドの明確な死、そしてその加害者がグラハムの友人だという残酷な事実に打ちひしがれるレナとチョッパーを見やった。

「レナ、医術師。いつまでも悲しんでいるわけにはいかんだろう」
「でも……でもよぉ! レッドを殺したのがグラハムの兄貴だなんて、そんなのねえだろ!!」

 チョッパーが悲しそうに言う。
 これを知ったらグラハムはどう思うだろうか。
 グラハムが命の恩人と言うのはレナとチョッパーだ。だがレッドに対してもグラハムは好印象を持っていた。
 ラッドの凶行を知ったらグラハムはどうするのだろうか。


 その二人の前にイスカンダルは容赦なくそれを突き出した。

「っ!」
「ああっ!」

 それはレッドの右腕。端が炭化した無残な、生々しい腕。
 それを容赦なく目の前に見せ付けると、有無を言わさずイスカンダルは吠えた。

「目を背けるな!見よ!これが我らの同胞の遺したものだ!
 成れの果てと呼ぶか! いや、違う! レッドは死しても守ったものだ!」

 包帯を取り、その下の○印をさらけ出す。
 レナに、チョッパーに、心配そうに見ていた梨花に、続きをしあぐねていたウルフウッドに、退屈そうにしていたギルガメッシュに。

「我らが誓いの証を守り抜き、2人の命を守ったレッドにふがいないと思わんのか!
 泣くのもよかろう。残酷な事実に悲しむのもよかろう。
 だが! それは懸命に尽くしたレッドへの侮辱だ!
 奴の遺志が言っているであろう。必ず目的を果たせと。後を託すと。
 余はそう受け取った! お前たちはどうだ?
 この印を見ても尚、ここで泣き、耳をふさいで全てを否定する気か!」

 ライダーが啖呵を切りレッドの腕を掲げる。残された○の印を掲げる。


『でも、俺にはその印、俺たちの勝ち星に見えるな。もちろん、負け星は……ギラーミンだ!』


「そうだ……おれ達、まだ勝ってねえ。おれ達、勝ち星をあげなくちゃいけねえんだ!」
「うん……レッドくんに笑われちゃうよ。こんなところで止まってたら」
「左様。止まっていてはそれまでだ。前へ進むのだ。遺志を胸に、前へ」

 レナとチョッパーは涙を拭い見上げた。
 その顔に満たすは、意志。
 レッドの分まで必ず成し遂げるという、意志。
 2人は立ち直り、それをイスカンダルは満足そうに見つめた。

「で、続きええか?」
「空気読みなさい」 


 *****

「で、その後そいつから逃げて北のホールまで逃げて…………」
「ニコラス?」

 話の続きをしていたウルフウッドは少し顔を歪めると、一呼吸置いてから。


「リヴィオっちゅう……顔馴染みと戦闘になった。そいつを倒してラッドをぶったおした梨花を連れてこっちまで逃げてきたってわけや」
「ちょっとニコラス!! 誰が倒したって!?」
「梨花ちゃん、意外に……」
「こ、こええ」
「ちがーーーーーう!! 上から天使の人形が降って来てたまたまそいつの腕をぶったぎったのよ!!」
「ほう。なかなか強運を味方にしているな娘。だが、その話真か?」
「えっ!?」

 ギルガメッシュの指摘したのは目の前でラッドの腕が切られたにしては梨花の服に血がまったくついていないと。
 この指摘でウルフウッドと梨花は今まであった違和感に気づいた。本当ならば気づいていて当然だがあまりに周りの状況変化が激しすぎて気づけなかった。
 血まみれだったはずの梨花がいつの間にか全く血痕がついていない。
 ウルフウッドは確かに血塗れになった梨花を見ているが、髪にも肌にも服にすら一滴の血痕もない。
 コレに関してはほとんどの人員が首をかしげた。
 ただ1人を除いて。

(いつの間にか消え失せた血痕、か……もしや)

 不死の酒により不完全な不死を得ているギルガメッシュだ。
 一度指を切りその再生を確かめていたギルガメッシュには消え失せた血について心当たりがあった。
 速度こそ遅かったがまるで生き物のようにもとの場所に戻っていく血。垂れた場所には染み1つなく。
 となれば、そのラッドも不死者ということになる。

(説明書では『喰う』ことができるとあったが……雑種の薄汚い記憶を我に刻み込むなど話にもならん。
 汚い肉を我に食せと?)

