誰かの願いが叶うころ(後編)◆tt2ShxkcFQ





「し、真紅っ。あぶないっ!!!!」

尋常ではないほど、焦燥感を乗せた声が二人の耳に届く。
それは、美琴の電撃を喰らって動けないはずのあすかの声。
その声を聞いた真紅は、すぐに違和感に気が付いた。
自分たちは、何かの影の中に居る。
ここは道路、空を遮るものなんて無いはずだ。
実際さきほどまでは、太陽の暑さを感じることが出来ていた。
真紅は空を見上げ、目を見開いた。
逆光で姿を確認することは出来ないが、そこには人影がこちらに迫りつつあるのが見える。
真紅はとっさに右腕で美琴を逆方向へ引っ張り、自分も同時にステップする。
それと同時にデイバックへと左手を突っ込み、庭師のはさみを取り出そうとする。

ザンッ!

何かを切断する音が響き渡り、放物線を描いてその切断されたモノが空を泳いだ。
カランと高い音を発しながら、それは地面へと転る。

「い、いやぁぁぁぁぁ!」

美琴は叫び声を上げる、先ほどまで自分を抱いていた人形の一部が。
地面を転がっているのが視線に入っていた。
……それはひび割れた左腕、地面にぶつかった衝撃でひびは更に細かく入り。
ところどころが砕けている。
上から一閃して真紅の左腕を切断したその人影をみて、美琴は目を見開いた。

肩の少し上で揃えられている、灰色の短いショートヘア。
黒が基調の独特の服に、大きな刃がついている異形の左手。
……忘れるわけが無い、E-2駅へ向かうといっていたはずのナインと名乗った少女が、今まさに地面に着地して衝撃を殺しているところ。
そして間髪を居れず、衝撃を殺すために屈んだ状態からこちらへと地面をけっていた。
美琴のすぐ近くには蹲って左肩を抑えている真紅、そして側には庭師の鋏が落ちていた。
迷っている暇はない……最善を尽くすと決めた美琴は真紅を抱きかかえると、庭師の鋏を握り締めて相手の攻撃を受け流すべく構える。
ナインは肉薄し、その左手の刃を大きく振りかぶって地面と平行に薙ぎ払った。
金属と金属がぶつかり合い、火花が散った。
ナインのARMSの斬撃をまともに受けた美琴と真紅は、二人もろとも吹き飛ばされてあすかの後方、民家の残骸へと突っ込んだ。

「……手ごたえは無い、まだ生きているわね」

左手のARMS、その手首部分から生えているその巨大な刃の先は少量の血で濡れていた。
そう……ナインはE-2駅へは向かわなかった。
彼女のとった作戦は単純明快、美琴の監視だった。
殺し合いに乗ると言った美琴、嘘はついては居ないと思えた。
……しかし、不安定な美琴の感情をナインは見抜いていたのだ。
もしも殺す間際になって手を下す事が出来なかったら。
誰かに説得されてしまったら……。
みすみす敵を増やしてしまう事になる、更に敵に団体を作らせてしまうというおまけ付だ。

美琴が誰かに手をかけるところを確認すれば、そのまま離れる予定だった。
だが……もしも殺す事が出来なかった場合。
誰かの説得に応じてしまった場合。
美琴を含めてその場に居る全員を処分する。
そのつもりで今まで三人の動向を監視していたのだ。

御坂美琴、私はあなたを恨んだりしないわ。
 期待はしていなかった訳じゃない……けど、これはやっぱり私一人でやり切らなければいけないって事よね」

「勝手な事……言わないで下さいっ」

美琴達の方へ歩み寄ろうとしたナインの前に立ちはだかるように、あすかは立ち上がる。

「あら……私と戦おうって言うの?知ってるのよ、あなたは電撃を喰らって体が痺れてるんでしょ?」
「だったら何だって言うんですか……このまま真紅達が殺されるのを眺めていろと?」
「そうね、それが私にとっては一番都合がいいと思うわ。
 でも邪魔をするというのなら、まずはあなたから殺すわよ」

次の瞬間、辺りの地面が抉れて虹色の粒子があすかの周りに集まる。

「僕は無力です……誰一人助ける事も出来ない。
 真紅は死んでしまったと思っていた……けれど生きて居てくれた。
 思い出したんです、何故僕がHOLYに入ったのか……。
 それは失いたくないものがあるから、守りたいものがあるから!」