 ギルガメッシュは不完全な不死者であるラッドを喰らう権利を持つ。
 だがそれを行使する気は全くなかった。
 ラッドが不死者だということは一応覚えておくとするが、それを他の者に教える気はなかった。


「おい、どうしたんや。これで話は終わりやぞ。まだ疑うんか?」
「ああまだおったのか。もう良いぞ。先の疑いは我の中で解決した」
「おいおい英雄王。自分で勝手に納得するな」
「自分達で答えを得ろ、雑種共」
「あーったく……」

 頭をがしがしと揺すりながらイスカンダルはレナとチョッパーに目を向けた。

「次はお前たちに頼みたいのだがな。さっきの話で出たグラハムの小僧はどうした?」
「そ、それは……」
「私が言うよチョッパーくん」

 そう言ってレナがこれまでの経緯を語りだした。
 劇場近くまで南下してきたが誰にも出会えなかったこと。
 ホテル近くで片目の男に遭遇した事。
 説得したが叶わず逃走を選択した事。
 グラハムがその相手をする為残った事。
 劇場まで逃げたが放送のショックで手間取っている間にカズマに追いつかれてしまったこと。
 チョッパーが奮闘しレナが援護しなんとかカズマを倒したこと。
 そこに火傷女と無常という男が乱入してきたこと。
 英雄王と征服王が乱入した事。
 征服王が宝具『王の軍勢』で2人を倒したこと。
 以上がレナの口から語られた。


「なるほどのう」
「足止めを買って出ていながら果たせんとは。無能な雑種だ」
「…………」
「なあ、梨花もワイもよくわからんのやが……ほーぐ、って何や」

 レナの説明でイスカンダルが補足した部分についてウルフウッドが口を出した。

「おお、そうさなあ。簡単に言えば……『必殺技』か?」
「簡単に言いすぎや。まるでわからん」
「要は余や英雄王の切り札と言ったところか。余のはまあ、特殊な結界内に敵を閉じ込め軍勢で一掃する、といったところか」
「…………わけわからんが、あんたとは一戦交えたくあらへんってことはわかったわ」
「我は破ったがな」
「わざわざ言わんでよいというに……レナ、チョッパー」

 イスカンダルの言葉に2人の体が固まる。
 自分達は結局ノルマをこなせず、それどころかグラハムを見捨ててきてしまったのだ。
 ここで同盟を破棄されても仕方ないかもしれない。
 そう思った。


「よくやったな」
「え!?」
「え、で、でもおれ達……ノルマこなせなかったんだぞ!?」

 賛辞と共に2人の頭を撫でたイスカンダルに2人は驚いた。

「それを言ったら余も同じであろうが。それに余はレッドを死なせている。
 片目の男相手にお前たちが善戦したのに比べれば余の方が情けない戦果であろう」
「で、でも! イスカンダルのほーぐがなかったらおれ達……」
「珍獣……それはつまり我d」
「その前に危機を救ったのはそこの英雄王だ。余は最後に仕上げをしたに過ぎん。よってお前たちを非難する資格はない」
「イスカンダル……」

 少し悲しげにレッドの腕を見るイスカンダルに二人は決意する。
 今度こそ、不甲斐ないマネはしない、と。
 あの軍勢の光景を見て、2人にはいつの間にかイスカンダルへの信頼が芽生え始めていた。