虹の粒子は緑色の輝く宝玉へと変わり、あすかの周囲へと集まる。
だがしかし……その動きはどこか散漫で、何時ものような規則的な動きを見ることは出来ない。

「そこのビリビリさん!あなたは真紅を連れて逃げてくださいっ!
 ……これは僕の罪滅ぼしだ。あなたを早まって悪だと断定した僕の!
 あなたと真紅が逃げ切るくらいの時間なら、稼いであげますよっ!」

その声を聞いたナインは、少し悲しそうな顔になってあすかを見つめる。

「あら、女の子二人の騎士になろうって言うの……?」
「騎士……?違います、僕はHOLY隊員の橘あすか
 ここから先へは一歩たりとも通すつもりはありません」
「体が痺れて上手く動かないってのに無謀ね、死ぬわよ?」
「……そんなの、HOLYになったときから覚悟は出来ていますよ」

そう。と呟くと、ナインはあすかへ向かって地面をけった。
あすかはそれに答えるよう、八つの宝玉を操って迎え撃った。


    ◇    ◇    ◇

パラパラと、周りの土砂が重力に引っ張られて落ちていく。
美琴はわき腹から溢れ出ている自らの血を気にする様子も無く、腕の中の真紅を見つめる。
自分が庇ったお陰だろうか、左腕以外の損傷は見られない。
今は意識を失っているようだ……。
ナインの薙ぎ払うような剣筋を、美琴は片腕にもった鋏で受け止めた。
しかし片腕で押し勝てるわけも無く、結果として鋏を体に密着させて体全体で受け止めたのだ。
そんな事をすれば斬撃すべてを受け止める事など出来るはずも無く。
振りぬかれた時にわき腹を深く切られていた。
辺りには美琴のデイバックの中身がぶちまけられている。
恐らくはここにぶつかった衝撃で出てきてしまったものだろう。

……あすかは逃げろと言った。
だが体は思うように動かない、恐らくはここにぶつかったときに頭を強く打ち付けてしまったのだろう。
平衡感覚が保てず、立ち上がるもその場に崩れ落ちてしまう。
あすかの方へと視線を向ける、せめて援護を……。
そう思うが、ナインは美琴の存在を忘れては居ないのだろう。
美琴とナインの直線状には必ずあすかが居るよう位置どっている。
また誰も助けられないのか……そう思ったその時、腕の中の真紅が突如瞳を開いた。



   ◇    ◇    ◇


『真紅……真紅……聞こえるかい?』

声が聞こえる、とても優しい声。
その声に導かれるように真紅は瞳を開いた。
ただただ白い、霧に包まれた世界が目に入る。
しかし、誰の姿を確認する事も出来ない。

「誰?」

『酷い有様だね、何時もの君らしくない』

「この声……聞き覚えがある」

『ふふっ、酷いな。僕を忘れてしまったのかい?』

「えっ、まさか……そんな事」

聞き覚えがあるその声に、真紅は目を見開いた。
有り得ない、もう既に遠くへ行ってしまった存在。
それが何故、今このタイミングで……。

「あなたなの……蒼星石?」

『そうだよ……久しぶりだね、真紅』

徐々に霧が晴れて、目の前に人の形の輪郭が浮かび上がる。
蒼が基調のドレス、頭に被ったシルクハット。
忘れるはずも無い……目の前にはローゼンメイデン第四ドール、蒼星石がこちらを見つめていた。

『まさか腕を失ってしまっているなんて、これじゃあもうアリスになんてなれないね』

その声を聞いて、真紅は自らの左腕があった場所へと視線を移した。
……そして全てを思い出す、突然の襲撃者に襲われた事。
意識を失ってしまったこと。

「蒼星石……私は死んでしまったの?」

『……答えはNOだよ、でもこのままじゃ。そうなってしまうかもしれない』

「お願い蒼星石、夢から覚めるにはどうすればいいのか……教えて頂戴」

『腕を失っているって言うのに、随分冷静なんだね。
 確か昔の君は、何よりも欠落する事を恐れていたはずだけど』

「……何かが欠けた不確かな存在たどしても、
 それを埋めようとしてくれる人が居る。
 呼んでくれる声に気が付きさえすれば、誰もジャンクなんかにはならないのだわ。
 それはジュンが……私の媒介が教えてくれた」

『へぇ、彼がそんな事を。
 でも彼はもう……』

「分かっているわ……もし失ったのが右腕だとしたら。
 少しくらいはショックを受けていたかも知れないわね。
 この右腕は、お父様が作ってくださり。ジュンが直してくれた腕。
 でもね、私には他にも守らなくてはいけない存在が居るの。
 お願い蒼星石、私を夢から覚まさせて……」

『……分かったよ真紅、君に僕の全てを託そう』

「え?」

『1つだけお願いがある、翠星石を……彼女を守ってやって』

「蒼星石……翠星石はもう」

その言葉を聞いて、蒼星石は首を横に振る。

『お願いだ真紅、翠星石を……』

そしてゆっくりと、右手を真紅へと差し出した。

「えぇ。分かったわ蒼星石、私は……」

そしてゆっくりと、蒼星石の手の上に自分の手を重ねた。
その次の瞬間、眩い真紅の光が辺りを包み込む。


     ◇    ◇    ◇

真紅は瞳を開く、何やら柔らかいものに包まれている感覚を覚えながら。

「真紅……よかった、目を覚ましたのね」

頭上には美琴の苦しそうな顔が見える。
近くからは断続的な金属音が響き、時折あすかのうめき声が聞こえる。
目を見開いた真紅は、体を起こした。

「何が起きたの……?あすかはっ?」
「今時間を稼いでくれているわ、あなただけでも逃げて」

その言葉を聞いて、真紅は美琴へと視線を向ける。
その脇腹からは血がドクドクと流れ出していて、止まる様子は無い。
そして通りの方へと視線を向ける。
8つの宝玉を操り、防御に徹しているあすか。
その宝玉を掻い潜り、猛攻する少女。
体が痺れているとはいえ、それはカズマやクーガーのそれとは違い、
威力は少ないが精密操作が可能なエタニティ・エイト。
八つの不規則な動きの玉に責めあぐねているナインは、未だ決定打を撃つ事が出来ずに居た。

そして右手に何かを握っていることに気が付いた真紅は、視線を降ろす。
そこには不思議な光を放つ赤い石。
何かを語りかけるように輝いている光に、真紅は確信する。
これは……蒼星石のローザミスティカだと。
それを愛おしそうに胸へと押し当てると、次に覚悟をしたように口元へと運ぶ。
ゆっくりと口に含み、それを飲み干した。
目の前の美琴は、それを不思議そうに見つめている。
突如、微かに真紅の体が光り。
そして辺りには静寂が戻る。
そして真紅は、美琴へ向かって視線を移す。

「貴女、名前は?」
「えっ」
「名前よ」

真紅の突然の問いに、美琴はあせりながら答える。

「御坂美琴よ……今はこんな事をやってる暇じゃないの!アンタは早く逃げなさいよっ」

しかし真紅はそんな美琴を無視するように、美琴を見つめて口を開く。

「こんなお願い、間違えだって分かっているわ。
 あなたをアリスゲームに巻き込むことも、あなたの力を借りる事も」
「えっ……?」
「でも、まだ足りないの。私にはまだ力が足りない……。
 残念だけど、このままじゃ私達は死ぬわ」
「だからっ」
「お願い美琴、私と薔薇の契約を……。
 貴女の力を、貸して頂戴」

美琴は言葉に詰まった。
目の前の真紅の瞳はとても真剣で。
真紅の言葉はとても一方的だったけど、文句は言わなかった。
何故か、今にもなきそうな子供が「助けて」と言っているように見えて……。



     ◇    ◇    ◇



「エタニティ・エイトッ」

三つの宝玉が目の前で廻り、相手の斬撃を受け流す。
体に痺れはあるが、段々と抜けてきている。
雷撃を貰ってから時間が経っていることが幸いしたのだろう。
だがしかし、自在に変化するリーチをもつ相手の左腕をいなすので精一杯。
とても攻撃に転じる事なんて出来ない。
致命打は何とか避けているが、体中が切り付けられて血が流れている。

「もう諦めたらどうなの?あの二人もまだあそこに居るようだし」
「動けないのなら、逃げ切るまで僕は粘るだけです」
「そう……その覚悟はいいけど、そろそろ私もこの玉に慣れて来たし。
 ……終わりにしましょう!」

そう言って地面を蹴り、あすかに肉薄しようとしたその瞬間。
あすかの真後ろ……二人の少女が負傷してる筈の場所から眩い光りが漏れる。
思わず足を止めたその瞬間、視界を埋め尽くすほどの薔薇の花弁が現れてナインへと迫り来る。
ナインの頬に一枚の花弁がかする。
その瞬間、ナインは頬に痛覚を感じる。
その薔薇の花弁は、まるでカッターナイフのように鋭く、ナインの頬を切り裂いたのだ。
迫り来る花弁の嵐に危機を感じ取り、すばやく後ろへと下がる。
一枚一枚の威力は大したことは無いだろう……
だがもしもあの嵐が、体の一部をめがけて飛んできたとしたら?
ケガではすまないほどの傷を負う事になるだろう。