「グラハムに関しては後に回すとして……で、英雄王。残るは汝だけだぞ?」
「フン。結局碌な情報がなかった気もするがな」

 ここまで話を聞いてもなお不遜な態度に『もしやこのまま自分は何も言わない気か』と他の4人が警戒した。
 それに対してギルガメッシュは不快そうな顔をする。

「舐めるなよ雑種共。言ったであろう。我は今気分が良いと。見世物もそれなりであったし、良いだろう。
 お前たちに我が情報を拝聴する権利を与えよう」
(なあ、ここまで言わないと教える気になってくれないのか?)
(そういう奴なのだ。ここは諦めろ)


 チョッパーとイスカンダルのひそひそ話に対して軽くにらみつけた後、ギルガメッシュが経緯を話し始めた。
 もっとも話の間の空気は最悪なものだった。
 圭一を屈服させ従者としたこと。ここでレナと梨花が不快そうな顔に。
 電車でゾロを発見し情報を頂いた後電車から落としたこと。ここでチョッパーが怒り出しそうに。
 ゾロから聞いた佐山、小鳥遊、蒼星石の名前。
 降りた駅で出会った真紅という人形、クーガーという男について。誰か忘れられたような気がするが気のせいだ。
 図書館で出会った下女ことバラライカ。
 マンションで梨花、ウルフウッドと接触。
 その後中央劇場へ移動し、今に至る。


 ギルガメッシュの唯我独尊自由奔放外道な一路を聞いた皆は


(ひどいかな?かな?)
(ひ、ひでえ)
(酷いわね)
(ひどいな)
(本当に相変わらずだのう英雄王よ)

 彼の語った旅路は正直『ひどい』としか苦笑して言うしかできないようなものだった。


「にしても他にも集団で対抗する者たちがいようとはな。是非臣下にしたいものだ」
「出会えればの話だがな。さて情報交換は終えた。
 次は品だ。お前たちの所持品、全てここに晒して貰おう」

 ギルガメッシュの不遜な物言いに流石に慣れてきていた一同も顔を不審にゆがめる。
 だが梨花とウルフウッドは知っている。目の前の男が支給品だったというのに梨花を盗人と言い処刑しようとしたことを。

「レナ……お願い言う事を聞いて」
「でも…」
「レナよ。ここは素直に従おうぞ。こっちとしても好都合だ。余の神威の車輪を持っているやも知れぬからな」
「わ、わかった……」

 イスカンダルの進言に2人も渋々従い、5人は支給品をデイパックから取り出しその場に並べた。

 梨花は修道服、サクソフォンを、レッドのデイパックから巨大銃、銀の杖を。
 ウルフウッドは手持ちの拳銃、ショットガン、木の実、グルカナイフ、コイン。
 レナは梨花のと同じ巨大銃、包帯、ドライヤー。
 チョッパーは包帯、救急箱、タオル、竹とんぼ型の機械。
 イスカンダルは、小型カメラとイラスト集、大きな十手、包帯、イリアス、拳銃の予備弾のみ、奇妙な木の実、そして――

「そ、それって悪魔n「なんだそれは」

 木の実に反応したチョッパーを遮りギルガメッシュが見つめたのはイスカンダルが図書館から寄せ集めてきた地図の束だった。

「おおこれか? 一応図書館から寄せ集めてきたのだがな。話にならんのだ。1st-Gだのグランドラインだのノーマンズランドだのカントーだのまるで地形がバラバラで、
 しかも我らが知識にある世界の地図とはまるで違う。おまけに規模も統一されておらん。
 世界規模かと思えば雛見沢という街であったり学園都市だかの都市であったり極めつけはワグナリアとかいうレストランの見取り図だ。
 冬木の地も混じっておるし、何が何やら…………どうしたのだお前たち」

 愚痴をこぼしていたイスカンダルは他の者の様子に思わず動きを止めた。
 興味深そうに嗤うギルガメッシュ以外の4人がぽかん、としてしまっているのだ。

「どうしたのだお前達」
「えっとね、イスカンダルさん。実は――」


 ****


「うむむむむ。なるほどのう」

  4人から告げられた事実に、さすがのイスカンダルも唸らずにはいられなかった。
 なにしろ自分が架空の物だと思っていた地図がここにいる者たちの故郷の世界だったというのだから。
 チョッパーはグランドライン。ウルフウッドがノーマンズランド。梨花、レナ、圭一が雛見沢。
 思えば今までの話でそれぞれの故郷についてはあまり話が無かった。
 同盟結成時もイスカンダルは地図のことをすっかり忘れていて話には出なかった。