「そこまでよ……」

ストン、と音をたてて、
真っ赤なドレスを着た、左腕が無い人形が目の前へと着地した。
薔薇の花弁はその人形の元へと集い、守るように舞い踊っている。
そして右腕には大きな鋏を持って、ナインへと向けていた。

「こんな能力を持っていただなんて意外ね……隠していたの?」
「貴女に答える必要は無いわ」
「真紅っ……どうして逃げないんですか」
「あすか、ご苦労様……逃げる必要なんて無いわ」
「それはどういう意味?まさか私に勝てるだなんて……」
「そのまさかよ」

真紅はナインと呼ばれていた少女を見つめる。
ナインの瞳には迷いが無く、洗礼された殺意が身を刺すのが感じられた。
……この少女は、闘いなれている。
そう判断せざるを得ないだろう。

「あすか、もう少しだけ時間を稼げる?」
「くっ……全くあなたという人は、何時も無茶難題ばかりを……」
「……駄目なの?」
「任せてくださいっ!エタニティ・エイト!」

力強く叫んだあすかの元から、8つの宝玉が飛び出した。
それとほぼ同時、ナインは地を蹴ってあすかへと肉薄する。
それを遮るように、宝玉は終結して壁を作った……。
だがそれを笑って見つめるとナインは僅かに軌道を修正。
宝玉の壁を紙一重でかわし、隻腕の人形へと肉薄する。

「しまっ……真紅!」

あすかの叫び声が、辺りに木霊した。
迫り来るナインに、真紅は微笑んで鋏を向けた。

(蒼星石……力を貸して頂戴)

そう心の中で呟いたその次の瞬間。
ナインはその左腕を大きく振りかぶり、真紅の上半身と下半身を別々にしようと迫り来る。
真紅はそれに対し思い切り鋏を振りかぶり、切り上げるように鋏を刃へと叩きつけた。
それは今まで長年使ってきた武器のように、よく手に馴染み。
そして力強い一撃をARMSの刃へと与えた。
結果、ナインの刃は上方へと弾かれる。
真紅のヘッドドレスを切り裂きつつ、空を切ったナインは次撃を繰り出そうと真紅を睨みつける。
その次の瞬間、真紅は大声で叫んだ。

「ローズテイルッ!この子を追尾して捕らえなさいっ」

突如、真紅の後方から蛇のような薔薇の道が迫り来る。
このまま振り下ろせば真紅は始末できるかも知れない……。
だけど、先ほどとは打って変わりいきなり戦闘力が上がっている。
花弁の大群に襲われて怪我を負うのは避けなければならない。
そう判断したナインは、大きくバックステップを取る。
……されどその薔薇の道は、自分が下がるよりも更に早くナインの方へ迫ってきた。
不味い、捕まってしまう。
そう思ってARMSの刃を盾にした瞬間、再び真紅は叫んだ。

「今よっ!美琴」

美琴……?あの子に何かが出来るわけが無い。
常に立ち居地には注意し、間には真紅かあすかが居るように仕向けている。
直線的な攻撃しか取れない美琴が、今更何かを出来るはずが無い。
そう思った次の瞬間。
真紅のローズテイル……薔薇の道中を通り、青白い槍が迫り来るのが見えた。
……それはARMSによる身体能力上昇の結果、一瞬捉えることが出来た光景。
次の瞬間、その槍はナインの体を貫いた。
全身に電流が流れ、一瞬息が出来なくなるのを感じる。

「はぁぁぁ!!」

美琴はそう叫ぶと、右手をナインへと向ける。
その親指の上には一枚のコイン、そしてそれを弾いて超電磁砲を打ち出した。
それは電撃を受けて動けないナインの左腕……ARMSの刃へ吸い込まれるように当たり、それをへし折る。
オリジナルARMS、ナイトの硬度はARMSの中でも一番の硬度を誇ると言われている。
しかしその第一段階でのナイトは、近代兵器の超電磁砲に耐えうる事は出来なかった。
凄まじい衝撃と共に、少し遅れて雷のような轟音が響き渡る。
結果、ナインはその衝撃によりブロック塀へと突っ込み。
辺りには粉塵が舞い上がる。

美琴が打ち出した雷撃の槍。
それは殺すためではない、痺れさせるための攻撃。
ナインも言っていた。優勝を目指して全員を生き返らせると。
話し合えば止められるかもしれない……私と同じ過ちを犯そうとしているナインを。

……しかし粉塵が晴れたその先。
崩れて向こう側が見えているブロック塀の瓦礫の上にナインの姿は無かった。

「逃げ出した……?」
「見たいね」

あすかの問いに、真紅はそう答える。
次の瞬間、ドサリという音が真紅後ろから響く。
真紅が振り返ると、あすかが力なく倒れていた。

「あすかっ……!」

そう叫び、真紅はあすかへと駆け寄った。

「ははっ、今回はさすがに疲れましたよ……。
 しかも僕、何の役にも立たなくて」
「そんな事は無いわ……貴方が居なかったら、私は……」
「……本当に死んだかと思いましたよ、真紅。
 それに、僕がもっと早く気が付いていたら真紅は腕を……」

空を仰いでいるあすかの両の目から、一筋の涙が零れ落ちる。
そしてその手のひらには、真紅の左腕が握られているのが見えた。

「あすか……貴方」
「これがあれば……もしかしたら修理できるんじゃないかと……。
 そう思ったんです……すみません」
「あの戦闘の中、私の腕を守ってくれたと言うの?」
「……」

真紅はゆっくりと屈んで、あすかの頭を抱き寄せる。

「ありがとう……あすか。
 腕を直す事は出来ないけれど、貴方の思いは確かにここに……。
 それが今の真紅の宝物」
「真紅……」

「ちょっといいかなお二人さん、いい雰囲気の所悪いんだけど」

ガラガラと言う音と共に、美琴が瓦礫の山から下りてくる。
その足取りは覚束なく、脇腹に手を当てて苦痛に顔を歪めている。

「美琴……貴女も早く傷の手当てを」
「……そのことなんだけど、これは自分でやるわ」
「えっ……?」
「私は優勝を目指す事はやめたけど、やっぱりアンタ達と一緒に行動する事は出来ない」
「何を……言ってるんですか?」
「本当にゴメンなさい、とくにあすかさん。だったわよね?本当に悪かったと思っているわ」

そう言って、美琴は一歩あとずさる。

「私はあなた達と行動を共にする資格は無いから……一人でもやってみせる。
 出来る限りの人を助けて。この悪魔の所業をぶち壊して見せるから」
「……待ちなさい、美琴」
「ごめんね真紅、あなたのお陰で私は……」
「そんな事を言っているんじゃ無いわ、あなた私を殺すつもりなの?」
「は……?」

美琴は驚いて、真紅を見つめる。

「殺すってそんな大げさな」
「忘れたとは言わせないわ、貴女は私と薔薇の誓いを結んだ。
 私は貴女が近くに居なければ、ろくに闘う事も出来ないのよ?」
「……ならこれを誓いを解いてよ。それであすかさんと」
「一度した誓いを解く事は出来ないわ、それは指輪の消滅……アリスゲームの放棄を意味するもの」
「ちょ……じゃあこの指輪は」

美琴は慌てて左手薬指に嵌められている指輪を抜こうとする。

「無理に抜こうとすればの指の肉がもげるわよ」
「そっ、そんな!そんなの聞いてない!」

慌てている美琴を真紅は真っ直ぐと見つめて口を開いた。

「お願い美琴……私たちと一緒に来て頂戴。
 私たちだけでは力が足りないの……この殺し合いを止めるのには」
「け、けどっ」
「僕からもお願いします……僕だけの力ではこの殺し合いを止めるどころか。
 真紅を守る事さえ出来ないかもしれない……」
「……貴女の足りない部分は、私たちが埋めてみせる。
 だから……私たちの足りない部分を美琴が埋めてくれないかしら」

そう言って、真紅は右手を差し出した。
少しだけ戸惑う、美琴はまだ自分の行いを許せていない。
もし又この力で二人を殺してしまったら……。
そこまで考えて美琴は気が付いた、自らの能力の暴走が収まっている事に。

ゆっくりと手を差し出して、真紅の手を握り返す。
……それはとても小さくて、力強くて。
電撃の効かない腕……そう考えた瞬間、何故か脳裏にはアイツの顔が思い浮かんで。
この人たちと、アイツが言っていた事を。やろうとしていただろう事を。
果たしてやろうと、そう思った。