「これで確実になったということなのか?英雄王」
「そうだろうな。『いくつもの世界から呼び寄せた』というギラーミンの言がな」

 今まではどこか絵空事とも思っていた言葉。あの状況下では聞き逃していた言葉。
 それが本当だったということがここで判明した。
 そうと判ると各々は自分達の故郷について詳しく語った。

「悪魔の実に海賊時代……」
「荒んだ星……」
「昭和の時代に精神病とな」
「英霊に戦争……」

 結果は見てのとおり……各々唖然とするしかなかった。

「フン。別に大して変わらぬ。我としては参加者共を見て大体予想は付いていたしな。何か根底にある物が異なると」
「いやいや大きく変わるぞ。これが確かならば……。





 全ての世界、征服せずにはいられまい!」
「そこかーーーーーー!?」


 目をキラキラとさせるイスカンダルにチョッパーが顎の骨が外れんばかりに驚いた。


「夢を見飽きん男め。そんなことよりまだ物品の確認の途中だ」
「え?でも、これで全部じゃ」
「たわけ。まだあの下女と雑種の荷物が残っておろうが」

 そう言っていつの間に持っていたのか、バラライカと無常のデイパックをイスカンダルに向けて放り投げた。
 それを掴むとイスカンダルが意外そうにギルガメッシュを見た。

「ほう……あれか?あの2名を殺したのは余だからこれはあくまで余の戦利品というわけか?」
「わかっているなら早く出せ」
「あーわかったわかった。変な所は一本通す奴だ本当に」

 そう言ってデイパックの中身を無造作に出す。
 無常のものはいくつか壊れていてその欠片がガラガラと降り注ぐ。
 どうやら拳銃や受話器、カタツムリのような生物(チョッパー曰く電伝虫)が使い物にならないらしい。
 使えそうなものを全員で見ていく。

「な……」
「あーーーーーー!!」


 その途中、ウルフウッドが口を開けたまま凍りつき、チョッパーが嬉しそうな声を上げた。

「ど、どうしたのニコラス!」
「ど、どうしたのチョッパーくん!!」

 梨花とレナがそれぞれに心配して駆け寄った。

「い、いや……な、なんでもあらへん」
「はぁ!?」

 そう言ってウルフウッドがその紙切れをデイパックに突っ込んでしまった。
 梨花が抗議するがそれを彼は聞かない。

(なんでこないなとこであのトンガリの手配書なんて見つけなあかんねん)

 なんだか腐れ縁もココまで来ると、という感じである。


 一方チョッパーは

「これ、ランブルボールだ!!」

 そうチョッパーが嬉しそうに見せたのは金色の小さな玉のようなものだった。
 悪魔の実の波長を狂わせる、チョッパー自作の劇薬だ。
 これを使えばチョッパーは7段階の変形ができ戦闘力もアップする。


「よかったねチョッパーくん!」
「ああ!」

 レナも一緒に喜んでくれている。
 だが、チョッパーはその笑顔に隠しているものがあった。

(ランブルボールは……4つ、か。ランブルボールの効き目は3分。短時間に続けて使う事はできない。
 連続で2つ使うと上手く変形がコントロールできなくなって、3つ使うと――)


 チョッパーはその時が来ない事を祈った。
 3つ使えば、自分は自制できない『何か』を起こす。
 くれはは言っていた。『あれは本当の怪物だよ』と。
 だから、その時は来ないで欲しい。
 けれどもし、回りにレナもイスカンダルもいない時だったら――


(おれは……今度こそ守るんだ!!)


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最終更新:2012年12月05日 02:18