   ◇    ◇    ◇


「これ……何とかなら無いの?さすがにダサイわ」
「文句を言わないで下さい、何なら一時的にあなたの意識を奪う事も出来るんですよ」
「ちょっと……変な事言わないでよ」

三人は通りを離れて目立ちにくい路地裏を歩いている。
美琴のおでこには緑色の宝玉が埋め込まれており、不思議な光を放っていた。
あすか曰く、人間の潜在能力を呼び起こして治癒能力を高める事が出来るのだとか。

三人が目指すのは病院……美琴が脇腹に負った傷は思ったよりも深くその身を傷つけていた。
内臓や太い血管を傷つけているという事ではないが、少し血を流しすぎているし、消毒や傷の縫合をする必要もある。
簡易的な止血をし、腹部に包帯を巻くという処置は済んでいた。
あすかの能力のお陰だろうか?血は止まっているが、いつまでもコレに頼るわけには行かないだろう。

「ナインと名乗ったあの少女も……優勝を目指しているのね?」
「……えぇ」

真紅の問いに、美琴は頷いて答える。

「あの人も言っていた、人を死なせてしまった。って」
「……そう」
「出来ればあの人も、私たちと一緒に……」
「それは難しいと思いますよ」

あすかは静かに、口を開いた。

「あの人はあなたとは違う、人を殺す事に戸惑いは無かった。
 言ってしまえばあなたとは『覚悟』の差がありすぎます」
「わ、私だって……」

次の瞬間、真紅の靴があすかの脛を蹴り上げた。

「いっ!ぐあぁぁぁ!」

足を抱えて飛び跳ねるあすかを尻目に、真紅は口を開いた。

「全く、無神経にも程があるわ。
 ……けれど、あすかの言っている事も間違えでは無い。
 貴女も覚悟をしていたのでしょうけど。
 彼女はそれ以上……何かに誓っているような、そんな決意を感じたのだわ」
「……」
「説得する事は無理でも、彼女を救えないことは無い……」
「えっ……?」
「簡単な話よ、彼女が誰かを手にかける前に全てを終わらせればいいのだわ」
「……そんな事」
「難しいでしょうね、でも貴女の雷撃を受けて。
 少なくとも今は動けないはずよ」

隣で飛び跳ねていたあすかが、真紅へと向かって声を張り上げる。

「し、真紅っ!一応僕はケガ人な訳で!」
「それだけ元気があるなら平気よ、早く病院へと行きましょう」

美琴は二人を見つめて、自然に笑みがこぼれて来るのを感じた。
……それはこの会場に来て、初めての事だったのかもしれない。

(けど……難しいと分かっているけど、それでも私はやっぱりナインさんを助けたい)

そう心の中で呟くと、美琴は前に歩いている二人の後を追って足を前へと踏み出した。


【D-5/南西/一日目 午後】
【真紅@ローゼンメイデン(漫画版)】
【状態】:左腕損失
【装備】:庭師の鋏@ローゼンメイデン  蒼星石のローザミスティカ@ローゼンメイデン
【所持品】:基本支給品一式、不明支給品0~2個(未確認)、不思議の国のアリス@現実他、いくつかの本。
      真紅の左腕(損傷大)
【思考・行動】
 1:殺し合いを阻止し、元の世界へ戻る。
 2:病院へ向かい、あすか、美琴の治療をする。
 3:列車に乗って、会場全体を一通り見ておきたい。病院にて治療後再び電車に乗って最終的にはG-7駅を目指す。
 4:ループを生み出している何かを発見する。
 5:翠星石のローザミスティカを手に入れる。
 6:劇場にて起こっている戦闘が気になる。
【備考】
 ※参戦時期は蒼星石死亡以降、詳細な時期は未定(原作四巻以降)
 ※あすか、クーガーと情報交換し、スクライドの世界観について大雑把に聞きました。
 ※美琴と情報交換し、学園都市や超能力の事を大雑把に聞きました。
 ※蒼星石が居る事や、ホーリエが居ない事などについて疑問に思っていますが、参加時期の相違の可能性を考え始めました。
 ※ループに気付きました。ループを生み出している何かが会場内にあると思っています。
 ※情報交換済みの人物:ルフィ、前原圭一、クーガー
 ※彼らの知人:レナ、沙都子、梨花、魅音、詩音、切嗣(圭一)、ゾロ、チョッパー、ハクオロアルルゥカルラ(ルフィ)
 ※要注意人物:アーチャー(遭遇)、ライダー(詳細ではない)、バラライカ(名前は知らない)、ラッド、ナイン
        無常、ラズロ、ヴァッシュ、カズマ、クロコダイル、水銀燈(殺し合いに乗っているようであれば彼女を止める)
 ※対主催チーム(佐山、小鳥遊、蒼星石)の存在、悪魔の実の能力者の弱点(カナヅチ)を知りました。
 ※nのフィールドへは入れない事。ローゼンメイデンへのボディへの干渉の可能性を考え始めました。
 ※地下空間の存在を知りました。
 ※蒼星石の記憶を引き継ぎました(バトルロワイアル開始から死亡まで)

【橘あすか@スクライド(アニメ版)】
【状態】:疲労(中)腹部に軽い痛み 全身に痺れ(小)全身に切り傷(小)
【装備】:HOLY部隊制服
【所持品】:基本支給品一式、螺湮城教本@Fate/Zero、不明支給品0~2個(未確認)
【思考・行動】
 1:ギラーミンを倒し、元の世界へ戻る。
 2:病院へ行き、自分と美琴の治療をする。
 3:列車に乗って、会場全体を一通り見ておきたい。病院にて治療後再び電車に乗って最終的にはG-7駅を目指す。
 4:ループを生み出している何かを発見する。
 5:真紅が気になる……?
 6:劇場での戦闘が気になる。


【備考】
 ※参戦時期は一回目のカズマ戦後、HOLY除隊処分を受ける直前(原作5話辺り)
 ※真紅と情報交換し、ローゼンメイデンの事などについて大雑把に聞きました。
 ※美琴と情報交換し、学園都市や超能力の事を大雑把に聞きました。
 ※ループに気付きました。ループを生み出している何かが会場内にあると思っています。
 ※情報交換済みの人物:ルフィ、前原圭一、クーガー
 ※彼らの知人:レナ、沙都子、梨花、魅音、詩音、切嗣(圭一)、ゾロ、チョッパー、ハクオロ、アルルゥ、カルラ(ルフィ)
 ※要注意人物:アーチャー(遭遇)、ライダー(詳細ではない)、バラライカ(名前は知らない)、ラッド、ナイン
        無常、ラズロ、ヴァッシュ、カズマ、クロコダイル、水銀燈(殺し合いに乗っているようであれば彼女を止める)
        カズマとアーチャーは気に食わないので、出来れば出会いたくもない
 ※対主催チーム(佐山、小鳥遊、蒼星石)の存在、悪魔の実の能力者の弱点(カナヅチ)を知りました。
 ※参加者によっては時間軸が異なる事を知りました。
 ※地下空間の存在を知りました。


【御坂美琴@とある魔術の禁書目録】
【状態】:疲労(大)  全身打撲(中)脇腹の切り傷(止血済み) 自分への強い嫌悪感 多大な喪失感 精神不安定(小)
     契約:ローゼンメイデン(真紅)、エタニティ・エイトの力により疲労、傷などが徐々に回復しています。
【装備】:基本支給品一式
【道具】:コイン入りの袋(残り96枚)、タイム虫めがね@ドラえもん
【思考・状況】
1:一人でも多くの人を助ける、アイツの遣り残した事をやり遂げる。
2:人は絶対に殺したくない。
3:病院へ行ってあすか、自分の治療を行う。
4:真紅とあすかに着いて行く。
5:切嗣とクーガーの死への自責
6:上条当麻に対する感情への困惑
7:ナインは出来る事ならば説得したい
【備考】
 ※ 参加者が別世界の人間、及び参加時期が違う事を聞きました。
 ※ 会場がループしていると知りました。
 ※ 切嗣の暗示、催眠等の魔術はもう効きません。
 ※ 真紅と情報交換し、ローゼンメイデンの事などについて大雑把に聞きました。
 ※ あすかと情報交換し、スクライドの世界観について大雑把に聞きました。

【契約:ローゼンメイデン】
人間がローゼンメイデンの持つ指輪に口付けすることにより、その契約は行われる。
ローゼンメイデンは戦闘時、契約をした人間の体力を吸収して出力の向上、特殊能力の発動を行う事が出来る。
力の吸収量はローゼンメイデンの意識で調整できる、人間が拒む事は出来ない。
尚、契約によって繋がっているローゼンメイデンの媒介の間では、考えが相手に伝わってしまう事がある様だ。



    ◇    ◇    ◇



「はぁ……はぁ……」

その灰色の髪をなびかせながら、ナインは駆け抜ける。
予想外だった、まさか雷撃を曲げ、尚且つブレードをへし折られるなど。
予想外だった、まさか雷撃を受けた影響により、ARMSの制御が出来なるなるなんて。
しかし、考えてみれば出来ない事も無いだろう。
真紅は薔薇の花弁で電気の通り道を作り、電気を通すその花弁へと雷撃の槍を潜らせる。
あの場ですぐに思いついたのだろうか……大したアイデアだ。
ならば何故、今ナインは体が痺れずに駆けているか。
それはナインが持っていた「全て遠き理想郷(アヴァロン)」の効果。
持ち主が受けるダメージを一段階下げることが出来る鞘……。
これは美琴の雷撃とて例外ではない。
結果としてARMSを戦闘不能にし、ナインの体を痺れさせる程までは届かなかった。
突然戦闘力の上がった人形。
真紅とのコンビネーションで自在に曲がる電撃。
痺れが取れかけた八つの宝玉使い。
直線的な攻撃だが、よける事も難しい超電磁砲。

3人を相手にするにはARMSの使用が絶対条件だ。
それが封じられた……ナインに残された唯一の手段、それは撤退だ。

『ブザマだな……ブレンヒルト・シルト……』

ナインの脳裏に、魔導器ネモと名乗った人形の言葉が蘇る。
その黒が基調の服の胸元を掴み、ナインは顔を歪ませる。

「どうして……どうして上手く行かないのよっ」

足を止め、肩で息をする。

『人を死なせてしまった事を、殺してしまった事を後悔している。
 そしてもう二度と繰り返さないと心に決めているのなら、今はそれ以上の事は出来ないはずよ』

真紅が美琴に言った言葉を思い出す。

「後悔していれば、それだけでいい……?
 それ以上の事は出来ない……?
 それは違うわ、ここには人を生き返らせることが出来る力がある。
 そして全員を殺せば、それを手に入れる事だって出来る。
 その可能性は、決して0じゃない」

震える自分の肩を抱いて、ナインは蹲った。

「そうでしょ?ナナリー……
 私は罪を犯しているかもしれないけど。
 この道の先には、きっとあなたが待ってて居てくれるのよね?」

震える声でそう呟いたナインの言葉は、誰にも届かない。
ここには道を導いてくれる小さな黒猫も。
助言を与えてくれる衣笠書庫の司書も居ない。
痺れは段々と取れてきた……左腕のARMSは、とりあえず元の形を取り戻す。
ナインは再び歩み始める。
誰の人影も見えない、孤独な道。
それは少し不気味で、そして恐ろしくて。
しかしナインは止まらない、彼女が求めるものがあるのはこの孤独な道の先ある。
そしてその道を振り返る事も無く進むと、自分の名に誓ったのだから。




【D-3/一日目 午後】

【ブレンヒルト・シルト@終わりのクロニクル】
[状態]:疲労(中)、左半身に火傷(小)、左腕欠損(ARMSで代替)、ARMS復旧率80%
[装備]:汗で湿った尊秋多学院制服(左袖欠損)、ARMS『騎士(ナイト)』@ARMS(左腕に擬態)、全て遠き理想郷(アヴァロン)@Fate/Zero アリス・ザ・コードギアスの衣装@ナイトメア・オブ・ナナリー
[道具]:支給品一式×2、アンフェタミン@Fate/Zero
[思考・状況]
 基本行動方針:優勝狙い
1:殺し合いに優勝し、優勝者の褒美でナナリーを含む全ての参加者を『蘇らせる』
2:望みが同じ参加者とは協力する
3:佐山と新庄には注意(特に佐山)
4:1st-G概念を行使できるアイテムを手に入れる
5:ミュウツー、ラッド、詩音を許すつもりはない
6:御坂美琴、真紅、橘あすかは見つけ次第殺す
7:ARMSが完全に回復するまでどこかで休憩する。
※森林破壊者、男湯銃撃者を警戒しています。また双方とも別人だと思っています。
※ARMSコアの位置は左胸です。
※ARMSについては詩音には話していません。
※アリスの衣装はネモが変化した姿です。ネモの意識、特別な力はありません
※髪を切りました
※ARMSは電撃を学びました、以後電撃を浴びても操作不能にはなりません。






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誰かの願いが叶うころ(中編) ブレンヒルト・シルト Alliance for MASTER
誰かの願いが叶うころ(中編) 御坂美琴 的外れジャストミート SideA

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最終更新:2012年12月05日 02:22